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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) B66B
管理番号 1180844
判定請求番号 判定2008-600009  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2008-08-29 
種別 判定 
判定請求日 2008-02-18 
確定日 2008-06-23 
事件の表示 上記当事者間の特許第3645893号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号説明書(イ号図面を含む)に示す「接着フィルムを移動ハンドレールに被着させる装置および方法」は、特許第3645893号発明の請求項1ないし18に係わる発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1.請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、「イ号説明書(イ号図面を含む)に示す「接着フィルムを移動ハンドレールに被着させる装置及び方法」は、特許第3645893号の技術的範囲に属しない、との判定を求める。」というものである。(以下、当該装置を、それぞれ「イ号製品」、「イ号方法」という。)

第2.本件特許発明
1.本件特許発明に係る手続の経緯
本件特許第3645893号発明についての出願は、2000年2月18日(パリ条約による優先権主張1999年2月19日、米国)を国際出願日とする特願2000-599682号の一部を、平成15年7月7日に特願2003-193092号として新たな特許出願としたものである。
そして、本件特許発明についての出願は、平成16年6月7日付けで下記(1)に概略を示す拒絶の理由が通知され、下記の(2)に示す平成16年12月15日付け意見書、及び同日付け手続補正書が提出され、その後、手続補正書が提出されることなく平成17年2月10日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、平成20年2月18日付けで本件2008-600009号判定請求がなされ、被請求人に判定請求書副本を送達(送達日平成20年3月11日)した。

(1)この出願の請求項1-11、15-20に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平7-101659号公報、特開平4-129962号公報、実願平1-77632号(実開平3-18079号)のマイクロフィルム、特開昭61-111264号公報、特開平10-338454号公報に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)「ご通知の拒絶理由は出願時の特許請求の範囲の請求項1-11、15-20に係る発明に対するものであり、残りの請求項12-14、21に係る発明には、現在のところ拒絶理由を発見しないとのことであります。
そこで、特許出願人は、同日付け提出の手続補正書により装置についての独立項の発明を出願時の特許請求の範囲の請求項1と拒絶理由が発見されていない請求項13とを併せたものとし、また、方法についての独立項の発明を請求項15と拒絶理由が発見されていない請求項13、21とを併せたものとしました。
この結果、ご通知の拒絶理由は解消されたものと思料いたしますので、再度のご審査のうえ、特許査定を賜るようお願いする次第であります。」

2.本件特許発明
本件特許発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項によって特定されるとおりのものであって、次のとおりである。(以下、本件特許の請求項1ないし18に係る発明を、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明18」という。判定請求書のとおり、請求項1および13については分説した。)

「【請求項1】
(1-1)接着フィルムを移動ハンドレールに被着させる装置であって、
(1-2)前記装置を欄干に取り付ける取付け手段と、
(1-3)前記接着フィルムの第1のロールを取り付ける第1のスピンドル手段と、
(1-4)圧力を前記接着フィルムに加えて前記接着フィルムが前記移動ハンドレールに付着するようにする加圧手段とを有し、前記加圧手段は、中心線が前記移動ハンドレールの中心線に一致し、当該中心線の回りに対称に設けられた複数のローラ対を含む加圧機構を有し、前記複数のローラ対は、前記加圧機構の後方端部からその前方端部まで延びており、前記後方端部及び前記前方端部は、前記移動ハンドレールの移動方向に一致し、後方のローラ対は、前記加圧機構の中心線に隣接して設けられ、前記後方のローラ対に続く各ローラ対は、前記加圧機構の前記前方端部に向かって次第に間隔を置いて設けられ、
(1-5)使用にあたり、前記装置を越えて前記移動ハンドレールを駆動することができ、
(1-6)前記加圧手段が前記接着フィルムを前記移動ハンドレールに付着させた状態で、前記接着フィルムを前記第1のロールから巻き出すようになっており、
(1-7)前記移動ハンドレールが前記加圧機構を通過すると、前記接着フィルムは前記移動ハンドレールの中心線から前記移動ハンドレールのリップの外面の周りに次第に巻きつけられることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記取付け手段に対する前記第1のスピンドル手段の位置を調節する調節手段をさらに有していることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記取付け手段は、前記装置を前記欄干の滑らかな表面に真空の作用で取り付ける吸着盤から成ることを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記取付け手段は、前記装置を欄干にクランプするクランプ手段から成ることを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項5】
前記接着フィルムの剥離シートを巻き取る第2のロールが取り付けられる第2のスピンドル手段と、前記第1のスピンドル手段と前記第2のスピンドル手段との間に設けられた駆動手段とをさらに有し、使用にあたり、前記第1のロールから前記接着フィルムを巻き出すと、前記第1のスピンドル手段は、前記第2のスピンドル手段を駆動し、それにより前記第2のスピンドル手段は、前記第1のロールから巻き出た前記接着フィルムから分離された前記剥離シートを巻き取るようになっていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記駆動手段は、歯車列を含んでいることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記歯車列は、前記第2のスピンドル手段が前記剥離シートを巻き取るのに必要な速度よりも早い速度で常時駆動されるような前記第1のスピンドルと前記第2のスピンドルの速度比を有し、前記装置は、前記第1のスピンドル手段と前記第2のスピンドル手段のうち少なくとも一方に設けられていて、過度の速度にならないようにするクラッチ手段をさらに有していることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記装置は、前記取付け手段に連結された本体をさらに有し、前記第1のスピンドル手段及び前記第2のスピンドル手段は、前記本体に回動自在に取り付けられた揺動アームに回動自在に取り付けられ、前記加圧手段は、前記本体に対して回動自在に設けられたメインローラを有していることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
メインローラを前記移動ハンドレールの頂部に向かって付勢するばね付勢手段をさらに有していることを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記取付け手段から前記本体まで延びる調節可能な支持手段をさらに有し、前記支持手段を用いると、前記本体の位置を前記移動ハンドレールに垂直な平面内において水平方向と垂直方向の両方の方向に調節できることを特徴とする請求項8または9に記載の装置。
【請求項11】
前記支持手段は、前記取付け手段に連結された上方に延びる部材と、第1の横方向部材と、前記第1の横方向部材と前記上方に延びる部材との間に設けられた第1のピボット連結部と、前記第1の横方向部材に沿って摺動できると共にこれに固定できる滑り回り継手と、第2の横方向部材と、前記第2の横方向部材を前記滑り回り継手に回動自在に連結する第2のピボット連結部と、前記第2の横方向部材から前記本体まで下方に延びる下方に延びる部材とを有することを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記加圧機構は、前記装置の中心線の回りに対称に位置した1対のトラフ形要素半部から成る全体としてトラフ形の部材を有し、前記装置は、前記トラフ形要素半部を側方に移動させて、前記トラフ形部材を開いて前記移動ハンドレールへの取り付けを可能にし、前記トラフ形部材を閉じて前記複数のローラ対が前記移動ハンドレールの表面に当接した状態で前記トラフ形部材を前記移動ハンドレールの周りに配置する機構をさらに有していることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
(2-1)接着フィルムを移動ハンドレールに被着させる方法であって、
(2-2)第1のフィルム層及びその下面に被着された第1の接着剤層とを有し、全体として細長い接着フィルムを準備する第1の工程と、
(2-3)前記接着フィルムの第1の端部を前記移動ハンドレールの表面に位置合せして付着させる第2の工程と、
(2-4)前記移動ハンドレールを前記接着フィルムに対して駆動して前記接着フィルムが前記移動ハンドレールに連続的に且つ次第に付着するようにする第3の工程とを有し、
(2-5)前記方法は、前記移動ハンドレールの中心線の回りに対称に設けられた複数のローラ対を含む加圧機構を有し、前記複数のローラ対は、前記加圧機構の後方端部からその前方端部まで延びており、前記後方端部及び前記前方端部は、前記移動ハンドレールの移動方向に一致し、後方のローラ対は、前記加圧機構の中心線に隣接して設けられ、前記後方のローラ対に続く各ローラ対は、前記加圧機構の前記前方端部に向かって次第に間隔を置いて設けられ、加圧機構の前方端部に向かって次第に間隔を置いて設けられ、前記各ローラ対を互いに離して、前記加圧機構を前記移動ハンドレールの周りに取り付けることができるようにし、前記ローラ対を前記移動ハンドレールの表面に当てる工程を有し、
(2-6)前記移動ハンドレールが前記加圧機構を通過すると、前記接着フィルムは前記移動ハンドレールの中心線から前記移動ハンドレールのリップの外面の周りに次第に巻きつけられ、前記接着フィルムの幅全体が前記移動ハンドレールの表面に一様に且つ滑らかに付着されることを特徴とする方法。
【請求項14】
前記接着フィルムを第1のロール上に設けた状態で準備し、前記第1のロールを前記移動ハンドレールに隣接して第1のスピンドルに取り付ける工程をさらに有することを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記接着フィルムには剥離シートが付着されており、前記剥離シートを巻き取る第2のロールを準備し、前記接着フィルムを前記移動ハンドレールに被着させているとき、前記剥離シートを前記接着フィルムから剥がしながら前記第2のロール上に巻き取る工程を有することを特徴とする請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記第2のロールの第2のスピンドル、前記第1のスピンドルと前記第2のスピンドルとの間に設けられた駆動機構及びクラッチ機構とを準備し、前記剥離シートの巻取り中、前記剥離シートに実質的に一定の張力を維持するトルクを前記第2のスピンドルに及ぼすことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
欄干への取付け手段及び調節手段を含む装置に前記第1及び第2のスピンドルを取り付けた状態で準備し、前記装置を手すりに取り付け、前記第1及び第2のスピンドルの位置を前記調節手段に対して垂直方向、水平方向及び角度的に調節して前記接着フィルムをハンドレールに位置合せする工程をさらに有していることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記移動ハンドレールと前記接着フィルムが前記加圧機構を通過する前に前記接着フィルムをメインローラにより前記移動ハンドレール上に圧接することを特徴とする請求項13乃至17のいずれか1項に記載の方法。」
(【請求項13】の「前記ロール対」は、「前記ローラ対」の誤り。)

3.本件特許発明の特徴、及び、作用効果
本件特許明細書によれば、本件特許発明は、下記の(1)、(2)のように本件特許発明の特徴、及び、作用効果を有している。
また、本件特許の出願当初明細書においても、下記の(3)ないし(5)のように本件発明の特徴が記載されている。(以下同様に、下線は当審で付した。)

(1)「【0015】【課題を解決するための手段】
本発明の第1の特徴によれば、接着フィルムを移動ハンドレールに被着させる装置が提供される。前記装置は、この装置を欄干に取り付ける取付け手段と、前記接着フィルムの第1のロールを取り付ける第1のスピンドル手段と、圧力を前記接着フィルムに加えて前記接着フィルムが前記移動ハンドレールに付着するようにする加圧手段とを有し、前記加圧手段は、中心線が前記移動ハンドレールの中心線に一致し、当該中心線の回りに対称に設けられた複数のローラ対を含む加圧機構を有し、前記複数のローラ対は、前記加圧機構の後方端部からその前方端部まで延びており、前記後方端部及び前記前方端部は、前記移動ハンドレールの移動方向に一致し、後方のローラ対は、前記加圧機構の中心線に隣接して設けられ、前記後方のローラ対に続く各ローラ対は、前記加圧機構の前記前方端部に向かって次第に間隔を置いて設けられ、使用にあたり、前記装置を越えて前記移動ハンドレールを駆動することができ、前記加圧手段が前記接着フィルムを前記移動ハンドレールに付着させた状態で、前記接着フィルムを前記第1のロールから巻き出すようになっており、前記移動ハンドレールが前記加圧機構を通過すると、前記接着フィルムは前記移動ハンドレールの中心線から前記移動ハンドレールのリップの外面の周りに次第に巻きつけられることになる。
・・・
【0022】圧力を及ぼす手段は、ハンドレールの中心線に一致した加圧機構の中心線の回りに対称に設けられた複数の対をなすローラを含む加圧機構を有する。ローラは、加圧機構の前方端部(ハンドレールの前方運動に一致した前方端部)からローラ手段の後方端部まで延びるのがよい。ローラ手段の後方端部のローラ対は、加圧機構の中心線に隣接して設けられ、ローラの引き続く各対は、加圧機構の前方端部に向かって次第に間隔を置いて設けられる。ハンドレールが加圧機構を通過すると、フィルムはハンドレールの中心線からハンドレールのリップの外面の周りに次第に巻きつけられる。」(本件特許明細書段落0015から0022)

(2)「【0024】本発明の第2の特徴によれば、接着フィルムを移動ハンドレールに被着させる方法であって、第1のフィルム層及びその下面に被着された第1の接着剤層とを有し、全体として細長い接着フィルムを準備する第1の工程と、前記接着フィルムの第1の端部を前記移動ハンドレールの表面に位置合せして付着させる第2の工程と、前記移動ハンドレールを前記接着フィルムに対して駆動して前記接着フィルムが前記移動ハンドレールに連続的に且つ次第に付着するようにする第3の工程とを有し、 前記方法は、前記移動ハンドレールの中心線の回りに対称に設けられた複数のローラ対を含む加圧機構を有し、前記複数のローラ対は、前記加圧機構の後方端部からその前方端部まで延びており、前記後方端部及び前記前方端部は、前記移動ハンドレールの移動方向に一致し、後方のローラ対は、前記加圧機構の中心線に隣接して設けられ、前記後方のローラ対に続く各ローラ対は、前記加圧機構の前記前方端部に向かって次第に間隔を置いて設けられ、加圧機構の前方端部に向かって次第に間隔を置いて設けられ、前記各ローラ対を互いに離して、前記加圧機構を前記移動ハンドレールの周りに取り付けることができるようにし、前記ロール対を前記移動ハンドレールの表面に当てる工程を有し、前記移動ハンドレールが前記加圧機構を通過すると、前記接着フィルムは前記移動ハンドレールの中心線から前記移動ハンドレールのリップの外面の周りに次第に巻きつけられ、前記接着フィルムの幅全体が前記移動ハンドレールの表面に一様に且つ滑らかに付着されることを特徴とする方法が提供される。」(本件特許明細書段落0024)

(3)「【特許請求の範囲】【請求項1】接着フィルムを移動ハンドレールに被着させる装置であって、前記装置を手すりに取り付ける取付け手段と、前記接着フィルムの第1のロールを取り付ける第1のスピンドル手段と、圧力を前記接着フィルムに加えて前記接着フィルムが前記移動ハンドレールに付着するようにする加圧手段とを有し、使用にあたり、前記装置を越えて前記移動ハンドレールを駆動することができ、前記加圧手段が前記接着フィルムを前記移動ハンドレールに付着させた状態で、前記接着フィルムを前記第1のロールから巻き出すようになっていることを特徴とする装置。
・・・
【請求項13】前記加圧手段は、中心線が前記移動ハンドレールの中心線に一致し、当該中心線の回りに対称に設けられた複数のローラ対を含む加圧機構を有し、前記複数のローラ対は、前記加圧機構の後方端部からその前方端部まで延びており、前記後方端部及び前記前方端部は、前記移動ハンドレールの移動方向に一致し、後方のローラ対は、前記加圧機構の中心線に隣接して設けられ、前記後方のローラ対に続く各ローラ対は、前記加圧機構の前記前方端部に向かって次第に間隔を置いて設けられ、前記移動ハンドレールが前記加圧機構を通過すると、前記接着フィルムは前記移動ハンドレールの中心線から前記移動ハンドレールのリップの外面の周りに次第に巻きつけられ、前記加圧機構は、前記メインローラの前方に設けられていることを特徴とする請求項9または10に記載の装置。
・・・
【請求項15】接着フィルムを移動ハンドレールに被着させる方法であって、第1のフィルム層及びその下面に被着された第1の接着剤層とを有し、全体として細長い接着フィルムを準備する第1の工程と、前記接着フィルムの第1の端部を前記移動ハンドレールの表面に位置合せして付着させる第2の工程と、前記移動ハンドレールを前記接着フィルムに対して駆動して前記接着フィルムが前記移動ハンドレールに連続的に且つ次第に付着するようにする第3の工程と、前記接着フィルムの幅全体が前記移動ハンドレールの表面に一様に且つ滑らかに付着されるようにする第4の工程とを有することを特徴とする方法。
・・・
【請求項21】前記移動ハンドレールの中心線の回りに対称に設けられた前記複のローラ対を含む加圧機構をメインローラの前方に準備し、前記複数のローラ対は、前記加圧機構の後方端部からその前方端部まで延びており、前記後方端部及び前記前方端部は、前記移動ハンドレールの移動方向に一致し、後方のローラ対は、前記加圧機構の中心線に隣接して設けられ、前記後方のローラ対に続く各ローラ対は、前記加圧機構の前記前方端部に向かって次第に間隔を置いて設けられ、加圧機構の前方端部に向かって次第に間隔を置いて設けられ、前記各ローラ対を互いに離して、前記加圧機構を前記移動ハンドレールの周りに取り付けることができるようにし、前記ロール対を前記移動ハンドレールの表面に当てる工程を有し、前記移動ハンドレールが前記加圧機構を通過すると、前記接着フィルムは前記移動ハンドレールの中心線から前記移動ハンドレールのリップの外面の周りに次第に巻きつけられることを特徴とする請求項20記載の方法。」(出願当初特許請求の範囲)

(4)「【0016】本発明の第2の特徴によれば、本発明の第1の特徴によって説明されたような軟質フィルムと組み合わされる細長いハンドレールが提供される。ハンドレールが移動ハンドレールである場合、フィルムの端部は、添え継ぎ部を形成するよう互いにオーバーラップするのがよい。フィルムは、ハンドレールの周りに延び、ハンドレールの肩の一部を覆うのがよい。固定又は静止ハンドレールの場合、フィルムの端部は、ユーザには容易には見えないようにハンドレールの端部の周りに単に巻きつくようにして覆うのがよい。」(出願当初明細書段落0016)

(5)「【0024】本発明の第6の特徴によれば、軟質フィルムを移動ハンドレールに被着させる方法であって、第1のフィルム層及びその下面に被着された第1の接着剤層とを有するフィルムを準備する工程(1)を有し、フィルムは全体として細長く、ハンドレールの幅に一致した幅を有しており、上記方法は、フィルムの第1の端部をハンドレールの表面に位置合せしてこれに付着させる工程(2)と、ハンドレールをフィルムに対して駆動してフィルムがハンドレールに連続的に且つ次第に付着するようにする工程(3)と、フィルムの幅全体がハンドレールの表面に一様に且つ滑らかに付着されるようにする工程(4)とを有することを特徴とする方法が提供される。
【0025】本発明の方法は、フィルムを第1のロール上に設けた状態で準備し、第1のロールをハンドレールに隣接して第1のスピンドルに取り付ける工程をさらに有する。次に、ローラをハンドレールの表面に押しつけてフィルムをハンドレールに圧接させるのがよい。この方法は、ハンドレールの外部の周りに次第に間隔を置いて設けられたローラ対を用いてフィルムをハンドレールのリップの周りに次第に巻きつける工程をさらに有するのがよい。本発明の方法は、本発明の第3の特徴において説明した装置の用途を含むのがよい。」(出願当初明細書段落0024、0025)

第3.イ号製品、イ号方法
1.イ号製品
甲第1号証のイ号説明書、判定請求書5、6頁の「〔4〕イ号物件の説明(1)」の記載からして、イ号製品は、次のとおりのものである。なお、請求人の主張するイ号製品に対し被請求人は何ら意見を述べていない。

「(A-1)接着フィルム(81)を移動ハンドレール(9)に被着させる装置であって、
(A-2)前記装置(1)を連結部(91)に取り付ける固定部(7)と、
(A-3)前記接着フィルム(81)のロール(80)を取り付けるロール取付部(2)と、
(A-4)圧力を前記接着フィルム(81)に加えて前記接着フィルム(81)が前記移動ハンドレール(9)の上面に付着するようにする押圧部(4)とを有し、前記押圧部(4)は、中心線が前記移動ハンドレール(9)の中心線に一致する単一板状形状の押さえゴム(42)を有し、
(A-5)使用にあたり、前記装置(1)の一方側(a)から他方側(b)へ前記移動ハンドレール(9)を駆動することができ、
(A-6)前記押圧部(4)は、前記接着フィルム(81)を前記移動ハンドレール(9)に付着させた状態で、前記接着フィルム(81)を前記ロール(80)から巻き出すようになっており、
(A-7)前記移動ハンドレール(9)が前記押さえゴム(42)を通過すると、前記接着フィルム(81)は、前記移動ハンドレール(9)の上面に被着されることを特徴とする装置。」

2.イ号方法
甲第1号証のイ号説明書、判定請求書6頁の「〔4〕イ号物件の説明(2)」の記載からして、イ号方法は、次のとおりのものである。なお、請求人の主張するイ号方法に対し被請求人は何ら意見を述べていない。

「(B-1)接着フィルム(81)を移動ハンドレール(9)に被着させる方法であって、
(B-2)フィルム層及びその下面に被着された接着剤層とを有し、全体として細長い接着フィルム(81)を準備する第1の工程と、
(B-3)前記接着フィルム(81)の端部を前記移動ハンドレール(9)の表面に位置合せして付着させる第2の工程と、
(B-4)前記移動ハンドレール(9)を前記接着フィルム(81)に対して駆動して前記接着フィルム(81)が前記移動ハンドレール(9)に連続的に且つ次第に付着するようにする第3の工程とを有し、
(B-5)前記方法は、前記移動ハンドレール(9)の上面に設けられた単一板状形状の押さえゴム(42)を有し、前記押さえゴム(42)を前記移動ハンドレール(9)の表面に当てる工程を有し、
(B-6)前記移動ハンドレール(9)が前記押さえゴム(42)を通過すると、前記接着フィルム(81)は、前記移動ハンドレール(9)の上面に被着され、前記接着フィルム(81)の幅の一部が、前記移動ハンドレール(9)の表面に一様に且つ滑らかに付着されることを特徴とする方法。」(判定請求書6頁21行、及び甲第1号証6頁23行の「移動ハンドレール(8)」は、「移動ハンドレール(9)」の誤り。)

第4.当事者の主張
1.請求人の主張概要
請求人は、判定請求書において、イ号製品は、下記の(1)、(2)の作用効果を奏するものであり、イ号方法は、下記の(1)、(3)の作用効果を奏するものであり、イ号装置及びイ号方法の作用効果は、本件発明1及び2の作用効果と相違し、イ号装置は、本件発明1の構成要件(1-4)及び(1-7)を満たさない点で相違し、イ号方法は、本件発明2の構成要件(2-5)及び(2-6)を満たさない点で相違すると主張し、下記の(4)のように主張した。(「本件発明1」は、本件特許発明1に該当し、「本件発明2」は、本件特許発明13に該当する。判定請求書3頁10?13行参照。)

(1)「(2)イ号装置及びイ号方法は、上記構成を有することにより、ハンドレール表面に接着フィルムを被着させることができる。
しかし、上記のようにイ号装置の加圧手段である「押さえゴム(42)」は、単一の板状部材であり(構成要件(A-5))、「複数のローラ対を含む加圧機構」を備えていない。また、「押さえゴム(42)」は、移動ハンドレール(9)の上部表面で接触するに留まり、移動ハンドレール(9)の側部表面とは接触していない。
そのため、イ号方法では、ロール(80)から繰り出された接着フィルム(81)が、「押さえゴム(42)」を通過したとしても、単に「押さえゴム(42)」により、接着フィルム(81)の幅の一部(ハンドレールの上部表面に接する部分)のみがハンドレール(9)表面に付着し、接着フィルム(81)の幅のうち、ハンドレール(9)の側部表面に接する部分までは付着しない。
即ち、イ号装置及びイ号方法では、「前記接着フィルムは前記移動ハンドレールの中心線から前記移動ハンドレールのリップの外面の周りに次第に巻きつけられ」るという過程は経ない。」(判定請求書12頁下から8行?13頁7行。なお、判定請求書12頁下から4行及び3行の「移動ハンドレール(2)」は「移動ハンドレール(9)」の誤り。)

(2)「(ケ)後述のように、イ号装置(1)によれば、イ号装置(1)の一方側(a)から他方側(b)へ移動ハンドレール(9)を駆動させることにより、「ロール取付部(2)」に取り付けられたロール(80)から接着フィルム(81)が繰り出され、接着フィルム(81)は、押さえゴム(42)により押圧されて、移動ハンドレール(9)の上部表面に付着される。」(甲第1号証3頁11?15行。なお、甲第1号証3頁1115行の「移動ハンドレール(8)」は「移動ハンドレール(9)」の誤り。)

(3)「(キ)その後、移動ハンドレール(9)を駆動させる。移動ハンドレール(9)の駆動方向は、イ号装置(1)の一方側(a)から他方側(b)である。
これにより、ロール(80)から繰り出された接着フィルム(81)は、押さえゴム(42)により押圧され、移動ハンドレール(9)の上面に付着される。
(ク)次に、接着フィルム(81)のうち、移動ハンドレール(9)の上面に付着していない部分について、人の手により当該部分を移動ハンドレール(9)の側面部に付着させ、これにより、接着フィルム(81)全体を移動ハンドレール(9)に付着させる。」(甲第1号証6頁5行?12行)

(4)「イ号装置及びイ号方法と本件発明1及び2とは、構成及び作用効果において相違し、また、イ号装置及びイ号方法は、本件発明1及び2と均等ではないことは明らかである。
また、他の本件発明は、本件発明1及び2の技術的事項を限定した発明である。よって、上記と同じ理由により、イ号装置及びイ号方法と他の本件発明とは、構成及び作用効果において相違し、また、イ号装置及びイ号方法は、他の本件発明と均等ではないことは明らかである。」(判定請求書17頁下から6行?18頁1行)

2.被請求人の主張
上記第2.1.で述べたように、被請求人に判定請求書副本を送達(送達日平成20年3月11日)し、期間を指定して、請求人の主張に対し答弁書を提出する機会を与えたが、請求人からは何らの応答もない。

第5.対比・判断
1.本件特許発明1とイ号製品との対比・判断
本件特許発明1は、構成要件(1-4)の「前記加圧手段は、中心線が前記移動ハンドレールの中心線に一致し、当該中心線の回りに対称に設けられた複数のローラ対を含む加圧機構を有し、前記複数のローラ対は、前記加圧機構の後方端部からその前方端部まで延びており、前記後方端部及び前記前方端部は、前記移動ハンドレールの移動方向に一致し、後方のローラ対は、前記加圧機構の中心線に隣接して設けられ、前記後方のローラ対に続く各ローラ対は、前記加圧機構の前記前方端部に向かって次第に間隔を置いて設け」るとともに、構成要件(1-7)の「前記移動ハンドレールが前記加圧機構を通過すると、前記接着フィルムは前記移動ハンドレールの中心線から前記移動ハンドレールのリップの外面の周りに次第に巻きつけられる」ものである。
一方、イ号製品の加圧手段は単一板状形状の押さえゴム(42)であって、「前記複数のローラ対は、前記加圧機構の後方端部からその前方端部まで延びており、前記後方端部及び前記前方端部は、前記移動ハンドレールの移動方向に一致し、後方のローラ対は、前記加圧機構の中心線に隣接して設けられ、前記後方のローラ対に続く各ローラ対は、前記加圧機構の前記前方端部に向かって次第に間隔を置いて設けられ」た構成を備えていない。さらに、イ号製品は、構成(A-7)の「前記接着フィルム(81)は、前記移動ハンドレール(9)の上面に被着される」というものであり、本件特許発明1の構成要件(1-7)とは異なるものである。
以上のとおり、イ号製品は、本件特許発明1の構成要件(1-4)、(1-7)を充足しない。

次に、均等について検討する。
本件特許発明1の構成要件(1-4)及び(1-7)とイ号製品の構成(A-4)及び(A-7)を対比すると、前述したような作用効果において相違するものであるが、仮に作用効果において同一としても、前記第2.3.(1)の本発明の第1の特徴としての記載内容、前記第2.3.(4)、(5)の出願当初明細書のおける発明の特徴としての作用効果の記載を考慮すれば、本件特許発明1の構成要件(1-4)及び(1-7)は、本質的部分といえるものである。
したがって、イ号製品は、均等の他の要件を検討するまでもなく、本件特許発明1と均等とはいえない。

2.本件特許発明13とイ号方法との対比・判断
本件特許発明13は、構成要件(2-5)の「前記方法は、前記移動ハンドレールの中心線の回りに対称に設けられた複数のローラ対を含む加圧機構を有し、前記複数のローラ対は、前記加圧機構の後方端部からその前方端部まで延びており、前記後方端部及び前記前方端部は、前記移動ハンドレールの移動方向に一致し、後方のローラ対は、前記加圧機構の中心線に隣接して設けられ、前記後方のローラ対に続く各ローラ対は、前記加圧機構の前記前方端部に向かって次第に間隔を置いて設けられ、加圧機構の前方端部に向かって次第に間隔を置いて設けられ、前記各ローラ対を互いに離して、前記加圧機構を前記移動ハンドレールの周りに取り付けることができるようにし、前記ローラ対を前記移動ハンドレールの表面に当てる工程を有」するとともに、構成要件(2-6)の「前記移動ハンドレールが前記加圧機構を通過すると、前記接着フィルムは前記移動ハンドレールの中心線から前記移動ハンドレールのリップの外面の周りに次第に巻きつけられ、前記接着フィルムの幅全体が前記移動ハンドレールの表面に一様に且つ滑らかに付着される」ものである。(構成要件(2-5)の「前記ロール対」は、「前記ローラ対」の誤り。)
一方、イ号方法の加圧機構は、単一板状形状の押さえゴム(42)であって、「前記複数のローラ対は、前記加圧機構の後方端部からその前方端部まで延びており、前記後方端部及び前記前方端部は、前記移動ハンドレールの移動方向に一致し、後方のローラ対は、前記加圧機構の中心線に隣接して設けられ、前記後方のローラ対に続く各ローラ対は、前記加圧機構の前記前方端部に向かって次第に間隔を置いて設けられ」た構成を備えていない。さらに、イ号方法は、構成(B-6)の「前記移動ハンドレール(9)が前記押さえゴム(42)を通過すると、前記接着フィルム(81)は、前記移動ハンドレール(9)の上面に被着され、前記接着フィルム(81)の幅の一部が、前記移動ハンドレール(9)の表面に一様に且つ滑らかに付着される」というものであり、本件特許発明13の構成要件(2-6)とは異なるものである。
以上のとおり、イ号方法は、本件特許発明13の構成要件(2-5)、(2-6)を充足しない。

次に、均等について検討する。
本件特許発明13の構成要件(2-5)及び(2-6)とイ号方法の構成(B-5)及び(B-6)を対比すると、前述したような作用効果において相違するものであるが、仮に作用効果において同一としても、前記第2.3.(2)の本発明の第2の特徴としての記載内容、前記第2.3.(5)の出願当初明細書のおける発明の特徴としての記載を考慮すれば、本件特許発明13の構成要件(2-5)及び(2-6)は、本質的部分といえるものである。
したがって、イ号製品は、均等の他の要件を検討するまでもなく、本件特許発明13と均等とはいえない。

3.また、イ号製品、イ号方法の単一板状形状の押さえゴム(42)の作用は、接着フィルムを移動ハンドレール(9)の上面に被着するものであることから、本件特許発明1及び13の加圧機構のうちで、加圧機構の中心線に隣接して設けられた「後方のローラ対」(110)が、イ号製品、イ号方法の押さえゴム(42)に相当する。そうすると、本件特許発明1及び13の構成要件である「後方のローラ対に続く各ローラ対」は、移動ハンドレールのリップの外面の周りに次第に巻きつける作用をなすものであるから、イ号製品、イ号方法には対応する構成が存在しない。
したがって、イ号製品、イ号方法は、本件特許発明1及び13の構成要件の「後方のローラ対に続く各ローラ対」を充足しない。なお、対応する構成が存在しない以上、均等について検討は不要である。

第6.むすび
本件特許について、請求項2ないし12は請求項1の従属請求項であり、請求項14ないし18は請求項13の従属請求項であり、上記第5.の理由とともに、イ号製品、及びイ号方法は、本件特許発明1ないし18の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2008-06-10 
出願番号 特願2003-193092(P2003-193092)
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (B66B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 志水 裕司  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 小谷 一郎
西本 浩司
登録日 2005-02-10 
登録番号 特許第3645893号(P3645893)
発明の名称 接着フィルムを移動ハンドレールに被着させる装置および方法  
代理人 谷口 直也  
代理人 小島 清路  
代理人 中尾 俊輔  

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