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審決分類 審判 判定 利用 属さない(申立て不成立) E01C
管理番号 1184294
判定請求番号 判定2008-600024  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2008-10-31 
種別 判定 
判定請求日 2008-04-25 
確定日 2008-09-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第2623491号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「切削オーバーレイ工法」は、特許第2623491号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求人である株式会社ハネックス・ロードは、判定請求書のイ号図面及びイ号説明書に示す「切削オーバーレイ工法」(以下「イ号工法」という)が、特許第2623491号の発明の技術的範囲に属するとの判定を求めるものである。

第2 本件特許発明
本件特許第2623491号の発明(以下、「本件特許発明」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、これを構成要件に分説すると次のとおりである。
A マンホール枠を含む舗装の切削オーバーレイ工法において、
B (a)マンホール枠周囲の舗装が筒状に切断されると共に切断舗装版及びマンホール枠が撤去される工程、
C (b)マンホール基壁上に支持蓋が仮設されると共に支持蓋の周囲の空洞部に舗装材が打設される工程、
D (c)舗装表面がマンホール基壁上の舗装材表面も含めて切削されると共に切削面にオーバーレイが施工される工程、
E (d)マンホール枠の設置予定域周囲の舗装がオーバーレイ上から筒状に切断されると共に切断舗装版及び支持蓋が撤去される工程、
F (e)マンホール基壁上にマンホール枠の据え付け基礎が構築されると共に据え付け基礎上にマンホール枠がその上面をオーバーレイ表面の高さに合わせて設置される工程、及び
G (f)マンホール枠周囲の空洞部に舗装材がオーバーレイ表面の高さまで打設される工程からなる
H 切削オーバーレイ工法。

第3 イ号工法
請求人が提出した判定請求書中の「イ号工法」、判定請求書に添付して提出したイ号図面及びイ号説明書(別添参照)に基づいて、イ号工法は、次のとおりのものと特定する。
【イ号工法】
(A)マンホール蓋及び枠を含む道路の切削オーバーレイ工法であって、既存舗装路面の傷んだ表層部を切削した後の路面を補強補修する工法であり、
(B-1)マンホール蓋(1a)及び枠(1)の中心位置から測定した非施工個所の最寄の場所に、予め目印となる基準線及び基準点を設けて、オーバーレイ工事後、路面下に隠れたマンホール蓋及び枠の中心位置を該路面上に特定可能にマーキングしておく工程(図1及び図2)、
(B-2)マンホール蓋(1a)及び枠(1)の中心位置に球面椀型カッターの芯出しジグを設置し、この球面椀型カッターを用いて所定の切断円直径でマンホール枠周囲に360度回転させて舗装に表層部分から平面円形、断面円弧状となる球面状に切込み(CL1)を入れ、既設路盤(2)を御椀型類似形状に切断する工程(図3)、
(B-3)マンホール蓋(1a)を外し、マンホール枠(1)内側下部に吊り上げのための支持手段(5)をセットし、マンホール枠(1)と下桝躯体(3)とが締結されているか否かの確認後、両者を分離する工程、
(B-4)マンホール枠(1)と共に御椀型類似形状の切断路盤(4)を前記支持手段(5)を介して吊り上げ撤去する工程(図4)、
(C-1)前記工程の撤去により形成された御椀型類似形状の空洞部(S1)の開口縁から深さ(dp)の位置で、中心部に吊りボルト用雌ネジ部(6a)を有する養生板(6)を下桝躯体(3)の上方に設置し、下桝躯体(3)の開口部の上方を塞ぐ工程(図5)、この際、養生板(6)は、図5Aに示す養生板が使用される。
図5Aに示す養生板(6)は、周囲から下向きに湾曲した複数の掛止部(6b)を設けており、該掛止部(6b)の下端は、空洞部(S1)の底部ないし下桝躯体(3)の上縁部(3a)に当接するように配置される。従って、下桝躯体(3)の開口部は、上縁部(3a)から高さ(h)だけ上方に離間した位置で養生板(6)により塞がれる。
(C-2)深さ(dp)に相当して養生板(6)を囲む空洞部(S1)に舗装材(7)を打設する工程(図6)、この際、深さ(dp)に相当する舗装材(7)の厚さは、交通開放を可能とする厚さである。
(D-1)次いで、前記舗装材(7)も含めて所定工事範囲で路盤(2)の表層部分(x)(但し x<dp)を切削する工程(図7)、
(D-2)切削した後の路面(8)を新舗装材(9)によりオーバーレイ施工する工程(図8)、
(E)先に目印となる場所にマーキングしておいた基準線及び基準点からマンホール枠の中心位置をオーバーレイ工事後の路面上に割り出し、この割り出した位置を中心に前記工程(B-2)における切断円とほぼ同じ径で養生板(6)の深さ位置まで平面円形、断面円弧状となる球面状に切込み(CL2)を入れ(図8)、中心に吊りボルト挿入用の所定径の穴(Hc)を穿ち、吊りボルト(15)を穴の内部に挿入して養生板(6)の吊りボルト用雌ネジ部(6a)に係合螺着して吊り上げ、養生板(6)ごと切断路盤(10)を引き抜き撤去する工程(図9)、
(F)下桝躯体(3)の上縁部(3a)の所定位置に係合する高さ調整機能を有するアンカーボルト(11A)を打ち込むと共にマンホール枠(1)を設置し、該マンホール枠(1)をオーバーレイ工事後の路面に合せて高さ調整した後(図10)、
(G)マンホール枠(1)と下桝躯体(3)の上縁部(3a)との隙間を塞ぐための内型枠(16)を仮設し(図10)、内型枠(16)の外周隙間部分と周囲の空洞部(S2)に舗装材(12a)を打設し、表層部分をオーバーレイされた新舗装材(9)の表面高さまで表層材(12b)で舗装施工し(図11)、施工終了後、前記内型枠(16)を撤去して終了する(図12)工程から成る
(H)切削オーバーレイ工法。

なお、判定請求人は、(C-1)で養生板を施工する態様として、図5Aないし図5Cの3種の養生板の何れかが使用されるとしているが、それぞれ異なる工法である。そして、請求人は、平成20年8月20日付け回答書において、「判定2007-600061は、本件の判定を求める【図5A】の養生板(6)の掛止部(6b)について判断されておりませんので、改めてご判断を仰ぎたく希望します。」と主張しているので、図5Aの養生板を施工する工法をイ号工法とした。
また、判定請求人は、図5Aの養生板について、「掛止部(6b)は、空洞部(S1)の底部ないし下桝躯体(3)の上縁部(3a)に載置される。」としているが、図5Aによれば、養生板(6)及び掛止部(6b)は、空洞部(S1)側壁に支持され、掛止部(6b)の下端が、空洞部(S1)の底部ないし下桝躯体(3)の上縁部(3a)に当接することが示されているだけであるので、構成(C-1)を上記のとおり特定した。

第4 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、判定請求書において、概略次の理由によりイ号工法は、本件特許発明の技術的範囲に属する旨主張している。
(1)イ号工法の構成(A)は、本件特許発明の構成要件Aを充足する。
(2)イ号工法の構成(B-2)は、舗装表面からマンホール枠を撤去できる深さまで、平面円形で断面円弧状の切込み(CL1)をカッターにより切断形成するものであるから、本件特許発明の構成要件Bの「マンホール枠周囲の舗装が筒状に切断される」を充足する。
また、イ号工法の構成(B-3)(B-4)は、下桝躯体(3)からマンホール枠(1)と切断路盤(4)を吊り下げ撤去するものであるから、本件特許発明の構成要件Bの「切断舗装版及びマンホール枠が撤去される」を充足する。
従って、イ号工法の構成(B-2)ないし(B-4)は、本件特許発明の構成要件Bを充足する。
(3)本件特許発明の構成要件Cの「支持蓋周囲の空洞部に舗装材が打設される」の意義は、交通開放のために、空洞部の開口を舗装材で埋め戻し仮復旧する点にあることが明らかである。
また、構成要件Cの「マンホール基壁上に支持蓋が仮設される」の意義は、支持蓋により、舗装材の打設を可能とするようにマンホール基壁を閉塞し、打設後の舗装材を交通に耐え得るように支持する点にある。
イ号工法の構成(C-1)の図5Aに示す養生板(6)は、養生板(6)が下桝躯体(3)の上で開口部を閉塞し、その後の舗装材(7)の打設を可能にすると共に、打設後の舗装材(7)を仮復旧材として支持する。従って、本件特許発明の構成要件Cの「マンホール基壁上に支持蓋が仮設される」を充足する。
仮に、構成要件Cの文言を充足しないと解すべきであるとしても、本件特許の実施例と同じイ号図面の図5Cの養生板に対して、図5Aの養生板を置換使用することは、切削オーバーレイ工法に際して実質的意義に何ら差異がないから、最高裁平成10年2月24日判決に判示された均等成立要件に関する第1?第5要件を全て充足しており、少なくとも均等なものとして本件特許発明の技術的範囲に属する。
また、イ号工法の構成(C-2)では、舗装材(7)の打設により空洞部(S1)の開口が既設路盤(2)と段差のないように埋め戻され、仮復旧による交通開放を可能とする。
そうすると、イ号工法の構成(C-2)は、本件特許発明の構成要件Cの「支持蓋周囲の空洞部に舗装材が打設される」を充足する。
(4)イ号工法の構成(D-1)、(D-2)は、本件特許発明の構成要件Dを充足する。
(5)イ号工法の構成(E)の「埋設状態の養生板(6)の深さ位置まで平面円形、断面円弧状となる球面状に切込み(CL2)を入れ」は、本件特許発明の構成要件Eの「マンホール枠の設置予定域周囲」の舗装が「筒状に切断される」に相当し、構成(E)の「養生板(6)の吊りボルト用雌ネジ部(6a)に係合螺着して吊り上げ、養生板(6)ごと切断路盤(10)を引き抜き撤去する」は、構成要件Eの「切断舗装版及び支持蓋が撤去される」に相当するから、イ号工法の構成(E)は本件特許発明の構成要件Eを充足する。
(6)イ号工法の構成(F)、(G)および(H)は、本件特許発明の構成要件F、GおよびHを充足する。
(7)したがって、イ号工法は本件特許発明の技術的範囲に属する。

2.被請求人の主張
被請求人は、判定事件答弁書において、イ号工法は、本件特許発明の技術的範囲に属さない旨主張し、その理由を次のように主張している。
(1)本件特許発明の構成要件Cは、「マンホール基壁上に支持蓋が仮設されると共に……」と明記してあり、本件特許の技術内容を示した特許公報の如何なる場所を探しても「支持蓋」が基壁の開口端より上方に離間した構成を備えたものは全く認められないし、想定することも不可能である。
イ号工法の構成(C-1)は、「……吊りボルト用雄ネジ部を有する中当て体を形成する養生板……」とすべきであり、中当て体を形成する養生板は球面椀型カッターという特殊なカッターを用いて切削することと、中当て体という特殊な養生板との組み合わせによって得られる特有の技術的構成である。
イ号工法の構成(C-2)で、舗装材(7)は養生板(6)上の浅深の空洞部に打設され、基壁の開口端を閉塞した状況での打設ではない。
したがって、イ号工法の構成(C-1)(C-2)は、本件特許発明の構成要件Cを充足していない。
(2)本件特許の構成要件Eでは、中当て体を用いず支持蓋を用いて切断した空洞部全域に及ぶ大量の仮設舗装部を撤去しなければならないのに対し、イ号工法では球面椀型カッターによる切断個所も、中当て体の上方に仮設される少量の舗装容積の周面を切断するだけで済み、撤去される仮舗装量も少なくて済むなど、舗装施工時の材料の消費を尠く押えて施工コストを格段と安価にできるから、イ号工法の構成(E)は、明らかに本件特許の構成要件Eと技術内容を異にし、本件特許の構成要件Eを充足するものではない。
(3)イ号工法の構成(B-2)及び(E)の「球面椀型カッターを用いた平面円形、断面円弧状となる球面状の切込み」は、本件特許とは全く異質で独立した発想によるものである。

第5 対比・判断
請求人は、イ号工法は甲第3号証のパンフレットに記載されたものであるとしており、イ号工法の実施ないし実施の予定がされていることについて実証していないが、判定制度の趣旨に鑑み、イ号工法が実施された場合を仮定して、以下判断する。

本件特許発明とイ号工法とを対比する。
(1)イ号工法の構成(A)、(D)、(F)、(G)及び(H)は、本件特許発明の構成要件A、D、F、G及びHを充足しており、この点について当事者間に争いはない。

(2)イ号工法の構成(B-1)ないし(B-4)と、本件特許発明の構成要件Bを対比する。
(2-1)本件特許発明の構成要件Bは、「マンホール枠周囲の舗装が筒状に切断される工程」と「切断舗装版及びマンホール枠が撤去される工程」からなる。
本件特許明細書(甲第2号証)には、構成要件Bの「筒状に切断」について次のように記載されている。
「前記工程(a)において、マンホール枠周囲の舗装を四角形に切断する旧来の舗装工法、或は特公昭61-25844号公報や特公昭61-33938号公報に開示されるように、マンホール枠周囲の舗装を円形状に切断する改良された舗装工法等における前段の工程に従って、マンホール枠周囲の舗装の筒状切断及び切断舗装版及びマンホール枠の撤去が行われる。」(段落【0005】)、
「マンホール枠周囲或はマンホール枠の設置予定域周囲の舗装の切断等に際して、切断手段に特別の制限はない。円筒状切断の場合に、例えば特公昭61-52283号公報に開示されるような円筒状ビットを備えた路面円形切断機を好適に利用でき、またオーバーレイ上から切断中心を特定するために金属探知機等の公知の探知手段を使用して内部の支持蓋の位置を確認してもよい。マンホール枠周囲の切断舗装版は、ブレーカーを使用する破砕により撤去されてもよいが、作業性の向上や騒音振動の防止等の観点から特公昭61-33938号公報に開示されるようにマンホール枠に付着したままで撤去されることが好ましい。切断舗装版及びマンホール枠を一体的に撤去するために、例えば実開昭59-156942号公報や実開昭59-193679号公報に開示されるように、マンホール枠とマンホール基壁との間にマンホール枠内部から放射状に拡縮するくさび体やアームを挿入するようにしたマンホール枠引き上げ機やマンホール枠剥離機等を必要に応じて利用できる。」(段落【0006】)。
これらの記載によれば、構成要件Bの「筒状に切断」することの技術的意義は、マンホール枠とその周囲の舗装版の撤去を容易にするためであり、舗装版の撤去手段については、ブレーカーを使用する破砕により撤去しても、切断舗装版及びマンホール枠を一体的に撤去してもよいとされており、特段限定されていないから、筒の側面形状が正確に垂直であることを要しないことは明らかである。
また、本件特許明細書には上記のとおり、切断手段の制限はないことが記載されており、例示された特公昭61-25844号公報、特公昭61-33938号公報には、円盤状切断機を傾斜させて切断する工法も開示されている(特公昭61-25844号公報の特許請求の範囲第2項、2頁3欄39?42行参照。特公昭61-33938号公報の3頁6欄14?21行参照)。
そうすると、構成要件Bの「筒状に切断」とは、マンホール枠周囲を、角形、円形等の任意の平面形状で、マンホール枠を撤去できる深さまで切断することを意味しており、側面を正確に垂直に切断するものに限らないといえる。

(2-2)他方、イ号工法は、構成(B-2)において「球面椀型カッターを用いて所定の切断円直径でマンホール枠周囲に360度回転させて舗装に表層部分から平面円形、断面円弧状となる球面状に切込み(CL1)を入れ、路盤(2)を御椀型類似形状に切断する」ことにより、路盤が切断されるものであり、構成(B-4)の「マンホール枠(1)と共に御椀型類似形状の切断路盤(4)を前記支持手段(5)を介して吊り上げ撤去する」により、切断後の路盤(4)はマンホール枠(1)と共に吊り上げ撤去されるから、カッターによる切込み(CL1)がマンホール枠を撤去できる深さまで達していることは明らかである。
また、構成(B-3)の「マンホール枠(1)と下桝躯体(3)とが締結されているか否かの確認後、両者を分離する」により、マンホール枠(1)と下桝躯体(3)とを分離しているから、構成(B-2)における「切込み(CL1)」はマンホール枠周囲の路盤のみであって、御椀の底にあたるマンホール枠(1)又は下桝躯体(6)までが球面状に切断されるものでないことは明らかであり、構成(B-2)の「御椀型類似形状に切断」とは、平面円形で、舗装表面からマンホール枠を撤去できる深さまでの断面円弧状の側面を有する筒状に切断するものといえるから、イ号工法の構成(B-2)は、本件特許発明の構成要件Bの「マンホール枠周囲の舗装が筒状に切断される工程」を充足している。
さらに、イ号工法の構成(B-3)及び(B-4)は、マンホール枠(1)と切断路盤(4)を吊り上げ撤去する工程であるから、本件特許発明の構成要件Cの「切断舗装版及びマンホール枠が撤去される」工程を充足している。
したがって、イ号工法の構成(B-2)ないし(B-4)は、本件特許発明の構成要件Bを充足している。

(2-3)被請求人は、イ号工法の構成(B-1)の「球面椀型カッターを用いた平面円形、断面円弧状となる球面状の切込み」は、本件特許とは全く異質で独立した発想によるものである旨主張している。
本件特許明細書には、「球面椀型カッターを用いて、平面円形、断面円弧状となる球面状の切込み」を設けることは記載されていない。しかし、構成(B-1)は、本件特許発明の構成要件Bの「マンホール枠周囲の舗装が筒状に切断される」との技術範囲において、具体的な切断手段を限定したものに相当するから、構成要件Bを充足しているといえる。
また、球面椀型カッターを用いてマンホール枠周囲の舗装を切断する技術は、特開昭63-55204号公報に記載されているように本件出願前から知られており、マンホール枠周囲の舗装を筒状に切断する手段として、「球面椀型カッターを用いた平面円形、断面円弧状となる球面状の切込み」を設けるイ号工法が、全く異質で独立した発想によるものということはできない。

(3)イ号工法の構成(C-1)及び(C-2)と、本件特許発明の構成要件Cを対比する。
(3-1)本件特許明細書には、構成要件Cについて次のように記載されている。
「工程(b)において、切断舗装版及びマンホール枠の撤去により開口された空洞部が支持蓋を介して舗装材で埋め戻されると共に交通開放のために仮復旧され、支持蓋はマンホール基壁を閉塞すると共に前記仮復旧舗装材を支持する。」(段落【0005】)。
また、図1(b)には、マンホール基壁3上に円形鉄板とその下面に突設された筒体からなる支持蓋6が仮設され、支持蓋6はマンホール基壁3に接して載置され、筒体はマンホール基壁3の開口部に嵌入されることが図示されている。
これらの記載によれば、「マンホール基壁上に支持蓋を仮設する」とは、舗装材を打設するためにマンホール基壁の開口部を閉塞するように、支持蓋をマンホール基壁上に載置することであり、「支持蓋の周囲の空洞部に舗装材が打設される」とは、マンホール基壁の開口部を閉塞するようにマンホール基壁上に仮設された支持蓋の周囲にある空洞部に舗装材を打設し、切断舗装版及びマンホール枠の撤去により開口された、マンホール基壁上の空洞部を舗装材で埋めることと解される。

(3-2)他方、イ号工法の構成(C-1)では、「養生板(6)」は、マンホール基壁上に載置されるものではなく、下桝躯体(3)(「マンホール基壁」に相当する。)の上縁部(3a)から高さ(h)だけ上方に離間した位置で、御椀型類似形状の空洞部(S1)の側壁に嵌設され、下桝躯体(3)の開口部の上方を塞ぐものであって、マンホール基壁の開口部を閉塞するように、マンホール基壁上に設置されるものではないから、本件発明の構成要件Cの「マンホール基壁上に支持蓋が仮設される」を充足していない。
なお、イ号工法では、養生板(6)周囲から下向きに湾曲した複数の掛止部(6b)を設けており、該掛止部(6b)の下端は、空洞部(S1)の底部ないし下桝躯体(3)の上縁部(3a)に当接しているが、「養生板(6)」及び複数の「掛止部(6b)」は、空洞部(S1)側壁の壁面で支持されており、養生板(6)と掛止部(6b)を含む全体を「蓋」としてみても「基壁上に仮設」されているとはいえない。
また、イ号工法の構成(C-2)では、舗装材(7)は、下桝躯体(3)の上縁部(3a)から高さ(h)だけ上方に離間した位置に嵌装された養生板(6)の上方空所にのみに充填されるものであり、養生板(6)からマンホール基壁まで間の空洞部に舗装材は打設されないから、「支持蓋の周囲の空洞部に舗装材が打設される」工程を有していない。
したがって、イ号工法の構成(C-1)及び(C-2)は、本件特許発明の構成要件Cを充足していない。

(3-3) 請求人は、本件特許発明の構成要件Cの「マンホール基壁上に支持蓋が仮設される」の意義は、支持蓋により、舗装材の打設を可能とするようにマンホール基壁を閉塞し、打設後の舗装材を交通に耐え得るように支持する点にあり、前記意義から離れて、マンホール基壁上面に当接するように載置したものとに限定されていると解釈すべき理由はない旨、主張する。
しかし、構成要件Cの「マンホール基壁上に支持蓋が仮設される」の意義は、請求人も認めるように、支持蓋により「マンホール基壁を閉塞する」、すなわち、マンホール基壁の開口部を閉塞することにあり、マンホール基壁の上縁部(3a)から上方に離間した位置に蓋を設置する、すなわち、空洞部(S1)の開口を閉塞するものまでが含まれるとすることはできない。
また、請求人は、構成要件Cの「支持蓋周囲の空洞部に舗装材が打設される」の意義は、交通開放のために、空洞部の開口を舗装材で埋め戻し仮復旧する点にあることが明らかであり、前記意義から離れて、支持蓋の下側に空洞部を残してはならないと限定解釈すべき理由はない旨、主張する。
しかし、上記(3-1)で述べたとおり、構成要件Cの「支持蓋の周囲の空洞部に舗装材が打設される」とは、マンホール基壁上に支持蓋を仮設し、マンホール基壁の開口部を閉塞した状態で、その支持蓋を囲む位置にある空洞部に舗装材を打設することと解され、マンホール基壁の開口部を閉塞せず、支持蓋の下側とマンホール基壁の開口部間に空洞部を残して舗装材を打設する場合を含むと解することはできない。

(4)イ号工法の構成(E)と、本件特許発明の構成要件Eを対比する。
本件特許発明の構成要件Eは、「マンホール枠の設置予定域周囲の舗装がオーバーレイ上から筒状に切断される」工程と「切断舗装版及び支持蓋が撤去される」工程からなる。
ここで、「筒状の切断」後、切断舗装版及び支持蓋が撤去され、その後マンホール枠がマンホール基壁上に設置されるものであるから、「筒状の切断」とは、支持蓋が撤去でき、かつ切断舗装版及び支持蓋を撤去した後に、マンホール枠が設置されるマンホール基壁が露出するような深さまで切断すること、すなわち、構成要件Cで、マンホール基壁上に仮設された支持蓋の周囲の空洞部に充填された舗装材あるいはその周囲の既設舗装が、マンホール基壁近傍まで切断されるものであることは明らかであり、また、「切断舗装版及び支持蓋が撤去される」とは、このように切断された舗装版及び支持蓋を撤去することといえる。
他方、イ号工法の構成(E)では、工程(B-2)における切断円とほぼ同じ径で養生板(6)の深さ位置まで平面円形、断面円弧状となる球面状に切込み(CL2)を入れる、すなわち、下桝躯体(3)の上縁部(3a)から高さ(h)だけ上方に離間した位置に嵌装された養生板(6)の上方空所に充填された舗装材を切断するものであり、養生板(6)(支持蓋)の周囲の舗装材を切断するものではなく、撤去される切断路盤(10)も、養生板(6)の上方空所に充填された舗装材であって、本件特許発明の構成要件Eとは、切断及び撤去する対象の舗装材が相違している。
したがって、イ号工法の構成(E)は、本件特許発明の構成要件Eを充足していない。

(5)以上のとおり、イ号工法は、本件特許発明の構成要件C、Eを充足していないから、本件特許発明の技術的範囲に属するとすることはできない。

第6 均等について
最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日判決言渡、民集52巻1号113頁)は、特許発明の特許請求の範囲に記載された構成中に、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という)と異なる部分が存在する場合であっても、以下の対象製品等は、特許請求の範囲に記載された製品等と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であるとしている。
積極的要件
(1)相違部分が、特許発明の本質的な部分でない。
(2)相違部分を対象製品等の対応部分と置き換えても、特許発明の目的を達することでき、同一の作用効果を奏する。
(3)対象製品等の製造時に、異なる部分を置換することを、当業者が容易に想到できる。
消極的要件
(4)対象製品等が、出願時における公知技術と同一又は当業者が容易に推考することができたものではない。
(5)対象製品等が特許発明の出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情がない。

判定請求人は、本件特許発明の支持蓋に対して、図5Aの養生板を置換使用することは、切削オーバーレイ工法に際して何ら実質的意義に差異がないとして、イ号工法は、上記均等の要件(2)を満たしている旨主張する。
しかし、イ号工法は、構成(C-1)及び(C-2)において、御椀型類似形状の空洞部の開口縁から深さ(dp)の位置に養生板(6)に設置することにより、養生板(6)の上方のみに舗装材を充填して、交通開放可能とすることができるものであり、舗装材の使用量を削減できる効果を奏するものであって、本件特許の支持蓋に対して、図5Aの養生板を置換使用することにより新たな効果を奏するものである。
したがって、イ号工法は、均等の要件(2)を満たしていないから、他の要件について検討するまでもなく、本件特許発明と均等であるとすることはできない。

第7 むすび
以上のとおり、イ号工法は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
 
別掲
 
判定日 2008-09-02 
出願番号 特願平3-359362
審決分類 P 1 2・ 2- ZB (E01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 恒明  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 砂川 充
伊波 猛
登録日 1997-04-11 
登録番号 特許第2623491号(P2623491)
発明の名称 切削オーバーレイ工法  
代理人 野口 忠夫  
代理人 丹羽 宏之  
代理人 西尾 美良  
代理人 中野 収二  

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