• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1181957
審判番号 不服2007-32201  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-29 
確定日 2008-07-31 
事件の表示 平成 9年特許願第 51654号「拡散光制御用光学シート、バックライト装置及び液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月14日出願公開、特開平10-246805〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は平成9年3月6日の出願であって、平成19年10月23日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として平成19年11月29日付けで本件審判請求がされるとともに、平成19年12月27日付けで手続補正がなされ、平成19年12月27日付けの手続補正が平成20年1月24日付けの手続補正により補正されたものである。


第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成20年1月24日付けの手続補正により補正された平成19年12月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成20年1月24日付けの手続補正により補正された平成19年12月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成19年5月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1についての

「透光性材料からなり、一方の面が平面状の受光面とされると共に、他方の面に、前記受光面から入射した光を指向性の強い拡散光に変換する複数の凸状部が設けられ、前記凸状部は先端から基端に至る側面を備えている拡散光制御用光学シートにおいて、
前記凸状部の前記側面を、前記受光面とのなす角度が60°?90°の平面とし、且つ、前記凸状部内に、前記透光性材料と異なる屈折率の微細物質を配置してなり、該微細物質と前記透光性材料との屈折率差により光拡散作用を形成したことを特徴とする拡散光制御用光学シート。」

の記載を、

「透光性材料からなり、一方の面が平面状の受光面とされると共に、他方の面に、前記受光面から入射した光を指向性の強い拡散光に変換する複数の凸状部が設けられ、前記凸状部は先端から基端に至る側面を備えている拡散光制御用光学シートにおいて、
前記凸状部の前記側面を、前記受光面とのなす角度が60°?90°の平面とし、且つ、前記受光面を透光性材料とし、前記凸状部内に、前記透光性材料と異なる屈折率の微細物質を配置してなり、該微細物質と前記透光性材料との屈折率差により光拡散作用を形成したことを特徴とする、液晶表示装置のバックライト装置に用いる、拡散光制御用光学シート。」

と補正することを含むものである。

2.本件補正の適否の検討
(1)目的要件(平成18年改正前の特許法第17条の2第4項)についての検討
本件補正が平成18年改正前の特許法第17条の2第4項の規定に適合するか否かを検討する。
本件補正における請求項1についての補正のうち「液晶表示装置のバックライト装置に用いる、」を追加する補正は、「拡散光制御用光学シート」の用途を限定する補正であるから、同法第17条の2第4項第2号における「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に当たる。
しかし、本件補正前の旧請求項1には、「透光性材料からなり、一方の面が平面状の受光面とされる・・・拡散光制御用光学シート」が記載されているから、本件補正前の旧請求項1には、既に、「拡散光制御用光学シート」の「受光面」が「透光性材料からな」ることが記載されている。したがって、本件補正における請求項1についての補正のうち「前記受光面を透光性材料とし、」を追加する補正は、本件補正前の旧請求項1に記載した発明を特定する事項を限定するものではないから、同法第17条の2第4項第2号における「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に当たらない。そして、前記補正は、同法第17条の2第4項第1号の「請求項の削除」、同第3号の「誤記の訂正」、同第4号の「明りようでない記載の釈明」のいずれにも当たらない。
したがって、本件補正は同法第17条の2第4項の規定に違反する補正を含むものである。

(2)独立特許要件についての検討
上記のとおり、本件補正に係る請求項1についての補正は平成18年改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるが、仮に、本件補正における請求項1についての補正のうち「前記受光面を透光性材料とし、」を追加する補正が、前記「受光面」には「前記透光性材料と異なる屈折率」を有し「前記透光性材料との屈折率差により光拡散作用を形成」する「微細物質」が配置されていないという前記「微細物質」の配置態様を限定する補正であって、本件補正が同法第17条の2第4項第2号における「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に当たるとした場合に、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、以下に検討する。

ア.補正発明の認定
補正発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「透光性材料からなり、一方の面が平面状の受光面とされると共に、他方の面に、前記受光面から入射した光を指向性の強い拡散光に変換する複数の凸状部が設けられ、前記凸状部は先端から基端に至る側面を備えている拡散光制御用光学シートにおいて、
前記凸状部の前記側面を、前記受光面とのなす角度が60°?90°の平面とし、且つ、前記受光面を透光性材料とし、前記凸状部内に、前記透光性材料と異なる屈折率の微細物質を配置してなり、該微細物質と前記透光性材料との屈折率差により光拡散作用を形成したことを特徴とする、液晶表示装置のバックライト装置に用いる、拡散光制御用光学シート。」

イ.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-313710号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の(ア)?(オ)の記載が図示とともにある。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、液晶表示装置などに使われるプリズムシートおよびバックライトに関するものであり、さらに詳しくは、複数枚のプリズムシートを重ね合わせて使用する場合に顕著に生じる明暗模様の発生のないプリズムシートおよびバックライトに関するものである。」

(イ)「【0002】
【従来の技術】近年カラー液晶表示装置を備えた携帯用ノートパソコンや、カラー液晶パネルを使った携帯用液晶TVあるいはビデオ一体型液晶TVなどのバッテリー駆動製品において、液晶表示装置の消費電力がバッテリー駆動時間を伸ばすための障害になっている。中でも、液晶表示装置に使われているバックライトの消費電力の割合は大きく、この消費電力をできる限り低く抑えることがバッテリー駆動時間を伸ばし、上記製品の実用価値を高める上で重要な課題とされている。
【0003】しかし、バックライトの消費電力を抑えることによって、バックライトの輝度を低下させたのでは液晶表示が見難くなり好ましくない。そこで、バックライトの輝度を犠牲にすることなく消費電力を抑えるために、バックライトの光学的な効率を改善することが望まれている。これを実現する手段として、図3に示したような片面にプリズム列やレンチキュラー列等のプリズム列を多数形成したプリズムシートを、導光体の出射面側に載置したバックライトが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このようなプリズムシートは、バックライトからの出射光を屈折作用によって正面方向に出射光を向けることによって、正面輝度を向上させバックライトの光学的な効率を向上させるものである。(略)」

(ウ)「【0007】本発明のプリズムシート2は、図1に示したように、透明シートの一方の面に多数のプリズム列7が平行に形成されてなるものであり、図2に示したように高さの異なる複数のプリズム列7が配列されてレンズ面を構成することが重要である。このようにプリズム高さ(H)の異なるプリズム列7を配列することによってレンズ面を構成することによって、隣り合うプリズム列を通過した主光線Aの波面Bの光路差Cによる明暗模様の発現が抑制され、高い輝度で優れた外観を有するバックライトを構成できる。
【0008】本発明においては、高さの異なる複数のプリズム列7としては、ピッチ(P)を一定としてプリズム頂角(θ)を変化させ高さ(H)を調整したプリズム列7、頂角(θ)を一定としてピッチ(P)を変化させ高さ(H)を調整したプリズム列7等が挙げられ、これらを単独あるいは組合せて配列することができる。この場合、プリズム列7のピッチ(P)は30μm?0.5mmの範囲、頂角(θ)は60?150゜の範囲で適宜選択することが好ましい。特に、導光体3からの出射光の指向特性に応じて、正面輝度を十分に向上できる範囲で選定することが好ましい。また、正面輝度を十分に向上させ、プリズムシート2全体にわたって輝度を均一化させる等の点から、頂角(θ)を一定としてピッチ(P)を変化させ高さ(H)を調整したプリズム列7で構成することが好ましい。」

(エ)「【0011】本発明のプリズムシート2は、可視光透過率が高く、屈折率の比較的高い材料を用いて製造することが好ましく、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、塩化ビニル系樹脂、活性エネルギー線硬化型樹脂等が挙げられる。中でも、プリズムシート2の耐擦傷性、取扱い性、生産性等の観点から活性エネルギー線硬化型樹脂が好ましい。本発明においては、プリズムシート2に、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、黄変防止剤、ブルーイング剤、顔料、拡散剤等の添加剤を添加することもできる。」

(オ)「【0012】本発明のプリズムシート2を製造する方法としては、押し出し成形、射出成形等の通常の成形方法が使用できる。活性エネルギー線硬化型樹脂を用いてプリズムシート2を製造する場合には、透明フィルムあるいはシート等の透明基材上に、活性エネルギー線硬化型樹脂によってレンズ部を形成する。まず、所定のレンズパターンを形成したレンズ型に活性エネルギー線硬化型樹脂液を注入し、透明基材を重ね合わせる。次いで、透明基材を通して紫外線、電子線等の活性エネルギー線を照射し、活性エネルギー線硬化型樹脂液を重合硬化して、レンズ型から剥離してプリズムシート2を得る。」

ウ.引用例1記載の発明の認定
図1,2から、引用例1に記載された「プリズムシート」におけるバックライトからの出射光を受光する面が平面状であることや、「高さの異なる複数のプリズム列」の断面形状が三角形であることは明らかである。また、引用例1の上記記載(イ)の段落【0004】の記載は引用例1の従来のプリズムシートの機能に関する説明であるが、引用例1の上記記載(ウ)の段落【0008】の「正面輝度を十分に向上」させるという記載等から、かかるプリズムシートの機能は引用例1に記載された発明の「プリズムシート」にも当てはまることは明らかである。さらに、引用例1の上記記載(ウ)の段落【0008】の記載から、引用例1には、「高さの異なる複数のプリズム列」の「プリズム頂角」が、前記高さの異なる複数のプリズム列全体にわたって60°で一定であることが記載されていることも明らかである。
したがって、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。

「バックライトからの出射光を受光する面が平面状であると共に、他方の面に断面が三角形であって高さの異なる複数のプリズム列が配列されてレンズ面が構成され、バックライトからの出射光を屈折作用によって正面方向に出射光を向けることによって正面輝度を向上させるプリズムシートにおいて、
前記高さの異なる複数のプリズム列のプリズム頂角が、前記高さの異なる複数のプリズム列全体にわたって60°で一定であり、
前記プリズムシートは、可視光透過率が高く屈折率の比較的高い活性エネルギー線硬化型樹脂に拡散剤が添加されたものであり、
所定のレンズパターンを形成したレンズ型に活性エネルギー線硬化型樹脂液を注入し、透明基材を重ね合わせ、次いで、透明基材を通して紫外線、電子線等の活性エネルギー線を照射し、活性エネルギー線硬化型樹脂液を重合硬化して、レンズ型から剥離するという成形方法により製造された、液晶表示装置のバックライト用プリズムシート。」(以下、「引用発明1」という。)

エ.補正発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
(ア)引用発明1の「可視光透過率が高く屈折率の比較的高い活性エネルギー線硬化型樹脂」、「高さの異なる複数のプリズム列」、「バックライトからの出射光を受光する面が平面状である」ことは、それぞれ、補正発明の「透光性樹脂」、「複数の凸状部」、「一方の面が平面状の受光面とされる」ことに相当する。

(イ)引用発明1の「プリズムシート」は、「所定のレンズパターンを形成したレンズ型に活性エネルギー線硬化型樹脂液を注入し、透明基材を重ね合わせ、次いで、透明基材を通して紫外線、電子線等の活性エネルギー線を照射し、活性エネルギー線硬化型樹脂液を重合硬化して、レンズ型から剥離するという成形方法により製造され」るものであるところ、かかる成形方法により製造される「プリズムシート」に「拡散剤」を「添加する」には、活性エネルギー線硬化型樹脂液をレンズ型に注入する際に前記活性エネルギー線硬化型樹脂液に前記「拡散剤」を添加すると考えるのが技術常識に照らして妥当である。そして、前記「拡散剤」が添加された活性エネルギー線硬化型樹脂液を前記「レンズ型」に注入して前記成形方法により前記「プリズムシート」を製造すれば、「高さの異なる複数のプリズム列」内に前記「拡散剤」が添加されることになることは明らかである。また、「拡散剤」の大きさは、通常、微細である。
したがって、引用発明1の「高さの異なる複数のプリズム列」内に「拡散剤」が添加されることが、補正発明の「前記凸状部内に、微細物質を配置してなり、光拡散作用を形成した」ことに相当する。

(ウ)引用発明1における「高さの異なる複数のプリズム列」の「断面が三角形であ」ることは、補正発明の「凸状部は先端から基端に至る側面を備えている」ことに相当する。
また、液晶表示装置のバックライト用プリズムシートの分野では、プリズムの断面形状について特段の記載がない限り、プリズムの断面形状はプリズム頂角を挟む二辺の長さが等しい二等辺三角形であると解するのが技術常識である。そして、引用例1には「高さの異なる複数のプリズム列」の断面形状について特段の記載がない。したがって、引用発明1の「高さの異なる複数のプリズム列」の「プリズム頂角が60°」であることは、引用発明1の「高さの異なる複数のプリズム列」の断面形状が、60°の頂角を挟む二辺の長さが等しい二等辺三角形、すなわち、正三角形であることを意味し、ひいては、引用発明1の「高さの異なる複数のプリズム列」の側面は「プリズムシート」の受光面とのなす角度が60°の平面であることを意味する。
したがって、引用発明1の「高さの異なる複数のプリズム列」の「プリズム頂角が60°」であることは、補正発明の「前記凸状部の前記側面を、前記受光面とのなす角度が60°?90°の平面と」することに相当する(なお、このように認定することは、平成19年12月27日付けの手続補正により補正された平成19年11月29日付けの審判請求書の「請求の理由」の「(4)引用刊行物の説明」の欄における引用刊行物1(本審決における引用例1に相当する。)についての出願人の説明とも合致する。)。

(エ)前記(イ)で検討したように、引用発明1の「高さの異なる複数のプリズム列」内には「拡散剤」が添加されているから、引用発明1の「高さの異なる複数のプリズム列」は「プリズムシート」の受光面から入射したバックライトからの出射光を拡散光に変換する機能を有していることは明らかである。また、引用発明1の「高さの異なる複数のプリズム列」は「バックライトからの出射光を屈折作用によって正面方向に出射光を向けることによって正面輝度を向上させる」機能を有しているから、引用発明1の「高さの異なる複数のプリズム列」は「プリズムシート」の受光面から入射したバックライトからの出射光を指向性の強い光に変換する機能も有していることは明らかである。したがって、「プリズムシート」の受光面から入射したバックライトからの出射光を拡散光に変換する機能と「バックライトからの出射光を屈折作用によって正面方向に出射光を向けることによって正面輝度を向上させる」機能を有する引用発明1の「高さの異なる複数のプリズム列」は、補正発明の「前記受光面から入射した光を指向性の強い拡散光に変換する複数の凸状部」に相当する。
また、引用発明1の「プリズムシート」は、バックライトからの出射光が前記「プリズムシート」に添加された「拡散剤」により光拡散された後、前記「プリズムシート」の「高さの異なる複数のプリズム列」により「バックライトからの出射光を屈折作用によって正面方向に出射光を向け」ているから、引用発明1の「プリズムシート」は補正発明の「拡散光制御用光学シート」に相当する。

(オ)したがって、補正発明と引用発明1とは、
「透光性材料からなり、一方の面が平面状の受光面とされると共に、他方の面に、前記受光面から入射した光を指向性の強い拡散光に変換する複数の凸状部が設けられ、前記凸状部は先端から基端に至る側面を備えている拡散光制御用光学シートにおいて、
前記凸状部の前記側面を、前記受光面とのなす角度が60°?90°の平面とし、且つ、前記凸状部内に、微細物質を配置してなり、光拡散作用を形成したことを特徴とする、液晶表示装置のバックライト装置に用いる、拡散光制御用光学シート。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

〈相違点1〉
補正発明では、「拡散光制御用光学シート」の「受光面」が「透光性材料」であって、前記「受光面」には光拡散作用を生じさせる「微細物質」が存在しないのに対し、引用発明1には、「プリズムシート」の受光面に「拡散剤」が存在しないとの限定がない点。

〈相違点2〉
補正発明では、「微細物質」が「透光性材料と異なる屈折率」を有するものであって、「該微細物質と前記透光性材料との屈折率差により光拡散作用を形成した」のに対し、引用発明1には、「拡散剤」についてかかる限定がない点。

オ.相違点についての判断
以下、本審決では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。

(ア)相違点1について
出願人は、平成19年12月27日付けの手続補正により補正された平成19年11月29日付けの審判請求書の「請求の理由」において、「上記微細物質は、受光面を透光性材料のままで、凸状部内に配置しているので、受光面から入射した光が凸状部内に入る前に微細物質によって散乱されることがなく、明細書段落[0055]に記載されるような「凸状部34内で実質的に散乱され、強い指向性のある拡散光を得ることができる。」ものである。」と主張している。
しかし、複数の凸状部が設けられるとともに前記凸状部内に光散乱を生じさせる微細物質を配置した拡散光制御用光学シートを光が通過した後の光の指向性の程度や拡散の程度は、受光面に光散乱を生じさせる微細物質が存在するか否かや受光面に対する前記凸状部の側面の角度だけで決定されるものではなく、各微細物質の光拡散の強さ、前記凸状部内や前記受光面における微細物質の濃度、前記凸状部の基端と前記受光面との距離等の各種要素にも依存するものである。したがって、所望の強い指向性のある拡散光を得るに当たり、これら各種要素を全て考慮して、引用発明1の「プリズムシート」の受光面に「拡散剤」が存在しないようにすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。
したがって、相違点1に係る補正発明の構成を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(イ)相違点2について
液晶表示装置のバックライトに用いられる透明プラスチックシートに拡散機能を付与する際、前記透明プラスチックシートと異なる屈折率の透明ビーズを配置し、該透明ビーズと前記透明プラスチックシートとの屈折率差により光拡散作用を形成することは、本願出願時において当業者に周知の技術的事項である(一例として、特開平8-146207号公報(【請求項1】、段落【0001】、【0005】、【0009】?【0012】、【0017】、【0022】?【0023】、図1?2、5)を参照。)。
したがって、引用発明1の「拡散剤」として上記周知の透明ビーズを採用し、相違点2に係る補正発明の構成を採用することは、当業者にとって想到容易である。

カ.補正発明の独立特許要件の判断
以上のとおりであるから、相違点に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。また、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は平成18年改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反する補正を含んでいるばかりでなく、仮に本件補正が同法第17条の2第4項の規定に適合する補正であるとしても本件補正は同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、本件補正は同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、平成19年5月7日付けの手続補正により補正された明細書及び図面に基づいて審理すると、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年5月7日付けで補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「透光性材料からなり、一方の面が平面状の受光面とされると共に、他方の面に、前記受光面から入射した光を指向性の強い拡散光に変換する複数の凸状部が設けられ、前記凸状部は先端から基端に至る側面を備えている拡散光制御用光学シートにおいて、
前記凸状部の前記側面を、前記受光面とのなす角度が60°?90°の平面とし、且つ、前記凸状部内に、前記透光性材料と異なる屈折率の微細物質を配置してなり、該微細物質と前記透光性材料との屈折率差により光拡散作用を形成したことを特徴とする拡散光制御用光学シート。」

2.引用刊行物の記載事項及び引用例1記載の発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1には、前記「第2 補正の却下の決定」の「2.本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の「イ.引用刊行物の記載事項」の欄に摘記したとおりの事項が記載されており、引用例1に記載された発明(引用発明1)は、前記「第2 補正の却下の決定」の「2.本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の「ウ.引用例1記載の発明の認定」の欄に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、補正発明の発明特定事項から、前記「第2 補正の却下の決定」の「2.本件補正の適否の検討」の「(1)目的要件(平成18年改正前の特許法第17条の2第4項)についての検討」の欄で述べた限定事項を省いたものである。
そして、本願発明の発明特定事項をすべて含み、他の発明特定事項を付加したものに相当する補正発明が、前記「第2 補正の却下の決定」の「2.本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の欄に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、前記「第2 補正の却下の決定」の「2.本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の欄で示した理由と同様の理由により、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-30 
結審通知日 2008-06-03 
審決日 2008-06-17 
出願番号 特願平9-51654
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 572- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行越河 勉  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 日夏 貴史
佐藤 昭喜
発明の名称 拡散光制御用光学シート、バックライト装置及び液晶表示装置  
代理人 松山 圭佑  
代理人 高矢 諭  
代理人 牧野 剛博  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ