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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  H02M
管理番号 1184201
審判番号 無効2005-80354  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-12-08 
確定日 2008-09-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第2765315号「電力変換装置及びこれを利用した電気車の制御装置」の特許無効審判事件についてされた平成18年 6月 1日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成18年(行ケ)第10313号平成18年11月17日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2765315号の請求項3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第2765315号の請求項3に係る発明(以下「本件特許発明」という。)についての出願は、平成3年11月18日に出願され、平成10年4月3日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。
その後、平成17年12月8日に本件特許発明に対して特許の無効審判が請求され、平成18年6月1日付けで、本件特許を無効とする審決がなされたところ、平成18年7月5日に審決取消の訴え(平成18年(行ケ)第10313号)がなされた後、平成18年9月28日付けで訂正審判が請求されたので、知的財産高等裁判所において、特許法第181条第2項の規定に基づく審決取消の決定(平成18年11月17日決定)がなされ確定し、被請求人より同年12月15日付けで、特許法第134条の3第2項に基づき訂正請求がなされたものである。(なお、上記訂正審判は、特許法第134条の3第4項の規定により取り下げられたものとみなされる。)

(2)被請求人が求めた訂正の内容は、下記訂正事項1、2のとおりである。
(2-1)訂正事項1:
特許請求の範囲の請求項3に
「直流を3以上の電位を有する交流相電圧に変換する電力変換装置において、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成し、これら両期間の比率を変更する手段を備えた電力変換装置。」とあるのを、

「直流を3以上の電位を有する交流相電圧に変換する電力変換装置において、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成し、出力電圧指令に応じてこれら両期間の比率を変更する手段と、該手段による比率を出力パルスを正負交互に出力する期間が確保されるように調整する手段を備えた電力変換装置。」
と訂正する。

(2-2)訂正事項2:
【発明の詳細な説明】の【課題を解決するための手段】の【0016】欄に
「また、上記他の目的は、直流を3以上の電位を有する交流相電圧に変換する電力変換装置において、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成し、これら両期間の比率を変更する手段を備えることにより達成される。」とあるのを

「また、上記他の目的は、直流を3以上の電位を有する交流相電圧に変換する電力変換装置において、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成し、出力電圧指令に応じてこれら両期間の比率を変更する手段と、該手段による比率を出力パルスを正負交互に出力する期間が確保されるように調整する手段を備えることにより達成される。」
と訂正する。

(3)当審では、平成19年2月19日付けで、「該手段(比率を変更する手段)による比率を出力パルスを正負交互に出力する期間が確保されるように調整する手段」との限定は、出力パルスを正負交互に出力する期間が確保されるように調整すればどのような手段でもよいという限定であり、「該手段による比率を出力パルスを正負交互に出力する期間が確保されるように調整する手段」に該当すると認められる、願書に添付した明細書又は図面に記載されたようなオフセット量を変更するものばかりではなく、願書に添付した明細書又は図面に記載されていないような他の手段、例えば、正負交互に出力する期間が下限値となったときにそれ以降は正負交互に出力する期間のパルスを特定のものとしてしまうもの等、をも含むものと認められ、願書に添付した明細書又は図面に記載されている範囲内のものとは認められないから、訂正事項1、2は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法[第1条の規定]による改正前の特許法第134条2項ただし書きの規定に適合しない旨の訂正拒絶理由を通知した。

(4)被請求人は、平成19年3月26日付けで、「正負交互に出力する期間が下限値となったときにそれ以降は正負交互に出力する期間のパルスを特定のものとしてしまうもの」という方法は、出力電圧指令に応じて両期間の比率を変更するだけの手段であって、「該手段による比率を出力パルスを正負交互に出力する期間が確保されるように調整する手段」を備えているとはいえないものである」、つまり、「正負交互に出力する期間が下限値となる前も、正負交互に出力する期間が下限値となった以降も、比率を変更する手段は1つしか存在せず、比率変更された両期間を調整するものは存在しない」として、上記訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載されている範囲内のものであり、当該訂正は認められるべき旨の意見書を提出した。

2.訂正の可否に対する判断
(1)訂正事項1について
訂正拒絶理由においては、「該手段(比率を変更する手段)による比率を出力パルスを正負交互に出力する期間が確保されるように調整する手段」として「正負交互に出力する期間が下限値となったときにそれ以降は正負交互に出力する期間のパルスを特定のものとしてしまうもの」を例示したのであって、「出力電圧指令に応じてこれら両期間の比率を変更する手段と、該手段による比率を出力パルスを正負交互に出力する期間が確保されるように調整する手段を備えた」ものとして例示したのではない。すなわち、「出力電圧指令に応じて両期間の比率を変更する手段」によって変更された比率を、例示した「正負交互に出力する期間が下限値となったときにそれ以降は正負交互に出力する期間のパルスを特定のものとしてしまう」手段により変更、調整するものという意味である。このような両手段を備えたものは、「出力電圧指令に応じてこれら両期間の比率を変更する手段」と、「該手段による比率を出力パルスを正負交互に出力する期間が確保されるように調整する手段」を備えているといえる、すなわち、「比率を変更する手段」と「比率変更された両期間を調整するもの」が存在するといえるので、該点に関する被請求人の主張は採用できない。
そして、「該手段による比率を出力パルスを正負交互に出力する期間が確保されるように調整する手段」との記載が、本願の願書に添付した明細書又は図面に記載されたようなオフセット量を変更するものに限定されるとは依然として認められないので、「該手段による比率を出力パルスを正負交互に出力する期間が確保されるように調整する手段を備える」との訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載されている範囲内のものとは認められない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は訂正事項1と整合を図るためのものであるので、同様の理由により願書に添付した明細書又は図面に記載されている範囲内のものとは認められない。

(3)したがって、平成18年12月15日付けの訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法[第1条の規定]による改正前の特許法第134条2項ただし書きの規定に適合しないので、当該訂正を認めない。

3.本件特許発明
本件特許発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項3に記載の次のとおりのものである。

「直流を3以上の電位を有する交流相電圧に変換する電力変換装置において、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成し、これら両期間の比率を変更する手段を備えた電力変換装置。」

4.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件特許発明を無効とする、との審決を求め、その理由として、次のように主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第13号証を提出している。

(イ)無効理由1
本件特許発明は、本件出願前に頒布された刊行物「特開平2-101969号公報」(甲第2号証)に記載された発明であるか、又は甲第2号証に記載された発明に周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に該当し、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

(ロ)無効理由2
本件特許発明は、本件出願前に頒布された文献「New Developments of 3-Level PWM Strategies」(甲第13号証)に記載された発明であるか、又は甲第13号証に記載された発明に周知技術を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に該当し、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

5.被請求人の主張
一方、被請求人は、
無効理由1に対し、
甲第2号証は、本件特許出願の出願当初から従来技術として本件の明細書中に記載されているものであり、本件特許発明は甲第2号証の問題点を解決すべく発明されたものであり、本件特許発明は、甲第2号証に実質的に記載されているに等しい発明ではなく、また、当業者が甲第2号証の記載に基づき容易に想到できた発明ではない
旨主張している。

また、無効理由2に対し、
本件特許発明は、甲第13号証に実質的に記載されているに等しい発明ではなく、また、当業者が甲第13号証の記載に基づき容易に想到できた発明ではない
旨主張している。

6.無効理由に対する判断
(A)無効理由1について
(1)甲第2号証
甲第2号証には、「三点インバータの作動方法」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。
a)「文献「三レベルPWM波形の発生および最適化への新規なアプローチ(A novel approach to the generation and optimization of threelevel PWM wave forma)」、PESC‘88Record、IEEE、1988年4月、第1255?1262頁から、特にその第5図に基づいて、三点インバータに対する空間フェーザ変調の、二重変調と呼ばれる1つの特別な形態が知られている。」(第(4)頁左上欄第6行から第13行)
b)「三点インバータは周知のように二点インバータにくらべて、インバータ出力端における近似的に正弦波状の電圧経過を模擬するために3つの直流電位を利用し得るという利点を有する。」(第(2)頁右下欄第9行から第12行)

c)「第3図には例として、その極値により破線で示されている好ましくは正規化された上側または下側走査限界+1.0または-1.0を規定する1つのこのような好ましくは三角波状の変調信号MSが示されている。二重変調によれば、三点インバータの相のなかの弁に対する切換パルス信号を形成するため、零点をずらされた2つの同相の目標信号システムが変調信号により走査される。第3図には2つのこのようなそれぞれ三相の目標信号システムが例として示されている。これらは以下で第1または第2の目標信号システムと呼ばれ、またそれぞれ3つの好ましくは正弦波状の120°だけ互いに位相のずれた相信号経過U^(*)_(RO)、U^(*)_(SO)、U^(*)_(TO)またはU^(*)_(RU)、U^(*)_(SU)、U^(*)_(TU)から成っている。その際に両目標信号システムのなかの対応する相信号経過、たとえば経過U^(*)_(RO)およびU^(*)_(RU)は互いに同相である。その際に第1の目標信号システムの相信号経過は普通は変調信号の上側範囲に位置し、他方において第2の目標信号システムの相信号経過は下側範囲に位置している。従って、第1の目標信号システムの相信号経過の中心線MLOは第2の目標信号システムの相信号経過の中心線MLUよりも大きく、または少なくともそれと等しい。第3図の例では第1または第2の目標システムの相信号経過は値+0.5または-0.5の中心線MLOまたはMLUを有し、また値2のスパンを有する1つの正規化された変調信号MSにより走査される。」(第(4)頁左上欄第18行から同頁左下欄第5行)

d)「第3図中ではこの重畳が既に1つのドライブ値A=0.53において交叉範囲SBの生起により明らかに認められる。このような交叉範囲の生起も、変調信号MSのピークにより予め設定された上側または下側走査限界の上方または下方超過も、過制御が存在することを指示する。このような場合に、第1または第2の目標信号システムの極大または極小の範囲内の相信号経過の上側走査限界を上方超過する範囲または下側走査限界を下方超過する範囲は変調信号によりもはや検出されない。こうして、好ましくは正弦波状であり、また周波数変換装置の出力端における電気的量に対する目標経過としての役割をする相信号経過の“刈り込み(Kuppen)”が変調信号によりもはや走査され得ないので、1つの変調誤差が生ずる。」(第(5)頁右下欄第9行から第(6)頁左上欄第4行)

上記の文献「三レベルPWM波形の発生および最適化への新規なアプローチ(A novel approach to the generation and optimization of threelevel PWM wave forma)」、PESC‘88Record、IEEE、1988年4月、第1255?1262頁(該文献は甲第3号証として提出されている)により知られているように、「二重変調によれば、三点インバータの相のなかの弁に対する切換パルス信号を形成するため、零点をずらされた2つの同相の目標信号システムが変調信号により走査される。」(上記「c)」参照)とは、上側範囲に位置する第1の目標信号システムの相信号経過と変調信号MSを比較し、第1の目標信号システムの相信号経過が変調信号MSよりも小さいとき、負のパルスを出力し、下側範囲に位置する第2の目標信号システムの相信号経過と変調信号MSを比較し、第2の目標信号システムの相信号経過が変調信号MSよりも大きいとき、正のパルスを出力するものであり、甲第2号証のFIG3(第3図)における変調信号MSのピークにより予め設定された上側または下側走査限界の上方または下方超過した範囲では、パルスが出力されないものであると認められる。
これと上記の記載事項を総合すると、甲第2号証には
「直流を3以上の電位を有する交流相電圧に変換する三点インバータにおいて、上側範囲に位置する第1の目標信号システムの相信号経過と変調信号を比較し、第1の目標信号システムの相信号経過が変調信号よりも小さいとき、負のパルスを出力し、下側範囲に位置する第2の目標信号システムの相信号経過と変調信号を比較し、第2の目標信号システムの相信号経過が変調信号よりも大きいとき、正のパルスを出力するものであり、変調信号のピークにより予め設定された上側または下側走査限界の上方または下方超過した範囲では、パルスが出力されないように構成した三点インバータ。」の発明(以下、「甲第2号証記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)対比
本件特許発明と甲第2号証記載の発明を対比すると、後者において「上側範囲に位置する第1の目標信号システムの相信号経過と変調信号を比較し、第1の目標信号システムの相信号経過が変調信号よりも小さいとき、負のパルスを出力し、下側範囲に位置する第2の目標信号システムの相信号経過と変調信号を比較し、第2の目標信号システムの相信号経過が変調信号よりも大きいとき、正のパルスを出力するものであり、変調信号のピークにより予め設定された上側または下側走査限界の上方または下方超過した範囲では、パルスが出力されないように構成」したことは、甲第2号証のFIG3(第3図)を参照すると、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有することになるので、前者において「出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成」したことに相当する。また、後者における「三点インバータ」は前者における「電力変換装置」に相当する。

したがって、両者は、
「直流を3以上の電位を有する交流相電圧に変換する電力変換装置において、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成した電力変換装置。」である点で一致し、次の点において相違する。

[相違点]
本件特許発明は、「両期間の比率を変更する手段」を備えているのに対し、甲第2号証記載の発明においては、そのような手段を備えているか不明である点。

(3)相違点に対する判断
上記相違点について検討すると、電力変換装置において、電圧指令値を変更できるようにすることは、提出された証拠(例えば、特開昭58-133199号公報(甲第6号証))を参照するまでもなく周知技術であり、甲第2号証記載の発明において、電圧指令値を変更する手段を設けることは、当業者にとって、容易に想到しうることである。その場合、電圧指令値を変更すれば、第1の目標信号システムの相信号経過、第2の目標信号システムの相信号経過が変調信号のピークにより予め設定された上側または下側走査限界の上方または下方超過する範囲が変化するから、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間が変化することは明らかである。そうすると、電圧指令値を変更する手段は、「両期間の比率を変更する手段」であるといえる。一方、本件特許発明においても、平成18年5月18日に実施された口頭審理において被請求人が「二つの期間の比率を変更するのは、電圧指令あるいはオフセット量を変更すればできる」と述べたことからすれば、「両期間の比率を変更する手段」とは、電圧指令をする手段あるいはオフセット量を変える手段であるといえるから、該相違点は、甲第2号証記載の発明に、前記周知技術を適用することにより、当業者が容易になし得るものであるといわざるを得ない。
そして、本件特許発明の構成によってもたらされる効果も、甲第2号証に記載されたもの、および周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。
なお、被請求人は、口頭審理陳述要領書第3頁第25から30行において、甲第2号証の第3図のものは、見かけ上、同一極性のみのパルスを出力する期間が生じるものに過ぎず、「出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成した」ものとは相違している旨主張しているが、本件特許発明に係る請求項3には、「出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成した」と、結果として生じるパルスの形態により構成を限定しているにすぎず、見かけ上、同一極性のみのパルスを出力する期間が生じるものを排除しているとは認められないので、該被請求人の主張は採用できない。
また、被請求人は、口頭審理陳述要領書第5頁において、甲第2号証の第3図のものは、過制御状態であり、電力変換装置の制御に適しておらず、そのようなものにおいて、さらに変調度を変化させること(電圧指令値を変化させること)は、当業者が容易に想到できない旨主張しているが、本件特許明細書および図面に記載された実施例においても、甲第2号証における過制御状態に相当する過変調領域で運転するとともに、電圧指令を変化させられるようにしたものが記載されているばかりでなく、過変調領域でも運転をおこなうことは周知でもある(例えば、特開昭61-161974号公報、特開昭64-60285号公報参照)ので、該被請求人の主張も採用できない。

(4)無効理由1のむすび
したがって、本件特許発明は、甲第2号証に記載された発明、および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。

(B)無効理由2について
(1)甲第13号証
甲第13号証には、「3-レベル PWM(パルス幅変調)構想の新しい展開」(甲第13号証翻訳文「タイトル」)と題し、図面とともに次の事項が記載されている。

a)「可変速度非同期機械用の高出力GTOインバータの制御に3レベルパルス幅変調を特別に適応させる。」(甲第13号証翻訳文第1頁「要約」第1行から第2行)

b)「2極変調は、基本的に「副高調波」方法である。変調器は、インバータの各相毎に、より高い周波数対称三角搬送波をもつ2つの変調波の共通部分を計算する。この共通部分は、変調波に関連する搬送波レベルによって相電圧を(+)、(-)、又は(0)に変更しながら、インバータの対応する鉄心脚の中に整流を引き起こす。3組の変調波をもつすべての三相に、同じ搬送波を使用する。」(甲第13号証翻訳文第2頁第19行から第23行)

c)「一般的な場合を図1cに示す。過変調が有効である間、正負パルスの交番がなくなることが分かる。この場合、振幅又は基本波電圧は、kとHの両方に依存する。」(甲第13号証翻訳文第3頁下から第2行から第1行)

また、Fig.1(c)には、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有することが記載されている。

上記の記載事項および図示内容を総合すると、甲第13号証には
「直流を3の電位を有する交流相電圧に変換するインバータにおいて、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成したインバータ」の発明(以下、「甲第13号証記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)対比
本件特許発明と甲第13号証記載の発明を対比すると、後者における「インバータ」は、前者における「電力変換装置」に相当する。

したがって、両者は、
「直流を3以上の電位を有する交流相電圧に変換する電力変換装置において、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成した電力変換装置。」である点で一致し、次の点において相違する。

[相違点]
本件特許発明は、「両期間の比率を変更する手段」を備えているのに対し、甲第13号証記載の発明においては、そのような手段を備えていない点。
(3)相違点に対する判断
上記相違点について検討すると、電力変換装置において、電圧指令値を変更できるようにすることは、提出された証拠(例えば、特開昭58-133199号公報(甲第6号証))を参照するまでもなく周知技術であり、甲第13号証記載の発明において、電圧指令値を変更する手段を設けることは、当業者にとって、容易に想到しうることである。その場合、電圧指令値を変更すれば、過変調となり正負パルスの交番がなくなる期間が変化するから、、出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間が変化することは明らかである。そうすると、電圧指令値を変更する手段は、「両期間の比率を変更する手段」であるといえる。一方、本件特許発明においても、平成18年5月18日に実施された口頭審理において被請求人が「二つの期間の比率を変更するのは、電圧指令あるいはオフセット量を変更すればできる」と述べたことからすれば、「両期間の比率を変更する手段」とは、電圧指令をする手段あるいはオフセット量を変える手段であるといえるから、該相違点は、甲第13号証記載の発明に、前記周知技術を適用することにより、当業者が容易になし得るものであるといわざるを得ない。
そして、本件特許発明の構成によってもたらされる効果も、甲第13号証に記載されたもの、および周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

なお、被請求人は、口頭審理陳述要領書第7頁第12から17行において、甲第13号証のFig.1(c)のものは、見かけ上、同一極性のみのパルスを出力する期間が生じるものに過ぎず、「出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成した」ものとは相違している旨主張しているが、本件特許発明に係る請求項3には、「出力パルスを正負交互に出力する期間と出力電圧と同一極性のみのパルスを出力する期間とを出力電圧の半周期中に有するように構成した」と、結果として生じるパルスの形態により構成を限定しているにすぎず、見かけ上、同一極性のみのパルスを出力する期間が生じるものを排除しているとは認められないので、該被請求人の主張は採用できない。

(4)無効理由2のむすび
したがって、本件特許発明は、甲第13号証に記載された発明、および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-28 
結審通知日 2007-05-31 
審決日 2007-06-12 
出願番号 特願平3-301512
審決分類 P 1 123・ 121- ZB (H02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 手島 聖治  
特許庁審判長 田良島 潔
特許庁審判官 渋谷 善弘
高木 進
丸山 英行
田中 秀夫
登録日 1998-04-03 
登録番号 特許第2765315号(P2765315)
発明の名称 電力変換装置及びこれを利用した電気車の制御装置  
代理人 近藤 直樹  
代理人 奥村 直樹  
代理人 松尾 和子  
代理人 隈部 泰正  
代理人 特許業務法人第一国際特許事務所  
代理人 大塚 文昭  
代理人 篁 悟  
代理人 井坂 光明  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 竹内 英人  
代理人 中村 彰吾  

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