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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1180689
審判番号 不服2006-27055  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-30 
確定日 2008-07-10 
事件の表示 平成11年特許願第188997号「転がり軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月16日出願公開、特開2001- 12474〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年7月2日の出願であって、平成18年10月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年11月30日に審判請求がなされるとともに、平成18年12月28日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年12月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年12月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】 軌道輪が軸受鋼で製造され、上記軌道輪に接触する転動体がセラミックスで形成され、
上記転動体の表面において、欠陥の面積率が0.2%未満、かつ、最大欠陥長さが8μm未満、かつ、最大欠陥面積が40μm^(2)未満であることを特徴とする転がり軸受。」と補正された。
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「軌道輪と転動体とのうちの少なくとも上記転動体がセラミックスで形成され、」という事項を「軌道輪が軸受鋼で製造され、上記軌道輪に接触する転動体がセラミックスで形成され、」と減縮するものであって、平成15年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用例
(2-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された特公平6-49612号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「本発明は軸受部材、耐摩耗部材あるいは摺動部材等に有用な高硬度且つ高緻密な熱間静水圧焼結窒化珪素焼結体およびその製造方法に関する。」(第1頁右欄第15行?第2頁左欄第2行参照)
(い)「しかしながら、上記した従来の窒化珪素焼結体の製造方法により製造された窒化珪素焼結体を軸受部材、耐摩耗部材あるいは摺動部材等に適用した場合、決して満足する耐久性が得られなかった。
発明者等は、特に使用条件の厳しい軸受用のスラスト型軸受試験機で転がり疲労試験をした窒化珪素焼結体について解析した結果、残存する気孔の径が寿命に大きく影響することを見い出した。
そして、この気孔の発源は乾燥造粒原料中の粗大造粒粒子や、バインダーのクズなどの異物及び造粒粒子の水分の不均一性にあることをつき止めた。即ち、従来においては、乾燥造粒後の粗大粒子及び造粒粒子中に含まれる異物(バインダーのクズ)の排除や造粒粒子中の水分の均一化を積極的には実施していないため、粗大造粒粒子及び造粒粒子中に含まれる異物(バインダーのクズ)の混入や造粒粒子中の水分量のバラツキが生じるという場合があった。その結果、粗大造粒粒子及び造粒粒子中に含まれる異物の混入や水分量のバラツキによる不均一な粒子崩壊により成形体中に気孔が生じて、それが焼結後に残留し、緻密で高硬度な窒化珪素焼結体を得ることができないという欠点があった。」(第2頁左欄第14?34行参照)
(う)「本発明における最大気孔径および面積率は、焼結体の表面を鏡面研摩し、光学顕微鏡を用い、400倍の倍率で測定した。気孔径はその気孔の最大長さを測定して気孔径とし、さらに最大気孔径は気孔数を1000個測定し、その中の最大径を最大気孔径とした。また、面積率は測定した1000個の気孔の面積を実測することにより、全気孔面積を求め、その全気孔面積を測定し要した全視野面積で除した値である。
本発明に係る高緻密熱間静水圧焼結窒化珪素焼結体においては、その最大気孔径が10μm以下、好ましくは6μm以下、更に好ましくは4μm以下である。最大気孔径が10μmを超えると、軸受材料の評価法の一つである転がり疲れ寿命が低下し好ましくない。
また、面積率(気孔率)は0.3%以下、好ましくは0.2%以下、更に好ましくは0.1%以下である。面積率(気孔率)が0.3%を超えると、転がり疲れ寿命が低下し好ましくない。
最大気孔径が10μm以下、面積率が0.3%以下でないと転がり寿命が低下するのは、これより気孔径あるいは面積率が大きくなると素地の不均質性が増大し、転がり疲労試験による破壊が起こりやすくなるためである。このような素地は軸受材料として必要な寿命や特性を満足せず、好ましくない。」(第2頁右欄第15?37行参照)
(え)「以上説明したように、本発明によれば、乾燥造粒粉体の強制乾燥およびそれに引続く予備処理、HIP処理を組合わせ、さらに好ましくは原料粉砕後の篩通しを施すことによって、最大気孔径および面積率が小さく高硬度な窒化珪素焼結体を得ることができる。従って、本発明の窒化珪素焼結体は軸受部材のほか耐摩耗部材、摺動部材等として極めて有効に用いることができる。」(第5頁中段)
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「軸受部材が窒化珪素焼結体で形成され、
軸受部材の表面において、面積率(気孔率)が0.3%以下、好ましくは0.2%以下、更に好ましくは0.1%以下とし、かつ、最大気孔径が10μm以下、好ましくは6μm以下、更に好ましくは4μm以下である軸受。」
(3)対比
本願補正発明1と引用例1発明とを比較すると、後者の「窒化珪素焼結体」は前者の「セラミックス」に相当する。また、後者の「軸受部材」と前者の「転動体」とは「軸受部材」である限りにおいて一致する。以上より、本願補正発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「軸受部材がセラミックスで形成されている軸受。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願補正発明1は、「転がり軸受」であって「軌道輪が軸受鋼で製造され、上記軌道輪に接触する転動体がセラミックスで形成」されているのに対し、引用例1発明は「軸受部材が窒化珪素焼結体で形成」されているにすぎない点。
[相違点2]
本願補正発明1は、「上記転動体の表面において、欠陥の面積率が0.2%未満、かつ、最大欠陥長さが8μm未満、かつ、最大欠陥面積が40μm^(2)未満である」のに対し、引用例1発明は、「軸受部材の表面において、面積率(気孔率)が0.3%以下、好ましくは0.2%以下、更に好ましくは0.1%以下とし、かつ、最大気孔径が10μm以下、好ましくは6μm以下、更に好ましくは4μm以下である」点。
(4)判断
[相違点1]について
軌道輪が軸受鋼で製造され、ボールがセラミックスで形成されている軸受は、例えば、特開平11-101250号公報(特に段落【0012】参照。以下、「引用例2」という。)、特開平11-51058号公報(特に段落【0018】?【0019】参照。以下、「引用例3」という。)に示されているように周知であると認められる。このボールは転動体に相当する。上記周知事項を引用例1発明に採用することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
[相違点2]について
上記に摘記したとおり、引用例1には「発明者等は、特に使用条件の厳しい軸受用のスラスト型軸受試験機で転がり疲労試験をした窒化珪素焼結体について解析した結果、残存する気孔の径が寿命に大きく影響することを見い出した。」、「その最大気孔径が10μm以下、好ましくは6μm以下、更に好ましくは4μm以下である。」、及び「面積率(気孔率)は0.3%以下、好ましくは0.2%以下、更に好ましくは0.1%以下である。」と記載されており、寿命ないし耐久性の観点からみると最大気孔径が小さいほど、また面積率(気孔率)が小さいほど好適であることが記載ないし示唆されている。この記載ないし示唆に基づいて寿命ないし耐久性を向上させるために、最大気孔径を引用発明の数値範囲内の小さい値、例えば最大気孔径1μm、気孔率0.01%(引用例1の第1表の実施例4参照)に設定することは当業者が容易に想到し得たものと認められる。そして、(a)上記に摘記したとおり、引用例1に「気孔径はその気孔の最大長さを測定して気孔径とし、さらに最大気孔径は気孔数を1000個測定し、その中の最大径を最大気孔径とした。」と記載されており、気孔が正確な球形状でない場合でも、表面における気孔の断面形状の最大寸法がおおよそ最大気孔径であらわされること、(b)上記に摘記したとおり、引用例1には「そして、この気孔の発源は乾燥造粒原料中の粗大造粒粒子や、バインダーのクズなどの異物及び造粒粒子の水分の不均一性にあることをつき止めた。」と記載されていて粗大造粒粒子や異物の影響が開示ないし示唆されており、これによれば、欠陥が気孔だけでなく、他に異物や偏析等によるとしても、そのような異物や偏析による欠陥が寿命ないし耐久性の点で望ましくないことは明らかであること、(c)最大気孔径が1μmのとき、気孔の最大表面面積は略0.785μm^(2)であり、本願補正発明1の「40μm^(2)」よりはるかに小さいこと、また、気孔率0.01%は本願補正発明1の「0.2%」よりはるかに小さいこと、等を合わせ考えると、引用例1発明において上記のように例えば最大気孔径1μm、気孔率0.01%に設定した場合に、「上記転動体の表面において、欠陥の面積率が0.2%未満、かつ、最大欠陥長さが8μm未満、かつ、最大欠陥面積が40μm^(2)未満である」という数値範囲を充足するものとすることは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして、気孔ないし欠陥が存在すれば、それに応じて例えば転動体表面が球面から乖離したり表面に不連続面が発生したりすること、また、気孔ないし欠陥が大きいほどこのような球面からの乖離や不連続面の程度が増大するから、気孔ないし欠陥が存在するものはそれが存在しないものと比べて、また、気孔ないし欠陥が大きいほど、運転中の振動ないし騒音が大きくなり得ることは当業者に明らかである。したがって、本願補正発明1の作用効果は、引用例1に記載された発明、周知事項、及び当業者に明らかな知見に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。

なお、審判請求の理由において「すなわち、新請求項1の発明の特徴は次の点にあります。…という構成によって、騒音を低減でき、かつ、上記範囲は過度に厳しい制限ではないので、不良品の割合が低くなって、生産効率を向上でき、かつ、過剰品質がなくなって、安価に製造できるという作用効果を奏する点。」と主張している。しかし、
(a)図2?4をみると、欠陥の面積率が0.2%、最大欠陥長さが8μm、最大欠陥面積が40μm^(2)という値前後からそれぞれが小さくなるにつれて縦軸の軸受振動値もおおよそ徐々に小さくなると評価することもでき、これは、気孔ないし欠陥が存在するものはそれが存在しないものと比べて、また、気孔ないし欠陥が大きいほど、運転中の振動ないし騒音が大きくなり得るという上記の当業者に明らかな知見から当然に予測し得た効果にすぎないということができる。図2?4において上記値を境に縦軸の値が顕著に急変しているとか、上記値に格別の技術的意義があると直ちに認めることはできない。
(b)図2?4における実験条件が不明である。例えば、図2では、セラミックスの材質・硬度、転動体の径、試験時の回転数、潤滑剤の有無・種類、経時劣化、表面の最大欠陥長さ・最大欠陥面積が不明であり、図2の実験結果がこれらの条件によらないのかどうか、不明である。図3、4についても同様。また、図2?4の実験結果を重ね合わせた場合に、図2?4のそれぞれの条件が相互に干渉することなく、図2?4の結果を単純に寄せ集めた結果が得られるのかどうか(すなわち、欠陥の面積率が0.2%未満、かつ、最大欠陥長さが8μm未満、かつ、最大欠陥面積が40μm^(2)未満であるものが、例えば、欠陥の面積率が0.2%未満、かつ、最大欠陥長さが8μm未満、かつ、最大欠陥面積が40μm^(2)以上であるものと比べてどの程度の効果の違いがあるのか)、不明である。したがって、図2?4に基づいて、上記値に格別の技術的意義があると認めることはできない。
(c)どのようにして製造するかは、生産性や費用・時間等を考慮して適宜設計する事項にすぎない。また、請求項1には製造工程・手法等にかかる事項が特に記載されておらず、製造工程・手法等に関係なく、本願補正発明1の数値範囲を満たすことによってそうでない場合と比べて生産効率等の点において格別顕著な効果を奏し得るとは認められない。

したがって、本願補正発明1は、引用例1に記載された発明、及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
本願補正発明1について以上のとおりであるから、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項で準用する特許法第126条第4項の規定に違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成18年12月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成17年12月5日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「軌道輪と転動体とのうちの少なくとも上記転動体がセラミックスで形成され、
上記転動体の表面において、欠陥の面積率が0.2%未満、かつ、最大欠陥長さが8μm未満、かつ、最大欠陥面積が40μm^(2)未満であることを特徴とする転がり軸受。」

3-1.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1?3、及びその記載事項は上記「2.平成18年12月28日付けの手続補正についての補正却下の決定」に記載したとおりである。
(3)対比
本願発明1は実質的に、上記「2.平成18年12月28日付けの手続補正についての補正却下の決定」で検討した本願補正発明1の「軌道輪が軸受鋼で製造され、上記軌道輪に接触する転動体がセラミックスで形成され、」という事項を「軌道輪と転動体とのうちの少なくとも上記転動体がセラミックスで形成され、」という事項に拡張するものである。したがって、本願発明1と引用例1発明は、上記のとおり、
「軸受部材がセラミックスで形成されている軸受。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点A]
本願発明1は、「転がり軸受」であって「軌道輪と転動体とのうちの少なくとも上記転動体がセラミックスで形成」されているのに対し、引用例1発明は「軸受部材が窒化珪素焼結体で形成」されているにすぎない点。
[相違点B]
本願発明1は、「上記転動体の表面において、欠陥の面積率が0.2%未満、かつ、最大欠陥長さが8μm未満、かつ、最大欠陥面積が40μm^(2)未満である」のに対し、引用例1発明は、「軸受部材の表面において、面積率(気孔率)が0.3%以下、好ましくは0.2%以下、更に好ましくは0.1%以下とし、かつ、最大気孔径が10μm以下、好ましくは6μm以下、更に好ましくは4μm以下である」点。
(4)判断
[相違点A]について
ボールがセラミックスで形成されている軸受は、例えば、特開平11-101250号公報(特に段落【0012】参照。以下、「引用例2」という。)、特開平11-51058号公報(特に段落【0018】?【0019】参照。以下、「引用例3」という。)に示されているように周知であると認められる。このボールは転動体に相当する。上記周知事項を引用例1発明に採用することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
[相違点B]について
「相違点B」は上記[相違点2]に相当する。[相違点2]については上記のとおりである。
そして、本願発明1の作用効果は、引用例1に記載された発明、及び上記周知事項に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。
(5)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例1に記載された発明、及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-30 
結審通知日 2008-05-07 
審決日 2008-05-26 
出願番号 特願平11-188997
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨岡 和人  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 溝渕 良一
礒部 賢
発明の名称 転がり軸受  
代理人 山崎 宏  
代理人 田中 光雄  

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