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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  E04G
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E04G
審判 全部無効 2項進歩性  E04G
管理番号 1182860
審判番号 無効2007-800088  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-04-26 
確定日 2008-07-28 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3764324号発明「コンクリート構造物およびその補修方法」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3764324号の請求項1?6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第3764324号に係る出願は,平成12年6月13日に特許出願され,その後の平成18年1月27日に,その請求項1?6に係る発明につき,特許の設定登録がなされたものである。
これに対して,請求人より平成19年4月26日に本件無効審判の請求がなされたものである。そして,本件無効審判における経緯は,以下のとおりである。

平成19年 4月26日 無効審判請求(甲第1?6号証の提出)
7月20日 答弁書(乙第1?2号証の提出)
7月20日 訂正請求書
9月20日 弁駁書(甲第7?8号証の提出)
平成20年 2月28日 口頭審理陳述要領書(請求人)
2月28日 口頭審理陳述要領書(被請求人,乙第3?11号
証の提出)
2月28日 第1回口頭審理
2月28日 無効理由通知
3月14日 上申書(請求人,審判請求書の補正)
3月14日 上申書(請求人,口頭審理陳述要領書の補正)
3月31日 訂正請求書
3月31日 意見書(参考資料1?3の提出)
3月31日 上申書(被請求人,参考資料4?7の提出)
5月12日 弁駁書(甲第9?20号証の提出)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件無効審判の「訂正の請求」は,本件特許明細書を平成20年3月31日付け訂正請求書に添付の訂正明細書に記載されたとおり,すなわち,次のとおりに訂正しようとするものである。

(訂正事項a)
特許請求の範囲【請求項1】の「コンクリート構造物表面に、シート状に配列した繊維束間に少なくとも辺長の一つが2mm以上で、繊維基材の最小幅以下の空隙を有している繊維基材を、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を用いて接着してなり、」とあるのを,「コンクリート構造物表面に、繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している繊維基材を、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を用いて接着してなり、前記繊維基材の接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われ、」と訂正する。

(訂正事項b)
特許請求の範囲【請求項4】の「コンクリート構造物表面に、シート状に配列した繊維束間に少なくとも辺長の一つが2mm以上で、繊維基材の最小幅以下の空隙を有している繊維基材を、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を用いて接着し、」とあるのを,「コンクリート構造物表面に、繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している繊維基材を、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を用いて接着し、前記繊維基材の接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われ、」と訂正する。

(訂正事項c)
特許請求の範囲【請求項5】の「コンクリート構造物表面に、シート状に配列した繊維束間に少なくとも辺長の一つが2mm以上で、繊維基材の最小幅以下の空隙を有している繊維基材を、埋め込み式アンカーピンと、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を併用して接着し、」とあるのを,「コンクリート構造物表面に、繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している繊維基材を、埋め込み式アンカーピンと、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を用いて接着し、前記繊維基材の接着剤による接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われ、」と訂正する。

(訂正事項d)
特許請求の範囲【請求項1】,【請求項4】及び【請求項5】の「繊維基材を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能」を「前記繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能」と訂正する。

(訂正事項e)
段落【0014】を次のとおりに訂正する。
「【0014】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、コンクリート構造物表面に、繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している繊維基材を、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を用いて接着してなり、前記繊維基材の接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われ、前記繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能であることを特徴とするコンクリート構造物である。」

(訂正事項f)
段落【0016】を次のとおりに訂正する。
「【0016】
また、本発明は、コンクリート構造物表面に、繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している繊維基材を、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を用いて接着し、前記繊維基材の接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われ、接着後に前記繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能とすることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法である。」

(訂正事項g)
段落【0017】を次のとおりに訂正する。
「【0017】
さらに、本発明は、コンクリート構造物表面に、繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している繊維基材を、埋め込み式アンカーピンと、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を併用して接着し、前記繊維基材の接着剤による接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われ、接着後に該繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能とすることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法である。」

(訂正事項h)
段落【0051】を次のとおりに訂正する。
「 参考例1
次に、本発明のアンカーピンの効果を確認する目的で行った試験の詳細を述べる。
図6は、本発明の参考例1のコンクリート構造物の効果を調べるための目視観察試験方法を説明するための概略構成図である。図6(a)は側面図、図6(b)は平面図である。
試験に用いたコンクリート構造物試験体は市販のボックスカルバートの天井表面(厚さ12cm)を用いた。」

(訂正事項i)
段落【図面の簡単な説明】を次のとおりに訂正する。
「 【図6】
本発明の参考例1のコンクリート構造物の効果を調べるための目視観察試験方法を説明するための概略構成図である。
【図7】
本発明の参考例1のアンカーピンを用いたコンクリート構造物の送風試験を示す説明図である。
【図8】
本発明の参考例1におけるアンカーピンを用いないコンクリート構造物の試験体を示す概略図である。」

2 訂正の目的の適否,新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項aについて
まず,「繊維基材の幅が10?100cmで」を追加する訂正は,特定事項である「繊維基材」を限定するもので,特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
また,本件発明の実施例として,本件特許明細書の段落【0042】?【0045】および図5には,10cm×10cm×20cmのコンクリート構造物2個に接着した「幅が10cmの繊維基材」が記載されており,同段落【0052】には「幅が100cmの繊維基材」が記載されている。そして,本件特許明細書には,幅が「10cm」と「100cm」との間の「繊維基材」については記載も示唆もされていないものの,特開平9-195445号公報の段落【0017】に「前記強化繊維シートのシート寸法は特に限定されず強化対象の構造物に応じて決定されるが、通常幅10?100cm、長さ1?500mのものを用いることができる。」と記載されているように,強化繊維シートの幅は,通常10?100cmであるといえる。なお,「繊維基材の幅は10?100cmであるのが、技術常識である」との認定は,第1回口頭審理において確認されている。
してみると,上記「繊維基材」についての訂正は,本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり,特許請求の範囲を実質上拡張し,又は変更するものでもない。

つぎに,「少なくとも辺長の一つが」を「辺長が」とする訂正,および「繊維基材の最小幅以下」を「10cm未満」とする訂正は,特定事項である「空隙」について,明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正であるといえる。また,上述したように,「繊維基材の幅」が通常10?100cmであるから,「空隙」が「10cm未満」となることは,自明の事項であるといえる。
してみると,上記「空隙」についての訂正は,本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり,特許請求の範囲を実質上拡張し,又は変更するものでもない。

さらに,「前記繊維基材の接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われ」を追加する訂正は,特定事項である「コンクリート構造物表面に、・・・・・接着してなり」を限定するもので,特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。そして,本件特許明細書の段落【0037】には,「接着剤を用いて繊維基材を接着する方法は、通常の繊維補強と同じ方法により行うことができ、その一例として含浸接着法が挙げられる。含浸接着方法は、プライマーを塗布、硬化したコンクリート構造物表面に下塗りとして接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付け、ゴムローラーやヘラで繊維基材中に接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして接着剤を繊維基材の上に塗布する手順で行なうことができる。」と記載されていることから,本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり,特許請求の範囲を実質上拡張し,又は変更するものでもない。

したがって,訂正事項aは,特許法134条の2第1項ただし書き1号および3号に規定する特許請求の範囲の減縮および明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるといえる。

(2)訂正事項bおよびcについて
訂正事項bおよびcは,【請求項4】及び【請求項5】について,訂正事項aと同じ内容の訂正をするものであるから,特定事項である「繊維基材」,「空隙」および「接着方法」を限定するもので,特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。
そして,上記「(1)訂正事項aについて」において述べたように,本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり,特許請求の範囲を実質上拡張し,又は変更するものでもないといえるから,訂正事項bおよびcは,特許法134条の2第1項ただし書き1号および3号に規定する特許請求の範囲の減縮および明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるといえる。

(3)訂正事項dについて
「繊維基材」を「前記繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙」とする訂正は,「繊維基材」が「繊維束」と「接着剤が含浸した空隙」から構成されているのは明らかであり,特定事項の「目視観察可能」とする部分を後者に限定するものであるから,特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。
そして,本件特許明細書の段落【0024】には,「図1および図2に示した形状の繊維基材を使用することにより、繊維基材をコンクリート構造物表面に接着した後も繊維基材の空隙2によりコンクリート構造物表面のクラック、ひび割れ等の変状を目視観察する事が可能となる。」と記載されていることから,本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり,特許請求の範囲を実質上拡張し,又は変更するものでもないといえるから,訂正事項dは,特許法134条の2第1項ただし書き1号および3号に規定する特許請求の範囲の減縮および明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるといえる。

(4)訂正事項e?gについて
訂正事項e?gは,特許請求の範囲を訂正する訂正事項a?dに伴う訂正であって,明りょうでない記載の釈明を目的とするものであることは明らかである。

(5)訂正事項h?iについて
訂正事項h?iは,明りょうでない記載の釈明を目的とするものであることは明らかである。
なお,本件特許明細書の段落【0051】および【図面の簡単な説明】の【図6】における「目視観察試験」との記載は,同段落【0051】?【0055】中に目視観察を行った旨の記載がないことからみて,単なる誤記であると認められる。

3 むすび
以上のとおり,上記訂正事項a?iは,特許法134条の2第1項ただし書きに適合し,同条5項において準用する同法126条3項及び4項の規定に適合するから,当該訂正を認める。

第3 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は,審判請求書および平成20年5月12日付け弁駁書の23頁13行?24頁8行によれば,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1?6に記載された事項により特定される発明の特許を無効とする理由として概ね次のように主張し,甲第1号証?甲第20号証を提出している。

(無効理由1)
請求項1及び4に係る発明は,本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証,甲第4号証または甲第8号証に記載された発明であるから,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないものである。
また,請求項5に係る発明は,本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないものである。
よって,その特許は特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきである。

(無効理由2)
請求項1?6に係る発明は,甲第1号証,甲第4号証または甲第8号証に記載された発明,あるいは甲第1,4または8号証ならびにこれらと甲第5号証または甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって,その特許は特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきである。

(無効理由3)
「可視光透過率の規定」,「コンクリート構造物表面が目視観察可能であるとする規定」は依然として不明りょうであり,実施例として示された数値も信憑性に乏しく,また,「実施例4を参考例1と訂正」したとしても,発明の詳細な説明は,本件各請求項の発明を説明するものではなく,依然として特許法36条4項の規定を満たしていないものである。
よって,本件特許は,特許法123条1項4号に該当し,無効とすべきである。

なお,上記弁駁書における主張の内,甲第9,10および11号証に基づく主張は,審判請求の趣旨及びその理由を変更するものであるから,採用しないこととする。また,甲第17号証に基づく主張も同様である。

甲第 1号証:特開平 4-336242号公報
甲第 2号証:試験結果報告書 財団法人 日本塗料検査協会,平成19年
3月16日報告
甲第 3号証:月刊リフォーム 1995年10月号,株式会社テツアドー
出版,平成7年9月25日発行,78?83頁
甲第 4号証:特開平11- 34199号公報
甲第 5号証:特開平10-252282号公報
甲第 6号証:実開平 2-128753号公報
甲第 7号証:特開平 9- 67946号公報
甲第 8号証:特開平10-299262号公報
甲第 9号証:カタログ「2方向フィブラシート」ファイベックス株式会社
甲第10号証:繊維工学 Vol.47 No.11,pp.473?47
7,「ガラス繊維を織る,編む,組む」,飯島和夫,199
4
甲第11号証:カタログ 「日東紡 三軸組布」,1989.10.1
甲第12号証:試験結果報告書,(財)日本塗料検査協会作成,平成20年
4月24日
甲第13号証:材料利用ハンドブック,中小企業事業団中小企業研究所編,
田中良平監修,日刊工業新聞社,昭和63年3月25日
甲第14号証:試験結果報告書,昭和高分子株式会社伊勢崎研究所 伊藤大
悟 作成,平成20年4月24日
甲第15号証:炭素繊維補修・補強工法技術研究会トンネル部会編,「炭素
繊維シートによるコンクリート構造物の補修・補強 設計・
施工マニュアル(案)トンネル覆工編」 平成9年4月 第
三版,平成12年7月
甲第16号証:試験成績書,日米レジン(株),平成8年11月8日
甲第17号証:特開2001-20147号公報
甲第18号証:日米レジン(株)ホームページの商品一覧表
甲第19号証:電気化学工業(株)ホームページ「デンカハードロックII
製品詳細情報」
甲第20号証:AAA(トリプルA)工法(JR東日本:土木工事標準仕様
書収載)標準施工要領書,平成17年4月,電気化学工業株
式会社特殊混和材事業部

2 被請求人の主張
被請求人は,乙第1?11号証を提出するとともに,平成20年3月31日に訂正請求書を提出し,答弁書および口頭審理陳述要領書によれば,訂正後の請求項1?6に係る発明は,甲第1,4あるいは8号証に記載された発明でもなく,また,甲第1?8号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,発明の詳細な説明において本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しており,また,特許を受けようとする発明は明確であるから,本件特許を無効とすべきではない旨主張している。

乙第 1号証:本件特許発明の空隙を有する繊維基材の一例を示す概略図
乙第 2号証:試験結果報告書 財団法人 日本塗料検査協会
乙第 3号証:監修 日本道路公団「構造物施工管理要領」,284?28
7頁,財団法人道路厚生会,平成16年4月発行
乙第 4号証:編集 日本道路公団「構造物施工管理要領」,289?29
1頁,財団法人道路厚生会,平成11年7月発行
乙第 5号証:社団法人 日本コンクリート工学協会「コンクリートのひび
割れ調査・補修指針(昭和59年度版)」,6?7,76?
77頁,財団法人日本コンクリート工学協会,昭和59年6
月25日発行
乙第 6号証:本件訂正発明の空隙を有する繊維基材の一例を示す概略図
乙第 7号証:本件訂正発明の空隙を有する繊維基材の一例を示す概略図
乙第 8号証:日本接着学会 編「接着用語辞典」,9頁,日刊工業新聞社
,1991年12月20日発行
乙第 9号証:電気化学工業株式会社 商品カタログ「繊維接着樹脂 アク
リアルS」
乙第10号証:日米レジン株式会社 「試験成績書 アルプロンA-105
A」
乙第11号証:電気化学工業株式会社 ハードロックII試験成績表

第4 甲号各証の記載内容
1 甲第1号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には,「繊維強化樹脂補強セメント系構造体」について図面とともに,以下の事項が記載されている。

(甲1-イ)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 セメント系材料からなる構造体の外表面に、補強繊維基材を含む繊維強化樹脂層が接着によって形成されたセメント系構造体であって、前記補強繊維基材は、炭素繊維糸条群と他の繊維糸条群が、該補強繊維基材の少なくとも一部が前記他の繊維糸条群のみから形成されるように配列された繊維基材からなり、前記他の繊維糸条群は、繊維強化樹脂層として成形されたときに該繊維強化樹脂層の前記他の繊維糸条群部分が透明または半透明になる繊維糸条からなることを特徴とする繊維強化樹脂補強セメント系構造体。
【請求項2】 前記繊維強化樹脂層が、複数の前記補強繊維基材の積層体を含み、各補強繊維基材は、炭素繊維糸条群と前記他の繊維糸条群とが交互に配列された繊維基材からなり、前記補強繊維基材の積層体は、各補強繊維基材の前記他の繊維糸条群部分同士が互いに重なり合うように積層されている請求項1の繊維強化樹脂補強セメント系構造体。」

(甲1-ロ)
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、繊維強化樹脂補強セメント系構造体に関し、さらに詳しくは、繊維強化樹脂層で補強された、コンクリートからなる橋の床版や橋脚、モルタルからなる壁材等のセメント系構造体に関する。」

(甲1-ハ)
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】この発明の目的は、上述した問題を解決するために、セメント系構造体の十分な補強を行いつつ、同時に構造体のひび割れ箇所、水漏れ箇所や、補強材たるFRP層の剥離箇所などを容易にかつ正確に見付け出すことができるセメント系構造体を提供することにある。」

(甲1-ニ)
「【0005】
【課題を解決するための手段】この目的に沿う本発明の繊維強化樹脂補強セメント系構造体は、セメント系材料からなる構造体の外表面に、補強繊維基材を含む繊維強化樹脂層が接着によって形成されたセメント系構造体であって、前記補強繊維基材は、炭素繊維糸条群と他の繊維糸条群が、該補強繊維基材の少なくとも一部が前記他の繊維糸条群のみから形成されるように配列された繊維基材からなり、前記他の繊維糸条群は、繊維強化樹脂層として成形されたときに該繊維強化樹脂層の前記他の繊維糸条群部分が透明または半透明になる繊維糸条からなる。」

(甲1-ホ)
「【0012】図1に示す態様では、セメント系構造体1の下面に、積層された5枚の補強繊維基材3_(1)、3_(2)、3_(3)、3_(4)、3_(5)を含むFRP層2が接着によって形成されている。5枚の各補強繊維基材3_(1)、3_(2)、3_(3)、3_(4)、3_(5)は、セメント系構造体の長さ方向Aにおいて帯状に、かつ幅方向Bにおいて間隔をもたせて配列された炭素繊維糸条群4_(1)、4_(2)、4_(3)、4_(4)、4_(5)と、これと交互配列をなす、炭素繊維以外の他の繊維糸条群5_(1)、5_(2)、5_(3)、5_(4)、5_(5)とからなり、炭素繊維糸条群部分同士および他の繊維糸条群部分同士が互いに重なり合うように各補強繊維基材が積層されている。そして、FRP層に成形したときに、他の繊維糸条群部分同士が互いに重なり合った部分が、透明または半透明となるようになっている。
【0013】図2に示す態様では、FRP層12を構成する各補強繊維基材13_(1)、13_(2)、13_(3)、13_(4)、13_(5)の帯状炭素繊維糸条群14_(1)、14_(2)、14_(3)、14_(4)、14_(5)が、セメント系構造体1の長さ方向Aと幅方向Bの2方向に配列されている。他の繊維糸条群15_(1)、15_(2)、15_(3)、15_(4)、15_(5)は、セメント系構造体1の長さ方向Aのみに配列されているが、これも幅方向Bとの2方向に配列されていてもよい。帯状の炭素繊維糸条群は間隔をもたせて2方向に配列されているので、各炭素繊維糸条群間に、角形の、他の繊維糸条群のみからなる部分が形成され、各補強繊維基材の、上記他の繊維糸条群のみからなる部分同士が互いに重なり合うように積層されている。」

(甲1-ヘ)
「【0015】また、図2に示した、炭素繊維糸条群がセメント系構造体1の長さ方向と幅方向の2方向に配列したFRP層12を設けるには、図3の一方向織物を長さ方向と幅方向に交互に積層することによっても得られるし、また、炭素繊維糸条群と他の繊維糸条群が交互に、縦方向および横方向の2方向に配列した2方向織物を積層することによっても得られる。」

(甲1-ト)
「【0018】なお、本発明に使用する補強繊維基材の炭素繊維は、セメント系構造体の補強を担うものであるからして、繊維基材全体の繊維に対して50?90体積%であることが好ましい。90%以上になると、透明または半透明のFRP部の面積が小さくなり、水漏れ箇所などが発見し難くなるので好ましくない。また、水漏れ箇所などを発見しやすくするため、他の繊維糸条群は、帯状の1糸条群の幅が10mm?300mm、より好ましくは50mm?250mmであることが好ましい。これよりも狭いと、補強繊維基材同士積層の際の互いの層のずれにより、透明または半透明のFRP部の面積が小さくなり、水漏れ箇所が発見し難くなる。」

(甲1-チ)
「【0019】本発明の繊維強化樹脂補強セメント系構造体は、たとえば次のように作成することができる。まず、補強繊維基材の積層に入る前の補修として、セメント系構造体の補強箇所にひび割れが入っているような場合、ひび割れ部にエポシキ樹脂系のパテを埋め込んで水漏れを防止しておく。また、セメント系構造体の表面が凸凹している場合、補強繊維基材はドレープ性があるので若干の凸凹には沿うが、凸凹の程度が大きい場合グラインダーでセメント系構造体の表面を削って平滑にし、またFRP層との接着をより良くするために、エポシキ樹脂系のプライマーを塗布する。
【0020】補強されるセメント系構造体に、広幅の補強繊維基材を必要枚数積層し、その周囲にブリーダを置き、これらをバッグフイルムで覆い、ブリーダの外側に配したシーリング材でセメント系構造体とバッグフイルムを接着させ、補強繊維基材とブリーダをフイルムでバッグする。ブリーダの所に吸引口、補強繊維基材の所に樹脂の導入口を取付け、吸引口から真空ポンプでバッグ内を真空状態にしながら樹脂タンクから樹脂を供給し、補強繊維基材に樹脂含浸させる。樹脂は補強繊維基材に含浸しながら樹脂の導入口から吸引口へと流れ、補強繊維基材の全面に樹脂が含浸される。この方法によると、補強繊維基材を広幅の状態で使用できるので、補強のための成形作業が簡単にできる。
【0021】なお、FRPのマトリックスとなる樹脂として室温硬化型の熱硬化性樹脂を使用すれば、注入後その状態で外気温に放置すれば樹脂が硬化するので、セメント系構造体の補修作業が簡単になり好ましいが、必要に応じ加熱硬化型の熱硬化性樹脂を使用し、ホットプレート等で加熱硬化させることもできる。本発明に使用する熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂やフェノール樹脂等が挙げられるが、なかでもエポキシ樹脂はセメント系構造体や炭素繊維との接着が良いので好ましい。また、通常、セメント系構造体の補修や補強には、樹脂の上部から下部への垂れ流れや、含浸作業における樹脂の飛散防止のため、炭酸カルシウムなどの不透明な充填材を入れて、粘度の高い樹脂が使用され、補強繊維基材への樹脂含浸を悪くしているが、上記の方法では、不透明な充填材を用いる必要は無く、比較的透明な3?20ポイズの低粘度樹脂で成形が可能である。樹脂の粘度が低いので、補強繊維基材への樹脂含浸も良くなる。
【0022】なお、真空バッグによってマトリックス樹脂の硬化後バッグフイルムを剥がし、FRP層の表面にウレタン系の塗料やアクリル系の塗料で表面塗装することもできるが、バッグフイルムを剥がさず残しておくことによって、紫外線によるマトリックス樹脂の劣化を防ぐことができ、また装飾効果を持たせることも可能になる。…」

(甲1-リ)
「【0023】本発明の繊維強化樹脂補強セメント系構造体は、上述した以外にも様々な形態を採ることができる。たとえば、水漏れ箇所などをより発見しやすくするため、他の繊維糸条群からなるFRP部に直径5?10mm程度の、FRP部を貫通しセメント系構造体に到達する穴を開けておいても良い。他の繊維糸条群からなるFRP部は基本的には補強を担うものでないから、穴を開けることによって、FRP層の補強効果が低下する心配はほとんどない。また、他の繊維糸条群からなるFRP層の落下防止のため、セメント系構造体とボルトによる締結を合わせ行ってもよい。」

(甲1-ヌ)
「【0024】
【発明の効果】本発明の繊維強化樹脂補強セメント系構造体によるときは、セメント系構造体に、炭素繊維糸条群と他の繊維糸条群からなる補強繊維基材を含むFRP層を接着によって形成し、そのFRP層に他の繊維糸条群のみを有する透明または半透明の部分を形成したので、炭素繊維糸条群を有するFRP層によるセメント系構造体の補強を達成しつつ、同時に、上記透明または半透明FRP部を介して長年の使用によるセメント系構造体のひび割れ箇所、水漏れ箇所や、補強材たるFRP層の剥離箇所などを容易にかつ正確に発見することができる。」

2 甲第2号証
甲第2号証は,財団法人日本塗料検査協会東支部が作成した試験結果報告書(平成19年3月16日報告)であって,以下の事項が記載されている。

「提出された試験片について、JIS K 7105:1981 プラスチックの光学的特性試験方法 5.5光線透過率及び全光線反射率に準じ、全光線透過率を求めた。試験結果を表-1に示す。





3 甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には,「炭素繊維シートによるコンクリート構造物の補強」の施工実例として,図面とともに,以下の事項が記載されている。

(甲3-イ)
「また,RC床版において床版防水工がない場合には,設計前に床版防水工の提案を行うと共に,図3に示すように炭素繊維シートを格子状に貼り付けることによっても工法の耐久性を高めることができると考えられる。
格子状に貼り付けた場合には,雨水の滞留を防ぐと共に,ひび割れ伸展の観察などもできるメリットがあることから,首都高速道路公団では本仕様を採用している。」(79頁中欄3?14行)

(甲3-ロ)
「含浸接着剤であるエポキシ樹脂接着剤は,・・・・・硬化するまで炭素繊維シートをコンクリート面に保持する粘着力が求められる・・・・・」(79頁中欄16行?同頁右欄3行)

(甲3-ハ)
「また,貼付けが格子状となっているのは補強後のひび割れの進行具合を経過観察し,炭素繊維シートの効果を確認するためのものである。」(82頁中欄2?6行)

(甲3-ニ)
「施工時期が冬季となるため,炭素繊維シートのマトリックス材であるエポキシ樹脂の施工環境温度管理(5℃以上)には十分注意し,特に午後からの気温低下に対してはジェットヒーターで昇温を図った。さらに湿度管理も行い,結露の発生には十分気をつけた。プライマー塗布時にはコンクリート表面水分を計測し8%以下で施工を行った。
エポキシ樹脂の材料性能を十分発揮させるには上記の管理が基本となる。」(82頁中欄7行?同頁右欄1行)

(甲3-ホ)
「炭素繊維シートの貼付け時には塗装用短毛ローラー等で十分に時間をかけてしごき,樹脂を含浸させ,気泡を除去した。」(82頁右欄2?5行)

(甲3-ヘ)
「帯状の炭素繊維シートを,該シート間に300mm×420mmの空隙を形成するように,コンクリート構造物表面に格子状に貼り付ける。」(81頁中欄図1)

4 甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には,「コンクリート躯体の補強工法」について図面とともに,以下の事項が記載されている。

(甲5-イ)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、橋梁、トンネル、建物等のコンクリート躯体の補強に関する。」

(甲5-ロ)
「【0017】上記構成からなるアンカーピンを用いて、貼着補強法が施されたコンクリート躯体の補強工法について説明する。先ず、炭素繊維シート材等の補強材25がエポキシ樹脂等の接着剤によって貼着されたコンクリート躯体26に、その補強材25の上からドリルにて、図4に示すように、アンカーピン本体1が嵌入可能で、且つアンカーピン本体1 を嵌入した際にその螺子部8がコンクリート躯体26の外面側に突出する程度の深さの穴27を設ける。・・・・・
【0019】次に、穴27にアンカーピン本体1を嵌入し、後端部1cの開口部2 から先端が尖状の拡張具29を挿入してその拡張具29の後端を打込棒(図示せず)を介して打叩する。かかる拡張具29によってアンカーピン本体1の突起部3,3が押し拡げられてアンカーピン本体1 の先端部1b側がコンクリート躯体26に食い込み固定される。」

5 甲第6号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には,「ピンニング工事に用いられる接着剤注入兼用アンカーと該アンカー専用固定ピン」について図面とともに,以下の事項が記載されている。

(甲6-イ)
「【実用新案登録請求の範囲】
(1) アンカー本体1の内部に接着剤注入孔2を長手方向に沿つて貫通形成し、その先端1a側の内部の径を、アンカー作用ピン挿入によつてカム作用をなすテーパ状乃至突起形状によつて小径に形成し、該アンカー本体1の先端1aから基端部1bの方に長手方向に沿つて、且つ、前記接着剤注入孔2に連通したスリツト3を形成し、該アンカー本体1を建築構造物の表面仕上げ体4を貫通して壁本体5に亘つて穿設されたアンカー孔6に挿入し、前記基端部1bの注入口1cから前記スリツト3を通して接着剤8を注入するピンニング工事に用いられる接着剤注入兼用アンカーであつて、前記アンカー本体1を先端1a側から基端部1bにかけて実質的に同径に構成し、前記スリツト3をアンカー本体1の先端1a側部分で、該アンカー本体1の全長の略1/2よりも短く構成し、該アンカー本体1の基端部1b側にネジ部10を形成し、該ネジ部10にストツパー9を着脱自在に螺合させたピンニング工事に用いられる接着剤注入兼用アンカー。・・・」

6 甲第8号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第8号証には,「複合体および補修方法」について図面とともに,以下の事項が記載されている。

(甲8-イ)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記(1)と(2)が接着あるいは一体化複合された層が、補修される物体の面上に接着被覆されていることを特徴とする複合体。
(1)常温ラジカル反応性化合物より得られた樹脂。
(2)アラミド樹脂から成る補強層。
【請求項2】 常温ラジカル反応性化合物より得られた樹脂が(メタ)アクリル酸エステル系樹脂であることを特徴とする請求項1の複合体。
【請求項3】 常温ラジカル反応性化合物より得られた樹脂が不飽和ポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1の複合体。
【請求項4】 請求項1の複合体の常温ラジカル反応性化合物より得られた樹脂がビニルエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1の複合体。
【請求項5】 該補強層の少なくとも一方向の引張強度が、50Kg/cmより高いことを特徴とする請求項1の複合体。
【請求項6】 該補強層の単位面積あたりのアラミド繊維の重量が50g/m^(2)?1000g/m^(2)であることを特徴とする請求項1の複合体。
【請求項7】 該補強層が、織物、編織物、不織布、網状物、紙状物、ハニカム状物、フィルムあるいはシート状物から選ばれた層であることを特徴とする請求項1の複合体。
【請求項8】 該補強層が、一方向性または交差する角度の繊維から成り、少なくとも一方向の繊維がアラミド樹脂から成ることを特徴とする請求項7の複合体。
【請求項9】 該補修される物体がコンクリートからなることを特徴とする請求項1の複合体。
【請求項10】 該補修される物体に常温ラジカル反応性樹脂を塗布後、アラミド樹脂から成る補強層を設けることを特徴とする補修方法。」

(甲8-ロ)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、複合体および補修方法であり、特にアラミドと常温ラジカル反応性化合物より得られた樹脂の複合体および補修方法、コンクリート製品、構造物などの補強方法に関するものである。」

(甲8-ハ)
「【0033】本発明における、アラミド樹脂から成る補強層とは、特に限定されるものではないがアラミドの繊維シートであることが好ましい。つまり、一方向性または交差する角度の繊維から成る織物、編織物、不織布、網状物、紙状物、ハニカム状物、フィルムまたはシート状物から選ばれた層であり、少なくとも一方向の繊維がアラミド樹脂から成ることが好ましい。この中で織物が好ましい。」

(甲8-ニ)
「【0038】本発明の施工方法は、補修される物体に常温ラジカル反応性樹脂を塗布し、アラミド樹脂からなる補強層を付着させたり、張り付けたり、巻き付けるなど特に限定されるものではないが、以下の例が挙げられる。すなわち、例えば、コンクリート表面に繊維シートを貼り付ける手順として、先ず、コンクリート表面を適当に剥離、研磨等によって表面の脆弱な層を取り除き、また、場合によっては隅角部を削り、適度に丸めたり、窪んだ部分にパテ等を充填して不陸調整(窪みがあって平坦でない面を平らな面に修正すること)を行う。こうした下地処理を行った後、コンクリートの表面にプライマー樹脂を塗布し、乾燥させる。プライマーは通常、繊維シートに含浸させる樹脂と同種類の物を使用する。従って、ラジカル反応性樹脂を含浸樹脂として使用する場合には、コンクリートに浸透しやすいように粘度(0.5?200ポイズが好ましく、0.8?100ポイズがより好ましい)等を調整されたラジカル反応性樹脂がプライマーとして用いられる。塗布量は50?500g/m^(2)が好ましい。コンクリート表面にプライマーが塗布され、十分に乾燥したのち、接着・含浸樹脂であるラジカル反応性樹脂がその上に塗布される。接着・含浸樹脂の塗布量は100?1000g/m^(2)が好ましい。
【0039】塗布後、直ちに繊維シートを貼り付け、ローラーなどを用いて、樹脂を十分に繊維シートに含浸させる。接着貼り付け用の下塗り樹脂が十分含浸したことを確認した後、同じ樹脂を用いて、上塗りを行う。繊維シート全面に均一にラジカル反応性樹脂を塗布した後、上塗り樹脂の塗布量は100?2000g/m^(2)が好ましい。」

(甲8-ホ)
「【0046】市販のコンクリート板の表面をサンドペーパーで処理し、脆弱な層を除去した後、メチルメタクリレート樹脂100部とBPO2部の混合物を単位面積あたり150g/m^(2)になるように塗布する。約30分間硬化させた。次いで上記混合物にチキソトロピー性を付与した接着・含浸性のメチルメタクリレート樹脂を、単位面積当たり300?500g/m^(2)になるよう塗布した。塗布後、直ちにアラミド繊維シートを貼り付ける。アラミド繊維シートとコンクリート面の間に空気が残らないように脱泡ローラーをシートの上をロールさせた。樹脂が硬化した後、さらに同じ樹脂混合物を単位面積当たり300g/m^(2)?500g/m^(2)となるよう塗布し、含浸させた。硬化後、建研式接着強力測定を行い、シートとコンクリートの接着力を測定した。その結果を表4に示した。
【0047】
【表4】
・・・
表4から分かるように、アラミド繊維シートのコンクリート面への接着は良好で、また接着強度も高く、繊維シートと樹脂層の剥離やコンクリートと樹脂層間の剥離もなく、コンクリート層の母材破壊であった。」

上記(甲8-イ)?(甲8-ホ)および技術常識を総合すれば,甲第8号証には,以下の「複合体」および「補修方法」の発明が記載されていると認められる。

「下地処理を行った後,コンクリート表面にラジカル反応性樹脂のプライマー樹脂が塗布され,十分に乾燥したのち,接着・含浸樹脂であるラジカル反応性樹脂がその上に塗布され,塗布後,直ちに網状物の繊維シートを貼り付け,ローラーなどを用いて,該接着・含浸樹脂を十分に前記繊維シートに含浸させ,十分含浸したことを確認した後,同じ樹脂を用いて,上塗りが行われるコンクリート構造物。」(以下,「甲8-1発明」という。)

「下地処理を行った後,コンクリート表面にラジカル反応性樹脂のプライマー樹脂が塗布され,十分に乾燥したのち,接着・含浸樹脂であるラジカル反応性樹脂がその上に塗布され,塗布後,直ちに網状物の繊維シートを貼り付け,ローラーなどを用いて,該接着・含浸樹脂を十分に前記繊維シートに含浸させ,十分含浸したことを確認した後,同じ樹脂を用いて,上塗りが行われるコンクリート構造物の補修方法。」(以下,「甲8-2発明」という。)

第5 当審の判断
1 本件発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下,「本件発明1?6」という。)は,上記訂正の請求が認められることから,平成20年3月31日付け訂正請求書に添付された訂正明細書(以下,「本件特許明細書」という。)及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲請求項1?6に記載された事項により特定された次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
コンクリート構造物表面に、繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している繊維基材を、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を用いて接着してなり、前記繊維基材の接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われ、前記繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能であることを特徴とするコンクリート構造物。
【請求項2】
前記繊維基材を埋め込み式アンカーピンと接着剤を併用してコンクリート構造物へ接着してなる請求項1記載のコンクリート構造物。
【請求項3】
前記埋め込み式アンカーピンを機械的固定と接着的固定とを併用して固定することを特徴とする請求項2記載のコンクリート構造物。
【請求項4】
コンクリート構造物表面に、繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している繊維基材を、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を用いて接着し、前記繊維基材の接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われ、接着後に前記繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能とすることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。
【請求項5】
コンクリート構造物表面に、繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している繊維基材を、埋め込み式アンカーピンと、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を用いて接着し、前記繊維基材の接着剤による接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われ、接着後に前記繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能とすることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。
【請求項6】
前記埋め込み式アンカーピンを機械的固定と接着的固定とを併用して固定することを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補修方法。」

2 無効理由2について
(1)本件発明1についての対比・判断
本件発明1と甲8-1発明とを対比すると,甲8-1発明の「コンクリート構造物」は,本件発明1の「コンクリート構造物」に相当し,以下,「アラミド繊維シート」は「繊維基材」に,「接着・含浸樹脂であるラジカル反応性樹脂」は「接着剤」に,「ラジカル反応性樹脂のプライマー樹脂」は「下塗りとして」の「前記接着剤」に,それぞれ相当するといえる。また,甲8-1発明の「繊維」と本件発明1の「繊維束」とは,「繊維条」として共通するといえるとともに,甲8-1発明の「繊維シート」は,「網状物」であるから繊維条間には「空隙」が存在するといえる。
してみると,両者は,

(一致点)
「コンクリート構造物表面に,シート状に配列した繊維条間に空隙を有している繊維基材を,接着剤を用いて接着してなり,前記繊維基材の接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し,その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ,さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われるコンクリート構造物。」
の点で一致し,以下の各点で相違する。

(相違点1)
繊維基材について,本件発明1では「繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している」のに対し,甲8-1発明では「網状物の繊維シート」であるものの,その幅が不明であり,繊維条間に「空隙」を有しているものの,繊維条が繊維束である否か不明であり,その「空隙」の大きさも不明である点。

(相違点2)
本件発明1では,「1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を用いて接着してなり、・・・・・前記繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能である」のに対し,甲8-1発明では,「接着・含浸樹脂であるラジカル反応性樹脂」の「1mm厚みの硬化体の可視光透過度」が不明であり,コンクリート構造物表面が目視観察可能であるか否か不明である点。

(相違点1について)
まず,上記「第2 訂正の適否 2 訂正の目的の適否,新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項aについて 」において述べているように,強化繊維シートの幅は,通常10?100cmであるといえる。そうすると,甲8-1発明の「アラミド繊維シート」には,10?100cmのものも含まれるといえるから,相違点1の内,「繊維基材の幅が10?100cmで」ある点は,実質的な相違点とはいえない。

つぎに,本件発明1は,接着剤の粘性については何ら限定されていないものの,「空隙」の大きさについては「2mm以上10cm未満」と限定されており,該数値範囲の技術的意義に関しては,本件特許明細書の段落【0024】には,「図1および図2に示した形状の繊維基材を使用することにより、繊維基材をコンクリート構造物表面に接着した後も繊維基材の空隙2によりコンクリート構造物表面のクラック、ひび割れ等の変状を目視観察する事が可能となる。」と記載されていることからみて,「クラック、ひび割れ等の変状を目視観察する事が可能となる」ことにあるといえる。そして,該「空隙」が大きければ大きい程,「目視観察」が容易になるといえることは明らかである。

一方,例えば,特開平9-57882号公報の段落【0010】および【0011】に「経糸および緯糸が繊維束からなるコンクリート構造物補強用強化繊維シートにおいて,該経糸の繊維束の間隔を0?100mmとし,該緯糸の繊維束の間隔を1?200mmとする」ことが記載されているように,甲8-1発明のような「繊維シート」において,その繊維条を繊維束とするとともに,繊維束の間に「辺長が2mm以上10cm未満」の空隙を設けたものが,本件特許の出願時において一般的に知られ,技術常識になっていたといえる。なお,平成20年3月31日付け意見書(4頁20?21行)において,被請求人は,「また、『辺長が2mm以上10cm未満の空隙』は、当業者においても、通常知られている」と述べている。
また,上記記載事項の(甲1-ハ)および(甲3-イ)によれば,「コンクリート構造体のひび割れ箇所を容易にかつ正確に見付け出す」ようにすることは,本件特許の出願前当業者において一般的に知れている技術課題であるといえる。
そうすると,前述したように,前記「空隙」が大きければ大きい程「目視観察」が容易になるのであれば,上記技術常識の繊維シートの内から,甲8-1発明の「繊維シート」として「辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有しているもの」を選択し,相違点1における本件発明1の構成とすることは,当業者ならば,何ら困難性なく,容易に想到し得ることであるというべきである。

(相違点2について)
前述したように,「コンクリート構造体のひび割れ箇所を容易にかつ正確に見付け出す」ようにすることは,本件特許の出願前当業者において一般的に知れている技術課題であるといえる。
また,上記記載事項の(甲1-ト)よれば,甲第1号証には「幅が10mm?300mmの半透明あるいは透明の繊維条および該繊維条に含浸したマトリックス樹脂からなるFRP部を設ける」,すなわち,「補強繊維基材に半透明あるいは透明部を設ける」という技術的事項が記載されているといえる。さらに,上記記載事項(甲1-チ)の「・・・・・比較的透明な3?20ポイズの低粘度樹脂で成形が可能である。樹脂の粘度が低いので、補強繊維基材への樹脂含浸も良くなる。・・・・・」からみて,上記「FRP部」のマトリックス樹脂は,比較的透明な3?20ポイズの低粘度樹脂である。
そうすると,当業者ならば,甲第1号証記載の上記技術的課題を甲8-1発明に適用することには何ら困難性はなく,また,十分動機付けがあるといえるとともに,甲8-1発明の「接着剤」として比較的透明なものを選択することにより,その接着剤が充填された「空隙」が透明部となり,コンクリート構造体のひび割れ箇所を容易にかつ正確に見付け出すことが可能となることは,当業者ならば十分予測し得る事項に過ぎないといえる。
そして,上記記載事項(甲8-イ)によれば,甲8-1発明の「ラジカル反応性樹脂」には「(メタ)アクリル酸エステル系樹脂」,「不飽和ポリエステル系樹脂」あるいは「ビニルエステル系樹脂」が含まれており,甲第2号証によれば,その内の「(メタ)アクリル酸エステル系樹脂」および「ビニルエステル系樹脂」の接着剤として,全光線透過率が30%より大きいすなわち,可視光透過度が0.1より大きいものが一般的に市販されていることは明らかであって,これらを甲8-1発明の「ラジカル反応性樹脂」として選択することは,当業者において何ら困難性がなく,容易になし得る範囲の事項であるといえる。
してみると,甲8-1発明に,甲第1,3号証記載の上記課題および甲第1号証記載の上記技術的事項を適用し,相違点2の本件発明1の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得ることであるというべきである。

そして,本件特許明細書に記載された本件発明1の効果も,甲第8号証および甲第1号証の記載から容易に予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

(2)本件発明2についての対比・判断
本件発明2と甲8-1発明とを対比すると,両者は,上記一致点で一致し,上記相違点1および相違点2に加え,次の点にて相違する。

(相違点3)
本件発明2では「繊維基材を埋め込み式アンカーピンと接着剤を併用してコンクリート構造物へ接着してなる」のに対し,甲8-1発明では「アラミド繊維シート」を接着剤でコンクリート構造物へ接着しているが,埋め込み式アンカーピンを併用していない点。

上記相違点3を検討すると,上記記載事項(甲5-イ)?(甲5-ロ)によれば,甲第5号証には,「補強材25をアンカーピン本体1と接着剤とを併用してコンクリート構造物へ接着する」という技術的事項が記載されているといえる。そして,該技術的事項の「補強材25」および「アンカーピン本体1」が,それぞれ,本件発明2の「繊維基材」および「埋め込み式アンカーピン」に相当することは明らかである。
してみると,甲8-1発明に,甲第5号証記載の上記技術的事項を適用し,相違点3における本件発明2の構成とすることは,何ら困難性はなく,当業者であれば容易に想到し得ることであるいうべきである。

そして,本件特許明細書に記載された本件発明2の効果も,甲第8号証,甲第1号証および甲第5号証の記載から容易に予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

(3)本件発明3についての対比・判断
本件発明3と甲8-1発明とを対比すると,両者は,上記一致点で一致し,上記相違点1,相違点2および相違点3に加え,次の点にて相違する。

(相違点4)
本件発明3では「埋め込み式アンカーピンを機械的固定と接着的固定とを併用して固定する」のに対し,甲8-1発明では「埋め込み式アンカーピン」自体を有していない点。

上記相違点4を検討すると,上記記載事項(甲6-イ)によれば,甲第6号証には,「アンカー本体1を先端1aの拡開と接着剤8とを併用して固定する」という技術的事項が記載されているといえる。そして,該技術的事項の「アンカー本体1」および「先端1aの拡開と接着剤8とを併用して」が,それぞれ,本件発明3の「埋め込み式アンカーピン」および「機械的固定と接着的固定とを併用して」に相当することは明らかである。
してみると,甲8-1発明に甲第5号証及び甲第6号証記載の上記技術的事項を適用して,相違点4における本件発明3の構成とすることは,何ら困難性はなく,当業者であれば容易に想到し得ることであるというべきである。

そして,本件特許明細書に記載された本件発明3の効果も,甲第8号証,甲第1号証および甲第5,6号証の記載から容易に予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

(4)本件発明4についての対比・判断
本件発明4と甲8-2発明とを対比すると,両者は,
(一致点)
「コンクリート構造物表面に,シート状に配列した繊維条間に空隙を有している繊維基材を,接着剤を用いて接着し,前記繊維基材の接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し,その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ,さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われるコンクリート構造物の補修方法。」
の点で一致し,以下の各点で相違する。

(相違点5)
繊維基材について,本件発明4では「繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している」のに対し,甲8-2発明では「網状物の繊維シート」であるものの,その幅が不明であり,繊維条間に「空隙」を有しているものの,繊維条が繊維束である否か不明であり,その「空隙」の大きさも不明である点。

(相違点6)
本件発明4では,「1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を用いて接着し、・・・・・接着後に前記繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能である」のに対し,甲8-2発明では,「接着・含浸樹脂であるラジカル反応性樹脂」の「1mm厚みの硬化体の可視光透過度」が不明であり,コンクリート構造物表面が目視観察可能であるか否か不明である点。

相違点5および相違点6は,「甲8-1発明」を「甲8-2発明」に置き換えれば,それぞれ,相違点1および相違点2と同じであるといえるから,相違点5および相違点6についての判断は,前述した相違点1および相違点2についての判断と同様である。

(5)本件発明5についての対比・判断
本件発明5と甲8-2発明とを対比すると,上記一致点と一致し,相違点5および相違点6に加え,以下の点にて相違する。

(相違点7)
本件発明5では「繊維基材を埋め込み式アンカーピンと接着剤を併用してコンクリート構造物へ接着し」てなるのに対し,甲8-2発明では「繊維シート」を接着剤でコンクリート構造物へ接着しているが,埋め込み式アンカーピンを併用していない点。

上記相違点7は,「甲8-1発明」を「甲8-2発明」に置き換えれば,相違点3と同じであるといえるから,相違点7についての判断は,前述した相違点3についての判断と同様である。

(6)本件発明6についての対比・判断
本件発明6と甲8-2発明とを対比すると,上記一致点と一致し,相違点5,相違点6および相違点7に加え,以下の点にて相違する。

(相違点8)
本件発明6が「埋め込み式アンカーピンを機械的固定と接着的固定とを併用して固定する」のに対し,甲1発明は埋め込み式アンカーピン自体がない点。

上記相違点8は,「甲8-1発明」を「甲8-2発明」に置き換えれば,相違点4と同じであるといえるから,相違点8についての判断は,前述した相違点4についての判断と同様である。

(7)まとめ
以上のとおりであるから,本件発明1?6は,甲第8号証に記載された発明および甲第1号証,甲第3号証,甲第5号証ならびに甲第6号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 無効理由3について
無効審判請求人は,「可視光透過率の規定」および「コンクリート構造物表面が目視観察可能であるとする規定」は依然として不明りょうであり,実施例として示された数値も信憑性に乏しく,また,「実施例4を参考例1と訂正」したとしても,発明の詳細な説明は,本件各請求項の発明を説明するものではなく,依然として特許法36条4項の規定を満たしていない旨主張する。
しかしながら,本件特許明細書の段落【0041】?【0050】の記載からみて,「2mmの空隙」かつ「可視光透過率が0.1以上」によって「コンクリート構造物表面が目視観察可能」となることは明らかであると認められ,他の条件によりコンクリート構造物表面が目視観察可能とならない場合があるとしても,少なくとも上記「2mmの空隙」かつ「可視光透過率が0.1以上」を満足しなければ目視観察可能とならないといえる。そして,当業者ならば,他の条件も適宜選択することにより,本件特許明細書の記載に基づいて容易に実施できるとするの相当であり,特許法36条4項の規定を満たしていないと迄はいえない。
また,上記「第2 訂正の適否 2 訂正の目的の適否,新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (5)訂正事項h?iについて」において述べたように,本件特許明細書の段落【0051】および【図面の簡単な説明】の【図6】における「目視観察試験」との記載は,同段落【0051】?【0055】中に目視観察を行った旨の記載がないことからみて,単なる誤記であると認められる。

したがって,無効審判請求人の前記主張には,理由がない。

4 当審の無効理由について
当審の無効理由は,以下のとおりである。
「明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項1、4及び5において、「下限を少なくとも辺長の一つが2mm以上で、繊維基材の最小幅以下の空隙」の記載では、「空隙」の大きさが不明であって、発明が明確でない。
(2)請求項1、4及び5において、「前記繊維基材の空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能である」の記載では、「繊維基材の空隙」が「接着剤が含浸(充填)した空隙」であるか否か不明であって、発明が明確でない。」

それに対し,平成20年3月31日付け訂正請求により,特許請求の範囲請求項1,請求項4及び請求項5の「シート状に配列した繊維束間に少なくとも辺長の一つが2mm以上で、繊維基材の最小幅以下の空隙を有している繊維基材」が「繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している繊維基材」と訂正され,また,「該繊維基材を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能」が「該繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能」と訂正されたことにより,上記当審の無効理由は解消されている。

第6 むすび
以上のとおり,無効理由1について判断するまでもなく,本件発明1?6は,甲第8号証,甲第1号証,甲第3号証,甲第5号証および甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1?6の特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,特許法123条1項2号により,無効とすべきである。
審判に関する費用については,特許法169条2項の規定において準用する民事訴訟法61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
コンクリート構造物およびその補修方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】コンクリート構造物表面に、繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している繊維基材を、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を用いて接着してなり、前記繊維基材の接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われ、前記繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能であることを特徴とするコンクリート構造物。
【請求項2】前記繊維基材を埋め込み式アンカーピンと接着剤を併用してコンクリート構造物へ接着してなる請求項1記載のコンクリート構造物。
【請求項3】前記埋め込み式アンカーピンを機械的固定と接着的固定とを併用して固定することを特徴とする請求項2記載のコンクリート構造物。
【請求項4】コンクリート構造物表面に、繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している繊維基材を、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を用いて接着し、前記繊維基材の接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われ、接着後に前記繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能とすることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。
【請求項5】コンクリート構造物表面に、繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している繊維基材を、埋め込み式アンカーピンと、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を併用して接着し、前記繊維基材の接着剤による接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われ、接着後に前記繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能とすることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。
【請求項6】前記埋め込み式アンカーピンを機械的固定と接着的固定とを併用して固定することを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維基材をコンクリート構造物表面に接着したコンクリート構造物、および繊維基材をコンクリート構造物表面に接着するコンクリート構造物の補修方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンクリート構造物は、建設時に発生した空洞や、コンクリート構造物自体の劣化、地震、地盤沈下等の様々な要因により、コンクリート部にクラック、ひび割れ、剥落などが生じる。
【0003】
クラックがコンクリート構造物の外側まで達しているときには、地中のコンクリート構造物は地下水がコンクリート構造物に浸透し漏水の原因となる。コンクリート構造物にこのようなクラックやひび割れが生じた場合、コンクリート構造物を補修する必要がある。
【0004】
劣化したコンクリート構造物に対する補修は、従来、(1)劣化したコンクリート構造物の表面にモルタルを5?10cm厚程度上塗りしたり、または吹き付ける、(2)劣化したコンクリート構造物の表面にコンクリート構造物を30cm厚程度打設(増厚)する、(3)炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維といった強化繊維を一方向に配列した強化繊維基材をエポキシ樹脂等の常温硬化性樹脂でコンクリート構造物表面に含浸接着する、(4)鋼板等の補強材をコンクリート構造物表面に取り付け、コンクリート構造物と鋼板等の隙間に必要に応じてシール等の処理を行い、常温硬化性樹脂またはモルタル等を充填する補修(補強)等が知られている。
【0005】
しかしながら、上記(1)はコンクリート構造物表面の改良にはなるものの、十分な補強効果が得にくい欠点がある。
上記(2)は、補強効果は期待できるが、打設するコンクリートの厚さだけコンクリート構造物の容積が増加する問題と、補修が大工事となり、費用がかさむこと、工事のために規制が必要となり日常活動への影響が大きいといった欠点がある。
【0006】
上記(3)は、補強効果は期待できるが、用いる強化繊維基材が一方向配列基材であるため少なくとも二層を含浸接着し、各層の強化繊維基材の繊維配列方向を違えなければならないといった問題点がある。また、目の詰まった強化繊維基材を1層以上、通常の接着剤を使用して接着した場合は補修後のコンクリート構造物の表面は直接目視観察することは困難であった。
【0007】
上記(4)は、補強効果は期待できるが、鋼板等の加工等に時間を要するとともに、補修もかなり大工事となり、工事のための規制が必要となるため日常活動への影響が大きいといった欠点がある。また補修後のコンクリート構造物表面は直接目視観察することは困難となる。
上記(1)?(4)に共通する欠点は補修後のコンクリート構造物の表面状態を直接目視観察することが困難となる問題である。
【0008】
以上のとおり、これまでの補修では補修した後に元のコンクリート構造物表面を目視で観察することができなかったため、補修後のコンクリート構造物表面が重大な変状の進行を示したり、新たな重大な変状が発生した場合でもこれを確認することが困難であった。
【0009】
そのために、トンネル等のコンクリート構造物においては覆工コンクリートの剥落、崩落といった現象が発生するまで補修後のコンクリート構造物の再補修の必要性を判断することが困難であり、人命上、安全上、社会的に大きな問題であった。
【0010】
また、上記(3)の繊維基材を常温硬化性樹脂でコンクリート構造物表面に含浸接着する場合、従来はエポキシ樹脂等の硬化性樹脂を用いるため、冬季のような低温時期には樹脂の硬化が遅く、繊維基材接着作業が完了しても、樹脂が硬化するまでは繊維がコンクリート構造物に保持する力が確保できないといった問題があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、前記のような劣化したコンクリート構造物、特に道路、鉄道トンネル等のコンクリート構造物の補修において、補修後も目視で、補修したコンクリート構造物の変状の進行あるいは新たに発生した劣化、変状を確認することができるコンクリート構造物およびその補修方法を提供することである。
【0012】
また、本発明の目的は、繊維基材を接着性の硬化性樹脂でコンクリート構造物表面に接着することにより、繊維基材をコンクリート構造物上面に安定して保持できると共に、硬化性樹脂により長期的に信頼性の高い繊維基材の接着が維持できるコンクリート構造物及びその補修方法を提供することである。
【0013】
また、本発明の目的は、繊維基材を接着性の硬化性樹脂でコンクリート構造物表面に接着する際、硬化性樹脂が十分に硬化していなくても繊維がコンクリート構造物表面に安定して保持できるとともに、長期的に硬化性樹脂と埋め込みアンカーの相乗効果により一層信頼性の高い繊維基材の接着が維持できるコンクリート構造物およびその補修方法を提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、コンクリート構造物表面に、繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している繊維基材を、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を用いて接着してなり、前記繊維基材の接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われ、前記繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能であることを特徴とするコンクリート構造物である。
【0015】
前記繊維基材を接着剤を用いてコンクリート構造物へ接着してなるか、または繊維基材を埋め込み式アンカーピンと接着剤を併用してコンクリート構造物へ接着してなるコンクリート構造物が好ましい。
【0016】
また、本発明は、コンクリート構造物表面に、繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している繊維基材を、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を用いて接着し、前記繊維基材の接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われ、接着後に前記繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能とすることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法である。
【0017】
さらに、本発明は、コンクリート構造物表面に、繊維基材の幅が10?100cmで、シート状に配列した繊維束間に辺長が2mm以上10cm未満の空隙を有している繊維基材を、埋め込み式アンカーピンと、1mm厚みの硬化体の可視光透過度が0.1より大きい接着剤を併用して接着し、前記繊維基材の接着剤による接着はコンクリート構造物表面に下塗りとして前記接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付けて繊維基材中に前記接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして前記接着剤を繊維基材の上に塗布することにより行われ、接着後に前記繊維基材の前記接着剤が含浸した空隙を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能とすることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法である。
【0018】
上記の本発明のコンクリート構造物およびその補修方法においては、前記埋め込み式アンカーピンを機械的固定と接着的固定とを併用して固定することが好ましい。
前記繊維基材がコンクリート構造物表面が目視観察可能な空隙を有するものが好ましい。
前記接着剤が透明または半透明であるのが好ましい。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のコンクリート構造物は、コンクリート構造物表面に接着した繊維基材を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能であることを特徴とし、また繊維基材を、接着剤または埋め込み式アンカーピンと接着剤を併用してコンクリート構造物へ接着したコンクリート構造物である。
【0020】
また、本発明のコンクリート構造物の補修方法は、繊維基材をコンクリート構造物表面に接着した後も接着した繊維基材を通してコンクリート構造物表面が目視観察可能とすることを特徴とし、また繊維基材を、接着剤または埋め込み式アンカーピンと接着剤を併用してコンクリート構造物へ接着することを特徴し、埋め込み式アンカーピンを機械的固定と接着的固定とを併用して固定することを特徴とする補修方法である。
【0021】
次に、本発明に係るコンクリート構造物、およびコンクリート構造物の補修方法を図面を用いて詳しく説明するが、本発明はこれらの図面に限定されるものではなく、図面による説明は発明の例として示したに過ぎない。
【0022】
本発明のコンクリート構造物に使用される繊維基材は、繊維束を2方向(または多方向)にシート状に配列したものである。図1は、本発明のコンクリート構造物に使用する繊維基材の一実施態様を示す代表的な形状図である。図1において、繊維基材11は繊維束1を2方向にシート状に配列したもので、配列した繊維束1間には辺長aおよびbの空隙2があり、辺長aまたはbの少なくとも一方は2mm以上で繊維基材の最小の幅以下である。
【0023】
図2は、本発明のコンクリート構造物に使用する繊維基材の他の実施態様を示す形状図である。図2の繊維基材11は、繊維束1を3方向に配列したもので、それぞれ配列した繊維束間には辺長c、dおよびeを持つ空隙2があり、辺長c、dまたはeの少なくとも一つは2mm以上で繊維基材の最小の幅以下である。
【0024】
図1および図2に示した形状の繊維基材を使用することにより、繊維基材をコンクリート構造物表面に接着した後も繊維基材の空隙2によりコンクリート構造物表面のクラック、ひび割れ等の変状を目視観察する事が可能となる。
【0025】
繊維束自体は透明でも不透明であってもよく、不透明の場合には繊維束間に上記に示したごとき空隙があり、繊維基材が透視可能であればよい。
繊維基材の材質は炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等、補強効果があるものであればどのようなものでもよい。
【0026】
本発明に用いられる接着剤は、半透明または透明なものであることが好ましく、該接着剤の1mm厚み硬化体の可視光透過度が0.1より大きいことが特に好ましい。このような透明性のある接着剤を使用することにより、前記繊維基材をコンクリート構造物表面に接着して補強(補修)した後も繊維基材を通してコンクリート構造物の表面のクラック、ひび割れ等の変状を直接目視観察することが可能となる。
【0027】
接着剤として使用される硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂等のラジカル重合性樹脂等が挙げられる。
【0028】
これらのラジカル重合性樹脂のなかでは、道路、鉄道トンネルの補修のように短時間での施工完了が要求される場合があり、このような場合には速硬化可能なラジカル重合性樹脂を使用することが好ましい。
【0029】
図3は、本発明のコンクリート構造物に使用するアンカーピンの実施態様を示す代表的な形状図である。同図3は本発明の補修方法に用いる埋め込みアンカーピンの形状例のひとつとしてテーパ付き埋め込みアンカーピンを示したものである。埋め込みアンカーピンとは拡底アンカーで、ボルトおよびナットを用いないで部材同士を機械的に固定する小型のアンカーの総称である。
【0030】
図3において、テーパ付き埋め込み式アンカーピン30はコンクリート構造物への機械的固定のための拡底部37、ロッド部38、繊維基材をコンクリート構造物に保持固定するワッシャ36を備えることのできる頭頂部39、および拡底するためのピン35から構成されている。
【0031】
ロッド部径r1と頭頂部径r2は一般にr1<r2である。コンクリート構造物の孔径Rがr1<R<r2であればテーパ付き埋め込み式アンカーピンは拡底部のくさび効果と頭頂部のくさび効果が合わさりコンクリート構造物へのアンカーピンの固定効果は高まる。
【0032】
機械的固定だけでは長期的な繰り返し荷重による疲労のため、引き抜き強度が低下するおそれがあるので、テーパ付き埋め込み式アンカーピンをコンクリート構造物へ確実に固定するためにはアンカー定着孔内に硬化性樹脂を充填し、その後テーパ付き埋め込み式アンカーピンを打ち込み、拡底し機械的固定と接着的固定を併用することが好ましい。
【0033】
本発明のコンクリート構造物は、コンクリート構造物の補修現場で、コンクリート構造物の表面に上記繊維基材を、上記接着剤を用いて貼り付ける手順で行う事ができる。この場合は通常のコンクリート構造物の繊維補強(補修)の手順と基本的に変わらない。
【0034】
本発明の補修方法は、例えば、コンクリート構造物のケレン処理、コンクリート構造物用プライマー塗布、接着剤を用いた繊維基材の接着の順番で行うことができる。
【0035】
なお、コンクリート構造物の表面に繊維基材を接着する手順において、コンクリート構造物表面にコンクリート構造物用プライマーを塗布した後、繊維基材を接着する際、パテ材等による不陸調整が必要な場合には、使用する不陸調整材は本発明の接着剤と同程度の透明性を有しているものを使用することが好ましい。
【0036】
また、プライマーには接着剤と同程度の透明性を有しているものが用いられ、具体的には、商品名「Cブライマー」(アクリル系/電気化学工業株式会社製)などを用いることができる。
【0037】
接着剤を用いて繊維基材を接着する方法は、通常の繊維補強と同じ方法により行うことができ、その一例として含浸接着法が挙げられる。含浸接着方法は、プライマーを塗布、硬化したコンクリート構造物表面に下塗りとして接着剤を塗布し、その上に繊維基材を貼り付け、ゴムローラーやヘラで繊維基材中に接着剤を含浸させ、さらに上塗りとして接着剤を繊維基材の上に塗布する手順で行なうことができる。
【0038】
コンクリート構造物への繊維基材の貼り付け枚数は、必要とされる補強の程度に応じて適宜選択されるが、本発明の目的である施工後のコンクリート構造物表面の目視観察が可能な範囲とする。
【0039】
また、本発明の埋め込みアンカーピンを用いる補修方法の場合には、上記繊維基材の接着の後に、図4に示すようにコンクリート構造物40に直径R(r1<R<r2)の孔41をあけ、埋め込み式アンカーピン30を打ち込み拡底する。
【0040】
接着的固定を併用する場合には、テーパ付き埋め込み式アンカーピンと孔41内の空隙に硬化性樹脂34を充填し固着する。コンクリート構造物への孔あけはコンクリート構造物へ繊維基材を接着の前後、いずれの時期に行っても差し支えない。硬化性樹脂34の充填は、テーパ付きアンカーピンの打ち込み拡底の前後、いずれの時期に行っても差し支えない。
【0041】
【実施例】
次に、実施例により、本発明の効果を確認する目的で行った補修試験の詳細を述べる。
【0042】
実施例1?3および比較例1?3
図5は、本発明の実施例のコンクリート構造物の効果を調べるための目視観察試験方法を説明するための概略構成図である。図5(a)は側面図、図5(b)は平面図である。
【0043】
補修試験に用いたコンクリート構造物試験体は、市販の10cm×10cm×40cmのコンクリートをダイヤモンドカッターで10cm×10cm×20cmの二つに切断したもの21a,21bの切断面を突き合わせ、直径0.5mmの鋼線22をスペーサーとして挿入し、この隙間にコンクリート構造物用ひび割れ注入材K-3001(ショーボンド建設社製、エポキシ樹脂接着剤)31を注入硬化し接合して作製した。
【0044】
コンクリート構造物試験体の一面をサンドブラストし、コンクリート構造物用プライマー32を塗布、硬化させた。次に、接着剤33を用いて、アラミド繊維基材11を含浸接着法により接着し、補修したコンクリート構造物を得た。
【0045】
補修コンクリート構造物試験体の表面にひび割れを発生させるために荷重負荷試験を行った。荷重負荷試験は万能試験機(島津製作所社製オートグラフ)を用いた三等分荷重曲げ試験方法(JIS A 1106に準拠)にて行った。
コンクリート構造物試験体に設けた0.5mmの間隔の接合部の目視観察は荷重負荷試験前および荷重負荷試験中に行った。
【0046】
表1には、、試験に用いたアラミド繊維基材(3種類、AF-1?AF-3)、コンクリート構造物用プライマー(3種類、P-1?P-3)、および接着剤(3種類、R-1?R-3)を示す。
【0047】
【表1】

試験の結果は表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
(注)目視観察試験の評価
○:コンクリート構造物表面の0.5mmの隙間又は新たな変化(ひび割れ)の確認が可能。
△:コンクリート構造物表面の0.5mmの隙間又は新たな変化(ひび割れ)の確認が困難。
×:コンクリート構造物表面の0.5mmの隙間又は新たな変化(ひび割れ)の確認ができない。
【0050】
表2に示すごとく、コンクリート構造物試験体に繊維基材を接着した後、接着した繊維基材を通してコンクリート構造物試験体表面の0.5mmの接合した隙間が観察でき、かつ荷重負荷試験中に新たに発生したコンクリート構造物表面のひび割れを目視確認できたのは本発明の繊維基材(AF-3)、および本発明の接着剤(R-1,R-2)を組み合わせて補修した試験体だけであった。
【0051】
参考例1
次に、本発明のアンカーピンの効果を確認する目的で行った試験の詳細を述べる。
図6は、本発明の参考例1のコンクリート構造物の効果を調べるための目視観察試験方法を説明するための概略構成図である。図6(a)は側面図、図6(b)は平面図である。
試験に用いたコンクリート構造物試験体は市販のボックスカルバートの天井表面(厚さ12cm)を用いた。
【0052】
コンクリート構造物試験体の一面をサンドブラストし、コンクリート構造物用プライマー32(表1のP-1を使用)を塗布し、硬化させた後、接着剤33(R-1を使用)を用いて幅100cm、長さ100cmのアラミド繊維基材11(AF-1を使用)を接着した。
【0053】
アラミド繊維基材接着前にコンクリート構造物試験体に削孔しておいたφ65mm×80mmLのアンカー用孔に、接着剤が硬化する前に、アラミド繊維基材端部に50cm間隔でアンカーピン30(コニシ社製、CP-N670、ベステムワッシャφ20mm装着)を打ち込み、先端を拡底し、コンクリート構造物試験体へ固定した。
【0054】
この試験体を用いて、接着剤33が硬化する前に、図7に示す様に、アラミド繊維基材11の端部に、送風機42から45度の角度で風を送った。送風量は80m^(2)/minとし、接着剤33が硬化するまでの試験体の変化を観察した。
その結果、アンカーピンを用いてアラミド繊維基材を固定した試験体は、接着剤が硬化までにアラミド繊維基材のはがれは認められなかった。
【0055】
同様に、図8に示すように、アンカーピンを用いない試験体について送風試験を行ったところ、接着剤が硬化する前に繊維端部からはがれが生じ最終的には全て落下した。なお、図8(a)は側面図、図8(b)は平面図である。
【0056】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のコンクリート構造物は、繊維基材を接着した後もコンクリート構造物の表面状態が目視観察可能であり、繊維基材を接着した後のコンクリート構造物の表面の変状の進行が目視で確認可能である。
したがって、繊維基材を接着した後のコンクリート構造物の剥落、崩落等の異常現象の発生前に早期に対策を講じることが可能となる。また、繊維基材の接着に用いる接着剤の硬化性樹脂が十分に硬化する前でも繊維基材のコンクリート構造物への保持が埋め込みアンカーピンにより確保できるとともに、長期にわたり接着剤と、埋め込みアンカーピンの相乗効果による安定した繊維基材のコンクリート構造物表面への保持、すなわち補強効果の維持が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明のコンクリート構造物に使用する繊維基材の一実施態様を示す代表的な形状図である。
【図2】
本発明のコンクリート構造物に使用する繊維基材の他の実施態様を示す形状図である。
【図3】
本発明のコンクリート構造物に使用するアンカーピンの実施態様を示す代表的な形状図である。
【図4】
本発明のコンクリート構造物に、テーパ付きアンカーピンを用いて繊維基材を保持し、さらにアンカーの固定に接着的固定を併用した概念図である。
【図5】
本発明の実施例のコンクリート構造物の効果を調べるための目視観察試験方法を説明するための概略構成図である。
【図6】
本発明の参考例1のコンクリート構造物の効果を調べるための目視観察試験方法を説明するための概略構成図である。
【図7】
本発明の参考例1のアンカーピンを用いたコンクリート構造物の送風試験を示す説明図である。
【図8】
本発明の参考例1におけるアンカーピンを用いないコンクリート構造物の試験体を示す概略図である。
【符号の説明】
1 繊維束
a?e 繊維束間の空隙で形成される多角形の辺長
11 繊維基材
21a,21b 市販のコンクリート(10×10×40cm)を2等分したもの
22 鋼線
30 テーパ付き埋め込み式アンカーピン
31 ひび割れ注入材
32 コンクリート構造物用プライマー
33 接着剤
34 硬化性樹脂
35 テーパ付き埋め込み式アンカーピンを構成する部材ピン
36 ワッシャ
37 テーパ付き埋め込み式アンカーピンの拡底部
38 テーパ付き埋め込み式アンカーピンのロッド部
39 テーパ付き埋め込み式アンカーピンの頭頂部
40 コンクリート構造物
41 孔
42 送風機
r1 テーパ付き埋め込み式アンカーピンロッド部分の直径
r2 テーパ付き埋め込み式アンカーピンの頭頂部分の直径
R アンカーを固定するための孔径
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-06-02 
結審通知日 2008-06-05 
審決日 2008-06-18 
出願番号 特願2000-176309(P2000-176309)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (E04G)
P 1 113・ 537- ZA (E04G)
P 1 113・ 536- ZA (E04G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 江成 克己石井 哲  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 家田 政明
山口 由木
登録日 2006-01-27 
登録番号 特許第3764324号(P3764324)
発明の名称 コンクリート構造物およびその補修方法  
代理人 歌門 恵  
代理人 菊地 精一  
代理人 渡辺 徳廣  
代理人 渡辺 徳廣  
代理人 渡辺 徳廣  

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