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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1181596
審判番号 不服2007-674  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-11 
確定日 2008-07-17 
事件の表示 特願2002- 5839「回転体」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月25日出願公開、特開2003-207032〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年1月15日の出願であって、平成18年11月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年1月11日に審判請求がなされるとともに、平成19年2月8日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成19年2月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年2月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】 樹脂製の回転部材(2)と、
前記回転部材(2)の回転中心部に装着された軸受(3)とを備え、
前記軸受(3)は、インサート成形法にて前記回転部材(2)に一体化された外輪(3a)、及び前記外輪(3a)の内周側に転がり接触する転動体(3b)を有して構成されており、
前記外輪(3a)の外周面のうち前記回転部材(2)との接合面には、凹凸部(3h)が形成されており、
前記凹凸部(3h)は、前記転動体(3b)と前記外輪(3a)とが接触する領域から軸方向にずれた位置に設けられており、
前記外輪(3a)の外径寸法のうち前記転動体(3b)に対応する部位の外径寸法(D1)をその他の部位の外径寸法(D2)より大きくして段差が設けられていることを特徴とする回転体。
【請求項2】 前記外輪(3a)の軸方向寸法(Lo)は、前記外輪(3a)より内側に位置して前記転動体(3b)と転がり接触する内輪(3c)の軸方向寸法(Li)より大きいことを特徴とする請求項1に記載の回転体。
【請求項3】 前記凹凸部(3h)は、前記外輪(3a)の外周面に螺旋状の溝部を形成することにより構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転体。
【請求項4】 前記外輪(3a)の肉厚寸法(To)は、前記内輪(3c)の肉厚寸法(Ti)より大きいことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の回転体。
【請求項5】 前記回転部材(2)には、軸方向両側から前記外輪(3a)を挟み込むようにして前記外輪(3a)の軸方向両端側に接触する突起部(2c)が形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の回転体。
【請求項6】 前記回転部材(2)は、少なくとも前記外輪(3a)の外周面(3k)と前記外輪(3a)の軸方向の端面(3j)と繋ぐ丸取り面又は面取り面(3m)、及び前記外周面(3k)に接触していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の回転体。
【請求項7】 前記外輪(3a)のうち大気に晒される部位には、放熱面積を増大させる放熱促進部(3q、3r、3s)が形成されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の回転体。
【請求項8】 請求項1ないし7のいずれか1つに記載の回転体の製造方法であって
、前記外輪(3a)をインサート成形法にて前記回転部材(2)に一体化した後、前記転動体(3b)を組み付けることを特徴とする回転体の製造方法。」と補正された。
本件補正は、請求項1についてみると、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「外輪(3a)」という事項について「前記外輪(3a)の外径寸法のうち前記転動体(3b)に対応する部位の外径寸法(D1)をその他の部位の外径寸法(D2)より大きくして段差が設けられている」という事項を付加するものであって、平成15年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用例
(2-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-317616号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【発明の属する技術分野】本発明は、転がり軸受と樹脂製のプーリ本体が一体に形成された軸受付き樹脂プーリに関する。
【従来の技術】従来、プーリとしては、図2に示すように、転がり軸受21の金属製外輪23の平滑な外周面23aに樹脂製のプーリ本体22を一体成形したものがある。」(段落【0001】?【0002】参照)
(い)「図1に、本発明の実施の一形態の軸受付き樹脂プーリの概略断面を示す。この軸受付き樹脂プーリは、転がり軸受1と、この転がり軸受1が有する金属製外輪3の外周面3aに一体成形された樹脂製のプーリ本体2とを備えている。上記外輪3の外周面3aには、断面円弧状の凹溝6を全周にわたって形成している。この凹溝6は、周方向に進むにつれて漸次深さと幅が変化している。より詳しくは、上記凹溝6の深さは、図1において上側でD1であるが、周方向に進むつれて浅くなり、図1において下側でD2になっている(D1>D2)。そして、上記凹溝6の幅は、図1において上側でW1であるが、周方向に進むにつれて狭くなり、図1において下側でW2になっている(W1>W2)。また、上記凹溝6には、プーリ本体2の凸部7が嵌り込んでいる。この凸部7は、外輪3の外周面3aに対向するプーリ本体2の内周面に形成され、径方向内側に向かって突出している。
また、上記転がり軸受1は、外輪3以外に、内輪4と、内輪4と外輪3との間に配置された複数のボール5とを有している。そして、上記内輪4と外輪3との各端部間にはシール8を設けて、内外輪4,3間にグリースを保持するとともに、その間に水や埃などが入り込むのを防いでいる。なお、9は保持器である。
上記構成の軸受付き樹脂プーリは、通常、図示しない固定軸が内輪4に嵌着され、図示しないベルトがプーリ本体2の外周面に巻回される。その状態で、上記プーリ本体2がベルトから回転駆動力を受けて、プーリ本体2と外輪3が一体となって内輪4および固定軸に対して回転する。このとき、上記プーリ本体2が外輪3に対して相対的に周方向に移動しようとすると、プーリ本体2の凸部7が、外輪3の周方向に進むにつれて漸次深さと幅が変化する凹溝6に対して周方向に食い込み、いわゆる幅方向と深さ方向との2方向の楔作用が凸部7と凹溝6に生じて、周方向においてプーリ本体2の相対的な移動が阻止される。このように、周方向に進むにつれて漸次深さと幅が変化する凹溝6を外輪3の外周面3aに形成しているから、楔作用が凸部7と凹溝6とに楔作用が生じ、プーリ本体2と外輪3との周方向の結合力を強くすることができる。
また、上記プーリ本体2の凸部7が外輪3の凹溝6に嵌り込んでいるので、凹溝6と凸部7が互いに軸方向に係合し、プーリ本体2と外輪3との軸方向の結合力を強くすることができる。」(段落【0012】?【0015】参照)
(う)「また、上記凹溝6の本数は特に限定されるものではなく、一本または複数本であってもよい。」(段落【0018】参照)
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「樹脂製のプーリ本体2と、
前記プーリ本体2の回転中心部に装着されたころがり軸受1とを備え、
前記ころがり軸受1は、一体成形により前記プーリ本体2に一体化された外輪3、及び前記外輪3の内周側に転がり接触するボール5を有して構成されており、
前記外輪3の外周面のうち前記プーリ本体2との接合面には、周方向に進むにつれて漸次深さと幅が変化している断面円弧状の凹溝6が全周にわたって形成されている軸受付き樹脂プーリ。」
(3)対比
本願補正発明1と引用例1発明とを比較すると、後者の「プーリ本体2」は前者の「回転部材(2)」に相当し、以下、同様に、「ころがり軸受1」は「軸受(3)」に、「外輪3」は「外輪(3a)」に、「ボール5」は「転動体(3b)」に、「凹溝6」は「凹凸部(3h)」に、「軸受付き樹脂プーリ」は「回転体」にそれぞれ相当する。
以上より、本願補正発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「樹脂製の回転部材(2)と、
前記回転部材(2)の回転中心部に装着された軸受(3)とを備え、
前記軸受(3)は、前記回転部材(2)に一体化された外輪(3a)、及び前記外輪(3a)の内周側に転がり接触する転動体(3b)を有して構成されており、
前記外輪(3a)の外周面のうち前記回転部材(2)との接合面には、凹凸部(3h)が形成されている回転体。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願補正発明1は、「外輪(3a)」が「インサート成形法にて前記回転部材(2)に一体化され」ているのに対し、引用例1発明は、「外輪3」が「一体成形により前記プーリ本体2に一体化され」ている点。
[相違点2]
本願補正発明1は、「前記凹凸部(3h)は、前記転動体(3b)と前記外輪(3a)とが接触する領域から軸方向にずれた位置に設けられて」いるのに対し、引用例1発明は、「凹溝6」がそのような位置に設けられているかどうか、明確でない点。
[相違点3]
本願補正発明1は、「前記外輪(3a)の外径寸法のうち前記転動体(3b)に対応する部位の外径寸法(D1)をその他の部位の外径寸法(D2)より大きくして段差が設けられている」のに対し、引用例1発明は、外輪3にそのような事項を具備していない点。
(4)判断
[相違点1]について
一体成形するためにどのような方法を採用するかは適宜設計する事項にすぎず、インサート成形法とすることは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
[相違点2]について
引用例1発明の凹溝6を外輪3の外周面のどこに設けるかは、外輪3の所要強度等に基づいて適宜設計する事項にすぎない。
ここで、実願昭54-57020号(実開昭55-158350号)のマイクロフィルム(以下、「周知例A1」という。)には、「プーリ等の回転体装置」に関して、
(か)「軸受(1)は、…内輪(2)と外輪(3)の間に玉(4)を設け、…該軸受の外周に合成樹脂材料製の本体(8)を射出成形等によつて一体的に成形している。」(明細書第2頁第14行?第3頁第1行参照)
(き)「上記軸受の外輪(3)には、溝(10)が形成されている。…図に示すものでは軸受の玉(4)の直上に設けないでその両側に位置するよう2本若しくはそれ以上の溝を設け、…」(明細書第3頁第10行?第4頁第4行)と記載されており、これらの記載事項等、及び図面からみて、周知例A1には次の発明が記載されている。
「軸受(1)の外周に合成樹脂製の本体(8)を一体的に成形し、
軸受(1)の外輪(3)に、玉(4)の直上に設けないでその両側に位置するような2本若しくはそれ以上の溝(10)が形成されているプーリ等の回転体装置。」
また、実公昭54-3262号公報(以下、「周知例A2」という。)には、「輪体の回り止め装置」に関して、
(く)「本考案は任意部材、例えばプーリや歯車、スプロケツトや軸受の如き合成樹脂より形成した部材と輪体とを相互に回動せぬように結合する装置に関するもので…
該ベアリング1における外軸2の外周面には外輪軸芯に対して偏芯する凹溝5を開設する。該凹溝5は外輪2の外周に対して連続したものでも、両側や所要数に分離したものでも、又1条でも数条でもよい。」(第1頁左欄第22?30行参照)と記載されており、この記載事項等、及び図面からみて、周知例A2には次の発明が記載されている。
「ベアリング1の外輪2とプーリ等の部材9が成型時に一体に固定されるように製作され、
ベアリング1の外輪2の外周面には外輪軸芯に対して偏芯する凹溝5が開設されている輪体の回り止め装置。」
このように、一般に、軸受の外輪がプーリに一体化されている回転体において、外輪の外周に形成された溝が軸受の玉の中心から軸方向にずれた位置に設けられているものは、周知であると認められる(以下、「周知事項A」という。)。引用例1発明に上記周知事項Aを採用することは容易に想到し得たものと認められる。その際、外輪の外周に形成された溝が軸受の玉の中心から軸方向にどの程度ずれた位置とするかは適宜設計する事項にすぎない。この点に関してはまた、周知例A1、及び周知例A2には、外輪の外周に形成された溝が軸受の玉と外輪との接触領域から軸方向に略ずれた位置に形成されているものが示されているということもできる。
このようにして引用例1発明に周知事項Aを採用したものが、実質的に、「前記凹凸部(3h)は、前記転動体(3b)と前記外輪(3a)とが接触する領域から軸方向にずれた位置に設けられて」いるという事項を具備することは明らかである。
[相違点3]について
相違点3にかかる事項は、審判請求の理由において主張されているとおり、明細書の段落【0043】の記載に基づいて審判請求時に追加補正されたものである。
引用例1発明において、外輪3の寸法や断面形状はその材質・所要強度等に配慮して設定すべきことは当業者に明らかである。
ここで、特開昭57-76318号公報(以下、「周知例B1」という。)には、転がり軸受の軌道輪に関して、
(さ)「第1図はこの発明を円筒ころ軸受の外輪に適用した場合である。
軸受鋼などからなる金属環1aの内周側は外輪1の軌道輪11を構成しており、金属環1aの中央部と両端部の各外周側にはその円周に沿つた半径方向リブ12,13をそれぞれ設けている。
これらのリブ12,13の肉厚は金属環1aの他の部分の肉厚より厚くなつて、熱処理時における金属環1aの歪みに伴なう真円度の低下を防ぐ役目を担つている。また、リブ12は円筒ころ軸受の最大負荷圏にあり、大きな荷重をこの部分で受けるため軸受の負荷容量を向上させている。
さらに環状体1bは合成樹脂製であるので、軸受運転時に振動を吸収し音の発生を押えることができる。
第2図は、…外輪2が受ける荷重の軸方向分布に対応して金属環2aの肉厚を相対的に変化させている。
つまり、最大荷重の負荷される軌道中央部分21において金属環2aを最大の肉厚とし、例えば軌道端面寄り部分22においてはそれよりも薄くなるよう軌道が受ける荷重の大きさに従つてその部分の金属環2aの肉厚を調節している。
合成樹脂製の環状体2bは金属環2aの形状に沿わせるためインジエクシヨンによるのが容易な成形方法である。」(第2頁左上欄第20行?左下欄第6行参照)、
(し)「軸受の種類については実施例に限定されるものではなく適宜の設計変更を行えば各種軸受の内外輪に適用可能である。なお、金属環と合成樹脂との結合方法は、…あるいは合成樹脂のインジエクシヨン方法により両者を一体化してもよい。」(第3頁左上欄第8?15行参照)と記載されており、これらの記載事項等、及び図面からみて、周知例B1には次の発明が記載されていると認められる。
「外輪1は金属環1aと合成樹脂製の環状体1bが一体化されたものであり、
軌道中央部分において金属環1aを最大の肉厚とし、軌道端面寄り部分においてはそれよりも薄くなるようにした転がり軸受の軌道輪。」
特開平3-249419号公報(以下、「周知例B2」という。)には、スラスト玉軸受のレースとその製造方法に関して、
(す)「本発明の方法によりレースを造る場合、先ず焼き入れ処理されていない鋼板製で円輪状の本体8をプレス成形する事により、上記本体8の片面(第1図の上面)全周に、断面が円弧状に凹んだ軌道面5を形成すると同時に、上記本体8の他面(同図の下面)全周に凸部12を形成してレース素材13とする。
但し、本発明の場合、上記軌道面6と凸部12とをプレス成形する際に、本体8の一部で、軌道面6と凸部12とに挟まれる部分の厚さ寸法を圧縮する事で、上記凸部12の高さ寸法Hを、上記軌道面6の深さ寸法Dよりも小さく(H<D)すると共に、上記凸部12の幅寸法wを上記軌道面5の幅寸法Wよりも小さく(w<W)している。」(第3頁右下欄第4?17行参照)、
(せ)「その他の構成及び作用に就いては、従来からのレースを組み込んだ合成樹脂製ケース付のスラスト玉軸受の場合と同様である。」(第4頁左下欄第18?20行参照)と記載されており、これらの記載事項等、及び図面からみて、周知例B2には次の発明が記載されていると認められる。
「焼き入れ処理されていない鋼板製で円輪状の本体8をプレス成形する事により、本体8の片面全周に断面が円弧状に凹んだ軌道面5を形成すると同時に、本体8の他面全周に凸部12を形成してレース素材13とし、
軌道面6と凸部12とをプレス成形する際に、本体8の一部で、軌道面6と凸部12とに挟まれる部分の厚さ寸法を圧縮する事で、凸部12の高さ寸法Hを軌道面6の深さ寸法Dよりも小さく(H<D)すると共に、凸部12の幅寸法wを軌道面5の幅寸法Wよりも小さく(w<W)している合成樹脂製ケース付のスラスト玉軸受。」
実願昭58-170462号(実開昭60-77809号)のマイクロフィルム(以下、「周知例B3」という。)には、輪体に関して、
(そ)「第1図、第2図において、…従来と同様である。外輪1はステンレスなどの金属材からなり、厚み1mm前後の円形リング体の成形物を型内に入れて圧力をかけて絞り、内周面(図面では内周面中央)に凹溝1aを形成し、外周面(図面では外周面中央)に突条1bを形成している。当該形状の外輪はモールド成型にて形成することもできる。…
第3図は他の実施例を示し、第1図、第2図の輪体を戸車の車輪の主部材とし、外輪1の外周に摺動リング5を固着して複合外輪としている。摺動リング5はプラスチツク製、セラツミツク製などであり、外輪1にモールド成形にて固着されている。この場合外輪の突条1bを形成しているので摺動リング5と外輪1との固着は極めて衝撃に対して強固となつている。」(明細書第1頁第16行?第2頁第19行参照)と記載されており、これらの記載事項等、及び図面からみて、周知例B3には次の発明が記載されていると認められる。
「戸車の車輪の主部材である輪体の外輪1の外周にプラスチツク製の摺動リング5をモールド成形にて固着した複合外輪において、
ステンレスなどの金属材からなる外輪1の内周面に凹溝1aを形成し、外周面に突条1bを形成した複合外輪。」
このように、一般に、軸受の金属製外輪ないし金属製外輪構成要素が合成樹脂製部材に一体化されている構造において、外輪ないし外輪構成要素の外径寸法のうち転動体にほぼ相応する部位の外径寸法を実質的にその他の部位の外径寸法より大きくしたものは、周知であると認められる(以下、「周知事項B」という。)。引用例1発明に上記周知事項Bを採用することは容易に想到し得たものと認められる。その際、外径寸法を実質的にその他の部位の外径寸法より大きくする範囲をどの程度とするかは適宜設計する事項にすぎない。また、(a)外径寸法が異なる部位の相互接続部の形状は負荷応力の集中や分布の程度等に応じて適宜設計する事項であると認められること、(b)階段状の段差が設けられているものは周知例B1(第1図)に示されていること、(c)周知例B2において、軌道面6の深さ寸法Dをどの程度にするか、また、軌道面6と凸部12とに挟まれる部分の厚さ寸法をどの程度圧縮するか(第1図に示されている圧縮による水平部の範囲をどの程度にするか)は適宜設計する事項にすぎないこと、(d)周知例B3において、実用新案登録請求の範囲には「前記凹溝と内輪との周面間に球体を形成してなる」と記載されているものの、「当該外輪はモールド成型にて形成することもできる。」と記載されており、外周面の突条の形状は適宜設計し得ること、(e)本願の図8においても、接続部の形状は軸方向と垂直ではなく相当に傾斜していることが看取されること、等を合わせ考えると、引用例1発明に上記周知事項Bを採用するにあたって、外径寸法が異なる部位の接続部の形状を「段差が設けられている」ようにすることは当業者が容易に想到し得たものと認められる。このようにしたものが、実質的に、「前記外輪(3a)の外径寸法のうち前記転動体(3b)に対応する部位の外径寸法(D1)をその他の部位の外径寸法(D2)より大きくして段差が設けられている」という事項を具備することは明らかである。
そして、本願補正発明1の作用効果は、引用例Aに記載された発明、周知事項A、及び、周知事項Bに基づいて当業者が予測し得た程度のものである。

なお、審判請求の理由において「本発明は、外輪の外径寸法のうち、外輪と内輪との間で回転する転動体に対応する部位の外径寸法をその他の部位の外径寸法より大きくして段差を設けるという特有の構成を備えることにより、外輪の機械的強度を増大させてインサート成形時に外輪の軌道面が変形してしまうことを防止できるとともに、外輪に設けられた段差によって外輪が軸方向にずれてしまうことを防止することができるという独自の効果を奏するものである。」と主張している。しかし、まず、一般に、軸受の金属製外輪ないし金属製外輪構成要素が合成樹脂製部材に一体化されている構造において、外輪ないし外輪構成要素の外径寸法のうち転動体にほぼ相応する部位の外径寸法を実質的にその他の部位の外径寸法より大きくしたものは周知であると認められること、及び、引用例1発明にこの周知事項Bを採用することは容易に想到し得たものと認められることは上記のとおりである。また、上記に摘記したとおり、周知例B1には「これらのリブ12,13の肉厚は金属環1aの他の部分の肉厚より厚くなつて、熱処理時における金属環1aの歪みに伴なう真円度の低下を防ぐ役目を負つている。また、リブ12は円筒ころ軸受の最大負荷圏にあり、大きな荷重をこの部分で受けるため軸受の負荷容量を向上させている。」と、また周知例B3には「この場合外輪の突条1bを形成しているので摺動リング5と外輪1との固着は極めて衝撃に対して強固となつている。」と記載されており、これらの記載からみて、「外輪に設けられた段差によって外輪が軸方向にずれてしまうことを防止する」という効果は当業者が予測し得た程度のものであることは上記のとおりである。

したがって、本願補正発明1は、引用例1に記載された発明、周知事項A、及び、周知事項Bに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
本願補正発明1について以上のとおりであるから、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項で準用する特許法第126条第4項の規定に違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成19年2月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成18年7月31日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 樹脂製の回転部材(2)と、
前記回転部材(2)の回転中心部に装着された軸受(3)とを備え、
前記軸受(3)は、インサート成形法にて前記回転部材(2)に一体化された外輪(3a)、及び前記外輪(3a)の内周側に転がり接触する転動体(3b)を有して構成されており、
前記外輪(3a)の外周面のうち前記回転部材(2)との接合面には、凹凸部(3h)が形成されており、
前記凹凸部(3h)は、前記転動体(3b)と前記外輪(3a)とが接触する領域から軸方向にずれた位置に設けられていることを特徴とする回転体。
【請求項2】 前記外輪(3a)の軸方向寸法(Lo)は、前記外輪(3a)より内側に位置して前記転動体(3b)と転がり接触する内輪(3c)の軸方向寸法(Li)より大きいことを特徴とする請求項1に記載の回転体。
【請求項3】 前記凹凸部(3h)は、前記外輪(3a)の外周面に螺旋状の溝部を形成することにより構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転体。
【請求項4】 前記外輪(3a)の肉厚寸法(To)は、前記内輪(3c)の肉厚寸法(Ti)より大きいことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の回転体。
【請求項5】 前記回転部材(2)には、軸方向両側から前記外輪(3a)を挟み込むようにして前記外輪(3a)の軸方向両端側に接触する突起部(2c)が形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の回転体。
【請求項6】 前記回転部材(2)は、少なくとも前記外輪(3a)の外周面(3k)と前記外輪(3a)の軸方向の端面(3j)と繋ぐ丸取り面又は面取り面(3m)、及び前記外周面(3k)に接触していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の回転体。
【請求項7】 前記外輪(3a)のうち大気に晒される部位には、放熱面積を増大させる放熱促進部(3q、3r、3s)が形成されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の回転体。
【請求項8】 請求項1ないし7のいずれか1つに記載の回転体の製造方法であって、
前記外輪(3a)をインサート成形法にて前記回転部材(2)に一体化した後、前記転動体(3b)を組み付けることを特徴とする回転体の製造方法。」

3-1.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1、その記載事項、及び周知事項は上記「2.平成19年2月8日付けの手続補正についての補正却下の決定」に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は実質的に、上記「2.平成19年2月8日付けの手続補正についての補正却下の決定」で検討した本願補正発明1においてその「前記外輪(3a)の外径寸法のうち前記転動体(3b)に対応する部位の外径寸法(D1)をその他の部位の外径寸法(D2)より大きくして段差が設けられている」という事項を削除したものである。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明1が、上記「2.平成19年2月8日付けの手続補正についての補正却下の決定」に記載したとおり、引用例1に記載された発明、周知事項A、及び周知事項Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の削除された事項が[相違点3]にかかる事項であることに留意すると、本願発明1も、同様の理由により、引用例1に記載された発明、及び周知事項Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例1に記載された発明、及び周知事項Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、請求項2?8に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-16 
結審通知日 2008-05-20 
審決日 2008-06-04 
出願番号 特願2002-5839(P2002-5839)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16H)
P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 広瀬 功次▲高▼辻 将人  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 溝渕 良一
戸田 耕太郎
発明の名称 回転体  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 伊藤 高順  

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