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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63H
管理番号 1181753
審判番号 不服2007-26076  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-25 
確定日 2008-07-23 
事件の表示 特願2002-53651「水変色性玩具セット」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月24日出願公開、特開2002-369978〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯及び本願発明
本願は、平成13年(2001年)4月13日に出願された特願2001-115343号の特許出願の国内優先権の主張を伴う、平成14年(2002年)2月28日に出願された特願2002-53651号の特許出願であって、原審における平成18年12月19日付の拒絶理由通知に対し、平成19年3月5日付の意見書とともに同日付の手続補正書が提出されたところ、平成19年8月13日付で拒絶査定がなされ、これに対し、拒絶査定不服審判の請求が平成19年9月25日にされたものである。
したがって、当審の審理の対象とすべき本願発明は、平成19年3月5日付の手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、特にその請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。(以下、これを「本願発明1」という。)
「【請求項1】 布帛表面に、低屈折率顔料をバインダー樹脂と共に分散状態に固着させた複数の多孔質図柄又は模様を密集配置してなり、多孔質図柄又は模様を形成した部分と、前記多孔質図柄又は模様を形成していない部分の面積比率が、1cm^(2)あたり30:70?95:5である人形用衣装又はぬいぐるみ形態の水変色性玩具と、先端部に筆穂或いは繊維体を有する塗布具又は刷毛とからなる水変色性玩具セット。」

2 引用刊行物及びその記載事項
(1)原審における拒絶査定の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2000-135386号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、「水変色性標的」に関し、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 支持体上に、湿式法で製造される微粒子状珪酸とバインダー樹脂を少なくとも含む多孔質層を設けてなり、水の付着手段を介して前記多孔質層に水を含浸させ、常態とは異なる様相に可逆的に変化可能に構成した水変色性標的。
【請求項2】 前記バインダー樹脂がウレタン系樹脂である請求項1記載の水変色性標的。
【請求項3】 前記支持体が布帛である請求項1又は2記載の水変色性標的。
【請求項4】 着衣又は帽子の形態である請求項1乃至3記載のいずれかの水変色性標的。
【請求項5】 水の付着手段は、水鉄砲による水の噴射又は水を含浸させた含浸体の投擲である請求項1乃至4記載のいずれかの水変色性標的。」
「【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は水変色性標的に関する。更に詳細には、乾燥した状態と、水の付着手段を介して水を含浸した状態では異なる様相を示す水変色性標的に関する。」
「【0005】 低屈折率顔料を含有する多孔質層は、常態、即ち、乾燥状態では隠蔽性を有して白色を呈し、水鉄砲等の適用により水等の液体を吸液した状態では透明又は半透明化して下層の色調を顕出させる。
前記低屈折率顔料としては、微粒子状珪酸、バライト粉、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、沈降性炭酸カルシウム、石膏、クレー、タルク、アルミナホワイト、塩基性炭酸マグネシウム等、屈折率が1.4?1.7の範囲にあるものが一般的に用いられるが、本発明は、常態での隠蔽性と吸液状態での透明性を共に満足させるために鋭意検討した結果、この特性を満足するために低屈折率顔料として、微粒子状珪酸のなかでも湿式法により製造される微粒子状珪酸(以下、湿式法微粒子状珪酸と称する)を用いることによって解消されることを見出した。」
「【0008】 前記微粒子状珪酸はバインダー樹脂を結合剤として含むビヒクル中に分散され、支持体に塗布した後、揮発分を乾燥させて多孔質層を形成する。
前記バインダー樹脂としては、ウレタン系樹脂、ナイロン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル共重合樹脂、アクリルポリオール樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、マレイン酸樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、スチレン共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、スチレン-ブタジエン共重合樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン共重合樹脂、メタクリル酸メチル-ブタジエン共重合樹脂、ブタジエン樹脂、クロロプレン樹脂、メラミン樹脂、及び前記各樹脂エマルジョン、カゼイン、澱粉、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、尿素樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。」
「【0013】 前記標的を形成するための支持体としては、織物、編物、組物、不織布等の布帛以外に、紙、合成紙、合成皮革、レザー、プラスチック、ガラス、陶磁器、木材、石材等が挙げられ、すべて有効である。
支持体として好ましくは、耐水性に優れた布帛、合成皮革、プラスチックであるが、布帛を支持体とする場合、前記多孔質層の皮膜形成性の点から布帛表面が平滑性に優れる織物が好適に用いられる。
前記支持体として布帛を用いると、プラスチックフィルム等の非多孔質支持体に較べ、過飽和の水が付着したとしても布帛が吸収して水が垂れることを軽減又は防止でき、水の付着箇所が明確に視認できる標的を得ることができる。
前記多孔質層を設けた布帛は、それ自体を標的として用いてもよいし、適宜形状に裁断した後、縫製して衣類や帽子を作製して標的とする他、各種物品に貼着したり、縫製することもできる。
なお、布帛表面の平滑性が悪い場合や、インキ等の布帛内部への浸透性が大きく、前記多孔質層の皮膜形成性が悪い場合には、布帛にはっ水加工等の処理を施すことにより、前記多孔質層の皮膜形成性を向上させることもできる。
【0014】 前記多孔質層を形成する方法としては、従来より公知の塗布方法、例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビヤ印刷、コーター、タンポ印刷、転写等の印刷手段、刷毛塗り、スプレー塗装、静電塗装、電着塗装、流し塗り、ローラー塗り、浸漬塗装、等の手段が挙げられる。」
「【0017】 前記した構造において、多孔質層は必要により文字、記号、図形等の図柄層であってもよい。又、可逆熱変色層や非変色層を介在させたり、上層に設けてもよく、同様に文字、記号、図形等の図柄層であってもよい。」
「【0018】【発明の実施の形態】 本発明の水変色性標的は平面状に限らず、線状、凹凸状、立体状等、様々な形態が有効である。
前記水変色性標的の具体的な実施形態としては、例えば、ぬいぐるみ、人形、人形用衣装、乗物玩具、ドレス、水着、レインコート等の着衣や帽子、ヘルメット、靴下、靴、各種水遊び遊戯に用いられる娯楽用具類、造花等に多孔質層を設けて標的を形成できる。
前記標的に水を吹き付き着ける手段としては、水を噴射する水鉄砲が好適に用いられるが、水道栓に連接したホースやシャワーによって水を吹きつけたり、水を加圧する装置に連接したホースやシャワーによって水を吹きつけたり、霧吹き等の噴霧装置により霧状の水を吹きつけたり、水を含浸させたスポンジ等の含浸体、水を含む軟質のゲル状物、又は、氷片や雪玉を投擲したり、水を内包した衝撃により破壊されるカプセルを投擲或いはモデルガンに装填して発射したり、手で水をかける等の手段であってもよい。」
「【0019】【実施例】 以下に実施例を示す。尚、実施例中の部は重量部を示す。
実施例1(図1参照)
支持体2としてピンク色のナイロンタフタ生地上の全面に、湿式法微粉末シリカ〔商品名:ニップシールE-200、日本シリカ工業(株)製〕15部、ウレタンエマルジョン〔商品名:ハイドランHW-930、大日本インキ化学工業(株)製、固形分50%〕30部、水50部、シリコーン系消泡剤0.5部、水系インキ用増粘剤3部、エチレングリコール1部、ブロックイソシアネート系架橋剤3部を均一に混合、攪拌してなる白色スクリーン印刷用インキを用いて、80メッシュのスクリーン版にてベタ印刷し、130℃で5分間乾燥硬化させて多孔質層3を形成して水変色性標的1を得た。
【0020】 前記水変色性標的1は、乾燥状態では多孔質層3による白色が視覚され、支持体2のピンク色は視覚されない。
前記水変色性標的1に水鉄砲を用いて水を付着させると、付着した部分の多孔質層3が透明化して、下層の支持体2による鮮やかなピンク色が視覚される。
また、布帛が水を吸収するため、標的に付着した水の垂れが抑制され、標的としての実用性に優れたものであった。
前記様相は、水が付着した状態ではピンク色を呈しているが、乾燥して布帛から水が蒸発すると白色になり、この現象は何度も繰り返し行なうことができた。」
「【0029】
実施例6
支持体として白色スパンデックス生地上の全面に、蛍光ピンク色顔料〔商品名:エポカラーFP-1000N、日本触媒(株)製〕15部、アクリル酸エステルエマルジョン〔商品名:モビニール763、ヘキスト合成(株)製、固形分48%〕50部、水性インキ増粘剤3部、レベリング剤0.5部、消泡剤0.3部、エポキシ系架橋剤5部を均一に混合攪拌してなる蛍光ピンク色インキを用いて、120メッシュのスクリーン版にてベタ印刷し、100℃で3分間乾燥硬化させて非変色層を形成した。
ついで、前記非変色層4上に、湿式法微粉末シリカ〔商品名:ニップシールE-1011、日本シリカ工業(株)製〕15部、ウレタンエマルジョン〔商品名:ハイドランHW-920、大日本インキ化学工業(株)製、固形分50%〕45部、黄色顔料〔商品名:サンダイスーパーイエロー10GS、山陽色素(株)製〕1部、水40部、シリコーン系消泡剤0.5部、水系インキ用増粘剤3部、エチレングリコール1部、ブロックイソシアネート系架橋剤3部を均一に混合攪拌してなる黄色スクリーン印刷用インキ、及び、湿式法微粉末シリカ〔商品名:ニップシールE-1011、日本シリカ工業(株)製〕15部、ウレタンエマルジョン〔商品名:ハイドランHW-920、大日本インキ化学工業(株)製、固形分50%〕45部、青色顔料〔商品名:サンダイスーパーブルーGLL、山陽色素(株)製〕0.5部、水40部、シリコーン系消泡剤0.5部、水系インキ用増粘剤3部、エチレングリコール1部、ブロックイソシアネート系架橋剤3部を均一に混合攪拌してなる青色スクリーン印刷用インキをそれぞれ用いて、109メッシュのスクリーン版にて水玉模様を印刷し、130℃で5分間乾燥硬化させて多孔質層を形成して水変色性布帛を得た。
前記水変色性布帛を裁断した後、子供用水着を縫製して水変色性標的を得た。
【0030】 前記水変色性標的は、水が付着していない乾燥状態では、非変色層によるピンク地上に、多孔質層による黄色と青色の水玉模様が印刷された状態が視覚され、前記水玉模様は下層のピンク色に影響されることなく、鮮明な黄色と青色を呈する。
前記水変色性標的に水を付着させると、黄色不透明の多孔質層は黄色透明化して下層のピンク色と混色となったオレンジ色の水玉模様に変化し、青色不透明の多孔質層は青色透明化して下層のピンク色と混色となった紫色の水玉模様に変化した。
前記様相は、水が付着した状態ではその状態を呈していたが、乾燥して布帛から水が蒸発すると黄色と青色の水玉模様になり、何度も繰り返し行なうことができた。
又、プールサイド等で着用して互いに水を掛け合って遊戯すると、水の付着により色が変わるため、カラフル且つ遊戯性の高い水変色性標的を得ることができる。」

そうしてみると、引用刊行物1の上記摘記事項及び図面の図示からみて、前記引用刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)の記載が認められる。
「水の付着手段により多孔質層に水を含浸させて、常態とは異なる様相に可逆的に変化可能に構成した水変色性標的に用いられる多孔質層を設けた水変色性布帛からなり、各種水遊び遊戯に用いられる標的としての娯楽用具であって、
前記水変色性布帛は、織物、編物、組物、不織布等の布帛表面に、微粉末シリカ等の屈折率が1.4?1.7の範囲にある低屈折率顔料を、ウレタンエマルジョン等のバインダー樹脂を結合剤として含むビヒクル中に分散され、布帛に塗布した後、揮発分を乾燥させて、水玉模様等の文字、記号、図形等の多孔質の図柄層を印刷して形成され、
前記多孔質の図柄層を印刷した水変色性布帛を適宜形状に裁断した後に縫製して得られるぬいぐるみ、人形、人形用衣装、ドレス、水着、レインコート等の各種水遊び遊戯に用いられる標的としての娯楽用具」

(2)本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2001-51585号公報(以下、「周知技術文献1」という。)には、「変色性塗り絵及びそれを用いた変色性塗り絵セット」に関し、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は変色性塗り絵及びそれを用いた変色性塗り絵セットに関する。更に詳細には水の適用により変色する塗り絵、及び、水を塗布する変色具と前記変色性塗り絵とからなる変色性塗り絵セットに関する。」
「【0004】【課題を解決するための手段】 本発明は、繰り返し使用でき、彩色に用いる筆記具による汚染がなく、利便性に優れた変色性塗り絵及びそれを用いた変色性塗り絵セットを提供するものであって、即ち、支持体上に非変色性像を設け、前記非変色性像上の少なくとも一部に低屈折率顔料をバインダー樹脂と共に分散状態に固着させた多孔質層を設けた、多孔質層が吸水状態で透明又は半透明化して非変色性像を視覚できる変色性塗り絵、或いは、支持体上に低屈折率顔料をバインダー樹脂と共に分散状態に固着させた多孔質層を設け、前記多孔質層上に非変色性輪郭像を設けた、多孔質層が吸水状態で透明又は半透明化して下層の色調を視覚できる変色性塗り絵、或いは、支持体上に非変色性像及び低屈折率顔料をバインダー樹脂と共に分散状態に固着させた多孔質像を並設した、多孔質層が吸水状態で透明又は半透明化して下層の色調を視覚できる変色性塗り絵を要件とする。更には、水を塗布する変色具と、前記変色性塗り絵とからなる変色性塗り絵セットを要件とする。
【0005】 本発明は、多孔質層上に水を付着させ、当該箇所の多孔質層に水を浸透させて透明又は半透明化して異なる色調の像を視覚させる塗り絵であり、多孔質層に浸透した水が蒸発すれば元の状態に復する。
前記塗り絵を変色させる媒体は、水が簡易性、安全性、コスト面から好適に用いられるが、乾燥速度を調整して印像の可視時間を延長化させるためにプロピレングリコール等、微量の水溶性有機溶剤を配合することもできる。
【0006】 本発明の変色性塗り絵は、支持体上に非変色性像を設け、前記非変色性像上の少なくとも一部に多孔質層を設けた構成、支持体上に多孔質層を設け、前記多孔質層上に非変色性輪郭像を設けた構成、或いは、支持体上に非変色性像及び低屈折率顔料をバインダー樹脂と共に分散状態に固着させた多孔質像を並設した構成であって、前記多孔質層が水を吸収して透明又は半透明化して下層を視認でき、水を吸収した部分の多孔質層が乾燥すると再び元の状態に戻るため、繰り返しの実用が可能な塗り絵である。
前記支持体の材質は、耐水性を有するものであれば特に限定されないが、合成紙、布帛、フィルム、プラスチック、ゴム、合成皮革、レザー、ガラス、陶磁器、木材、石材等が挙げられる。
又、耐水性に乏しい材質、例えば、上質紙、アート紙、コート紙等であっても、フィルムによるラミネート、樹脂を塗工又は含浸する等の方法により、支持体として用いることができる。
前記支持体形態としては平面状のものが好ましいが、凹凸状の形態であってもよい。」
「【0025】 前記変色性塗り絵を変色させるためには多孔質層に水を吸水させる必要がある。
前記変色性塗り絵に水を付着させる方法としては、指を水で濡らして接触させて吸水状態とする方法、先端部に筆穂や繊維ペン体等を有する塗布具やスポンジを水で濡らして接触させて吸水状態とする方法、水を収容した容器を変色性塗り絵に近接又は接触させ、容器から水を導出して吸水状態とする方法が挙げられる。
尚、水を収容した容器を変色性塗り絵に近接又は接触させ、容器から水を導出して吸水状態とする方法としては、容器内に水を収容し、且つ、容器内の水を導出する繊維体や刷毛を設けて水を塗布する方法、容器内に水を収容し、且つ、噴霧装置を設けて、水をスプレーする方法、注射器のように容器内の水を押圧して、水を噴出させる方法等が挙げられる。更に、容器内に水とスポンジ等の吸液材料を収容してスタンプ台を模した形状とし、前記吸液材料に押しつけて吸水させる方法であってもよい。
特に、前記した先端部に筆穂や繊維ペン体等を有する塗布具、或いは、容器内に水を収容し、且つ、容器内の水を導出する繊維体や刷毛を設けて、水を塗布する塗布具が本発明の塗り絵に好適であり、前記塗り絵と組み合わせて変色性塗り絵セットを構成できる。
【0026】【発明の実施の形態】 本発明変色性塗り絵の具体的な実施形態としては、例えば、シート状の支持体上に適宜非変色性像を設け、該像上に多孔質層を設けた変色性塗り絵、シート状の支持体上に多孔質層を設け、前記多孔質層上に非変色性輪郭像を設けた変色性塗り絵、或いは、シート状の支持体上に非変色性像と多孔質像を並設した変色性塗り絵であり、多孔質層又は多孔質像に水を付着させて吸水状態とすることにより下層の色調を視認させて色を塗ったように視覚させる変色性塗り絵であり、多孔質層或いは多孔質像が乾燥すると再び元の状態に復する。前記水を付着させる手段としては先端部に筆穂や繊維ペン体等を有する塗布具、軸筒内に水を収容し、且つ、先端部の繊維ペン体から水を導出可能に構成した変色具が好適であり、前記塗り絵と組み合わせることにより変色性塗り絵セットを構成できる。
【0027】【実施例】 以下に実施例を示す。尚、実施例中の部は重量部を示す。
実施例1(図1、2参照)
支持体3として黄色合成紙上に、緑色顔料5部、アクリル酸エステルエマルジョン(固形分50%)50部、シリコーン系消泡剤0.2部、増粘剤3部、湿潤剤2部、レベリング剤1部、水10部、エポキシ系架橋剤2.5部を均一に混合、攪拌した緑色印刷用インキを用いてチューリップの茎と葉の像を印刷し、ピンク色顔料5部、アクリル酸エステルエマルジョン(固形分50%)50部、シリコーン系消泡剤0.2部、増粘剤3部、湿潤剤2部、レベリング剤1部、水10部、エポキシ系架橋剤2.5部を均一に混合、攪拌したピンク色印刷用インキを用いてチューリップの花の像を印刷して非変色性像4を形成した。
次いで、前記非変色性像4上の花の像を印刷した部分に、低屈折率顔料として湿式法により製造される微粒子状珪酸〔商品名:ニップシールE-200A、日本シリカ工業(株)製〕15部、バインダー樹脂として水性ウレタン樹脂〔商品名:ハイドランAP-10、ポリエステル系ウレタン樹脂、固形分30%、大日本インキ化学工業(株)製〕50部、水30部、シリコーン系消泡剤0.5部、水系インキ増粘剤3部、エチレングリコール1部、エポキシ系架橋剤2部を均一に混合、攪拌した白色印刷用インキを用いて印刷を施して多孔質層5を形成し、変色性塗り絵2を得た。
【0028】 軸筒内に水を収容し、且つ、容器内の水を導出して繊維ペン体から水を塗布する塗布具8と、前記変色性塗り絵2と組み合わせて変色性塗り絵セット1を構成した。
前記塗布具8のペン体を多孔質層5に接触させて塗布すると、前記多孔質層5が吸水して透明化し、下層の非変色性像4によるピンク色が視覚されるため、白色のチューリップをピンク色に塗った状態が視覚される。」

(3)本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平11-216272号公報(以下、「周知技術文献2」という。)には、「人形又は動物形象玩具セット」に関し、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は人形又は動物形象玩具セットに関する。更に詳細には、人形又は動物形象玩具と、前記人形又は動物形象玩具の手形、足形等を採取するシートからなる人形又は動物形象玩具セットに関する。」
「【0004】【課題を解決するための手段】 本発明は、人形又は動物形象玩具と、吸水状態となした前記玩具の任意部位の印像が一時的に形成される変色性シートからなり、前記シートは支持体上に低屈折率顔料をバインダー樹脂と共に分散状態に固着させた多孔質層を備え、前記多孔質層が吸水状態で透明又は半透明化して変色するシートである人形又は動物形象玩具セットを要件とする。更には、前記変色性シートは、多孔質層の下層に着色層を配設してなること、前記多孔質層は、低屈折率顔料として湿式法で製造される微粒子状珪酸を含んでなること、前記多孔質層は、バインダー樹脂としてウレタン系樹脂を含んでなること、前記人形又は動物形象玩具がぬいぐるみであること、前記人形又は動物形象玩具の吸水状態となす部位が、手、足、顔から選ばれる部位であり、且つ、変色性シートには手形、足形、顔形から選ばれる像が印像されること等を要件とする。」
「【0021】 前記変色性シートに人形又は動物形象玩具の任意部位を印像するためには、玩具に水を吸水させる必要がある。
尚、前記玩具に水が吸水した状態とは、玩具の内部まで水が浸透した状態、玩具の表層部分のみ水が浸透した状態、玩具表面のみ水が付着した状態のいずれであってもよい。
前記人形又は動物形象玩具を吸水状態にする方法としては、水を収容した容器を玩具の任意部位に近接又は接触させ、容器から水を導出して吸水状態とする方法、或いは、人形又は動物形象玩具の任意部位を容器内の水に浸漬させて吸水状態とする方法が挙げられる。
尚、水を収容した容器を玩具の任意部位に近接又は接触させ、容器から水を導出して吸水状態とする方法としては、容器内に水を収容し、且つ、容器内と外部とを連通する孔を設け、前記容器を振ることによって孔から導出される水を人形又は動物形象玩具の任意部位に振りかける方法、容器内に水を収容し、且つ、容器内の水を導出する繊維体や刷毛を設けて、水を玩具の任意部位に塗布する方法、容器内に水を収容し、且つ、噴霧装置を設けて、水を玩具の任意部位にスプレーする方法、注射器のように容器内の水を押圧して、水を玩具の任意部位に噴出させる方法等が挙げられる。又、人形又は動物形象玩具の任意部位を容器内の水に浸漬させる構成としては、容器内に水とスポンジ等の吸液材料を収容してスタンプ台を模した形状とし、玩具を吸液材料に押しつけて吸水させる方法が挙げられる。」

3 当審の判断
(1)対比
本願発明1と上記引用発明1とを対比する。
ア まず、引用発明1における「織物、編物、組物、不織布等の布帛」、「微粉末シリカ等の屈折率が1.4?1.7の範囲にある低屈折率顔料」、「ウレタンエマルジョン等のバインダー樹脂」及び「水玉模様等の文字、記号、図形等の多孔質の図柄層」のそれぞれが、本願発明1の「布帛」、「低屈折率顔料」、「バインダー樹脂」及び「複数の多孔質図柄又は模様」のそれぞれに相当することは、明らかである。

イ そして、引用発明1の「前記多孔質の図柄層を印刷した水変色性布帛を適宜形状に裁断した後に縫製して得られるぬいぐるみ、人形、人形用衣装、ドレス、水着、レインコート等の各種水遊び遊戯に用いられる標的としての娯楽用具」は、結局のところ、水変色性布帛を縫製して作製される各種水遊び遊戯に用いられる娯楽用具であって、いわゆる「玩具」の類に属するものといえることから、引用発明1の前記「前記多孔質の図柄層を印刷した水変色性布帛を適宜形状に裁断した後に縫製して得られるぬいぐるみ、人形、人形用衣装、ドレス、水着、レインコート等の各種水遊び遊戯に用いられる標的としての娯楽用具」は、本願発明1の「人形用衣装又はぬいぐるみ形態の水変色性玩具」に相当しているといえる。

ウ そして、引用発明1の「水玉模様等の文字、記号、図形等の多孔質の図柄層」における「水玉模様等の文字、記号、図形等」は、密集して配置される形態を有しているといえるから、引用発明1の前記「水玉模様等の文字、記号、図形等」は、本願発明1の「複数の多孔質図柄又は模様を密集配置し」の構成を備えているといえる。

エ そうすると、本願発明1と引用発明1の両者は、
「布帛表面に、低屈折率顔料をバインダー樹脂と共に分散状態に固着させた複数の多孔質図柄又は模様を密集配置してなる、人形用衣装又はぬいぐるみ形態の水変色性玩具」
である点で一致し、次の点で両者の構成が相違する。
相違点1:本願発明1が、「多孔質図柄又は模様を形成した部分と、前記多孔質図柄又は模様を形成していない部分の面積比率が、1cm^(2)あたり30:70?95:5である」のに対し、引用発明1は、前記「多孔質図柄又は模様を形成した部分と、前記多孔質図柄又は模様を形成していない部分の面積比率が、1cm^(2)あたり30:70?95:5である」との限定がない点。
相違点2:本願発明1が、「先端部に筆穂或いは繊維体を有する塗布具又は刷毛とからなる水変色性玩具セット」であるのに対し、引用発明1は、ぬいぐるみ、人形、人形用衣装、ドレス、水着、レインコート等の各種水遊び遊戯に用いられる標的としての娯楽用具にとどまり、水の付着手段としての「先端部に筆穂或いは繊維体を有する塗布具又は刷毛」が、前記娯楽用具にセットされていない点。

(2)相違点についての検討
ア 相違点1について
前記引用刊行物1に、実施例6として、「109メッシュのスクリーン版にて水玉模様を印刷し、130℃で5分間乾燥硬化させて多孔質層を形成して水変色性布帛を得た。」が記載されている。
しかして、引用発明1の文字、記号、図形等の多孔質の図柄の一つである前記「水玉模様」は、布帛の「地」に対して「円形状の水玉」が分散的に配置されている模様をいうのであり、そして、「地」に対する「円形状の水玉」の占める面積の割合は、「円形状の水玉」自体の面積の大きさの他に、「円形状の水玉」の疎密度にも依存していることから、すぐれて意匠上の感性に応じて適宜に設定されるべき設計事項であるといえる。
してみると、引用発明1の文字、記号、図形等の多孔質の図柄としての「水玉模様」を、相違点1に係る本願発明1の前記「多孔質図柄又は模様を形成した部分と、前記多孔質図柄又は模様を形成していない部分の面積比率が、1cm^(2)あたり30:70?95:5である」の限定を備えるようにすることは、意匠上の感性に応じて適宜設定し得る設計事項にすぎない。
さすれば、引用発明1の文字、記号、図形等の多孔質の図柄を、相違点1に係る本願発明1の前記「多孔質図柄又は模様を形成した部分と、前記多孔質図柄又は模様を形成していない部分の面積比率が、1cm^(2)あたり30:70?95:5である」ようにすることは、当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計事項である。

イ 相違点2について
上記周知技術文献1の段落【0025】に、「先端部に筆穂や繊維ペン体等を有する塗布具、或いは、容器内に水を収容し、且つ、容器内の水を導出する繊維体や刷毛を設けて、水を塗布する塗布具」が記載されている。
また、上記周知技術文献2の段落【0021】にも、「容器内に水を収容し、且つ、容器内の水を導出する繊維体や刷毛」が記載されている。
周知技術文献1に記載の「先端部に筆穂や繊維ペン体等を有する塗布具、或いは、容器内に水を収容し、且つ、容器内の水を導出する繊維体や刷毛を設けて、水を塗布する塗布具」及び周知技術文献2に記載の「容器内に水を収容し、且つ、容器内の水を導出する繊維体や刷毛」は、本願発明1の「先端部に筆穂或いは繊維体を有する塗布具又は刷毛」に相当するものである。
しかも、上記周知技術文献1の段落【0025】には、「特に、前記した先端部に筆穂や繊維ペン体等を有する塗布具、或いは、容器内に水を収容し、且つ、容器内の水を導出する繊維体や刷毛を設けて、水を塗布する塗布具が本発明の塗り絵に好適であり、前記塗り絵と組み合わせて変色性塗り絵セットを構成できる。」が記載され、また、段落【0026】にも「前記水を付着させる手段としては先端部に筆穂や繊維ペン体等を有する塗布具、軸筒内に水を収容し、且つ、先端部の繊維ペン体から水を導出可能に構成した変色具が好適であり、前記塗り絵と組み合わせることにより変色性塗り絵セットを構成できる。」が記載されている。
かかる周知技術文献1及び周知技術文献2の記載から、本願発明1の「先端部に筆穂或いは繊維体を有する塗布具又は刷毛」に相当する「先端部に筆穂や繊維ペン体等を有する塗布具、或いは、容器内に水を収容し、且つ、容器内の水を導出する繊維体や刷毛を設けて、水を塗布する塗布具」又は「容器内に水を収容し、且つ、容器内の水を導出する繊維体や刷毛」を、例えば塗り絵等の玩具と組み合わせることにより、玩具セットを構成するようなことは、本願の優先権主張日当時の周知技術であるといえる。
さすれば、引用発明1の娯楽用具に対して、前記周知技術を適用することにより、相違点2に係る本願発明1の前記「先端部に筆穂或いは繊維体を有する塗布具又は刷毛とからなる水変色性玩具セット」の構成とすることは、当業者が容易に想到できることである。

そして、本願発明1の奏する作用効果は、引用発明1及び周知技術から予測できる範囲内のものであって、格別のものということができない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、本願の優先権主張日前に当業者が上記引用発明1及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、請求項1に係る本願発明1は、本願の優先権主張日前に当業者が上記引用発明1及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであり、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-22 
結審通知日 2008-05-27 
審決日 2008-06-09 
出願番号 特願2002-53651(P2002-53651)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安久 司郎  
特許庁審判長 佐藤 昭喜
特許庁審判官 森林 克郎
武田 悟
発明の名称 水変色性玩具セット  

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