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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B29D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29D
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 B29D
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 B29D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B29D
管理番号 1181612
審判番号 不服2005-23069  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-30 
確定日 2008-07-16 
事件の表示 平成9年特許願第 2910号「架橋ポリエチレン管の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 7月28日出願公開、特開平10-193468〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成9年1月10日に特許出願されたものであって、平成14年2月26日に手続補正書が提出され、平成16年11月22日付けで拒絶理由が通知され、平成17年1月31日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月27日付けで拒絶査定がされたものであるところ、同年11月30日に審判が請求されるとともに、手続補正書が提出され、その後、当審において、平成20年1月22日付けで審尋がされ、同年3月18日に回答書が提出されたものである。

II.平成17年11月30日にした明細書についての補正に対する補正の却下の決定
[結論]
平成17年11月30日にした明細書についての補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
平成17年11月30日にした明細書についての補正(以下、「審判時補正」という。)は、明細書の特許請求の範囲の請求項1について、
「重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合された密度0.932?0.940g/cm^(3)、メルトインデックスが0.9?5.5g/10minのポリエチレン系樹脂を、ラジカル発生剤の存在下でシラン化合物をグラフトさせてシラン変性させる工程と、管状に成形する工程と、水雰囲気下に曝してゲル分率65%以上に架橋させる工程と、を包含することを特徴とする架橋ポリエチレン管の製造方法。」を、
「重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合された密度0.932?0.940g/cm^(3)、メルトインデックスが0.9?5.5g/10minのポリエチレン系樹脂を、ラジカル発生剤及びシラン化合物とともに混練装置において溶融混練し、ラジカル発生剤の存在下でシラン化合物をグラフトさせてシラン変性させ、成形を行うことにより、管状に成形する工程と、水雰囲気下に曝してゲル分率65%以上に架橋させる工程と、を包含することを特徴とする架橋ポリエチレン管の製造方法。」と補正するものである。

2.新規事項の追加の有無の検討
審判時補正により、請求項1に係る発明は、架橋ポリエチレン管の製造方法において、「重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合された密度0.932?0.940g/cm^(3)、メルトインデックスが0.9?5.5g/10minのポリエチレン系樹脂」(以下、「メタロセンPE樹脂」という。)について、「ラジカル発生剤及びシラン化合物とともに混練装置において溶融混練し、ラジカル発生剤の存在下でシラン化合物をグラフトさせてシラン変性させ、成形を行うことにより、管状に成形する工程」(以下、「混練成形工程」という。)と、「水雰囲気下に曝してゲル分率65%以上に架橋させる工程」(以下、「水架橋工程」という。)とを包含することを、発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)に備える発明(以下、「補正発明」という。)となった。
しかしながら、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「メタロセンPE樹脂」について、「混練成形工程」と「水架橋工程」を併せ備える架橋ポリエチレン管の製造方法が記載されていたとする理由は見当たらない。
すなわち、当初明細書等において、「溶融混練」を必須の要素とする「混練成形工程」に関する記載をみるに、
【0019】に、「さて、本発明の製造方法における架橋方法は、シラン架橋である。すなわち、上述のポリエチレン系樹脂に、シラン化合物、ラジカル発生剤、およびシラノール縮合触媒をそれぞれ配合したものを、混練装置にて溶融混練して成形する。」と記載され、
【0037】に、「<実施例1>
重合触媒としてメタロセン化合物を用いて得られたポリエチレン系樹脂(ダウ・ケミカル社製,商品名「HF1030」,密度;0.935g/cm^(3)、メルトインデックス;2.6g/10min)100重量部に、ビニルトリメトキシシラン3重量部、ジクミルパーオキサイド0.12重量部、ジブチル錫ジラウレート0.0135重量部を混合したのち押出機中で溶融混練して架橋を行い、さらに押出成形して架橋ポリエチレン管を得た。」と記載され、
【0040】に、「<比較例3>
重合触媒としてチーグラー触媒を用いて得られたポリエチレン系樹脂(ダウ・ケミカル社製,商品名「Dowlex2037」,密度;0.935g/cm^(3)、メルトインデックス;2.6g/10min)100重量部に、ビニルトリメトキシシラン1重量部、ジクミルパーオキサイド0.04重量部、ジブチル錫ジラウリレート0.0135重量部を混合したのち押出機中で溶融混練して架橋を行い、さらに押出成形して架橋ポリエチレン管を得た。」と記載され、
【0051】に、「また、本発明の実施において好ましい混練装置としては、例えば、単軸押出機、2軸押出機、バンバリミキサ、ニーダ、カレンダロール等が挙げられる。」と記載され、
その余には、「混練」の語もみられない。
【0019】及び【0037】には、メタロセンPE樹脂ともに溶融混練するべく配合される材料としては、「シラン化合物、ラジカル発生剤、およびシラノール縮合触媒」(【0019】)、又は、「ビニルトリメトキシシラン3重量部、ジクミルパーオキサイド0.12重量部、ジブチル錫ジラウレート0.0135重量部」が記載されていると認めることができる。また、【0040】及び【0051】の記載をみても、【0019】及び【0037】に記載された事項を超える知見はない。
してみると、当初明細書等には、例えば、ジブチル錫ジラウレートなどのシラノール縮合触媒を含まない、「シラン化合物及びラジカル発生剤」を、ポリエチレン系樹脂とともに溶融混練することについて記載があるとすることはできない。
したがって、架橋ポリエチレン管の製造方法について、「混練成形工程」と「水架橋工程」を併せ備えるものとする審判時補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

3.補正の目的の適否の検討
2.で述べたように、審判時補正による補正後の本願発明は、「混練成形工程」と「水架橋工程」を併せ備える架橋ポリエチレン管の製造方法に係るものである。
一方、審判時補正による補正前の請求項1に係る発明は、1.で摘示のように、「重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合された密度0.932?0.940g/cm^(3)、メルトインデックスが0.9?5.5g/10minのポリエチレン系樹脂を、ラジカル発生剤の存在下でシラン化合物をグラフトさせてシラン変性させる工程」、「管状に成形する工程」及び「水雰囲気下に曝してゲル分率65%以上に架橋させる工程」と、を包含することを特徴とする架橋ポリエチレン管の製造方法に係るものである。
すなわち、審判時補正は、架橋ポリエチレン管の製造方法に関して、「…シラン変性させる工程」、「管状に成形する工程」及び「…架橋させる工程」を併せ備えるという発明特定事項を、「混練成形工程」及び「水架橋工程」を併せ備えるという発明特定事項に変更するものである。
してみると、審判時補正は、架橋ポリエチレン管の製造方法という物の製造方法に関する発明について、3つの工程を2つの工程に変更するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとすることはできないし、ましてや、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもない。また、審判時補正が、請求項の削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものであるとも認められない。
したがって、審判時補正は、特許法第17条の2第4項第1ないし第4号に掲げる事項のいずれをも目的とするものではない。

4.いわゆる独立特許要件についての予備的検討
なお、審判時補正は、3.で述べたとおり、いわゆる請求項の限定的減縮ではないし、特許請求の範囲の減縮でさえないものであるが、仮に、いわゆる請求項の限定的減縮を目的とするものであると認められる場合には、特許法第17条の2第5項の規定により準用する第126条第5項の規定に基づき、補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明、すなわち、「補正発明」が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないこととなるので、予備的に検討する。
審判時補正により、請求項1に係る発明は、「混練成形工程」と、「水雰囲気下に曝してゲル分率65%以上に架橋させる工程」、すなわち、「水架橋工程」とを包含することを、発明特定事項に備えるものである。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、水架橋工程を有する架橋ポリエチレン管の製造方法の発明が記載されていたとする理由は見当たらない。
すなわち、発明の詳細な説明には、架橋ポリエチレン管の製造方法における「架橋」に関して、
【0007】に、「【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の架橋ポリエチレン管の製造方法は、重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合された密度0.932?0.940g/cm^(3)のポリエチレン系樹脂を、ラジカル発生剤の存在下でシラン化合物をグラフトさせてシラン変性させる工程と、管状に成形する工程と、水雰囲気下に曝してゲル分率65%以上に架橋させる工程と、を包含することを特徴としている。」と記載され、また、
【0019】に、「さて、本発明の製造方法における架橋方法は、シラン架橋である。すなわち、上述のポリエチレン系樹脂に、シラン化合物、ラジカル発生剤、およびシラノール縮合触媒をそれぞれ配合したものを、混練装置にて溶融混練して成形する。」と記載され、
【0037】に、「<実施例1>
重合触媒としてメタロセン化合物を用いて得られたポリエチレン系樹脂(ダウ・ケミカル社製,商品名「HF1030」,密度;0.935g/cm^(3)、メルトインデックス;2.6g/10min)100重量部に、ビニルトリメトキシシラン3重量部、ジクミルパーオキサイド0.12重量部、ジブチル錫ジラウレート0.0135重量部を混合したのち押出機中で溶融混練して架橋を行い、さらに押出成形して架橋ポリエチレン管を得た。」と記載されている。
このうち、【0007】は、単に、本願の出願当初の特許請求の範囲の記載をコピーしたものにすぎず、具体的な架橋の方法に関しては、【0019】において、「ポリエチレン系樹脂に、シラン化合物、ラジカル発生剤、およびシラノール縮合触媒をそれぞれ配合したものを、混練装置にて溶融混練して成形する」ことで「シラン架橋」が行われることが記載されており、【0037】における「<実施例1>」では、「押出機中で溶融混練して架橋を行い、さらに押出成形して架橋ポリエチレン管を得」ることが記載されているだけであって、「水雰囲気下に曝して」架橋を行うことについての記載はない。
なお、発明の詳細な説明には、【0003】及び【0004】に「【従来の技術】」に関わって、「そこで、このような問題を解決するために、特開平2-253076号が提案されている。この提案方法においては、ポリエチレン(密度;0.933?0.939g/cm^(3)、メルトインデックス;0.1?0.4g/10min)にシラン化合物をグラフトし、次いで架橋の進行を防止しながら成形を行い、その後シラノール縮合触媒等で架橋させることにより、柔軟性を維持しながら、高温時の強度…等を向上させている。」との記載がみられるが、この記載は、あくまでも「【従来の技術】」に関わるものにすぎないし、「水雰囲気下に曝して」架橋を行うことについて記載があるものではない。
してみれば、補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、審判時補正により補正された明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないこととなり、補正発明は、その特許出願の際、特許を受けることができるものではない。

5.まとめ
審判時補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反するものであり、また、予備的に検討したところによれば、同条第5項の規定に違反するものであるともいえるから、第159条第1項において読み替えて準用する第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

III.原査定の妥当性についての検討
1.本願発明
II.で述べたとおり、平成17年11月30日にした明細書についての補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年1月31日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されるとおりの以下の事項を発明特定事項に備えるものであると認める。なお、明細書の特許請求の範囲は、平成14年2月26日付け手続補正書により補正されていたものである。
「重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合された密度0.932?0.940g/cm^(3)、メルトインデックスが0.9?5.5g/10minのポリエチレン系樹脂を、ラジカル発生剤の存在下でシラン化合物をグラフトさせてシラン変性させる工程と、管状に成形する工程と、水雰囲気下に曝してゲル分率65%以上に架橋させる工程と、を包含することを特徴とする架橋ポリエチレン管の製造方法。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
平成16年11月22日付けの拒絶理由通知書及び平成17年10月27日付けの拒絶査定からみて、本願発明は、本出願の日前の特許出願であって本出願後に出願公開されたものである特願平8-20976号(特開平9-208637号)の願書に最初に添付した明細書または図面(以下、「先願明細書等」という。)に記載された発明(以下、「先願発明」という。)と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない、というにある。

3.先願明細書等の記載
ア: 「【請求項1】 エチレンと炭素原子数3?20のα-オレフィンとの共重合体からなる直鎖状ポリエチレンのシラン変性物であって、
190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.02?0.8g/10分の範囲であり、
密度(d)が0.920?0.940g/cm^(3)の範囲であり、
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との関係が、式(1)
Mw/Mn≦3.0 …(1)
を満たすことを特徴とする架橋パイプ用シラン変性直鎖状ポリエチレン。
【請求項2】 請求項1記載のシラン変性直鎖状ポリエチレンからなる成形体を架橋させてなる架橋パイプ。」(特許請求の範囲)
イ: 「シラン変性前の直鎖状ポリエチレンは、公知の触媒、例えば特開昭60-88016号公報等に記載のいわゆるチーグラー触媒または特開平6-65443号公報等に記載のいわゆるメタロセン触媒等を用いて、エチレンと炭素原子数3?20のα-オレフィンとを共重合させることにより製造することができる。代表的な重合方法としては、スラリー法、気相法、溶液法等があげられるが、シラン変性前の直鎖状ポリエチレンは製造の際に使用する重合触媒や重合方法等により制約されるものではない。また本発明の目的の範囲内であれば、直鎖状ポリエチレンとして2種以上の直鎖状ポリエチレンをブレンドしたものを用いることができる。さらに本発明の目的の範囲内であれば、直鎖状ポリエチレンと高圧法ポリエチレンとをブレンドしたものを用いることもできる。」(段落【0009】)
ウ: 「《シラン変性直鎖状ポリエチレン》
本発明の架橋パイプ用シラン変性直鎖状ポリエチレンは、上記直鎖状ポリエチレンのシラン変性物である。本発明の架橋パイプ用シラン変性直鎖状ポリエチレンは、変性前の直鎖状ポリエチレンに、ラジカル発生剤の存在下でシラン化合物を加熱グラフト、すなわちシラン変性させることによって製造することができる。」(段落【0010】)
エ: 「シラン変性に使用するラジカル発生剤としては、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3等の有機過酸化物があげられる。これらの中では2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3が好ましい。」(段落【0011】)
オ: 「シラン変性に使用するシラン化合物としては、末端ビニル基およびアルコキシ基等の加水分解可能な有機基を有するシラン化合物が好ましく、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等があげられる。これらの中ではビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好ましい。」(段落【0012】)
カ: 「シラン変性直鎖状ポリエチレンの具体的な製造方法としては、例えば次のような方法があげられる。すなわち変性前の直鎖状ポリエチレン100重量部に前記ラジカル発生剤0.001?5重量部、好ましくは0.01?2重量部および前記シラン化合物0.1?10重量部、好ましくは0.5?5重量部を加え、例えばヘンシェルミキサー等の適当な混合機により混合し、押出機、バンバリーミキサー等により140?250℃程度に加熱、混練して加熱グラフトさせることにより製造することができる。」(段落【0013】)
キ: 「本発明のシラン変性直鎖状ポリエチレンのメルトフローレート(MFR)は、ASTM D-1238に従い、190℃、2.16kg荷重の条件下で測定された値が0.02?0.8g/10分、好ましくは0.04?0.4g/10分の範囲にある。メルトフローレート(MFR)が0.02?0.8g/10分の範囲にあると、架橋パイプの押出成形が容易であり、また高温耐圧クリープ特性が優れている。」(段落【0014】)
ク: 「《架橋パイプ》
本発明の架橋パイプは、前記シラン変性直鎖状ポリエチレンの成形体を架橋してなるものである。成形体は、通常100重量部にシラノール縮合触媒0.001?5重量部、好ましくは0.01?2重量部を配合し、通常パイプ成形機を用いてパイプ状に成形される。
上記シラノール縮合触媒としては、シラノール基間の脱水縮合を促進する触媒として用いられている公知の化合物を使用することができる。代表的なシラノール縮合触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート等があげられる。また、シラノール縮合触媒および変性前の直鎖状ポリエチレンを用いてマスターバッチを別途作成し、これとシラン変性直鎖状ポリエチレンとをヘンシェルミキサー、Vブレンダー等の混合機によりドライブレンドした後、この混合物をパイプ成形に使用してもよい。」(段落【0017】及び【0018】)、
ケ: 「成形されたパイプは通常次のような方法により架橋される。すなわち、パイプを常温?130℃程度、好ましくは常温?100℃にて水中、水蒸気中または多湿雰囲気下で1分間?1週間程度、好ましくは10分間?1日間程度水分と接触させる。これにより、シラノール触媒によりシラン架橋反応が進行し、架橋パイプが得られる。本発明はパイプの架橋方法、例えば水分との接触方法等により制約を受けるものではない。」(段落【0019】)
コ: 「【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
チーグラー触媒にて重合された、MFR=1.7g/10min、密度=0.937g/cm^(3)、Mw/Mn=2.6の直鎖状ポリエチレン(1-ブテン=1.1モル%)100重量部に、ビニルトリメトキシシラン2重量部および2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン0.03重量部を配合し、口径65mm、L/D=28、圧縮比3.0の押出機を用いて、設定温度230℃、スクリュー回転数80rpmの条件で加熱グラフトを行い、シラン変性直鎖状ポリエチレンを得た。このシラン変性直鎖状ポリエチレンのMFR、密度、Mw/Mnは表1に記載の通りであった。なお重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)はウォーターズ社GPCモデルALC-GPC-150Cにより測定した。測定条件は、カラムとして東洋曹達(株)製PSK-GMH-HTを用い、オルソジクロルベンゼン(ODCB)溶媒、140℃である。
上記シラン変性直鎖状ポリエチレンと、シラン変性前の直鎖状ポリエチレン100重量部にジオクチル錫ジラウレート1.5重量部を含有させたマスターバッチとを25:1の重量比でブレンドし、口径65mm、L/D=25、圧縮比2.5の押出機により設定温度170℃でJIS K6769に規定されるPN15、1種、呼び径13のパイプを成形した。このパイプを80℃の温水中に24時間浸漬して架橋させ、架橋パイプを得た。」(段落【0023】及び【0024】)
サ: 「実施例5
実施例1で用いた直鎖状ポリエチレンの代わりに、メタロセン触媒にて重合された、MFR=3.0g/10min、密度=0.936g/cm^(3)、Mw/Mn=2.2の直鎖状ポリエチレン(1-ヘキセン=0.8モル%)を使用して、実施例1と同様にしてシラン変性直鎖状ポリエチレンおよび架橋パイプを得、表1記載の結果を得た。」(段落【0030】)
シ:


すなわち、「実施例5」について、「シラン変性直鎖状PE」の「MFR(g/10分)」が「0.28」で、「密度(g/cm^(3))」が「0.936」で、「Mw/Mn」が「2.3」であること、及び、「パイプ」の「ゲル分率(%)」が「81」であること(段落【0031】、表1)

4.先願発明及び本願発明との対比
4-1.先願発明
摘示アの「シラン変性直鎖状ポリエチレンからなる成形体を架橋させてなる架橋パイプ」、摘示イの「シラン変性前の直鎖状ポリエチレンは、公知の触媒、例えば…特開平6-65443号公報等に記載のいわゆるメタロセン触媒等を用いて、エチレンと炭素原子数3?20のα-オレフィンとを共重合させることにより製造することができる。」、摘示コの「実施例1
チーグラー触媒にて重合された…直鎖状ポリエチレン(1-ブテン=1.1モル%)100重量部に、ビニルトリメトキシシラン2重量部および2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン0.03重量部を配合し、口径65mm、L/D=28、圧縮比3.0の押出機を用いて、設定温度230℃、スクリュー回転数80rpmの条件で加熱グラフトを行い、シラン変性直鎖状ポリエチレンを得た。このシラン変性直鎖状ポリエチレンのMFR、密度、Mw/Mnは表1に記載の通りであった。なお重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)はウォーターズ社GPCモデルALC-GPC-150Cにより測定した。測定条件は、カラムとして東洋曹達(株)製PSK-GMH-HTを用い、オルソジクロルベンゼン(ODCB)溶媒、140℃である。
上記シラン変性直鎖状ポリエチレンと、シラン変性前の直鎖状ポリエチレン100重量部にジオクチル錫ジラウレート1.5重量部を含有させたマスターバッチとを25:1の重量比でブレンドし、口径65mm、L/D=25、圧縮比2.5の押出機により設定温度170℃でJIS K6769に規定されるPN15、1種、呼び径13のパイプを成形した。このパイプを80℃の温水中に24時間浸漬して架橋させ、架橋パイプを得た。」、摘示サの「実施例5
実施例1で用いた直鎖状ポリエチレンの代わりに、メタロセン触媒にて重合された、MFR=3.0g/10min、密度=0.936g/cm^(3)、Mw/Mn=2.2の直鎖状ポリエチレン(1-ヘキセン=0.8モル%)を使用して、実施例1と同様にしてシラン変性直鎖状ポリエチレンおよび架橋パイプを得、表1記載の結果を得た。」、及び、摘示シの「シラン変性直鎖状PE」のMFR、密度及びMw/Mnの値と、「架橋パイプ」の「ゲル分率(%)」の値からみて、
先願明細書には、
「メタロセン触媒にて重合された、MFR=3.0g/10min、密度=0.936g/cm^(3)、Mw/Mn=2.2の直鎖状ポリエチレン(1-ヘキセン=0.8モル%)100重量部に、ビニルトリメトキシシラン2重量部および2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン0.03重量部を配合し、口径65mm、L/D=28、圧縮比3.0の押出機を用いて、設定温度230℃、スクリュー回転数80rpmの条件で加熱グラフトを行い、
MFR(g/10分)は0.28、密度(g/cm^(3))は0.936、Mw/Mnは2.3 であるシラン変性直鎖状ポリエチレンを得て、
上記シラン変性直鎖状ポリエチレンと、シラン変性前の直鎖状ポリエチレン100重量部にジオクチル錫ジラウレート1.5重量部を含有させたマスターバッチとを25:1の重量比でブレンドし、口径65mm、L/D=25、圧縮比2.5の押出機により設定温度170℃でJIS K6769に規定されるPN15、1種、呼び径13のパイプを成形し、
このパイプを80℃の温水中に24時間浸漬して架橋させ、ゲル分率が81%である架橋パイプを製造する架橋ポリエチレンパイプの製造方法」の発明(以下、「先願発明」という。)、が記載されていると認められる。

4-2.本願発明と先願発明との対比
本願発明(以下、「前者」という。)と先願発明(以下、「後者」という。)を対比すると、
後者における「ビニルトリメトキシシラン」及び「2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン」は、摘示エ、オから、それぞれ、前者における「シラン化合物」及び「ラジカル発生剤」に相当するものと認められ、
後者における、シラノール縮合触媒であるジオクチル錫ジラウレート(摘示ク)を用いて、「80℃の温水中に24時間浸漬して架橋」することは、前者における「水雰囲気下に曝して架橋」することに相当するものと認められ、
更に、後者における「メルトフローレート」は、「ASTM D-1238に従い、190℃、2.16kg荷重の条件下で測定された値」(摘示キ)であって標準的な特性であると認められるものである一方、前者における「メルトインデックス」は測定の条件が記載されていないところから、標準的な測定方法による値であると推認できるので、
結局、両者は、
「重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合された密度0.936g/cm^(3)、メルトインデックスが3.0g/10minのポリエチレン系樹脂を、ラジカル発生剤の存在下でシラン化合物をグラフトさせてシラン変性させる工程(以下、「シラン変性工程」という。)と、
管状に成形する工程(以下、「管状成形工程」という。)と、
水雰囲気下に曝してゲル分率81%に架橋させる工程(以下、「水架橋工程」という。)、
を含む架橋ポリエチレン管の製造方法」である点で一致する。

なお、後者は、「シラン変性工程」と「管状成形工程」との間に、「シラン変性直鎖状ポリエチレンと、シラン変性前の直鎖状ポリエチレン100重量部にジオクチル錫ジラウレート1.5重量部を含有させたマスターバッチとを25:1の重量比でブレンド」する工程(以下、「ブレンド工程」という。)を更に含む、架橋ポリエチレン管の製造方法であるということができるので、更に検討する。
すなわち、前者は、シラン変性工程、管状成形工程及び水架橋工程の3つの工程を“含む”架橋ポリエチレン管の製造方法であるのに対して、後者は、シラン変性工程、ブレンド工程、管状成形工程及び水架橋工程の4つの工程を順次行う架橋ポリエチレン管の製造方法であるから、後者は、前者に包含され、前者の下位概念に相当する発明である。また、前者が、該下位概念に当たる後者を排除していると認めるべき理由は存在しない。
してみれば、前者は、後者と同一であると認められるから、先の両者の一致点の認定に誤りはない。

よって、本願発明は、先願発明と同一である。

5.まとめ
そして、先願発明をした者が本願発明の発明者と同一の者でなく、また、本出願の時に本願の出願人と先願発明に係る出願人とが同一の者でもない。
したがって、特許法第29条の2の規定により、本願発明については、特許を受けることができない。

IV.むすび
以上のとおりであるから、本願は拒絶を免れないものであるので、原査定は妥当である。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-15 
結審通知日 2008-05-19 
審決日 2008-05-30 
出願番号 特願平9-2910
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B29D)
P 1 8・ 561- Z (B29D)
P 1 8・ 571- Z (B29D)
P 1 8・ 537- Z (B29D)
P 1 8・ 161- Z (B29D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉江 渉  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 野村 康秀
前田 孝泰
発明の名称 架橋ポリエチレン管の製造方法  
代理人 西島 孝喜  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 大塚 文昭  

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