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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1183370
審判番号 不服2007-3130  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-26 
確定日 2008-08-21 
事件の表示 特願2001-206114「透過型電子顕微鏡」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月24日出願公開、特開2003- 22774〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は平成13年7月6日の出願であって、平成18年9月20日付けで拒絶の理由が通知され、平成18年11月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成18年12月26日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として平成19年1月26日付けで本件審判請求がされるとともに、平成19年2月2日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。


第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成19年2月2日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、平成18年11月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲についての

「【請求項1】
電子線を放射する電子銃等の電子線発生手段と、検知される試料を透過した前記電子線を分光して電子線エネルギー損失スペクトル像を形成する電子線分光器と、前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を検知する画像検知器と、前記電子線分光器に入射する電子線の入射範囲を絞って前記試料の検知範囲を制限する視野スリットとを有する透過型電子顕微鏡にあって、
検知範囲が制限される前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を時分割して検知し、
時分割されたエネルギー損失スペクトル像の画像を重ねあわせることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項2】
電子線を放射する電子銃等の電子線発生手段と、検知される試料を透過した前記電子線を分光して電子線エネルギー損失スペクトル像を形成する電子線分光器と、前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を検知する画像検知器と、前記電子線分光器に入射される電子線の入射範囲を絞って前記試料の検知範囲を制限する視野選択スリットとを有する透過型電子顕微鏡にあって、
検知範囲が制限される前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を時分割して検知し、
時分割されたエネルギー損失スペクトル像の画像を画像演算器で重ねあわせることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項3】
電子線を放射する電子銃等の電子線発生手段と、検知される試料を透過した前記電子線を分光して電子線エネルギー損失スペクトル像を形成する電子線分光器と、前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を検知する画像検知器と、前記電子線分光器に入射される電子線の入射範囲を絞って前記試料の検知範囲を制限する視野選択スリットとを有する透過型電子顕微鏡にあって、
検知範囲が制限される前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を時分割して検知し、
時分割されたエネルギー損失スペクトル像の画像を先の検知画像に重ね、前記重ねに際し、先の検知画像との移動量を補正するようにしたことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項4】
電子線を放射する電子銃等の電子線発生手段と、検知される試料を透過した前記電子線を分光して電子線エネルギー損失スペクトル像を形成する電子線分光器と、前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を検知する画像検知器と、前記電子線分光器に入射される電子線の入射範囲を絞って前記試料の検知範囲を制限する視野選択スリットとを有する透過型電子顕微鏡にあって、
検知範囲が制限される前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を時分割して検知し、
検知された時分割の画像より、電子線エネルギー損失と電子線強度を求め、前記電子線エネルギー損失および前記電子線強度より前記試料の移動量を算定し、
前記移動量の補正を加えて時分割されたエネルギー損失スペクトル像の画像を重ねあわせることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項5】
電子線を放射する電子銃等の電子線発生手段と、検知される試料を透過した前記電子線を分光して電子線エネルギー損失スペクトル像を形成する電子線分光器と、前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を検知する画像検知器と、前記電子線分光器に入射される電子線の入射範囲を絞って前記試料の検知範囲を制限する視野選択スリットとを有する透過型電子顕微鏡にあって、
検知範囲が制限される前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を時分割して検知し、検知された時分割の画像より、各所定領域の電子線強度と電子線エネルギー損失が縦横座標の関係に示されるように求め、対応する試料の領域に合致させて並べ、前記縦横座標より前記試料の所定領域の移動量を算定し、前記移動量の補正を加えて時分割されたエネルギー損失スペクトル像の画像を重ねあわせることを特徴とする透過型電子顕微鏡。」

の記載を、

「【請求項1】
電子線を放射する電子銃等の電子線発生手段と、検知される試料を透過した前記電子線を分光して、異なる試料位置の電子線エネルギー損失スペクトル有する電子線エネルギー損失スペクトル像を形成する電子線分光器と、前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を検知する画像検知器と、前記電子線分光器に入射する電子線の入射範囲を絞って前記試料の検知範囲を制限する視野スリットとを有する透過型電子顕微鏡にあって、
検知範囲が制限される前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を時分割して検知し、
時分割されたエネルギー損失スペクトル像の画像を重ねあわせることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項2】
電子線を放射する電子銃等の電子線発生手段と、検知される試料を透過した前記電子線を分光して、異なる試料位置の電子線エネルギー損失スペクトル有する電子線エネルギー損失スペクトル像を形成する電子線分光器と、前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を検知する画像検知器と、前記電子線分光器に入射される電子線の入射範囲を絞って前記試料の検知範囲を制限する視野選択スリットとを有する透過型電子顕微鏡にあって、
検知範囲が制限される前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を時分割して検知し、
時分割されたエネルギー損失スペクトル像の画像を画像演算器で重ねあわせることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項3】
電子線を放射する電子銃等の電子線発生手段と、検知される試料を透過した前記電子線を分光して、異なる試料位置の電子線エネルギー損失スペクトル有する電子線エネルギー損失スペクトル像を形成する電子線分光器と、前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を検知する画像検知器と、前記電子線分光器に入射される電子線の入射範囲を絞って前記試料の検知範囲を制限する視野選択スリットとを有する透過型電子顕微鏡にあって、
検知範囲が制限される前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を時分割して検知し、
時分割されたエネルギー損失スペクトル像の画像を先の検知画像に重ね、前記重ねに際し、先の検知画像との移動量を補正するようにしたことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項4】
電子線を放射する電子銃等の電子線発生手段と、検知される試料を透過した前記電子線を分光して、異なる試料位置の電子線エネルギー損失スペクトル有する電子線エネルギー損失スペクトル像を形成する電子線分光器と、前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を検知する画像検知器と、前記電子線分光器に入射され
る電子線の入射範囲を絞って前記試料の検知範囲を制限する視野選択スリットとを有する透過型電子顕微鏡にあって、
検知範囲が制限される前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を時分割して検知し、
検知された時分割の画像より、電子線エネルギー損失と電子線強度を求め、前記電子線エネルギー損失および前記電子線強度より前記試料の移動量を算定し、
前記移動量の補正を加えて時分割されたエネルギー損失スペクトル像の画像を重ねあわ
せることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項5】
電子線を放射する電子銃等の電子線発生手段と、検知される試料を透過した前記電子線を分光して、異なる試料位置の電子線エネルギー損失スペクトル有する電子線エネルギー損失スペクトル像を形成する電子線分光器と、前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を検知する画像検知器と、前記電子線分光器に入射される電子線の入射範囲を絞って前記試料の検知範囲を制限する視野選択スリットとを有する透過型電子顕微鏡にあって、
検知範囲が制限される前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を時分割して検知し、検知された時分割の画像より、各所定領域の電子線強度と電子線エネルギー損失が縦横座標の関係に示されるように求め、対応する試料の領域に合致させて並べ、前記縦横座標より前記試料の所定領域の移動量を算定し、前記移動量の補正を加えて時分割されたエネルギー損失スペクトル像の画像を重ねあわせることを特徴とする透過型電子顕微鏡。」

と補正することを含むものである。

2.本件補正の適否の検討
(1)目的要件(平成18年改正前の特許法第17条の2第4項)についての検討
本件補正における請求項1乃至5についての補正は、本件補正前の旧請求項1乃至5における「電子線エネルギー損失スペクトル像」を「異なる試料位置の電子線エネルギー損失スペクトル有する電子線エネルギー損失スペクトル像」と限定する補正であり、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号における「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に当たる。
したがって、本件補正は、同法第17条の2第4項の規定に適合する。

(2)独立特許要件についての検討
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか、すなわち、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否かについて、検討する。

ア.補正発明の認定
補正発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「電子線を放射する電子銃等の電子線発生手段と、検知される試料を透過した前記電子線を分光して、異なる試料位置の電子線エネルギー損失スペクトル有する電子線エネルギー損失スペクトル像を形成する電子線分光器と、前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を検知する画像検知器と、前記電子線分光器に入射する電子線の入射範囲を絞って前記試料の検知範囲を制限する視野スリットとを有する透過型電子顕微鏡にあって、
検知範囲が制限される前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を時分割して検知し、
時分割されたエネルギー損失スペクトル像の画像を重ねあわせることを特徴とする透過型電子顕微鏡。」

イ.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-302700号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の(ア)?(ク)の記載が図示とともにある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、透過型電子顕微鏡に係わり、特に従来に比べエネルギー分解能が高く、化学変化によるわずかなエネルギーロス量の変化も検知できる電子分光器を備えた透過型電子顕微鏡に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、試料上の異なる位置のエネルギースペクトル、例えば電子のエネルギーロス量を計測する場合は、位置毎に別々に測定し、それぞれの測定結果を比較して、成分比較等を行っていた。
【0003】例えば、電子線を測定試料を透過するように照射し、透過した電子線像を観察する透過型電子顕微鏡では、透過した電子線のエネルギー損失量から透過してきた試料の成分同定を行う電子分光器を付属させてエネルギースペクトルを測定することができる。その場合、試料上の異なる位置の成分を比較する場合は、測定したい位置のみに電子線が当たるように電子線を細く絞り、透過してきた電子線のエネルギー損失量を測定することにより、成分の同定を行うことができる。」

(イ)「【0008】本発明の目的は、試料の異なる点のエネルギースペクトルを同時に測定できる電子分光器を備えた透過型電子顕微鏡を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明の第1の発明によれば、電子銃と、電子銃から放射された電子線を収束させるレンズ群と、試料を透過した該電子線を結像させるレンズ群と、結像された試料像を検出する画像検出器とを、備えた透過型電子顕微鏡において、前記試料と前記画像検出器との間に、電子線の有するエネルギー量により、該電子線を分光する電子分光器を備え、かつ分光された該電子線の、該電子分光器のエネルギー分散方向と、該エネルギー分散方向と直交する方向での、分光された電子線の収束位置が異なっていることを特徴とする透過型電子顕微鏡が提供される。」

(ウ)「【0011】電子分光器とは、電子の有する運動エネルギーの違いにより電子の走行軌跡を変化させ分光する装置である。磁場セクター型,ウイーンフィルター型等いろいろな形式がある。運動量の大きい電子ほど、磁場の影響(ローレンツ力による偏向作用)を受けにくく、従って軌跡が変化しにくいことを利用している。
【0012】電子分光器で分光された電子線は、運動エネルギーの大きい電子と運動エネルギーの小さい電子をある方向を基準に振り分ける。この方向をエネルギー分散方向と称している。通常の透過型電子顕微鏡では、電子の収束位置、すなわち電子の焦点位置はすべて一平面内となっている。図3を用いて説明すると、図3(c)に示すように、従来の透過型電子顕微鏡ではx軸,y軸双方の焦点位置は同じ面(12,15)となっている。こうすることにより試料を透過してきた電子線により形成される試料像は、ゆがみのないものとなるからである。
【0013】本発明では、これに対しx軸とy軸で焦点位置を異ならせることに特徴がある。図3(a)で示すようにx軸の焦点位置はスペクトル面12であり、y軸の焦点位置は15面となるようにする。このような構成では、試料を透過してきた試料像はx方向とy方向で像の倍率が異なるため、試料の幾何学的な形状を観察するには不向きである。しかし、試料のy軸方向でのエネルギースペクトルを分離して観察することができる。すなわち、試料の異なる位置のエネルギースペクトルを同時に観察することが可能になる。
【0014】試料の異なる位置のエネルギースペクトルを同時に観察することにより、電子線加速電圧のドリフト,電場,磁場による外乱等による影響がなくなるので、試料の化学変化に起因する微妙なケミカルシフト分のエネルギースペクトル変動が観察可能になる。」

(エ)「【0018】第1の発明において、前記電子分光器の入射像面に相当する位置に、視野スリットが設けられていることを特徴とする透過型電子顕微鏡としても良い。
【0019】比較分析したい部位のみを同時に分析するための手法として、電子線を絞る方法の他に、視野選択スリットを用いる方法もある。これは、電子分光器の入射像面に相当する位置に、x軸方向に短く,y軸方向に長い開口形状を有するスリットを設けることにより、分析する部位を特定する方法である。この方法は、電子線を絞る方法に比べ構成が簡単であるという特徴がある。試料の分析位置は、観察される像を見ながらスリットの位置を変えることにより、調整が可能である。上記視野スリットが、スリットの方向、及び幅を変化させ得る機構を備えることが好ましい。観察したい部位のみのエネルギースペクトルのみが得られるようにスリットの幅が変えられれば、目的外の部位のエネルギースペクトルのノイズが入ることはなくなる。」

(オ)「【0031】
【発明の実施の形態】本発明において、電子分光器は試料から出射した電子を、その電子が持つエネルギーにより異なる位置に結像し、エネルギースペクトルを形成する。視野スリットは、観察している像をスリット状に選択する。この際、当該視野スリットはエネルギー分散方向と垂直になっていることから、エネルギースペクトル面上では、x軸がエネルギー軸,y軸がスリットで選択された像の軸からなる2次元のエネルギースペクトルが得られる。2次元の画像検出器によりその2次元のエネルギースペクトルが検出される。
【0032】本発明では、異なる位置のエネルギースペクトルを一度に2次元の画像検出器で計測できることから、計測時間を大幅に短縮できる。かつ計測が短時間で終了することから、電子の加速電圧等のドリフトの影響や計測中の外乱の影響の少ない計測が可能となり、実効的にエネルギー分解能が向上する。
【0033】(実施例1)図1は本発明の全体図を示したものである。
【0034】電子銃1より出射した電子線2は、収束レンズ系3により収束された後、試料4の観察したい領域に入射する。試料4を透過した電子線は、対物レンズ5および中間レンズ系6により拡大される。その結果、電子分光器10の物点7の位置に中間レンズ系のクロスオーバーが形成され、同電子分光器の入射像面8に電子顕微鏡像もしくは電子回折図形が形成される。ここで入射像面8の位置に挿入された視野スリット9により入射像面の任意の場所をスリット状に選択する。視野スリット9により選択された領域の長手方向をy軸とする。選択された領域は、電子分光器10によりx軸方向にエネルギーの差により異なる偏向作用を受ける。その結果スペクトル面12においては、x軸方向にエネルギースペクトル(透過した電子線のエネルギー量に対する電子線量のスペクトル)が形成される。その際y軸方向には入射像面8で視野スリット9によりy軸方向に短冊状に選択されたおのおのの位置が相当するため、2次元的なエネルギースペクトルとなっている。投影レンズ系13により、スペクトル面12の位置に形成された2次元のエネルギースペクトルは画像検出器14に投影され、前記2次元のエネルギースペクトルは2次元的に検出される。」

(カ)「【0036】図2は、本発明による計測の手順を示した図である。まず観察する領域の電子顕微鏡像(a)より目的とする部分を視野選択スリット9を用いて選択する(b)。この時視野選択スリット9によって選択された領域を上から領域a,b,…,iとする。次に電子分光器10によって、位置x方向がエネルギー量に相当する2次元的なスペクトルを取得する(c)。この時、領域a,b,…,iのスペクトルは図で示した様に異なる位置に形成される。さらに、取得した2次元的なスペクトルを図に示すように短冊状の領域毎に強度を検出することにより、領域a,b,…,iのスペクトルを分離して計測できる。
【0037】本発明により、異なる位置からのエネルギースペクトルを、同時に2次元的なエネルギースペクトルとして計測することができる。これにより次の利点がある。」

(キ)「【0044】(実施例2)シリコン単結晶基板上に、二酸化珪素膜(SiO_(2)),窒化珪素膜(Si_(3)N_(4)),酸窒化珪素膜(SiO_(x)N_(y))をスパッタリング法により積層した試料の断面を透過型電子顕微鏡で観察した。
【0045】図6(a)はTEM像を示している。試料の材質の違いによりTEM像の濃淡が異なるため、各層が認識できる。また図には視野制限スリットにより選択した領域をも示している。この場合は、試料の深さ方向を同時に分析しようとしている。
【0046】図6(b)は、このように選択された視野の2次元のエネルギースペクトルを示す。横軸は電子の持つエネルギー(エネルギーロス量)を示し、縦軸は試料の深さ方向の分布を示す。なお、縦軸の分布の幅は、電子分光器あるいは円筒型レンズを調整することにより任意の幅に調整が可能である。」

(ク)「【0049】
【発明の効果】本発明の第1の発明によれば、試料の異なる位置のエネルギースペクトルを同時に観察することにより、電子線加速電圧のドリフト,電場,磁場による外乱等による影響がなくなるので、試料の化学変化に起因する微妙なケミカルシフト分のエネルギースペクトル変動が観察可能になる。」

ウ.引用例1記載の発明の認定
(ア)引用例1の上記記載(オ)から、対物レンズ及び中間レンズ系により電子顕微鏡像が形成される。そして、引用例1の上記記載(カ)及び図2(a)から、かかる電子顕微鏡像は試料の電子顕微鏡像であることは明らかである。したがって、引用例1の「対物レンズ」及び「中間レンズ系」は、電子銃から放射されて試料を透過した電子線から前記試料の電子顕微鏡像を形成するものである。

(イ)引用例1の上記記載(エ)(オ)(カ)から、引用例1の「視野スリット」は、対物レンズ及び中間レンズ系により形成された試料の電子顕微鏡像より分析したい領域を選択するものであることは明らかである。

(ウ)引用例1の上記記載(ウ)(オ)(カ)及び図2から、引用例1の「電子分光器」は、試料を透過した電子線を分光して、図2(b)に示される視野スリットにより選択された電子顕微鏡像から、図2(c)(d)に示される2次元的なエネルギースペクトルを得るものである。
そして、引用例1の上記記載(ア)及び(キ)から、前記エネルギースペクトルは、試料を透過した電子線のエネルギー損失量を示すものである。
また、引用例1の上記記載(ウ)(オ)(カ)及び図2(c)(d)から、エネルギースペクトルが「2次元的」であるとは、視野スリットにより選択された領域内の試料の異なる位置(領域a,b,…,i)からのエネルギースペクトルが、試料の異なる位置毎に、前記エネルギースペクトルが形成される方向(x方向)とは異なる方向(y方向)に分離されることを意味することは明らかである。

(エ)したがって、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。

「電子銃と、
前記電子銃から放射されて試料を透過した電子線から前記試料の電子顕微鏡像を形成する対物レンズ及び中間レンズ系と、
前記電子顕微鏡像より分析したい領域を選択する視野スリットと、
前記試料を透過した電子線を分光して前記試料を透過した電子線のエネルギー損失量を示すエネルギースペクトルを得るものであって、前記エネルギースペクトルは、前記視野スリットにより選択された領域内の前記試料の異なる位置からのエネルギースペクトルが、前記試料の異なる位置毎に、前記エネルギースペクトルが形成される方向とは異なる方向に分離された2次元的なエネルギースペクトルである電子分光器と、
前記2次元的なエネルギースペクトルを一度に計測する2次元の画像検出器と、
を備えた透過型電子顕微鏡装置。」(以下、「引用発明1」という。)

エ.補正発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
(ア)引用発明1の「電子銃」、「前記試料を透過した電子線を分光して前記試料を透過した電子線のエネルギー損失量を示すエネルギースペクトルを得るものであって、前記エネルギースペクトルは、前記視野スリットにより選択された領域内の前記試料の異なる位置からのエネルギースペクトルが、前記試料の異なる位置毎に、前記エネルギースペクトルが形成される方向とは異なる方向に分離された2次元的なエネルギースペクトルである電子分光器」、「前記2次元的なエネルギースペクトルを一度に計測する2次元の画像検出器」は、補正発明の「電子線を放射する電子銃等の電子線発生手段」、「検知される試料を透過した前記電子線を分光して、異なる試料位置の電子線エネルギー損失スペクトル有する電子線エネルギー損失スペクトル像を形成する電子線分光器」、「前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を検知する画像検知器」に、それぞれ相当する。

(イ)引用発明1の「視野スリット」は、「電子銃から放射されて試料を透過した電子線」から形成される「電子顕微鏡像」より「分析したい領域を選択する」ものであるから、引用発明1の「視野スリット」は、補正発明の「前記電子線分光器に入射する電子線の入射範囲を絞って前記試料の検知範囲を制限する視野スリット」に相当する。

(ウ)すると、補正発明と引用発明1とは、

「電子線を放射する電子銃等の電子線発生手段と、検知される試料を透過した前記電子線を分光して、異なる試料位置の電子線エネルギー損失スペクトル有する電子線エネルギー損失スペクトル像を形成する電子線分光器と、前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を検知する画像検知器と、前記電子線分光器に入射する電子線の入射範囲を絞って前記試料の検知範囲を制限する視野スリットとを有する透過型電子顕微鏡。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

〈相違点〉
補正発明では、「検知範囲が制限される前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像」を「時分割して検知」し、「時分割されたエネルギー損失スペクトル像の画像を重ねあわせる」のに対し、引用発明1では、画像を「時分割して検知」し、「時分割されたエネルギー損失スペクトル像の画像を重ねあわせる」ものとされていない点。

オ.相違点についての判断
透過型電子顕微鏡を用いた電子エネルギー損失分光分析装置の分野において、外界の電磁場の影響により電子線の経路がシフトもしくは振動するとスペクトルのエネルギー分解能が劣化するという課題は、本願出願時において周知の課題である(特開2000-113854号公報の段落【0001】乃至【0002】、段落【0009】乃至【0012】を参照。)。そして、引用発明1の「透過型電子顕微鏡装置」は、「前記試料を透過した電子線を分光して前記試料を透過した電子線のエネルギー損失量を示すエネルギースペクトルを得る」「電子分光器」を備えているから、引用発明1の「透過型電子顕微鏡装置」も透過型電子顕微鏡を用いた電子エネルギー損失分光分析装置である。したがって、引用発明1の「透過型電子顕微鏡装置」にも前記課題が存在することは、当業者にとって自明である。
また、電子顕微鏡の分野では、外界の電磁場の変動により電子線が変動しても検知される画像が劣化しないようにするために、時分割で複数の画像を検知し、外界の電磁場の変動により生ずる画像のブレを補正しながら時分割で検知された前記複数の画像を積算することは、本願出願時において周知の技術である(特開2000-113854号公報(段落【0001】乃至【0002】、段落【0009】乃至【0012】、段落【0029】乃至【0031】)、特開平5-290787号公報(請求項2、請求項3、段落【0004】乃至【0005】、段落【0021】乃至【0024】、段落【0026】乃至【0029】、図4、図6)を参照。)。
すると、引用発明1において、外界の電磁場の変動により生ずる上記課題を解決するために、上記周知技術を採用することは、当業者にとって容易に想到し得る。
したがって、相違点に係る補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。
また、補正発明の効果は、引用発明1及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものに過ぎない。

カ.補正発明の独立特許要件の判断
以上のとおり、補正発明は引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、本件補正は同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、平成18年11月24日付けの手続補正により補正された明細書及び図面に基づいて審理すると、本願の請求項1に係る発明は、平成18年11月24日付けで補正された明細書の特許請求の範囲に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】 電子線を放射する電子銃等の電子線発生手段と、検知される試料を透過した前記電子線を分光して電子線エネルギー損失スペクトル像を形成する電子線分光器と、前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を検知する画像検知器と、前記電子線分光器に入射する電子線の入射範囲を絞って前記試料の検知範囲を制限する視野スリットとを有する透過型電子顕微鏡にあって、
検知範囲が制限される前記電子線エネルギー損失スペクトル像の画像を時分割して検知し、
時分割されたエネルギー損失スペクトル像の画像を重ねあわせることを特徴とする透過型電子顕微鏡。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用刊行物の記載事項及び引用例1記載の発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1には、前記「第2 補正の却下の決定」の「2.本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の「イ.引用刊行物の記載事項」の欄に摘記したとおりの事項が記載されており、引用例1に記載された発明(引用発明1)は、前記「第2 補正の却下の決定」の「2.本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の「ウ.引用例1記載の発明の認定」の欄に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、補正発明の発明特定事項から、前記「第2 補正の却下の決定」の「2.本件補正の適否の検討」の「(1)目的要件(平成18年改正前の特許法第17条の2第4項)についての検討」の欄で述べた限定事項を省いたものである。
そして、本願発明の発明特定事項をすべて含み、他の発明特定事項を付加したものに相当する補正発明が、前記「第2 補正の却下の決定」の「2.本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の欄に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、前記「第2 補正の却下の決定」の「2.本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の欄で示した理由と同様の理由により、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、前置審尋に対する回答の中で、「上記の理由では拒絶査定が解消し得ないとお考えの場合には、ご審理の際に是非技術説明の機会を賜りたく、どうぞよろしくお願い申し上げます。」と面接要請を提出しているが、これは、単に技術説明のための面接を希望することを表明したに過ぎず、面接に際して行う技術説明の具体的な内容が何ら記載されていないうえ、当審においても技術説明のための面接を行う必要性が特に認められないので、請求人の要請には応じられない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。そして、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-18 
結審通知日 2008-06-24 
審決日 2008-07-08 
出願番号 特願2001-206114(P2001-206114)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01J)
P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀部 修平  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 江塚 政弘
日夏 貴史
発明の名称 透過型電子顕微鏡  
代理人 ポレール特許業務法人  

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