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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A62C
審判 一部無効 特29条の2  A62C
管理番号 1186282
審判番号 無効2006-80249  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-11-29 
確定日 2008-09-16 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3677615号発明「防火シャッタ-」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3677615号の請求項1、3、5に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3677615号の請求項2に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その4分の1を請求人の負担とし、その4分の3を被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件の特許第3677615号に係る出願は、平成10年4月24日に特許出願され、その後の平成17年5月20日にその請求項1?5に係る発明につき特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人より平成18年11月29日に請求項1、2、3及び5に係る発明に対して本件無効審判の請求がなされ、その後、被請求人より平成19年2月19日に訂正請求書及び答弁書が提出され、さらに、請求人より平成19年3月22日に弁駁書が提出された。


第2.訂正の適否
【1】訂正の内容
〔1〕訂正事項1
特許請求の範囲の旧請求項1を、
「【請求項1】
建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが、該開口部の左右両側に立設したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて、該シャッターカーテンは、カーテン上方部を占める金属製スラットとカーテン下方部を占める耐火シートから構成され、前記カーテン下方部を占める耐火シートの上端を、前記カーテン上方部を占める金属製スラットの下端に止着してなり、前記ガイドレールには、開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成されており、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、耐火シートを持ち上げることで脱出可能としたことを特徴とする防火シャッター。」に訂正する。

〔2〕訂正事項2
特許請求の範囲の旧請求項2を、
「【請求項2】
建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが、該開口部の左右両側に立設したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて、該シャッターカーテンは、鋼製スラットから成るシャッターカーテンの下端部より所定高さの部位を、幅方向両端部を所定幅残して除去して幅方向両端部に細幅状鋼製スラットを形成し、耐火シートを、該鋼製スラットを除去した部位の直上に位置する鋼製スラットに締結することで構成し、耐火シートの左右両端側に設けた前記細幅状鋼製スラットに鋼製スラットからなるカーテン上方部の荷重を負担させ、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、耐火シートを持ち上げることで脱出可能としたことを特徴とする防火シャッター。」に訂正する。

〔3〕訂正事項3
特許請求の範囲の旧請求項3を、
「【請求項3】
該耐火シートの左右両端部には係止部材を設けると共に、前記開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位を、耐火シートを受け入れる前記幅細部と該係止部材を受け入れる幅広部とからなる溝部から構成したことを特徴とする請求項1に記載の防火シャッター。」に訂正する。

〔4〕訂正事項4
特許請求の範囲の旧請求項4を、
「【請求項4】
シャッターカーテン自重降下時に、最下位にある金属製スラットが該幅細部の上端に当接することで金属製スラットからなるカーテン上方部の荷重をガイドレールが負担するようにしたことを特徴とする請求項3に記載の防火シャッター。」に訂正する。

〔5〕訂正事項5
特許請求の範囲の旧請求項5を、
「【請求項5】
耐火シートの下端には可撓性を有する座板を設け、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合に、全座板重量が挟まれた人体に作用しないようにしたことを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の防火シャッター。」に訂正する。

〔6〕訂正事項6
明細書の旧段落【0005】を、
「【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明が採用した技術手段は、建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが、該開口部の左右両側に立設したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて、該シャッターカーテンは、カーテン上方部を占める金属製スラットとカーテン下方部を占める耐火シートから構成され、前記カーテン下方部を占める耐火シートの上端を、前記カーテン上方部を占める金属製スラットの下端に止着してなり、前記ガイドレールには、開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成されており、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、耐火シートを持ち上げることで脱出可能としたことを特徴とするものである。本発明が採用した他の技術手段では、シャッターカーテンは、鋼製スラットから成るシャッターカーテンの下端部より所定高さの部位を、幅方向両端部を所定幅残して除去して幅方向両端部に細幅状鋼製スラットを形成し、耐火シートを、該鋼製スラットを除去した部位の直上に位置する鋼製スラットに締結することで構成されている。このものでは、開口部全閉時には、耐火シートの左右両端側に設けた細幅状鋼製スラットが鋼製スラットからなるカーテン上方部の荷重を負担する。」に訂正する。


【2】訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
〔1〕訂正事項1について
請求項1に係る上記訂正事項1は、旧請求項1に、旧請求項3の「開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位のガイドレールの溝部を耐火シートを受け入れる幅細部」との特定事項、及び、旧請求項3を引用する旧請求項4の「該幅細部の幅は金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有し」との特定事項を含む、「ガイドレールには、開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成され」との特定事項を組み込むと共に、「降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、耐火シートを持ち上げることで脱出可能とした」との特定事項を付加して、発明の詳細な説明に記載の「第一の実施の形態」、「第二の実施の形態」或いは「第四の実施の形態」のものに限定し、新請求項1とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

〔2〕訂正事項2について
請求項2に係る上記訂正事項2は、旧請求項2の「鋼製スラットから成るシャッターカーテンの下端部より所定高さの部位を、幅方向両端部を所定幅残して除去し」との特定事項に、「幅方向両端部に細幅状鋼製スラットを形成し」との特定事項を付加して、より具体化すると共に、「耐火シートの左右両端側に設けた前記細幅状鋼製スラットに鋼製スラットからなるカーテン上方部の荷重を負担させ、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、耐火シートを持ち上げることで脱出可能とした」との特定事項を付加して、発明の詳細な説明に記載の「第三の実施の形態」のものに限定し、新請求項2とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

〔3〕訂正事項3について
請求項3に係る上記訂正事項3は、新請求項1に、「ガイドレールには、開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成され」との特定事項が組み込まれたことに伴い、それとの整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

〔4〕訂正事項4について
請求項4に係る上記訂正事項4は、新請求項1に、「ガイドレールには、開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成され」との特定事項が組み込まれたことに伴い、それとの整合を図る(重複する表現を省く)ものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
尚、新請求項4は、新請求項3を引用して、特許請求の範囲の減縮を目的として訂正された新請求項1を引用するものであって、旧請求項3を引用して旧請求項1を引用する旧請求項4に比して、新請求項1の「降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、耐火シートを持ち上げることで脱出可能とした」との特定事項が付加されているものであるが、当該特定事項は、旧請求項4の「幅細部の幅は金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有し、シャッターカーテン自重降下時に、最下位にある金属製スラットが該幅細部の上端に当接することで金属製スラットからなるカーテン上方部の荷重をガイドレールが負担する」との特定事項及び旧請求項1の「カーテン下方部を占める耐火シート」との特定事項から必然的に導き出せる作用効果に類する事項、或いは、上記各特定事項にもともと内在していた事項と云うことができるから、上記のような特定事項が付加されている点において、請求項4に係る上記訂正事項4が特許請求の範囲の減縮を目的とするものには当たらない。(したがって、本件の新請求項4に係る発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否かの判断(特許法第134条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定による。)は行わない。)

〔5〕訂正事項5について
請求項5に係る上記訂正事項5は、旧請求項5に記載の「可撓性を有する座板」との特定事項を「降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合に、全座板重量が挟まれた人体に作用しないようにした」ものであると限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

〔6〕訂正事項6について
発明の詳細な説明の段落【0005】に係る上記訂正事項6は、上記訂正事項1?5の訂正に伴い、特許請求の範囲と発明の詳細な説明を整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

〔7〕まとめ
そして、上記訂正事項1?6は、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。


【3】むすび
したがって、上記訂正事項1?6は、特許法第134条の2第1項ただし書きの規定に適合し、同条第5項の規定において準用する同法第126条第3項,第4項の規定に適合するから、当該訂正を認める。


第3.訂正後の発明
本件の請求項1,2,3,5に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、上記訂正が認められることから、訂正された本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1,2,3,5に記載された事項により特定される、次のものと認める。
「【請求項1】
建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが、該開口部の左右両側に立設したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて、該シャッターカーテンは、カーテン上方部を占める金属製スラットとカーテン下方部を占める耐火シートから構成され、前記カーテン下方部を占める耐火シートの上端を、前記カーテン上方部を占める金属製スラットの下端に止着してなり、前記ガイドレールには、開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成されており、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、耐火シートを持ち上げることで脱出可能としたことを特徴とする防火シャッター。
【請求項2】
建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが、該開口部の左右両側に立設したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて、該シャッターカーテンは、鋼製スラットから成るシャッターカーテンの下端部より所定高さの部位を、幅方向両端部を所定幅残して除去して幅方向両端部に細幅状鋼製スラットを形成し、耐火シートを、該鋼製スラットを除去した部位の直上に位置する鋼製スラットに締結することで構成し、耐火シートの左右両端側に設けた前記細幅状鋼製スラットに鋼製スラットからなるカーテン上方部の荷重を負担させ、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、耐火シートを持ち上げることで脱出可能としたことを特徴とする防火シャッター。
【請求項3】
該耐火シートの左右両端部には係止部材を設けると共に、前記開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位を、耐火シートを受け入れる前記幅細部と該係止部材を受け入れる幅広部とからなる溝部から構成したことを特徴とする請求項1に記載の防火シャッター。
【請求項5】
耐火シートの下端には可撓性を有する座板を設け、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合に、全座板重量が挟まれた人体に作用しないようにしたことを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の防火シャッター。」


第4.当事者の主張
【1】審判請求書における請求人の主張及び証拠方法
請求人は、審判請求書において、「特許第3677615号の明細書記載の請求項1、2、3及び5に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の無効理由1,2を挙げ、本件の旧請求項1,2,3,5に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とされるべきでものであると主張している。
〔1〕無効理由1(特許法第29条の2)
本件の旧請求項1,2,5に係る発明は、本件出願の日前の他の先願であって本件出願後に公開された先願の当初明細書又は図面(甲第1号証)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許発明の発明者が上記先願の当初明細書又は図面に記載された発明の発明者と同一であるとも、また本件特許の出願の時の出願人が上記先願の出願人と同一ではないので、本件特許発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない発明であり、無効とすべきものである。(また、周知技術として、甲第2,4,6,7号証が提示されている。)

〔2〕無効理由2(特許法第29条第2項)
本件の旧請求項1,3,5に係る発明は、提示された文献(甲第2,3号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、無効とすべきものである。(また、周知技術として、甲第5,6,7号証が提示されている。)

〔3〕証拠方法
甲第1号証:特開平10-196247号公報(本件出願の日前の他の先願であって本件出願後に公開された先願である特願平9-5694号の当初明細書及び図面を掲載した公開公報)
甲第2号証:実願昭50-13169号(実開昭51-95245号)のマイクロフィルム
甲第3号証:特開平7-328138号公報
甲第4号証:特開平8-60953号公報
甲第5号証:特開平9-187524号公報
甲第6号証:特開平9-189176号公報
甲第7号証:実願平3-50907号(実開平5-24896号)のCD-ROM


【2】答弁書における被請求人の主張
被請求人は、訂正請求書及び答弁書を提出し、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、以下のように答弁している。
〔1〕無効理由1(特許法第29条の2)に対して
訂正後の請求項1,2,5に係る発明は、本件出願の日前の他の先願であって本件出願後に公開された先願の当初明細書又は図面に記載された発明と同一ではなく、本件特許発明は、特許法第29条の2の規定に該当せず、同法第123条第1項第2号の規定に該当しない。

〔2〕無効理由2(特許法第29条第2項)に対して
訂正後の請求項1,3,5に係る発明は、提示された文献に記載された内容に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定に該当せず、同法第123条第1項第2号の規定に該当しない。


【3】弁駁書における請求人の主張
被請求人の答弁書における主張には理由がなく、無効審判請求書で主張し、また本弁駁書で弁駁したとおり、請求項1,2,3,5に係る発明についての特許は、無効とすべきものである。


第5.当審の判断
【1】証拠の記載
A.本件出願の日前の他の先願であって本件出願後に公開された先願である特願平9-5694号の当初明細書及び図面を掲載した甲第1号証(特開平10-196247号公報)には、「避難路付きシャッター」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(a)「【請求項1】金属製シャッタースラットよりなるシャッターであって、前記シャッタースラットの一部が切除されて通行が可能な開口が形成されているとともに、該開口を覆う耐熱シートが通行が可能に取り付けられていることを特徴とする避難路付きシャッター。
【請求項2】前記耐熱シートは、前記シャッタースラットのほぼ全幅にわたるものであることを特徴とする請求項1に記載の避難路付きシャッター。
【請求項3】前記耐熱シートは、前記シャッタースラットの両面側に取り付けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の避難路付きシャッター。
【請求項4】金属製シャッタースラットよりなるシャッターであって、座板近傍位置と上部シャッタースラットとの間に通行が可能な重ね合わせ部分を有する耐熱シートが連結されていることを特徴とする避難路付きシャッター。・・・」(特許請求の範囲)
(b)「【従来の技術】ビルの店舗部分と階段部分との境や、上下階を通すように配設されたエスカレータの竪穴区画を囲む周囲には、防煙シャッター等の仕切りを設けることが建築基準法で規定されている。このような防煙区画の一部にシャッターを用いて、仕切りを構成する場合には、シャッターによって通路部分が閉鎖されると、避難のための通行ができなくなるので、建築基準法では、シャッターとは別に避難用の扉を付帯させることが規定されている。」(段落【0002】)
(c)「【発明の実施の形態】図1,図2は、本発明の第1の実施の形態を説明するためのもので、図1(A)は正面図、図1(B)は縦方向の断面図、図2は避難開口近傍の断面図である。図中、1はシャッタースラット、2はケース、3は避難開口、4は耐熱シート、5は板ばね、6はリベットである。図1(B)に示すように、シャッタースラット1は、例えば店舗部分を階段部分との境界の開口部分に配設され、ケース2内に設けられているドラムに巻き上げられて、開口部分を開放し、また、巻き降ろされて開口部分を閉鎖する。このシャッタースラット1の一部を切除して、避難開口3が開けられている。避難開口3は、例えば、高さが1800mm、幅が750mmである。耐熱シート4は、この例ではシャッタースラット1の店舗部分側に取り付けられ、シャッタースラット1との重なり部分が設けられるように避難開口3より大きく作られている。・・・」(段落【0014】)
(d)「耐熱シート4のシャッタースラット1への取付は、上部のみをシャッタースラット1に固定するのがよい。下部も固定すると、図のように、シャッタースラット1を巻き取った場合の外側になるように耐熱シート4がシャッタースラット1に取り付けられた場合は、直径差によって耐熱シート4に張力がかかるという問題がある。また、図と反対側の階段部分側、すなわち、シャッタースラット1を巻き取った場合の内側になるように耐熱シート4がシャッタースラット1に取り付けられた場合は、耐熱シート4にしわが生じ、昇降により、耐熱シート4が折られたり、摩耗が生じるという問題がある。したがって、耐熱シート4の上部のみをシャッタースラット1に固定しておくのがよい。」(段落【0016】)
(e)「図5は、本発明の第3の実施の形態を説明するためのもので、図5(A)は正面図、図5(B)は図5(A)のB-B線断面図、図5(C)は部分拡大図である。図中、図1と同様な部分には同じ符号を付して説明を省略する。耐熱シートの表面側に施した表示の一例である。図中、図1と同様の部分には同じ符号を付して説明を省略する。8は座板、9はガイドレールである。」(段落【0024】)
(f)「この実施の形態では、シャッタースラットの中間に耐熱シート4を連結したものである。一例では、座板8と最下端のシャッタースラット1との間に適当な高さ、例えば1800mmの耐熱シート4を連結した。耐熱シート4の両側の端部は、ガイドレール10に直接入り込んでいる。抜け止めの金具等を取り付けてもよい。耐熱シート4は、図5(B)に示すように、重なりをもたせて複数枚を横に配置するようにした。図では、3枚の耐熱シートを用いたが、2枚でもよく、シャッタースラットの幅によっては、4枚以上でもよい。この重なり部分を捲って出入口として避難することができる。」(段落【0025】)
(g)「上述した耐熱シートは、シリカクロス,ガラス繊維,カーボン繊維など、遮熱カーテン等に用いられる耐熱シートを用いることができる。・・・」(段落【0028】)
(h)「なお、上述した実施の形態では、防煙シャッターに用いるものとして説明したが、防火シャッターに適用してもよいことは勿論である。」(段落【0029】)

B.本願出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(実願昭50-13169号(実開昭51-95245号)のマイクロフィルム)には、「防煙を主とした防火シヤツター」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(a)「天袋(1)に巻取りして昇下降するシヤツターを利用し,足面から天井までの高さの半分上部をスチールシヤツター(2)にしたものと,2枚のゴムシート(3)に数個所相対する縦長の切目(4)を入れて,2枚の相対する切目(4)を若干づらせて切目(4)の部分を除いて2枚のゴムシート(3)を接着し,平織ワイヤーロープ(5)を縦に数本ゴムシート(3)の長さに合わせてゴムシート(3)の切目(4)と切目(4)の中間に配しゴムシート(3)ととめ合わせたものを,接続枠(6)でスチールシヤツター(2)の下端とゴムシート(3)の上端を接続しゴムシート(3)の下端にシヤツター枠(7)を装着する,又シヤツターレール(9)の高さの中間に溝の深さの半分位なシヤツター止め(8)を固着し,ゴムシート(3)シヤツター枠(7)よりなるゴムシート部の高さを足面からシヤツター止め(8)上面の高さより若干短めになし,ゴムシート部のシヤツター巾をシヤツターレール(9)のシヤツター止め(8)で浅くした巾に合わせてなる防煙を主とした防火シヤツター。」(実用新案登録請求の範囲)
(b)「本考案は,上半分をスチールシヤツター下半分をゴムシートとしてゴムシートに縦長の切目を入れたシヤツターに係るものである。」(明細書2頁5?7行)
(c)「・・・接続枠(6)でスチールシヤツター(2)の下端とゴムシート(3)の上端を接続しゴムシート(3)の下端にシヤツター枠(7)を装着する,又シヤツターレール(9)の高さの中間に溝の深さの半分位なシヤツター止め(8)を固着し,ゴムシート(3)シヤツター枠(7)よりなるゴムシート部の高さを足面からシヤツター止め(8)上面の高さより若干短めになしゴムシート部のシヤツター巾をシヤツターレール(9)のシヤツター止め(8)で浅くした巾に合わせてなる防煙を主とした防火シヤツター。」(明細書3頁6?15行)
(d)「・・・又ゴムシート(3)の上端はシヤツター止め(8)で止まつた接続枠(6)で下降せず,下端はシヤツター枠(7)の重さで引張られてゴムシート(3)は伸びており,ゴムシート(3)の切目(4)は2枚の切目(4)をづらして重なつているため互の切目(4)をふさぎ合い煙の通過が阻止される,又多少の火焔は上半分のスチールシヤツター(2)で防火される。」(明細書4頁2?9行)
(e)「本案は,ゴムシート部を応用して防火扉,防火壁,防煙カーテンにも使用できる。」(明細書4頁15?16行)

C.同じく、甲第3号証(特開平7-328138号公報)には、「耐火シート製巻取式可動たれ壁」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(a)「建物の天井部に配設した巻取り軸に防煙シートを巻上げ巻戻し自在に巻着し、シート左右の端縁部がガイドレールに挿入されて該レールに沿って防煙シートを昇降させるようにした巻取式可動たれ壁であって、防煙シートは、断熱、耐火性を有した巻き取り可能な可撓性シート材料をもって形成し、煙感知器または熱感知器の作動信号に基づいて開閉機のブレーキを開放し、防煙シートを自重で垂直に下降させて建物の開口部を半閉、または全閉あるいは予め設定された停止位置でシートを停止する操作回路と、該シートの位置を検出する検出器(リミットスイッチ)と、該検出器の検出信号に基づいて巻取り軸を制動する開閉機のブレーキとを具備したことを特徴とする巻取式可動たれ壁。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(b)「本発明は、・・・その目的とするところは、室内で火災が発生した場合に室内の煙感知器の作動に連動して可動たれ壁が天井面から下方に突出して、煙が他の隣接区域に移動ないし拡散するのを一時的にストップさせ、かつまた室内所要部の周辺温度が上昇した場合は、熱感知器の作動に連動しその可動たれ壁を床面に近接するまで降下して、火災側の熱及び煙が非火災側に移動するのを防ぎ、安全な防火並びに防煙区画を確保することができる巻取式可動たれ壁を提供するものである。」(段落【0007】)
(c)「【問題点を解決するための手段】上記目的を達成するために、この発明の可動たれ壁は、建物の天井部に配設した巻取り軸に防煙シートを巻上げ巻戻し自在に巻着し、シート左右の端縁部がガイドレールに挿入されて該レールに沿って防煙シートを昇降させるようにした巻取式可動たれ壁であって、防煙シートは、断熱、耐火性を有した巻き取り可能な可撓性シート材料をもって形成し、・・・防煙シートを自重で垂直に下降させて建物の開口部を半閉、全閉あるいは予め設定された停止位置でシートを停止する・・・ことを特徴としている。」(段落【0008】)
(d)「図面において、巻取り軸1は、建物の天井裏に配設した収納ケース2内に配設され、後記のように煙感知器等の作動に連動する開閉機のモーターを介して駆動輪及び従動輪をチェーンで作動して、巻取り軸1が回転するようになっている。」(段落【0012】)
(e)「防煙シート3は、断熱、耐火性を有した巻き取り可能な可撓性シートで構成され、シートの上部は巻取り軸1に巻き上げ、巻き戻し自在に取り付けられ、シートの下部には重錘の役目を果たす開口幅ほぼ一杯の幅を持つ座板4が固着されている。また、防煙シートの左右端縁部は、建物の開口部壁面に固定されているガイドレール5の溝に挿入して昇降するようになっている。なお本防煙シートのガイドレールは、従来の防可動たれ壁用レールと異なり、天井7から床面8まで設けられている。符号6は防煙シートの座板の上面両端よりに固定した係止金具を示し、ガイドレールの縦方向に設ける屈曲部5aと互いに係合しあって、シートが降下するとき或いは火災により生ずる風圧により防煙シートが煽られてガイドレールから脱離するのを防止する。なお前記脱離防止金具は図示実施例の位置以外に防煙シートの左右に、所定間隔に取り付けることができる。」(段落【0013】)
(f)「【発明の効果】本発明たる防煙たれ壁は、火災時の火熱に耐える耐火構造になっているうえ、火災時に床面に近接するまで降下するので、火災側の熱及び煙が非火災側に移動するのを防ぐことができる。すなわち建物内で火災が発生した場合に室内の煙感知器の作動に連動して可動たれ壁が天井面から下方に突出して、煙が他の隣接区域に移動ないし拡散するのを一時的にストップさせ、かつまた室内所要部の周辺温度が上昇した場合は、熱感知器の作動に連動しその可動たれ壁を床面に近接するまで降下して、火災側の熱及び煙が非火災側に移動するのを防ぎ、安全な防火並びに防煙区画を確保することができる。したがって火災側とその隣接空間(非火災側)への延焼・類焼を防ぐできることができるものである。その上本発明防煙たれ壁は、防火シャッターを併せ設ける場合に比較すると、設備費用が総体的に安くなるという効果がある。」(段落【0020】)

D.同じく、甲第4号証(特開平8-60953号公報)には、「シャッタースラットの成形方法」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(a)「アンコイラーから連続して繰り出される帯状鋼板をロール成形し、かつ所定長寸法に切断してインターロック結合部のあるシャッタースラットを成形するにあたり、帯状鋼板のインターロック結合相当部位における切断相当位置を切欠く切欠き工程の後、インターロック結合部の成形をするロール成形工程、所定長寸法の切断をする切断工程を経て成形するようにしたことを特徴とするシャッタースラットの成形方法。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(b)「【産業上の利用分野】本発明は、ビル等建築物の出入口、窓等の開口部の開閉をするための建築用シャッターのシャッターカーテンを構成するシャッタースラットの成形方法に関するものである。」(段落【0001】)

E.同じく、甲第5号証(特開平9-187524号公報)には、「延焼防止装置」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(a)「【請求項1】建物の天井付近に設置される巻取装置と、常には前記巻取装置に巻き取られ、火災の発生時には前記巻取装置から巻き解かれて建物の床付近まで垂らされるスクリーンとを備え、前記スクリーンがセラミックファイバーを主体とするヤーンで製織された不燃性織布よりなることを特徴とする延焼防止装置。
【請求項2】前記ヤーンが補強線状体で補強されたものである請求項1記載の延焼防止装置。」(特許請求の範囲)

F.同じく、甲第6号証(特開平9-189176号公報)には、「シャッタ用座板カバー」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(a)「【請求項1】シャッタの座板に装着される座板カバーであって、シャッタの座板とほぼ同じ長さに形成され、座板を覆う本体部と、本体部の下方に設けられ、長手方向にわたって、本体部から長手方向に交叉する方向に張り出した弾力性のある舌片と、を含むことを特徴とするシャッタ用座板カバー。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(b)「また、本発明の他の目的は、座板で頭をぶつけたときに、怪我をするおそれをなくすシャッタ用座板カバーを提供することである。」(段落【0006】)

G.同じく、甲第7号証(実願平3-50907号(実開平5-24896号)のCD-ROM)には、「電動シャッターの可撓性チューブ式座板スイッチ」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(a)「【産業上の利用分野】
本考案は、シャッターカーテンの最下部に設けられ障害物を検知する電動シャッターの可撓性チューブ式座板スイッチに関する。」(段落【0001】)
(b)「このゴムチューブ式座板スイッチ50は、密閉されたゴムチューブ52を座板54に固着することにより構成されおり、図6に示すように、ゴムチューブ52が障害物または床面56等に当たって変形すると、ゴムチューブ52の内部圧力が変化して、この圧力の変化をゴムチューブ52の一端部に配置された図示しない圧力感知センサーが感知し、駆動装置を停止させるようになっている。」(段落【0003】)


【2】無効理由1(特許法第29条の2)について
甲第1号証(特開平10-196247号公報)には、「避難路付きシャッター」に関して、上記【1】A.(a)?(h)の事項が記載されており、
そして、「シャッタースラット1」を巻き上げ巻き降ろし自在に設けた「ケース2」が「開口部分」の上方に設けられていること、「シャッタースラット1」と「耐熱シート4」とで「シャッターカーテン」が構成されていること、及び、「ガイドレール9」が「開口部分」の左右両側に立設されていることは明らかであるから、
これらの記載事項等及び図1?5の記載を含む甲第1号証全体の記載並びに当業者の技術常識によれば、甲第1号証には、以下の発明1,2が記載されているものと認められる。
1.「ビルの店舗部分と階段部分との境界の開口部分上方のケース2内に設けられたシャッターカーテンが、該開口部分の左右両側に立設したガイドレール9に案内されながら巻き降ろされて該開口部分を閉鎖する避難路付きシャッターにおいて、該シャッターカーテンは、上部の金属製シャッタースラット1と下部の耐熱シート4から構成され、前記下部の耐熱シート4の上端を、前記上部の金属製シャッタースラット1の下端に止着してなり、前記ガイドレール9には、抜け止めの金具等を取り付けた耐熱シート4の両側の端部が直接入り込んでおり、耐熱シート4の下端には座板8を設けた避難路付きシャッター。」(以下、「甲第1号証記載の発明1」という。)

2.「ビルの店舗部分と階段部分との境界の開口部分上方のケース2内に設けられたシャッターカーテンが、該開口部分の左右両側に立設したガイドレール9に案内されながら巻き降ろされて該開口部分を閉鎖する避難路付きシャッターにおいて、該シャッターカーテンは、金属製シャッタースラット1から成るシャッターカーテンの一部を切除して避難開口3を開け、耐熱シート4を、該避難開口3の直上に位置する金属製シャッタースラット1に固定することで構成した避難路付きシャッター。」(以下、「甲第1号証記載の発明2」という。)

〔1〕本件訂正発明1について
1.本件訂正発明1と甲第1号証記載の発明1との対比
本件訂正発明1と甲第1号証記載の発明1とを対比すると、甲第1号証記載の発明1の「ビルの店舗部分と階段部分との境界の開口部分上方のケース2内に設けられた」は本件訂正発明1の「建物開口部上方に収納された」に相当し、以下同様に、「開口部分」は「開口部」に、「ガイドレール9」は「ガイドレール」に、「巻き降ろされ」は「下降し」に、「閉鎖」は「全閉」に、「上部の金属製シャッタースラット1」は「カーテン上方部を占める金属製スラット」に、「下部の耐熱シート4」は「カーテン下方部を占める耐火シート」にそれぞれ相当し、
また、甲第1号証記載の発明1の「避難路付きシャッター」は、甲第1号証に「・・・防火シャッターに適用してもよいことは勿論である。」(記載事項(h))と記載されているので、本件訂正発明1の「防火シャッター」に相当し、
さらに、甲第1号証記載の発明1の「ガイドレール9には、抜け止めの金具等を取り付けた耐熱シート4の両側の端部が直接入り込んで」と本件訂正発明1の「ガイドレールには、開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成され」とは「ガイドレールには、耐火シートの両側の端部が受け入れられ」である点で技術的に共通するから、両者は、
「建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが、該開口部の左右両側に立設したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて、該シャッターカーテンは、カーテン上方部を占める金属製スラットとカーテン下方部を占める耐火シートから構成され、前記カーテン下方部を占める耐火シートの上端を、前記カーテン上方部を占める金属製スラットの下端に止着してなり、前記ガイドレールには、耐火シートの両側の端部が受け入れられる防火シャッター。」の点で一致する。
しかしながら、甲第1号証記載の発明1は、耐火シートの両側の端部が受け入れられるガイドレールの構成に関する、本件訂正発明1の「ガイドレールには、開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成され(ており、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、耐火シートを持ち上げることで脱出可能とし)」との構成を具えていないものである。
そして、このような構成は、甲第1号証記載の発明1に開示されているに等しいものであると云うことはできないから、本件訂正発明1を、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。

〔2〕本件訂正発明2について
1.本件訂正発明2と甲第1号証記載の発明2との対比
本件訂正発明2と甲第1号証記載の発明2とを対比すると、甲第1号証記載の発明2の「ビルの店舗部分と階段部分との境界の開口部分上方のケース2内に設けられた」は本件訂正発明2の「建物開口部上方に収納された」に相当し、以下同様に、「開口部分」は「開口部」に、「ガイドレール9」は「ガイドレール」に、「巻き降ろされ」は「下降し」に、「閉鎖」は「全閉」に、「避難路付きシャッター」は「防火シャッター」に、「耐熱シート4」は「耐火シート」に、「固定」は「締結」にそれぞれ相当し、
また、甲第1号証記載の発明2の「金属製シャッタースラット1」と本件訂正発明2の「鋼製スラット」とは「金属製スラット」である点で技術的に共通し、これに伴い、以下同様に、「金属製シャッタースラット1から成るシャッターカーテンの一部を切除して避難開口3を開け」と「鋼製スラットから成るシャッターカーテンの下端部より所定高さの部位を、幅方向両端部を所定幅残して除去して幅方向両端部に細幅状鋼製スラットを形成し」とは「金属製スラットから成るシャッターカーテンの所定高さの部位を、幅方向両端部を所定幅残して除去して幅方向両端部に細幅状金属製スラットを形成し」である点、「避難開口3」と「鋼製スラットを除去した部位」とは「金属製スラットを除去した部位」である点でそれぞれ技術的に共通するから、両者は、
「建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが、該開口部の左右両側に立設したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて、該シャッターカーテンは、金属製スラットから成るシャッターカーテンの所定高さの部位を、幅方向両端部を所定幅残して除去して幅方向両端部に細幅状金属製スラットを形成し、耐火シートを、該金属製スラットを除去した部位の直上に位置する金属製スラットに締結することで構成した防火シャッター。」の点で一致する。
そして、甲第1号証記載の発明2は、金属製スラット(金属製シャッタースラット1)から成るシャッターカーテンの所定高さの部位を幅方向両端部を所定幅残して除去して形成した幅方向両端部の細幅状金属製スラットが、金属製スラットからなるカーテン上方部の荷重を負担することができるものと一応推認できる。
しかしながら、甲第1号証記載の発明2は、甲第1号証の「耐熱シート4のシャッタースラット1への取付は、上部のみをシャッタースラット1に固定するのがよい。下部も固定すると、・・・シャッタースラット1を巻き取った場合の外側になるように耐熱シート4がシャッタースラット1に取り付けられた場合は、直径差によって耐熱シート4に張力がかかるという問題がある。また、・・・シャッタースラット1を巻き取った場合の内側になるように耐熱シート4がシャッタースラット1に取り付けられた場合は、耐熱シート4にしわが生じ、昇降により、耐熱シート4が折られたり、摩耗が生じるという問題がある。したがって、耐熱シート4の上部のみをシャッタースラット1に固定しておくのがよい。」(記載事項(d))との記載(図1,3,4を参照)をみると、金属製スラットを除去した部位の下方部にも、金属製スラットが存在しているものと思料されるから、本件訂正発明2の「鋼製スラットから成るシャッターカーテンの下端部より所定高さの部位を、幅方向両端部を所定幅残して除去して幅方向両端部に細幅状鋼製スラットを形成し」、「降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、耐火シートを持ち上げることで脱出可能とし」との構成を具えていないものである。
そして、このような構成は、シャッターの技術分野において、金属製スラットとして鋼製スラットが従来から周知の技術であると云うことができる(甲第2,4号証等を参照。)ものとしても、甲第1号証記載の発明2に開示されているに等しい構成であると云うことはできないから、本件訂正発明2を、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。

〔3〕本件訂正発明5について
本件訂正発明5は、本件訂正発明1又は本件訂正発明2を引用するものであるから、上記したように、本件訂正発明1,2の何れも、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものとすることはできないから、本件訂正発明5も同様に、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。

〔4〕まとめ
したがって、請求人の主張する無効理由1(特許法第29条の2)によっては、本件訂正発明1,2,5に係る本件特許を無効とすることはできない。


【3】無効理由2(特許法第29条第2項)について
A.甲第2号証記載の発明
甲第2号証(実願昭50-13169号(実開昭51-95245号)のマイクロフィルム)には、「防煙を主とした防火シヤツター」に関して、上記【1】B.(a)?(e)の事項が記載されており、
そして、「天袋(1)」が「建物開口部上方」に配されていること、「スチールシヤツター(2)」と「ゴムシート(3)」とで「シャッターカーテン」が構成されていること、「シヤツターレール(9)」が「(建物)開口部の左右両側に立設」され、当該「シヤツターレール(9)」により「天袋(1)に巻取りして昇下降するよう設けられたシャッターカーテン」が「案内されながら下降して開口部を全閉する」ものであること、及び、「接続枠(6)」が開口部全閉時において「シヤツター止め(8)」で止まるようにしたものであることは明らかであるから、
これらの記載事項等及び第1,2図の記載を含む甲第2号証全体の記載並びに当業者の技術常識によれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「建物開口部上方に配された天袋(1)に巻取りして昇下降するよう設けられたシャッターカーテンが、該開口部の左右両側に立設したシヤツターレール(9)に案内されながら下降して該開口部を全閉する防煙を主とした防火シヤツターにおいて、該シャッターカーテンは、足面から天井までの高さの上半分のスチールシヤツター(2)と足面から天井までの高さの下半分のゴムシート(3)から構成され、前記下半分のゴムシート(3)の上端を、前記上半分のスチールシヤツター(2)の下端に接続枠(6)で接続してなり、前記シヤツターレール(9)には、その高さの中間に溝の深さの半分位のシヤツター止め(8)を固着し、ゴムシート(3)及びシヤツター枠(7)からなるゴムシート部の高さを足面からシヤツター止め(8)上面の高さより若干短めになし、ゴムシート部のシヤツター巾をシヤツターレール(9)のシヤツター止め(8)で浅くした巾に合わせたものとし、開口部全閉時において、ゴムシート(3)の上端はシヤツター止め(8)で止まった接続枠(6)によりその位置よりも下降せず、下端はシヤツター枠(7)の重さで引張られて伸びるようにした防煙を主とした防火シヤツター。」(以下、「甲第2号証記載の発明」という。)

B.甲第3号証記載の発明
甲第3号証(特開平7-328138号公報)には、「耐火シート製巻取式可動たれ壁」に関して、上記【1】C.(a)?(f)の事項が記載されており、
そして、「符号6は防煙シートの座板の上面両端よりに固定した係止金具を示し、ガイドレールの縦方向に設ける屈曲部5aと互いに係合しあって、シートが降下するとき或いは火災により生ずる風圧により防煙シートが煽られてガイドレールから脱離するのを防止する。なお前記脱離防止金具は図示実施例の位置以外に防煙シートの左右に、所定間隔に取り付けることができる。」(記載事項(e))との記載を参照しつつ、図3をみると、「ガイドレール5」の縦方向に「屈曲部5a」を設けたことにより、開口部全閉時の「防煙シート3」に対応する部位における「ガイドレール5」の溝幅を狭めて「防煙シート3」の左右の端縁部を受け入れる「幅細部」が形成され、該「幅細部」の奥側に「防煙シート3」の左右両端部に設けた「係止金具6」を受け入れる「幅広部」が形成されていることは明らかであるから、
これらの記載事項等及び図1?3の記載を含む甲第3号証全体の記載並びに当業者の技術常識によれば、甲第3号証には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「建物開口部上方の天井部に配設した巻取り軸に巻上げ巻戻し自在に巻着した防煙シート3が、その左右の端縁部が該開口部の壁面の天井7から床面8にかけて設けられたガイドレール5に挿入されてこれに沿って下降して該開口部を全閉する巻取式可動たれ壁において、該防煙シート3は、断熱、耐火性を有した巻き取り可能な可撓性シート材料から構成され、前記ガイドレール5には、開口部全閉時において該防煙シート3に対応する部位の溝幅を狭めて幅細部が形成されており、該防煙シート3の左右両端部には係止金具6を設けると共に、前記開口部全閉時において該防煙シート3に対応する部位を、防煙シート3を受け入れる前記幅細部と該係止金具6を受け入れる幅広部とからなる溝部から構成して、防煙シート3が降下するとき或いは火災により生ずる風圧により防煙シート3が煽られてガイドレール5からの脱離を防止するようにし、さらに、防煙シート3の下端には座板4を設け、火災側の熱及び煙が非火災側に移動するのを防ぎ安全な防火並びに防煙区画を確保することができる巻取式可動たれ壁。」(以下、「甲第3号証記載の発明」という。)

〔1〕本件訂正発明1について
1.本件訂正発明1と甲第2号証記載の発明との対比
本件訂正発明1と甲第2号証記載の発明とを対比すると、甲第2号証記載の発明の「建物開口部上方に配された天袋(1)に巻取りして昇下降するよう設けられた」は本件訂正発明1の「建物開口部上方に収納された」に相当し、以下同様に、「シヤツターレール(9)」は「ガイドレール」に、「足面から天井までの高さの上半分の」は「カーテン上方部を占める」に、「足面から天井までの高さの下半分の」は「カーテン下方部を占める」に、「接続枠(6)で接続」は「止着」に、それぞれ相当し、
また、甲第2号証記載の発明の「スチールシヤツター(2)」は、複数のスラットを接続して形成されたものであることが当業者の技術常識からみて明らかであるので、本件訂正発明1の「金属製スラット」に相当し、
さらに、甲第2号証記載の発明の「ゴムシート(3)」,「防煙を主とした防火シヤツター」と、本件訂正発明1の「耐火シート」,「防火シャッター」とは、「シート」,「防火シャッター」である点でそれぞれ技術的に共通し、
そして、甲第2号証記載の発明の「シヤツターレール(9)には、その高さの中間に溝の深さの半分位のシヤツター止め(8)を固着し」と、本件訂正発明1の「ガイドレールには、開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成され」とは、「ガイドレールには、開口部全閉時において金属製スラットが当接して該シートに対応する部位への該金属製スラットの下降を阻止するストッパが形成され」である点で技術的に共通するから、
両者は、
「建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが、該開口部の左右両側に立設したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて、該シャッターカーテンは、カーテン上方部を占める金属製スラットとカーテン下方部を占めるシートから構成され、前記カーテン下方部を占めるシートの上端を、前記カーテン上方部を占める金属製スラットの下端に止着してなり、前記ガイドレールには、開口部全閉時において金属製スラットが当接して該シートに対応する部位への該金属製スラットの下降を阻止するストッパが形成された防火シャッター。」の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
カーテン下方部を占めるシートの構成に関して、本件訂正発明1が、「耐火シート」であるのに対し、甲第2号証記載の発明は、「ゴムシート」であって、それが耐火性を具えたものであるのか否か定かでない点。
<相違点2>
ストッパの構成に関して、本件訂正発明1が、「ガイドレールには、開口部全閉時において耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成され」てなるのに対し、甲第2号証記載の発明は、ガイドレール(シヤツターレール)の高さの中間に「溝の深さの半分位のシヤツター止め」を固着してなるものである点。
<相違点3>
防火シャッターの構成に関して、本件訂正発明1が、「降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、耐火シートを持ち上げることで脱出可能とした」のに対し、甲第2号証記載の発明は、そのような「防火シヤツター」であるのか否か定かでない点。

2.相違点の検討・判断
<相違点1について>
甲第2号証記載の発明のシート(ゴムシート)はその上方の金属製スラット(スチールシヤツター)とともに防火シャッター(防火シヤツター)を構成するものであり、しかも、甲第2号証に「ゴムシート部を応用して防火扉,防火壁,防煙カーテンにも使用できる」(記載事項(e))と記載されていることからすると、当該シートについては、特に耐火性能について明記されていなくとも、耐火性能について全く考慮しないことはおおよそありえず、耐火性能を具えることが好ましいことは明らかであって、少なくとも、耐火性能を具えるものであることを示唆するものと思料されるから、
相違点1として摘記した本件訂正発明1の構成の点において、甲第2号証記載の発明と本件訂正発明1との間に実質的な差異はないものと云わざるをえない。

尚、被請求人は、「甲第2号証は、『防煙を主とした防火シャッターであり』、『多少の火焔は上半分のスチールシャッターで防火される』と記載されていることから、・・・下半分のゴムシートが耐火性を備えていること示唆しているとは言えない。むしろ、『多少の火焔は上半分のスチールシャッターで防火される』という記載からは、下半分のゴムシートにおいては、耐火性能を犠牲にしても、『開口部全閉状態における人の通り抜け』及び『開口部全閉状態における防煙並びに通り抜け後の防煙』を優先していると読み取ることができる。」(答弁書13頁5?13行)と主張しているが、
甲第2号証記載の発明が、「耐火性能を犠牲にして」、下半分のゴムシートに「切れ目」を設けることによる「開口部全閉状態における人の通り抜け」及び「開口部全閉状態における防煙並びに通り抜け後の防煙」を優先するものであって、そのために、下半分のゴムシートが伸縮性を備えていることが必須であるとしても、伸縮性のあるゴムシートを使用することを以て、これが直ちに、耐火性能のある材料をゴムシートに使用することを排除することにはならないものと思料されるから、上記のような被請求人の主張は採用できない。

ところで、仮に、相違点1として摘記した本件訂正発明1の構成の点において、甲第2号証記載の発明と本件訂正発明1との間に実質的な差異はないものと直ちに云うことができないとしても、甲第3号証には、上記【3】B.に摘示したとおりの発明(甲第3号証記載の発明)が記載されており、
ここにおいて、甲第3号証記載の発明の「建物開口部上方の天井部に配設した巻取り軸に巻上げ巻戻し自在に巻着した防煙シート3」は本件訂正発明1の「建物開口部上方に収納されたシャッターカーテン」に相当し、以下同様に、「その左右の端縁部が該開口部の壁面の天井7から床面8にかけて設けられたガイドレール5に挿入されてこれに沿って」は「該開口部の左右両側に立設したガイドレールに案内されながら」に、「防煙シート3」は「シャッターカーテン」或いは「耐火シート」に、「断熱、耐火性を有した巻き取り可能な可撓性シート材料」は「耐火シート」にそれぞれ相当し、
また、甲第3号証記載の発明の「巻取式可動たれ壁」は、甲第3号証に「火災時の火熱に耐える耐火構造になっているうえ、火災時に床面に近接するまで降下するので、火災側の熱及び煙が非火災側に移動するのを防ぐことができる。すなわち建物内で火災が発生した場合に室内の煙感知器の作動に連動して可動たれ壁が天井面から下方に突出して、煙が他の隣接区域に移動ないし拡散するのを一時的にストップさせ、かつまた室内所要部の周辺温度が上昇した場合は、熱感知器の作動に連動しその可動たれ壁を床面に近接するまで降下して、火災側の熱及び煙が非火災側に移動するのを防ぎ、安全な防火並びに防煙区画を確保することができる。したがって火災側とその隣接空間(非火災側)への延焼・類焼を防ぐできることができるものである。」(記載事項(f))と記載されているので、本件訂正発明1の「防火シャッター」に相当し、
これによれば、甲第3号証記載の発明には、少なくとも、「建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが、該開口部の左右両側に立設したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて、該シャッターカーテンは、耐火シートから構成され、前記ガイドレールには、開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて幅細部が形成された防火シャッター。」との技術が開示されていて、シャッターカーテンに耐火シートを用いることが、防火シャッターの技術分野において公知の技術と云うことができるから、
甲第2号証記載の発明のシートの構成については、上記したように、特に耐火性能について明記されていなくとも、耐火性能について全く考慮しないことはおおよそありえず、耐火性能を具えることが好ましいことは明らかであり、少なくとも、耐火性能を具えるものであることを示唆するものと思料されるから、当該シートの構成に、甲第3号証記載の発明に開示された上記公知の技術を適用して、相違点1として摘記した本件訂正発明1の「耐火シート」とする構成を想起することは、当業者が格別の技術的困難性を要することなく容易になしえたものと云わざるをえない。

尚、被請求人は、甲第2号証記載の発明への甲第3号証記載の発明に開示された公知の技術の適用について、「甲第2号証の図1に記載されたようなスリットを備えたシャッターカーテンを当業者が見たときに、下半分のゴムシートを甲第2号証(当審注:甲第3号証の誤り。)に記載されているような、耐火シートに置き換えることには容易には到達しないものである。」(答弁書13頁22?25行)と主張し、「甲第2号証の切れ目を備えたゴムシートに、甲第3号証に記載された耐火シートを置き換えることには阻害要因があり」(答弁書14頁1?2行)と主張しているが、「甲第2号証についてはあくまでも切れ目の機能のみに着目し、甲第3号証記載の耐火シートに換えてもその機能は維持されなくてはならないという前提に基づいて」(請求人の主張:弁駁書12頁22?24行)なされたものであると認められ、また、上記したように、伸縮性のあるゴムシートを使用することにより、これが直ちに、耐火性能のある材料を使用することを排除することにはならないものと思料されるから、
このような被請求人の主張よっては、請求人の、「甲第2号証のシートは、耐火性であることは示唆されており、しかも、甲第2号証記載の発明と甲第3号証記載の発明は共通の技術分野であるから、これらの点が起因乃至契機(動機付け)となり、甲第3号証記載の耐火性を有し巻き取り可能な防煙シートの材料を甲第2号証のシート部の材料に換えて用い、請求項1に係る発明の構成要件B(当審注:「・・・において、」以降、「防火シャッター。」以前の構成)のような構成とすることは、当業者が容易に想到できたものであると思料する。」(審判請求書17頁20?26行)との主張、及び、「甲第2号証には、防火シャッターにおけるスチールシャッターの下端に耐火性を示唆するシートが取付られた構成が記載されており、このシートを防火、防煙という点で、甲第2号証記載の防火シャッターと共通の技術分野に属する甲第3号証記載の耐火シートで換えて用いれば容易に想到できる」(弁駁書12頁25行?13頁4行)との主張を覆すまでには至らないものであり、上記のような被請求人の主張は採用できない。

<相違点2について>
相違点2について検討するために、甲第3号証をみると、甲第3号証記載の発明は、上記【3】B.に摘示したとおりのものであって、当該甲第3号証記載の発明には、上記<相違点1について>の項で述べたように、少なくとも、「建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが、該開口部の左右両側に立設したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて、該シャッターカーテンは、耐火シートから構成され、前記ガイドレールには、開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて幅細部が形成された防火シャッター。」との技術が開示されているものと認められ、
これによれば、前記ガイドレールの幅細部は、シャッターカーテンの全下降経路である天井から床面にかけて設けられるものではあるものの、開口部全閉時において耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて幅細部を形成することが、防火シャッターの技術分野において公知の技術と云うことができる。
そして、甲第3号証記載の発明は、「防煙シート3を受け入れる前記幅細部と該係止金具6を受け入れる幅広部とからなる溝部から構成して、防煙シート3が降下するとき或いは火災により生ずる風圧により防煙シート3が煽られてガイドレール5からの脱離を防止するようにし」、また、「火災側の熱及び煙が非火災側に移動するのを防ぎ安全な防火並びに防煙区画を確保することができる」ものであり、ガイドレールの幅細部の構成により、防煙シートの幅方向両端の気密性(防煙性)を向上させるものと云うことができる(尚、本件明細書中には、耐火シートの幅方向両端の気密性(防煙性)を向上させる旨の記載はない。)から、
甲第2号証記載の発明における「シヤツターレール」(ガイドレール)の高さの中間に固着した「溝の深さの半分位のシヤツター止め」(金属製スラットのシートに対応する部位への下降を阻止するストッパ)の下方部における構成、即ち、開口部全閉時におけるシートに対応する部位の構成に、甲第3号証記載の発明に開示された上記公知の技術を適用し、その際に、幅細部を金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有するものとして形成して、上記相違点2として摘記した本件訂正発明1の「ガイドレールには、開口部全閉時において耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成され」との構成を想起することは、当業者が格別の技術的困難性を要することなく容易になしえたものと云わざるをえない。

<相違点3について>
甲第2号証記載の発明の「防火シヤツター」は、上記【3】A.に摘示したとおりのもの、即ち、「シヤツターレール(9)には、その高さの中間に溝の深さの半分位のシヤツター止め(8)を固着し、ゴムシート(3)及びシヤツター枠(7)からなるゴムシート部の高さを足面からシヤツター止め(8)上面の高さより若干短めになし、ゴムシート部のシヤツター巾をシヤツターレール(9)のシヤツター止め(8)で浅くした巾に合わせたものとし、開口部全閉時において、ゴムシート(3)の上端はシヤツター止め(8)で止まった接続枠(6)によりその位置よりも下降せず、下端はシヤツター枠(7)の重さで引張られて伸びるようにした」ものであって、開口部全閉時においては、「スチールシヤツター」(金属製スラット)による荷重が「シヤツター止め」により支えられるものであることからすると、万が一、人間が降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、シャッターカーテン全体の重量が加わらずに、「ゴムシート及びシヤツター枠からなるゴムシート部」の重量のみが加わることになることは明らかであるので、
本件訂正発明1と同様、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、「ゴムシート及びシヤツター枠からなるゴムシート部」を持ち上げることで脱出可能なものと思料されるから、上記相違点3として摘記した本件訂正発明1の構成の点において、甲第2号証記載の発明と本件訂正発明1との間に実質的な差異はないものと云わざるをえない。

ところで、仮に、相違点3として摘記した本件訂正発明1の構成の点において、甲第2号証記載の発明と本件訂正発明1との間に実質的な差異はないものと直ちに云うことができないとしても、
降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合において、錘(座板)とともにカーテンを持ち上げることで脱出可能になるようにしたものは、例えば、特開平9-203281号公報(段落【0017】に、出火時にシャッターが閉じて逃げ遅れた場合にも降下した遮蔽幕13を人手にて持ち上げて逃げ出すことができる旨記載されている。),特開平7-259454号公報(段落【0011】,【0018】に、火災発生時に垂壁3を封鎖した状態にあっても垂壁3の柔軟性及び軽量性により被災者が自力で容易に押し上げて避難することができる旨記載されている。)等に示されているように、シート状のシャッターカーテンを使用する防火シャッターの技術分野において従来から周知の技術と云うことができるから、
甲第2号証記載の発明の防火シャッターの構成について、上記のような周知の技術を考慮すれば、相違点3として摘記した本件訂正発明1の「降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、耐火シートを持ち上げることで脱出可能とした」とする構成を想起することは、当業者が格別の技術的困難性を要することなく容易になしえたものと云わざるをえない。

3.作用効果
そして、本件訂正発明1の奏する作用効果についてみても、甲第2号証記載の発明及び甲第3号証記載の発明に開示された公知の技術並びに防火シャッターの技術分野における周知の技術から予測可能なものであり、格別なものとはいえない。

〔2〕本件訂正発明3について
1.本件訂正発明3と甲第2号証記載の発明との対比
本件訂正発明3と甲第2号証記載の発明とを対比すると、本件発明3は本件訂正発明1を引用するものであり、本件訂正発明1の構成に、「耐火シートの左右両端部には係止部材を設けると共に、開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位を、耐火シートを受け入れる幅細部と該係止部材を受け入れる幅広部とからなる溝部から構成した」との構成を付加したものであるから、両者は、上記〔1〕1.で挙げた本件訂正発明1と甲第2号証記載の発明との一致点の点で一致するとともに相違点1?3の点で相違し、さらに、次の点で相違する。
<相違点4>
シート及び開口部全閉時において該シートに対応する部位の構成に関して、本件訂正発明3が「耐火シートの左右両端部には係止部材を設けると共に、開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位を、耐火シートを受け入れる幅細部と該係止部材を受け入れる幅広部とからなる溝部から構成した」のに対し、甲第2号証記載の発明は「ゴムシート」の左右両端部に係止部材を設けておらず、開口部全閉時において該「ゴムシート」に対応する部位(「シヤツターレール」の下部)を幅細部と幅広部とからなる溝部から構成していない点。

2.相違点の検討・判断
相違点1?3については、上記〔1〕2.で検討したとおりであるから、以下、相違点4についてのみ検討する。
<相違点4について>
甲第3号証には、上記【3】B.に摘示したとおりの発明(甲第3号証記載の発明)が記載されており、
ここにおいて、上記〔1〕2.<相違点1について>で述べた、甲第3号証記載の発明と本件訂正発明1との部材・部位についての相当関係に加えて、さらに、甲第3号証記載の発明の「係止金具6」は本件訂正発明3の「係止部材」に相当し、
したがって、甲第3号証記載の発明には、少なくとも、「建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが、該開口部の左右両側に立設したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて、該シャッターカーテンは、耐火シートから構成され、前記ガイドレールには、開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて幅細部が形成された防火シャッター」において、「該耐火シートの左右両端部には係止部材を設けると共に、前記開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位を、耐火シートを受け入れる前記幅細部と該係止部材を受け入れる幅広部とからなる溝部から構成した防火シャッター。」との技術が開示されているものと認められ、
これによれば、耐火シートの左右両端部に係止部材を設けると共に、開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位を、耐火シートを受け入れる幅細部と該係止部材を受け入れる幅広部とからなる溝部から構成することが、シャッターカーテンに耐火シートを用いた防火シャッターの技術分野において公知の技術と云うことができるから、
甲第2号証記載の発明の「ゴムシート」及び開口部全閉時においての該「ゴムシート」に対応する部位(「シヤツターレール」の下部)の構成について、甲第3号証記載の発明に開示された上記公知の技術を適用して、上記相違点4として摘記した本件訂正発明3の「耐火シートの左右両端部には係止部材を設けると共に、開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位を、耐火シートを受け入れる幅細部と該係止部材を受け入れる幅広部とからなる溝部から構成した」との構成を想起することは、当業者が格別の技術的困難性を要することなく容易になしえたものと云わざるをえない。

3.作用効果
そして、本件訂正発明3の奏する作用効果についてみても、甲第2号証記載の発明及び甲第3号証記載の発明に開示された公知の技術並びに防火シャッターの技術分野における周知の技術から予測可能なものであり、格別なものとはいえない。

〔3〕本件訂正発明5について
1.本件訂正発明5と甲第2号証記載の発明との対比
本件訂正発明5と甲第2号証記載の発明とを対比すると、本件訂正発明5は本件訂正発明1を引用し、或いは、本件訂正発明3を引用して本件訂正発明1を引用するものであり、本件訂正発明1の構成、或いは、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明3の構成に、「耐火シートの下端には可撓性を有する座板を設け、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合に、全座板重量が挟まれた人体に作用しないようにした」との構成を付加したものであるから、両者は、上記〔1〕1.で挙げた本件訂正発明1と甲第2号証記載の発明との一致点の点で一致するとともに相違点1?3の点で相違し、或いは、上記〔2〕1.で挙げた本件訂正発明3と甲第2号証記載の発明との一致点の点で一致するとともに相違点1?4の点で相違し、さらに、次の点で相違する。
<相違点5>
シート下端の構成に関して、本件訂正発明5が「耐火シートの下端には可撓性を有する座板を設け、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合に、全座板重量が挟まれた人体に作用しないようにした」のに対し、甲第2号証記載の発明は「ゴムシート」の下端に「シヤツター枠」(座板)が設けられているものの、それが、可撓性を有するものであるのか否か、また、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合に、「シヤツター枠」の全重量が挟まれた人体に作用しないようにしたものであるのか否か定かでない点。

2.相違点の検討・判断
相違点1?3については、上記〔1〕2.で検討したとおりであり、相違点4については、上記〔2〕2.で検討したとおりであるから、以下、相違点5についてのみ検討する。
<相違点5について>
シャッターカーテンの下方に挟まれた場合の不都合を回避することを直接の目的としていないものの、シート状のシャッターカーテンの下端に可撓性を有する錘(座板)を設けることは、例えば、特開平9-203281号公報(耐火クロースからなる遮蔽幕13の下端に袋状部13cを形成し、該袋状部13cに重錘17となる砂や鉄粉をそのまま詰め或いは袋に砂や鉄粉を詰めた重錘17を挿入した防火又は防煙防火シャッターの技術が記載されている。),特開平9-268864号公報(シャッターカーテン6の下端にくさり等の可撓性を有する錘13を設けた防火用シートシャッターの技術が記載されている。)等に示されているように、防火シャッターの技術分野において従来から周知の技術であると云うことができるから、
甲第2号証記載の発明における「ゴムシート」の下端に設けた「シヤツター枠」の構成について、上記防火シャッターの技術分野において従来から周知の技術を適用して、上記相違点5として摘記した本件訂正発明5の「耐火シートの下端には可撓性を有する座板を設け」との構成、及び、該構成に伴って必然的に備わるものと云える「降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合に、全座板重量が挟まれた人体に作用しないようにした」との構成を想起することは、当業者が格別の技術的困難性を要することなく容易になしえたものと云わざるをえない。

3.作用効果
そして、本件訂正発明5の奏する作用効果についてみても、甲第2号証記載の発明及び甲第3号証記載の発明に開示された公知の技術並びに防火シャッターの技術分野における周知の技術から予測可能なものであり、格別なものとはいえない。

〔4〕まとめ
したがって、本件訂正発明1,3,5は、甲第2号証記載の発明及び甲第3号証記載の発明に開示された公知の技術並びに防火シャッターの技術分野における周知の技術から、何れも、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。


第6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1(特許法第29条の2)によっては、本件訂正発明1,2,5に係る本件特許を無効とすることはできないが、請求人の主張する無効理由2(特許法第29条第2項)により、本件訂正発明1,3,5に係る本件特許は無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、その4分の1を請求人が負担すべきものとし、その4分の3を被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
防火シャッター
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが、該開口部の左右両側に立設したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて、該シャッターカーテンは、カーテン上方部を占める金属製スラットとカーテン下方部を占める耐火シートから構成され、前記カーテン下方部を占める耐火シートの上端を、前記カーテン上方部を占める金属製スラットの下端に止着してなり、前記ガイドレールには、開口部全閉時において該耐火シ-トに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成されており、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、耐火シートを持ち上げることで脱出可能としたことを特徴とする防火シャッター。
【請求項2】
建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが、該開口部の左右両側に立設したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて、該シャッターカーテンは、鋼製スラットから成るシャッターカーテンの下端部より所定高さの部位を、幅方向両端部を所定幅残して除去して幅方向両端部に細幅状鋼製スラットを形成し、耐火シートを、該鋼製スラットを除去した部位の直上に位置する鋼製スラットに締結することで構成し、耐火シートの左右両端側に設けた前記細幅状鋼製スラットに鋼製スラットからなるカーテン上方部の荷重を負担させ、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、耐火シートを持ち上げることで脱出可能としたことを特徴とする防火シャッター。
【請求項3】
該耐火シートの左右両端部には係止部材を設けると共に、前記開口部全閉時において該耐火シ-トに対応する部位を、耐火シートを受け入れる前記幅細部と該係止部材を受け入れる幅広部とからなる溝部から構成したことを特徴とする請求項1に記載の防火シャッター。
【請求項4】
シャッターカーテン自重降下時に、最下位にある金属製スラットが該幅細部の上端に当接することで金属製スラットからなるカーテン上方部の荷重をガイドレールが負担するようにしたことを特徴とする請求項3に記載の防火シャッター。
【請求項5】
耐火シートの下端には可撓性を有する座板を設け、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合に、全座板重量が挟まれた人体に作用しないようにしたことを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の防火シャッター。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は防火シャッターに係り、詳しくは、万が一人間が下降するシャッターカーテンと床面との間に挟まれたような場合であっても、自力で脱出することができるような防火シャッターに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ビル等の建物に設置が義務づけられている防火シャッターは、煙感知器や熱感知器等の感知手段と自動閉鎖装置を備えており、感知手段からの火災発生信号によって防火シャッターを自動的に閉鎖して、火災による熱気流や煙の拡散を遮断して延焼を防止している。そして、防火シャッターのシャッターカーテンには耐火性が要求されることから、防火シャッターのシャッターカーテンは一般にスチ-ル等の金属製のスラットから形成されている。
【0003】
しかしながら、このような金属製スラットからなる重量のあるシャッターカーテンが自重降下した場合には、相当の荷重がシャッターカーテンの最下端に設けた座板に作用するため、逃げ遅れやアクシデント等によって万が一人間が降下するシャッターカーテンの下に挟まれた場合についても考慮することが望ましい。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した課題に対応するべく創案されたものであって、万が一人間が下降するシャッターカーテンと床面との間に挟まれたような場合であっても、自力で脱出することができるような防火シャッターを提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明が採用した技術手段は、建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが、該開口部の左右両側に立設したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて、該シャッターカーテンは、カーテン上方部を占める金属製スラットとカーテン下方部を占める耐火シートから構成され、前記カーテン下方部を占める耐火シートの上端を、前記カーテン上方部を占める金属製スラットの下端に止着してなり、前記ガイドレールには、開口部全閉時において該耐火シ-トに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成されており、降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、耐火シートを持ち上げることで脱出可能としたことを特徴とするものである。本発明が採用した他の技術手段では、シャッターカーテンは、鋼製スラットから成るシャッターカーテンの下端部より所定高さの部位を、幅方向両端部を所定幅残して除去して幅方向両端部に細幅状鋼製スラットを形成し、耐火シートを、該鋼製スラットを除去した部位の直上に位置する鋼製スラットに締結することで構成されている。このものでは、開口部全閉時には、耐火シートの左右両端側に設けた細幅状鋼製スラットが鋼製スラットからなるカーテン上方部の荷重を負担する。
【0006】
すなわち、開口部の全閉時においてシャッターカーテンの下端部より所定高さまでの面域の少なくとも主要面域を可撓性を有する耐火シ-トで形成することで、万が一降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、耐火シ-トがクッションの役割をし、耐火シ-トを持ち上げることで脱出することができる。耐火シ-トは必ずしもシャッターカーテン幅方向の全体に渡って設けなくてもよく、幅方向の大部分を占めるように設けてあればよいが、好ましくは幅方向全体を可撓性、柔軟性を有する耐火シ-トで形成するのがよい。
【0007】
耐火シ-トは、耐火性能が良好であり、かつ可撓性を有するものであればよく、例えば、布(シリカクロス)、金属薄板、金属箔等から形成される。また、シャッターカーテンの最下端にはシャッターカーテンの自重降下を促すために座板が設けられるが、鋼製一本物の座板に代えて、チェ-ン座板や砂袋座板等の可撓性を有する座板を採用することで、脱出をさらに容易にすることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。本発明に係る防火シャッターは、既設の金属製スラットからなる防火シャッターの改修として採用されることが期待されるものであり、実施の形態では、特に、既設の防火シャッターの改修作業との関連において説明する。もっとも、本発明に係る防火シャッターは既設の防火シャッターの改修作業にのみ用いられるものではない。
【0009】
図1は既設の防火シャッターの概略側面図および既設のガイドレ-ルの断面図を示しており、建物開口部の上方の天井内に設けたシャッターケ-ス1内には巻取シャフト2が開口部幅方向に延設かつ支持されており、巻取シャフト2には鋼製スラット3aを上下方向にインタ-ロック連結してなるシャッターカーテン3の上端部が止着されている。シャッターカーテン3は常時は巻取シャフト2に巻装された状態で開口部上方の天井内に納まっており、感知手段からの火災発生信号によって自動閉鎖装置が作動し、シャッターカーテン3の下端部に設けた座板4の重さを助けに、シャッターカーテン3の幅方向左右両端部がガイドレ-ル5の溝部に案内されながら自動的に下降して開口部を区画するようになっている。また、まぐさ部の一側には遮煙部材6が設けてあり、開口部全閉時において遮煙部材6が常時シャッターカーテン3の一側に当接することでシャッターケ-ス1内を介しての煙の拡散を防止している。
【0010】
図2、図3は本発明の第一の実施の形態に係り、図2は本発明に係る(改修後の)シャッターの概略側面図およびガイドレ-ルの断面図を示している。シャッターカーテン30は、その上方部が鋼製スラット3aから構成されていると共に、その下方部は耐火シ-ト7から構成されており、耐火シ-ト7の下端には座板40が設けてある。耐火シ-ト7の上端は、シャッターカーテン幅方向に延出するフラットバ-8を介して、シャッターカーテン上方部の下端の鋼製スラット3aに止着されている。フラットバ-8はスラット3aの凹部内(見込内)に配設してあり、フラットバ-8の長さ方向両端が良好にガイドレ-ル5内にまで延出できるようになっている。
【0011】
耐火シ-ト3からなるシャッターカーテン下方部の幅方向左右両端には上下方向に所望間隔を存して複数の係止部材9が設けてある。ガイドレ-ル5の耐火シ-ト7(シャッターカーテン下方部)に対応する部位には第二ガイドレ-ル部材50が設けてあり、既設のガイドレ-ル5の溝幅を狭めるようにしている。第二ガイドレ-ル部材50によって形成される溝部は、耐火シ-ト7を受け入れる幅細部50aと係止部材9を受け入れる幅広部50bとから構成されており、係止部材9を幅細部50aより大きな寸法に形成することで、耐火シ-ト7の抜けを防止してる。また、第二ガイドレ-ル部材50の上端縁をシャッターカーテン上方部の下端の鋼製スラット3aのストッパとして機能させてもよい。
【0012】
図3は改修作業の手順を示す図であって、(a)に示す鋼製シャッターにおいて、(b)鋼製スラット3aからなるシャッターカーテン3の一部を裁断して取り外す工程、(c)鋼製スラットを取り除いた部位に耐火シ-ト7を取り付ける工程、(d)耐火シ-ト7の下端に座板40を取り付ける工程、(e)耐火シ-ト7に対応する部位に第二ガイドレ-ル部材50を付加する工程とからなる。
【0013】
第一の実施の形態のものでは、開口部全閉時において、開口部高さの大部分を耐火シ-ト7が占めるように構成されており、シャッターカーテン30が吊られた状態となり、耐火シ-ト7がクッションの役目をする。したがって、従来の鋼製スラットからなる防火シャッターに比べて、座板40を含めたシャッターカーテン全体が軽量となり、万が一シャッターカーテンの下方に人間が挟まれた場合であっても、自力で脱出することができる。
【0014】
図4は本発明の第二の実施の形態に係り、改修作業は、▲1▼既設の鋼製スラット3aからなるシャッターカーテン3の下端の座板4を取り外す工程、▲2▼既設のガイドレ-ル5に対してストッパを兼ねる第二ガイドレ-ル部材50を取り付ける工程、▲3▼座板40を備えてなる耐火シ-ト7を鋼製スラット3aからなるシャッターカーテン3の下端に締結する工程とからなる。
【0015】
図4に示すものが第一の実施の形態と大きく異なる点は、座板4を取り外すだけで、既設のシャッターカーテン3をそのまま利用するという点にある。第二ガイドレ-ル部材50は、開口部下端から所定高さH(例えば1m)までに延出するように設けられ、その基本的な構成は第一の実施の形態と同様である。第二ガイドレ-ル部材50によって既存のガイドレ-ル5内に形成される幅細部50aは鋼製スラット3aの厚さよりも小さい寸法を有する。また、耐火シ-ト7は所定高さHに対応する上下寸法を有する。
【0016】
したがって、シャッターカーテン3の自重降下時には、鋼製スラット3aの下端が第二ガイドレ-ル部材50の上端縁に当接することで、それより下方に降下することがなく、一方、座板40を備えた耐火シ-ト7は第二ガイドレ-ル部材50によって形成された溝部に案内されながら床面まで降下する。自重降下時の鋼製スラット3aによる荷重は第二ガイドレ-ル部材50が支えるため、万が一人間が降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても、座板重量の負担だけで済むので、自力で脱出することができる。座板40を金属チェ-ンや砂袋から構成すれば、全座板重量が挟まれた人体に作用することもなくなる。
【0017】
図5は本発明の第三の実施の形態に係り、改修作業は、▲1▼既設の鋼製スラット3aからなるシャッターカーテン3の座板4を取り外す工程、▲2▼シャッターカーテン3の下端部より所定高さの部位を、幅方向両端部を所定幅残して切断除去し、端部残部スラット部10に端金物11を取り付けることで切断したスラットのずれ止めをする工程、▲3▼鋼製スラットを切断除去した部位に耐火シ-ト7を締結する工程(耐火シ-ト7は切断部の直上に位置する鋼製スラット3aに締結する)、▲4▼チェ-ン、砂袋等の柔軟性のある座板40を耐火シ-ト7、端部残部スラット部10に対して締結する工程とからなる。
【0018】
このものでは、開口部全閉時において、スラット重量は端部残部スラット部10で支えるため、座板中央部位(スラット切欠き部)であれば、万が一人間がシャッターカーテンの下に挟まれた場合であっても、シャッターカーテン全体の重量が加わることはなく、自力で脱出することができる。尚、第二の実施の形態、第三の実施の形態のものでは、全閉時におけるシャッターカーテンの下端から所定高さの部位を除いて大部分が鋼製スラットで構成されているので、火災時に物が倒れて来たような場合に対しても強度面で対応することができる。
【0019】
図6は本発明の第四の実施の形態に係り、改修作業は、▲1▼建物開口部上方の天井内に納まった状態で、スラット3a同士を溶接あるいはビス止めすることでシャフト状巻装体20(太いシャフト状態)とする工程(a)、▲2▼座板4を取り外して、座板40を備えた耐火シ-ト7を取り付ける工程(b)、▲3▼第二ガイドレ-ル部材50を設けることで既設のガイドレ-ル5の溝幅を、耐火シ-ト7に対応するように細幅に改修する工程(c)とからなる。
【0020】
鋼製スラット3aと耐火シ-ト7との締結手段、改修後のガイドレ-ルの構成、耐火シ-ト7の抜け止め手段については第一の実施の形態のものと同様である。このものでは、実質的にシ-ト状の防火シャッターとなるので、第一の実施の形態と同様に、シャッターカーテンが吊られた状態となる。したがって、万が一人間がシャッターカーテンの下に挟まれても、座板の重量のみの負荷で済み、自力で脱出が可能であり、脱出後も防火性能は確保される。
【0021】
図7は、シャッターカーテンにおける、既設スラットと耐火シ-トとの締結方法を説明する図である。一般に、図7(a)に示すように、開口幅方向に、巻装された耐火シ-ト7の長さ方向を配設させて、開口部高さ方向にシ-トを繰り出すことで既設スラットに耐火シ-ト7を締結するとするならば、二人以上、大開口部では大人数、の作業員が必要となり、大がかりな作業となる。
【0022】
そこで、図7(b)に示すように、巻装された耐火シ-ト7の長さ方向を、開口高さ方向に配設させて、開口部幅方向にシ-トを繰り出すようにすれば、締結作業を一人で行うことができ人件費を削減できる。図7(c)乃至(f)は、既設スラット3aとシ-ト7の締結手段の実施の形態を示している。
【0023】
(c)はマジックテ-プを利用するもであって、耐火シ-ト7の上端部、鋼製スラット3aの下端部の対向する面にマジックテ-プ12を設けある。鋼製スラット3aとマジックテ-プ12とはタッピンネジ等で止着する。(d)は、マジックテ-プに代えてジッパ-13を対向状に設けたものであり、鋼製スラット3aとジッパ-13とは両面テ-プで貼着する。(e)は耐火シ-ト7と鋼製スラット3aの対向間に両面テ-プ14を介在させるようにしたものである。尚、いずれの場合おいても、耐火シ-ト7と鋼製スラット3aを締結した後、これらの重合部に正面方向からビス17を打つことで両者の締結を一層確実にすることが望ましい。
【0024】
(f)は、耐火シ-ト7の上端部を袋状に形成すると共に、袋部7aに開口幅方向に延出する針金15を通し、この部分を鋼製スラット3aのインタ-ロック部に正面から挿入させるようにする。そして、上下方向の長孔16aを備えた取付ピ-ス16を正面方向から連結部にビス17によって止着し、長孔16aを介して取付ピ-ス16を下方にずらすことで耐火シ-ト7の袋部7aを押さえて抜けを防止する。
【0025】
【発明の効果】
本発明は、建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが、該開口部の左右両側に立設したガイドレ-ルに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて、該シャッターカーテンは、カーテン上方部を占める金属製スラットとカーテン下方部を占める耐火シートから構成され、前記カーテン下方部を占める耐火シートの上端を、前記カーテン上方部を占める金属製スラットの下端に止着したことを特徴とするもの、あるいは、シャッターカーテンは、鋼製スラットから成るシャッターカーテンの下端部より所定高さの部位を、幅方向両端部を所定幅残して除去して、耐火シートを、該鋼製スラットを除去した部位の直上に位置する鋼製スラットに締結することで構成したことを特徴とするので、良好な防火(防煙)性能を有するものでありながら、万が一人間が下降するシャッターカーテンの下に挟まった場合でも自力で脱出することができる。そして、本発明に係るシャッターカーテンは、既設の天井やガイドレ-ル等を壊すことなく設置することができるので、鋼製スラットからなる従来の防火シャッターの改修工時において、有利に採用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】既設の従来の防火シャッターの概略側面図および既設のガイドレ-ルの断面図である。
【図2】本発明の第一の実施の形態に係るシャッターの概略側面図およびガイドレ-ルの断面図である。
【図3】本発明の第一の実施の形態に係るシャッターを得るための改修作業の手順を示す図である。
【図4】本発明の第二の実施の形態に係るシャッターの概略正面図およびガイドレ-ルの断面図である。
【図5】本発明の第三の実施の形態に係るシャッターの概略正面図である。
【図6】本発明の第四の実施の形態を示す図である。
【図7】シャッターカーテンを改修する際における、既設スラットと耐火シ-トとの締結方法を説明する図である。
【符号の説明】
3、30 シャッターカーテン
3a 鋼製スラット
4、40 座板
5 ガイドレ-ル
50 第二ガイドレ-ル部材
7 耐火シ-ト
8 フラットバ-
9 係止部材
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-10-23 
結審通知日 2007-10-25 
審決日 2007-11-06 
出願番号 特願平10-131377
審決分類 P 1 123・ 16- ZD (A62C)
P 1 123・ 121- ZD (A62C)
最終処分 一部成立  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 峰 祐治
五十幡 直子
登録日 2005-05-20 
登録番号 特許第3677615号(P3677615)
発明の名称 防火シャッタ-  
代理人 光田 敦  
代理人 稲葉 滋  
代理人 稲葉 滋  

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