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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1186646
審判番号 不服2006-18406  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-24 
確定日 2008-10-24 
事件の表示 特願2002-260682「電極およびそれを用いた装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月 8日出願公開、特開2004- 6205〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、特許法第30条第1項の適用を適法に申請した特許出願に係り、平成14年9月5日(優先権主張日:平成14年4月19日)の出願であって、平成18年7月18日付け(同年7月26日発送)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月22日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成18年9月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年9月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正の内容は、特許請求の範囲の記載を補正前の、
「【請求項1】導電性材料と空間電荷を有する膜からなることを特徴とする電極。
【請求項2】前記導電性材料が金属、半導体、グラファイトのいずれかからなることを特徴とする請求項1記載の電極。
【請求項3】前記導電性材料表面が凹凸を有するまたは尖塔状形状を有することを特徴とする請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】前記導電性材料表面に不定形または繊維状の金属、半導体またはグラファイトが存在することを特徴とする請求項1または2に記載の電極。
【請求項5】前記膜がアモルファス、結晶粒界、不純物原子のいずれかを含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】前記膜の厚さが50nm以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項7】前記膜が窒素、炭素、珪素、酸素、ホウ素のいずれかの原子を含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の電極。
【請求項8】請求項1ないし7のいずれか1項記載の電極を用いたことを特徴とする電子放出装置。
【請求項9】請求項8記載の電子放出装置を用いたことを特徴とするフィールドエミッションディスプレイ、電子ビーム露光装置、マイクロ波進行波管、撮像素子、電子ビームを用いた材料評価装置。
【請求項10】請求項8記載の電子放出装置を用いたことを特徴とする発光装置。
【請求項11】請求項10記載の発光装置を用いたことを特徴とする照明装置、液晶ディスプレイのバックライト、表示ランプ。
【請求項12】請求項1ないし7のいずれか1項記載の電極を放電セルの電極として用いたことを特徴とするプラズマディスプレイ。
【請求項13】請求項1ないし7のいずれか1項記載の電極を用いたことを特徴とする有機発光装置。
【請求項14】請求項13記載の有機発光装置を用いたことを特徴とする表示装置。」
を、補正後の、
「【請求項1】導電性材料と空間電荷を有する窒化ホウ素炭素膜からなることを特徴とする電極。
【請求項2】前記導電性材料が金属、半導体、グラファイトのいずれかからなることを特徴とする請求項1記載の電極。
【請求項3】前記導電性材料表面が凹凸を有するまたは尖塔状形状を有することを特徴とする請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】前記導電性材料表面に不定形または繊維状の金属、半導体またはグラファイトが存在することを特徴とする請求項1または2に記載の電極。
【請求項5】前記膜がアモルファス、結晶粒界、不純物原子のいずれかを含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】前記膜の厚さが50nm以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項7】請求項1ないし6のいずれか1項記載の電極を用いたことを特徴とする電子放出装置。
【請求項8】請求項7記載の電子放出装置を用いたことを特徴とするフィールドエミッションディスプレイ、電子ビーム露光装置、マイクロ波進行波管、撮像素子、電子ビームを用いた材料評価装置。
【請求項9】請求項7記載の電子放出装置を用いたことを特徴とする発光装置。
【請求項10】請求項9記載の発光装置を用いたことを特徴とする照明装置、液晶ディスプレイのバックライト、表示ランプ。
【請求項11】請求項1ないし6のいずれか1項記載の電極を放電セルの電極として用いたことを特徴とするプラズマディスプレイ。
【請求項12】請求項1ないし6のいずれか1項記載の電極を用いたことを特徴とする有機発光装置。
【請求項13】請求項12記載の有機発光装置を用いたことを特徴とする表示装置。」(なお、アンダーラインは補正箇所を示すために請求人が付したものである。)
と補正する補正事項を含むものである。
上記補正事項は、補正前の旧請求項7を削除し、当該請求項の削除に伴い旧請求項8ないし14の請求項の番号を繰り上げて新請求項7ないし13とするとともに、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「空間電荷を有する膜」を、「空間電荷を有する窒化ホウ素炭素膜」と補正することにより空間電荷を有する膜の材料を具体的に限定したものであるから、上記補正事項は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に規定する請求項の削除及び第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、上記補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「補正後第1発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2 独立特許要件について
(1)補正後第1発明を再掲すると、次のとおりである。
「【請求項1】導電性材料と空間電荷を有する窒化ホウ素炭素膜からなることを特徴とする電極。」

(2)刊行物
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-185021号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
ア 「【請求項1】導体または半導体基板上に電気的に接続してホウ素(組成比x)、炭素(組成比y)、窒素(組成比z)を含む組成比が0≦x<1、0<y≦1、0≦z<1の領域が少なくとも1層以上あり、表面に露出して組成比が0≦x<1、0≦y≦1、0≦z<1の薄膜があり、前記薄膜に電気的に絶縁して第1の金属体が設けられ、前記薄膜に対向して前記第1の金属体と空間をもって第2の金属体を設けたことを特徴とする電子放出装置。
・・・
【請求項3】前記ホウ素、前記炭素、前記窒素を含む領域と前記表面に露出した薄膜が組成比の異なる多層構造になっていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子放出装置。
【請求項4】前記ホウ素、前記炭素、前記窒素を含む領域と前記表面に露出した薄膜の組成比を徐々に変化させて形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の電子放出装置。」(【特許請求の範囲】)

イ 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、半導体からの電子放出を利用する電子放出装置に関するものである。」(段落【0001】)

ウ 「【0025】【実施例1】図1は、本発明に係る電子放出装置の実施例1を示す断面図である。実施例1の電子放出装置は、シリコン基板1、窒化ホウ素炭素膜2,3、SiO_(2)薄膜4、引き出し電極5、カソード電極6およびアノード電極7で構成される。
【0026】シリコン基板1は、n型のシリコン半導体の基板である。窒化ホウ素炭素薄膜2,3は、ホウ素、炭素、窒素を含む組成比がそれぞれ異なる薄膜である。窒化ホウ素炭素薄膜2は、シリコン基板1と電気的に接続されている。引き出し電極5は、SiO_(2)薄膜4によって、電気的に絶縁された第1の金属体である。また、アノード電極7は、引き出し電極5と空間をもって設けられた第2の金属体である。
【0027】この構成の電子放出装置を次に示す手順で作製した。つまり、図2(A)に示すシリコン基板1上に、三塩化ホウ素とメタンと窒素ガスとを用いて、プラズマアシスト化学気相合成法によって、図2(B)に示すように窒化ホウ素炭素薄膜2を100[nm]堆積した。このとき、窒化ホウ素炭素薄膜2の組成比を、ホウ素0.4、炭素0.2、窒素0.4にした。さらに、窒化ホウ素炭素薄膜2の上に、窒化ホウ素炭素薄膜2と組成の異なる窒化ホウ素炭素薄膜3を200[nm]堆積した(図2(B))。このときの窒化ホウ素炭素薄膜3の組成比を、ホウ素0.5、炭素0.0、窒素0.5にした。窒化ホウ素炭素薄膜2,3には、イオウ原子を1×10^(18)[cm^(-3)]の濃度に添加した。
【0029】その後、フォトリソグラフィー工程を用いて、引き出し電極5用金属およびSiO_(2)薄膜4をウェットエッチングにより除去した。これによって、直径5[μm]の窓5Aが形成された(図2(D))。窓5Aの中に露出した窒化ホウ素炭素薄膜3の表面を水素プラズマで処理した後、真空チェンバー内でアノード電極7となる金属板を窒化ホウ素炭素薄膜3に対向させて配置した(図2(D))。このとき、窒化ホウ素炭素薄膜3とアノード電極7との間隔を125[μm]とした。
【0030】前記構成の電子放出装置は、次のようにして用いられる。つまり、引き出し電極5を接地し(図1)、カソード電極6に電源11を接続し、アノード電極7に電源12を接続する。これによって、カソード電極6とアノード電極7に各々バイアスが加えられる。さらに、8×10^(-7)[Torr]以下の真空度で、アノード電極7に向かって流れる電流(以下、放出電流という)を測定した。このとき、アノード電圧を500[V]と一定にし、カソード電圧を変化させた。この結果、図3に示すように、カソード電圧40[V]で0.1[mA]の高い放出電流が得られた。
【0031】なお、実施例1では、イオウ不純物を添加した窒化ホウ素炭素薄膜2,3を用いたが、ドナー不純物となるリチウム、酸素、シリコン等の原子を添加した窒化ホウ素炭素薄膜を、窒化ホウ素炭素薄膜2,3の代わりに用いることもできる。無添加窒化ホウ素炭素薄膜を用いて前記と同様の電子放出装置を作製した結果、ターンオン電圧が30[%]程度増加し、電子放出特性の劣化が見られ、不純物添加の有効性が確認できた。
【0032】また、シリコン基板1の基板材料として、シリコン以外の様々な導体および半導体を用いても作製できる。半導体基板を用いる場合には、オーミック電極形成可能な材料であれば、どのような金属でもカソード電極6用金属として用いることができる。導体基板を用いる場合には、基板自身をカソード電極として用いることができる。」(段落【0025】?【0032】)

エ 「【0052】以上、実施例1?4について説明した。実施例1?4において、電子放出部の材料として窒化ホウ素薄膜を用いたが、この薄膜内の各元素の組成比は実施例1?4に示した場合に限定されることなく、様々な組成の窒化ホウ素薄膜を使用することができる。また、2つ以上の電子放出部を同一基板上に作製し、アレーを実現することができる。
【0053】また、尖塔形状を有する所謂スピント型電子放出素子に本発明の窒化ホウ素炭素薄膜をコーティングする方法も使用でき、その効果は非常に大きいと考えられる。」(段落【0052】?【0053】)

上記ウから、シリコン基板1がn型シリコン半導体基板1であることが読み取れ、窒化ホウ素炭素薄膜2,3が、不純物となるイオウ原子を添加したものであることが読み取れる。同じく、上記ウから、実施例1の電子放出装置は、引き出し電極5を接地し、カソード電極6に電源11を接続し、アノード電極7に電源12を接続して用いられるのであるから、電子を放出する側の電極として、n型シリコン半導体基板1と窒化ホウ素炭素薄膜2,3からなる電子放出装置の電極が読み取れる。

したがって、刊行物1には次のとおりの発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているものと認められる。
【刊行物発明】
「n型シリコン半導体基板1と、不純物となるイオウ原子を添加した窒化ホウ素炭素薄膜2,3からなる電子放出装置の電極。」

(3)対比
補正後第1発明と刊行物発明を対比する。
ア 刊行物発明の「n型シリコン半導体基板1」は、補正後第1発明の「導電性材料」に相当する。
イ 刊行物発明の「窒化ホウ素炭素薄膜2,3」は、補正後第1発明の「窒化ホウ素炭素膜」に相当する。
ウ 刊行物発明の「電子放出装置の電極」は、補正後第1発明の「電極」に相当する。

したがって、以上ア?ウの考察から、両者は、
【一致点】
「導電性材料と窒化ホウ素炭素膜からなる電極。」
である点で一致し、以下の相違点で一応相違する。
【相違点】
窒化ホウ素炭素膜が、補正後第1発明では、「空間電荷を有する」と規定しているのに対して、刊行物発明では、「不純物となるイオウ原子を添加した」と規定する点。

(4)判断
上記一応の相違点について検討する。
補正後第1発明の「空間電荷を有する」点に関して、本願明細書の発明の詳細な説明の欄には、次のように記載されている。
「【0007】【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明の電極はキャリアを供給するための導電性材料上に膜があり、前記膜内に空間電荷を含むことをことを特徴とする。本発明の電極で電子を放出または注入する場合には膜内に正の空間電荷が用いられ、正孔を注入する場合には膜内に負の空間電荷が用いられる。」(段落【0007】)
「【0025】(実施例1)図1は本発明の第1実施例に係る電子放出装置の断面概略図を示す。実施例1の電子放出装置は基板1、窒化ホウ素薄膜2、SiOx膜3、引き出し電極4、アノード電極5、電源6、7、カソード電極8で構成されている。
【0026】基板1としてここではシリコンを用いた。その上に三塩化ホウ素と窒素ガスを用いたプラズマアシスト化学気相合成(CVD)法によって窒化ホウ素薄膜2を10nm堆積した。窒化ホウ素薄膜2にはイオウ原子を1×10^(18)cm^(-3)の濃度に添加した。」(段落【0025】?【0026】)
「【0031】(実施例2)図2は本発明の第2実施例に係る電子放出装置の断面概略図を示す。シリコン基板1上にスピント型尖塔形状が形成され、本発明の窒化ホウ素炭素膜が設けられた電子放出装置であり、基板21、窒化ホウ素炭素薄膜22、SiOx膜23、引き出し電極24、アノード電極25、電源26、27、カソード電極28、尖塔形状29で構成されている。
【0032】 取り出し電極24を持つ尖塔形状29が作製されたn型シリコン基板1(111)を用い、尖塔形状部29に本発明の窒化ホウ素炭素薄膜22を形成する。・・・窒化ホウ素炭素薄膜22にはイオウ原子を1×10^(18)cm^(-3)の濃度に添加した。」(段落【0031】?【0032】)

同じく、補正後第1発明の「空間電荷を有する」点について、平成18年11月10日付け手続補正により補正された審判請求書の請求の理由において、請求人は次のように主張している。
「(4)本発明と引用文献との対比
1.(拒絶理由A、B)-1について
旧請求項1の「膜」を、新請求項1において「窒化ホウ素炭素膜」と減縮する補正を行うことにより解消したと思料いたします。
窒化ホウ素炭素膜は引用文献1(当審注:後記する「引用例1」に同じ。)に記載された窒化ホウ素膜と比較し、電極を構成する膜として使用し、係る電極を電子放出装置として用いた場合に、より低い電圧で動作が可能な優れた材料であります。このことは、本願明細書における実施例1[0026]で窒化ホウ素膜を用いた電子放出装置が30Vの印加で0.1mAの放出電流を得たのに対し、実施例2[0032]で、窒化ホウ素炭素膜を用いた電子放出装置が20Vの印加で0.1mAの放出電流を得たという記載からも明らかであります。空間電荷を有する窒化ホウ素炭素膜を用いた電極については、本願以前に開示を行った文献はなく、本願の新請求項1は、新規性進歩性を持つものであります。また、審査官殿は、「引用文献1に明記されていないものの窒化ホウ素電子放出素子表面層が空間電荷を有することは当業者には明らかである」と主張されておりますが、窒化ホウ素膜や窒化ホウ素炭素膜が空間電荷を持つのはイオウなどの不純物を含んでいるからであり、窒化ホウ素を用いたというだけで空間電荷が形成されるものではありません。本願明細書における実施例1[0029]において、不純物として、イオウ、リチウム、酸素、シリコンを添加した窒化ホウ素膜、実施例2[0032]において、不純物としてイオウを添加した窒化ホウ素炭素膜について記載されております。引用文献1には、空間電荷の記載も不純物の記載もありません。空間電荷を有する窒化ホウ素炭素膜からなる電極は公知のものではなく、本願の新請求項1は、新規性進歩性を持つものであります。」

上記本願明細書の記載及び請求の理由の主張によれば、補正後第1発明の窒化ホウ素炭素膜が空間電荷を有するのは、窒化ホウ素炭素膜にイオウ原子が添加されたことによるものと解される。
そうすると、刊行物発明の窒化ホウ素炭素薄膜2、3は、「不純物となるイオウ原子を添加した」ものであることが規定されているから、刊行物発明の「不純物となるイオウ原子を添加した」窒化ホウ素炭素薄膜2、3も、補正後第1発明の窒化ホウ素炭素膜と同じく空間電荷を有するものであると解される。
したがって、上記一応の相違点は実質的な相違点であるとはいえず、補正後第1発明は、刊行物発明であるというべきであり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許出願の際独立して特許を受けることができない。

なお、請求人は、平成18年11月10日付けで手続補正された審判請求書の請求の理由(1)において、
「なお、その後さらに検討しました結果、上記拒絶理由6に示された請求項5の「アモルファス、結晶粒界を含む膜」については、審査官殿が指摘された通り、十分な開示がなされていないとの結論に至りました。また、上記拒絶理由7に示された請求項9(補正後の請求項8)の「マイクロ波進行波管、撮像素子」については、審査官殿が指摘された通り、他の選択肢である「フィールドエミッションディスプレイ、電子ビーム露光装置、電子ビームを用いた材料評価装置」と類似の性質又は機能を有していないとの結論に至りました。これらの装置についての記載を請求項から削除したいと存じます。従いまして、別紙1記載の通りに特許請求の範囲を補正するための機会を与えていただきたくお願い申し上げます。」
と主張し、以下のとおりの希望補正案を提示している。
「(希望補正案)
【特許請求の範囲】
【請求項1】導電性材料と空間電荷を有する窒化ホウ素炭素膜からなることを特徴とする電極。
【請求項2】前記導電性材料が金属、半導体、グラファイトのいずれかからなることを特徴とする請求項1記載の電極。
【請求項3】前記導電性材料表面が凹凸を有するまたは尖塔状形状を有することを特徴とする請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】前記導電性材料表面に不定形または繊維状の金属、半導体またはグラファイトが存在することを特徴とする請求項1または2に記載の電極。
【請求項5】前記膜が不純物原子を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】前記膜の厚さが50nm以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項7】請求項1ないし6のいずれか1項記載の電極を用いたことを特徴とする電子放出装置
【請求項8】請求項7記載の電子放出装置を用いたことを特徴とするフィールドエミッションディスプレイ、電子ビーム露光装置、または、電子ビームを用いた材料評価装置。
【請求項9】請求項7記載の電子放出装置を用いたことを特徴とする発光装置。
【請求項10】請求項9記載の発光装置を用いたことを特徴とする照明装置、液晶ディスプレイのバックライト、または、表示ランプ。
【請求項11】請求項1ないし6のいずれか1項記載の電極を放電セルの電極として用いたことを特徴とするプラズマディスプレイ。
【請求項12】請求項1ないし6のいずれか1項記載の電極を用いたことを特徴とする有機発光装置。
【請求項13】請求項12記載の有機発光装置を用いたことを特徴とする表示装置。」

しかしながら、上記希望補正案は、原査定の拒絶理由C(36条6項1号及び2号違反)の対象とされた請求項5、請求項9及び請求項11に対応する希望補正案の請求項5、請求項8及び請求項10の記載については、拒絶理由C(36条6項1号及び2号違反)は解消すると判断されるものの、当該希望補正案の請求項1の記載は、平成18年9月22日付けの手続補正書の請求項1の記載と同じであるから、希望補正案のとおりに補正したとしても、上記「第2」の「2独立特許要件について」で記載した理由と同じ理由により希望補正案の請求項1に記載されている事項により特定される発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。したがって、請求人の提示した希望補正案のごとく補正する補正の機会を与えたとしても上記結論に変わりはないので、補正の機会を与える必要はない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、補正後第1発明は、刊行物発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成18年9月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?14に係る発明は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願第1発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】導電性材料と空間電荷を有する膜からなることを特徴とする電極。」

第4 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-208618号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
1 「【請求項2】電子を放出するエミッタ部を備えた電子放出素子において、前記エミッタ部表面層の主成分が3族元素と窒素との化合物により構成されていることを特長とする電子放出素子。」(【特許請求の範囲】)
2 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、電界放出型ディスプレイ装置に用いる高い電子放出特性ならびに表面安定性を有する電子放出素子、およびその製造方法に関するものである。」(段落【0001】)
3 「【0025】(実施の形態2)図3は、本発明に係わる先端が平面である電子放出素子の概略構成図である。図3において、21は基板、22は絶縁層、23は引き出し電極層、24は電子を放出するエミッタ部を構成する電子放出素子表面層である。この電子放出素子を陰極とし、対向側には、基板上に透明電極、蛍光体薄膜からなる陽極基板を配置し、陰極と陽極との間に所定の電圧を印加すると、電子エミッタ部の先端から真空中に電子が放出され、加速された電子は蛍光体薄膜に到達し、電子が蛍光体薄膜に衝突することにより、蛍光体薄膜が発光するものである。」(段落【0025】)
4 「【0036】(実施例2)図6は、本発明による先端が平面である電子放出素子の実施例2の構成図である。電子放出素子60は電子を放出するための窒化ホウ素(BN)電子放出素子表面層64を有する。厚さ10nmの電子放出素子表面層64は、シリコン(Si)基板61上にアイランド状に形成されている。シリコン基板61上には厚さ500nmの酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))膜62、さらに厚さ200nmでφ0.5μmのモリブデン(Mo)引き出し電極63が形成されている。
【0037】窒化ホウ素電子放出素子表面層64は、シリコン表面に均一に形成されているが、フォトマスクを利用することによって、アスペクト比(底辺に対する高さの割合)の大きい微小円柱形状とすることが可能であり、より効果的である。
【0038】窒化ホウ素は低仕事関数材料であり、しかも機械的に高強度であり、また、熱的に安定なため、シリコン表面に形成することにより、安定に電子を放出するという効果を発揮する。電子放出素子表面層は窒化ホウ素の他に、3族元素と窒素との化合物の窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、でも同様の効果が得られる。」(段落【0036】?【0038】)

上記3によれば電子放出素子は陰極に用いられ、上記4によれば窒化ホウ素(BN)電子放出素子表面層64から電子が放出されることから、シリコン(Si)基板61と窒化ホウ素(BN)電子放出素子表面層64からなる陰極が読み取れる。
したがって、引用例1には次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
【引用発明】
「シリコン(Si)基板61と該基板61上にアイランド状に形成された厚さ10nmの窒化ホウ素(BN)電子放出素子表面層64からなる陰極。」

第5 対比
本願第1発明と引用発明とを対比する。
1 引用発明の「シリコン(Si)基板61」は、本願第1発明の「導電性材料」に相当する。
2 本願第1発明の「膜」について、本願明細書には、実施例2として、「【0031】(実施例2)図2は本発明の第2実施例に係る電子放出装置の断面概略図を示す。シリコン基板1上にスピント型尖塔形状が形成され、本発明の窒化ホウ素炭素膜が設けられた電子放出装置であり、基板21、窒化ホウ素炭素薄膜22、SiOx膜23、引き出し電極24、アノード電極25、電源26、27、カソード電極28、尖塔形状29で構成されている。【0032】取り出し電極24を持つ尖塔形状29が作製されたn型シリコン基板1(111)を用い、尖塔形状部29に本発明の窒化ホウ素炭素薄膜22を形成する。プラズマアシスト化学気相合成法により三塩化ホウ素とメタンと窒素ガスを用いて窒化ホウ素炭素薄膜22(組成比、ホウ素0.4、炭素0.2、窒素0.4)を10nm堆積した。」と記載されていることから、本願第1発明の「膜」は、シリコン基板1上の全面に窒化ホウ素炭素薄膜が設けられたもの以外にも、シリコン基板1の一部に形成された尖塔形状29の部分にのみ窒化ホウ素炭素薄膜22を形成したものをも含むと解される。したがって、引用発明の「基板61上にアイランド状に形成された厚さ10nmの窒化ホウ素(BN)電子放出素子表面層64」は、本願第1発明の「膜」に相当する。
3 引用発明の「陰極」は、本願第1発明の「電極」に相当する。

したがって、以上1?3の考察から、両者は、次の一致点及び相違点を有する。
【一致点】
「導電性材料と膜からなる電極。」
【相違点】
膜が、本願第1発明では、「空間電荷を有する」のに対して、引用発明では、空間電荷を有するか不明である点。

第6 判断
上記相違点について検討する。
例えば、電子を放出する側の電極を構成する膜に関して、特表平11-504751号公報(原査定において他の請求項について拒絶の理由に引用された。以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
「本発明においては、超小型電子デバイスに特に有用な冷陰極を形成するための材料として、窒化ホウ素が使用される。」(明細書6頁21?22行)、
「次に図1を参照すると、シリコン基板22を有する超小型電子デバイス20が示されており、シリコン基板22上にはn形ダイヤモンド層24が配置されている。このダイヤモンド層24上には、電子エミッタとして機能するn形窒化ホウ素層26が設けられている。電極28は窒化ホウ素層26とオーム接触している。電極30は主表面32から所定距離の位置に配置され、ギャップ34を形成する。」(明細書6頁28行?7頁5行)、
「この特定の実施態様では、デバイス20は真空ダイオードであり、したがって様々な層によって気密封止チャンバ38が形成されている。デバイス20を形成するために利用する薄膜形成技術は、本明細書の教示に基づいて当業者により理解されるであろうし、新規な冷陰極構造を形成することが窒化ホウ素を用いることであることも理解されるべきである。三極管、五極管、マグネトロン、フラットパネルディスプレイおよび電圧調整装置、光電子増倍管などのような陰極を利用する他の多くの超小型電子デバイスが、本発明の教示に基づいて陰極材料としてn形窒化ホウ素を使用して形成されることが意図されている。したがって、1つの態様の本発明は、冷陰極としてn形窒化ホウ素を発見したことに基づくあらゆる種類の電子デバイスに適用される。」(明細書7頁10?19行)、
「再び図1を参照すると、電極28(負極)と30(正極)との間に適切な電圧を印加すると、n形窒化ホウ素層26は、ギャップ34を介して電極30へ電子を放出し、回路を完成する。」(明細書7頁20?22行)、
「窒化ホウ素層26は、本発明の多くの利点、すなわち低い引出電圧および周囲温度における高電流発生をもたらす。したがって、窒化ホウ素層26、ダイヤモンド層24およびシリコン支持層22の3層全部が設けられることが好ましいが、用途によっては、シリコン層22、ダイヤモンド層24またはそのいずれも設けられない方が適していることもある。また、異なる支持層を使用することが適していることもあり、また用途によっては、例えば窒化ホウ素を自立陰極として形成すべく適切なエッチング材または微細加工技術を用いて全ての支持層を除去することが適していることもある。デバイス20においては、窒化ホウ素層26は、厚さが約0.001ないし約1500ミクロンであることが好ましく、厚さが約0.1ないし約10ミクロンであることがより好ましい。窒化ホウ素層のサイズは、特定の用途によって部分的に決定される。窒化ホウ素層26は、約10^(16)cm^(3)ないし約10^(22)cm^(3)の濃度まで、より好ましくは約10^(18)cm^(3)ないし約10^(20)cm^(3)の濃度までn形不純物が添加される。適切なn形ドーパントは炭素、リチウムおよび硫黄である。」(明細書8頁18行?9頁4行)

これらの記載によれば、電子を放出する側の電極である窒化ホウ素層26にn形不純物を添加すること、及び、添加するn型不純物は炭素、リチウム及び硫黄が適切であることが読み取れるから、電子を放出する側の電極、すなわち、陰極を構成する窒化ホウ素層にn型不純物を添加することは周知技術であると認められる。
したがって、引用発明の窒化ホウ素(BN)電子放出素子表面層64に、引用例2記載の窒化ホウ素層にn型不純物を添加する周知技術を適用することは当業者が容易になし得るものであり、引用発明の窒化ホウ素(BN)電子放出素子表面層64にn型不純物を添加すれば空間電荷を有することになることは、明らかである。
よって、引用発明の窒化ホウ素(BN)電子放出素子表面層64に、引用例2記載の周知技術を適用することにより、本願第1発明のごとく空間電荷を有する膜とすることは、当業者が容易になし得たものである。
そして、本願第1発明の奏する効果は、引用例1及び2の記載事項から、当業者であれば予測し得る範囲内のものにすぎず、格別なものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願第1発明は、引用発明及び引用例2記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願第1発明が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項2?14に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-20 
結審通知日 2008-08-27 
審決日 2008-09-09 
出願番号 特願2002-260682(P2002-260682)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01J)
P 1 8・ 113- Z (H01J)
P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 波多江 進  
特許庁審判長 杉野 裕幸
特許庁審判官 西島 篤宏
山川 雅也
発明の名称 電極およびそれを用いた装置  
代理人 福森 久夫  
代理人 福森 久夫  

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