• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1186902
審判番号 不服2007-34994  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-27 
確定日 2008-10-30 
事件の表示 特願2004-292211「防汚性光学物品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月27日出願公開、特開2005-301208〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は特許法第41条第1項の規定による優先権の主張を伴う平成16年10月5日の出願(優先日:平成16年3月17日、優先権主張の基礎出願:特願2004-76592号)であって、平成19年6月11日付けで拒絶の理由が通知され、平成19年8月9日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年11月30日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として平成19年12月27日付けで本件審判請求がされるとともに、平成20年1月24日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。


第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成20年1月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成19年8月9日付けの手続補正により補正された本件補正前の特許請求の範囲の請求項1のうち

「真空蒸着によって基板表面に反射防止膜を形成後、酸素もしくはアルゴンを導入してプラズマ処理を行うことによって、前記反射防止膜表面にシラノール基を生成し、その後、下記の一般式(1)および/または一般式(2)で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物を真空蒸着して防汚層を形成することを特徴とする防汚性光学物品の製造方法。」

の記載を、

「真空蒸着によって基板表面に反射防止膜を形成する反射防止膜形成工程と、酸素もしくはアルゴンを導入してプラズマ処理を行うことによって、前記反射防止膜表面にシラノール基を生成するプラズマ処理工程と、下記の一般式(1)および/または一般式(2)で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物を真空蒸着して防汚層を形成する防汚層形成工程とを有する防汚性光学物品の製造方法であって、
前記反射防止膜形成工程、前記プラズマ処理工程、前記防汚層形成工程の全工程を、前記基板を大気中に解放することなく、真空中に保持されたままの状態で行うことを特徴とする防汚性光学物品の製造方法。」

と補正するものである。

2 本件補正の適否の検討
(1)目的要件(平成18年改正前の特許法第17条の2第4項)についての検討
本件補正前の旧請求項1には、「真空蒸着によって基板表面に反射防止膜を形成」すること、及び、「下記の一般式(1)および/または一般式(2)で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物を真空蒸着して防汚層を形成すること」が記載されており、本件補正前の旧請求項1に係る発明の「防汚性光学物品の製造方法」でも「反射防止膜を形成」する工程及び「防汚層を形成する」工程では「真空蒸着」という方法が採用されているから、本件補正前の旧請求項1に係る発明の「防汚性光学物品の製造方法」における「反射防止膜を形成」する工程及び「防汚層を形成する」工程の雰囲気が真空雰囲気であることは明らかである。
また、本件補正前の旧請求項1には、真空蒸着によって基板表面に反射防止膜を形成後に、「酸素もしくはアルゴンを導入して」プラズマ処理を行うことによって、前記反射防止膜表面にシラノール基を生成することが記載されている。したがって、本件補正前の旧請求項1に係る発明の「防汚性光学物品の製造方法」でも「反射防止膜を形成後」「プラズマ処理を行う」までの間も基板が大気中に解放されておらず、真空中に保持されたままの状態であると認められ、また、本件補正前の旧請求項1に係る発明の「防汚性光学物品の製造方法」における「プラズマ処理」工程も真空雰囲気で「酸素もしくはアルゴンを導入してプラズマ処理を行」っていると認められる。
さらに、本件補正前の旧請求項1には「酸素もしくはアルゴンを導入してプラズマ処理を行うことによって、前記反射防止膜表面にシラノール基を生成し、その後、下記の一般式(1)および/または一般式(2)で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物を真空蒸着して防汚層を形成すること」は記載されているものの、本件補正前の旧請求項1には「プラズマ処理を行」ってから「防汚層を形成する」までの間に基板を大気中に解放することは記載されておらず、また、本願の発明の詳細な説明の欄の記載を参酌しても、「プラズマ処理を行」ってから「防汚層を形成する」までの間に基板を大気中に解放するような実施形態も記載されていないから、本件補正前の旧請求項1に係る発明においても「プラズマ処理を行」ってから「防汚層を形成する」までの間も基板が大気中に解放されておらず、真空中に保持されたままの状態であると認められる。
すると、本件補正後の請求項1の「前記反射防止膜形成工程、前記プラズマ処理工程、前記防汚層形成工程の全工程を、前記基板を大気中に解放することなく、真空中に保持されたままの状態で行うこと」という発明特定事項は、本件補正前の請求項1に既に記載されていた事項であるから、本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明とは実質的に同一である。したがって、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当しない。
また、本件補正が、同法第17条の2第4項第1号に掲げる「請求項の削除」、同法第17条の2第4項第3号に掲げる「誤記の訂正」に該当しないことは明らかである。
さらに、平成19年6月11日付けの拒絶理由及び平成19年11月30日付けの拒絶査定において特許請求の範囲の記載が明りようでない旨の拒絶理由が示されていないことから、同法第17条の2第4項第4号に掲げる「明りようでない記載の釈明」にも該当しない。
したがって、本件補正は、同法第17条の2第4項の規定に適合しない。

(2)独立特許要件についての検討
仮に、本件補正が同法第17条の2第4項第2号の規定に適合するとして、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか、すなわち、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否かについて、次に検討する。

ア 本願補正発明の認定
本願補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「真空蒸着によって基板表面に反射防止膜を形成する反射防止膜形成工程と、酸素もしくはアルゴンを導入してプラズマ処理を行うことによって、前記反射防止膜表面にシラノール基を生成するプラズマ処理工程と、下記の一般式(1)および/または一般式(2)で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物を真空蒸着して防汚層を形成する防汚層形成工程とを有する防汚性光学物品の製造方法であって、
前記反射防止膜形成工程、前記プラズマ処理工程、前記防汚層形成工程の全工程を、前記基板を大気中に解放することなく、真空中に保持されたままの状態で行うことを特徴とする防汚性光学物品の製造方法。
ただし、一般式(1)において、式中、Rf^(1)はパーフルオロアルキル基、Xは水素、臭素、またはヨウ素、Yは水素または低級アルキル基、Zはフッ素またはトリフルオロメチル基、R^(1)は水酸基または加水分解可能な基、R^(2)は水素または1価の炭化水素基を表す。a、b、c、d、eは0以上の整数で、a+b+c+d+eは少なくとも1以上の整数であり、a、b、c、d、eでくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において限定されない。fは0、1、2のいずれかを表す。gは1、2、3のいずれかを表す。hは1以上の整数を表す。
【化1】

一般式(2)において、式中、Rf^(2)は、式:-(C_(k)F_(2k))O-(前記式中、kは1?6の整数である)で表される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を表す。R^(3)は炭素原子数1?8の一価炭化水素基であり、Xは加水分解性基またはハロゲン原子を表す。pは0、1、2のいずれかを表す。nは1?5の整数を表す。m及びrは2または3を表す。
【化2】



イ 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平7-98414号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の(ア)ないし(ク)の記載が図示とともにある。

(ア)「【請求項15】 偏光層およびこの偏光層の両表面に形成された支持層を有する偏光基板の一方の支持層の表面にアンダーコート層を形成する工程と、
このアンダーコート層の表面に反射防止層を形成する工程と、
この反射防止層の表面に含フッ素シラン化合物からなる汚染防止層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする偏光板の製造方法。」

(イ)「【請求項18】 請求項15?17のいずれかにおいて、
前記汚染防止層は、下記式(1)で示される含フッ素シラン化合物を含む塗布液を前記反射防止層の表面に塗布して硬化させ、さらに未反応の含フッ素シラン化合物を溶媒洗浄によって除去することにより形成されることを特徴とする偏光板の製造方法。式(1)
(R^(1) )_(a) (R^(2) )_(b) -Si-(X)_(c)
式(1)中、
R^(1) はフッ素を含む有機基、
R^(2) は水素または有機基、
Xはハロゲン基,水酸基,アミノ基,アルコキシ基およびこれらの基の一部が置換された基から選択される少なくとも一種の加水分解可能な反応性基、
a は1?3の整数、
b は0または1?2の整数、
c は1?3の整数を示す。
【請求項19】 請求項15?17のいずれかにおいて、
前記汚染防止層は、前記式(1)で示される含フッ素シラン化合物を物理的気相成長法によって堆積させることにより形成されることを特徴とする偏光板の製造方法。
【請求項20】 請求項19において、
前記汚染防止層は、前記式(1)で示される含フッ素シラン化合物を含浸させたセラミックスを蒸発源として用い、真空槽内において前記セラミックスを加熱し、該化合物を蒸発させて堆積させることによって形成されることを特徴とする偏光板の製造方法。
【請求項21】 請求項15?20のいずれかにおいて、
前記反射防止層は、物理的気相成長法によって形成されることを特徴とする偏光板の製造方法。」

(ウ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、特に液晶表示装置に好適に用いられる偏光板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】液晶表示装置においては、その表面反射を減らすことで、特に屋外での視認性を向上させることが行われている。このような表面反射を減らすための方法としては、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等により偏光板の表面に無機質コート膜からなる反射防止膜を形成する方法、あるいはこのような反射防止膜を表面に形成したアクリル樹脂フィルムを偏光板に接着剤によって貼り付ける方法等がある。
【0003】しかし、従来の反射防止膜付き偏光板においては、指紋等の汚れが付き易く、また一旦着いた汚れが取れにくいこと、偏光板の表面に水滴が付着し易く、水滴が付着した状態で放置すると、短時間でしみ状の痕跡となるいわゆるヤケが発生すること、さらには偏光板の表面に水滴が着いたまま高温の状態で放置すると、反射防止膜にクラックが生じたり反射防止膜が剥離すること、等の問題があった。
【0004】このような問題を回避する技術として、特開平3-266801号公報に、反射防止膜上にフッ素樹脂の薄膜を設ける方法が開示されている。しかし、このフッ素樹脂の薄膜は、ポリテトラフルオロエチレンやポリビニルフルオライドなどを抵抗加熱式の真空蒸着法によって堆積させて形成され、密着力,強度,表面硬度等の点で不十分であって、実用化に適しないものである。また、この技術を用いて膜強度が確保できる程度の厚みの薄膜を形成した場合には、この膜が偏光板の光学特性に影響を与え、反射率の増加,光干渉による色付き,膜厚の不均一に起因する視認性の低下等の新たな問題を生じる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような従来技術の課題を解決するためのものであって、その目的とするところは、表面反射が少なく優れた視認性を確保しながら、撥水性,汚染防止性に優れた偏光板およびその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段および作用】本発明の偏光板は、偏光層およびこの偏光層の両表面に形成された支持層を有する偏光基板と、この偏光基板を構成する一方の支持層の表面に形成されたアンダーコート層と、このアンダーコート層側の最も外側に位置し、含フッ素シラン化合物からなる汚染防止層と、を含むことを特徴としている。
【0007】この偏光板においては、通常、前記アンダーコート層と前記汚染防止層との間に反射防止層が形成される。
【0008】この偏光板においては、その最表面に含フッ素シラン化合物からなる汚染防止層を形成することにより、偏光板表面の撥水性および撥油性を向上させることができ、汚染防止性に優れた偏光板を構成することができる。
【0009】汚染防止層の下位に位置する反射防止層は、通常、例えばSiO_(2) 膜等の無機質膜から構成され、その表面には極性の大きな-OH基が露出しており、この活性な基は汚れや水滴が付着しやすい原因となっている。したがって、極性の極めて小さな含フッ素シラン化合物を前記反射防止層の表面に反応あるいは吸着させることで、偏光板表面を化学的に安定した状態に改質することができる。
【0010】この含フッ素シラン化合物からなる汚染防止層は、原理的には単分子層によって構成されれば十分であり、この程度の薄膜では偏光板の光学特性や表面硬度に問題となるような影響を与えることはない。また、前記反射防止層と汚染防止層とは、反応性置換基を介して化学的に結合しているため、両者の密着力は強固であり、汚染防止層が剥がれるようなことはない。また、含フッ素シラン化合物は耐薬品性、耐熱性、耐擦傷性および耐候性等の化学的,物理的特性において優れている。」

(エ)「【0017】前記汚染防止層を構成するフッ素シラン化合物は、下記式(1)で示される含フッ素シラン化合物、この化合物単位を有するオリゴマーおよびポリマーの少なくとも一種からなる。式(1)
(R^(1) )_(a) (R^(2) )_(b) -Si-(X)_(c)
式(1)中、R^(1) はフッ素を含む有機基、R^(2) は水素または有機基、Xはハロゲン基,水酸基,アミノ基,アルコキシ基およびこれらの基の一部が置換された基から選択される少なくとも一種の加水分解可能な反応性基、a は1?3の整数、b は0または1?2の整数、c は1?3の整数を示す。
【0018】前記式(1)で示される含フッ素シラン化合物としては、反応性基Xはアミノ基または置換アミノ基であることが好ましい。
【0019】このようなアミノシラン化合物としては、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリアミノシラン、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルジメチルアミノシラン、ビス(1H,1H-パーフルオロブチル)ジアミノシラン、ビス(パーフルオロノニル)ジアミノシラン、パーフルオロヘキサデシルトリアミノシラン、パーフルオロヘプタデシルトリアミノシラン、パーフルオロオクタデシルトリアミノシランおよびビス(パーフルオロノニル)ブチルアミノシランなどを挙げることができる。これらのアミノシラン化合物は一種単独で、あるいは二種以上組み合わせて用いることができる。
【0020】また、前記式(1)の含フッ素シラン化合物において、R^(1) はフッ素を含む、炭素数1?20のアルキル基,置換アルキル基,アルコキシ基または置換アルコキシ基、R^(2) は水素または炭素数1?4のアルキル基,置換アルキル基,アルコキシ基または置換アルキル基、Xはハロゲン基,水酸基、アルコキシ基およびこれらの基の一部が置換された基から選択される少なくとも一種の反応性基であることが望ましい。
【0021】このような含フッ素シラン化合物としては、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリクロロシラン、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリブロモシラン、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリエトキシシラン、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリヒドロキシシラン、パーフルオロヘプタデシルトリメトキシシラン、パーフルオロオクタデシルジメチルクロロシラン、パーフルオロヘキサデシルメチルジクロロシランおよび3,3,3-トリフルオロプロピルトリクロロシランなどをあげることができる。これらの含フッ素シラン化合物は、一種単独であるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。」

(オ)「【0030】本発明の偏光板の製造方法は、偏光層およびこの偏光層の両表面に形成された支持層を有する偏光基板の一方の支持層の表面にアンダーコート層を形成する工程と、このアンダーコート層の表面に反射防止層を形成する工程と、この反射防止層の表面に含フッ素シラン化合物からなる汚染防止層を形成する工程と、を含むことを特徴としている。」

(カ)「【0036】前記汚染防止層は、前記式(1)で示される含フッ素シラン化合物を物理的気相成長法によって堆積させることにより形成できる。この工程において、物理的気相成長法としては、一般的に用いられる真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等を用いることができ、特に真空蒸着法を好ましく用いることができる。
【0037】汚染防止層を物理的気相成長法によって形成する場合には、前記反射防止層を汚染防止層の形成手段と同様の堆積法を採用することにより、反射防止層および汚染防止層を連続的に形成することができる。
【0038】さらに、前記汚染防止層を真空蒸着法によって形成する場合には、前記式(1)で示される含フッ素シラン化合物を含浸させたセラミックスを蒸発源として用い、真空槽内において前記セラミックスを加熱し、該化合物を蒸発させて堆積させることが望ましい。
【0039】また、前記汚染防止層の形成に先立って、前記反射防止層に、洗浄,脱気,薬品処理,プラズマ処理等の前処理を施すこともできる。
【0040】前記反射防止層は、超低屈折率の単層構造、あるいは低屈折率層と高屈折率層との組み合わせによる多層構造とすることにより、有効な減反射効果を得ることができる。前記超低屈折率層を構成する物質としては、MgF_(2) ,CaF_(2) 、LiF等をあげることができ、前記多層構造の屈折率層を構成する材料としては、SiO_(2) ,ZrO_(2) ,TiO_(2) ,Y_(2) O_(3) 、Ta_(2) O_(5) 、CeO_(2) 、Sb_(2) O_(3)、B_(2) O_(3) 、SiO、CeF_(3) 等をあげることができる。」

(キ)「【0043】
【実施例】
(実施例1)図1は、本実施例に係る偏光板の構成を模式的に示す断面図である。この偏光板100は、偏光基板10上にアンダーコート層20、反射防止層30および汚染防止層40が順次積層された構造となっている。
【0044】前記偏光基板10は、ヨウ素,染料等の二色性を与える偏光素子がポリビニルアルコール等の偏光基体によって固定された偏光層12と、この偏光層12の両側に接着剤によって貼り合わされた第1の支持層14および第2の支持層16とから構成されている。支持層14,16としては、通常トリアセチルセルロース(TAC)等に代表されるセルロース系の膜が用いられ、これらの支持層14,16によって偏光層12が化学的,物理的に保護されている。前記偏光基体10は、通常20?200μmの厚さを有し、前記支持層14,16は、通常20?200μmの厚さを有する。
【0045】前記アンダーコート層20は、厚さ0.5?20μm(後述する試験のサンプルでは3μm)のアクリル系樹脂にシリカ(SiO_(2) )が分散され、防眩性(アンチグレア性)が付与されている。前記シリカは、平均粒子径が0.1?5μm(サンプルでは2μm)であり、その添加量はアクリル系樹脂に対し1?50重量%(サンプルでは25重量%)である。
【0046】本実施例のアンダーコート層20の膜特性の一例をあげると、表面硬度が鉛筆硬度で3Hであり、光沢度(Ga60度)は26、中心線平均粗さ(Ra)は220nm、および曇度は20%であった。
【0047】前記反射防止層30は、膜厚0.05?1μm(サンプルでは0.3μm)であり、5層構造を成している。この膜構成は、アンダーコート層20側から、SiO_(2) 層がλ/4、ZrO_(2) 層とSiO_(2) 層の積層がλ/4、ZrO_(2) 層がλ/4、最上層であるSiO_(2) 層がλ/4(ここでλ=520nm)である。
【0048】この反射防止層30は、可視領域における反射率の平均値が0.5%以下である。
【0049】前記汚染防止層40は、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリクロロシランからなる厚さ20?800オングストローム(サンプルにおいては100オングストローム以下)の層から構成されている。この層は少なくとも単分子層ないしは数分子層である。この汚染防止層40は、水の接触角が100度以上であり、優れた撥水性を示した。また、前記汚染防止層40は屈折率nが1.25?1.45であり、したがってnd(d:汚染防止層40の厚さ)が0.1μmより小さいことが確認された。
【0050】次に、本実施例の偏光板100の製造方法について述べる。
【0051】まず、偏光基板10の表面に、シリカ粒子が分散されたアクリル樹脂塗布液(ウレタンアクリレートオリゴマ-をメタクリル酸モノマーで希釈し、シリカ粒子と光開始剤としてベンゾインエーテルを添加したもの)をロールコート法によって塗布し、その後紫外線を照射してアクリル樹脂を硬化させ、アンダーコート層20を形成した。
【0052】ついで、この偏光基板を真空槽内にセットし、真空蒸着法により、基板温度50℃で、SiO_(2) 層をλ/4、ZrO_(2) 層とSiO_(2) 層との積層をλ/4、ZrO_(2) 層をλ/4、SiO_(2) 層をλ/4(λ=520nm)の膜厚で順次形成し、反射防止層30を形成した。得られた偏光板をメタノールで洗浄し、十分に乾燥させた。
【0053】ついで、アミン系パーフルオロ溶媒である「フロリナートFC-40」(住友スリーエム社製)に含フッ素シラン化合物として1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリクロロシランを5重量%溶解させた溶液に上述した偏光板を20℃において1分間浸漬させた。ついで、10cm/秒の速度で偏光板を引き上げた後、相対湿度50%、温度50℃の雰囲気で10分間放置した。その後、「フロリナ-トFC-40」によって偏光板の洗浄を行い未反応の含フッ素シラン化合物を除去した。
【0054】前記含フッ素シラン化合物は、偏光基板10の支持層を構成するTACと反応しないため、第2の支持層16上に付着した未反応の含フッ素シラン化合物をフッ素系溶剤によって除去することができる。したがって、第2の支持層16上に接着が困難なシラン化合物層が残存していない。
【0055】また、このようにして得られた偏光板は汚染防止層40の形成によって外観ならびに反射防止特性において特に変化は見られなかった。
【0056】次に、偏光板およびこれを用いた液晶表示装置の特性試験の結果について述べる。
【0057】(1)偏光板の特性
特性試験のサンプルとしては、本実施例の偏光板100のうち膜厚等の各条件が( )内に示されたものを用いた。
a.密着性
汚染防止層40の密着性を碁盤目試験によって判定した。碁盤目試験は偏光板の表面にナイフで切れ目を入れた1mm角の微少領域100箇所について、粘着テープ剥離をした後、反射顕微鏡観察ならびに純水とエタノールを滴下して濡れ性を評価した。
【0058】碁盤目試験の結果、本実施例の偏光板はまったく表面層の剥がれがなく、汚染防止層40の密着が良好であることが確認された。
b.耐擦傷性
この特性は、#0000のスチールウールを汚染防止層40の表面に置き、1Kg/cm^(2) の荷重をかけてスチールウールを10往復させたときの傷の発生を目視によって確認した。
【0059】その結果、本実施例の偏光板においては傷がほとんど認められず、優れた耐擦傷性を有することが確認された。
c.耐薬品性
薬品としては、アルコール,酸,アルカリおよび洗剤を選択した。
【0060】耐アルコール性に関しては、メチルアルコールを偏光板表面に滴下し、30分間放置した後の変化を目視によって観察した。耐酸性については、5重量%の塩酸水溶液を偏光板表面に滴下した後、30分間放置し、その変化を目視によって観察した。耐アルカリ性については、5重量%の水酸化ナトリウム水溶液を偏光板表面に滴下し、30分間放置した後目視によって観察した。耐洗剤性については、5重量%の中性洗剤水溶液を滴下し、24時間放置した後の状態を目視によって観察した。
【0061】本実施例の偏光板については、各薬品の滴下試験において変形、変色、シミ残りなどの異常は認められず、耐薬品性に優れていることが確認された。
d.汚染防止性
この試験においては、偏光板の表面を指で触れ、指紋の付き易さ、ならびに付着した指紋の拭き取り性を調べた。
【0062】その結果、本実施例の偏光板においては、指紋が付きにくく、また、付いた指紋も布等によって容易に拭き取ることができることを確認した。さらに、偏光板を中性洗剤や市販のメガネクリーナー等でクリーニングすることにより、初期の状態に容易に回復させることができた。
【0063】(2)液晶表示装置の特性
以下の特性試験において用いられたサンプルは、上記特性試験に用いられたサンプルと同様の偏光板をMIM(メタル-インシュレータ-メタル)素子を用いたアクティブマトリクス駆動の液晶パネル前面に貼り付けて構成されたものである。サンプルは、カラーフィルタを形成したガラス基板と、MIM素子を形成したガラス基板とでTN(ツイストネマチック)液晶を挟持し、カラーフィルタ側に本実施例の偏光板を、素子基板側に通常の偏光板を貼り付けて構成されたものである。
a.高温高湿試験
液晶表示パネルのサンプルを温度50℃,相対湿度90%の雰囲気に1,000時間放置し、外観および特性等の変化を調べた。
【0064】この試験の結果、サンプルの偏光板において、剥がれ,クラック等が発生せず、ヤケの発生も認められなかった。
b.熱衝撃試験
-20℃(30分)、25℃(5分)および60℃(30分)のヒートサイクルを10回繰り返し、外観および特性等の変化を調べた。
【0065】この試験の結果、サンプルの液晶表示パネルにおいては、電気的特性、光学的特性などの点で特に異常は認められなかった。
c.日光暴露試験
サンプルを屋外に20,000時間にわたって放置した後、外観および特性等の変化について調べた。
【0066】この試験の結果、本実施例のサンプルにおいては、電気的特性、光学的特性などの点で特に異常は認められなかった。
d.視認性
上記サンプルの液晶パネルの背面にさらにバックライトユニットを配し、バックライト方式の液晶表示装置を製造した。この液晶表示装置について外部からの影像入力をMIM素子を用いて駆動したところ、表面反射の少ない、視認性に優れた表示を行うことができた。」

(ク)「【0127】(実施例6)本実施例の偏光板は、その基本的な構造が前記実施例2と同様であるため、図2を参照しながら説明する。
【0128】この偏光板600は、偏光基板10上に接着層52を介して樹脂フィルム50、アンダーコート層20、反射防止層30および汚染防止層40が順次積層された構造となっている。なお、偏光基板10の構成は、前記実施例1の偏光基板と同様の構成を有するため、その詳細な説明を省略する。
【0129】前記樹脂フィルム50は、厚さ0.03?1mm(後述する試験のサンプルでは0.2mm)のアクリル樹脂から構成されている。
【0130】前記アンダーコート層20は、厚さ0.5?20μm(後述する試験のサンプルでは5μm)のアクリル系樹脂層からなる。このアンダーコート層20は、防眩性を高めるためのシリカが分散されていない。その代わり、後述するエアスプレー法によって防眩性が付与される。
【0131】本実施例のアンダーコート層20の膜特性の一例をあげると、表面硬度が鉛筆硬度で5Hであり、光沢度(Ga60度)は48、中心線平均粗さ(Ra)は100nm、および曇度は10%であった。
【0132】前記反射防止層30は、膜厚0.05?1μm(サンプルでは0.3μm)であり、3層構造を成している。この膜構成は、アンダーコート層20側から、SiO_(2) 層がλ/4、TiO_(2) 層がλ/2、最上層であるSiO_(2) 層がλ/4(ここでλ=520nm)である。
【0133】前記汚染防止層40は、3,3,3-トリフルオロプロピルトリクロロシランからなる厚さ20?800オングストローム(サンプルにおいては100オングストローム以下)の層から構成されている。この汚染防止層40は、水の接触角が100度以上であり、優れた撥水性を示した。また、前記汚染防止層40は屈折率nが1.25?1.45であり、したがってnd(d:汚染防止層40の厚さ)が0.1μmより小さいことが確認された。
【0134】次に、本実施例の偏光板600の製造方法について述べる。
【0135】まず、前記樹脂フィルム50の表面に、エアスプレー法を用いてアクリル樹脂塗布液を、液滴の平均粒子径が5?100μmになるように吐出量と空気使用量を調整し、さらに樹脂フィルムの移動速度を適度に調整しながら塗布し、アンダーコート層20を形成した。
【0136】ついで、この樹脂フィルムを真空槽内にセットし、例えば電子ビーム加熱による真空蒸着法により、基板温度50℃で、SiO_(2) 層をλ/4、TiO_(2) 層をλ/2、SiO_(2) 層をλ/4(λ=520nm)の膜厚で順次形成し、反射防止層30を形成した。
【0137】次いで、この樹脂フィルムを真空槽内にセットし、例えば抵抗加熱による真空蒸着法により汚染防止層40を形成した。真空蒸着装置にセットされるタブレットは、実施例5と同様にして調整され、例えば多孔質アルミナのタブレットに3,3,3-トリフルオロプロピルトリクロロシランが含有されたものである。
【0138】真空蒸着を行う際には、真空槽内を10^(-6)Torrまで排気し、被蒸着基板を酸素プラズマに曝した後に、前記タブレットを電気抵抗で約200℃に加熱し、含フッ素シラン化合物(3,3,3-トリフルオロプロピルトリクロロシラン)を含むタブレットを30秒間蒸発させ、汚染防止層40を形成した。汚染防止層40の形成によって偏光板の外観ならびに反射防止特性において特に変化は見られなかった。
【0139】以上のようにして得られた樹脂フィルムの積層体を、実施例2と同様にアクリル系接着剤を介して偏光基板10に貼り付けることにより本実施例の偏光板が形成される。
【0140】この偏光板600について、前記実施例1と同様に特性試験を行った。その結果、偏光板の特性として、a.密着性,b.耐擦傷性,c.耐薬品性およびd.汚染防止性の各特性において、汚れの拭き取り性が若干悪かったものの、実施例1と同様に良好な結果が得られた。さらに、本施例の偏光板600をTFT素子を用いたアクティブマトリクス駆動の液晶パネル前面に貼り付けて液晶表示パネルを作成した。この液晶表示パネルについて、実施例1と同様に、a.高温高湿試験,b.熱衝撃試験,c.日光暴露試験およびd.視認性の各特性試験を行ったところ、若干のギラツキ感はあったものの、他の特性は実施例1と同様に良好な結果が得られた。」

原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-14904号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の(ケ)ないし(ソ)の記載が図示とともにある。

(ケ)「【請求項1】プラスチック製光学部材上に反射防止膜を蒸着し、次いで該反射防止膜上に撥水性薄膜を蒸着により形成する撥水性薄膜を有する光学部材の製造方法であって、前記撥水性薄膜の蒸着は、フッ素含有有機ケイ素化合物を、前記プラスチック製光学部材の温度が前記反射防止膜蒸着の際のプラスチック製光学部材の最大温度を超えない条件下で加熱して蒸発させ、蒸発したフッ素含有有機ケイ素化合物を前記反射防止膜を有するプラスチック光学部材上に付着させることにより行われ、前記加熱は、常温から前記フッ素含有有機ケイ素化合物の蒸発開始温度より低い所定の温度(1)まで上昇させる第一の昇温段階と、前記所定の温度(1)から前記蒸発開始温度以上の所定の温度(2)まで上昇させる第二の昇温段階を含むようにおこなわれ、かつ第一の昇温段階の昇温速度は第二の昇温段階の昇温速度より大きいことを特徴とする光学部材の製造方法。」

(コ)「【請求項3】前記反射防止膜の蒸着と前記撥水性薄膜の蒸着とは、複数のプラスチック製光学部材を保持した保持具を、反射防止膜用の蒸着室及び前記撥水性薄膜用の蒸着室を順次移動することで行われる請求項1または2に記載の製造方法。」

(サ)「【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、反射防止膜及び撥水性薄膜を有するプラスチック製光学部材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】プラスチック製レンズ等の光学部材には、一般に、無機酸化物を多層蒸着させた反射防止膜が設けられている。この多層蒸着膜は、一般に、例えばZrO_(2)やTiO_(2)などの高屈折率層と、SiO_(2)やAlO_(2)などの低屈折率層とからなり、最外層は低屈折率層であることが一般的である。そのため、汗、指紋などによる汚れが付着しやすく、且つこれらの汚れはなかなかを除去しにくいものであった。このような問題を解決する方法として、例えば、特開昭60-221470号公報、特開昭62-148902号公報には、パーフルオロアルキル基置換アンモニウムシランの希釈溶液に樹脂(光学基板)を浸漬硬化又は塗布硬化させて反射防止膜上に撥水膜を形成する方法が開示されている。また、特開平5-215905号公報にはm-キシレンヘキサクロライド希釈溶液から真空蒸着法にて反射防止膜上に薄膜を形成する方法が開示されている。」

(シ)「【0010】そこで本発明の目的は、反射防止膜上に、撥水性能、耐久性、耐磨耗性等に優れた撥水性薄膜を持ったプラスチック製光学部材を製造する方法であって、反射防止膜の形成と連続して、前記のような比較的高分子量であるため沸点の高いフッ素含有有機ケイ素化合物を用い真空蒸着法により撥水膜を形成することができる製造方法を提供することにある。」

(ス)「【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本発明の光学部材の製造方法は、プラスチック製光学部材上に反射防止膜を蒸着し、次いで該反射防止膜上に撥水性薄膜を蒸着により形成する方法であり、特に低い真空度で撥水性薄膜を蒸着する場合に適する。蒸着処理方法には、一般に、バッチ式の真空蒸着装置で行う方法と、連続式の真空蒸着装置で行う方法とあるが、本発明は連続式の真空蒸着装置で行う方法に特に適する。本発明で使用する連続式の真空蒸着装置は、好ましくは、反射防止膜用の真空蒸着室と撥水性薄膜用の真空蒸着室を連続して有するものである。このように、反射防止膜処理室及び撥水膜処理室を順次設けることで、処理の効率化とサイクル時間短縮を図ることが可能である。」

(セ)「【0035】また、反射防止膜(蒸着膜)とは、例えばレンズ等の光学基板表面を反射を減少させるために設けられた ZrO_(2)、SiO_(2)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5) 、Y_(2)O_(3)、MgF_(2)、Al_(2)O_(3)などから形成される単層または多層膜(但し、最外層にSiO_(2)膜を有する)またCrO_(2)などの着色膜(但し、最外層にSiO_(2)膜を有する)のことを言う。」

(ソ)「【0038】実施例1
プラスチックレンズとして、ポリチオウレタン系レンズ(HOYA(株)製Hi-Lux、屈折率1.60、度数0.00)を用いた。真空蒸着装置は、図1に示す予熱室と第一蒸着室と第二蒸着室を独立して備えた連続型真空蒸着装置を使用した。前記プラスチックレンズをレンズ支持具に装着し予熱室(CH1)に投入し真空雰囲気で所定時間加熱した後、内部に設けられた搬送装置により外気に触れることなく既に真空状態になっている第一蒸着室(CH2)に搬送し、この第一蒸着室内で以下のようにして反射防止膜を成膜した。
【0039】先ずこの蒸着に適した温度まで加熱されたプラスチックレンズ上に真空蒸着法(真空度2×10^(-5)Torr )により、二酸化ケイ素からなる下地層〔屈折率1.46、膜厚0.5λ(λは550nmである)〕を形成した。次にこの下地層の上に、プラスチックレンズに酸素イオンビームを照射するイオンビームアシスト法にて二酸化チタンからなる層(膜厚0.06λ)、真空蒸着法にて二酸化ケイ素からなる層(膜厚0.12λ)、さらにイオンビームアシスト法にて二酸化チタンからなる層(膜厚0.06λ)よりなる3層等価膜である第1層〔屈折率1.70、膜厚0.24λ〕を形成した。次にこの第1層の上に、プラスチックレンズに酸素イオンビームを照射するイオンビームアシスト法により二酸化チタンからなる第2層(屈折率2.40、膜厚0.5λ)を形成した。次にこの第2層の上に、真空蒸着法(真空度2×10^(-5) Torr)により二酸化ケイ素からなる第3層〔屈折率1.46、膜厚0.25λ〕を形成して、反射防止膜付きプラスチックレンズを得た。このレンズの視感反射率は0.4%であった。この蒸着の工程においてプラスチックレンズの表面温度は最高で約95℃まで上がった。
【0040】この反射防止膜を成膜したプラスチックレンズは、内部に設けられた搬送装置により外気に触れることなく既に真空雰囲気になっている第二蒸着室(CH3)に搬送した。この第二蒸着室内で以下のようにして撥水膜を成膜した。前記撥水処理剤1を0.75mlしみ込ませたステンレス製焼結フィルター(メッシュ80?120μm、18φ×3mm)を真空蒸着装置内にセットし、ハロゲンランプを内蔵したヒータで加熱した。加熱温度は、550℃まで3分間で上昇させ(ヒータ出力3.5A)、550℃から600℃までは2分間(ヒータ出力2.5A)で上昇させた。装置の真空度は10^(-3)Torr とした。レンズ支持具の回転数は1000?1300rpmで行った。撥水処理剤は約570℃で蒸発を開始した。蒸着後は第二蒸着室内で所定の時間放置し冷却した後取り出した。このようにして作成した撥水膜付レンズの物性を表1に示す。静止接触角は109.8°であった。干渉色の色ムラや干渉色変化は見られず、耐久性も良好であった。滑り性も従来品を大きく上まわった。」

原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平9-258003号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下の(タ)ないし(ト)の記載がある。

(タ)「【請求項1】 レンズ表面に、一般式 化1で示され、分子量が5×10^(2)?1×10^(5) の含フッ素シラン化合物の層を形成してなる防汚性レンズ。
【化1】

(式中、R_(f) は炭素数1?16の直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基、Xはヨウ素または水素、Yは水素または低級アルキル基、Zはフッ素またはトリフルオロメチル基、R^(1) は加水分解可能な基、R^(2) は水素または不活性な一価の有機基、a、b、c、dは0?200の整数、eは0または1、mおよびnは0?2の整数、pは1?10の整数を表す。)
【請求項2】 含フッ素シラン化合物が一般式 化2で示される請求項1記載の防汚性レンズ。
【化2】

(式中、Yは水素または低級アルキル基、R^(1) は加水分解可能な基、rは1?10の整数を、qは1?50の整数を、mは0?2の整数を表す。)
【請求項3】 レンズ表面と含フッ素シラン化合物層との間にハードコート層および/または無機化合物の層からなる反射防止膜が介在する請求項1記載の防汚性レンズ。」

(チ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はカメラ、眼鏡等に用いられるレンズに関する。詳しくは防汚性を付与したレンズに関する。
【0002】
【従来の技術】眼鏡レンズやカメラ等のレンズには、光の反射を押さえ、光の透過性を高めるために、通常、その表面に反射防止処理が施されている。しかしながら、レンズ特に眼鏡レンズ等では、人が使用するに際し、手垢、指紋、汗、化粧料等の付着があり、反射防止膜を形成させると、その付着による汚れが目立ちやすく、またその汚れがとれにくくなる。
【0003】そこで、汚れにくく、あるいは汚れを拭き取りやすくするために、反射防止膜の表面に更に防汚層を設ける工夫がなされている。例えば、特開昭62-80603公報では、反射防止層上に末端にシラノール基を有する有機ポリシロキサンを皮膜した眼鏡レンズが提案されている。更に特開昭61-247743公報では、プラスチック表面にポリフルオロアルキル基を含むモノ及びジシラン化合物およびハロゲン、アルキル、またはアルコキシのシラン化合物とからなる反射防止膜を有する低反射性と防汚性を有する低反射プラスチックが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の提案された物品の耐汚染性は、それなりに効果のあるものの未だ充分ではない。特に、付着した汚染物は拭き取りにくく、また拭き取るときに水や有機溶剤を用いるために、耐汚染性を発現する物質が除かれやすく、耐汚染性の永続性に乏しい。
【0005】本発明者はかかる事情に鑑み、防汚性に優れたレンズを得るべく鋭意検討した結果、レンズ表面に特定の含フッ素シラン化合物の層を形成することにより、汚染防止性がより高いのみならず、汚染物の除去が容易でしかもその効果が永続することを見出し、本発明に至った。
【0006】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、レンズ表面に一般式 化3で示され、分子量が5×10^(2)?1×10^(5) の含フッ素シラン化合物の層を形成してなる防汚性レンズである。
【化3】

(式中、R_(f) は炭素数1?16の直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基、Xはヨウ素または水素、Yは水素または低級アルキル基、Zはフッ素またはトリフルオロメチル基、R^(1) は加水分解可能な基、R^(2) は水素または不活性な一価の有機基、a、b、c、dは0?200の整数、eは0または1、mおよびnは0?2の整数、pは1?10の整数を表す。)
以下、本発明を詳細に説明する。」

(ツ)「【0013】反射防止膜はレンズ基材の表面に直接、またはレンズ基材表面に形成したハードコート層の表面に付与する。反射防止膜は無機酸化物、または無機ハロゲン化物などの無機化合物の単層または多層の薄膜からなる公知のもので良く、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの公知の方法により形成する。
【0014】なお、用いられる無機化合物としては、例えば、酸化イットリウム、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化トリウム、酸化スズ、酸化ランタン、一酸化珪素、酸化インジウム、酸化ネオジウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化チタン、酸化ビスマスなどの無機酸化物、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化ランタン、フッ化ネオジウム、フッ化セリウム、フッ化鉛等の無機ハロゲン化物、硫化亜鉛、硫化カドミウム、三硫化アンチモン等の硫化物、セレン化亜鉛、テルル化カドミウム、テルル化鉛、珪素、ゲルマニウム、テルルなどを挙げることができる。」

(テ)「【0015】汚染防止性を付与する含フッ素シラン化合物は、前記一般式 化3で示さる。一般式 化3中のR_(f) は炭素数1?16の直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基であるが、好ましくはCF_(3) -,C_(2) F_(5) -,C_(3) F_(7) -である。R^(1) の加水分解可能な基として、ハロゲン、-OR^(3) 、-OCOR^(3) 、-OC(R^(3))=C(R^(4))_(2) 、-ON=C(R^(3))_(2) 、-ON=CR_(5) が好ましい(ただし、R^(3) は脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基、R^(4) は水素または低級脂肪族炭化水素基、R^(5) は炭素数3?6の二価の脂肪族炭化水素基である。)。さらに好ましくは、塩素、-OCH_(3) 、-OC_(2) H_(5) である。R^(2) は水素または不活性な一価の有機基であるが、好ましくは、炭素数1?4の一価の炭化水素基である。a、b、c、dは0?200の整数であるが、好ましくは1?50であり、eは0または1である。mおよびnは0?2の整数であるが、好ましくは0である。pは1以上の整数であり、好ましくは1?10の整数である。
【0016】また分子量は5×10^(2) ?1×10^(5) であるが、好ましくは5×10^(2) ?1×10^(4) である。
【0017】また、上記一般式 化3で示される含フッ素シラン化合物の好ましい構造のものとして、下記一般式 化4で示されるものが挙げられる。
【化4】

(式中、Yは水素または低級アルキル基、R^(1) は加水分解可能な基、pは1以上の整数を、qは1?50の整数を、mは0?2の整数を表す。)
【0018】これらの含フッ素シラン化合物は市販のパーフルオロポリエーテルをシラン処理することによって得ることができる。例えば、特開平1-294709号公報に開示のあるごとくである。
【0019】含フッ素シラン化合物の層はレンズ基材の表面に直接、ハードコート層の表面または反射防止膜の表面に形成される。含フッ素シラン化合物層を形成させるには、ハードコート層の形成の際の原料塗布と同様な塗布方法によればよい。すなわち、スピン塗装、浸漬塗装、ロールコート塗装、グラビアコート塗装、カーテンフロー塗装等が用いられる。なお、塗布する際には溶剤で希釈する方が塗布しやすい。その溶剤としては、パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ-1,3-ジメチルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0020】また、含フッ素シラン化合物層は前述した方法以外に真空蒸着法により設けることもできる。その際には原料化合物は高濃度、または希釈溶剤なしに使用することができる。」

(ト)「【0024】実施例1
下式 化5で示される含フッ素シラン化合物(分子量:約5000、ダイキン工業(株)製)をパーフルオロヘキサンで希釈して濃度が2.0g/Lの溶液とした。
【0025】
【化5】

ガラス製のレンズをこの溶液に浸漬し、15cm/分の速度で引き上げて塗布した。塗布後は室温条件下で一昼夜放置して溶剤を揮散させ、含フッ素シラン化合物の層が付与されたガラスレンズを得た。各種物性を評価した結果を表1に示した。
【0026】実施例2
ガラスレンズの表面に特開昭56-113101号公報の実施例に準じて、真空蒸着装置((株)シンクロン製;BMC-700)を用い、二酸化珪素、酸化チタン、二酸化珪素、酸化チタン、二酸化珪素の順序で5層の薄膜を形成し、反射防止膜を形成させた。このガラスレンズを用いて実施例1と同様にして、含フッ素シラン化合物の層を形成したガラスレンズを得た。各種物性を評価した結果を表1に示した。」

ウ 引用例1ないし3に記載の発明の認定
(ア)引用例1の上記記載事項(ク)の段落【0134】ないし【0138】の記載から、引用例1の上記記載事項(ク)の段落【0136】の「この樹脂フィルム」はアンダーコート層が形成された樹脂フィルムを意味し、引用例1の上記記載事項(ク)の段落【0137】の「この樹脂フィルム」及び段落【0138】の「被蒸着基板」は、ともに、反射防止層が形成された樹脂フィルムを意味することは明らかである。
したがって、上記記載事項(ア)ないし(ク)から、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。

「偏光層およびこの偏光層の両表面に形成された樹脂フィルムを有する偏光基板の一方の樹脂フィルムの表面にアンダーコート層を形成する工程と、
前記アンダーコート層が形成された前記樹脂フィルムを真空槽にセットし、前記アンダーコート層の表面に真空蒸着法によりアンダーコート層側からSiO_(2) 層、TiO_(2) 層、SiO_(2) 層を順次形成して反射防止層を形成する工程と、
次いで、前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを真空槽にセットし、真空槽内を10^(-6)Torrまで排気し、前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを酸素プラズマに曝した後に、前記反射防止層の表面に真空蒸着法により下記式(1)で示される含フッ素シラン化合物からなる汚染防止層を形成する工程と、
を含む偏光板の製造方法。
式(1)
(R^(1) )_(a) (R^(2) )_(b) -Si-(X)_(c)
式(1)中、
R^(1) はフッ素を含む有機基、
R^(2) は水素または有機基、
Xはハロゲン基,水酸基,アミノ基,アルコキシ基およびこれらの基の一部が置換された基から選択される少なくとも一種の加水分解可能な反応性基、
a は1?3の整数、
b は0または1?2の整数、
c は1?3の整数を示す。」(以下、「引用発明1」という。)

(イ)引用例2の段落【0002】から、引用例2の「撥水性薄膜」が防汚機能を有することは明らかである。
したがって、上記記載事項(ケ)ないし(ソ)から、引用例2には次のような発明が記載されていると認めることができる。

「第一蒸着室内でプラスチック製光学部材上に最外層にSiO_(2) 膜を有する多層膜からなる反射防止膜を真空蒸着し、この反射防止膜を成膜したプラスチック製光学部材を内部に設けられた搬送装置により外気に触れることなく既に真空雰囲気になっている第二蒸着室に搬送し、次いで第二蒸着室内で該反射防止膜上に防汚機能を有する撥水性薄膜を真空蒸着により形成する防汚機能を有する撥水性薄膜を有する光学部材の製造方法であって、
前記撥水性薄膜の蒸着は、フッ素含有有機ケイ素化合物を、前記プラスチック製光学部材の温度が前記反射防止膜蒸着の際のプラスチック製光学部材の最大温度を超えない条件下で加熱して蒸発させ、蒸発したフッ素含有有機ケイ素化合物を前記反射防止膜を有するプラスチック光学部材上に付着させることにより行われ、前記加熱は、常温から前記フッ素含有有機ケイ素化合物の蒸発開始温度より低い所定の温度(1)まで上昇させる第一の昇温段階と、前記所定の温度(1)から前記蒸発開始温度以上の所定の温度(2)まで上昇させる第二の昇温段階を含むようにおこなわれ、かつ第一の昇温段階の昇温速度は第二の昇温段階の昇温速度より大きい光学部材の製造方法。」

(ウ)また、上記記載事項(タ)ないし(ト)から、引用例3には次のような発明が記載されていると認めることができる。

「二酸化珪素、酸化チタン、二酸化珪素、酸化チタン、二酸化珪素の順序で積層された5層の薄膜からなる反射防止膜を真空蒸着法によりレンズ表面に形成し、前記反射防止膜の表面に【化1】で示され、分子量が5×10^(2)?1×10^(5) の含フッ素シラン化合物の層を真空蒸着法により形成してなる防汚性レンズ。
【化1】

(式中、R_(f) は炭素数1?16の直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基、Xはヨウ素または水素、Yは水素または低級アルキル基、Zはフッ素またはトリフルオロメチル基、R^(1) は加水分解可能な基、R^(2) は水素または不活性な一価の有機基、a、b、c、dは0?200の整数、eは0または1、mおよびnは0?2の整数、pは1?10の整数を表す。)」

エ 本願補正発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
(ア)引用発明1の「前記アンダーコート層が形成された前記樹脂フィルム」は、本願補正発明の「基板」に相当する。そして、引用発明1の「前記アンダーコート層が形成された前記樹脂フィルムを真空槽にセットし、前記アンダーコート層の表面に真空蒸着法によりアンダーコート層側からSiO_(2) 層、TiO_(2) 層、SiO_(2) 層を順次形成して反射防止層を形成する工程」は、本願補正発明の「真空蒸着によって基板表面に反射防止膜を形成する反射防止膜形成工程」に相当する。
また、引用発明1の「汚染防止層」が「形成」された「偏光板の製造方法」は、本願補正発明の「防汚性光学物品の製造方法」に相当する。

(イ)引用発明1の「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを真空槽にセットし、真空槽内を10^(-6)Torrまで排気し、前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを酸素プラズマに曝」す工程と本願補正発明の「酸素もしくはアルゴンを導入してプラズマ処理を行うことによって、前記反射防止膜表面にシラノール基を生成するプラズマ処理工程」とは、「酸素」「を導入してプラズマ処理を行う」「プラズマ処理工程」である点で一致する。

(ウ)引用発明1の「反射防止層」は「前記アンダーコート層の表面に真空蒸着法によりアンダーコート層側からSiO_(2) 層、TiO_(2) 層、SiO_(2) 層を順次形成して」形成されるものであるから、引用発明1の「真空槽内を10^(-6)Torrまで排気し、前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを酸素プラズマに曝」す際の前記「反射防止層」の最上層は「SiO_(2) 層」である。また、引用例1の上記記載事項(ウ)の段落【0009】には「汚染防止層の下位に位置する反射防止層は、通常、例えばSiO_(2) 膜等の無機質膜から構成され、その表面には極性の大きな-OH基が露出して」いることが記載され、引用例1の上記記載事項(エ)の段落【0017】には「Xはハロゲン基,水酸基,アミノ基,アルコキシ基およびこれらの基の一部が置換された基から選択される少なくとも一種の加水分解可能な反応性基」であることが記載され、引用例1の上記記載事項(ウ)の段落【0010】には「前記反射防止層と汚染防止層とは、反応性置換基を介して化学的に結合している」ことが記載されている。したがって、引用発明1の「汚染防止層」が「形成」された「偏光板の製造方法」では、「反射防止層」の表面に「汚染防止層」を形成するまでに、前記「反射防止層」の最上層を構成する「SiO_(2) 層」の表面にシラノール基(Si-OH)が生成されていることは明らかである。
さらに、引用例1の上記記載事項(ウ)の段落【0010】には「前記反射防止層と汚染防止層とは、反応性置換基を介して化学的に結合しているため、両者の密着力は強固であり、汚染防止層が剥がれるようなことはない。また、含フッ素シラン化合物は耐薬品性、耐熱性、耐擦傷性および耐候性等の化学的,物理的特性において優れている。」と記載され、引用例1の上記記載事項(ク)の段落【0140】には「この偏光板600について、前記実施例1と同様に特性試験を行った。その結果、偏光板の特性として、…(中略)…c.耐薬品性およびd.汚染防止性の各特性において、汚れの拭き取り性が若干悪かったものの、実施例1と同様に良好な結果が得られた。」と記載され、引用例1の上記記載事項(キ)の段落【0059】乃至【0061】には、実施例1の「耐薬品性」の特性試験として「耐アルカリ性」の特性試験を行い、「耐薬品性に優れていることが確認された」ことも記載されている。したがって、引用発明1の前記「反射防止層」と前記「含フッ素シラン化合物からなる汚染防止層」とは、前記「反射防止層」の表面に生成されたシラノール基(Si-OH)と前記「汚染防止層」の材料である含フッ素シラン化合物の反応性基とが加水分解反応をして、前記「反射防止層」と前記「含フッ素シラン化合物からなる汚染防止層」とが前記反応性基を介して化学的に結合しており、その結果、前記「反射防止層」と前記「含フッ素シラン化合物からなる汚染防止層」との密着力は強固であり、前記「汚染防止層」は耐アルカリ性に優れていることは明らかである。
他方、本願補正発明の「防汚性光学物品の製造方法」は「酸素もしくはアルゴンを導入してプラズマ処理を行うことによって、前記反射防止膜表面にシラノール基を生成するプラズマ処理工程と、下記の一般式(1)および/または一般式(2)で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物を真空蒸着して防汚層を形成する防汚層形成工程とを有する」から、本願補正発明の「防汚層形成工程」では、「シラノール基」が「生成」された「前記反射防止膜表面に」「フッ素含有有機ケイ素化合物を真空蒸着して防汚層を形成する」と認められる。そして、このように、「シラノール基」が「生成」された「前記反射防止膜表面に」「フッ素含有有機ケイ素化合物を真空蒸着して防汚層を形成する」ことにより、本願補正発明では、「前記反射防止膜」表面に「フッ素含有有機ケイ素化合物」を強固に結合させて、防汚層の耐アルカリ性を向上させていると認められる(本願の明細書の段落【0011】、【0017】、【0030】等を参照。)。
したがって、引用発明1の「前記反射防止層の表面に真空蒸着法により下記式(1)で示される含フッ素シラン化合物からなる汚染防止層を形成する工程」と本願補正発明の「下記の一般式(1)および/または一般式(2)で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物を真空蒸着して防汚層を形成する防汚層形成工程」とは、「シラノール基」が「生成」された「前記反射防止膜表面に」「フッ素含有有機ケイ素化合物を真空蒸着して防汚層を形成する防汚層形成工程」である点で一致する。また、引用発明1の前記「前記反射防止層の表面に真空蒸着法により下記式(1)で示される含フッ素シラン化合物からなる汚染防止層を形成する工程」と本願補正発明の「下記の一般式(1)および/または一般式(2)で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物を真空蒸着して防汚層を形成する防汚層形成工程」とは、「シラノール基」が「生成」された「前記反射防止膜」表面に「フッ素含有有機ケイ素化合物」を強固に結合させて、防汚層の耐アルカリ性を向上させている点でも一致する。

(エ)引用発明1の「汚染防止層」が「形成」された「偏光板の製造方法」では、「前記アンダーコート層が形成された前記樹脂フィルムを真空槽にセットし、前記アンダーコート層の表面に真空蒸着法によりアンダーコート層側からSiO_(2) 層、TiO_(2) 層、SiO_(2) 層を順次形成して反射防止層を形成」しているから、引用発明1の「反射防止層を形成する工程」は真空雰囲気で行われていると認められる。
また、引用発明1の「汚染防止層」が「形成」された「偏光板の製造方法」では、「次いで、前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを真空槽にセットし、真空槽内を10^(-6)Torrまで排気し、前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを酸素プラズマに曝した後に、前記反射防止層の表面に真空蒸着法により下記式(1)で示される含フッ素シラン化合物からなる汚染防止層を形成」しているから、引用発明1の「酸素プラズマに曝」す工程及び「汚染防止層を形成する工程」はいずれも真空雰囲気で行われていると認められる。
さらに、引用発明1の「汚染防止層」が「形成」された「偏光板の製造方法」では、「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを酸素プラズマに曝した後」、「前記反射防止層の表面に真空蒸着法により下記式(1)で示される含フッ素シラン化合物からなる汚染防止層を形成」するまでの間に「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルム」を大気中に解放すること等を行っていないから、引用発明1の「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを酸素プラズマに曝」す工程と「前記反射防止層の表面に真空蒸着法により下記式(1)で示される含フッ素シラン化合物からなる汚染防止層を形成する工程」との間も真空雰囲気が保持されていることは明らかである。
しかし、引用発明1の「汚染防止層」が「形成」された「偏光板の製造方法」では、「反射防止層を形成する工程」の後、「次いで、前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを真空槽にセットし、真空槽内を10^(-6)Torrまで排気し」、その後、「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを酸素プラズマに曝」しているから、引用発明1の「汚染防止層」が「形成」された「偏光板の製造方法」では、「反射防止層を形成する工程」後「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを酸素プラズマに曝」すまでの間に、「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルム」は一旦真空ではない雰囲気中に取り出されていると認められる。
したがって、引用発明1の「前記アンダーコート層が形成された前記樹脂フィルムを真空槽にセットし、前記アンダーコート層の表面に真空蒸着法によりアンダーコート層20側からSiO_(2) 層、TiO_(2) 層、SiO_(2) 層を順次形成して反射防止層を形成する工程」及び「次いで、前記反射防止層が形成された樹脂フィルムを真空槽にセットし、真空槽内を10^(-6)Torrまで排気し、前記反射防止層が形成された樹脂フィルムを酸素プラズマに曝した後に、前記反射防止層の表面に真空蒸着法により下記式(1)で示される含フッ素シラン化合物からなる汚染防止層を形成する工程」と本願補正発明の「前記反射防止膜形成工程、前記プラズマ処理工程、前記防汚層形成工程の全工程を、前記基板を大気中に解放することなく、真空中に保持されたままの状態で行うこと」とは、前記反射防止膜形成工程、前記プラズマ処理工程、前記防汚層形成工程の全工程のうち前記反射防止膜形成工程と前記プラズマ処理工程との間を除いて、前記基板を大気中に解放することなく、真空中に保持されたままの状態で行う点で一致する。

(オ)したがって、本願補正発明と引用発明1とは、

「真空蒸着によって基板表面に反射防止膜を形成する反射防止膜形成工程と、酸素を導入してプラズマ処理を行うプラズマ処理工程と、シラノール基が生成された前記反射防止膜表面にフッ素含有有機ケイ素化合物を真空蒸着して防汚層を形成する防汚層形成工程とを有する防汚性光学物品の製造方法であって、
前記反射防止膜形成工程、前記プラズマ処理工程、前記防汚層形成工程の全工程のうち前記反射防止膜形成工程と前記プラズマ処理工程との間を除いて、前記基板を大気中に解放することなく、真空中に保持されたままの状態で行うことを特徴とする防汚性光学物品の製造方法。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

〈相違点1〉
本願補正発明の「防汚層」の材料である「フッ素含有有機ケイ素化合物」が「一般式(1)および/または一般式(2)で表される」ものであるのに対し、引用発明1の「防汚層」の材料である「含フッ素シラン化合物」が上記「一般式(1)および/または一般式(2)で表される」ものでない点。

〈相違点2〉
本願補正発明の「防汚性光学物品の製造方法」では、「反射防止膜表面」の「シラノール基」を「酸素」「を導入してプラズマ処理を行う」「プラズマ処理工程」で生成するのに対し、引用発明1の「汚染防止層」が「形成」された「偏光板の製造方法」では、「反射防止層」の表面に「汚染防止層」を形成するまでのいずれの工程で前記シラノール基を生成するのか明確でない点。

〈相違点3〉
本願補正発明の「防汚性光学物品の製造方法」では「反射防止膜形成工程」と「プラズマ処理工程」との間も「基板を大気中に解放することなく、真空中に保持されたままの状態で」あるのに対し、引用発明1の「汚染防止層」が「形成」された「偏光板の製造方法」では「反射防止層を形成する工程」後「前記反射防止層が形成された樹脂フィルムを酸素プラズマに曝」すまでの間に、「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルム」は一旦真空ではない雰囲気中に取り出されている点。

オ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
引用例3に記載された発明の【化1】で表される防汚層の材料は、本願補正発明の一般式(1)で表される防汚層の材料に相当する。
そして、引用発明1の「汚染防止層」と引用例3に記載された発明の「防汚層」とは、ともに、光学部品の表面に真空蒸着されて前記光学部品の汚染を防止する機能を有する含フッ素シラン化合物という材料からなる点で共通するから、引用発明1の「汚染防止層」の材料として引用例3に記載された発明の【化1】で表される材料を採用することは、当業者にとって容易に想到し得る。
したがって、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(イ)相違点2,3について
a 前記「エ 本願補正発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定」の「(ウ)」欄で述べたとおり、引用発明1の「真空槽内を10^(-6)Torrまで排気し、前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを酸素プラズマに曝」す際の前記「反射防止層」の最上層は「SiO_(2) 層」である。そして、真空雰囲気でSiO_(2) 層を酸素もしくはアルゴンを導入してプラズマ処理すると前記SiO_(2) 層の表面にシラノール基が生成されることは周知である(例えば、国際公開第01/61743号(第11頁下から6行目?下から3行目)、特開平6-82603号公報(段落【0003】ないし【0005】、【0009】ないし【0012】、【0017】、【0019】、【0023】、【0033】)を参照。なお、国際公開第01/61743号の第11頁下から6行目?下から3行目には、「例えば、図2に示すように、PECVD法によって形成されたSiO_(2) はデバイスを含むシリコンウェハ上に堆積される。プラズマ(アルゴン、酸素またはCF_(4)のような)処理後の表面34は、プラズマシステム中および空気中の湿気の効力のためにSi-OH基によって終端される。」と記載されている。また、特開平6-82603号公報の段落【0033】の「トリメチルシラノールを5cc/minの割合で真空槽内へ2分間導入」することは同文献の段落【0017】の「真空雰囲気中」「でシラン化合物のガスを反射防止膜表面と反応させる方法」に該当することは明らかであり、同文献の段落【0017】の記載から「真空雰囲気中」「でシラン化合物のガスを反射防止膜表面と反応させる方法」では、「DiP法、スピンナー法、スプレー法」とは異なり、「真空槽内から取り出して新たな工程を増やす必要」がないことも明らかであるから、同文献の段落【0017】の「真空雰囲気中」「でシラン化合物のガスを反射防止膜表面と反応させる方法」では、真空中で光学物品に反射防止膜を形成した後、真空槽から取り出すことなく有機シラン化合物のガスを前記反射防止膜表面と反応させていると認められる。したがって、同文献の段落【0033】の「SiO_(2) 表面」の「アルゴンプラズマ」「処理」も、真空中で光学物品に反射防止膜を形成した後、真空槽から取り出すことなく行われていると認められる。また、同文献の段落【0033】の前記反射防止膜の最上層である「SiO_(2) 表面」の「アルゴンプラズマ」「処理」は反射防止膜を形成後有機シラン化合物の蒸着前になされる処理であるから同文献の段落【0033】の前記「アルゴンプラズマ」「処理」は同文献の段落【0019】の「シラン化合物との反応性を高める為」の「前処理」に該当し、前記反射防止膜の最上層であるSiO_(2) 膜表面と有機シラン化合物との反応機構が同文献の段落【0010】ないし【0012】に記載されているように前記反射防止膜の最上層であるSiO_(2) 膜表面のOH基と有機シラン化合物のOH基との脱水反応であることに照らすと、同文献の段落【0019】の「シラン化合物との反応性を高める」こととは前記反射防止膜の最上層であるSiO_(2) 膜表面にシラノール基を生成することを意味することは明らかである。)。したがって、引用発明1の前記「反射防止層」の最上層を構成する「SiO_(2) 層」を「10^(-6)Torr」の真空雰囲気下で「酸素プラズマに曝」す工程で、引用発明1の前記「反射防止層」の最上層を構成する「SiO_(2) 層」の表面にシラノール基が生成されると認めることが可能である。
他方、上記「エ 本願補正発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定」の「(エ)」欄で検討したとおり、引用発明1の「汚染防止層」が「形成」された「偏光板の製造方法」では、「反射防止層を形成する工程」後「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを酸素プラズマに曝」すまでの間に、「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルム」は一旦真空ではない雰囲気中に取り出されていると認められるところ、表面にSiO_(2) 層を有する物品を真空槽外に搬出すると大気中の水や湿気により前記SiO_(2) 層の表面にシラノール基が生成されることが本願出願時において周知の事項である(例えば、特開平5-239243号公報(段落【0002】ないし【0004】、【0007】、【0011】ないし【0014】)、国際公開第01/61743号(第11頁下から6行目ないし下から3行目)を参照。)ことに鑑みると、引用発明1の「汚染防止層」が「形成」された「偏光板の製造方法」では、「反射防止層を形成する工程」後「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを酸素プラズマに曝」すまでの間に、「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルム」が一旦真空ではない雰囲気中に取り出された際に前記「反射防止層」の最上層である「SiO_(2) 層」の表面にシラノール基が生成され、「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを酸素プラズマに曝」す工程では実質的に前記「反射防止層」の最上層である「SiO_(2) 層」の表面にシラノール基が生成されないと認めることも可能である。
すると、引用発明1の前記「反射防止層」の最上層を構成する「SiO_(2) 層」の表面のシラノール基が、引用発明1の前記「反射防止層」の最上層を構成する「SiO_(2) 層」を「10^(-6)Torr」の真空雰囲気下で「酸素プラズマに曝」す工程で生成されるという可能性と、引用発明1の「反射防止層を形成する工程」後「前記反射防止層が形成された樹脂フィルムを酸素プラズマに曝」すまでの間に、「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルム」が一旦真空ではない雰囲気中に取り出された際に生成され、「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを酸素プラズマに曝」す工程では生成されないという可能性とがある。そこで、これら2つの可能性について、次に、検討する。

b まず、引用発明1の前記「反射防止層」の最上層を構成する「SiO_(2) 層」を「10^(-6)Torr」の真空雰囲気下で「酸素プラズマに曝」すと、引用発明1の前記「反射防止層」の最上層を構成する「SiO_(2) 層」の表面にシラノール基が生成されると認める場合について検討する。
この場合には、上記相違点2は、相違点ではなくなる。
そこで、上記相違点3について検討する。引用発明1の「汚染防止層」が「形成」された「偏光板の製造方法」と引用例2に記載された発明の「防汚機能を有する撥水性薄膜を有する光学部材の製造方法」とは、ともに、光学部品の上に反射防止膜を真空蒸着法により形成し、前記反射防止膜の上にさらに防汚層を真空蒸着法により形成する製造方法である点で一致する。また、引用例2の上記記載事項(ス)の「処理の効率化」や「サイクル時間短縮」を図るという課題は、薄膜形成方法の分野において一般的な課題である。したがって、前記課題を解決するために、引用発明1の「汚染防止層」が「形成」された「偏光板の製造方法」に引用例2に記載された発明の「光学部材上に反射防止膜を蒸着し、この反射防止膜を成膜した光学部材を内部に設けられた搬送装置により外気に触れることなく既に真空雰囲気になっている第二蒸着室に搬送し、次いで第二蒸着室内で該反射防止膜上に防汚機能を有する撥水性薄膜を蒸着により形成する」という製造方法を採用することは、当業者にとって容易に想到し得る。
したがって、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。
また、本願補正発明の効果は、引用発明1及び引用例2,3に記載された発明並びに周知事項から予測し得る程度のものである。

c 次に、引用発明1の「汚染防止層」が「形成」された「偏光板の製造方法」では、「反射防止層を形成する工程」後「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを酸素プラズマに曝」すまでの間に、「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルム」が一旦真空ではない雰囲気中に取り出された際に前記「反射防止層」の最上層である「SiO_(2) 層」の表面にシラノール基が生成され、「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルムを酸素プラズマに曝」す工程では実質的に前記「反射防止層」の最上層である「SiO_(2) 層」の表面にシラノール基が生成されないと認める場合について検討する。
真空雰囲気でSiO_(2) 層を酸素もしくはアルゴンを導入してプラズマ処理すると前記SiO_(2) 層の表面にシラノール基が生成されることは周知の事項であることは、前記「オ 相違点についての判断」の「(イ)相違点2,3について」の「a」の欄で述べたとおりである。
そして、引用発明1の「汚染防止層」が「形成」された「偏光板の製造方法」と引用例2に記載された発明の「防汚機能を有する撥水性薄膜を有する光学部材の製造方法」とは、ともに、光学部品の上に反射防止膜を真空蒸着法により形成し、前記反射防止膜の上にさらに防汚層を真空蒸着法により形成する製造方法である点で一致する。
すると、引用発明1と引用例2に記載された発明との製造方法における前記一致点及び上記周知の事項に照らし、引用発明1の「汚染防止層」が「形成」された「偏光板の製造方法」において、「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルム」が一旦真空ではない雰囲気中に取り出されることにより前記「反射防止層」の最上層である「SiO_(2) 層」の表面にシラノール基を生成することに代えて、引用例2に記載された発明の「第一蒸着室内でプラスチック製光学部材上に最外層にSiO_(2) 膜を有する多層膜からなる反射防止膜を真空蒸着し、この反射防止膜を成膜したプラスチック製光学部材を内部に設けられた搬送装置により外気に触れることなく既に真空雰囲気になっている第二蒸着室に搬送し、次いで第二蒸着室内で該反射防止膜上に防汚機能を有する撥水性薄膜を真空蒸着により形成する」という製造方法を採用して全工程を真空雰囲気下で行うようにして、「反射防止層を形成する工程」後、「前記反射防止層が形成された前記樹脂フィルム」を真空ではない雰囲気に取り出すことなく真空雰囲気が保持されたまま「酸素プラズマに曝」すことにより、前記「反射防止層」の最上層である「SiO_(2) 層」の表面にシラノール基を生成することは、当業者にとって容易に想到し得る。
したがって、上記相違点2,3に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。
また、本願補正発明の効果は、引用発明1及び引用例2,3に記載された発明並びに周知事項から予測し得る程度のものである。

カ 本願補正発明の独立特許要件の判断
以上のとおり、本願補正発明は引用例1ないし3に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本件補正は平成18年改正前の特許法第17条の2第4項の規定に適合するものではなく、また、仮に、同法第17条の2第4項第2号の規定に適合するものであったとしても、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、本件補正は同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本件審判請求についての判断
1 本願発明の認定
本件補正が却下されたから、平成19年8月9日付けの手続補正により補正された明細書及び図面に基づいて審理すると、本願の請求項1に係る発明は、平成19年8月9日付けで補正された特許請求の範囲の【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「真空蒸着によって基板表面に反射防止膜を形成後、酸素もしくはアルゴンを導入してプラズマ処理を行うことによって、前記反射防止膜表面にシラノール基を生成し、その後、下記の一般式(1)および/または一般式(2)で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物を真空蒸着して防汚層を形成することを特徴とする防汚性光学物品の製造方法。
ただし、一般式(1)において、式中、Rf^(1)はパーフルオロアルキル基、Xは水素、臭素、またはヨウ素、Yは水素または低級アルキル基、Zはフッ素またはトリフルオロメチル基、R^(1)は水酸基または加水分解可能な基、R^(2)は水素または1価の炭化水素基を表す。a、b、c、d、eは0以上の整数で、a+b+c+d+eは少なくとも1以上の整数であり、a、b、c、d、eでくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において限定されない。fは0、1、2のいずれかを表す。gは1、2、3のいずれかを表す。hは1以上の整数を表す。
【化1】

一般式(2)において、式中、Rf^(2)は、式:-(C_(k)F_(2k))O-(前記式中、kは1?6の整数である)で表される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を表す。R^(3)は炭素原子数1?8の一価炭化水素基であり、Xは加水分解性基またはハロゲン原子を表す。pは0、1、2のいずれかを表す。nは1?5の整数を表す。m及びrは2または3を表す。
【化2】

」(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物の記載事項及び引用例1ないし3に記載の発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1ないし3には、前記「第2 補正の却下の決定」の「2 本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の「イ 引用刊行物の記載事項」の欄に摘記したとおりの事項が記載されており、引用例1に記載された発明(引用発明1)及び引用例2ないし3に記載された発明は、前記「第2 補正の却下の決定」の「2 本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の「ウ 引用例1ないし3に記載の発明の認定」の欄に記載したとおりである。

3 対比・判断
前記「第2 補正の却下の決定」の「2 本件補正の適否の検討」の「(1)目的要件(平成18年改正前の特許法第17条の2第4項)についての検討」の欄で述べたとおり、本願発明は本願補正発明と実質的に同一である。
そして、本願補正発明が、前記「第2 補正の却下の決定」の「2 本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の欄に記載したとおり、引用例1ないし3に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、前記「第2 補正の却下の決定」の「2 本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の欄で示した理由と同様の理由により、引用例1ないし3に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は引用例1ないし3に記載された発明及び周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。そして、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-26 
結審通知日 2008-09-02 
審決日 2008-09-16 
出願番号 特願2004-292211(P2004-292211)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 572- Z (G02B)
P 1 8・ 571- Z (G02B)
P 1 8・ 573- Z (G02B)
P 1 8・ 574- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邉 勇鈴野 幹夫  
特許庁審判長 佐藤 昭喜
特許庁審判官 日夏 貴史
村田 尚英
発明の名称 防汚性光学物品の製造方法  
代理人 須澤 修  
代理人 宮坂 一彦  
代理人 上柳 雅誉  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ