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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16L
管理番号 1185404
審判番号 不服2007-165  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-05 
確定日 2008-09-29 
事件の表示 特願2000-326620「フランジ継手およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月 9日出願公開、特開2002-130561〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年10月26日の出願であって、平成18年10月30日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成19年1月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされた後、当審における平成20年5月22日付けの拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)通知に対し、同年7月18日に明細書及び図面についての補正がなされたものである。

2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成20年7月18日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「JIS A1000系、A3000系、A5000系、A6000系の調質0材、JIS A1100、A1N00、A3003、A3203の各材料から選ばれた一種のアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる配管部材を用い、この配管部材を半径Rを1.0D(Rは配管中線の半径、Dは管径)以下にL型に曲げる工程と、
得られたL型配管4をパイプクランプ型11内に配置し、L型配管4の管端部12に嵌合する凹部13’と下端面13’’をもつ第1成形型13を用いて、凹部13’に管端部12を挿嵌しながら下端面13’’によって管端部12の近傍を押圧して、半径Rを1.0D以下に曲げた部分の半径Rを0.5D以下に修正する工程と、
上記管端部12に、取付用ボルト孔1と内壁に多数の条溝2’をもつ配管接続孔2を備えたフランジ3の配管接続孔2を嵌合し、配管4の内径よりもやや大きい外径をもつ下端部16と拡開溝17をもつ第2成形型15を用いて、配管4を配管接続孔2の内壁に押し付けるとともに、フランジ3から突出する管端部12を拡管する工程と、
成形溝19と段部20をもつ第3成形型18を用いて、拡管部21をフランジ3に押圧してL型配管4の管端部にフランジ3を固定する工程とを含み、
L型配管4の水平部5をその下面6がフランジ3の上面3’を含む平面と、同一になるように形成することを特徴とするフランジ継手の製造方法。」

3.引用例
一方、当審拒絶理由に引用した特開平9-1247号公報(以下「引用例」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

・「【0001】
【産業上の属する技術分野】本発明は、例えば熱交換器等に使用されるパイプの曲げ等を行なうパイプ加工方法及びその加工方法に用いる装置及びジョイントコネクタに関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、自動車のエンジンルーム内の高密度化及びクーラ等の各種熱交換器の複雑化により、配管に割けるスペースは減少傾向にある。また、これらの状況において、配管のデッドスペース(曲げのために必要とされる空間)の極小化や、配管取り回しの自由度向上のために、配管曲げR(即ち配管の曲率半径)の極小化へのニーズが高まっている。」

・「【0026】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明するために、実施例を図面とともに説明する。
(実施例1)実施例1のパイプ加工方法は、例えば図2に示す様な、「長尺パイプの管端に曲率半径(R)の小さい(R<1.5D;但しDは管直径)エルボ部のある部品」を、高生産性かつ低コストで得ようとする加工方法である。
【0027】a)本実施例では、まず、図1(a)に示す様に、長尺のパイプ1の管端部3近傍を、破損や座屈等の不具合が生じない最小曲率半径より大きな曲率半径で曲げた後(第1工程における第1曲げ)、図1(b)に示す様に、押圧部材であるパンチ5によって管端方向から管端部3の端面3aを圧縮することにより、小R曲げを行ない(第2工程における第2曲げ)、その後、図1(c)に示す様に、管端部3の整形を行なう。以下、その方法及び該加工に使用する装置について詳細に説明する。
【0028】丸1(注:引用例では丸のなかに1が記載されている、いわゆる丸数字1が示されており、これを「丸1」と表記する。以下同様。)(第1工程)
まず、通常のNCベンダー等を用いて、エルボ部9の曲げ外側部9aの板厚減少により割れが発生せず、且つ曲げ内側部9bに座屈が発生しない曲率半径で曲げて、第1曲げを行なう。具体的には、材質・板厚により最小曲率半径(限界曲げR)は異なるが、例えば材質:A3003-0,管径:φ17,板厚:1・0の場合、限界曲げ中心Rは約1.5D(但しDは管の直径)である。これによって、図1(a)に示す様な大きくカーブするパイプ形状となる。
【0029】丸2(第2工程)
次に、第1曲げを行なったパイプ1を、例えば図3に示す様な左右に分割可能な拘束治具7を用いて、拘束治具7の内部の略L字状の筒状の空間7a内にて、第1曲げにより成形されたエルボ部9の曲げ側壁11を外側から挟んで拘束した状態で固定する。従って、拘束治具7の筒状の空間7aの(エルボ部9に対応する)側方部分が拘束壁(図示せず)となる。また、この時、エルボ部9の曲げ外側部9aの外側部分には、円弧状に広がる曲げ空間7bが存在している。
【0030】次に、拘束治具7によって固定されたパイプ1の開口部1aより、芯金付き端面圧縮用のパンチ5を挿入し、パンチ5の段部5aにて管端部3の端面3aを押し込みながら、前記第1曲げにて成形されたエルボ部9の曲げ内側部9b(注:「9a」は誤記)をへこませて、第2曲げ(小R曲げ)を行なう。このパンチ5の先端側の形状は、パイプ1の曲げ外側部9aに対応した形状とされており、パンチ5が管端部3を押圧する時に、同時に、曲げ外側部9aをその内側面から前記曲げ空間7bに広げる様に押圧する。」

・「【0032】そして、整形したい形状に応じた各種のパンチを管端方向から挿入して、拡管,絞り,成形の各工程を経ることにより、所望のバルジ19の形状を得る。次に、このバルジ形成工程について、詳しく述べる。図5(a)に示す様に、まず、第1外パンチ21を、拘束治具17の凹部17b内にて、パイプ1に対して僅かの隙間を保って外嵌する。ついで、パイプ1の内径より大きな径の第1内パンチ23をパイプ1の内側に挿入して、段差17a(注:「7a」は誤記)の位置までのパイプ1を外側に広げる(拡管工程)。」

・「【0034】次に、図5(c)に示す様に、第3内パンチ29をパイプ1に内嵌した状態で、第3外パンチ31の段差31aにてパイプ1の端面1aを押圧して、段差17a部分にてパイプ1を折曲げてバルジ19を形成する。この様に、本実施例では、最小曲率半径より大きな曲率半径での曲げ加工(第1工程)の後、拘束治具7にてエルボ部9の曲げ側壁11を拘束した状態で、管端方向から押圧加工する(第2工程)という、非常に簡単な方法にて、低コストで見かけ上曲げ内側部9bの曲率半径をゼロに加工する、即ちデッドスペースを無くすることができるという顕著な効果を奏する。つまり、本実施例では、安定して且つ高生産性にて、極小Rのエルボ部9を有するパイプ1を製造することができる。」

・「【0052】丸1 まず、第2工程を説明する。図10(a)に示す様に、拘束治具である下パイプ保持部102に、前記実施例1の第1工程と同様にして曲げられたパイプ100を配置する。下パイプ保持部102は、図12に示す様に、パイプ100の横投影形状(L形状)の約半分を覆う形状である。つまり、断面L形状の部材の中央に、パイプ100の下半分及び(図の左側面である)横半分が嵌る溝102aが形成されている。尚、溝102aの上端の周囲には、第3工程のバルジ加工のための半鍔形状の切欠102bが形成されている。
【0053】丸2 そして、図10(b)に示す様に、下パイプ保持部102の溝102aにパイプ100を配置した状態で、上方より上パイプ保持部(スリーブ)103を下降させて、上下のパイプ保持部102,103でパイプ100を挟む様にして、パイプを固定する。
【0054】この上パイプ保持部103には、図10(a)に示す様に、パイプ100の管端部100aが挿入される(上下方向に貫通する)挿入孔103aと、挿入孔103aの下端から側方向に伸びてパイプ100の上半分及び(図の右側面である)横半分が嵌る溝103bとが形成されている。尚、挿入孔103aの下端の周囲には、前記半鍔形状の切欠102bと対応する半鍔形状の凸部103cが形成されている。
【0055】丸3 次に、この状態で、図10(b)及び図13に示す様に、パンチ104を、挿入孔103aに挿入し、前記実施例1と同様にして、エルボ部100bの曲げ外側部100cにおける小R曲げ加工を行なう。
丸4 これにより、図10(c)に示す様に、エルボ部100bの曲げ内側部100dは、長尺ストレート部100eの上面より下方に移動して略直角状に曲げられる。その後、上パイプ保持部103を上方に移動させる。尚、パンチ104及び上パイプ保持部103を上昇させた状態が第2工程の終了状態である。」

・「【0059】・・・
(実施例6)次に、実施例6について説明する。
【0060】本実施例は、図15に示す様に、締結力を向上させるためにクーラ配管等で用いられているジョイントコネクタ205付き配管(パイプ)200の整形加工に関するものである。」

・「【0062】また、図17に示す様に、他のパイプと締結させるためのジョイントコネクタ205が挿入された状態で、パイプ200の管端部200bを整形する第3工程に用いる装置として、パイプ200を保持する部分204aを有する保持治具204と、パイプ200をジョイントコネクタ205に結合させるためのパンチ206,207,208(図18参照)とを用いる。尚、パンチ206,207,208は、実施例1と同様のものを用いる。b)次に、本実施例のパイプ加工方法を説明する。
【0063】丸1 まず、第2工程を図16を用いて説明する。第2工程は、基本的には実施例1と同様であり、パイプ200の側面が広がらないように(左右に2分割される)拘束治具201で拘束した状態で、パンチ203を用いて、パイプ200の管端方向から管端部(例えば端面)200bを押圧する。これにより、曲げ内側部200cが座屈することなく極小Rにてパイプ200を曲げることができる。
【0064】丸2 次に、第3工程を図17及び図18を用いて説明する。図17に示す様に、前記第2工程にて小R形状に曲げられたパイプ200の管端部200bに、ジョイントコネクタ205を装着した状態で、パンチ206,207,208を、図18に示す様に順次連続して下降・加圧することにより、所望の勘合形状が得られる。尚、前記ジョイントコネクタ205の貫通孔205aの上端の周囲には、バルジ200dを形成するための切欠205bが設けられている。
【0065】尚、この工程におけるパイプ200の側壁拘束は、保持治具204を用いても、或はコネクタ205を用いても可能である。また、パイプ200とコネクタ205の結合は、図18に示す様に、パンチ206によるア部で行なうこともできるし、他のパンチ208による鍔部(イ部)の拡管力によって行なうことも可能である。
【0066】この様に、本実施例では、簡易な手順で、管端部200bの整形加工を行なうとともに、小R形状に曲げられたパイプ200の管端近傍に、相手部材との締結力を向上させるためのジョイントコネクタ205を装着することができる。この場合、コネクタ205と相手部材をボルト等で締結することにより、管単独で相手部材と締結する場合に比べ、その締結力が大幅に向上するという効果を奏する。」

・「【0082】尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。例えば前記ジョイントコネクタのパイプとの接触面に、ローレット等の溝付け加工を施したものを用いてもよい。」

・図1(a)には、パイプ1がL型に曲がっていることが示されている。

・図10(a)ないし(c)には、L型のパイプ100をさらに略直角状に曲げる工程として、上パイプ保持部103の挿入孔103aに管端部100aを挿入し、上パイプ保持部の溝103bに管端部100aの近傍といえるパイプ100の上半分を嵌め、パンチ104を用いて、同じく管端部100aの近傍といえる曲げ外側部100cを押圧する工程が示されている。

・図18(a)には、【0032】、【0065】及び図5(a)の記載内容を参照すると、パイプの内径よりもやや大きい外径をもつ第1内パンチと、第1外パンチとをもつパンチ206を用いて、パイプを孔の内側断面(図中の「ア部」)に結合させるとともに、ジョイントコネクタから突出する管端部を拡管することが示されているといえる。

・図18(c)には、【0034】、【0065】及び図5(c)の記載を参照すると、内周に凹部がある第3外パンチと、第3内パンチとをもつパンチ208を用いて、拡管した管端部をジョイントコネクタに押圧してL型のパイプの管端部にジョイントコネクタを固定することが示されているといえる。

・図22(a)及び(b)には、【0066】の「ボルト」に関する記載を参照すると、ジョイントコネクタ400の小さな円筒部分400bに取付用ボルト孔があることが示されているといえる。また、これらの図には、【0082】の記載に照らせば、ジョイントコネクタ400のパイプとの接触面である孔400cの内側断面の略S字状の凹凸部分に代えてローレット等の溝付け加工を施したものも示されているといえる。

・図20(c)や図24(b)には、それぞれの図面の上下を反転させてみれば、L型のパイプの水平部をその下面がジョイントコネクタの上面を含む平面とほぼ同一になるように形成したものが示されているといえる。

これらの記載事項及び図示内容によれば、引用例には、
「A3003-0からなるパイプを用い、このパイプを曲率半径Rを約1.5D(Rは限界曲げ中心、Dは管径)にL型に曲げる工程と、
得られたL型のパイプを下パイプ保持部内に配置し、L型のパイプの管端部に挿入される挿入孔と溝をもつ上パイプ保持部を用いて、挿入孔に管端部を挿入しながら溝に管端部の近傍を嵌め、パンチ104によって管端部の近傍を押圧して、曲率半径Rを約1.5Dに曲げた部分を略直角状に曲げる工程と、
上記管端部に、取付用ボルト孔と内側断面にローレット等の溝付け加工を施した孔を備えたジョイントコネクタの孔を装着し、パイプの内径よりもやや大きい外径をもつ第1内パンチと第1外パンチをもつパンチ206を用いて、パイプを孔の内側断面に結合させるとともに、ジョイントコネクタから突出する管端部を拡管する工程と、
内周に凹部がある第3外パンチと第3内パンチをもつパンチ208を用いて、拡管した管端部をジョイントコネクタに押圧してL型のパイプの管端部にジョイントコネクタを固定する工程とを含み、
L型のパイプの水平部をその下面がジョイントコネクタの上面を含む平面と、ほぼ同一になるように形成するジョイントコネクタ付きパイプの製造方法。」
という事項を含む発明(以下「引用発明」という。)が開示されていると認定することができる。

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「A3003-0からなるパイプ」は、これがJIS規格におけるA3003のアルミニウム又はアルミニウム合金を指すことは明らかであり、かつ、本願の願書に最初に添付された明細書(以下「当初明細書」という。)の【0007】に「JIS規格A3003-0材からなる管材10を用い」と記載されているとおり「A3003-0」は本願発明の実施の形態における管の材料としてまさに用いられているものであるから、本願発明の「JIS A1000系、A3000系、A5000系、A6000系の調質0材、JIS A1100、A1N00、A3003、A3203の各材料から選ばれた一種のアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる配管部材」に相当する。
また、引用発明における「R」は曲率半径であるとともに「限界曲げ中心」とされており、この「中心」という用語からみて、曲率半径Rはパイプ(配管)の中線の半径と解されることを踏まえると、引用発明の「このパイプを曲率半径Rを約1.5D(Rは限界曲げ中心、Dは管径)にL型に曲げる工程」と、本願発明の「この配管部材を半径Rを1.0D(Rは配管中線の半径、Dは管径)以下にL型に曲げる工程」とは、「この配管部材を半径RをDの所定値倍(Rは配管中線の半径、Dは管径)にL型に曲げる工程」という概念で共通する。
次に、引用発明の「L型のパイプ」及び「下パイプ保持部」は、それぞれ、本願発明の「L型配管」及び「パイプクランプ型」に相当する。
続いて、引用発明の「管端部に挿入される挿入孔」は、挿入孔は孔であるから凹部の一形態といえ、かつ、管端部に嵌合するものといえるから、実質的に、「管端部に嵌合する凹部」に相当する。
また、引用発明の「溝」は管端部の近傍に嵌まるものであるので、実質的に、本願発明の「下端面」に相当する。
さらに、引用発明の「上パイプ保持部」は本願発明の「第1成形型」に相当する。
そして、引用発明においてパイプ(配管)を「略直角状に曲げ」れば、そのときの配管中線の半径Rは約0.5Dになることを踏まえると、引用発明の「挿入孔に管端部を挿入しながら溝に管端部の近傍を嵌め、パンチ104によって管端部の近傍を押圧して、曲率半径Rを約1.5Dに曲げた部分を略直角状に曲げる工程」と、本願発明の「凹部に管端部を挿嵌しながら下端面によって管端部の近傍を押圧して、半径Rを1.0D以下に曲げた部分の半径Rを0.5D以下に修正する工程」とは、「凹部に管端部を挿嵌しながら所定の手段及び手順で管端部の近傍を押圧して、半径RをDの所定値倍に曲げた部分の半径Rを0.5D以下に修正する工程」という概念で共通する。
次に、引用発明の「内側断面にローレット等の溝付け加工を施した孔」は、実質的に、本願発明の「内壁に多数の条溝をもつ配管接続孔」に相当し、また、引用発明の「ジョイントコネクタの孔を装着」する態様は「フランジの配管接続孔を嵌合」する態様に相当する。
さらに、引用発明の「パイプの内径」及び「孔の内側断面」は、本願発明の「配管の内径」及び「配管接続孔の内壁」にそれぞれ相当し、また、引用発明の「結合させる」態様と本願発明の「押し付ける」態様とは「接触させる」との概念で共通することを踏まえると、引用発明の「パイプの内径よりもやや大きい外径をもつ第1内パンチと第1外パンチをもつパンチ206を用いて、パイプを孔の内側断面に結合させるとともに、ジョイントコネクタから突出する管端部を拡管する工程」と、本願発明の「配管の内径よりもやや大きい外径をもつ下端部と拡開溝をもつ第2成形型を用いて、配管を配管接続孔の内壁に押し付けるとともに、フランジから突出する管端部を拡管する工程」とは、「加工手段を用いて、配管を配管接続孔の内壁に接触させるとともに、フランジから突出する管端部を拡管する工程」という概念で共通する。
続いて、引用発明の「拡管した管端部」は本願発明の「拡管部」に相当することを踏まえると、引用発明の「内周に凹部がある第3外パンチと第3内パンチをもつパンチ208を用いて、拡管した管端部をジョイントコネクタに押圧してL型のパイプの管端部にジョイントコネクタを固定する工程」と、本願発明の「成形溝と段部をもつ第3成形型を用いて、拡管部をフランジに押圧してL型配管の管端部にフランジを固定する工程」とは、「別の加工手段を用いて、拡管部をフランジに押圧してL型配管の管端部にフランジを固定する工程」という概念で共通する。
そして、引用発明の「ほぼ同一」と、本願発明の「同一」とは、「所定の関係」という概念で共通する。
最後に、本願発明における「フランジ継手」という用語は、当初明細書の【0011】に「L型配管をフランジに対して極めて低い位置に取付けたフランジ継手」と記載されているとおり、L型配管とフランジとからなるものを意味するものであることに照らせば、引用発明の「ジョイントコネクタ付きパイプ」は、本願発明の「フランジ継手」に相当するといえる。

そうすると、両者は、
「JIS A1000系、A3000系、A5000系、A6000系の調質0材、JIS A1100、A1N00、A3003、A3203の各材料から選ばれた一種のアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる配管部材を用い、この配管部材を半径RをDの所定値倍(Rは配管中線の半径、Dは管径)にL型に曲げる工程と、
得られたL型配管をパイプクランプ型内に配置し、L型配管の管端部に嵌合する凹部と下端面をもつ第1成形型を用いて、凹部に管端部を挿嵌しながら所定の手段及び手順で管端部の近傍を押圧して、半径RをDの所定値倍に曲げた部分の半径Rを0.5D以下に修正する工程と、
上記管端部に、取付用ボルト孔と内壁に多数の条溝をもつ配管接続孔を備えたフランジの配管接続孔を嵌合し、加工手段を用いて、配管を配管接続孔の内壁に接触させるとともに、フランジから突出する管端部を拡管する工程と、
別の加工手段を用いて、拡管部をフランジに押圧してL型配管の管端部にフランジを固定する工程とを含み、
L型配管の水平部をその下面がフランジの上面を含む平面と、所定の関係になるように形成するフランジ継手の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

・相違点1
配管部材をL型に曲げる工程における「Dの所定値倍」について、本願発明では「1.0D以下」と特定されるのに対し、引用発明では「約1.5D」と特定される点。

・相違点2
半径Rを0.5D以下に修正する工程において、管端部の近傍を押圧するための所定の手段及び手順が、本願発明では「下端面によって」というものであるのに対し、引用発明では「溝に管端部の近傍を嵌め、パンチ104によって」というものである点。

・相違点3
加工手段が、本願発明では「配管の内径よりもやや大きい外径をもつ下端部と拡開溝をもつ第2成形型」であるのに対し、引用発明では「パイプの内径よりもやや大きい外径をもつ第1内パンチと第1外パンチをもつパンチ206」である点。

・相違点4
配管を配管接続孔の内壁に「接触させる」態様が、本願発明では「押し付ける」態様であるのに対し、引用発明では「結合させる」態様である点。

・相違点5
別の加工手段が、本願発明では「成形溝と段部をもつ第3成形型」であるのに対し、引用発明では「内周に凹部がある第3外パンチと第3内パンチをもつパンチ208」である点。

・相違点6
L型配管の水平部の下面とフランジの上面を含む平面との所定の関係が、本願発明では「同一」であるのに対し、引用発明では「ほぼ同一」である点。

5.相違点についての判断
・相違点1について
本願発明において、半径Rを「1.0D以下」にL型に曲げることについては、当初明細書をみても、その【0007】に「まず、JIS規格A3003-0材からなる管材10を用い、これを慣用の手段によって、R=0.6?0.9D(Rは半径、Dは管径)をもつL型管材とする。」と記載される程度の説明しかなされておらず、「1.0D以下」に限定することについての格別の技術的意義は示されていないし、技術常識からみてかかる数値限定に特段の意義があることが自明であるともいえない。
そのうえ、本願発明と引用発明とは、共に、管を2段階で曲げるもの、すなわち、配管部材をまず曲げた後、その曲げの半径Rをさらに小さくして0.5D以下に修正するものであるから、最初にどの程度曲げるかに関する半径RをDに対しどの程度のものにするかは、0.5D超の適宜な値であればよいものと解される。
そうすると、引用発明において、Dの所定値倍を「約1.5D」としたのに代えて、「1.0D以下」にすることは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。
したがって、引用発明に基づいて、相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

・相違点2について
管を2段階で曲げる際に、その後段階、すなわち、曲げの半径をさらに小さくする段階に、曲がった管の「内側」を成形型で押圧することは周知の技術である(例えば、原査定において示された文献である特開平6-114454号公報の「【0010】次に、このようにして得られた屈折管10aに、図2に示すような上型12及び下型13を使用して型成形工程が施される。同(a)に示すように上型12には、曲率が略零で所定角θに屈折された型面12aが形成してあり、下型13には、所定の曲率半径で所定角θに屈折された型面12bが形成してある。そこで、図3(a)の下型13上に屈折管10aを配置し、屈折管10a上に上型12を配設して、同図(b)に示すように、上型12と下型13とで屈折管10aを挾持押圧して屈折管10aに対して押圧、型成形を行う。この押圧、型成形によって、同図(c)に示すように外側の屈曲部がR+dの曲率で所定角θに屈折され、内側の屈折部が曲率略零で所定角θに屈折された屈折管10bが得られる。」という記載等を参照)。
また、管の内部に挿入するパンチが、曲がった管の「外側」の半径を修正するのに有効な手段であることも周知の技術である(例えば、前掲特開平6-114454号公報の「【0011】そこで、本発明では、図4(a)に示すように、屈折管10bを上型12と下型13で型締めした状態で、その両端から屈折管10b内にパンチ規制棒15a、15bをそれぞれ圧入し、屈折管10bの座屈部分を小さな曲率半径rに整形する整形工程を行う。この整形工程により、屈折管10bの外側の大きな曲率半径の曲げ部が内面から整形され、図5に示すように、内側の屈折部分が曲率略零で所定角θに屈折され、外側の屈折部分が所定の曲率で所定角θに屈折された屈折管10cが製造される。」という記載等を参照)。
これら周知の技術を参酌すると、曲げの半径をさらに小さくするために管端部の近傍を押圧する所定の手順及び手段として、引用発明における「溝に管端部の近傍を嵌め」るときに、この溝(下端面)によって管端部の近傍を押圧するよう構成することは、当業者が通常の創作活動の一環として適宜なし得るところである。
さらに、これら周知の技術によると、パンチを採用するか否かは、曲がった管の外側をどの程度修正するか否かによるものと解せられるので、パンチの採用については当業者にとって設計的事項に属する程度のことといえ、採用しないという選択肢も適宜取り得るものと認められる。
加えて、本願の当初明細書には、下端面についてその技術的意義はもとより何らの説明もされておらず(注:下端面については図7(B)に開示されるのみである)、下端面を有する第1成形型であっても、当初明細書には次に摘記する程度の記載しかなく、しかも、第1成形型は省略可能であるとの記載さえある。
・「【0007】・・・この管材10を、パイプクランプ型11内に配置し、その管端部12に第1成形型13を下降させて、L型配管10の曲げ角度Rを0.5D又はそれに相当する角度に修正する。」
・「【0009】
なお、上記実施例において、第1成形型、第2成形型、第3成形型を用いたが、本発明の要部は、曲率Rの小さいL型配管を形成し、これをフランジに回動不能に固定し、管端部に拡開部を形成し、これにOリング用溝を形成するとともに、L型配管の水平部の高さhを可及的に低く形成することにある。したがって、第1成形型を省略して、第2成形型のみによって、一挙に図7(c)の成形を行うこともできる。」
そうすると、引用発明において、前記周知の技術を参酌することで、相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

・相違点3及び4について
管とフランジとの接続に際し、成形型を用いること、及び、管をフランジの孔の内壁に押し付けること、はいずれも周知の技術である(例えば、特開平3-229095号公報2ページ左下欄20行ないし右下欄7行の「次にパンチ9をパイプ1内に挿入しパイプ1の端部を凹部11の底でチャック8に向かってパイプ1の延長方向に沿い加圧し、第3図に示すようにフランジ2と段12との間でパイプ1にバルジ部5を形成すると同時に、心棒10をフランジ2に貫通させてパイプ1の外周を孔3の内面全長に圧着せしめて、フランジ2とパイプ1とを固定するものである。」という記載並びに図2及び図3等を参照。パンチ9と心棒10とは一体化されたものとして図示されており、「成形型」といえる。)
そうすると、引用発明における、第1内パンチと第1外パンチとからなるパンチ206に代えて、同様の機能・作用を有する一体化された成形型を採用すること、及び、配管を配管接続孔の内壁に結合させるのを「押し付ける」ことによる結合とすること、はいずれも当業者が通常の創作活動の一環として適宜なし得るところである。
したがって、引用発明において、前記周知の技術を参酌することで、相違点3及び4に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

・相違点5について
前記「相違点3及び4について」で検討したように、内パンチと外パンチとからなるパンチに代えて成形型を用いることは当業者が通常の創作活動の一環として適宜なし得ることであるうえ、引用発明における、パンチ208は、第3外パンチの内周の凹部と第3内パンチ(の外周面)とからなる空間で本願発明の「成形溝」に相当するものを形成し、引用発明の第3外パンチ(の底部)は拡管した部分をジョイントコネクタ(フランジ)に押し付ける、いわば「段部」の機能を有するものであることに照らせば、引用発明において、前記周知の技術を参酌することで、相違点5に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

・相違点6について
L型配管の水平部の下面と、フランジの上面を含む平面との所定の関係について、引用発明では「ほぼ同一」であるところ、この「ほぼ同一」の度合については、フランジ継手として求められる仕様や使用環境等に応じて適宜定めればよいことであるから、これを「同一」に特定することは当業者にとって設計的事項に属する程度のことである。
そうすると、引用発明に基づいて、相違点6に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

また、本願発明の全体構成から奏される作用効果も、引用発明及び前記周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願発明は、引用発明及び前記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明については、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、特許法49条2号の規定に該当し、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-07 
結審通知日 2008-08-08 
審決日 2008-08-19 
出願番号 特願2000-326620(P2000-326620)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷口 耕之助  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 本庄 亮太郎
田良島 潔
発明の名称 フランジ継手およびその製造方法  
代理人 松島 鉄男  
代理人 奥山 尚一  
代理人 奥山 尚男  

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