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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1183605
審判番号 不服2007-26305  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-26 
確定日 2008-08-28 
事件の表示 特願2002-322179「高周波誘導結合プラズマ源および高周波誘導結合プラズマ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月 3日出願公開、特開2004-158272〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯・本願発明の認定
本願は平成14年11月6日の出願であって、平成19年5月11日付けで拒絶の理由が通知され、平成19年7月12日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年8月23日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として平成19年9月26日付けで本件審判請求がされたものである。
したがって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年7月12日付けの手続補正で補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「励起コイルにより形成した交流磁場をプラズマ生成室内に導入し、そのプラズマ生成室内にプラズマを生成する高周波誘導結合プラズマ源において、
前記プラズマ生成室内に突出し、前記プラズマ生成室内部と外部とを隔てる電気絶縁性隔壁と、
前記プラズマ生成室内に突出した前記電気絶縁性隔壁とプラズマ生成室内壁との間のリング状空間に、カスプ磁場を形成する磁場形成装置とを設け、
前記プラズマ生成室内に突出した前記電気絶縁性隔壁を囲むリング状プラズマが形成されるように、前記電気絶縁性隔壁の外側凹部に前記励起コイルを配設したことを特徴とする高周波誘導結合プラズマ源。」


第2 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-50496号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の(ア)?(オ)の記載が図示とともにある。

(ア)「【請求項1】 アンテナに高周波電力を印加し反応室に交番電磁界を生成して反応室にプラズマを生成するプラズマ処理装置に於いて、反応室を画成する真空容器の一部を絶縁材として交番電磁界透過窓を形成し、該交番電磁界透過窓を反応室中心に向かって突出する凹形状とし、該交番電磁界透過窓内にプラズマ発生用のアンテナを挿設したことを特徴とするプラズマ処理装置。」

(イ)「【0012】本発明は斯かる実情に鑑み、被処理基板の大型化の要請に対応し、反応室を大型化してもプラズマの均一性を確保し得、更に反応室壁面の温度制御の向上を図るものである。」

(ウ)「【0017】天井、底床を有する略円筒形状をし反応室19を画成する真空容器20の天井に窓孔21を穿設し、該窓孔21に有底筒体の交番電磁界透過窓22を嵌入する。該交番電磁界透過窓22は真空容器20に対して中心に向かって突出する凹形状となっている。該交番電磁界透過窓22は石英等絶縁材料から成り、上端周囲に形成したフランジ23が前記真空容器20の上面に気密に固着されている。前記交番電磁界透過窓22内部にはコイル状のアンテナ24が挿設されており、該アンテナ24には整合器25を介して高周波電源26が接続されている。
【0018】前記アンテナ24は被処理基板11に対して垂直な軸心線を中心として線材をコイル状に巻いて成形したものであり、前記交番電磁界透過窓22内に挿設することで反応室19の中心部、或は中心部近傍に位置することができる。又、アンテナ24を交番電磁界透過窓22内に挿入する構成であるので、アンテナ24のコイル径を小さくでき電磁界の有効利用が行える。」

(エ)「【0021】前記反応室19を図示しない排気ポンプで排気した後、該反応室19へ図示しない反応ガス供給機構により反応ガスを供給し、図示しない圧力制御機構で反応室19の圧力を所定の圧力に維持した状態で、前記アンテナ24に高周波電源26から整合器25を介して高周波電力を印加し、前記アンテナ24により交番電磁界を発生させる。
【0022】前記交番電磁界透過窓22を透過し、交番電磁界透過窓22の側面から下方に発せられた交番電磁界により反応室19の反応ガスが電離し、プラズマ化される。電離した電子はアンテナ24により形成された磁界により飛行の軌道が曲げられ飛行距離が伸び、より多くのガス粒子(分子、原子)と衝突しつつ、より多くの粒子の電離を惹起する。従って高濃度のプラズマが生成され、生成されたプラズマにより前記試料台29上の被処理基板11が処理される。」

(オ)「【0026】
【発明の効果】以上述べた如く本発明によれば、下記の優れた効果を発揮する。
【0027】(1)[審決注:丸囲み数字は、表記の都合上、括弧付き数字で表現した。] 反応室壁面に設ける交番電磁界透過窓を反応室中心に向かって凹形状とすることにより、反応室の外形寸法を大きくしても、前記交番電磁界透過窓の厚みを外形寸法に応じて大きくする必要がなく、アンテナが生成する交番電磁界をプラズマ生成の為に有効に利用することができる。
【0028】(2)[審決注:丸囲み数字は、表記の都合上、括弧付き数字で表現した。] 反応室に設ける交番電磁界透過窓を反応室中心に向かって凹形状とし、交番電磁界透過窓内にアンテナを挿設したので、アンテナが生成する交番電磁界の殆どが交番電磁界透過窓を透過するので交番電磁界をプラズマ生成の為に有効に利用することができる。」

また、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭63-66826号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の(カ)?(ク)の記載が図示とともにある。

(カ)「高周波でプラズマを生成するプラズマ室と高周波電流を供給する高周波電源および前記プラズマ室からイオンを引き出すイオン引き出し装置とその電源から構成される高周波イオン源」(第1頁左欄第5?8行)

(キ)「第1図は、高周波イオン源応用装置の一実施例である。高周波によりプラズマを生成するためのプラズマ室1、プラズマ室1からイオンを引き出すための引き出し電極2,3および引き出されたイオンにより材料表面層を加工するための加工室4より構成され、加工室4は排気通路5から図示しない排気装置に結合されており、プラズマ室1には、ガス導入口6から図示しないガス供給装置へ連結されている。プラズマ室1及び加工室4よりなる装置内空間は、真空排気装置により10^(-8)Torr以下の圧力まで排気された後、試料ガスを10^(-4)?10^(-8)Torrに充填し、高周波電源7から整合回路8を径て、コイル9に高周波電力を供給、プラズマを生成する。」(第2頁右下欄第13行?第3頁左上欄第6行)

(ク)「第5図、第6図は、高周波イオン源応用装置の他の実施例である。この実施例では、プラズマ室1の外側に永久磁石30を放射状に配置にしたものである。磁石30は、第5図[審決注:「第6図」の明らかな誤記である。]に示したように、偶数個の永久磁石をその極性が半径方向となるように、また、隣接する磁石の極性が反対方向となるように配置したものである。このような磁石配置によりプラズマ室1の内壁面近くに隣り合う磁界の極性が反対向きの磁界が形成される。プラズマ室の壁面近傍にこの様な磁界が存在すると、高周波コイル9によって生成されたプラズマは、壁面に逃げにくくなるので、プラズマ密度が向上、さらに、プラズマ室内での密度分布が均一化され、イオン引き出し装置で加工室4へ引き出されたイオンビームを均質で、かつ、電流密度の大きいものにできる。」(第3頁右下欄第17行?第4頁左上欄第12行)

2.引用例1記載の発明の認定
引用例1の上記記載(エ)及び図1から、コイル状のアンテナにより発生された交番電磁界のうち交番電磁界透過窓の側面から発せられた交番電磁界により生成されるプラズマは、交番電磁界透過窓の側面と反応室を画成する真空容器とにより形成される空間部分に生成されており、かかるプラズマの形状は、交番電磁界透過窓の側面と反応室を画成する真空容器とにより形成される空間と同じ形状であって、リング状であると認められる。
したがって、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。

「コイル状のアンテナに高周波電力を印加し反応室に交番電磁界を生成して前記反応室にプラズマを生成するプラズマ処理装置に於いて、前記反応室を画成する真空容器の一部を絶縁材として交番電磁界透過窓を形成し、前記交番電磁界透過窓を前記反応室中心に向かって突出する凹形状とし、前記交番電磁界透過窓内にプラズマ発生用の前記コイル状のアンテナを挿設し、前記コイル状のアンテナにより発生された交番電磁界が前記交番電磁界透過窓を透過し、前記交番電磁界透過窓の側面から下方に発せられた交番電磁界により前記反応室の反応ガスを電離させて、前記交番電磁界透過窓の側面と前記反応室を画成する前記真空容器とにより形成される空間部分にリング状のプラズマを生成するプラズマ処理装置。」(以下、「引用発明1」という。)

3.本願発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
(ア)引用発明1の「コイル状のアンテナ」、「交番電磁界」は、それぞれ、本願発明の「励起コイル」、「交流磁場」に相当する。また、引用発明1の「プラズマ処理装置」は「反応室にプラズマを生成する」から、引用発明1の「反応室」が本願発明の「プラズマ生成室」に相当する。さらに、引用発明1の「前記コイル状のアンテナにより発生された交番電磁界が交番電磁界透過窓を透過」して「反応室に交番電磁界を生成」することは、本願発明の「励起コイルにより形成した交流磁場をプラズマ生成室内に導入」することに相当する。
そして、引用発明1の「プラズマ処理装置」は「コイル状のアンテナに高周波電力を印加し反応室に交番電磁界を生成して反応室にプラズマを生成する」という原理でプラズマを生成しているから、引用発明1の「プラズマ処理装置」で生成されるプラズマは高周波誘導結合プラズマである。
したがって、引用発明1の「プラズマ処理装置」において「コイル状のアンテナに高周波電力を印加」し、「前記コイル状のアンテナにより発生された交番電磁界が交番電磁界透過窓を透過」して、「反応室に交番電磁界を生成して前記反応室にプラズマを生成する」ことは、本願発明の「励起コイルにより形成した交流磁場をプラズマ生成室内に導入し、そのプラズマ生成室内にプラズマを生成する高周波誘導結合プラズマ源」に相当する。

(イ)引用発明1の「前記反応室を画成する真空容器の一部を絶縁材として交番電磁界透過窓を形成し、前記交番電磁界透過窓を前記反応室中心に向かって突出する凹形状」としたものは、本願発明の「前記プラズマ生成室内に突出し、前記プラズマ生成室内部と外部とを隔てる電気絶縁性隔壁」に相当する。

(ウ)引用発明1の「前記交番電磁界透過窓を前記反応室中心に向かって突出する凹形状とし、前記交番電磁界透過窓内にプラズマ発生用の前記コイル状のアンテナを挿設」すること及び「前記交番電磁界透過窓の側面から下方に発せられた交番電磁界により前記反応室の反応ガスを電離させて、前記交番電磁界透過窓の側面と前記反応室を画成する前記真空容器とにより形成される空間部分にリング状のプラズマを生成する」ことは、本願発明の「前記プラズマ生成室内に突出した前記電気絶縁性隔壁を囲むリング状プラズマが形成されるように、前記電気絶縁性隔壁の外側凹部に前記励起コイルを配設したこと」に相当する。

(エ)したがって、本願発明と引用発明1とは、
「励起コイルにより形成した交流磁場をプラズマ生成室内に導入し、そのプラズマ生成室内にプラズマを生成する高周波誘導結合プラズマ源において、
前記プラズマ生成室内に突出し、前記プラズマ生成室内部と外部とを隔てる電気絶縁性隔壁と、
前記プラズマ生成室内に突出した前記電気絶縁性隔壁を囲むリング状プラズマが形成されるように、前記電気絶縁性隔壁の外側凹部に前記励起コイルを配設したことを特徴とする高周波誘導結合プラズマ源。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

〈相違点〉
本願発明の「高周波誘導結合プラズマ源」は「前記プラズマ生成室内に突出した前記電気絶縁性隔壁とプラズマ生成室内壁との間のリング状空間に、カスプ磁場を形成する磁場形成装置」を設けたのに対し、引用発明1の「コイル状のアンテナに高周波電力を印加し反応室に交番電磁界を生成して反応室にプラズマを生成するプラズマ処理装置」は前記「カスプ磁場を形成する磁場形成装置」を設けていない点。

4.相違点についての判断
(1)引用例2の「高周波イオン源応用装置」では、偶数個の磁石をその極性が半径方向となるように、また、隣接する磁石の極性が反対方向となるように配置し、このような磁石配置により隣り合う磁界の極性が反対向きの磁界が形成される(引用例2の上記記載(ク)及び第6図を参照。)。そして、かかる磁石配置により形成される磁界は一般にカスプ磁場と呼ばれるから(一例として、特開昭62-71146号公報(第2頁右上欄第4?10行、第2図)を参照。)、引用例2の磁石配置によって形成される磁界はカスプ磁場である。また、引用例2の前記磁石配置により形成される磁界であって一般にカスプ磁場と呼ばれる磁場は、生成されたプラズマがプラズマ室の壁面に逃げにくくなるようにしてプラズマ密度を向上させるために形成されるから、引用例2の前記磁石配置により形成される磁界であって一般にカスプ磁場と呼ばれる磁場は、プラズマ室のうちプラズマが生成される空間であって、かつ、プラズマ室の壁面近傍に形成される(引用例2の上記記載(ク)及び第5図を参照。)。
そして、引用例2に記載されたプラズマ密度の向上という課題はプラズマ源が有する自明の課題であるから、引用例2に記載されたプラズマ密度の向上という課題は引用発明1の「コイル状のアンテナに高周波電力を印加し反応室に交番電磁界を生成して反応室にプラズマを生成するプラズマ処理装置」にも存在する課題であることは当業者にとって自明である。
したがって、引用発明1の「コイル状のアンテナに高周波電力を印加し反応室に交番電磁界を生成して反応室にプラズマを生成するプラズマ処理装置」において、引用発明1において生成されたプラズマが真空容器の壁面に逃げないようにして上記課題を解決するために、引用例2の前記磁石配置により形成される磁界であって一般にカスプ磁場と呼ばれる磁場を形成する磁石を設けることは当業者にとって容易に想到し得る。
したがって、前記相違点に係る本願発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。
また、本願発明の効果は、引用発明1及び引用例2に記載された発明から予測し得る程度のものである。

(2)なお、本願発明における「カスプ磁場を形成する磁場形成装置」を本願の図2の実施例のように配置された磁石であると限定的に解釈したとしても、プラズマ源の分野では、かかる磁石の配置は本願出願時において周知の技術であるから(原査定に引用された特開平2-123640号公報(第3頁左上欄第15?19行、第1b図、第2図)を参照。)、かように限定的に解釈された本願発明も当業者にとって想到容易である。
また、本願明細書の段落【0016】の記載に基づいて、本願発明の「磁場形成装置」により形成される「カスプ磁場」はプラズマ中の電子をトラップしてプラズマの生成を促進するという作用を有する磁場であると限定的に解釈したとしても、プラズマ源の分野では、かかる作用を有するカスプ磁場は本願出願時において周知の技術であるから(特開平3-40342号公報(第3頁左上欄第15行?第3頁右上欄第6行、第1図)、特開昭64-50424号公報(第3頁右上欄第3?9行、第1図)を参照。)、かように限定的に解釈された本願発明も当業者にとって想到容易である。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。そして、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-18 
結審通知日 2008-07-01 
審決日 2008-07-14 
出願番号 特願2002-322179(P2002-322179)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 直恵  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 日夏 貴史
江塚 政弘
発明の名称 高周波誘導結合プラズマ源および高周波誘導結合プラズマ装置  
代理人 喜多 俊文  
代理人 江口 裕之  

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