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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F16G
管理番号 1184675
審判番号 無効2007-800235  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-10-30 
確定日 2008-08-21 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3464939号発明「伝動ベルト及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3464939号の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3464939号の請求項1ないし7に係る発明についての出願は、平成11年5月24日に特許出願されたものであって、平成15年8月22日に、その発明について特許の設定登録がなされた。
これに対し、平成19年10月30日付けで請求人ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社より、請求項1ないし7に係る発明についての特許に対して、無効審判の請求がなされ、平成20年1月18日付けで被請求人バンドー化学株式会社より答弁書の提出がなされるとともに、訂正請求がなされた。
その後、平成20年3月3日付けで請求人より弁駁書が提出されたが、弁駁書における特許法第36条第4項及び第6項違反についての請求の理由の補正に対し、平成20年3月10日付けで、前記請求の理由の補正については許可しないとの補正許否の決定を行った。
そして、平成20年4月14日付けで請求人及び被請求人よりそれぞれ口頭審理陳述要領書(第1回)が提出されるとともに、平成20年5月22日付けで請求人及び被請求人よりそれぞれ口頭審理陳述要領書(第2回)並びに被請求人より上申書が提出され、同日に口頭審理を行った。
さらに、平成20年6月5日付けで請求人及び被請求人よりそれぞれ上申書が提出された。

第2 訂正請求について
1 訂正請求の内容
本件訂正請求の趣旨は、平成20年1月18日付けの訂正請求により特許第3464939号の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、訂正事項は以下のとおりである。

(1) 訂正事項a
願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1の「底ゴム部に短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、」を「底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、」と訂正する(訂正後の請求項1)。

(2) 訂正事項b
願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1の「短繊維の突出部は、塑性変形した状態で扁平に形成されている」を「短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている」と訂正する(訂正後の請求項1)。

(3) 訂正事項c
願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項5の「底ゴム部に短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、」を「底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、」と訂正する(訂正後の請求項3)。

(4) 訂正事項d
願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項5の「該短繊維の突出部が塑性変形した状態で扁平に形成されている」を「該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている」と訂正する(訂正後の請求項3)。

(5) 訂正事項e
願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項6の「底ゴム部に短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、」を「底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、」と訂正する(訂正後の請求項4)。

(6) 訂正事項f
願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項6の「該短繊維の突出部が塑性変形した状態で扁平に形成されている」を「該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている」と訂正する(訂正後の請求項4)。

(7) 訂正事項g
願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項7の「底ゴム部に短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、」を「底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、」と訂正する(訂正後の請求項5)。

(8) 訂正事項h
願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項7の「該短繊維の突出部が塑性変形した状態で扁平に形成されている」を「該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている」と訂正する(訂正後の請求項5)。

(9) 訂正事項i
本訂正により願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項2及び4を削除し、同請求項3を請求項2に繰り上げ、その際、請求項末尾の「請求項1又は2のいずれか一つに記載の」を「請求項1に記載の」と訂正するとともに、同請求項5ないし7を請求項3ないし5にそれぞれ項番を繰り上げる訂正をする。

(10) 訂正事項j
願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落0008、段落0015、段落0017、及び段落0019のそれぞれに記載した「底ゴム部に短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、」を「底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、」と訂正する(訂正後明細書の段落0008、段落0012、段落0014、及び段落0016)。

(11) 訂正事項k
願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落0024に記載した「合成繊維38としては、塑性変形しやすい繊維、例えば、20μm以上のフィラメント径を有するナイロン、ビニロン、ポリエステル等を好適に用いることができる。」を「合成繊維38としては、塑性変形しやすい20μm以上のフィラメント径を有するナイロン、ビニロン、ポリエステルを用いる。」と訂正する(訂正後明細書の段落0021)。

(12) 訂正事項l
願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落0007、段落0008、段落0009、段落0015、段落0016、段落0017、段落0019、段落0029、段落0030、段落0034、及び段落0045のそれぞれに記載した「扁平」を「先端に向かって末広がり状の扇形」と訂正する(訂正後明細書の段落0007、段落0008、段落0009、段落0012、段落0013、段落0014、段落0016、段落0026、段落0027、段落0031、及び段落0042)。

(13) 訂正事項m
願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落0010、段落0011、段落0014、段落0046、及び段落0048を削除する訂正をする。
(なお、下線は、被請求人が付した訂正部分を示す。)

2 訂正の目的の存否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1) 訂正事項a、c、e、gに関して
願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1、5、6、7に記載された「底ゴム部に短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、」なる事項を「底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、」なる事項とする訂正は、「短繊維群」の構成を「フィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群」の構成と限定するものであり、この限定した構成は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項4、発明の詳細な説明の段落0024に記載されていたものであるから、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項b、d、f、hに関して
願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1、5、6、7に記載された「短繊維の突出部は、塑性変形した状態で扁平に形成されている」なる事項を「短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている」なる事項とする訂正は、「短繊維の突出部」の「塑性変形した状態で扁平に形成されている」構成を「短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている」構成と限定するものであり、この限定した構成は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項2、発明の詳細な説明の段落0010及び段落0011に記載されていたものであるから、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) 訂正事項iに関して
願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項2及び請求項4を削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、この請求項2及び請求項4の削除に伴い、同請求項3を請求項2に繰り上げ、その末尾の「請求項1又は2のいずれかに一つに記載の」を「請求項1に記載の」とする訂正、及び同請求項5ないし7を項番を繰り上げて請求項3ないし5とする訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4) 訂正事項j、k、l、mに関して
この訂正は、訂正後の特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載との整合をとるためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的とし、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、本件訂正は、特許法第134条の2本文及びただし書き、並びに、同条第5項において準用する同法第126条第3項、4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。

なお、請求人は、弁駁書「7.理由(1)訂正について」において、「訂正前の特許請求の範囲と訂正後の特許請求の範囲とを比較すると、訂正後では、『先端に向かって末広がり状の扇形』という概念が追加され、『扁平』という概念が削除されているといわざるを得ず、上記訂正は、特許請求の範囲に記載された『短繊維の突出部』の範囲を変更するものである。
以上により、この訂正は、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定を満足せず、訂正請求後の特許請求の範囲は、訂正要件を満たしていない。」及び「訂正前の明細書には、『短繊維の先端部』の実施形態として、『扁平』かつ『先端に向かって末広がり状の扇形』のものが記載されていた。しかし、上記訂正によって『短繊維の先端部』が『扁平である』との記載が全て削除されており、『短繊維の先端部』は、『先端に向かって末広がり状の扇形』と特定されているのみである。したがって、訂正後の実施形態において、『短繊維の先端部』の形状としては、扁平ではない『先端に向かって末広がり状の扇形』であるものが含まれることとなった。よって、上記訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定を満足せず、訂正請求後の特許請求の範囲は、訂正要件を満たしていない。」と主張している。

しかしながら、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項2には「短繊維の突出部は、先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている請求項1に記載の伝動ベルト。」と記載されていることから、訂正後の請求項1では、訂正前の請求項1に記載された「短繊維の突出部は、塑性変形した状態で扁平に形成されている」事項を「短繊維の突出部は、先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている」事項に減縮したものであって、また、「扇形」が「扁平」であることは自然な解釈であるので、この訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、なんら実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、上記請求人の主張は採用することができない。

第3 本件特許発明
上記のとおり訂正が認められるから、本件特許第3464939号の請求項1ないし5に係る発明は、その訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)
【請求項1】
底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出している伝動ベルトであって、短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている伝動ベルト。
【請求項2】
短繊維の突出部は、根元が底ゴム部の表面から起立している請求項1に記載の伝動ベルト。
【請求項3】
底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出し、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている伝動ベルトの製造方法であって、短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、砥粒径の50%?95%が突出した超砥粒を有する砥石によって研削する工程を含んでいる伝動ベルトの製造方法。
【請求項4】
底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出し、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている伝動ベルトの製造方法であって、短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、砥粒密度が3.5%?55%の超砥粒を有する砥石によって研削する工程を含んでいる伝動ベルトの製造方法。
【請求項5】
底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出し、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている伝動ベルトの製造方法であって、短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、砥粒径の50%?95%が突出し且つ砥粒密度が3.5%?55%の超砥粒を有する砥石によって研削する工程を含んでいる伝動ベルトの製造方法。

第4 請求人の主張の概要
請求人が主張する無効理由の概要は以下のとおりである。なお、以下の無効理由は、平成20年1月18日付け訂正請求書により訂正された明細書の特許請求の範囲に記載された「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」に対する主張である。

1 無効理由1
請求人は、本件特許発明1及び本件特許発明2の「底ゴム部に短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出している伝動ベルトであって、短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている伝動ベルト」の構成、及び本件特許発明2の「短繊維の突出部は、根元が底ゴム部の表面から起立している」の構成が公知であることを立証するために、
甲第1号証:精密工学学会誌Vol.63 No.9 1997(平成9年9月5日発行)
甲第2号証:特開平4-348930号公報
甲第3号証:精密工学学会誌Vol.60 No.9 1994(平成6年9月5日発行)
を提出し、さらに、「伝動ベルトの底ゴム部に混入され、そこから突出する短繊維を、フィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルにする」構成が周知技術であることを立証するために、
甲第4号証:特開平5-8294号公報
甲第6号証:特開平3-219147号公報
を提出して、本件特許発明1及び本件特許発明2は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明及び前記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張している。

また、請求人は、上記各甲号証に加え、本件特許発明3ないし本件特許発明5の「短繊維群が混入された底ゴム部を、砥粒径の50%?95%が突出し及び/又は砥粒密度が3.5%?55%の超砥粒を有する砥石によって研削する」の構成が公知であることを立証するために、
甲第5号証:特開平11-90834号公報
を提出して、本件特許発明3ないし本件特許発明5は、甲第1号証ないし甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明並びに前記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張している。

なお、請求人は、上記特許法第29条第2項の判断に際し、ベルトの研削加工に関する出願時の技術水準を示す文献として、
甲第7号証:特許第2698899号公報
甲第8号証:特開昭58-102659号公報
甲第10号証:特公平7-37084号公報
を提出するとともに、砥石の回転速度や、被研削物の回転速度等の研削条件を適宜変更すれば、ナイロン等の短繊維の先端部を溶融させず「塑性変形された扇形」にすることが容易にできることを立証するために甲第9号証(実験成績証明書)を提出している。
さらに、被請求人が主張する、本件特許発明1及び2の「耐摩耗性向上の効果」に反論する証拠として、
甲第11号証:特開2000-337449号公報
を提出している。

2 無効理由2
請求人は、本件特許発明1の「ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出している伝動ベルトであって、短繊維の突出部は、塑性変形した状態となっている伝動ベルト」の構成が公知であることを立証するために、
甲第2号証:特開平4-348930号公報
を提出し、「底ゴム部に短繊維を混入させて、底ゴム部の表面から短繊維を突出させる」構成が公知であることを立証するために、
甲第1号証:精密工学学会誌Vol.63 No.9 1997(平成9年9月5日発行)
甲第3号証:精密工学学会誌Vol.60 No.9 1994(平成6年9月5日発行)
を提出して、さらに短繊維の突出部の相違は、形状の微差に過ぎないとして、本件特許発明1は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張している。
同様に、本件特許発明2は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明3ないし本件特許発明5に係る発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張している。

第5 被請求人の主張の概要
被請求人は、請求人が主張する無効理由に対して、概ね次のように主張している。
1 無効理由1に対し
(1)「本件特許出願当時、当業者であれば、甲第1号証或いは甲第3号証の伝動ベルトのアラミド短繊維をナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維に置き換えた場合に短繊維の突出部が溶融するということを認識するはずであり、この短繊維の突出部の溶融を課題とする以上、当業者がこれらを組合せることに想到することは到底考えられない。
また、仮に、甲第1号証或いは甲第3号証の伝動ベルトのアラミド短繊維をナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維に置き換えたとしても、短繊維の突出部が溶融するため、本件特許発明1及び2を得ることはできない。」(口頭審理陳述要領書(第1回)第4ページ第20行?第27行)
(2)「甲第2号証にも、底ゴム部を砥石によって研削して短繊維を突出させる際に短繊維が溶融するという課題が開示され、そして、その解決手段として、砥石の研削表面に対する相対速度差を500?100m/minとすると共に研削表面を強制的に冷却すること、つまり、研削時の発熱を抑えることが開示されている。
ところが、それにも関わらず、この方法によっては、先端部分が団子状に形成された短繊維の突出部の構成が得られるだけであって、本件特許発明1及び2のような短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成された構成は得られていない。つまり、これは、研削時の発熱を抑えても、短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されるとは限らず、本件特許発明1及び2を得るためには単に研削時の発熱を抑えるだけでは不十分であるということを意味するものである。」(同第5ページ第27行?第6ページ第9行)
(3)「発明完成までの過程を時系列に考えれば、本件特許発明1及び2の短繊維の突出部の構成は、研削手段の改良により短繊維の突出部の溶融という課題を解決し、その結果として、事後的に認識されたものである。そして、このような本件特許発明1及び2の短繊維の突出部の構成は、甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明に基づいて予想することができないものである。」(同第6ページ第25行?第29行)
(4)「本件特許発明1及び2におけるナイロン等の短繊維の突出部の構成と、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明におけるアラミド短繊維の突出部の構成とは全く相異するので、前者を後者から予想することは不可能である。」(同第8ページ第17行?第19行)
(5)「甲第5号証には、短繊維を混入したゴムを研削することについては開示も示唆も何等ない。また、甲第5号証には、本件特許発明3?5と同様の構成の砥石を用いる効果として、大量の切り粉が発生する、又は目づまりしやすい材料の研削を高能率で行い得ることが記載されているのみである。
従って、発明創作プロセスにおいて、底ゴム部の研削時における短繊維の溶融という課題に直面した当業者が、その解決手段として、甲第5号証の砥石を適用することに想到するとの論理付けは不可能である。」(同第8ページ第28行?第9ページ第6行)
(6)「甲第5号証には、研削加工時の被研削物の発熱については何等の記載もない。
また、乙第3号証の第27頁の○3結合度の図に開示された技術内容は請求人の主張の通りであるとしても、目づまり形において切り屑が砥石に保持されて被研削物に発熱が生じることは、切り屑が砥石から落下する正常形との対比したものである。そうすると、砥粒の突出量が大きくされ、或いは砥粒密度が小さくされ、それによってチップポケットの体積が大きくされた甲第5号証に記載された発明の砥石では、切り屑を積極的に保持することとなり、その切り屑によって被研削物の発熱が誘発されることとなる。つまり、甲第5号証には、砥粒の突出量が大きくされ、或いは砥粒密度が小さくされた砥石を用いることにより、被研削物の発熱が促進されることが示唆されているともいえる。これは、むしろ甲第1号証或いは甲第3号証に記載された発明に対して甲第5号証に記載された発明を適用することへの阻害要因となるものである。(同第9ページ第13行?第25行;ここで「○3」とは「○付き数字3」のことである。)
(7)「本件特許発明1及び2は、短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されているので、突出部の露出面積が大きいことから、本件特許図面の図7に示すように、従来の短繊維の突出部が溶融した伝動ベルトに比較して、摩擦係数が安定で耐摩耗性がさらに優れるという作用効果を奏するが、かかる作用効果は、たとえ当業者であっても、甲第1号証?甲第8号証及び甲第10号証のいずれからも、また、これらに如何なる技術常識を参酌したところで到底予期することができないものである。すなわち、本件特許発明1及び2は十分に進歩性を有する。」(平成20年6月5日付け上申書第5ページ第17行?第24行)

2 無効理由2に対し
「被請求人の『短繊維の本来の強度を維持できると共に露出面積を大きく確保することができるので、ベルトの耐摩耗性を向上させることができるという伝動ベルトとしての有利な効果』との主張は、先端に向かって末広がり状の扇形に形成された短繊維の突出部の形態及びベルトの耐摩耗性を向上という本件特許発明1における2つの客観的事実の因果関係を発明完成後に主観的に考察したものである。
従って、請求人の上記主張は何等の根拠もない。請求人の述べている理由〇2は、先行技術を被請求人のこの考察に当てはめて構築したまさしく後知恵である。」(平成20年5月22日付け口頭審理陳述要領書(第2回)第7ページ第1行?第9行;ここで、「○2」とは、「○付き数字2」のことである。)

そして、被請求人は、甲第1号証又は甲第3号証に前記周知技術を適用するのに技術的な阻害要因が存在することを立証するために、
乙第1号証:1993年11月20日学校法人東京電機大学出版局発行の「三訂版 繊維 石川欣造監修、大沼亥久三、薄墨正、徳永邦雄、中嶌正志著」第210?219ページ
乙第2号証:特開平7-151191号公報
を提出し、また、砥石の選択が容易でないことを立証するために、
乙第3号証:クレノートン株式会社の技術資料「Grinding Application Navigator ナビゲーター Vol.2」第26?36ページ
を提出し、さらに、本件各特許発明の有利な効果を立証するために、
乙第4号証:特開平4-366045号公報
乙第5号証:実験成績証明書
を提出している。

第6 当審の判断
1 無効理由1について
(1) 甲第1号証ないし甲第6号証に記載された事項
(ア)甲第1号証に記載された事項
(a) 「本報でVリブドベルトに成形研削した伝動ベルトの構造を図1に示す。伝動ベルトは,外布にポリエステル線(φ0.7mm)を粘着性ゴムシートで固定し,さらに粘着性ゴムシートを介してシート状の底ゴム材料であるアラミド繊維強化ゴムが積層された構造である。成形研削が施される底ゴム部は,クロロプレンゴムにアラミドの短繊維(φ14μm×3mm)を混入した複合材料で,カレンダ処理によって繊維の配向方向を揃えたシート状の材料を積層後に加熱処理し,各層を強く密着させたものである。なお,材料内のアラミド繊維は高い精度でベルトの幅方向に向いて均一に分散している。」(第1295ページ左欄第23行?右欄第8行)
(b) 「図2にVリブドベルトの成形研削実験装置を示す。実験は,底ゴムを外側にした伝動ベルトを2つのプーリで支持し,Vリブ形状を有する総形電着ダイヤモンド砥石によって乾式で一段プランジ研削する方式で行った。」(第1296ページ左欄第1行?第4行)
(c) 「図6は,研削されたVリブドベルトのV溝表面の各部をSEMにより観察した結果である。V溝の側面bにおいては,前報^(1))で行ったアラミド繊維強化ゴムを平面研削する場合の仕上面と同様に,マトリックスゴム表面から突出したアラミド繊維が砥粒との干渉によって研削方向に傾斜し,砥粒との干渉によって繊維の表面に発生した応力が解放されることによって繊維の先端が湾曲し,塑性変形を伴って幅方向に広がりながら引きちぎられるように除去されている様子が観察される。」(第1296ページ右欄第1行?第8行)
(d) さらに、上記摘示事項(c)の「マトリックスゴム表面から突出したアラミド繊維が砥粒との干渉によって研削方向に傾斜し,砥粒との干渉によって繊維の表面に発生した応力が解放されることによって繊維の先端が湾曲し、塑性変形を伴って幅方向に広がりながら引きちぎられるように除去されている様子が観察される」なる記載及び第1296ページのFig.6(b)によれば、アラミドの短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成され、その根元が底ゴム部の表面から起立している点が看取できる。

したがって、以上の点を総合すると、甲第1号証には、
「底ゴム部にアラミドの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出しているVリブドベルトであって、短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成され、根元が底ゴム部の表面から起立しているVリブドベルト。」の発明(以下、「引用発明1」という。)
及び
「底ゴム部にアラミドの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出し、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されているVリブドベルトの製造方法であって、短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、総形電着ダイヤモンド砥石によって研削する工程を含んでいるVリブドベルトの製造方法。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認める。

(イ)甲第2号証に記載された事項
(e) 「【産業上の利用分野】本発明は、主として床材、靴底材、トルクリミッタ-、ブレ-キ材などの摺動材、キャタピラカバ-、タイヤカバ-、フォ-クリフト爪カバ-、伝動ベルト、ワイパ-等に用いられる短繊維含有ゴム構造物の表面加工方法に関する。」(第2頁第1欄第13行?第17行:段落【0001】参照)
(f) 「【作用】研磨時の研磨面を冷却して該研磨面の表面温度を繊維の軟化温度以下としつつ、研磨されるので、研磨面付近の短繊維は軟化したり、溶融しない。」(第2頁第1欄第46行?第48行:段落【0006】参照)
(g) 「混入する短繊維は、繊維長さLが0.5?10mmの範囲で、繊維長さLと繊維径Dとのアスペクト比L/Dが20以上の熱可塑性繊維を使用する。熱可塑性繊維としては特に限定されないが、ビニロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン6、ナイロン66、ポリエチレンテレフタレ-トなどから使用目的に応じて適宜選択される。」(第2頁第2欄第27行?第33行:段落【0011】参照)
(h) 「以上のように、研磨面を冷却をしながら研磨を行うと、図1に示すように、短繊維含有ゴム構造物1の表面1aから短繊維2が繊維形状を保持したまま突出するか、あるいは図2に示すように、ゴム構造物1の表面1aから、先端部分3aが丸くいわゆる団子状となった短繊維3が突出することとなり、風合性に優れる。」(第3頁第3欄第7行?第4欄第1行:段落【0014】参照)

(ウ)甲第3号証に記載された事項
(i) 「アラミド繊維強化ゴムは,これまでにない材料強度ならびに耐久性を有する伝動ベルト材料として開発され,既に限られた範囲ではあるがこの材料を採用した伝動ベルトが用いられつつある。」(第1299ページ左欄第2行?第5行)
(j) 「本材料は,カレンダ処理によって繊維の配向方向を一定にそろえたシート状の材料を積層後加熱処理が施されており,各層が強く密着している。」(第1299頁右欄最終行?第1300ページ左欄第2行)
(k) 「図2は,SEMによるアラミド繊維強化ゴムの研削加工面の観察例である。研削加工面は,図のようなマトリックスゴム表面からアラミド繊維が長く突出する状態となる。」(第1300頁左欄第28行?第30行)
(l) 「このような現象は,砥粒切れ刃とアラミド繊維との干渉開始からアラミド繊維が研削方向へ倒され,砥粒切れ刃の通過とともに繊維が軸方向に塑性変形し,切れ刃との接触面側に引張残留応力が生じ,砥粒切れ刃の通過後に残留応力が解放されることに原因すると考えられる。また,繊維が砥粒切れ刃によって押し潰され,根元から先端になるに従って繊維の幅が広くなり,繊維の表面には変形方向に沿った繊維の結晶が観察される。」(第1300ページ左欄第36行?右欄第3行)
(m) さらに、第1300ページのFig.2の右側の写真によれば、アラミドの短繊維群の突出部は、先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている点、加えてFig.2の中央の写真によれば、アラミドの短繊維の突出部は、その根元が底ゴム部の表面から起立している点が看取できる。

(エ)甲第4号証に記載された事項
(n) 「【産業上の利用分野】本発明は、主としてトルクリミッタ-、ブレ-キ材などの摺動材、床材、キャタピラカバ-、タイヤカバ-、靴底材、フォ-クリフト爪カバ-、伝動ベルト、ワイパ-等に用いられる短繊維含有ゴム構造物の製造方法に関する。」(第2頁第1欄第15行?第19行:段落【0001】参照)
(o) さらに、段落【0016】の【表1】には「ナイロン 直径28μ」と記載されている。

(オ)甲第5号証に記載された事項
(p) 「【発明の属する技術分野】この発明は、樹脂、FRP、CFRP、非鉄金属材料、木質系材料(天然木材、合板、積層材など)、石膏ボード、ゴム、及び半焼成セラミックス等の目づまりしやすい材料及び大量の切り粉が発生するものの研削加工用超砥粒砥石及びその製作方法に関する。」(第2頁第1欄第33行?第38行:段落【0001】参照)
(q) 「この超砥粒砥石において、上記ロウ材層の最大厚みを上記超砥粒aの平均粒径Lの25?50%とし、かつチップポケットcの体積を超砥粒の体積の2?20倍であるものとするとよい。」(第3頁第4欄第9行?第12行:段落【0016】参照)
(r) 「【実施例】図1、図2に示すように、直径D:100m、厚さ(幅)T:15mm、取付穴径H:20mmの鋼製台金1の外周面に、ダイヤモンド砥粒a(♯50、平均粒径d:0.3mm)を、図3(a)において、P=2mm、θ=60度にて銀ロウb付で一層だけ固着した。この場合において、チップポケットcの体積は超砥粒aの体積のおよそ8倍になるようロウ材b層厚みlを設定した。その固着方法は、まず、台金1の外周面にペースト状のロウ材bを塗布し、そのロウ材b層にダイヤモンド砥粒aをハンドセットにより規則的に配列した。これを全面にわたって行った後、約1000度に加熱してロウ材bを溶融させダイヤモンド砥粒aを台金1に固着し、超砥粒砥石を製作した。」(第4頁第5欄第19行?第31行:段落【0024】参照)

(カ)甲第6号証に記載された事項
(s) 「5は前記平ベルトの接着ゴム層3と同材質のV形リブゴム層で、本発明Vリブドベルトの最も特徴をなす部分であり、このV形リブゴム層5中にナイロン、ビニロン、ポリエステエル、芳香族ポリアミド等のモノフィラメントからなる合成繊維糸単独、又は綿、パルプ等の天然繊維糸を前記合成繊維糸に所定の割合で混入した混合糸を3?10mm長さにカットした短繊維群6がゴム100重量部に対し5?30重量部ベルト巾方向に配向埋設されている。
尚、短繊維群6が合成繊維糸と天然繊維糸の混合繊維糸の場合、合成繊維糸の混入量がゴム100重量部に対し30重量部以下の際は、30重量部に対して不足する重量部を天然繊維糸で混入することが必要である。そして、これらの短繊維群6は第2図および第3図で示すようにVリブ側面でリブゴム表面上に突き出し、且つ突出した短繊維群7の断面積が溶融して花が咲いたように広くなって形成されている。」(第3頁右下欄第6行?第4頁左上欄第4行)

(2) 本件特許発明1に対し
(ア)対比
本件特許発明1と引用発明1を対比する。
後者の「Vリブドベルト」は前者の「伝動ベルト」に相当する。
そして、後者の「アラミドの短繊維群」と前者の「フィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群」とは、「短繊維群」である限りにおいて共通している。
してみると、両者は、本件特許発明1の表記に倣えば、
「底ゴム部に短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出している伝動ベルトであって、短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている伝動ベルト。」である点で一致し、次の点で相違している。
〔相違点1〕
本件特許発明1は、「フィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの」短繊維群であって、短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されているのに対し、引用発明1は、アラミドの短繊維群であって、短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている点。

(イ)相違点の判断
甲第4号証の前記(n)及び(o)並びに甲第6号証の前記(s)に摘示した如く、「伝動ベルトの底ゴムから突出する短繊維の材質を、フィラメント径を20μm以上のナイロン、ビニロン、ポリエステルにする」構成は、本件出願前当業者に周知の技術である。この点は被請求人にも争いがない。
ここで、引用発明1と前記周知の技術は、ともに伝動ベルトに関する技術分野に属するもので、引用発明1に前記周知の技術を適用することを妨げる特段の事情も見受けられない。
そして、引用発明1も「アラミド短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている」ものであり、また、甲第2号証の前記(e)ないし(h)の摘示によれば、甲第2号証に記載されたものも、「伝動ベルトに用いたナイロン、ビニロン又はポリエステル短繊維の突出部は溶融せず研磨されて団子状となっている」ものであるから、両者は短繊維の突出部を溶融させず露出面積が大きな形状としている点で、その構造及び機能は共通しており、また、短繊維の突出部の研削条件を適宜制御すれば、短繊維の突出部が様々な形状に形成されることは当業者であれば容易に認識できる事項であるから、引用発明1に前記周知技術を適用した際、フィラメント径を20μm以上のナイロン、ビニロン又はポリエステル短繊維の突出部の形状を塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成することは、単なる設計変更の域を出ないものと認める。
したがって、甲第2号証に記載された事項に鑑み、引用発明1のアラミドの短繊維群に代えて前記周知の技術を適用し、上記相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
そして、本件特許発明1が奏する効果は、引用発明1、甲第2号証に記載された事項及び前記周知の技術から予測される以上の格別のものとは認められない。
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに前記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3) 本件特許発明2に対し
(ア)対比
本件特許発明2と引用発明1を対比する。
後者の「Vリブドベルト」は前者の「伝動ベルト」に相当する。
そして、後者の「アラミドの短繊維群」と前者の「フィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群」とは、「短繊維群」である限りにおいて共通している。
してみると、両者は、本件特許発明2の表記に倣えば、
「底ゴム部に短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出している伝動ベルトであって、短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成され、根元が底ゴム部の表面から起立している伝動ベルト。」である点で一致し、次の点で相違している。
〔相違点2〕
本件特許発明2は、「フィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの」短繊維群であって、短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成され、根元が底ゴム部の表面から起立しているのに対し、引用発明1は、アラミドの短繊維群であって、短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成され、根元が底ゴム部の表面から起立している点。

(イ)相違点の判断
甲第4号証の前記(n)及び(o)並びに甲第6号証の前記(s)に摘示した如く、「伝動ベルトの底ゴムから突出する短繊維の材質を、フィラメント径を20μm以上のナイロン、ビニロン、ポリエステルにする」構成は、本件出願前当業者に周知の技術である。この点は被請求人にも争いがない。
ここで、引用発明1と前記周知の技術は、ともに伝動ベルトに関する技術分野に属するもので、引用発明1に前記周知の技術を適用することを妨げる特段の事情も見受けられない。
そして、引用発明1も「アラミド短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成され、根元が底ゴム部の表面から起立している」ものであり、また、甲第2号証の前記(e)ないし(h)の摘示によれば、甲第2号証に記載されたものも、「伝動ベルトに用いたナイロン、ビニロン又はポリエステル短繊維の突出部は溶融せず研磨されて団子状となっており、根元がゴム部の表面から起立している」ものであるから、両者は短繊維の突出部を溶融させず露出面積が大きな形状としている点で、その構造及び機能は共通しており、また、短繊維の突出部の研削条件を適宜制御すれば、短繊維の突出部が様々な形状に形成されることは当業者であれば容易に認識できる事項であるから、引用発明1に前記周知技術を適用した際、フィラメント径を20μm以上のナイロン、ビニロン又はポリエステル短繊維の突出部の形状を塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成することは、単なる設計変更の域を出ないものと認める。
したがって、甲第2号証に記載された事項に鑑み、引用発明1のアラミドの短繊維群に代えて前記周知の技術を適用し、上記相違点2に係る本件特許発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
そして、本件特許発明2が奏する効果は、引用発明1、甲第2号証に記載された事項及び前記周知の技術から予測される以上の格別のものとは認められない。
したがって、本件特許発明2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに前記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4) 本件特許発明3に対し
(ア)対比
本件特許発明3と引用発明2を対比する。
後者の「Vリブドベルト」は前者の「伝動ベルト」に相当する。
そして、後者の「アラミドの短繊維群」と前者の「フィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群」とは、「短繊維群」である限りにおいて共通しているとともに、後者の「総形電着ダイヤモンド砥石」と前者の「砥粒径の50%?95%が突出した超砥粒を有する砥石」とは、「超砥粒を有する砥石」である限りにおいて共通している。
してみると、両者は、本件特許発明3の表記に倣えば、
「底ゴム部に短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出し、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている伝動ベルトの製造方法であって、短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、超砥粒を有する砥石によって研削する工程を含んでいる伝動ベルトの製造方法。」である点で一致し、次の点で相違している。
〔相違点3〕
本件特許発明3は、「フィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの」短繊維群であって、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されているのに対し、引用発明2は、アラミドの短繊維群であって、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている点。
〔相違点4〕
本件特許発明3は、「フィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの」短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、「砥粒径の50%?95%が突出した」超砥粒を有する砥石によって研削する工程を含んでいるのに対し、引用発明2は、アラミドの短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、総形電着ダイヤモンド砥石によって研削する工程を含んでいるものの、その砥石が上記のような数値範囲の構成を備えているか否か明らかでない点。

(イ)相違点の判断
〔相違点3〕に対しては〔相違点1〕において実質検討済みである。
〔相違点4〕について検討する。
甲第5号証の前記(q)の摘示によれば「この超砥粒砥石において、上記ロウ材層の最大厚みを上記超砥粒aの平均粒径Lの25?50%とし」と記載されていることから、甲第5号証に開示された超砥粒は、砥粒径の50?75%突出しているといえ、甲第5号証には上記相違点4に係る事項のうち「(底ゴム部を、)砥粒径の50%?95%が突出した超砥粒を有する砥石によって研削する」事項が記載又は示唆されているものと認める。
ここで、引用発明2と甲第5号証に記載された事項は、ともにベルトの製造技術分野に属するもので、引用発明2に甲第5号証に記載された事項を適用することを妨げる特段の事情も見受けられない。
したがって、上記相違点3についての判断の前提下において、引用発明2に甲第5号証に記載された事項を適用して、上記相違点4に係る本件特許発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
そして、本件特許発明3が奏する効果は、引用発明2、甲第2号証及び甲第5号証に記載された事項並びに前記周知の技術から予測される以上の格別のものとは認められない。
したがって、本件特許発明3は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明並びに前記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5) 本件特許発明4に対し
(ア)対比
本件特許発明4と引用発明2を対比する。
後者の「Vリブドベルト」は前者の「伝動ベルト」に相当する。
そして、後者の「アラミドの短繊維群」と前者の「フィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群」とは、「短繊維群」である限りにおいて共通しているとともに、後者の「総形電着ダイヤモンド砥石」と前者の「砥粒密度が3.5%?55%の超砥粒を有する砥石」とは、「超砥粒を有する砥石」である限りにおいて共通している。
してみると、両者は、本件特許発明4の表記に倣えば、
「底ゴム部に短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出し、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている伝動ベルトの製造方法であって、短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、超砥粒を有する砥石によって研削する工程を含んでいる伝動ベルトの製造方法。」である点で一致し、次の点で相違している。
〔相違点5〕
本件特許発明4は、「フィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの」短繊維群であって、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されているのに対し、引用発明2は、アラミドの短繊維群であって、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている点。
〔相違点6〕
本件特許発明4は、「フィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの」短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、「砥粒密度が3.5%?55%の」超砥粒を有する砥石によって研削する工程を含んでいるのに対し、引用発明2は、アラミドの短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、総形電着ダイヤモンド砥石によって研削する工程を含んでいるものの、その砥石が上記のような数値範囲の構成を備えているか否か明らかでない点。

(イ)相違点の判断
〔相違点5〕に対しては〔相違点1〕において実質検討済みである。
〔相違点6〕について検討する。
甲第5号証の前記(r)の摘示によれば、甲第5号証に開示された超砥粒砥石はその実施例において、請求人が提出した参考資料1によって算出されるように、4?6%程度の砥粒密度を有しているものといえる。この点に関しては、答弁書第9ページ第23行?第25行にも記載の如く、被請求人においても争いはない。
したがって、甲第5号証には上記相違点6に係る事項のうち「(底ゴム部を、)砥粒密度が3.5%?55%の超砥粒を有する砥石によって研削する」事項が記載又は示唆されているものと認める。
ここで、引用発明2と甲第5号証に記載された事項は、ともにベルトの製造技術分野に属するもので、引用発明2に甲第5号証に記載された事項を適用することを妨げる特段の事情も見受けられない。
したがって、上記相違点5についての判断の前提下において、引用発明2に甲第5号証に記載された事項を適用して、上記相違点6に係る本件特許発明4の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
そして、本件特許発明4が奏する効果は、引用発明2、甲第2号証及び甲第5号証に記載された事項並びに前記周知の技術から予測される以上の格別のものとは認められない。
したがって、本件特許発明4は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明並びに前記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6) 本件特許発明5に対し
(ア)対比
本件特許発明5と引用発明2を対比する。
後者の「Vリブドベルト」は前者の「伝動ベルト」に相当する。
そして、後者の「アラミドの短繊維群」と前者の「フィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群」とは、「短繊維群」である限りにおいて共通しているとともに、後者の「総形電着ダイヤモンド砥石」と前者の「砥粒径の50%?95%が突出し且つ砥粒密度が3.5%?55%の超砥粒を有する砥石」とは、「超砥粒を有する砥石」である限りにおいて共通している。
してみると、両者は、本件特許発明5の表記に倣えば、
「底ゴム部に短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出し、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている伝動ベルトの製造方法であって、短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、超砥粒を有する砥石によって研削する工程を含んでいる伝動ベルトの製造方法。」である点で一致し、次の点で相違している。
〔相違点7〕
本件特許発明5は、「フィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの」短繊維群であって、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されているのに対し、引用発明2は、アラミドの短繊維群であって、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている点。
〔相違点8〕
本件特許発明5は、「フィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの」短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、「砥粒径の50%?95%が突出し且つ砥粒密度が3.5%?55%の」超砥粒を有する砥石によって研削する工程を含んでいるのに対し、引用発明2は、アラミドの短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、総形電着ダイヤモンド砥石によって研削する工程を含んでいるものの、その砥石が上記のような数値範囲の構成を備えているか否か明らかでない点。

(イ)相違点の判断
〔相違点7〕に対しては〔相違点1〕において実質検討済みである。
〔相違点8〕について検討する。
甲第5号証の前記(q)の摘示によれば「この超砥粒砥石において、上記ロウ材層の最大厚みを上記超砥粒aの平均粒径Lの25?50%とし」と記載されていることから、甲第5号証に開示された超砥粒は、砥粒径の50?75%突出しているといえ、また、甲第5号証の前記(r)の摘示によれば、甲第5号証に開示された超砥粒砥石はその実施例において、請求人が提出した参考資料1によって算出されるように、4?6%程度の砥粒密度を有しているものといえる。
したがって、甲第5号証には上記相違点8に係る事項のうち「(底ゴム部を、)砥粒径の50%?95%が突出し且つ砥粒密度が3.5%?55%の超砥粒を有する砥石によって研削する」事項が記載又は示唆されているものと認める。
ここで、引用発明2と甲第5号証に記載された事項は、ともにベルトの製造技術分野に属するもので、引用発明2に甲第5号証に記載された事項を適用することを妨げる特段の事情も見受けられない。
したがって、上記相違点7についての判断の前提下において、引用発明2に甲第5号証に記載された事項を適用して、上記相違点8に係る本件特許発明5の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
そして、本件特許発明5が奏する効果は、引用発明2、甲第2号証及び甲第5号証に記載された事項並びに前記周知の技術から予測される以上の格別のものとは認められない。
したがって、本件特許発明5は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明並びに前記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7) 小括
以上により、請求人が主張する無効理由1は理由がある。

2 無効理由2について
上記「第4 請求人の主張の概要 2 無効理由2」で述べている「短繊維の突出部の相違は、形状の微差に過ぎない」ことは、上記「(2)本件特許発明1に対し (イ)相違点の判断」及び「(3)本件特許発明2に対し (イ)相違点の判断」において実質検討済みであるので、本件特許発明1及び本件特許発明2は甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、甲第5号証に「(底ゴム部を、)砥粒径の50%?95%が突出し且つ砥粒密度が3.5%?55%の超砥粒を有する砥石によって研削する」事項が記載又は示唆されていることは上述したとおりであり、甲第2号証に記載されたものと甲第5号証に記載された事項は、ともにベルトの製造技術分野に属するもので、甲第2号証に記載されたものに甲第5号証に記載された事項を適用することを妨げる特段の事情も見受けられない。
したがって、本件特許発明3ないし本件特許発明5は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求人が主張する無効理由2も理由がある。

なお、被請求人は、前記「第5 被請求人の主張の概要 1 無効理由1に対し」(1)において、「当業者が甲第1号証の伝動ベルトのアラミド繊維とナイロン、ビニロン又はポリエステルを組み合わせることに想到することは到底考えられないし、仮に置き換えたとしても本件特許発明1及び2を得ることはできない」旨、及び同(2)において、「甲第2号証においても、研削時の発熱を抑えても、短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されるとは限らず、本件特許発明1及び2を得るためには単に研削時の発熱を抑えるだけでは不十分であるということを意味するものである」旨主張している。
確かに、引用発明1に短繊維群としてナイロン、ビニロン又はポリエステルを適用した場合、短繊維が溶融するという問題が生じるものの、上記した如く、甲第2号証の前記(e)ないし(h)の摘示によれば、短繊維群としてナイロン、ビニロン又はポリエステルを用いた伝動ベルト等のゴム構造物の表面加工方法において、短繊維の変形を防止するために研磨時の研磨面を冷却して短繊維の突出部を溶融しないことが記載されいるのであるから、甲第2号証に接した当業者であれば、引用発明1に短繊維群としてナイロン、ビニロン又はポリエステルを適用した場合でも、溶融しないようにして成形を行うことは当然の試みといえる。
そして、上述したとおり、引用発明1も「アラミド短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている」ものであり、また、甲第2号証の前記(e)ないし(h)の摘示によれば、甲第2号証に記載されたものも、「伝動ベルトに用いたナイロン、ビニロン又はポリエステル短繊維の突出部は溶融せず研磨されて団子状となっている」ものであるから、両者は短繊維の突出部を溶融させず露出面積が大きな形状としている点で、その構造及び機能は共通しており、また、短繊維の突出部の研削条件を適宜制御すれば、短繊維の突出部が様々な形状に形成されることは当業者であれば容易に認識できる事項であるから、引用発明1に前記周知技術を適用した際、フィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン又はポリエステル短繊維の突出部の形状を塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成することは、当業者であれば容易になし得るものと認める。
よって、被請求人の上記(1)及び(2)の主張は採用することができない。

また、被請求人が前記「第5 被請求人の主張の概要 1 無効理由1に対し」(3)において主張する如く、発明の完成までの過程を時系列に考えたとしても、本件特許発明1ないし本件特許発明5が甲各号証に記載された発明及び前記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることは上述したとおりであるので、被請求人の上記(3)の主張は、何等この判断を覆すものではない。

さらに、被請求人は、前記「第5 被請求人の主張の概要 1 無効理由1に対し」(4)において、「本件特許発明1及び2におけるナイロン等の短繊維の突出部の構成と、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明におけるアラミド短繊維の突出部の構成とは全く相異するので、前者を後者から予想することは不可能である」と主張している。
しかしながら、本件特許発明1及び2の請求項1及び2には「短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている」としか記載されておらず、そして上記甲第1号証の摘示事項(d)及び甲第3号証の摘示事項(m)によれば、アラミド繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されていることが看取できるのであるから、本件特許発明1及び2におけるナイロン等の短繊維の突出部の構成と、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明におけるアラミド短繊維の突出部の構成とは全く相異するとはいえない。
よって、被請求人の上記(4)の主張は採用することができない。

また、被請求人は、前記「第5 被請求人の主張の概要 1 無効理由1に対し」(5)において、「発明創作プロセスにおいて、底ゴム部の研削時における短繊維の溶融という課題に直面した当業者が、その解決手段として、甲第5号証の砥石を適用することに想到するとの論理付けは不可能である」旨、及び同(6)において「甲第1号証或いは甲第3号証に記載された発明に対して甲第5号証に記載された発明を適用することへの阻害要因となるものである」旨主張している。
しかしながら、甲第5号証には、「(底ゴム部を、)砥粒径の50?75%が突出し且つ砥粒密度が3.5%?55%の超砥粒を有する砥石によって研削する」事項が記載又は示唆されており、しかも、引用発明1と甲第5号証に記載された事項は、ともにベルトの製造技術分野に属するものであり、引用発明1に甲第5号証に記載された事項を適用することを妨げる特段の事情も見受けられないことは、上述したとおりである。
したがって、被請求人が主張する如く、例え甲第5号証のものが被研削物の発熱を促進させるものであったとしても、引用発明2に短繊維群としてナイロン、ビニロン又はポリエステルを用いた前提下において、甲第2号証に接した当業者であれば、ナイロン、ビニロン又はポリエステル短繊維の突出部を溶融しないようにして成形を行うことは当然の試みといえるので、上記被請求人の(5)及び(6)の主張は採用することができない。

さらに、被請求人は、前記「第5 被請求人の主張の概要 1 無効理由1に対し」(7)において、「本件特許発明1及び2は、従来の短繊維の突出部が溶融した伝動ベルトに比較して、摩擦係数が安定で耐摩耗性がさらに優れるという作用効果を奏する」旨主張している。
しかしながら、本件特許発明1及び2と同様な伝動ベルトにナイロン繊維を用いた場合、摩擦係数の安定化が図られることは、被請求人が提出した乙第4号証にも記載又は示唆されており格別なものではなく、そして、本件特許発明1ないし本件特許発明5が奏する効果が、甲各号証に記載された発明及び前記周知の技術から予測される以上の格別のものとは認められないことは上述したとおりであるので、上記被請求人の(7)の主張は採用することができない。

また、被請求人は、前記「第5 被請求人の主張の概要 2 無効理由2に対し」において、「請求人の述べている理由は、先行技術を被請求人のこの考察に当てはめて構築したまさしく後知恵である。」旨主張していいる。
しかしながら、「短繊維の突出部の相違は、形状の微差に過ぎない」ことは、無効理由1において実質検討したとおりであって、本件特許発明1ないし本件特許発明5が奏する効果は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された発明から予測される以上の格別のものとは認められないので、上記被請求人の主張は採用することができない。

7 まとめ
以上のとおり、本件特許発明1及び本件特許発明2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに前記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件特許発明3ないし本件特許発明5は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明並びに前記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、さらには、本件特許発明1及び本件特許発明2は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件特許発明3ないし本件特許発明5に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし請求項5の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
伝動ベルト及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出している伝動ベルトであって、短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている伝動ベルト。
【請求項2】
短繊維の突出部は、根元が底ゴム部の表面から起立している請求項1に記載の伝動ベルト。
【請求項3】
底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出し、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている伝動ベルトの製造方法であって、短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、砥粒径の50%?95%が突出した超砥粒を有する砥石によって研削する工程を含んでいる伝動ベルトの製造方法。
【請求項4】
底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出し、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている伝動ベルトの製造方法であって、短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、砥粒密度が3.5%?55%の超砥粒を有する砥石によって研削する工程を含んでいる伝動ベルトの製造方法。
【請求項5】
底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出し、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている伝動ベルトの製造方法であって、短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、砥粒径の50%?95%が突出し且つ砥粒密度が3.5%?55%の超砥粒を有する砥石によって研削する工程を含んでいる伝動ベルトの製造方法。
【0001】
【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
本発明は、伝動ベルト及びその製造方法に係り、特に、底ゴム部に短繊維が混入されたVリブドベルトやVベルト等の伝動ベルト及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、例えば特開平3-219147号公報に開示されているように、ベルトの摩擦伝動部の耐側圧性及び耐摩耗性を向上すると共にベルト走行時の異音発生を防止することを目的に、短繊維群をベルト幅方向への配向性を保った状態で底ゴム部に混入し、当該短繊維群の一部を底ゴム部の表面から突出させるようにした伝動ベルトが知られている。
【0003】
しかし、このような伝動ベルトであっても、底ゴム部の表面に占める短繊維群の突出部の面積が小さいと、ゴムとプーリとが直接接する面積が大きくなるため、耐摩耗性はさほど向上しない。
【0004】
そこで、上記公報に開示された伝動ベルトでは、研削時の加工温度を高め、研削に際しての発熱により短繊維の先端を溶融した状態にしている。これにより、図10に示すように、短繊維100の露出部101は花が咲いたような状態になり、短繊維100の露出面積が増大する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、短繊維を溶融状態にすると、繊維の分子構造が変化するため、その強度は低下する。そのため、上記伝動ベルトでは、短繊維の露出面積が増大しているにもかかわらず、ベルトの耐摩耗性が十分に向上しているとは言い難かった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、短繊維の強度を保ったままその露出面積を増大させることにより、ベルトの耐摩耗性を向上させることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、短繊維を塑性変形させて先端に向かって末広がり状の扇形形状に形成することとした。
【0008】
具体的には、本発明に係る伝動ベルトは、底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出している伝動ベルトであって、短繊維の突出部は、塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されていることとしたものである。
【0009】
上記事項により、短繊維の突出部は溶融していないので、短繊維の本来の強度は維持される。また、短繊維の突出部は外力により塑性変形して先端に向かって末広がり状の扇形に形成されているので、断面が円形である場合に比べて露出面積が大きくなる。従って、ベルトの耐摩耗性が向上する。
【0010】
ところで、前記従来のベルトでは、露出した短繊維が底ゴム部の表面に向かって倒れやすいため、異音の防止に効果的と考えられている表面凹凸が形成されにくかった。そのため、異音が発生しやすかった。
【0011】
そこで、短繊維の突出部は、根元が底ゴム部の表面から起立していることが好ましい。これにより、底ゴム部の表面に、起立した突出部を凸部とし、短繊維の底ゴム部への埋入部分を凹部とするミクロな凹凸が形成され、異音の発生が防止される。
【0012】
本発明に係る伝動ベルトの製造方法は、底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出し、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている伝動ベルトの製造方法であって、短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、砥粒径の50%?95%が突出した超砥粒を有する砥石によって研削する工程を含んでいることとしたものである。
【0013】
上記事項により、短繊維が超砥粒との干渉によって研削方向に傾斜し、超砥粒との干渉によって繊維の表面に発生した応力が解放されることによって、繊維の先端が湾曲し、塑性変形を伴って幅方向に広がりながら、その一部が引きちぎられるように除去され、先端に向かって末広がり状の扇形形状となる。また、超砥粒の突出量が大きいため、砥石のボンド部とベルトの底ゴム部との接触が防止され、摩擦熱の発生が抑制される。そのため、研削に際して短繊維の露出部はあまり加熱されず、その溶融が防止される。従って、短繊維の突出部が塑性変形した伝動ベルトを容易に得ることができる。
【0014】
本発明に係る他の伝動ベルトの製造方法は、底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出し、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている伝動ベルトの製造方法であって、短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、砥粒密度が3.5%?55%の超砥粒を有する砥石によって研削する工程を含んでいることとしたものである。
【0015】
上記事項により、超砥粒の砥粒密度が小さいためにチップポケットが大きくなり、研削切り粉が排出されやすくなる。そのため、切り粉による目詰まりが起こりにくいので、研削に際しての発熱が抑制される。従って、短繊維の突出部が非溶融状態に維持されるとともに塑性変形した伝動ベルトを容易に得ることができる。
【0016】
本発明に係る他の伝動ベルトの製造方法は、底ゴム部にフィラメント径が20μm以上のナイロン、ビニロン、又はポリエステルの短繊維群が所定方向に配向されるように混入され、該底ゴム部の表面から該短繊維群の一部が突出し、該短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されている伝動ベルトの製造方法であって、短繊維群が所定方向に配向されるように混入された底ゴム部を、砥粒径の50%?95%が突出し且つ砥粒密度が3.5%?55%の超砥粒を有する砥石によって研削する工程を含んでいることとしたものである。
【0017】
上記事項により、超砥粒の突出量が大きいため、砥石のボンド部とベルトの底ゴム部との接触が防止され、摩擦熱の発生が抑制される。加えて、超砥粒の砥粒密度が小さいことからチップポケットが大きくなり、研削切り粉が排出されやすくなる。そのため、切り粉による目詰まりが防止され、研削に際しての発熱が抑制される。従って、短繊維の突出部が非溶融状態に維持されるとともに塑性変形した伝動ベルトを容易に得ることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
<実施形態1>
図1は、実施形態1に係る伝動ベルト10の断面形状を示している。本伝動ベルト10は、自動車の補機類の駆動装置やその他の一般産業用途に用いられるVリブドベルトである。
【0020】
接着ゴム層4には、ベルト長さ方向に延びる抗張体2が、ベルト幅方向(図1の左右方向)に等間隔に並んだ状態で埋設されている。接着ゴム層4の上面側、すなわちベルト外面側には、帆布層5が設けられている。接着ゴム層4の下面側、すなわちベルト内面側には、ベルト長さ方向に延びるVリブ7が、ベルト幅方向に複数設けられている。なお、このVリブ7は、本発明で言うところの「底ゴム部」に対応する。接着ゴム層4及びVリブ7は、例えばクロロプレンゴム、H-NBRゴム、CSMゴム、天然ゴム、SBRゴム、ブタジエンゴム、EPM、EPDMなどから形成することができる。
【0021】
Vリブ7には、複数の合成繊維38,38,…が所定方向への配向性を保った状態で埋設されている。具体的には、合成繊維38,38,…はベルト幅方向への配向性を保ったまま埋設されている。合成繊維38としては、塑性変形しやすい20μm以上のフィラメント径を有するナイロン、ビニロン、ポリエステルを用いる。
【0022】
図2及び図3に示すように、Vリブ7に埋設された合成繊維38の一部は、Vリブ7の側面11から突出している。合成繊維38の突出部40は、先端に向かって末広がり状の扇形に形成され、扁平になっている。この扇形の角部は丸みを帯びており、滑らかな曲面状に形成されている。また、合成繊維38の突出部40は、非溶融状態に維持され、その先端は波形に形成されている。
【0023】
図3に示すように、合成繊維38の突出部40の根元は、Vリブ7の側面11から起立している。言い換えると、合成繊維38は、Vリブ7の側面11に対してほぼ直立した状態になっている。これにより、Vリブ7の側面11には、起立した根元部分から先端側を凸部とし、Vリブ7への埋入部分を凹部とするミクロな凹凸が形成されている。なお、突出部40の長さは、例えば5μm?30μmである。
【0024】
-Vリブドベルトの製造方法-
次に、このVリブドベルト10の製造方法を説明する。
【0025】
まず、接着ゴム層4となる未加硫ゴムシート、抗張体2となるコード、及び合成繊維38を混合した未加硫ゴムシート等を順に積層し、これらを加熱加硫して円筒状のベルト成形体を得る。
【0026】
その後、図4に示すように、上記ベルト成形体19を駆動機構20の主ロール22とテンションロール23との間に巻き掛け、当該駆動機構20により走行させる。なお、24Aはガイドロールである。そして、砥石21を回転駆動しつつ、走行中の上記ベルト成形体19に押しつけることにより、ベルト成形体19の研削加工を行う。これにより、埋設した合成繊維38の一部は、先端に向かって末広がり状の扇形形状となってVリブ7の側面11から突出する。具体的には、合成繊維38が砥粒との干渉によって研削方向に傾斜し、砥粒との干渉によって繊維の表面に発生した応力が解放されることによって繊維の先端が湾曲し、塑性変形を伴って幅方向に広がりながら、その一部が引きちぎられるように除去される。
【0027】
この際、砥石21の種類や砥石21の押しつけ力等を調節することにより、合成繊維38の突出部40の先端に向かって末広がり状の扇形の程度や、先端の波形状を調節することが可能である。
【0028】
砥石21としては、円盤状の研削ホイール25の周面に、ダイヤモンド砥粒24を電気メッキ、ろう付け、焼き付け等により固定した構造のものを使用することが好ましい。ただし、砥粒はダイヤモンド砥粒に限定されるものではなく、CBN等の他の超砥粒を用いることも可能である。図5(a)は、研削ホイール25の周面の一部を垂直方向から投影した図であり、図5(b)は図5(a)のA-A線断面図である。これら図5(a)及び(b)に示すように、研削ホイール25(図4参照)の周面には、接着剤(メタルボンド、ニッケルボンド等)が層状に薄く引き伸ばされて塗布され、ボンド部26が形成されている。
【0029】
ダイヤモンド砥粒24は、ボンド部26の上に均等に配置され、接着されている。砥粒24の粒径は、#30?#200が好ましく、本実施形態では#140に設定されている。ボンド部26からの砥粒24の突出量は、砥粒24の全体高さの50%?95%とすることが好ましい。なお、本実施形態では砥粒24の突出量は80%に設定されている。砥粒24の砥粒密度(研削面に占める砥粒の表面積の割合)は3.5%?55%が好ましく、本実施形態では45%に設定されている。
【0030】
研削加工においては、研削ホイール25を500?2000m/minの周速で回転させることが好ましく、本実施形態では周速は1000m/minとした。砥石21の周速Vsに対するベルトの周速Vwの比である研削速度比Vs/Vwは、0.002?0.04が好ましく、本実施形態では0.004とした。
【0031】
-本実施形態の効果-
以上のように、本Vリブドベルト10では、合成繊維38の突出部40が先端に向かって末広がり状の扇形形状に形成されているので、Vリブ7の側面11に対する合成繊維38の見かけ上の面積は、突出部の断面形状が円形である場合に比べて大きい。また、合成繊維38の突出部40の先端が波形に形成されていることから、先端が平坦である場合に比べて、合成繊維38の表面積は更に増大している。従って、本Vリブドベルト10は耐摩耗性が大きい。
【0032】
合成繊維38の突出部40は、塑性変形して非溶融状態に維持されているので、突出部40において合成繊維本来の強度が維持されている。従って、合成繊維38の突出部40は摩耗しにくく、ベルトの耐摩耗性は更に向上している。
【0033】
合成繊維38の突出部40が丸みを帯びた扇形に形成されているので、Vリブ7の側面11に対する面圧が大きい場合であっても、また、面圧が不均一な場合であっても、安定した摺動抵抗を得ることができる。
【0034】
合成繊維38の突出部40の根元がVリブ7の側面11に対して起立しているため、ベルトとプーリとの間の摺動部に水や油等が混入した場合であっても、それらは突出部40の根元の間を伝って容易に排出される。そのため、摺動部に水等が混入した場合であっても、摺動抵抗は安定する。
【0035】
Vリブ7の研削加工を、ボンド部26から砥粒径の50%?95%が突出した超砥粒を用いて行うこととしたので、研削に際してボンド部26とVリブ7との接触が起こりにくい。そのため、摩擦による発熱が少ない。また、砥粒24は比較的熱伝導率の高いダイヤモンドで形成されているので、研削時に生じる熱は研削ホイール25側に逃げやすい。従って、合成繊維38の突出部40の温度は溶融する程度(融点)にまでは上昇せず、合成繊維38の非溶融状態は維持される。
【0036】
また、超砥粒の砥粒密度は、3.5%?55%と比較的粗いので、砥粒の間の隙間、すなわちチップポケットは大きくなる。そのため、研削に際して切り粉による目詰まりが起こりにくい。従って、目詰まりに起因する発熱が抑制され、合成繊維38の突出部40の非溶融状態は維持されやすくなる。
【0037】
-性能比較例-
次に、本実施形態に係るVリブドベルト10と従来のVリブドベルトとを比較した性能比較試験について説明する。なお、Vリブドベルト10の合成繊維38としては、20?25phrのナイロンを用いた。従来のVリブドベルトとしては、短繊維の露出部を花が咲いたように溶融状態にしたものを用いた。
【0038】
試験は以下のようにして行った。すなわち、、図6に示すように、試料ベルト32に案内ローラ33を介して重量Wのウエイトを垂下させ、ロードセル31のロードセル値を検出することによってベルトの張り側の張力T1及び緩み側の張力T2を検出し、これらの比(張力比)T1/T2の経時変化を算出することにより行った。なお、張力比T1/T2は、摩擦係数μ=(1/π)ln(T1/T2)の大小を示すものである。案内ローラ33の回転数は43rpmとし、重量Wは1.75kgとした。
【0039】
その結果、図7に示すように、本Vリブドベルト10では、初期状態(新品時)と24時間連続走行後の状態(走行劣化時)との間で張力比T1/T2はほとんど変動せず、従来に比べて変動量が著しく減少することが明らかになった。また、100℃の高温条件及び高荷重条件下においても同様の測定を行った結果、従来のベルトでは、通常条件下の場合に比べて張力比T1/T2が相当大きくなるのに対し、本Vリブドベルト10では張力比T1/T2はあまり増加せず、また、その経時変化も少ないことが明らかになった。これは、従来のベルトでは、短繊維が溶融部分から急速に摩耗し、その表面積が著しく減少するのに対し、本Vリブドベルト10では、合成繊維38の突出部40が非溶融状態にあるので、高温及び高負荷条件下においても合成繊維38の強度は維持され、その表面積があまり減少しないことが主な原因であると考えられる。
【0040】
図8は、100℃の高温条件下におけるゴムの屈折率の経時変化を示す。図8より、本Vリブドベルト10では、従来のベルトに比べて屈折率の経時変化が小さいことが分かる。
【0041】
-変形例-
なお、本発明の適用対象は、上記Vリブドベルト10に限定されるものではなく、他の種類のVリブドベルトであってもよい。例えば、図9に示すような結合型Vリブドベルト10Aであってもよい。また、Vベルト等の他の伝動ベルトであってもよい。
【発明の効果】
【0042】
以上のように、本発明によれば、短繊維の突出部が塑性変形した状態で先端に向かって末広がり状の扇形に形成されているので、短繊維の本来の強度を維持することができると共に露出面積を大きく確保することができるので、ベルトの耐摩耗性を向上させることができる。
【0043】
短繊維の突出部を、その根元が底ゴム部の表面から起立するように形成することにより、底ゴム部の表面にミクロな凹凸を形成することができ、これにより異音の発生を防止することができる。
【0044】
砥粒径の50%?95%が突出した超砥粒を有する砥石によって、短繊維が混入された底ゴム部を研削することにより、ボンド部とベルトの底ゴム部との接触を防止することができ、摩擦熱の発生を抑制することができる。従って、短繊維を塑性変形させ、非溶融状態を保ったまま底ゴム部表面から突出させることが容易になる。
【0045】
短繊維が混入された底ゴム部を、砥粒密度が3.5%?55%の超砥粒を有する砥石によって研削することにより、切り粉による目詰まりを防止し、研削に際しての発熱を抑制することができる。従って、短繊維を塑性変形させ、非溶融状態を保ったまま底ゴム部表面から突出させることが容易になる。
【0046】
短繊維が混入された底ゴム部を、砥粒径の50%?95%が突出し且つ砥粒密度が3.5%?55%の超砥粒を有する砥石によって研削することにより、ボンド部と底ゴム部との摩擦熱及び切り粉の目詰まりによる発熱を抑制することができる。従って、短繊維を塑性変形させ、非溶融状態を保ったまま底ゴム部表面から突出させることが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態に係るVリブドベルトの断面図である。
【図2】Vリブの表面の拡大図である。
【図3】Vリブの表面近傍の拡大断面図である。
【図4】Vリブドベルトの研削加工装置の構成図である。
【図5】(a)は研削ホイールの周面の一部を拡大して示す平面図であり、(b)は(a)のA-A線断面図である。
【図6】性能比較試験の試験装置の構成図である。
【図7】張力比の変動を示す性能比較図である。
【図8】ゴムの屈折率を示す性能比較図である。
【図9】結合型Vリブドベルトの断面図である。
【図10】従来のベルトの短繊維を示す図である。
【符号の説明】
2 抗張体
4 接着ゴム層
7 Vリブ(底ゴム部)
10 Vリブドベルト
11 Vリブの側面(底ゴム部の表面)
21 砥石
24 砥粒
25 研削ホイール
26 ボンド部
38 合成繊維
40 突出部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-06-23 
結審通知日 2008-06-25 
審決日 2008-07-09 
出願番号 特願平11-143613
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (F16G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小原 一郎礒部 賢  
特許庁審判長 溝渕 良一
特許庁審判官 水野 治彦
亀丸 広司
登録日 2003-08-22 
登録番号 特許第3464939号(P3464939)
発明の名称 伝動ベルト及びその製造方法  
代理人 竹内 宏  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 竹内 宏  
代理人 嶋田 高久  
代理人 前田 弘  
代理人 今江 克実  
代理人 松浦 孝  
代理人 前田 弘  
代理人 嶋田 高久  
代理人 今江 克実  
代理人 竹内 祐二  
代理人 竹内 祐二  
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