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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て成立) B65B |
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管理番号 | 1185902 |
判定請求番号 | 判定2008-600026 |
総通号数 | 107 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2008-11-28 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2008-05-15 |
確定日 | 2008-10-09 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3585638号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号物件の説明書に示す「自動包装機」は、特許第3585638号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨 イ号物件の説明書に示す「自動包装機」は、特許第3585638号発明(以下、「本件特許発明」という。) の技術的範囲に属しない、との判定を求めたものである。 第2 本件特許発明 本件特許発明の「多連式自動包装機」は、特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 A.巻取ロールより繰出した幅の広いシート状の包材を複数条の包装フイルムにスリットする工程と、これ等各包装フイルムを縦シーラと横シーラによって夫々袋状にシール成形する工程と、これ等袋状にシール成形した各包装フイルムの内部に充填装置を用いて被包装材料を充填する工程と、各包装フイルムを横シールした状態のまま横シーラを袋の長さ分だけ降下して包装フイルムを引出す工程と、この降下作動した横シーラを横に開いて再び元の横シール前の位置に上昇作動する工程と、各包装フイルムの横シールの中央線部分をカツタで切断する工程を、連続的に繰返して行うように構成した多連式自動包装機であって、 B.上記横シーラ上下駆動用モータと包材繰出し駆動用モータの各回転数、及び、上記充填装置とカッタ用駆動装置の各作動タイミングを、シールする包装製品のサイズ毎に設定可能に構成したプログラム入力手段と、 C.シールする包装製品のサイズナンバーを選択するキー入力手段と、 D.キー入力手段によって選択されたサイズナンバーのプログラムに従って上記横シーラ上下駆動用モータと包材繰出し駆動用モータの各回転数及び上記充填装置とカッタ用駆動装置の各作動タイミングを制御する制御手段とを備え、 E.上記横シーラ上下駆動用モータが、シール包装する包装製品の袋の長さに合わせて降下及び上昇するように回転制御され、 F.上記包材繰出し駆動用モータが、横シーラ上下駆動用モータによって引き出された分に相当する包材を巻取ロールから繰出すように回転制御され、 G.上記充填装置が、横シールを行うと同時或いはその直後に被包装材料を包装製品の袋内部に充填供給するようにタイミング制御され、 H.上記カッタ用駆動装置が、シールした包装製品の横シール中央線部分を切断するようにタイミング制御されることを特徴とする多連式自動包装機。 なお、AないしHは、審決上丸数字は表記できないため、判定請求書においてなされた分説に即して当審が付したものであり、以下、本件特許発明の構成要件A等という。 第3 イ号物件 請求人が提出したイ号物件の説明書及びこれに添付された図1、図2及びイ号物件のカタログ、並びに本件判定請求の趣旨に照らし、イ号物件を、請求人が特定する、次のとおりのものと認める。 a.巻取ロール(111)より繰出した幅の広いシート状の包材を複数条の包装フイルム(F)にスリットする工程と、これ等各包装フイルム(F)を縦シーラ(31)と横シーラ(41)によって夫々袋状にシール成形する工程と、これ等袋状にシール成形した各包装フイルム(F)の内部に充填装置を用いて被包装材料を充填する工程と、各包装フイルム(F)を横シールした状態のまま横シーラ(41)を袋の長さ分だけ降下して包装フイルム(F)を引出す工程と、この降下作動した横シーラ(41)を横に開いて再び元の横シール前の位置に上昇作動する工程と、各包装フイルム(F)の横シールの中央線部分をカッタで切断する工程を、連続的に繰返して行うように構成した多連式自動包装機であって、 b.上記横シーラ上下駆動用モータ(9)の回転数、及び、上記充填装置とカッタ用駆動装置(6)の各作動タイミングを、シールする包装製品のサイズ毎に設定可能に構成したプログラム入力手段と、 c.シールする包装製品のサイズナンバーを選択するキー入力手段と、 d.キー入力手段によって選択されたサイズナンバーのプログラムに従って上記横シーラ上下駆動用モータ(9)の回転数及び上記充填装置とカッタ用駆動装置(6)の各作動タイミングを制御する制御手段とを備え、 e.上記横シーラ上下駆動用モータ(9)が、シール包装する包装製品の袋の長さに合わせて降下及び上昇するように回転制御され、 f.フイルム繰出し側(10)に配設された段差ロール(124)が、前記横シーラ上下駆動用モータ(9)によって引き出された包材によって持ち上げられて、引き出された分に相当する包材を、巻取ロール(111)から繰出すように制御され、 g.上記充填装置が、横シールを行うと同時或いはその直後に被包装材料を包装製品の袋内部に充填供給するようにタイミング制御され、 h.上記カッタ用駆動装置が、シールした包装製品の横シール中央線部分を切断するようにタイミング制御されることを特徴とする多連式自動包装機。 なお、aないしhは、本件特許発明の構成要件A乃至Hとの対比を明示すべく当審が付したものであり、以下、イ号物件の構成a等という。 第4 本件特許発明及びイ号物件についての当事者の主張 本件特許発明が特許請求の範囲に記載されたとおりのものであって、上記第2のとおりA?Hの構成要件に分説できること、及びイ号物件が上記第3のとおりa?hの構成を有することについて、請求人及び被請求人の間に争いはない。 また、イ号物件が本件特許発明の構成要件B、D、F以外の構成要件を充足していることについて、請求人及び被請求人の間に争いはない。 そして、本件特許発明の構成要件B、D、Fと、イ号物件の構成b、d、fとの関係についての、請求人及び被請求人の主張は、以下のとおりである。 1.請求人の主張 「本件特許発明の構成は、上述のように、構成要件Bにおける「包材繰出し駆動用モータの各回転数」はプログラムにより制御されているものに限定されている。また、構成要件Dにおける「キー入力手段によって選択されたサイズナンバーのプログラムに従って上記横シーラ上下駆動用モータと包材繰出し駆動用モータの各回転数及び上記充填装置とカッタ用駆動装置の各タイミングを制御する制御手段を備え、」と限定されている。このことは、出願人自ら、平成16年5月21日付審判での意見書の中で、本件発明の効果として「運転開始に当たって多連シールする包装製品のサイズナンバーをキー入力すれば、サイズ毎に設定されているプログラムデータが呼び出され、このプログラムデータに従って充填装置の作動タイミングと、横シーラ上下駆動用モータと包材繰出し駆動用モータの各回転数、及び、カッタ駆動装置の作動タイミングがそれぞれ自動調節され、決められた量の被包装材料を充填した決められたサイズのスティック状包装品を多連式に連続して自動包装可能にする。」と説明している。 これに対して、イ号物件では、上述の(4)イ号物件の説明で示したように、構成要件B、D、Fの点で構成上の大きな差異を有している。フイルム繰出しロール122を駆動する駆動モータ(本件特許発明の包材繰出し駆動用モータに相当)は、定速モータ17であり、プログラムによりその回転数を変更するタイプではない。イ号物件においては、段差ロール124と、機械式の無段変速機16により包材の繰出しを制御しているもので、モータ自体は定速回転であり、コンピュータのプログラムによりその回転数を制御するタイプのものではない。 本件特許発明における構成要件Bと構成要件Dの構成要件は重要な要件であるから、機械式無段変速機を利用して制御することとプログラムで制御することは、実質的に同じであるという主張をすることは無理である。言い換えればイ号物件に対して均等の理論を適用することはできない。」(判定請求書第9頁第7行?第10頁第1行) (上記摘記中、構成要件に付された符号は上記第2において本件特許発明の構成要件に付した符号に修正した。) 2.被請求人の主張 (1)「(ハ)以上説明したように、前記比較表に記載されている本件特許発明の構成要件Bと構成要件Dは、「プログラム入力手段及び制御手段」が、多連式自動包装機本体のどの範囲にまで及んでいるかを記載しているだけのものであり、「包材繰出し駆動用モータ」そのものの限定事項ではない。」(判定請求答弁書第3頁第14?17行) (2)「(ロ)本件特許発明の包材繰出し駆動用モータは、横シーラ上下駆動用モータによって引き出された分に相当する包材を巻取ロールから繰り出すように回転制御されるものであり、イ号物件でこのように制御されるのは「段差ローラ124」の変化が伝えられる「無断変速機16」である。 即ち、「定速モータ17」は単に「無断変速機16」に対して回転駆動力の提供を行うだけのものであり、本件特許発明の「包材繰出し駆動用モータ」に相当するのは、横シーラ上下駆動用モータによって引き出された分に相当する包材を巻取ロールから繰り出すように回転制御される「無断変速機16」と断言できる。」(判定請求答弁書第4頁第23?第5頁第1行) (3)「(イ)本件特許発明の「包材繰出し手段」である「包材繰出し駆動用モータ」の回転制御方法については、上記構成要件Fに記載のように「横シーラ上下駆動用モータによって引き出された分に相当する包材を巻取ロールから繰出すように回転制御される」と規定しており、当該回転制御に関する具体的な限定事項は一切ない。 要は、本件特許発明の「包材繰出し駆動用モータ」の回転制御方法は、横シーラ上下駆動用モータによって引き出された分に相当する包材を巻取ロールから繰出すように回転制御される全ての制御方法を含む上位概念であり、従って、プログラムを介在した制御や、機械式無断変速機を利用した制御等の下位概念は、全てこの上位概念に含まれるものと解する。 即ち、判定請求書9頁上から20行目から26行目に記載している本件特許発明とイ号物件の「包材繰出し手段」における構成上の差異については、イ号物件が採用している下位概念に基づく分析であり、上位概念と下位概念の関係を無視した間違った判断である。」(判定請求答弁書第6頁第6?第18行) (上記摘記中、構成要件に付された符号は上記第2において本件特許発明の構成要件に付した符号に修正した。) 第5 当審の判断 1.対比 本件特許発明とイ号物件とを対比すると、本件特許発明の構成要件Aは、イ号物件の構成aに相当し、以下同様に、構成要件Cは構成cに、構成要件Eは構成eに、構成要件Gは構成gに、そして構成要件Hは構成hにそれぞれ相当する。 しかしながら、本件特許発明の構成要件B,D,Fとイ号物件の構成b,d,fとは、包材繰出し駆動モータに関し、文言上、次の点で相違する。 〈相違点〉 包装フィルムの繰出しに関して、本件特許発明では、プログラム入力手段により包装製品のサイズ毎に包材繰出し駆動用モータの回転数を設定可能であり、包装製品のサイズナンバーのプログラムに従って制御手段により包材繰出し駆動用モータの回転数を制御することにより、包材繰出し駆動用モータが、横シーラ上下駆動用モータによって引き出された分に相当する包材を巻取ロールから繰出すように回転制御される構成となっているのに対して、本件イ号物件では、予め包装製品のサイズ毎に包材の繰り出し量に関わる駆動モータの回転数を設定するのではなく、フイルム繰出し側に配設された段差ロールが、横シーラ上下駆動用モータによって引き出された包材によって持ち上げられて、引き出された分に相当する包材を、巻取ロールから繰出すように制御されている点。 2.判断 (1)本件特許発明の構成要件B,D,Fの技術的意義について 本件特許発明の包材繰出し駆動用モータに関する構成要件B、D、Fの技術的意義について検討する。 本件特許公報には、本件特許発明の技術的課題とそれを解決する技術的手段について、次のように記載されている。 「【0007】 【発明が解決しようとする課題】 以上述べた如く、多連式自動包装機によれば一度に多数のステイック状包装製品を自動包装できる利点を備えているが、包装製品のサイズ(長さ)を変更する場合は、サイズに合せて横シーラYの上下の移動量を調節しなければならない。 【0008】 ところが、従来の自動包装機ではこの横シーラYを上下作動する手段として回転クランク機構が用いられていて、袋の長さを変更する場合はこのクランクの回転半径を調節する必要があり、加えて、被包装材料の充填タイミングとカッタによるカットタイミングを、夫々回転歯車差動装置やタイミング設定カム等を用いてその都度調節する必要があって、その操作に時間と手間が掛って非常に面倒であった。 【0009】 また、上記の各調節作業を終えた後でも、しばらく試しシールを繰返してメジャー等で実寸法を図ったり、重量計で重量を図ったりしながら調節を繰返さないと、正しい包サイズと充填量を得ることができないから、調節作業が増々複雑化、長時間化してしまう問題があり、加えて、これ等調節のための試しシールによって多くの被包装材料や包材FXが無駄に消費されてしまう問題もあって、その改善が望まれていた。 【0010】 従って本発明の技術的課題は、多連式に自動包装されるステイック状包装製品の袋サイズの変更と、この変更に伴う被包装材料の充填タイミングの変更を、予め設定したプログラムに従ってワンタッチにて極めて簡単に済ませることができるように工夫した多連式自動包装機を提供することである。」 「【0014】 上記の手段によれば、運転開始に当って多連シールする包装製品のサイズナンバーをキー入力すれば、サイズ毎に設定されているプログラムデータが呼出され、このプログラムデータに従って充填装置の作動タイミング(充填タイミング)と、横シーラ上下駆動用モータと包材繰出し駆動用モータの各回転数、及び、カッタ駆動装置の作動タイミングが夫々自動調整されて、決められた量の被包装材料を充填した決められたサイズのステイック状包装製品を多連式に連続して自動包装することを可能にする。」 「【0015】 即ち、キー入力手段によって包装製品のサイズナンバーが入力されると、横シーラ上下駆動用モータがシール包装する包装製品の袋の長さに合わせて降下及び上昇するように回転制御され、包材繰出し駆動用モータが、横シーラ上下駆動用モータによって引き出された分に相当する包材を巻取ロールから繰出すように回転制御され、充填装置が横シールを行うと同時或いはその直後に被包装材料を包装製品の袋内部に充填供給するようにタイミング制御され、カッタ用駆動装置がシールした包装製品の横シール中央線部分を切断するようにタイミング制御されるため、決められた量の被包装材料を充填した決められたサイズのステイック状包装製品を、多連式に連続して自動包装することができる。」 これらの記載からみて、構成要件B、D、Fの技術的意義は、包装製品のサイズ変更に伴い必要な調整作業のすべてをワンタッチで簡単に行うために、包材繰出し駆動用モータの回転数を他の三つの調整必要箇所と同様にプログラム入力手段により予め設定可能にし、この設定情報に基づいて制御手段により包材繰出し駆動用モータの回転数を制御することにより、包材繰出し駆動用モータが、横シーラ上下駆動用モータによって引き出された分に相当する包材を巻取ロールから繰出すように回転制御して包装機全体で統合的な制御を実現するものである。 (2)イ号物件の構成b、d、fの技術的意義について イ号物件の包材繰出しに関する構成b、d、fの技術的意義について検討する。 請求人が提出したイ号物件の説明書には、構成b、d、fに関して次のように記載されている。 「操作ボタンを操作して、装置1を作動させると、横シール形成部4において、一対の横シーラ41、41がお互いに接近する方向に移動して包装フイルムFを挟持するとともに、サーボモータ9が駆動され、ボールネジ91を回転する。横シール形成部4が包装フイルムFを挟持した状態で下方に移動すると、包装フイルムFが急速に引っ張られることによって、フイルム繰出し部10において、段差ロール124が持ち上がる。 段差ロール124の移動により、段差ロール124と連結ロッド163で連結された変速レバー162により自動的に無段変速機16を変速させる。無段変速機16が駆動することによって繰出しロール駆動チェーン161を介してフイルム繰出しロール122を回転させてフイルム巻装ロール部11から包装フイルムFを繰出す。フイルム繰出しロール122から繰出された包装フイルムFにより、高い位置にある段差ロール124は徐々に降下する。この際、無段変速機16は、次に包装フイルムFが引っ張られるまでに、段差ロール124が下限に到達しないように変速調整されている。 」(イ号物件の説明書第2頁第17行?第3頁第1行) 「(1)本装置1におけるフイルム繰出し部10においては、横シーラ形成部4で包装フイルムFを挟持したまま下方に引き下げることによって、段差ロール124を持ち上げることになる。この構成によって、横シーラ形成部4で包装フイルムFを急激に引き下げることになっても、段差ロール部12でクッションの作用が働き、フイルム繰出し部10から繰出される包装フイルムFの急激な繰出しを防止することができる。 (2)フイルム繰出しロール122が、無段変速機16と繰出しロールに対して駆動チェーン161を介して連結されている。無段変速機16が定速モータ17で駆動されることによって、段差ロール124が上方に移動する際、包装フイルムFを低張力で持ち上げることができ、包装フイルムFの無理な繰出しを防止することができる。 (3)フイルム繰出し部10が、段差ロール124の上方への移動によって、無段変速機16及び定速モータ17の駆動によりフイルム繰出しロール122を回転駆動することは、モータ駆動であっても機械的な動きを行うことになる。そのため、フイルム繰出し部10においては、予め設定されるプログラムを必要とするものではなく、装置1の複雑なプログラムを軽減することができる。」(イ号物件の説明書第3頁第18行?第4頁第4行) これらの記載からみて、イ号物件の構成b、d、fの技術的意義は、包装製品のサイズ変更に伴い必要な調整作業のうち、フィルムの繰出し以外については予め設定可能として作業の効率化を図り、フィルムの繰出しについては、包材繰出し側に配設された段差ロールが、横シーラ上下駆動用モータによって引き出された包材によって持ち上げられて、引き出された分に相当する包装フィルムを、巻取ロールから繰出すように定速モータと無段変速機を用いた従動的かつ機械的な制御を行うことで、横シーラ形成部で包装フィルムが急激に引き下げられても、段差ロール部のクッション作用により包装フィルムの急激な繰出しを防止することである。 (3)本件特許発明の構成要件B,D,Fの充足性について 以上のとおり、イ号物件においては、横シーラ上下駆動用モータの回転数、充填装置とカッタ用駆動装置の各作動タイミングについては、プログラム入力手段により予め設定可能にしているものの、包材繰り出し駆動モータの回転数についてはプログラム入力手段により設定されるものとして含まれておらず(構成要件Bと構成b)、それ故、制御手段により回転数が制御されるものではなく(構成要件Dと構成d)、しかも、横シーラ上下駆動モータによって引き出された分に相当する包材を巻取ロールから繰出すように回転制御されるものではなく、「フイルム繰出し側(10)に配設された段差ロール(124)が、前記横シーラ上下駆動用モータ(9)によって引き出された包材によって持ち上げられて、引き出された分に相当する包材を、巻取ロール(111)から繰出すように制御され」るものである(構成要件Fと構成f)。 すなわち、イ号物件におけるフィルムの繰出しは、包装フィルムの急激な繰出しを防止するために、フィルムの繰出しに係るモータの回転数を予め設定するものではなく、定速モータと無段変速機を用いた従動的かつ機械的な制御を行っているのであり、本件特許発明の如く包装製品のサイズ変更に伴う調整作業を効率化するために、フィルムの包材繰出し駆動用モータの回転数を予め設定し、当該設定値に基づいた回転制御を行うものとは、明らかに技術思想が異なるものである。 したがって、本件特許発明とイ号物件との上記相違点を実質的なものではないとすることは到底できず、イ号物件の構成b、d、fは、本件特許発明の構成要件B,D,Fを充足しないから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属さない。 3.被請求人の主張について 被請求人は、判定請求答弁書において、「『プログラム入力手段及び制御手段』が多連式自動包装機本体のどの範囲にまで及んでいるかを記載しているものであり、『包装繰出し駆動用モータ』そのものの限定事項ではない」、「本件特許発明の『包材繰出し駆動用モータ』の回転制御方法は、横シーラ上下駆動用モータによって引き出された分に相当する包材を巻取ロールから繰出すように回転制御される全ての制御方法を含む上位概念であり、従って、プログラムを介在した制御や、機械式無断変速機を利用した制御等の下位概念は、全てこの上位概念に含まれるものと解する。」と述べて、包装繰出し駆動用モータに関する本件特許発明の特許請求の範囲の解釈については、その文言どおりに解釈するものではない旨主張している。 しかしながら、 (1)審判請求時に補正された特許請求の範囲の請求項1には、プログラム入力手段について、「上記横シーラの上下駆動用モータの回転数、及び、上記の充填装置とカッタ用駆動装置の各作動タイミングを夫々シールする包装製品のサイズ毎に設定可能に構成したプログラム入力手段」と記載されており、包材繰出し駆動モータの回転数がプログラム入力手段の設定対象に含まれていなかった点。 (2)当審の平成16年3月18日付けの拒絶理由通知には、キー入力手段によって選択されたプログラムに従って、自動包装機の各作動タイミングを制御することの周知例として、特開平3-176317号公報が例示されており、当該公報には、包材繰出し駆動用モータ以外の各モータ(材料充填用ポンプ用モータ、縦横各ローラシーラ用モータ、切離しカッタ用モータ)の回転数をシールする袋の種類に応じて設定可能なプログラム入力手段が記載されている点。 (3)これに応答して提出された同年5月21日付けの手続補正書において、当該プログラム入力手段は「上記横シーラ上下駆動用モータと包材繰出し駆動用モータの各回転数、及び、上記充填装置とカッタ用駆動装置の各作動タイミングを、シールする包装製品のサイズ毎に設定可能に構成したプログラム入力手段」と補正され、包材繰出し駆動用モータの回転数がプログラム入力手段の設定対象として新たに追加された点、 (4)さらに、前記補正書と同日付けの意見書において、本件特許発明の効果として「運転開始に当って多連シールする包装製品のサイズナンバーをキー入力すれば、サイズ毎に設定されているプログラムデータが呼出され、このプログラムデータに従って充填装置の作動タイミング(充填タイミング)と、横シーラ上下駆動用モータと包材繰出し駆動用モータの各回転数、及び、カッタ駆動装置の作動タイミングが夫々自動調整されて、決められた量の被包装材料を充填した決められたサイズのステイック状包装製品を多連式に連続して自動包装することを可能にする。」(下線部は当審において付与)と主張している点、 (5)本件特許公報の段落【0010】には、本件特許発明の技術的課題として「多連式に自動包装されるステイック状包装製品の袋サイズの変更と、この変更に伴う被包装材料の充填タイミングの変更を、予め設定したプログラムに従ってワンタッチにて極めて簡単に済ませることができるように工夫した多連式自動包装機を提供する」と記載されている点、 (6)本件特許公報の段落【0031】及び図6には、各包装製品のサイズナンバー毎に、横シーラ上下駆動モータ回転数、充填装置駆動モータ回転数、カッタ駆動モータ回転数、及び包材繰出し駆動モータ回転数がデータメモリに入力設定されて、このデータメモリの中から選んだサイズナンバーに従って各駆動モータが制御されることが記載されている点、 等を総合的に判断すると、本件特許発明における多連式自動包装機は、袋サイズの変更に伴う調整作業をワンタッチにて簡単に行うために、プログラム入力手段により、調整の必要な4箇所すべて(すなわち、横シーラ上下駆動用モータと包材繰出し駆動用モータの各回転数、及び、上記充填装置とカッタ用駆動装置の各作動タイミング)をシールする包装製品のサイズ毎に設定可能にすることや、この設定情報に基づき制御を行うことを必須の要件としているものである。 換言すれば、本件特許発明は、その特許請求の範囲に記載された字句のとおり、包装過程に関連する各モータの回転数及び各装置の作動タイミングのすべてをプログラム入力手段により設定し、その設定情報に基づき制御手段により制御することを意図しているものであって、特許請求の範囲には設定や制御をすべき対象が例示されていたり、選択的な要件として記載されていると解するべきではない。 すなわち、被請求人の上記主張の如く、「『プログラム入力手段及び制御手段』が多連式自動包装機本体のどの範囲にまで及んでいるかを記載しているものであり、『包装繰出し駆動用モータ』そのものの限定事項ではない」とか、「本件特許発明の『包材繰出し駆動用モータ』の回転制御方法は、横シーラ上下駆動用モータによって引き出された分に相当する包材を巻取ロールから繰出すように回転制御される全ての制御方法を含む上位概念であり、従って、プログラムを介在した制御や、機械式無断変速機を利用した制御等の下位概念は、全てこの上位概念に含まれるものと解する。」というようなことは、何ら予定していないものと解するのが相当である。 4.均等の判断 請求人は判定請求書において、構成要件B、Dについては、均等の理論を適用できない旨主張しているので、さらに、均等論の適用が可能か否かについても検討する。 最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成6年2月24日判決言渡)は均等論が適用される場合について、次の五つの条件を付して認める旨の判示をしている。 積極的要件 (1) 相違部分が、特許発明の本質的部分ではない。 (2) 相違部分を対象製品の対応部分と置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏する。 (3) 対象製品等の製造時に、異なる部分を置換することを、当業者が容易に想到できる。 消極的要件 (4) 対象製品等が、出願時における公知技術と同一又は当業者が容易に推考できたものではない。 (5) 対象製品等が特許発明の出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情がない。 そこで、イ号物件が、前記条件(1)を満たすか否かについて検討する。 前述のとおり、本件特許発明の技術的課題は、「多連式に自動包装されるステイック状包装製品の袋サイズの変更と、この変更に伴う被包装材料の充填タイミングの変更を、予め設定したプログラムに従ってワンタッチにて極めて簡単に済ませることができるように工夫した多連式自動包装機を提供すること」であり、これを解決するために、本件特許発明は、包装製品のサイズ変更に伴い調整が必要なすべての箇所(すなわち、横シーラ上下駆動用モータの回転数、包材繰出し駆動用モータの回転数、充填装置の作動タイミング、及びカッタ用駆動装置の作動タイミング)をワンタッチで予め設定可能にし、それに従い各装置が制御をするよう構成したものである。 してみると、袋サイズ変更時の各装置の統合制御という観点から、包装製品のサイズ変更に伴い調整が必要な箇所の一つである包材繰出し駆動用モータの回転数を、予めプログラム入力手段により設定可能とし、この設定情報に基づき制御を可能とするか否かは、本願発明の技術思想としては、まさに本質的な部分を構成するといえるから、前記条件(1)を満たさない。 また、前記「3.被請求人の主張について」において記載した如く、包材繰出し駆動用モータの回転数をプログラム入力手段の設定対象とすることは、審判手続の過程で当審の拒絶理由を回避するために被請求人が意識的に行った限定であるから、前記条件(5)も満たしていない。 したがって、前記条件(2)、(3)、(4)について検討するまでもなく、イ号物件と本件特許発明との関係において均等論は適用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、イ号物件は、文言上本件特許発明の技術的範囲に属さず、また均等論が適用される余地もないから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
イ号物件の構成 a.巻取ロール(111)より繰出した幅の広いシート状の包材を複数条の包装フイルム(F)にスリットする工程と、これ等各包装フイルム(F)を縦シーラ(31)と横シーラ(41)によって夫々袋状にシール成形する工程と、これ等袋状にシール成形した各包装フイルム(F)の内部に充填装置を用いて被包装材料を充填する工程と、各包装フイルム(F)を横シールした状態のまま横シーラ(41)を袋の長さ分だけ降下して包装フイルム(F)を引出す工程と、この降下作動した横シーラ(41)を横に開いて再び元の横シール前の位置に上昇作動する工程と、各包装フイルム(F)の横シールの中央線部分をカッタで切断する工程を、連続的に繰返して行うように構成した多連式自動包装機であって、 b.上記横シーラ上下駆動用モータ(9)の回転数、及び、上記充填装置とカッタ用駆動装置(6)の各作動タイミングを、シールする包装製品のサイズ毎に設定可能に構成したプログラム入力手段と、 c.シールする包装製品のサイズナンバーを選択するキー入力手段と、 d.キー入力手段によって選択されたサイズナンバーのプログラムに従って上記横シーラ上下駆動用モータ(9)の回転数及び上記充填装置とカッタ用駆動装置(6)の各作動タイミングを制御する制御手段とを備え、 e.上記横シーラ上下駆動用モータ(9)が、シール包装する包装製品の袋の長さに合わせて降下及び上昇するように回転制御され、 f.フイルム繰出し側(10)に配設された段差ロール(124)が、前記横シーラ上下駆動用モータ(9)によって引き出された包材によって持ち上げられて、引き出された分に相当する包材を、巻取ロール(111)から繰出すように制御され、 g.上記充填装置が、横シールを行うと同時或いはその直後に被包装材料を包装製品の袋内部に充填供給するようにタイミング制御され、 h.上記カッタ用駆動装置が、シールした包装製品の横シール中央線部分を切断するようにタイミング制御されることを特徴とする多連式自動包装機。 イ号物件の図面及びカタログ |
判定日 | 2008-09-29 |
出願番号 | 特願平8-106305 |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZA
(B65B)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 一ノ瀬 覚 |
特許庁審判長 |
石原 正博 |
特許庁審判官 |
遠藤 秀明 栗林 敏彦 |
登録日 | 2004-08-13 |
登録番号 | 特許第3585638号(P3585638) |
発明の名称 | 多連式自動包装機 |
代理人 | 飯田 昭夫 |
代理人 | 村松 孝哉 |
代理人 | 江間 路子 |
代理人 | 上田 千織 |
代理人 | 矢島 正和 |