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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N |
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管理番号 | 1183425 |
審判番号 | 不服2004-20472 |
総通号数 | 106 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-10-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-10-04 |
確定日 | 2008-09-01 |
事件の表示 | 特願2000-618721「イオン移動度及び質量分析器」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月23日国際公開、WO00/70335、平成14年12月24日国内公表、特表2002-544517〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2000年5月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年5月17日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成16年6月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年10月4日に審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。 2.補正の適否 平成16年10月4日付けの手続補正を認める。 [理由] 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を補正するものであり、特許法第17条の2第4項第3号乃至第4号の規定、すなわち、「誤記の訂正」乃至「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」に該当する補正と認められる。 3.本願発明 したがって、本願発明は、平成16年10月4日付けで補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下で、「本願請求項1の発明」という)は、次のものである。 「【請求項1】気塊状イオンを発生することと、 該気塊状イオンの少なくとも一部をイオン移動度分析器内にゲートして上記気塊状イオンを時間的に分離することによりそれぞれ対応するイオン移動度を有する多数のイオンパケットを形成することと、 上記形成された多数のイオンパケットのうち少なくとも一部のイオンパケットを順次質量分析器に向けることと、 上記質量分析器を連続的に動作させることによって上記少なくとも一部のイオンパケットのうちの少なくとも一部を順次時間的に分離させてそれぞれ対応するイオン質量を有する多数のイオンサブパケットを形成することと、 上記形成されたイオンサブパケットの少なくとも一部を処理して質量スペクトル情報を測定することと、 の各ステップにより構成されたことを特徴とするイオン質量スペクトル情報を生成する方法。」 4.刊行物 これに対して原査定の拒絶理由(特許法第29条第2項違反)で示された刊行物は次のものである。 刊行物1:国際公開第98/56029号パンフレット(1998年) 刊行物1には、日本語訳すると[日本語訳は、刊行物1のパテントファミリである特表2001-503195号公報(以下で、「刊行物2」という)を参照] ア)「グーブモント及びその他の者は、IMS計測器をTOFMS計測器に接続することに多少実験的に成功したが、それに伴なう計測器及び技術には、幾つかの欠点がある。例えば、グーブモント及びその他の者の要約書は、イオンをIMS計測器内に導入するため、5msゲートのパルスを使用すると説明しているため、形成されるIMSスペクトルは、少なくとも5msのピーク幅を有する低分解度であることが分かる。」(刊行物1第5頁10-15行)(刊行物2第48頁14-19行)、 イ)「本発明の別の形態によれば、イオンの質量スペクトルの情報を発生させる方法は、 α:ガス状のイオン塊を発生させるステップと、 β:第一の軸線に沿ってガス状のイオン塊を時間の点にて分離し、各々が関連した独特のイオン移動度を有する多数のイオンパケットを形成するステップと、 γ:イオンパケットを第一のイオントラップ内に集め且つイオンパケットをイオントラップから放出することを連続的に行うステップと、 δ:第二の軸線に沿って第一のイオントラップから放出されたイオンパケットの少なくとも幾つかを時間の点にて連続的に分離して、各々が関連した独特のイオン質量を有する多数のイオンサブパケットを形成するステップと、 ε:イオンサブパケットの少なくとも幾つかを処理して、質量スペクトルの情報を決定するステップ とを備えている。」(刊行物1第6頁24行-第7頁1行)(刊行物2第49頁20行-第50頁1行)(ただし、α:、β:、γ:、δ:、ε:、の段落表記は便宜上、今回追加したものである。) ウ)「上記の方法を実施する1つの好適な装置は、 α’:試料源からガス状のイオン塊を発生させる手段と、 β’:ガス状のイオン塊を発生させる手段と流体的に連通した一端におけるイオンの入口開口、及びその他端におけるイオンの出口開口を確定するイオン移動度分析器(IMS)とを備え、イオンの入口開口及びイオンの出口開口が、その間に第一の軸線を画定し、更に、 γ’:IMSのイオンの入口開口と流体的に連通したイオンの入口開口、及びイオンの出口開口を画定するイオントラップと、 δ’,ε’:イオントラップのイオンの入口開口と流体的に連通したその一端におけるイオンの加速領域、及びその他端におけるイオン検出器を確定する質量分析器(MS)とを備えており、イオンの加速領域及びイオン検出器がその間に第二の軸線を確定する ものである。」(刊行物1第7頁2-12行)(刊行物2第50頁1-10行)(ただし、α’:、β’、:γ’:、δ’,ε’:、の段落表記は便宜上、今回追加したものである。)、 エ)「コンピュータ38を作動して電圧源88,96及び/又は104を制御し、瞬時にグリッド即ちプレート86,94、102間の電界を増加し、それによってイオンが引き出された電界を創造し、これらグリッド間のイオンをフライトチューブ110の方へ加速する。」(刊行物1第15頁17-21行)(刊行物2第58頁21-24行)、 オ)「好ましくは、コンピュータ38は上述したように、イオン源74からのイオンの発生を制御し、コンピュータ38IMS34内にイオンが導入される時間を記憶する。これを以後、イオン導入事象と呼ぶ。コンピュータ38は電圧源88、96を制御するように作動し、何回かの各イオン導入事象で、パルス化されたイオン引き出し電界を提供する。」(刊行物1第17頁1-6行)(刊行物2第60頁13-17行)、 カ)「一実施例において、パルス化されたイオン引き出し電界は、イオン導入事象ごとに512回繰り返して提供された。当業者は、各イオン導入事象で提供されたパルスイオン引き出し電界の数が質量分析装置30の最終分解能に直接比例するということがわかるであろう。」(刊行物1第17頁6-10行)(刊行物2第60頁17-20行)、 キ)「グリッド即ちプレート86,94に対するイオンパケットの移動の方向により、及びイオン引き出し電界のパルス特性により、TOFMS36は、それらがドリフトチューブ線72に沿って移動する時、各イオンパケットを検出器116の方へ加速する複数の機会を持つ。そのように、装置30は検出器116に最大イオンスループットを提供するようになっている。」(刊行物1第17頁13-18行)(刊行物2第60頁23-28行)、 ク)「電源164によって付与されるDCレベル及び高周波ピークの大きさを適切に選択することによって、全ての質量対電荷の比率のイオン又はあらゆる特定の質量対電荷の比率のイオンが、イオントラップ152内に選択的に集めることができる。」(刊行物1第(刊行物1第19頁20-23行)(刊行物2第63頁15-18行)、 ケ)「本発明においては、イオントラップは、……コンピュータ38によって制御して、集められたイオンパケットを周期的に排出するようにすることができる。この動作は、以下においてイオン排出動作と称する。」(刊行物1第19頁24-27行)(刊行物2第63頁19-23行)、 コ)「コンピュータ38は、集められたイオンパケットがイオントラップ152から排出される時間を制御するので、イオンパケットがグリッド又はプレート86’及び94間に形成された空間内の特定の位置に到達する時間を正しく予測することができる。イオンパケットがグリッド又はプレート86’及び94間の特定の位置に到達する時間をイオン排出動作に関して適切に知ることによって、コンピュータ38は、パルス化されたイオン引き出し電界を付与するための適切なタイミングをより正確に予測して、以下に説明するように最も高い質量分析能力を提供することができかもしれない。」(刊行物1第19頁28行-第20頁4行)(刊行物2第63頁23行-第64頁2行)、 が記載されている。 5.刊行物1記載の発明 刊行物1には、 イ)のα及びウ)のα’に、気塊状のイオンを発生すること、が記載され、 イ)のβ及びウ)のβ’に、気塊状イオンをイオン移動度分析器内で上記気塊状イオンを時間的に分離することによりそれぞれ対応するイオン移動度を有する多数のイオンパケットを形成することが、記載され、 イ)のγ、ウ)のγ’及びク)、ケ)、コ)の記載により、イオントラップが、形成された多数のイオンパケットのうち少なくとも一部のイオンパケットを順次質量分析器に向けるものであることが明らかであり、 イ)のδ及びウ)のδ’、ε’に、質量分析器により、少なくとも一部のイオンパケットのうちの少なくとも一部を順次時間的に分離させてそれぞれ対応するイオン質量を有する多数のイオンサブパケットを形成すること、が記載され、 カ)の「パルス化されたイオン引き出し電界は、イオン導入事象毎に512回繰り返して提供された。」という記載は、質量分析装置のイオン引き出し電界を、“イオン導入事象”毎に、512回繰り返してパルス動作させるという意味であり、該512回繰り返してパルス動作をさせるという仕方で質量分析器を動作させることにより、イオンパケットの少なくとも幾つかを時間の点にて連続的に分離して、各々が関連した独特のイオン質量を有する多数のイオンサブパケットを形成するようにさせるものであることも明らかであり、 イ)のε’及びウ)のδ’、ε’に、イオンサブパケットの少なくとも一部を処理して質量スペクトル情報を測定することが、記載されているから、 刊行物1には、 気塊状イオンを発生することと、 該気塊状イオンの少なくとも一部をイオン移動度分析器内で上記気塊状イオンを時間的に分離することによりそれぞれ対応するイオン移動度を有する多数のイオンパケットを形成することと、 上記形成された多数のイオンパケットのうち少なくとも一部のイオンパケットを順次質量分析器に向けることと、 上記質量分析器のイオン引き出し電界を、512回繰り返してパルス動作させるという仕方で、質量分析器を動作させることによって上記少なくとも一部のイオンパケットのうちの少なくとも一部を順次時間的に分離させてそれぞれ対応するイオン質量を有する多数のイオンサブパケットを形成することと、 上記形成されたイオンサブパケットの少なくとも一部を処理して質量スペクトル情報を測定することと、 の各ステップにより構成されたことを特徴とするイオン質量スペクトル情報を生成する方法、 の発明が記載されている。 6.対比・検討 本願請求項1の発明と、刊行物1記載の発明を対比すると、本願請求項1の発明の「質量分析器を連続的に動作させる」と、刊行物1記載の発明の「質量分析装置のイオン引き出し電界を、512回繰り返してパルス動作させるという仕方で、質量分析器を動作させる」というのは、質量分析器を動作させるという点で共通しているから、 両者は、 気塊状イオンを発生することと、 該気塊状イオンの少なくとも一部をイオン移動度分析器内で上記気塊状イオンを時間的に分離することによりそれぞれ対応するイオン移動度を有する多数のイオンパケットを形成することと、 上記形成された多数のイオンパケットのうち少なくとも一部のイオンパケットを順次質量分析器に向けることと、 上記質量分析器を動作させることによって上記少なくとも一部のイオンパケットのうちの少なくとも一部を順次時間的に分離させてそれぞれ対応するイオン質量を有する多数のイオンサブパケットを形成することと、 上記形成されたイオンサブパケットの少なくとも一部を処理して質量スペクトル情報を測定することと、 の各ステップにより構成されたことを特徴とするイオン質量スペクトル情報を生成する方法、 である点で一致し、次の点で相違する。 相違点1 本願請求項1の発明は「該気塊状イオンの少なくとも一部をイオン移動度分析器内にゲート」するのに対し、 刊行物1記載の発明は「ゲート」について記載がない点。 相違点2 本願請求項1の発明は、「質量分析器を連続的に動作させる」のに対し、 刊行物1記載の発明は、「質量分析器のイオン引き出し電界を、512回繰り返してパルス動作させるという仕方で、質量分析器を動作させる」ものである点。 前記相違点について検討すると、 相違点1について 刊行物1のア)に、「……、イオンをIMS計測器内に導入するため、5msゲートのパルスを使用する……」と記載があり、IMS計測器というのは、イオン移動度分析器のことであるから、刊行物1記載の発明において、気塊状イオンの少なくとも一部をイオン移動度分析器内にゲートすることは、当業者が容易に想到できたものである。 相違点2について 本願請求項1の発明で「質量分析器を連続的に動作させる」という記載は、 本願明細書(平成13年11月19日受付の国内書面である)において 段落【0016】の「本発明の他の面によれば、……、上記気塊状イオンの少なくとも一部を上記IMSのイオンの入口にゲートし上記MSのイオン加速領域に連続的にパルスを与えそれによってイオンを上記イオン検出器順次向けるように動作可能なコンピュータと、……」の記載、乃至 段落【0065】の「……、TOFMS36のイオン加速領域(グリッド86、94及び102の間の)が連続的に作動し、あるいはパルス状になっている場合に、上述したようにイオントラップ152(図5参照)は必要とされないことが実験により判定されている。言い換えると、TOFMS36のイオン加速領域が自由動作モードで連続的なパルス状になっていれば、タイミングのためにイオントラップ152にイオンが収集される必要がない。……、本発明では、トラップ152がTOFMSの入口36に近接して配置されるような所望の形態において、このようなイオントラップ152が任意に用いられることを考えている。」の記載、乃至 段落【0076】の「……。その後にステップ410において、制御コンピュータ310は所定の時間だけイオンゲート356(図10)にパルスを与えそれによって気塊状イオンを収集チャンバ354からIMS34に通過させ、上述したようにMS36のイオン加速領域に連続的にパルスを与えそれによってMS36を自由動作モードで動作させるように動作可能である。……」の記載における、下線部(下線は便宜上、今回付与したものである)の記載に基づくものであり、それは、質量分析器(MS)のイオン加速領域に連続的にパルスを与えて質量分析器を動作させるという意味である。 すなわち本願請求項1は、質量分析器のイオン加速領域に連続的にパルスを与えて質量分析器を動作させることを、「質量分析器を連続的に動作させる」と表現したものと認められる。 刊行物1記載の発明について検討すると、質量分析器のイオン引き出し電界はイオン加速のためのものであるから、該電界に係る領域はイオン加速領域ということができ、512回繰り返してパルス動作させるというのは、連続的にパルス動作させるということに外ならないから、刊行物1記載の発明で、「質量分析器のイオン引き出し電界を、“イオン導入事象”毎に、512回繰り返してパルス動作させるという仕方で、質量分析器を動作させる」というのは、質量分析器のイオン加速領域に連続的にパルスを与えて質量分析器を動作させるということであり、これは、本願明細書の前記表現方法を用いれば、質量分析器を連続的に動作させる、ということになる。 したがって、相違点2は単なる表現上の相違に過ぎず、実質的には、両発明において同一の技術内容である。 そして、相違点1,2を総合的に判断しても、本願請求項1の発明は、刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。 7.むすび したがって、本願請求項1の発明は、刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、その余の請求項を検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-02-20 |
結審通知日 | 2007-02-22 |
審決日 | 2007-03-06 |
出願番号 | 特願2000-618721(P2000-618721) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | ▲高▼場 正光 |
特許庁審判長 |
後藤 時男 |
特許庁審判官 |
黒田 浩一 菊井 広行 |
発明の名称 | イオン移動度及び質量分析器 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 千葉 昭男 |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 増井 忠弐 |
代理人 | 小林 泰 |