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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1182092
審判番号 不服2007-3937  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-08 
確定日 2008-07-31 
事件の表示 特願2002-181774「コアレスモータ用回転子およびその製造方法、コアレスモータ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月29日出願公開、特開2004- 32842〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願(以下「本願」という。)は、平成14年6月21日の出願であって、平成18年12月4日に明細書についての補正がなされたものの、同年12月27日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成19年2月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年3月5日に明細書についての補正がなされたものである。

2.平成19年3月5日付けの手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲における請求項1ないし8のうちの請求項1は、
「線状導体と、該線状導体の外側に位置する絶縁層と、該絶縁層の外側に位置する熱融着層とからなる導線が巻回されて成形された円筒形状のコイル、および、コイルの一端の内側にシアノアクリレート系接着剤により接合されているコイル支持部材を有するコアレスモータ用回転子において、
コイルの外周面および内周面に、硬化後のガラス転移温度が115℃以上の熱硬化性樹脂からなる第1の被膜が形成されていることを特徴とするコアレスモータ用回転子。」
と補正された。

本件補正は、実質的に、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するのに必要な事項である「円筒形状のコイル」が、導線が「巻回されて」成形されたものであることを特定したものであるから、平成18年改正前特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭52-100104号公報(以下「引用例」という。)には、「直流電動機の中空円筒状回転子」と題して、図面と共に、以下の事項が記載されている。

・「本発明は、直流電動機の中空円筒状回転子に関するものである。
一般に、この種の中空円筒状回転子(以下、単に回転子という)は、高トルク、低慣性を有し、頻繁な高速起動停止,高速回転を必要とするデータレコーダあるいは、電算機等の磁気テープ駆動用電動機に使用される。従って、起動、停止繰り返し時には、大きな起動電流、制動電流が流れるため、回転子自体の温度は150℃(注:「°」は誤記)?180℃に達する。・・・。一方運転中の回転速度は5000?10000rpmになり、高温度中の高速回転が保証されなければならない。
以上述べたようにこの種の回転子は、音響機器等に使用されている回転子より、冷熱サイクルや高遠心力に耐え得る機械的強度の大なるものが要求されている。
従来、この種の回転子としては、第1図,第2図に示すように、回転子軸1にセメント材からなる回転子コイル支持円板2および整流子3を固定し、前記回転子軸1に同心状でかつ円筒状に回転子コイル4を配列し、前記回転子コイル4の内外周面に、半硬化性樹脂を塗布したガラスクロス5,6を巻回し熱圧着したものを、回転子コイル支持円板2の外周表面に接着剤で固着し、さらに、ガラスクロス5の外周部をガラス糸7で巻回固定したものがよく知られている。
しかし、この方法では、回転子コイル4のそれぞれを、第3図に示すように、同一平面で六角形に整形したものを円筒状に配列しているため、回転子コイル4と回転子コイル支持円板2との固定は回転子コイル4のコイルエンド部8の内周面と回転子コイル支持円板2の外周面で接着するしかない。」(1ページ左欄20行ないし2ページ左上欄14行)

・第3図には、回転子コイル4のそれぞれの構成部分が導線を六角形に巻回したものであることが示されているといえる。

これらの記載事項及び図示内容によれば、引用例には、
「導線が六角形に巻回されて整形されたものが円筒状に配列された回転子コイル、および、コイルエンド部の内周面に接着剤により接着されている回転子コイル支持円板を有する中空円筒状回転子において、
回転子コイルの内外周面に、半硬化性樹脂を塗布したガラスクロスが巻回され熱圧着されている中空円筒状回転子。」
という事項を含む発明(以下「引用発明」という。)が開示されていると認定することができる。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「導線が六角形に巻回されて整形されたものが円筒状に配列された回転子コイル」と、本願補正発明の「導線が巻回されて成形された円筒形状のコイル」とは、「導線が加工されて作成された円筒形状のコイル」という概念で共通する。
次に、引用発明の「コイルエンド部の内周面」は、本願補正発明の「コイルの一端の内側」に相当する。
また、引用発明の「接着剤」と、本願補正発明の「シアノアクリレート系接着剤」とは、「接着剤」という概念で共通する。
続いて、引用発明の「接着されている」は、本願補正発明の「接合されている」に相当し、以下同様に、「回転子コイル支持円板」は「コイル支持部材」に、「中空円筒状回転子」は「コアレスモータ用回転子」に、「回転子コイルの内外周面」は「コイルの外周面および内周面」に、それぞれ相当する。
最後に、引用発明の「半硬化性樹脂を塗布したガラスクロスが巻回され熱圧着されている」と、本願補正発明の「硬化後のガラス転移温度が115℃以上の熱硬化性樹脂からなる第1の被膜が形成されている」とは、前記ガラスクロスと前記第1の被膜とが共にコイルの「被覆物」であるといえ、かつ、前記ガラスクロスが「巻回され熱圧着されている」状態とは被覆物が「形成されている」状態といえるから、「所定性質の樹脂を含む被覆物が形成されている」という概念で共通する。

そうすると、両者は、
「導線が加工されて作成された円筒形状のコイル、および、コイルの一端の内側に接着剤により接合されているコイル支持部材を有するコアレスモータ用回転子において、
コイルの外周面および内周面に、所定性質の樹脂を含む被覆物が形成されているコアレスモータ用回転子。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

・相違点1
円筒形状のコイルが、本願補正発明では導線が「巻回されて成形された」ものであるのに対し、引用発明では導線が「六角形に巻回されて整形されたものが円筒状に配列された」ものである点。

・相違点2
コイルの導線について、本願補正発明では「線状導体と、該線状導体の外側に位置する絶縁層と、該絶縁層の外側に位置する熱融着層とからなる」ことが特定されているのに対し、引用発明ではかかる特定がなされていない点。

・相違点3
接着剤について、本願補正発明では「シアノアクリレート系」のものであるとの特定がなされているのに対し、引用発明ではかかる特定がなされていない点。

・相違点4
所定性質の樹脂を含む被覆物が、本願補正発明では「硬化後のガラス転移温度が115℃以上の熱硬化性樹脂からなる第1の被膜」であるのに対し、引用発明では「半硬化性樹脂を塗布したガラスクロス」である点。

(4)相違点についての判断
・相違点1について
円筒形状のコイルを、導線が「巻回されて成形された」ものとして構成することは周知の技術(例えば、特開2002-78298号公報【0005】の「巻枠に対し円筒状に巻付けられた巻線コイルの束は、そのままでは形状が崩れ、また外径寸法形状が凹凸に多少膨らんで変形しているので、所定の円筒巻線コイルの形状寸法となるように熱融着のプレス成形を後に行ない、」という記載を参照)であるうえ、本願の願書に最初に添付された明細書の【0003】に従来の技術として「このようなコアレスモータ50は、次のように製造する。まず、絶縁層および熱融着層が周面上に形成された導線を巻回し、この巻回された導線を加熱下でプレス成形して、図6(a)に示すような、円筒形状のコイル5を作製する。」と開示したものでもある。
そうすると、引用発明において周知の技術を参酌し、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

・相違点2について
コイルの電磁誘導作用を実現するためには、導線をコイルとして巻回したときに導線相互の表面で導通しないよう、導線を線状導体とその外側に位置する絶縁層を有するものとすべきことは、当業者にとって明らかな事項であるし、また、例えば前掲特開2002-78298号公報【0004】に「この巻線のコイルアセンブリ70は、まず、銅線材の表面に絶縁層、融着層が被覆された細径のマグネットワイヤ30」と記載されているように、周知の技術でもある。
また、導線の最外層として熱融着層を設け、この熱融着層によって導線を巻回した後に成形可能にすることも周知の技術である(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭56-83234号公報2ページ右下欄15ないし16行の「4は自己融着電線で連続的に巻回、熱整形固着した可動コイル」という記載や、前掲特開2002-78298号公報【0004】及び【0005】の前記した各記載を参照)。
そして、引用発明における導線の選定に際し、周知のものを選定することは、当業者にとって設計的事項に属する程度のことである。
そうすると、引用発明において周知の技術を参酌し、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

・相違点3について
回転子の技術分野において、「シアノアクリレート系」接着剤を用いることは、周知の技術であり、接着に要する時間を短くできるものとして知られている(例えば、原査定時に周知の技術として提示された特開昭52-57904号公報2ページ左下欄1ないし3行の「シアノアクリレート系の瞬間接着剤が極めて短時間で充分な接着力を有するまでに硬化すること」という記載を参照)。
そして、引用発明における、コイルエンド部の内周面(「コイルの一端の内側」が相当)と回転子コイル支持円板(「コイル支持部材」が相当)との接着に際し、接着時間が短ければその分だけ早く回転子を製造できることになるので、接着時間の短い接着剤を採用することは、製造効率の向上という一般的な課題に寄与することが明らかである。
そうすると、引用発明において周知の技術を参酌し、相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

・相違点4について
コアレスモータの技術分野において、150℃といった温度下での安定動作を確保するために、熱融着で成形したコイルを熱硬化性樹脂の被膜で被覆することは、周知の技術である(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭60-174035号公報1ページ左欄12ないし18行の「本発明は複写機,自動溶接機,NC工作機械,カーエアコンなどOA,FAおよび電装分野で広く使用される無鉄心モータの電機子に関し、更に詳しくは絶縁電線或いは自己融着性絶縁電線により形成した電機子巻線を熱硬化性樹脂組成物で封止した構成で、且つ比較的高温下にて使用される無鉄心電機子に関する。」及び同右欄8ないし16行の「無鉄心電機子は通常150?180℃と比較的高温下で使用される場合がある。従って無鉄心電機子としてはこのような比較的高温域での熱時寸法安定性,熱剛性,熱間強度,耐熱劣化特性がこの種のモータ特性並びに信頼性を確保するうえで重大なものとなり、これ等の特性を満足するために例えば電機子巻線をエポキシ樹脂組成物で封止したものが実用化されていた。」という記載を参照。なお、コイルを樹脂で「封止」すると「被膜」に相当するものが形成されると認められるうえ、モータの技術分野において、樹脂による「封止」という用語は、例えば特開2000-156950号公報【0003】に「熱硬化性樹脂を用いて電磁巻線部品を樹脂封止するには、電磁巻線の表面全体を所定厚さの薄肉で覆うように、薄肉流動性に優れた所定粘度の樹脂組成物を流入させた後に、熱硬化させることにより所定厚みの樹脂被覆層を形成する方法が採られている。」と記載されるように、「被膜」(樹脂被覆層)に相当するものを形成することを含む用語として使われるものである)。
なお、熱硬化性樹脂が硬化後においてその強度を保ち得なくなる温度といえるガラス転移温度については、その熱硬化性樹脂を用いる環境の温度に応じて適宜設定すればよいものであるから、熱硬化性樹脂をガラス転移温度が115℃以上のものに特定することは当業者にとって設計的事項に属する程度のことである。
そして、引用発明は、前記「(2)」で摘記したとおり、150℃ないし180℃の温度下で高速回転できるようにガラスクロス等で強度を高めたものであることに照らせば、このガラスクロス等に代えて周知の技術である熱硬化性樹脂による被膜を採用すること、及び、その際にガラス転移温度が115℃以上の熱硬化性樹脂を用いることは、いずれも当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。
そうすると、引用発明において、周知の技術を参酌し、相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

そして、本願補正発明の全体構成から奏される効果も、引用発明及び周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明については、引用発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第5項で準用する特許法126条5項の規定に違反するものであり、平成18年改正前特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下を免れない。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成18年12月4日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「線状導体と、該線状導体の外側に位置する絶縁層と、該絶縁層の外側に位置する熱融着層とからなる導線を成形した円筒形状のコイル、および、コイルの一端の内側にシアノアクリレート系接着剤により接合されているコイル支持部材を有するコアレスモータ用回転子において、
コイルの外周面および内周面に、硬化後のガラス転移温度が115℃以上の熱硬化性樹脂からなる第1の被膜が形成されていることを特徴とするコアレスモータ用回転子。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記「2.」で検討した本願補正発明から、実質的に、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するのに必要な事項である「円筒形状のコイル」が、導線が「巻回されて」成形されたものであるとの特定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本願発明についても前記相違点1における「巻回されて」についての検討が不要になるほかは同様の理由により引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明については、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、特許法49条2号の規定に該当し、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-28 
結審通知日 2008-06-03 
審決日 2008-06-16 
出願番号 特願2002-181774(P2002-181774)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
P 1 8・ 575- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天坂 康種  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 本庄 亮太郎
仁木 浩
発明の名称 コアレスモータ用回転子およびその製造方法、コアレスモータ  
代理人 志賀 正武  
代理人 西 和哉  
代理人 渡邊 隆  
代理人 高橋 詔男  
代理人 鈴木 三義  
代理人 村山 靖彦  
代理人 青山 正和  

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