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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) E04B |
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管理番号 | 1182454 |
判定請求番号 | 判定2008-600020 |
総通号数 | 105 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2008-09-26 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2008-04-01 |
確定日 | 2008-08-18 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2747794号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号の説明及び証拠-1ないし証拠-3に示す「集合住宅の架構法」は、特許第2747794号特許の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨 本件判定請求人である株式会社ライト建築事務所は、判定請求書の「イ号の説明」及び判定請求書に添付された証拠-1ないし証拠-3に示す集合住宅((仮)グローリオ麻布霞町)の架構法(以下「イ号方法」という)が、特許第2747794号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属するとの判定を求めるものである。 第2 本件特許発明 1.本件特許発明の構成要件 本件特許第2747794号の発明(以下、「本件特許発明」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、これを構成要件に分説すると次のとおりである。 A 長方形の架構を略X型に交差させてX型基本架構を構成し、 B 前記X型基本架構同士を2つの端点(2)で連結することによって中央部に生じた空間(5)も含めて、 C 住棟ユニットを形成することを特徴とする住棟ユニットの架構法。 2.本件特許発明の目的、作用効果及びX型基本架構 (1)本件特許発明の目的、作用効果 本件特許発明は、特許明細書の記載によれば、 「従来の集合住宅に於ける構造形式は、長方形の架構を連続的に連ね、隣戸間の架構に耐力壁を設ける、単調かつ直線的な動線・視線・通風であり、更に、桁行き方向にバルコニー面、廊下面の開放と外部環境を取り込んだ住空間になっていないうえ、プライバシーに関しても廊下面の居室は、充分に配慮されていないのが現状である。」(公報2欄4?10行)との問題点に鑑み、 「本発明の課題は、多層集合住宅空間の総合的な質の向上と、住戸規模・間取り・団地内住棟配置等の多様性を可能にする住棟ユニットの架構法を提供することにある。」(公報2欄11?14行)ものであり、上記課題を解決するため、 「本発明の住棟ユニット架構法は、長方形の架構を略X型に交差させてX型基本架構を構成し、前記X型基本架構同士を2つの端点2で連結することによって中央部に生じた空間5も含めて、住棟ユニットを形成することを特徴とする。」(公報3欄1?6行)ものであって、 「連結したX型基本架構の建物外周壁が外気に多く接している為、住戸の開放度を高め、更に、バルコニー部分の拡大によって、バルコニーからの対外視線角を広くするように働く。」(公報3欄13?16行)との作用を奏するものである。 また、本件特許発明の「X型基本架構」について、本件特許明細書には次のように記載されている。 「図1は本発明の架構法の基本型を示す架構平面図で、1:3の割合を最小単位とした長方形の架構(図1に明示の如く、長方形の架構の短辺の長さ7,000(1)と長辺の長さ21,000(3)とは1:3の割合である)を、略X型に交差させて構成したX型基本架構の2つの端点2を連結し、中央部に生じた空間5も含めて、住棟ユニットとする。」(公報3欄24?30行)、 「図4に示される実施例では、2:4の割合の長方形の架構(図4に明示の如く、長方形の架構の短辺の長さ14,000(2)と長辺の長さ28,000(4)とは2:4の割合である)を略X型に交差させて構成した住棟ユニットを示すもので、このような割合(図1の実施例では長方形の架構の短辺の長さと長辺の長さの割合が1:3であるのに対し、図4の実施例では2:4である)に於いても、構成が可能であることを明確にしている。」(公報4欄25?33行)。 図3には、X型基本架構を2つ連結した住棟ユニット同士を平行に配置したものが例示され、X型基本架構には、バルコニーが付設されたことが記載されている。 図5に示される実施例では、X型基本架構を2つ連結した住棟ユニットを形成する架構法によって生じた住戸パターンが記載されている。 これらの記載によれば、「X型基本架構」は、平面視が2つの長方形を交差させた略X型形状となるように、柱、梁、壁等を連結した架構であり、長方形の長辺及び短辺を形成する柱、梁の数、あるいは、長辺と短辺の比率は 任意選択できるものであると認められる。 そして、X型基本架構同士を2つの端点で連結することによって中央部に生じた空間も含めて、「住棟ユニット」が形成され、住棟ユニットの外周が建物外周壁を形成することで、住戸の開放度を高める効果を奏するものと認められる。 第3 イ号方法 1.請求人によるイ号方法の説明 請求人による「イ号の説明」には、次のように記載されている。 【(イ)号の概要】 (イ)号は、上記のように【請求項1】を具備すると共に、その住棟ユニット周辺に敷地規模を活用するために、X型基本架構を5個に分解した正方形架構並びにその半分の補助架構を周辺に付加させて、外周が1架構ごとに凹凸する【請求項1】の基本構成を拡大・複雑化させた平面図を基に、建てられた建築である。 また、請求人による「特許・【請求項1】と(イ)号の対比」には、「(イ)号、構成・内容」として次のように記載されている。 「(イ)号建築を平面図で表したもの(証拠-3)に、(A)「長方形の架構を略X型に交差させたX型基本架構」を、(イ)号平面図の柱と柱を結び長方形の架構を略X型に交差させたX型基本架構を朱書(重ね書き)し、(A)を確認し、 上記、(イ)号平面図上に、左記(B)(当審注:本件特許発明の構成要件B)を朱書(重ね書き)し、(B)を確認し、 (イ)号平面図に左記(A)・(B)が具備された、住棟ユニットが形成されていることで、(C)を確認できた。」 2.イ号方法を表す証拠 しかし、上記「イ号の説明」、「(イ)号、構成・内容」及び証拠-3の「平面図」では、「イ号方法」が具体的に特定されていないことから、当審では、平成20年5月29日付けの審尋指令により請求人及び被請求人に対し、イ号方法の構成を明確することを求めたところ、請求人から平成20年6月24日付け回答書とともに証拠-3’の1ないし証拠-3’の3が提出され、被請求人からは平成20年6月20日付け回答書とともに乙第4号証及び乙第5号証が提出された。 これらの証拠には次の事項が記載されている。 (1)請求人が提出した証拠-3は、イ号方法により建築された集合住宅「(仮)グローリオ麻布霞町」(以下、「イ号建築」という。)の3階平面図であり、請求人がX型基本架構であるとして朱書きした2つのX型空間と、その周囲に設けられ、柱で囲まれた多数の平面視正方形の空間が配置されていることが示されている。 (2)請求人が提出した証拠-3’の1は、証拠-3と同一の、イ号建築の3階平面図であり、請求人がX型基本架構であるとして朱書きした2つの形状の異なる空間と、その周囲に設けられ、柱で囲まれた多数の平面視正方形の空間及びその半分広さの空間を有していることが示されている。 (3)被請求人の提出した乙第4号証には、イ号建築の2階梁伏図、3階梁伏図、軸組図、柱芯図等が示されている。 このうち、「3階梁伏図」には、証拠-3の3階平面図に記載された多数の柱は相互に梁で連結されることが示されている。 また、「柱芯線図」には、平面図におけるXY座標のX2?X13、Y1?Y13に配置される柱の位置が示されている。 さらに、「Y1通り軸組図」、「Y3通り軸組図」、「X5通り軸組図」、「X7通り軸組図」及び「柱芯線図」には、証拠-3の3階平面図における、Y1-X9、Y1-X10、Y1-X11、Y1-X12の位置の柱は同列に配置されて梁で連結されること、同様にY3-X7ないしY3-X13の位置の柱は同列に配置されて梁で連結されること、X5-Y5ないしX5-Y13の位置の柱は同列に配置されて梁で連結されること、X7-Y3ないしX7-Y13の位置の柱は同列に配置されて梁で連結されることが示されている。 (4)被請求人の提出した乙第5号証には、イ号建築の敷地配置図、各階平面図、立面図が記載されている。 請求人が提出した証拠-3及び証拠-3’の1は同じ「イ号建築」の3階平面図であり、証拠-3にX型基本架構として朱書きされた部分と、証拠-3’の1にX型基本架構として朱書きされた部分とが異なることからみて、それぞれ、多数の柱の内の任意のものを選択して朱書きしたと解するほかなく、証拠-3又は証拠-3’の1で朱書きされた部分が、住棟ユニットを形成しているとすることはできない。 また、朱書きされた部分以外に多数の柱が並列して配置されており、朱書きされた部分の外周の大半は建物外周線を構成するものではないことからみても、朱書きした部分のみが住棟ユニットを形成しているとすることはできない。 3.イ号方法の構成 したがって、証拠-3、証拠-3’の1に示される「イ号建築」の3階平面図及び乙第4号証、乙第5号証に基いて、イ号方法は、次のとおりのものと特定する。 【イ号方法】 「柱、梁を組み合わせた鉄筋コンクリートラーメン構造により架構を構成し、外周面に多数の凹凸面を有する住棟を形成する住棟の架構法」 第4 当事者の主張 1.請求人の主張 請求人は、判定請求書において、イ号建築は、証拠-3に朱書きされたX型基本架構を連結して住棟ユニットが形成されており、本件特許発明の構成要件A、B、Cを包含しているから、イ号方法は、本件特許発明の技術的範囲に属する旨主張している(請求書4頁目)。 また、イ号建築は、X型基本架構の周囲に正方形架構及び補助架構を付加させているが、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記した構成、作用、効果を奏しており、均等の要件(1)(2)を満たしており、さらに、被請求人は本件特許発明に基づき建築プランをイ号建築の建築主で提案しており、イ号建築の製造時に、異なる部分を容易に想到できるから均等の要件(3)を満たしており、本件の出願は、イ号建築の完成前であるから、均等の要件(5)を満たしている旨、主張する(請求書3頁目1?4行、5頁目1?25行)。 請求人は、さらに、平成20年6月24日付け回答書において、イ号方法は、証拠-3’の1に朱書きされた長方形を交差させた架構を連結して住棟ユニットを形成した住棟ユニットであるから、本件特許発明の技術的範囲に属する旨主張している。 2.被請求人の主張 被請求人は、判定請求答弁書及び平成20年6月20日付け回答書において、イ号方法は、一般的に用いられている4本の柱で囲まれた正方形の空間を基本単位として、これを敷地の地形に合わせて組み合わせたものであり、X型基本架構を構成していない。要するに、ラーメン構造を組み合わせたものであり、本件特許発明の本質的部分を含んでいないから、本件特許発明の技術的範囲に属するものではない旨主張している。 被請求人は、さらに、イ号方法は建物を雁行させたものにすぎず、建物を雁行させて日照、採光、通風量を確保することは乙第2号証の1?9に示すように、既に公知の技術であること、イ号建築は請求人が被請求人に本件特許発明に係る図面を提案する以前に作成されていたもので、提案された図面をもとに作成したものではないことを挙げて、イ号方法は均等の要件を満たしていないことを主張している。 第5 対比・判断 本件特許発明とイ号方法とを対比すると、イ号方法は、柱、梁を組み合わせた鉄筋コンクリートラーメン構造により架構を構成するものであって、長方形の架構を略X型に交差させてX型基本架構を構成し、前記X型基本架構同士を2つの端点で連結することによって中央部に生じた空間も含めて住棟ユニットを形成するものではない。 したがって、イ号方法は、本件特許発明の技術的範囲に属するとすることはできない。 第6 均等について 最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日判決言渡、民集52巻1号113頁)は、特許発明の特許請求の範囲に記載された構成中に、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という)と異なる部分が存在する場合であっても、以下の対象製品等は、特許請求の範囲に記載された製品等と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であるとしている。 積極的要件 (1)相違部分が、特許発明の本質的な部分でない。 (2)相違部分を対象製品等の対応部分と置き換えても、特許発明の目的を達することでき、同一の作用効果を奏する。 (3)対象製品等の製造時に、異なる部分を置換することを、当業者が容易に想到できる。 消極的要件 (4)対象製品等が、出願時における公知技術と同一又は当業者が容易に推考することができたものではない。 (5)対象製品等が特許発明の出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情がない。 本件特許発明は、上記第2 2.に記載したように、X型基本架構同士を2つの端点2で連結して住棟ユニットを形成することにより、X型基本架構の建物外周壁は凹凸のある面となり、単調さをなくすとともに、外気に多く接することになり、住戸の開放度を高めるものとなる等の作用効果を奏するものであり、X型基本架構同士を2つの端点2で連結して住棟ユニットとすることが本件特許発明の本質的部分である。 そうすると、本件特許発明とイ号方法との異なる部分は、本件特許発明の本質的部分であるから、均等の要件(1)を満たしておらず、他の均等の要件について検討するまでもなく、イ号物件は本件特許発明と均等なものとすることはできない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、イ号方法は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 |
別掲 |
【(イ)号の概要】 (イ)号は、上記のように【請求項1】を具備すると共に、その住棟ユニット周辺に敷地規模を活用するために、X型基本架構を5個に分解した正方形架構並びにその半分の補助架構を周辺に付加させて、外周が1架構ごとに凹凸する【請求項1】の基本構成を拡大・複雑化させた平面図を基に、建てられた建築である。 乙第4号証(抜粋) |
判定日 | 2008-08-05 |
出願番号 | 特願平6-217804 |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZB
(E04B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 伊波 猛 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
伊波 猛 五十幡 直子 |
登録日 | 1998-02-20 |
登録番号 | 特許第2747794号(P2747794) |
発明の名称 | 住棟ユニットの架構法 |
代理人 | 小林 七郎 |