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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
管理番号 1182078
審判番号 不服2006-22518  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-05 
確定日 2008-07-31 
事件の表示 平成10年特許願第365276号「電動アクチュエータ」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 7月 4日出願公開、特開2000-188846〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年12月22日の出願であって、平成18年8月29日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされた後、当審における平成20年3月14日付けの拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由」という。)に対し、同年5月19日に明細書についての補正がなされたものである。

2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成20年5月19日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「アクチュエータ本体に設けたモータの回転運動を該アクチュエータ本体の内部に収容した送りねじ機構により直線運動に変換するとともに、前記アクチュエータ本体の側部に設けた開口部を介して前記送りねじ機構と連結される移動体を前記アクチュエータ本体の側部に隣接して設けた電動アクチュエータであって、
前記送りねじ機構は、前記モータの出力軸の中心軸線と同一線上にその中心軸線が配置される第1ねじ部材と、その第1ねじ部材に係合されるとともに前記開口部を介して前記移動体に連結される第2ねじ部材とで構成されており、
前記移動体は、同移動体のワーク接触面が前記アクチュエータ本体の外周部における特定の面とほぼ一致する位置に配置され、且つ、同ワーク接触面の移動軌跡が前記第1ねじ部材の軸線方向に沿って平行に延びるように前記第2ねじ部材の一側部のみに横付けされており、
前記モータの回転に合わせて前記送りねじ機構および前記移動体が直線的に移動するときに、前記移動体のみが前記アクチュエータ本体の端部より前方に突出して移動することを特徴とする電動アクチュエータ。」

3.引用例
一方、当審拒絶理由に引用した特開昭60-127938号公報(以下「引用例」という。)には、「送りねじ機構の制振装置」と題し、図面と共に、以下の事項が記載されている。

・「機械系において、テーブル等を所定量だけ正確に移動させるために、送りねじ機構が良く使用される。送りねじは、外周面にらせん溝が形成されたねじ軸と、内周面にらせん溝が形成され、ねじ軸に螺合されたナツト部材とから成り、ねじ軸を所定角度回転させることにより、ナツト部材を所定量だけ相対的に移動させるものである。」(1ページ右欄13ないし20行)

・「ボールねじを含む機械系にはモータ、ベアリング、タイミングベルト等、振動を発生する諸要素が連結されており、」(2ページ左上欄12ないし14行)

・「第1図に示すように、基台10の直立部12には軸受14を介してねじ軸20の一端部が回転可能に支承され、直立部12から突出した部分にはベルトプーリ16が固設されている。ねじ軸20の中間部にはボールナツト30が螺合され、ねじ軸外周面のボールねじ溝22と、ボールナツト内周面のボールねじ溝32とがねじ結合されている。ボールナツト30にはスライドテーブル36が取り付けられている。」(2ページ左下欄10ないし19行)

・第1図及び第9図には全体として「電動アクチュエータ」といえるものが示され、また、ねじ軸20及びボールナツト30は送りねじ機構を構成するものであるから、第1図及び第9図には、ねじ軸20の回転運動をボールナツト30の直線運動に変換することが示されているといえる。また、第1図及び第9図には、基台10の上部にある開口部を介してボールナツト30とスライドテーブル36とを連結すること、基台10の上部に隣接してスライドテーブル36が設けられていること、スライドテーブル36の上面が基台10の外周部におけるいずれの面よりも上の位置に配置されていること、及び、スライドテーブル36が、その上面の移動軌跡がねじ軸20の軸線方向に沿って平行に延びるように、ボールナツト30の少なくとも上下から挟むようにして取付けられていることが示されている。さらに、第1図及び第9図には、ねじ軸20の回転に合わせて、送りねじ機構のうちのボールナツト30及びスライドテーブル36が直線的に移動するときに、スライドテーブル36のみが基台10の端部より前方に突出して移動することが示されているといえる。

・第9図には、基台10の内部にねじ軸20及びボールナツト30からなる送りねじ機構が収容されることが示されている。

これらの記載事項及び図示内容によれば、引用例には、
「ボールねじを含む機械系にモータが連結されており、ねじ軸の回転運動を基台の内部に収容した送りねじ機構により直線運動に変換するとともに、前記基台の上部に設けた開口部を介して前記送りねじ機構と連結されるスライドテーブルを前記基台の上部に隣接して設けた電動アクチュエータであって、
前記送りねじ機構は、ねじ軸と、そのねじ軸に螺合されるとともに前記開口部を介して前記スライドテーブルに連結されるボールナツトとで構成されており、
前記スライドテーブルは、同スライドテーブルの上面が前記基台の外周部におけるいずれの面よりも上の位置に配置され、且つ、同スライドテーブルの上面の移動軌跡が前記ねじ軸の軸線方向に沿って平行に延びるように前記ボールナツトの少なくとも上下から挟むようにして取付けされており、
前記ねじ軸の回転に合わせて前記送りねじ機構および前記スライドテーブルが直線的に移動するときに、前記スライドテーブルのみが前記基台の端部より前方に突出して移動する電動アクチュエータ。」
という事項を含む発明(以下「引用発明」という。)が開示されていると認定することができる。

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ボールねじを含む機械系」には「送りねじ機構」の概念が含まれるとともに、引用発明の「基台」が実質的にみて本願発明の「アクチュエータ本体」に相当し、また、引用発明の「ボールねじを含む機械系にモータが連結されており、ねじ軸の回転運動を基台の内部に収容した送りねじ機構により直線運動に変換する」態様であれば、モータにて送りねじ機構のねじ軸を回転させるものであると解するのが普通であるから、引用発明のかかる態様は本願発明の「モータの回転運動をアクチュエータ本体の内部に収容した送りねじ機構により直線運動に変換する」態様に相当するといえる。
また、引用発明の「基台の上部」と、本願発明の「アクチュエータ本体の側部」とは、「アクチュエータ本体の一部」という概念で共通する。
次に、引用発明の「スライドテーブル」は本願発明の「移動体」に相当し、以下同様に、「ねじ軸」は「第1ねじ部材」に、「螺合」は「係合」に、「ボールナツト」は「第2ねじ部材」に、それぞれ相当する。
続いて、引用発明の「スライドテーブルの上面」は、スライドテーブルがその上面にワーク等を載せて移動させるものであることに照らせば、本願発明の「移動体のワーク接触面」に相当するので、引用発明の「スライドテーブルの上面が基台の外周部におけるいずれの面よりも上の位置に配置され」という態様と、本願発明の「移動体のワーク接触面がアクチュエータ本体の外周部における特定の面とほぼ一致する位置に配置され」という態様とは、「移動体のワーク接触面がアクチュエータ本体の外周部における特定の面と所定の位置に配置され」という概念で共通する。
また、引用発明の「ボールナツトの少なくとも上下から挟むようにして取付けされており」という態様と、本願発明の「第2ねじ部材の一側部のみに横付けされており」という態様とは、「第2ねじ部材の所定部位に取付けされており」という概念で共通する。
最後に、引用発明の「ねじ軸の回転に合わせて」という態様は、前述したとおり、モータがねじ軸を回転させているものと認められるから、本願発明の「モータの回転に合わせて」という態様に相当する。

そうすると、両者は、
「モータの回転運動をアクチュエータ本体の内部に収容した送りねじ機構により直線運動に変換するとともに、前記アクチュエータ本体の一部に設けた開口部を介して前記送りねじ機構と連結される移動体を前記アクチュエータ本体の一部に隣接して設けた電動アクチュエータであって、
前記送りねじ機構は、第1ねじ部材と、その第1ねじ部材に係合されるとともに前記開口部を介して前記移動体に連結される第2ねじ部材とで構成されており、
前記移動体は、同移動体のワーク接触面が前記アクチュエータ本体の外周部における特定の面と所定の位置に配置され、且つ、同ワーク接触面の移動軌跡が前記第1ねじ部材の軸線方向に沿って平行に延びるように前記第2ねじ部材の所定部位に取付けされており、
前記モータの回転に合わせて前記送りねじ機構および前記移動体が直線的に移動するときに、前記移動体のみが前記アクチュエータ本体の端部より前方に突出して移動する電動アクチュエータ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

・相違点1
モータについて、本願発明では「アクチュエータ本体に設けた」ものであるとの特定がなされるのに対し、引用発明ではかかる特定がなされていない点。

・相違点2
アクチュエータ本体において、開口部を設け、また、移動体を隣接して設けた場所が、本願発明ではアクチュエータ本体の「側部」であるのに対し、引用発明ではアクチュエータ本体(「基台」が相当)の「上部」である点。

・相違点3
第1のねじ部材について、本願発明では「モータの出力軸の中心軸線と同一線上にその中心軸線が配置される」ものであるとの特定がなされるのに対し、引用発明ではかかる特定がなされていない点。

・相違点4
移動体のワーク接触面がアクチュエータ本体の外周部における特定の面に対して配置される「所定の位置」について、本願発明では「ほぼ一致する位置」であるのに対し、引用発明では「上の位置」である点。

・相違点5
移動体の第2ねじ部材に対する取付けについて、本願発明では第2ねじ部材の「一側部のみに横付け」されるものであるのに対し、引用発明では第2ねじ部材の「少なくとも上下から挟むようにして取付け」されるものである点。

5.相違点についての判断
・相違点1及び3について
電動アクチュエータにおいて、アクチュエータの本体にモータを設けること、及び、電動アクチュエータの送りねじ機構におけるねじ軸とモータの出力軸とを同一線上に配置することは、周知の技術である(例えば、当審拒絶理由において周知の技術として示した特開平8-280154号公報(以下「周知例1」という。)図7におけるモータ16及び送りねじ20の配置や、同じく示した特開平10-154012号公報(以下「周知例2」という。)図1におけるモータ8及びボールネジ4の配置、及び、図4におけるモータ211及びボールネジ26の配置、並びに、特開昭58-28415号公報(以下「周知例3」という。)第2図におけるモータ20及び送りネジ13の配置等を参照)。
そして、引用発明において、電動アクチュエータにおいてモータをどこに配置するかや、モータとねじ軸とを同一線上に配置するか否かといった、モータやねじ軸の配置に関する事項は、電動アクチュエータに求められる大きさや形状等に応じて適宜設計される設計的事項であるものと認められる。
そうすると、引用発明において、モータやねじ軸の配置に関し、上記周知の技術を採用することで、相違点1及び3に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

・相違点2、4及び5について
電動アクチュエータにおいて、移動体(スライドテーブル)を、送りねじ機構を有するアクチュエータの側部に配置することは、周知の技術である(例えば、周知例1図6及び図7のスライドテーブル48と送りねじ20との関係、周知例2図1のスライドテーブル2とボールネジ4との関係、及び、周知例3第2図のスライドテーブル11と送りネジ13との関係等を参照)。
また、移動体(スライドテーブル)をアクチュエータの側部に配置する際に、前記移動体のワーク接触面の高さとアクチュエータの高さとをほぼ一致させることは周知の技術であり(例えば、周知例1図6や、特開平8-100807号公報図1及び図2のスライドテーブル28等を参照)、また、移動体と送りねじ機構のナット部(第2ねじ部材)との取付けについても、確実に取り付けられる限り、どのような取付態様にするかは当業者にとって設計的事項に属する程度のことである。そのうえ、本願の願書に最初に添付された明細書及び図面には、相違点5に係る本願発明の「一側部のみに横付け」という取付態様に関し、その取付態様による格別の技術的意義について記載も示唆もなされていない。
そして、引用発明において、アクチュエータに対し移動体(スライドテーブル)を上部に配置するか側部に配置するかは、移動体の使用条件等に応じて当業者が適宜設定すればよい程度の事項であるものと認められる。
そうすると、引用発明において、上記周知の技術を参酌することで、相違点2、4及び5に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

また、本願発明の全体構成から奏される作用効果も、引用発明及び周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明については、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は、特許法49条2号の規定に該当し、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-30 
結審通知日 2008-06-03 
審決日 2008-06-16 
出願番号 特願平10-365276
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 千馬 隆之尾家 英樹  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 仁木 浩
本庄 亮太郎
発明の名称 電動アクチュエータ  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  

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