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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G08B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G08B
管理番号 1181854
審判番号 不服2006-28435  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-12-21 
確定日 2008-07-24 
事件の表示 特願2001-101030「安全点検管理システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月11日出願公開、特開2002-298272〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年3月30日の出願であって、平成18年11月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月21日に拒絶査定不服審判の請求がされると共に、平成19年1月17日に明細書についての補正がなされたものである。

2.平成19年1月17日付けの手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1ないし4のうち、請求項1については、
「複数の点検箇所を巡回路に従って順次点検を行う際に点検者により使用されるデータ入力可能な入力部を有する携帯型の点検端末と、通信機能及びデータ管理機能を有する点検管理装置とがデータ交信可能にされた安全点検管理システムであって、
前記点検端末は、点検開始時刻に点検を行う点検データの前記点検管理装置への送信要求に対して、該点検開始時刻に点検を行う、複数の点検箇所に対し予め設定された各点検項目を含む点検データを前記点検管理装置から受信する点検データ受信手段と、点検操作と連動して時刻データを前記入力部からの指示を受けて内蔵のタイマより取り込む点検時刻入力受付手段と、前記点検管理装置から受信した前記点検データに基づき前記各点検項目を前記入力部から入力することで点検結果データを作成する点検結果作成手段と、前記点検結果作成手段により作成された前記点検結果データを前記点検管理装置に送信する点検結果データ送信手段とを備え、
前記点検管理装置は、点検作業に対する制限時間を設定する制限時間設定手段と、前記点検端末から受信した前記点検結果データを前記制限時間と前記時刻データとに基づき編集して点検報告データとして作成する編集手段と、前記編集手段により作成された点検報告データを記憶する点検報告データ記憶手段と、点検結果データ受信手段(注:「前記点検結果データ受信手段」は誤記)により受信した前記点検結果データに含まれる時刻データに基づき各点検項目毎に前記制限時間内に点検作業が行われたか否かを判定する判定手段とを備え、前記編集手段は、前記判定手段により判定された前記制限時間内に点検作業が行われなかった点検項目に対し、点検項目毎に点検報告データにその旨の標記を含めることを特徴とする安全点検管理システム。」
と補正された。
なお、「点検結果データ受信手段」は請求項1において1箇所しか出てこないうえに、点検結果データを受信するものであることから、予め設定された点検データを受信する「点検データ受信手段」とは別構成であることが明らかであるので、「前記点検結果データ受信手段」における「前記」の記載は誤記と認め、削除した。

上記補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、点検端末の点検データ受信手段にて受信する「点検データ」が、「点検開始時刻に点検を行う点検データの点検管理装置への送信要求に対して、該点検開始時刻に点検を行う、」複数の点検箇所に対し予め設定された各点検項目を含むものであるとの限定を付加するものであるから、平成18年改正前特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-215375号公報(以下「引用例1」という。)には、「巡回点検システム」と題して、図面と共に、以下の事項が記載されている。

・「【0001】
【産業上の利用分野】事業場の毎日の戸締りや業務の後始末の点検や、警備の際の定期的な巡回点検に活用する。」

・「【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述した従来の巡回点検においては、設備に対する点検を実施したという記録しかとれず、異なる複数の設備の点検内容を詳細に分けて点検することができない。又、設備毎の点検を行った時刻や点検に要した時間をデータとして捕らえることにより、点検業務の効率化に役立つ。設備が散在している場合は、効率よく巡回して点検する必要がある。・・・。巡回点検の結果のデータをもとに、すみやかに集計して報告書を作成したり、データを情報に変えて分析し、管理資料を作成し、点検業務の効率化と安全対策の向上を図ることができ、この発明は、上述した問題点を解決できるものである。」

・「図1はこの発明による巡回点検システムの機器構成であり、ホストコンピュータ(パソコン)1-bで、巡回点検の設備や点検内容をデータベースに登録して、点検の指定情報に編集する。そして、そのデータをバーコードリーダ1-aに取り込んで(1-a1)点検用の設備のバーコードシートのバーコード1-dをバーコードリーダで読取り、記録して、そのデータをホストコンピュータ(パソコン)に取り込んで(1-a2)、情報処理を行う。」(2欄18ないし27行)

・「ホストコンピュータ図2であるパソコンには次の機能を有する。まず、巡回点検の作業のための巡回先毎に点検を要する設備の登録2-aと点検内容の登録2-bと巡回経路に基づいた点検順番指定2-cをし、バーコードリーダに巡回点検プログラム(注:「システムプログラム」は誤記)として、ダウンロードする機能、・・・、点検内容をホストコンピュータ(パソコン)から、バーコードリーダに取り込む機能2-f、そして、バーコードリーダに記録されている点検結果データをホストコンピュータ(パソコン)に取り込む機能2-gと点検結果データをもとに、報告書の作成や特定設備の点検内容の検索及び各種の情報処理を行う機能2-hがある。」(2欄33ないし49行)

・「図3は、この発明による、点検者が携行するバーコードリーダであって、点検する設備が、点検する順番に画面上に表示され、設備に貼付してあるバーコードシートを読取って点検結果を記録する。3-aはバーコードリーダの各部を制御するCPUであり、3-bはバーコードリーダのシステムプログラムが記憶されているROMであり、3-cは巡回点検プログラムが記憶されているRAMであり、3-dはバーコードリーダ部でバーコードシートを読取り、その内容を記憶部に記録される。3-eはLCD等の表示部で点検設備や点検内容を表示する。3-fはキーボードで、バーコードリーダのスタートやストップ、点検洩れのチェック等の入力に用いられる。バーコードリーダは、まず、点検者を特定するため、点検者用のバーコードシートを読取り、記録する。そして巡回点検のプログラムによって、従来の点検シートに相当する画面に点検を要する設備が表示される。そしてこの画面表示に応じて、点検設備にあるバーコードシート上のバーコードを読取り、メモリーに記録する。また、バーコードリーダ内蔵のタイマー機能により、読取った日付と時刻とを同時に記録する。」(3欄1ないし20行)

・「巡回点検による点検結果データは、ホストコンピュータ(パソコン)にて収集記録される。データの内容は、どこ(所属)の誰(点検者)が、いつ(年月日)、何どき(時刻)に、どこ(所在地)の何(点検する設備)を点検し、その結果はどうであったか(点検結果)で構成され、このデータをもとに点検報告書の作成や各種の分析を行い、巡回点検の管理に活用できる。」(4欄19ないし25行)

・図2には、ホストコンピュータとバーコードリーダとの間に、点検内容をホストコンピュータからバーコードリーダに取り込む機能2-fを示す白抜き矢印、及び、バーコードリーダに記録されている点検結果データをホストコンピュータに取り込む機能を示す矢印2-g、が示されているので、ホストコンピュータが「通信機能」を具備し、ホストコンピュータとバーコードリーダとの間が「データ交信可能」であり、バーコードリーダがホストコンピュータに点検結果データを「送信する送信手段」を具備し、ホストコンピュータが点検結果データを「受信する受信手段」を具備することが示されているといえる。

・図5には、点検を要する設備が複数箇所あり、順次点検が行われることが示されている。

これらの記載事項及び図示内容によれば、引用例1には、
「複数の点検を要する設備を巡回経路に従って順次点検を行う際に点検者により使用されるバーコードリーダ部を有する携行可能なバーコードリーダと、通信機能及び情報処理機能を有するホストコンピュータとがデータ交信可能にされた巡回点検システムであって、
前記バーコードリーダは、複数の点検を要する設備に対し予め登録された各点検内容を含む巡回点検プログラムを前記ホストコンピュータからダウンロードする手段と、前記バーコードリーダ部で点検を要する設備にあるバーコードを読み取った時刻を内蔵のタイマー機能より記録する手段と、前記ホストコンピュータからダウンロードした前記巡回点検プログラムに基づき前記各点検内容を前記バーコードリーダ部で前記バーコードを読み取ることで点検結果データを作成する作成手段と、前記作成手段により作成された前記点検結果データを前記ホストコンピュータに送信する送信手段とを備え、
前記ホストコンピュータは、前記バーコードリーダから受信した前記点検結果データをもとに点検報告書として作成する報告書作成手段と、点検結果データを受信する受信手段により受信した前記点検結果データに含まれる時刻に基づき各種の分析を行う分析手段とを備える巡回点検システム。」
という発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認定することができる。

(イ)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-268098号公報(以下「引用例2」という。)には、「ビルメンテナンス管理システム」と題して、図面と共に、以下の事項が記載されている。

・「作業員は、現場に出勤すると、自己の固有のコードをもつカードを現場インターフェース31の開始登録部に読み取らせる。そして打ち出されている指示書に従って作業を行い作業が終了すると、カードを終了登録部に読み取らせる。
終了登録が行われると、その作業員のコードは、報告受信部30に読み取られる。これにより、開始登録から終了登録までの作業員の作業時間が分かり、このデータは実績処理部40に伝送される。実績処理部40では、当日指示した作業員からの開始と終了の報告があったか否か、報告があった場合は実績作業時間が標準作業時間に合致しているか否かなどのチェックを行う。」(5ページ左上欄2ないし14行)

・「第3図は、実績処理部40の構成例を示している。
現場の報告入力部31からは、作業員からの作業開始登録データと、終了登録データが作業員コードとともに返送されてくる。このデータは、作業実績ファイル401に格納される。作業実績ファイル401では、返送データに基づいて各作業員の実績作業時間が計算される。さらに作業実績ファイル401に格納された作業員コードを参照して、指示書ファイル405から対応する作業員の作業時間が読み出される。この指示作業時間と、実際に費やした実績作業時間のデータは、比較部403にて比較される。その誤差が計算され、各作業員毎に実施実績ファイル404に格納される。この実績ファイル404に格納されたデータは、同一現場で異なる作業員が同一作業を行った場合の統計処理、同一現場の同一作業を同一作業員が異なる日に行った場合の統計処理などに利用される。これにより、指示作業時間と実績作業時間とに大きな差があるようであれば、作業費用の単価の見直しなどに利用される。また男女を問わない作業内容であれば、その作業時間の比較を行うこともでき、効率的な作業分担を行うための参考データとして利用できる。」(5ページ右下欄3行ないし6ページ左上欄6行)

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「点検を要する設備」は本願補正発明の「点検箇所」に相当し、引用発明の「巡回経路」は本願補正発明の「巡回路」に相当する。
また、引用発明の「バーコードリーダ部を有する携行可能なバーコードリーダ」は、バーコードリーダ部でバーコードを読み取ることでデータ入力を可能とするものであるから、本願補正発明の「データ入力可能な入力部を有する携帯型の点検端末」に相当する。
次に、引用発明の「情報処理機能」が本願補正発明の「データ管理機能」に相当し、以下同様に、「ホストコンピュータ」は「点検管理装置」に、及び、「巡回点検システム」は「安全点検管理システム」に、それぞれ相当する。
続いて、引用発明の「予め登録された各点検内容を含む巡回点検プログラム」は、その機能・作用からみて、本願補正発明の「予め設定された各点検項目を含む点検データ」に相当し、引用発明の「ホストコンピュータからダウンロードする手段」は本願補正発明の「点検管理装置から受信する点検データ受信手段」に相当する。
また、引用発明の「バーコードリーダ部で点検を要する設備にあるバーコードを読み取った時刻を内蔵のタイマー機能より記録する手段」は、引用発明の「バーコードリーダ部」が前述のとおり本願補正発明の「入力部」に相当すること、及び、引用発明においてバーコードを読み取ることが点検操作に相当するといえることに照らせば、本願補正発明の「点検操作と連動して時刻データを入力部からの指示を受けて内蔵のタイマより取り込む点検時刻入力受付手段」に実質的に相当する。
さらに、引用発明の「各点検内容をバーコードリーダ部でバーコードを読み取ることで点検結果データを作成する作成手段」は、本願補正発明の「各点検項目を入力部から入力することで点検結果データを作成する点検結果作成手段」に相当し、また、引用発明の「送信手段」は、本願補正発明の「点検結果データ送信手段」に相当する。
そして、引用発明の「点検報告書」は本願補正発明の「点検報告データ」に実質的に相当するといえるから、引用発明の「バーコードリーダから受信した点検結果データをもとに点検報告書として作成する報告書作成手段」と、本願補正発明の「点検端末から受信した点検結果データを制限時間と時刻データとに基づき編集して点検報告データとして作成する編集手段」とは、「点検端末から受信した点検結果データを編集して点検報告データとして作成する編集手段」という概念で共通するといえ、また、引用発明にも点検報告書をデータとして記憶する「編集手段により作成された点検報告データを記憶する点検報告データ記憶手段」に相当する構成があるものと認められる。
また、引用発明の「点検結果データを受信する受信手段」は、本願補正発明の「受信結果データ受信手段」に相当する。
最後に、引用発明の「点検結果データに含まれる時刻に基づき各種の分析を行う分析手段」と、本願補正発明の「点検結果データに含まれる時刻データに基づき各点検項目毎に制限時間内に点検作業が行われたか否かを判定する判定手段」とは、「点検結果データに含まれる時刻データに基づき所定の作業を行う手段」という概念で共通する。

そうすると、両者は、
「複数の点検箇所を巡回路に従って順次点検を行う際に点検者により使用されるデータ入力可能な入力部を有する携帯型の点検端末と、通信機能及びデータ管理機能を有する点検管理装置とがデータ交信可能にされた安全点検管理システムであって、
前記点検端末は、複数の点検箇所に対し予め設定された各点検項目を含む点検データを前記点検管理装置から受信する点検データ受信手段と、点検操作と連動して時刻データを前記入力部からの指示を受けて内蔵のタイマより取り込む点検時刻入力受付手段と、前記点検管理装置から受信した前記点検データに基づき前記各点検項目を前記入力部から入力することで点検結果データを作成する点検結果作成手段と、前記点検結果作成手段により作成された前記点検結果データを前記点検管理装置に送信する点検結果データ送信手段とを備え、
前記点検管理装置は、前記点検端末から受信した前記点検結果データを編集して点検報告データとして作成する編集手段と、前記編集手段により作成された点検報告データを記憶する点検報告データ記憶手段と、点検結果データ受信手段により受信した前記点検結果データに含まれる時刻データに基づき所定の作業を行う手段とを備える安全点検管理システム。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

・相違点1
複数の点検箇所に対し予め設定された各点検項目に関し、本願補正発明では、「点検開始時刻に点検を行う点検データの点検管理装置への送信要求に対して、該点検開始時刻に点検を行う」との特定がなされているのに対し、引用発明では、かかる特定がなされたものでない点。

・相違点2
点検管理装置に関し、本願補正発明は「点検作業に対する制限時間を設定する制限時間設定手段」を具備するのに対し、引用発明はかかる手段を具備していない点。

・相違点3
編集手段における点検結果データの編集に関し、本願補正発明では「制限時間と時刻データとに基づ」いて編集するという特定がなされているのに対し、引用発明ではかかる特定がなされていない点。

・相違点4
所定の作業を行う手段が、本願補正発明では「各点検項目毎に制限時間内に点検作業が行われたか否かを判定する判定手段」であるのに対し、引用発明では「各種の分析を行う分析手段」である点。

・相違点5
編集手段が、本願補正発明では「判定手段により判定された制限時間内に点検作業が行われなかった点検項目に対し、点検項目毎に点検報告データにその旨の標記を含める」機能を有するのに対し、引用発明ではかかる機能を有していない点。

(4)相違点についての判断
・相違点1について
引用発明のバーコードリーダは、「複数の点検を要する設備に対し予め登録された各点検内容を含む巡回点検プログラムをホストコンピュータからダウンロードする手段」を有するものであるところ、この受信(「ダウンロード」が相当)に先だって、点検端末(「バーコードリーダ」が相当)から点検管理装置(「ホストコンピュータ」が相当)に向けて点検データ(「巡回点検プログラム」が相当)の送信を要求するよう構成することは、当業者が適宜設計し得る程度のことであるし、また、例えば特開平9-307966号公報(【0012】の「図1及び図2において、1は中央監視装置、2は携帯端末器、3は中央監視装置1と携帯端末器2を接続する通信網で、・・・12は点検ルート順に並べられた点検項目を中央監視装置1から携帯端末器2へ伝送するように要求するためのダウンロードボタン」という記載を参照)に開示されるように周知の技術でもある。
また、点検開始時刻については、前記「2.(2)(ア)」で摘記したとおり、引用例1には「設備毎の点検を行った時刻や点検に要した時間をデータとして捕らえることにより、点検業務の効率化に役立つ」(【0003】)との記載があることから、引用発明においても、点検に要した時間を測定すべく点検開始時刻を記録するよう構成することに問題はないうえに、この点検開始時刻をどのように設定するかは任意の事項と認められ、かつ、点検データの送信要求時を点検開始時刻とすることに特段の不合理も見当たらない。
そうすると、引用発明において周知の技術を参酌し、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

・相違点2ないし5について
引用例2には、ビルメンテナンス管理システムに関するものであって、標準作業時間(又は、指示作業時間)と作業員の実績作業時間とを比較して誤差を計算して実施実績ファイルに格納し、この格納されたデータを統計処理や作業分担の効率化等に利用することが記載されている。この標準作業時間(又は、指示作業時間)は、ある作業を完了するのに期待される所要時間であると認められるから、実質的に、本願補正発明の「制限時間」に相当するものであるといえる。また、前記「実施実績ファイル」には前記「誤差」が格納されるのであるから、実績作業時間が標準作業時間を超過する場合の誤差についても当然に格納されるものであり、しかも、その場合における対象作業が時間超過の点で検討を要するものであることは当業者にとって明らかである。
ここで、前記「2.(2)(ア)」で摘記したとおり、引用例1には「設備毎の点検を行った時刻や点検に要した時間をデータとして捕らえることにより、点検業務の効率化に役立つ」(【0003】)との記載があることから、引用発明については、点検業務の効率化のために点検に要した時間を考慮するという、業務を時間的な観点から検討することについての示唆を含むものということができる。
そうすると、引用発明において、点検業務の効率化のために点検作業を時間的な観点から検討すべく、引用例2の記載事項を参考にして、点検作業に「制限時間」を設定し、作業時間が制限時間を超過したものについてはこれを記録・報告するよう構成することは当業者が容易になし得たものである。
したがって、引用発明において、引用例2の記載事項を参考にし、相違点2ないし5に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び引用例2の記載事項並びに周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明については、引用発明及び引用例2の記載事項並びに周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第5項で準用する特許法126条5項の規定に違反するものであり、平成18年改正前特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下を免れない。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成18年5月31日付け手続補正書で補正がされた明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「複数の点検箇所を巡回路に従って順次点検を行う際に点検者により使用されるデータ入力可能な入力部を有する携帯型の点検端末と、通信機能及びデータ管理機能を有する点検管理装置とがデータ交信可能にされた安全点検管理システムであって、
前記点検端末は、複数の点検箇所に対し予め設定された各点検項目を含む点検データを前記点検管理装置から受信する点検データ受信手段と、点検操作と連動して時刻データを前記入力部からの指示を受けて内蔵のタイマより取り込む点検時刻入力受付手段と、前記点検管理装置から受信した前記点検データに基づき前記各点検項目を前記入力部から入力することで点検結果データを作成する点検結果作成手段と、前記点検結果作成手段により作成された前記点検結果データを前記点検管理装置に送信する点検結果データ送信手段とを備え、
前記点検管理装置は、点検作業に対する制限時間を設定する制限時間設定手段と、前記点検端末から受信した前記点検結果データを前記制限時間と前記時刻データとに基づき編集して点検報告データとして作成する編集手段と、前記編集手段により作成された点検報告データを記憶する点検報告データ記憶手段と、前記点検結果データ受信手段により受信した前記点検結果データに含まれる時刻データに基づき各点検項目毎に前記制限時間内に点検作業が行われたか否かを判定する判定手段とを備え、前記編集手段は、前記判定手段により判定された前記制限時間内に点検作業が行われなかった点検項目に対し、点検項目毎に点検報告データにその旨の標記を含めることを特徴とする安全点検管理システム。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明から、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、点検端末の点検データ受信手段にて受信する「点検データ」が、「点検開始時刻に点検を行う点検データの点検管理装置への送信要求に対して、該点検開始時刻に点検を行う、」複数の点検箇所に対し予め設定された各点検項目を含むものであるとの限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに前記限定による構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明及び引用例2の記載事項並びに周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、前記限定を省いた本願発明については、前記「2.(4)」における相違点1についての検討が不要になり、相違点2ないし5については既に検討したとおりであるので、引用発明及び引用例2の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明については、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、特許法49条2号の規定に該当し、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-21 
結審通知日 2008-05-27 
審決日 2008-06-09 
出願番号 特願2001-101030(P2001-101030)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G08B)
P 1 8・ 575- Z (G08B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白石 剛史安池 一貴  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 本庄 亮太郎
大河原 裕
発明の名称 安全点検管理システム  
代理人 小谷 悦司  
代理人 伊藤 孝夫  

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