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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680102 審決 特許
無効200680258 審決 特許
無効2007800043 審決 特許
不服200512789 審決 特許
無効2007800213 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C09D
審判 全部無効 2項進歩性  C09D
管理番号 1187794
審判番号 無効2007-800191  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-09-11 
確定日 2008-09-22 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3873987号発明「非水性インクジェットインキ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3873987号発明の出願は、平成16年5月14日(優先権主張 平成15年6月27日)を出願日とする出願であって、平成18年11月2日にその特許権の設定の登録がされたところ、平成19年9月11日に請求人秋元友美より請求項1、2に対して無効審判請求がされ、同年12月10日付けで被請求人より審判事件答弁書が提出されると同時に訂正請求がされ、平成20年2月14日付けで請求人より弁駁書が提出され、同年4月24日に特許庁第1審判廷において第1回口頭審理がなされ、同日付けで両者より口頭審理陳述要領書が提出されたものである。
これに対して、同年5月20日付けで訂正拒絶理由、及び無効理由が被請求人に対して通知され、訂正拒絶理由及び無効理由を被請求人に対して通知した旨の職権審理結果が請求人に対して通知されたところ、被請求人より指定期間内である同年6月20日付けで意見書、訂正請求書が提出された。
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
平成19年12月10日付けの訂正請求は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされるから、被請求人が求めている訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、本件特許明細書を、平成20年6月20日付けで提出された訂正請求書に添付された訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正すること、すなわち、以下の訂正事項a?eのとおりである。

訂正事項a:特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】下記一般式(1)で示されるグリコールアセテート類を少なくとも一種含有する2種類以上の混合有機溶剤、顔料および樹脂からなる非水性インクジェットインキにおいて、混合有機溶剤の全量を1とした時の各有機溶剤の混合重量比をそれぞれx_(1)、x_(2)・・・・・・x_(n)(ただしnは整数を表す。)、20℃での各有機溶剤の蒸気圧(mmHg)をそれぞれy_(1)、y_(2)・・・・・・y_(n)(ただしnは整数を表す。)とし、 A=x_(1)y_(1)+x_(2)y_(2)+・・・・・+x_(n)y_(n)、 B=x_(1)/y_(1)+x_(2)/y_(2)+・・・・・+x_(n)/y_(n)とした時、下記の数式(4)、(5)、(6)を全て満たし、混合有機溶剤のインキ中の含有率が80?97重量%であることを特徴とする非水性インクジェットインキ。
CH_(3)CO(OR_(1))_(n)OR_(2) 一般式(1)
(式中、R_(1)はエチレン基またはプロピレン基、R_(2)は炭素数1?4のアルキル基、nは1?3の整数を表す。)
3>A>0.2 数式(4)
7>B>1.5 数式(5)
6>(B-A)>0.2 数式(6) 」
を、
「【請求項1】エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれたグリコールアセテート類を少なくとも一種含有する2種類以上の混合有機溶剤、顔料および樹脂からなる非水性インクジェットインキにおいて、混合有機溶剤の全量を1とした時の各有機溶剤の混合重量比をそれぞれx_(1)、x_(2)・・・・・・x_(n)(ただしnは整数を表す。)、20℃での各有機溶剤の蒸気圧(mmHg)をそれぞれy_(1)、y_(2)・・・・・・y_(n)(ただしnは整数を表す。)とし、 A=x_(1)y_(1)+x_(2)y_(2)+・・・・・+x_(n)y_(n)、 B=x_(1)/y_(1)+x_(2)/y_(2)+・・・・・+x_(n)/y_(n)とした時、下記の数式(4)、(5)、(6)を全て満たし、混合有機溶剤のインキ中の含有率が80?97重量%であることを特徴とする非水性インクジェットインキ(ただし、混合有機溶剤がイソホロン、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなるものを除く。)。
3>A>0.2 数式(4)
7>B>1.5 数式(5)
6>(B-A)>0.2 数式(6)」
と訂正する。

訂正事項b:特許明細書段落【0007】の
「すなわち本発明は、下記一般式(1)で示されるグリコールアセテート類を少なくとも一種含有する2種類以上の混合有機溶剤、顔料および樹脂からなる非水性インクジェットインキにおいて、混合有機溶剤の全量を1とした時の各有機溶剤の混合重量比をそれぞれx_(1)、x_(2)・・・・・・x_(n)(ただしnは整数を表す。)、20℃での各有機溶剤の蒸気圧(mmHg)をそれぞれy_(1)、y_(2)・・・・・・y_(n)(ただしnは整数を表す。)とし、 A=x_(1)y_(1)+x_(2)y_(2)+・・・・・+x_(n)y_(n)、 B=x_(1)/y_(1)+x_(2)/y_(2)+・・・・・+x_(n)/y_(n)とした時、下記の数式(4)、(5)、(6)を全て満たし、混合有機溶剤のインキ中の含有率が80?97重量%であることを特徴とする非水性インクジェットインキに関する。
CH_(3)CO(OR_(1))_(n)OR_(2) 一般式(1)
(式中、R_(1)はエチレン基またはプロピレン基、R_(2)は炭素数1?4のアルキル基、nは1?3の整数を表す。)
3>A>0.2 数式(4)
7>B>1.5 数式(5)
6>(B-A)>0.2 数式(6)」
を、
「すなわち本発明は、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれたグリコールアセテート類を少なくとも一種含有する2種類以上の混合有機溶剤、顔料および樹脂からなる非水性インクジェットインキにおいて、混合有機溶剤の全量を1とした時の各有機溶剤の混合重量比をそれぞれx_(1)、x_(2)・・・・・・x_(n)(ただしnは整数を表す。)、20℃での各有機溶剤の蒸気圧(mmHg)をそれぞれy_(1)、y_(2)・・・・・・y_(n)(ただしnは整数を表す。)とし、 A=x_(1)y_(1)+x_(2)y_(2)+・・・・・+x_(n)y_(n)、 B=x_(1)/y_(1)+x_(2)/y_(2)+・・・・・+x_(n)/y_(n)とした時、下記の数式(4)、(5)、(6)を全て満たし、混合有機溶剤のインキ中の含有率が80?97重量%であることを特徴とする非水性インクジェットインキ(ただし、混合有機溶剤がイソホロン、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなるものを除く。)に関する。
3>A>0.2 数式(4)
7>B>1.5 数式(5)
6>(B-A)>0.2 数式(6)」
と訂正する。

訂正事項c:特許明細書段落【0013】の
「本発明に使用する混合溶剤としては一般式(1)で示されるグリコールアセテート系の有機溶剤を主溶剤として使用することが最も好ましく、使用できるグリコールアセテート系溶剤としてはエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等があげられる。」
を、
「本発明に使用する混合溶剤としては前記グリコールアセテート系の有機溶剤を主溶剤として使用することが最も好ましい。」
と訂正する。

訂正事項d:特許明細書段落【0014】の
「一般式(1)以外に混合溶剤として使用できる有機溶剤は」を、
「前記グリコールアセテート系の有機溶剤以外に混合溶剤として使用できる有機溶剤は」と訂正する。

訂正事項e:特許明細書段落【0031】及び【0032】の
「エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(蒸気圧:0.25mmHg)」を、
「エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(蒸気圧:0.30mmHg)」と訂正する。

2.訂正の適否の判断
(1)訂正事項aは、混合有機溶剤を構成するグリコールアセテート類が、「一般式(1)で示されるグリコールアセテート類」すなわち24種のグリコールアセテート類化合物であったのを、そのうちの「エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれたグリコールアセテート類」すなわち7種のグリコールアセテート類化合物に絞り(以下、「訂正事項a-1」という。)、かつ、「(ただし、混合有機溶剤がイソホロン、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなるものを除く。)」を付加するものである(以下、「訂正事項a-2」という。)。
まず、訂正事項a-1について検討すると、7種のグリコールアセテート類化合物に絞ることは、混合有機溶剤を構成するグリコールアセテート類の選択肢を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、この訂正事項a-1は、7種のグリコールアセテート類化合物に絞るものであり、また、訂正後の7種の溶剤は訂正前の特許明細書の段落【0013】に具体的に溶剤名が記載されている溶剤であることから、この訂正は願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
次に、訂正事項a-2について検討する。
「(ただし、混合有機溶剤がイソホロン、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなるものを除く。)」を付加することにより訂正後の請求項1から除かれることとなる事項は、「特定のグリコールアセテート類を少なくとも一種含有する2種以上の混合有機溶剤」であって、これを除く訂正は、明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるといえる。したがって、この訂正は願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
そうすると、この訂正事項a-2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
以上のとおりであるから、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項bは、訂正事項aと全く同じ訂正内容に特許明細書の記載を訂正するもので、特許請求の範囲の訂正(訂正事項a)に伴って、それに整合させるために特許明細書の訂正を行うものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項cは、「本発明に使用する混合溶剤としては一般式(1)で示されるグリコールアセテート系の有機溶剤を主溶剤として使用することが最も好ましく、」を、「本発明に使用する混合溶剤としては前記グリコールアセテート系の有機溶剤を主溶剤として使用することが最も好ましい。」と訂正し(以下、「訂正事項c-1」という。)、さらに、「使用できるグリコールアセテート系溶剤としてはエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等があげられる。」を削除する訂正(以下、「訂正事項c-2」という。)を行うものである。
まず、訂正事項c-1について検討する。
この訂正は、訂正事項a-1により、グリコールアセテート類が「一般式(1)で示されるグリコールアセテート類」でなくなったことから、「一般式(1)で示される」を削除するもので、訂正後の請求項1の用語に整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
次いで、訂正事項c-2について検討する。
この訂正は、訂正事項bにより、特許明細書の段落【0007】に混合有機溶剤に使用されるグリコールアセテート類の有機溶剤名が記載されることとなったので、該記載との重複記載をなくし、段落【0013】の記載を明りょうなものとするために化合物名を削除するもので、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
以上のとおりであるから、訂正事項cは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項dの、「一般式(1)以外に混合溶剤として使用できる有機溶剤は」を、「前記グリコールアセテート系の有機溶剤以外に混合溶剤として使用できる有機溶剤は」とする訂正は、訂正事項a-1により、グリコールアセテート類が「一般式(1)で示されるグリコールアセテート類」でなくなったことから、「一般式(1)で示される」を削除するもので、訂正後の請求項1の用語に整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項eは、[比較例1]及び[比較例2]における「エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート」の蒸気圧を「0.25mmHg」から「0.30mmHg」に変えるものであるが、特許明細書の[実施例1]、[実施例2]及び[実施例4]の「エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート」の蒸気圧は「0.30mmHg」であるので、これに整合させるものであるから(なお、溶剤ポケットブック505頁(乙第6号証)には「エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート」の蒸気圧は「0.30mmHg」と記載されている。)、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.訂正の適否の判断のまとめ
したがって、訂正事項a?eは、特許法第134条の2第1項、及び同法同条第5項の規定により準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件発明
以上のとおりであるから、本件請求項1、2に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである。
「【請求項1】エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれたグリコールアセテート類を少なくとも一種含有する2種類以上の混合有機溶剤、顔料および樹脂からなる非水性インクジェットインキにおいて、混合有機溶剤の全量を1とした時の各有機溶剤の混合重量比をそれぞれx_(1)、x_(2)・・・・・・x_(n)(ただしnは整数を表す。)、20℃での各有機溶剤の蒸気圧(mmHg)をそれぞれy_(1)、y_(2)・・・・・・y_(n)(ただしnは整数を表す。)とし、 A=x_(1)y_(1)+x_(2)y_(2)+・・・・・+x_(n)y_(n)、 B=x_(1)/y_(1)+x_(2)/y_(2)+・・・・・+x_(n)/y_(n)とした時、下記の数式(4)、(5)、(6)を全て満たし、混合有機溶剤のインキ中の含有率が80?97重量%であることを特徴とする非水性インクジェットインキ(ただし、混合有機溶剤がイソホロン、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなるものを除く。)。
3>A>0.2 数式(4)
7>B>1.5 数式(5)
6>(B-A)>0.2 数式(6)
【請求項2】更に分散剤を含む請求項1記載の非水性インクジェットインキ。」

第4 請求人の主張
請求人は、特許第3873987号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠として審判請求書に添付して甲第1及び2号証を提出し、以下の無効理由1?無効理由6を主張している。また、口頭審理陳述要領書に添付して参考資料1を提出している。

無効理由1
訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができない。
すなわち、「本件特許の優先日(平成15年6月27日)前に頒布された刊行物である甲第1号証(・・・平成14年8月20日発行 )の段落【0093】?段落【0096】に記載の実施例2?7のインクジェットインキについて、インキに使用されている溶剤(溶媒)の種類、組成、インキ中の溶剤の含有率、本件特許の請求項1に係る発明で規定されているx、y、xy、A、x/y、B、B-Aの計算値は下記の通りであった。・・・EPアセテート(審決注:「EBアセテート」の誤記と認める。)(エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)及びDPMアセテート(ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)・・・アクリロイド及びVAGHは樹脂である。



」【無効審判請求書5?6頁】
「本件特許の請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証の段落【0093】?段落【0096】に記載の実施例2?7のインクジェットインキの、使用されている2種以上の溶剤の組成、該インキ中の溶剤の含有率、本件特許の請求項1に係る発明で規定されているA、B、B-Aの計算値は全て、・・・本件特許の請求項1に係る発明で規定されている2種以上の溶剤の組成、該インキ中の溶剤の含有率、A、B、B-Aの計算値の範囲内にある。」【無効審判請求書7頁】

無効理由2
訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証の刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
すなわち、「請求項1における数値限定には臨界的意義が認められないので、該請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」【無効審判請求書7頁】

無効理由3
訂正前の請求項2に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証の刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
すなわち、「非水性インクジェットインキにおいて分散剤を用いることは周知の技術である。例えば甲第2号証には「特定の顔料種、分散媒としての特定のグリコールエーテルエステル、分散剤としてのリビング共重合アクリルポリマーを含有するインクジェット印刷用有機溶剤系顔料インク組成物」が記載されており、・・・当業者が容易に発明をすることができたものである。」【無効審判請求書7頁】

無効理由4?6
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず(無効理由4)、また、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず(無効理由5)、発明の詳細な説明が、当該特許発明を当業者が容易に実施し得る程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない(無効理由6)。
すなわち、「本件特許の出願審査における平成18年9月4日付けの意見書には『・・・トリエチレングリコールn-ブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールn-プロピルエーテルアセテート、 ・・・については特殊な溶剤であり文献値が見つからなかった』と記載されている。・・・特許法第36条第4項第1号、第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たしていないことは明らかである。」(上記主張を、以下、「(i)」という。)【無効審判請求書3頁】
「本件特許の出願審査における平成18年9月4日付けの意見書には「・・・ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの蒸気圧は、0.001mmHgと非常に低いものである。」と記載されている。・・・蒸気圧が0.001mmHgであれば、・・・ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの使用可能量は全有機溶剤の0.7重量%未満となり、このような微量で用いることの意義、必要性が不明であり、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たしていないことは明らかである。」(上記主張を、以下、「(ii)」という。)【無効審判請求書3頁】

したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号、及び、同項第4号に該当し、無効とすべきである。

(証拠方法)
・甲第1号証:特表2002-526631号公報
・甲第2号証:特開2003-96370号公報
・参考資料1:国際公開第00/20521号パンフレット
(甲第1号証の国際公開パンフレットである)

(甲各号証に記載された事項)
甲第1号証:
(甲1-1) 「(a)顔料粒子、(b)結合剤、(c)可塑剤、(d)有機溶媒、(e)フルオロケミカル界面活性剤、(f)シリカとシリコーン油とを含み、25℃および少なくとも1000秒^(-1)の剪断速度で測定して100mPa・秒未満の粘度を有する有機溶媒系ピエゾインキ。」(特許請求の範囲 請求項1)

(甲1-2)「実施例2?7
以下の表において見られるような様々な顔料、結合剤および安定剤を用いたことを除いて、実施例1に関して特定されたペーストの製造およびインキの製造に関する手順に従って本発明の多くのピエゾインクジェットインキを製造した。
表3は、これらの実施例に関するインキの配合を報告し、表4は、インキ配合物の性能特性を報告している。」(段落【0093】?【0094】)

(甲1-3)「【表3】


」(段落【0095】)

(甲1-4)「【表1】


」(段落【0087】)

(甲1-5)「結合剤 結合剤は・・・基材上に沈着顔料の膜を形成するように顔料粒子と適合できる樹脂である。・・・アクリロイドA11ブランド樹脂および・・・VAGHブランド樹脂がある。」(段落【0061】?【0062】)

(甲1-6)「溶媒 本発明のインキ中で有用な溶媒には、・・・エチレングリコールブチルエーテルアセテート(EBアセテート)、ジプロピレングリコールモノメチルアセテート(DPMアセテート)・・・が挙げられる。」(段落【0064】)

(甲1-7)「流動剤の一つのタイプは、有機溶媒の表面張力を下げるのに効果的であるが、有機溶媒中の発泡を促進しうるフルオロケミカル界面活性剤である。・・・最も重要なことは、本発明において有用な消泡性シリコーン油がシリカ粒子を含有することであり、シリカ粒子は、フルオロケミカル界面活性剤によって付与されるインキの流動特性をシリカ粒子の含有のおかげで害することなく発泡を減少させる手段を提供することが可能である。従って、意外なことには、フルオロケミカル界面活性剤およびシリカ含有消泡剤の少量が混合して、粘度と引火点についてかなりの制限があるピエゾインキのために優れた流動特性を提供する。」(段落【0025】?【0027】)

(甲1-8)「発明の概要 技術が必要とするものは、・・・ピエゾインクジェットプリントヘッドを用いて耐久性画像グラフィックスをもたらすために、粘度、引火点、比重、顔料:結合剤の比、固形物%含有率、消泡および流動の優れた特性をもつ有機溶媒系インキである。」(段落【0018】)

(甲1-9)「本発明の特徴は、インキの流動に悪い影響を及ぼさずに種々の溶媒、添加剤および安定剤を混合することが可能なことである。」(段落【0031】)

甲第2号証:
(甲2-1)「【請求項1】顔料、非水性有機溶剤系媒体、分散剤を必須成分として含有するインクジェット印刷用インク組成物において、顔料がC.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントエロー138、C.I.ピグメントエロー150、C.I.ピグメントレッド122の酸性物質処理品、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36、カーボンブラックからなる群から選ばれた少なくとも一種の顔料であり、また分散剤がリビング共重合アクリルポリマーを有効主成分とする物であり、なおかつ非水性有機溶剤系媒体が下記の一般式化1で表されるグリコールエーテルエステル類からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とするインクジェット印刷用インク組成物。
【化1】 R(OA)_(n)OC(O)R’
(ただし、化1におけるRは炭素数1以上4以下のアルキル基、Aは炭素数2または3のアルキレン基、R’は炭素数1以上3以下のアルキル基、nはオキシアルキレンの鎖長を表す1以上3以下の整数である。)」(特許請求の範囲 請求項1)

(甲2-2)「【発明が属する技術分野】
本発明はインクジェット印刷用インク組成物において、保存中にインクの増粘や顔料の凝集が防止されていて、安定に使用可能な非水性有機溶剤系顔料インク組成物に関するものである。」(段落【0001】)

(甲2-3)「本発明では分散媒体と分散剤の組合せを選択したうえにさらに顔料をこのように選択して初めて目的が達成可能になったのである」(段落【0009】)

第5 被請求人の答弁
被請求人は答弁書に添付して乙第1?5号証を提出し、以下の答弁をしている。
無効理由1に対して
本件発明は、「非水性インクジェットインキにおいて、使用する混合有機溶剤の各有機溶剤の蒸気圧と混合重量比に着目して有機溶剤の配合を行うことにより、インキの乾燥防止と印刷後の被印刷物上での充分なインキの乾燥を両立させることができるという・・・法則が初めて見出されたものです」【答弁書4頁】というものであるところ、甲第1号証に記載された発明は、「非水性インクジェットインキにおいて、・・・消泡性シリコーン油がシリカ粒子を含むことにより、・・・流動化剤としてフルオロケミカル界面活性剤を使用した際の発泡性の問題を解決したものであり、本件特許発明とは全く別異の発明」【答弁書6頁】であって、「甲第1号証の実施例2?7に記載の混合溶剤・・・のA、B,B-Aの値が、計算の結果、本件特許発明1で定義された数式(4)?(6)のA、B、B-Aの値に入っていることを奇貨として、本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明であると主張していますが、・・・これはフルオロケミカル界面活性剤、シリカ及びシリコーン油を含む特殊な系で用いた特殊な混合有機溶剤のA、B、B-Aの値が、・・・たまたま一致したにすぎません。そして、・・・フルオロケミカル界面活性剤、シリカ及びシリコーン油を含まない・・・系における非水性インクジェットインキに適用した溶剤であることは開示されていません。」【答弁書8頁】、「ちなみに、・・・非水性インクジェットインキにフルオロケミカル界面活性剤を添加した公知例は、・・・(乙第1号証)・・・(乙第4号証)などに見られ、・・・アルコール、ケトン、エーテル系の溶剤が多く用いられており、このことからすると、甲第1号証の実施例2?7に記載の混合溶剤は、フルオロケミカル界面活性剤に更にシリカ及びシリコーン油を用いたことによる特殊な溶剤例であると思料されます。」【答弁書7?8頁】
無効理由2に対して
「本件特許発明1で定義される特定の関係、すなわち・・・数式(4)・・・数式(5)・・・数式(6)から外れるものについて、本件特許発明の効果が奏されないことは、本件特許明細書の実施例及び比較例の記載から明らかです。したがって、本件特許発明1の・・・数式(4)?(6)の数値限定に技術的意味があることは、本件特許明細書の記載から明らかです。」【答弁書9頁】
「また、甲第1号証に記載された発明は、・・・本件特許発明1とは全く次元の異なる発明です。したがって、甲第1号証の実施例2?7に特定の溶剤を特定量用いることが記載されているからといって、この記載から、・・・本件特許発明の特定の関係・・・を満たすようにすることにより、前記効果が奏されることを当業者は想起し得るものではありません。」【答弁書10?11頁】
無効理由3に対して
「甲第2号証に記載された発明は、・・・特定の顔料を用いる非水性インクジェットインキに・・・特定の分散剤を・・・組み合わせ用いることを特徴としているものです。・・・したがって、フルオロケミカル界面活性剤を含むことを発明の特徴の一つとし、甲第2号証に記載される特定の顔料を用いることは発明の特徴としていない甲第1号証に記載の非水性インクジェットインキに、甲第2号証に記載の特定の分散剤をさらに適用することについて、その動機付けとなるものはありません。」【答弁書13頁】
無効理由4?6に対して
「例えば、社団法人有機合成化学協会編「コンパクト版溶剤ポケットブック」・・・(乙第5号証)などに記載される周知の方法で適宜蒸気圧を測定すればよく、明細書、意見書にトリエチレングリコールn-ブチルエーテルアセテート及びジエチレングリコールn-プロピルエーテルアセテートの蒸気圧の記載がないからといって、本件特許発明1及び2が実施できないというものではありません。」【答弁書16頁】。
「ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの蒸気圧が低く・・・少量しか溶剤中に用いられないとしても、これによって当業者が本件特許発明を実施できないというものではありません。」【答弁書17?18頁】

(証拠方法)
・乙第1号証:特表2001-507052号公報
・乙第2号証:特表2000-515920号公報
・乙第3号証:特開平9-20875号公報
・乙第4号証:特開昭58-32674号公報
・乙第5号証:社団法人有機合成化学協会編、「コンパクト版溶剤ポケットブック」、株式会社オーム社、平成13年1月30日(第1版第2刷)、第57頁?第58頁

第6 当審の判断I(請求人の主張についての判断)
1.無効理由1:本件発明1と甲第1号証に記載された発明との異同について(特許法第29条第1項第3号)

(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の特許請求の範囲には、「(a)顔料粒子、(b)結合剤、(c)可塑剤、(d)有機溶媒、(e)フルオロケミカル界面活性剤、(f)シリカとシリコーン油とを含み、25℃および少なくとも1000秒^(-1)の剪断速度で測定して100mPa・秒未満の粘度を有する有機溶媒系ピエゾインキ。」と記載され(記載事項(甲1-1))、その実施例である実施例2?7では、(a)顔料粒子を配合するために顔料チップを配合し、(b)結合剤を配合するために「アクリロイド」や「VAGH」を配合し、(c)可塑剤を配合するために「Uniflex312」を配合し、(d)有機溶媒を配合するために「DPMアセテート」及び「EBアセテート」を配合し、(e)フルオロケミカル界面活性剤を配合するために「FC430」を配合し、(f)シリカとシリコーン油を配合するために「AF900」を配合することが記載(記載事項(甲1-3)、(甲1-4)、(甲1-5)、(甲1-6))されている。
そして、実施例2?7では、(a)(b)(e)(f)の成分をインキ中に配合するにあたってあらかじめ有機溶剤を用いて、ペースト等にして配合していることも表3に記載されており(記載事項(甲1-3))、このために使用された有機溶剤も実施例2?7のインキ中に存在する有機溶剤ということになるから、(a)(b)(e)(f)の成分をインキ中に配合するにあたって使用した有機溶剤と、(d)有機溶媒として配合した有機溶剤とを合計した有機溶剤が各実施例におけるインキ中の混合有機溶剤ということであるから、各実施例毎にインキ中の混合有機溶剤について、「混合有機溶剤の全量を1とした時の各有機溶剤の混合重量比」を表3に記載される配合量から計算し、また、「混合有機溶剤のインキ中の含有率」を同じく表3に記載される配合量から計算すると、各実施例における「混合有機溶剤の全量を1とした時の各有機溶剤の混合重量比」及び「混合有機溶剤のインキ中の含有率」は下記のとおりであり、「混合有機溶剤のインキ中の含有率」は90.61?92.72重量%の範囲にあるといえる。

・実施例2:シクロヘキサノン0.1715:EBアセテート0.5556:DPMアセテート0.2729(以下、「実施例2の混合有機溶媒」という。)で、91.60重量%
・実施例3:EBアセテート0.7241:DPMアセテート0.275(以下、「実施例3の混合有機溶媒」という。)で、90.61重量%
・実施例4:EBアセテート0.7288:DPMアセテート0.2712(以下、「実施例4の混合有機溶媒」という。)で、92.27重量%
・実施例5:イソホロン0.0166:シクロヘキサノン0.1257:EBアセテート0.5868:DPMアセテート0.2709(以下、「実施例5の混合有機溶媒」という。)で、92.04重量%
・実施例6:シクロヘキサノン0.1661:EBアセテート0.5635:DPMアセテート0.2704(以下、「実施例6の混合有機溶媒」という。)で、92.47重量%
・実施例7:イソホロン0.0035:シクロヘキサノン0.1650:EBアセテート0.5620:DPMアセテート0.2696(以下、「実施例7の混合有機溶媒」という。)で、92.72重量%

そうすると、甲第1号証には、「(a)顔料粒子、(b)結合剤、(c)可塑剤、(d)実施例2の混合有機溶媒ないしは実施例7の混合有機溶媒、(e)フルオロケミカル界面活性剤、(f)シリカとシリコーン油とを含む有機溶媒系ピエゾインキにおいて、混合有機溶剤のインキ中の含有率が90.61?92.72重量%である有機溶媒系ピエゾインキ。」 (以下、「甲1発明」という。)、
という発明が記載されているといえる。

(2)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1の「樹脂」についての、本件訂正明細書の「本発明では被印刷物への定着性を付与するために樹脂を添加する。」(本件訂正明細書段落【0016】の1行目)との記載、一方、甲1発明の「結合剤」である「アクリロイド」や「VAGH」がPMMA樹脂やビニル結合剤樹脂である(記載事項(甲1-3)、(甲1-4)、(甲1-5))との記載からみて、甲1発明の「結合剤」と本件発明1の「樹脂」は、共に結合のために配合される樹脂であって、甲1発明の「結合剤」は本件発明1の「樹脂」に相当する。
また、甲1発明の「顔料粒子」は本件発明1の「顔料」に相当し、甲1発明の「有機溶媒」は本件発明1の「有機溶剤」に相当し、甲1発明の「有機溶媒系ピエゾインキ」は本件発明1の「非水性インクジェット」に相当し、、本件訂正明細書段落【0022】の「本発明の非水性インクジェットインキは・・・可塑剤・・・を使用することができる。」との記載によれば、本件発明1においても可塑剤を使用することができるのであるから、
両者は、
「エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれたグリコールアセテート類を少なくとも一種含有する2種類以上の混合有機溶剤、顔料、可塑剤および樹脂からなる非水性インクジェットインキにおいて、混合有機溶剤のインキ中の含有率が80?97重量%であることを特徴とする非水性インクジェットインキ」
である点で一致し、
下記の点で相違する。

(i)非水性インクジェットインキの成分として、本件発明1では、フルオロケミカル界面活性剤、シリカとシリコーンとを含む消泡剤が配合されるとはされていないのに対し、甲1発明では、フルオロケミカル界面活性剤、シリカとシリコーンとを含む消泡剤が配合されている点(以下、「相違点(i)」という。)
(ii)非水性インクジェットインキ中の混合有機溶剤の混合割合が、本件発明1では「混合有機溶剤の全量を1とした時の各有機溶剤の混合重量比をそれぞれx_(1)、x_(2)・・・・・・x_(n)(ただしnは整数を表す。)、20℃での各有機溶剤の蒸気圧(mmHg)をそれぞれy_(1)、y_(2)・・・・・・y_(n)(ただしnは整数を表す。)とし、 A=x_(1)y_(1)+x_(2)y_(2)+・・・・・+x_(n)y_(n)、 B=x_(1)/y_(1)+x_(2)/y_(2)+・・・・・+x_(n)/y_(n)とした時、下記の数式(4)、(5)、(6)を全て満たし
3>A>0.2 数式(4)
7>B>1.5 数式(5)
6>(B-A)>0.2 数式(6)」と規定されているのに対し、甲1発明では「実施例2の混合有機溶媒ないしは実施例7の混合有機溶媒」と規定されている点(以下、「相違点(ii)」という。)
(iii)非水性インクジェットインキが、本件発明1では「(混合有機溶剤がイソホロン、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなるものを除く。)」と規定されているのに対し、甲1発明ではそのような規定はされていない点(以下、「相違点(iii)」という。)

(3)相違点についての検討
相違点(i)について
本件訂正明細書には、「フルオロケミカル界面活性剤」についても「シリカとシリコーン油とを含む消泡剤」についても記載がない。
ところで、本件訂正明細書の段落【0022】には、「本発明の非水性インクジェットインキは印刷物の用途によって・・・表面調整剤・・・等の種々の添加剤を使用することができる。」との記載がされている。
しかし、フルオロケミカル界面活性剤が「非水性インクジェットインキ」における周知慣用の表面調整剤であることやシリカとシリコーン油とを含む消泡剤が周知の添加剤であることについて、請求人は何ら証拠を挙げておらず、技術常識ともいえないから、「フルオロケミカル界面活性剤、およびシリカとシリコーン油とを含む消泡剤を含むもの」が、非水性インクジェットインキにおける周知慣用の添加剤であるとはいえない。
そうしてみると、「フルオロケミカル界面活性剤、およびシリカとシリコーン油とを含む消泡剤を含むもの」は、本件訂正明細書に記載されているとはいえず、本件訂正明細書の記載から自明なものともいえないから、「フルオロケミカル界面活性剤、およびシリカとシリコーン油とを含む消泡剤」は、本件訂正明細書に記載されておらず、本件訂正明細書の記載から自明なものでもない。
したがって、相違点(i)は、実質的に相違している。

(4)まとめ
相違点(i)については以上のとおりであるから、相違点(ii)及び相違点(iii)については検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
以上のとおりであるから、無効理由1には理由がない。

2.無効理由2:本件発明1の甲第1号証に記載された発明からの容易推考性について(特許法第29条第2項)

(1)甲第1号証に記載された発明
「第6 1.(1)」に記載したとおりである。

(2)本件発明1と甲1発明との対比
「第6 1.(2)」に記載したとおりである。

(3)相違点についての検討
相違点(i)について
甲1発明は、ピエゾインクジェットインキとして、粘度、引火点、比重、顔料:結合剤の比、固形物%含有率、消泡および流動に優れた特性をもつものを得ることを目的とする(記載事項(甲1-8))ところ、意外なことにはフルオロケミカル界面活性剤およびシリカ含有消泡剤の少量が混合して粘度と引火点についてかなりの制限があるピエゾインキのために優れた流動特性を提供する(記載事項(甲1-7))というもので、それによりインキの流動に悪い影響を及ぼさずに種々の溶媒、添加剤および安定剤を混合することが可能である(記載事項(甲1-9))というものである。
そして、甲第1号証には、「フルオロケミカル界面活性剤、およびシリカとシリコーン油とを含む消泡剤」の役割について、フルオロケミカル界面活性剤の添加によりインキの流動性を改善し、しかしそのために促進されてしまった発泡をシリカとシリコーン油とを含む消泡剤によって減少させようとするものである旨記載されており(記載事項(甲1-7))、改善を目的としている流動性も発泡抑制もインキが保持すべき重要な性能であって、必要に応じて保持させれば足る性能ではないから、甲1発明のピエゾインキから「フルオロケミカル界面活性剤、およびシリカとシリコーン油とを含む消泡剤」を除外することは、当業者が想起し得ないことである。
したがって、相違点(i)は、当業者が容易に想到し得たものではない。
(4)まとめ
相違点(i)は当業者が甲第1号証に基づいて容易に想到し得たものではないから、相違点(ii)、(iii)について検討するまでもなく、本件発明1に対して技術思想の異なる甲第1号証に記載された発明から、本件発明1を導くことはできない。
そして、本件発明1は、「第3 本件発明」のとおり、
「エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート・・・から選ばれたグリコールアセテート類を少なくとも一種含有する2種類以上の混合有機溶剤、顔料および樹脂からなる非水性インクジェットインキにおいて、
混合有機溶剤の全量を1とした時の各有機溶剤の混合重量比をそれぞれx_(1)、x_(2)・・・・・・x_(n)(・・・)、20℃での各有機溶剤の蒸気圧(mmHg)をそれぞれy_(1)、y_(2)・・・・・・y_(n)(・・・)とし、 A=x_(1)y_(1)+x_(2)y_(2)+・・・・・+x_(n)y_(n)、 B=x_(1)/y_(1)+x_(2)/y_(2)+・・・・・+x_(n)/y_(n)とした時、下記の数式(4)、(5)、(6)を全て満たし、
混合有機溶剤のインキ中の含有率が80?97重量%であることを特徴とする非水性インクジェットインキ(・・・)。
3>A>0.2 数式(4)
7>B>1.5 数式(5)
6>(B-A)>0.2 数式(6)」
という発明特定事項(技術思想)を有することにより、本件訂正明細書の段落【0041】に記載される効果を奏するものであって、数値限定には意味が認められるところ、このような効果は、甲第1号証から予測しうるものではなく(記載事項(甲1-7)、(甲1-8)、(甲1-9))、当業者が予測しうる範囲のものではない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
以上のとおりであるから、無効理由2には理由がない。

3.無効理由3:本件発明2の甲第1号証に記載された発明からの容易推考性について(特許法第29条第2項)

(1)甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明
甲第1号証に記載された発明は、「第6 1.(1)」に記載したとおりである。
また、甲第2号証には、保存中のインクの増粘や顔料の凝集が防止されていて、安定に使用可能なインクとして(記載事項(甲2-2))、顔料と非水性有機溶剤系媒体と分散剤を必須成分として含有するインクジェット印刷用インク組成物において、顔料は特定の7種の顔料からなる群から選ばれた顔料とし、分散剤はリビング共重合アクリルポリマーを有効主成分とする物とし、非水性有機溶剤系媒体が一般式化1で表されるグリコールエーテルエステル類からなる群から選ばれた有機溶剤とすることが記載され(記載事項(甲2-1))、分散媒体と分散剤の組合せを選択したうえにさらに顔料をこのように選択してそれによって初めて目的が達成可能になったことが記載されている(記載事項(甲2-3))。
そうすると、甲第2号証には、「インクジェット印刷用インク組成物に分散剤を配合するものではあるが、インクジェット印刷用インク組成物を安定に使用可能なものとするためには、顔料、非水性有機溶剤系媒体さらに分散剤の何れについても、それぞれ特定の物を選択して組み合わせなければ目的達成がなされないことを骨子とする発明」(以下、「甲2発明」という。)が記載されているということができる。

(2)本件発明2と甲1発明との対比
本件発明2は、本件発明1の非水性インクジェットインキに、更に分散剤を含ませたものである。
そこで、本件発明2と甲1発明とを対比すると、両者には、「第6 1.(2)」に記載したのと同じ一致点、相違点(i)?相違点(iii)があるのに加えて、下記の相違点もある。

相違点(iv):分散剤を、本件発明2は含むのに対し、甲1発明は含まない点 (以下、「相違点iv」という。)

(3)相違点についての検討
相違点(i)が実質的な相違点であって、かつ、甲1発明から導くことができないことは「第6 1.(3)」および「第6 2.(3)」でそれぞれ示したとおりである。
一方、甲2発明は、上記したとおりであって、甲第2号証には、フルオロケミカル界面活性剤、シリカとシリコーン油とを含む消泡剤について、非水性インクジェットインキにおける、これらの役割や配合の有無の技術的意味等については記載されていないので、甲2発明を考慮しても、相違点(i)を導くことはできない。

(4)まとめ
そうすると、相違点(iv)について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
以上のとおりであるから、無効理由3には理由がない。

4.無効理由4?6:特許請求の範囲及び明細書の記載要件について
(特許法第36条第6項第1号、同項第2号及び第36条第4項第1号)

(1)(i)の主張について
本件訂正により、訂正後の請求項1のグリコールアセテート類には、トリエチレングリコールn-ブチルエーテルアセテート及びジエチレングリコールn-プロピルエーテルアセテートは包含されなくなった。
したがって、訂正後の請求項1及び訂正明細書の記載において、蒸気圧が不明であるという問題は解消したから、(i)の主張には理由がない。

(2)(ii)の主張について
本件発明1の発明特定事項を全て満たすことにより、本件発明が目的としている非水性インクジェトインキを得ることができることは本件訂正明細書の記載から明らかであるから、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの蒸気圧が低いからといって、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの使用の意義、必要性が不明であるとはいえず、また、これによって当業者が本件訂正発明を実施できないものでもないから、(ii)の主張には理由がない。

(3)まとめ
以上のとおりであって、(i)及び(ii)の主張には理由がないので、無効理由4?6には理由がない。

5.請求人の主張する無効理由についてのまとめ
請求人の主張する無効理由1?6は、何れも理由がない。

第7 当審で通知した無効理由
1.無効理由
[I]本件の請求項1及び2に係る発明(審決注:本件訂正前の、特許の設定登録のされている特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明)は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、[II]本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、[III]本件出願の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件の請求項1及び2に係る発明(審決注:先に同じ)についての特許は、同法第123条第1項第2号及び同条同項第4号の規定により無効とすべきである。

・無効理由[I]の詳細
「刊行物1・・・の・・・表2で・・・実施例Aと呼称されるモデルインキの配合・・・から、・・・ 刊行物1には、「下記一般式(1)で示されるグリコールアセテート類を少なくとも一種含有する2種類以上の混合有機溶剤、顔料および樹脂からなる非水性インキにおいて、 混合有機溶剤を構成する各有機溶剤のインキ中の含有率は、エチレングリコールブチルエーテルアセテートは72.85重量%で、ジプロピレングリコールモノメチルアセテートは15.00重量%で、イソホロンは1.31重量%であって、混合有機溶剤のインキ中の含有率が89.16重量%である非水性インキ。
CH_(3)CO(OR_(1))_(n)OR_(2) 一般式(1)
(式中、R_(1)はエチレン基またはプロピレン基、R_(2)は炭素数1?4のアルキル基、nは1?3の整数を表す。)」 の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。・・・本件発明1(審決注:特許の設定登録のされている特許請求の範囲の請求項1に記載されていた発明である)と刊行物1発明を対比すると、・・・本件発明1は、刊行物1に記載された発明である。」
・無効理由[II]の詳細
「特許法第36条第6項第1号について
本件発明の非水性インクジェットインキにおいて、各有機溶剤の蒸気圧はもっとも重要な発明を特定する事項の一つといえる。
にもかかわらず、一般式(1)で示されるグリコールアセテート類のうち、本件明細書中にその蒸気圧が記載されているのは、わずか3種類のみである・・・
本件特許明細書中に蒸気圧が記載されている有機溶剤と、例えば、ハンドブック、便覧等の、当業者であれば何人も備えているであろう文献に蒸気圧が記載されている有機溶剤を除き、それ以外の有機溶剤の蒸気圧については、本件発明において発明を特定する事項であるにもかかわらず記載がなされていない、とせざるを得ない。
さらにいうなら、本件特許明細書には、一般式(1)で示されるグリコールアセテート類が、本件発明のインキにおいてどのような作用をするのか、どうして一般式(1)でまとめて表すことのできる一連の溶剤が適しているのかについて、何ら説明がされていない。
そうすると、実際に実施例において試験をしている3種類、あるいは、仮にこの3種類から演繹されるとしても、一般式(1)で示されるグリコールアセテート類のなかでもハンドブック等によりその蒸気圧値が明確にされているグリコールアセテート類を除き、それ以外のグリコールアセテート類については、本件明細書中に記載されていない、とせざるを得ない。
以上のとおりであるから、特許請求の範囲の記載は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載した発明でない発明までも包含している。
したがって、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない 」
・無効理由[III]の詳細
「特許法第36条第4項について
本件発明1及び2の成分である一般式(1)で示されるグリコールアセテート類には、24種の化合物が包含されるところ、その蒸気圧が記載されているものは3種に過ぎず、しかも、エチレングリコールブチルエーテルアセテートは蒸気圧が記載されているものの「0.3」と「0.25」の二とおりの値が記載されている。
また、本件発明1および2は、一般式(1)で示されるグリコールアセテート類に、それ以外の有機溶剤を混合して混合有機溶剤としたものをも包含するから、本件発明1及び2を実施するには、一般式(1)で示されるグリコールアセテート類の蒸気圧だけでなく、それ以外の広範な有機溶剤の蒸気圧値についても明らかであることが必要である。
にも係わらず、一般式(1)で示されるグリコールアセテート類以外の有機溶剤の蒸気圧値についても記載がされているのは数例だけである。
しかも、有機溶剤として代表的な化合物と認められる、メタノール、エタノールやベンゼン、トルエン、キシレンについてさえ、化合物の基本的性質として蒸気圧は辞書に記載されていないことから(共立出版発行による化学大辞典参照)、広範な有機溶剤中のよく知られた汎用される有機溶剤についても蒸気圧を把握することは当業者が容易にできることではなく、さらに、汎用されるものではない有機溶剤については、その蒸気圧を把握することはさらに難しいものと認められる。
なお、個々の溶剤の蒸気圧を測定することで把握することができるとしても、本件特許発明に使用し得る有機溶剤には広範なものが包含させることから、それらの広範な有機溶剤の蒸気圧を測定により把握することは、当業者に過度の負担を強いるものである。
そうしてみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」

刊行物1:国際公開第00/20521号パンフレット(2000)
(請求人が提出した甲第1号証の公表特許公報の国際公開パンフレットである。)

2.刊行物1に記載された事項(記載内容は翻訳文で示す。)
(刊1-1)「発明の分野 本発明は、ピエゾインクジェット印刷用の有機溶媒系インキおよびこうしたインキの製造および使用の方法に関する。」(1頁2行?4行)

(刊1-2)「実施例 表1は、以下の実施例において用いた市販されている成分の内容と供給業者を確定している。」(19頁9行?11行)

(刊1-3)「


」(19?20頁 表1)

(刊1-4)「対照実施例A?Oおよび実施例1
接触角に基づいて流動剤の有効性について試験するために以下の試験手順による接触角の測定の目的で、流動剤の成分のみを変えた以下の配合に従ってモデルシアンインキを製造した。その結果を表2に示している。すべての量を重量%で表現している。」(20頁表1の下1行?表1の下6行)

(刊1-5)「高剪断分散ブレードを用い120分混合してMicrolith4G-Kチップ(25重量%)、イソホロン(18.25重量%)およびEBアセテート(56.25重量%)からシアンペーストを配合した。ペースト7.20%、EBアセテート中のアクリロイドB66の20%溶液45.00%、DPMアセテート溶媒15.00%およびEBアセテート溶媒32.80%を合わせて混合することにより前記ペーストを用いてモデルインキを製造した。混合後、Rokiフィルター(ジョージア州アトランタのジョージミサバック(George E.Missbach Co.)製)HT60XAとHT30XAとを直列で通してインキを濾過し、5μm未満、次に1.2μm未満に粒子サイズを逐次減少させた。効率は95%より高かった。」(20頁表1の下7行?20頁下から7行)

(刊1-6)「接触角の試験手順」(20頁下から6行)

(刊1-7)「


」(21頁 表2)

(刊1-8)「引火点に対する要件に基づいて、また接触角を最小にすると共に受取り基材上で溶媒の迅速な乾燥をもたらすために、比較例B?Gは流動剤を含有していない実施例Aに比べて大した改善を示さなかった。比較例H?Jは、技術において問題である受取り基材上で遅く乾燥するインキを生じるであろう。比較例KおよびLは、実施例1よりも湿りが少ない。比較例Mは発泡しがちで、実施例1の配合によってそれは是正された。比較例NおよびOは市販されている水性インキであり、ピエゾインクジェットプリントヘッド向け市場にあるインキに対する接触角の範囲を示す。こうして、実施例1は、受取り基材上でのインキの走りを引き起しえたシリコーン油単独を用いていなかったので本発明におけるインキとして用いるのに好ましかった。実施例Mと実施例1との間の比較は、全油の約20?40重量%でシリカを含有しているAF9000シリコーン油の添加によって接触角が29度から21度にいかにして減少するかを示している。それは湿り特性および接触角に関心がある当業者による認識にとって接触角の大幅な減少であると共に、流動特性の大幅な改善である。」(21頁表2の下1行?22頁2行)

(刊1-9)「溶媒 本発明のインキ中で有用な溶媒には、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート(PMアセテート)、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート(DEアセテート)、イソホロン、エチレングリコールブチルエーテルアセテート(EBアセテート)、ジプロピレングリコールモノメチルアセテート(DPMアセテート)およびそれらの混合物が挙げられる。溶媒の量は、インキ配合物中の他の成分の量によって決定され、一般に約90?94重量%である。」(14頁下から5行?15頁3行)

(刊1-10)「顔料・・・ビニル樹脂に前もって分散された顔料(「チップ」)は、一般に、当業者に対して知られている技術に従ってペーストにプレミックスされる。」(13頁12行?14頁5行)

3.被請求人の意見
被請求人は、意見書において、「本件訂正発明と刊行物1に記載された発明とは、技術思想が全く異なるものです。・・・しかしながら、対照実施例Aで用いられている非水性インキの有機溶剤が、本件訂正発明1の要件を満たすことも事実ですので、訂正請求により、本件特許の請求項1に係る発明・・・から、対照実施例Aの非水性インキで用いられている混合有機溶剤とたまたま重複している「イソホロン、エチレングリコールブチルエーテルアセテートおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる混合有機溶剤」を除く訂正を・・・行いました。・・・したがって、無効理由1は解消されました。」【意見書5頁?8頁】と、また、「本件訂正発明1の有機溶剤のうち「エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの蒸気圧値・・・は、本件明細書に既に記載されています。」【意見書10頁】と述べ、また、上記以外の有機溶剤については、意見書と共に乙第6?9号証を提出し、「当業者であれば何人も備えているであろう文献にその蒸気圧が記載されています。・・・このように、今回の訂正により、・・・無効理由2はその理由が解消した」【意見書10頁?11頁】と、また、意見書と共に乙第10号証を提出し、「乙第6号証・・・には、広範囲の溶剤について、・・・蒸気圧値が記載されています。・・・また、乙第10号証・・・には溶剤を含む多数の有機化合物について、蒸気圧と温度の関係が示されています。したがって、無効理由3の無効理由は解消された」【意見書15頁?16頁】と述べている。

(証拠方法)
・乙第6号証:社団法人有機合成化学協会編、「溶剤ポケットブック」、株式会社オーム社、昭和49年5月10日(第1版第7刷)、第68?69頁、第489頁、第505頁、第912?913頁
・乙第7号証:ダウケミカルカンパニーの「Product Information」の「DAWANOL DPMA Dipropylene Glycol Methyl Ether Acetate」の頁 Published March 2004(Form No.110-00587-0304)
・乙第8号証:国際化学物質安全性カード、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート(更新日1997年10月)
・乙第9号証: 石橋弘毅編、「溶剤便覧」、槇書店、 昭和42年4月5日、第470?471頁
・乙第10号証:社団法人日本化学会著、「化学便覧基礎編 改訂2版」、株式会社丸善、昭和50年6月20日、第708?731頁

(乙各号証に記載されている事項)
・乙第6号証:
「エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート」について「蒸気圧 2.0mmHg(20℃)」と記載されている。(489頁)
「エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート」について「蒸気圧 [mmHg](20℃)」は「1.2」と記載されている。(912 頁)
「エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート」について「蒸気圧 0.3mmHg(20℃)」と記載されている。(505頁)
「ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート」について「蒸気圧 [mmHg](20℃)」は「0.05」と記載されている。(913 頁)
「ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート」について「蒸気圧 [mmHg](20℃)」は「<0.01」と記載されている。(91 3頁)
・乙第7号証:
「ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」について「蒸気 圧 20℃ 0.08mmHg」及び「CAS Number8891 7-22-0」と記載されている。(1/2頁、2/2頁)
・乙第8号証:
「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート」について「蒸気圧 :0.5kPa(20℃)(審決注:3.7mmHg)」と記載されて いる。(2/3頁)
・乙第9号証:
「ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート」について「蒸気圧 0.05mm(20℃)」と記載されている。(470頁)
「ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート」について「蒸気圧 <0.01mm(20℃)」と記載されている。(471頁)
・乙第10号証:
広範な有機化合物の蒸気圧が記載されている。(708?731頁)

第8 当審の判断II(当審で通知した無効理由についての判断)
1.無効理由[I]について
本件訂正により本件発明1及び本件発明2は、「【請求項1】エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれたグリコールアセテート類を少なくとも一種含有する2種類以上の混合有機溶剤、顔料および樹脂からなる非水性インクジェットインキにおいて、混合有機溶剤の全量を1とした時の各有機溶剤の混合重量比をそれぞれx_(1)、x_(2)・・・・・・x_(n)(ただしnは整数を表す。)、20℃での各有機溶剤の蒸気圧(mmHg)をそれぞれy_(1)、y_(2)・・・・・・y_(n)(ただしnは整数を表す。)とし、 A=x_(1)y_(1)+x_(2)y_(2)+・・・・・+x_(n)y_(n)、 B=x_(1)/y_(1)+x_(2)/y_(2)+・・・・・+x_(n)/y_(n)とした時、下記の数式(4)、(5)、(6)を全て満たし、混合有機溶剤のインキ中の含有率が80?97重量%であることを特徴とする非水性インクジェットインキ(ただし、混合有機溶剤がイソホロン、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなるものを除く。)。
3>A>0.2 数式(4)
7>B>1.5 数式(5)
6>(B-A)>0.2 数式(6)

【請求項2】更に分散剤を含む請求項1記載の非水性インクジェットインキ。」となり、本件発明1及び本件発明2のいずれの発明にも「(ただし、混合有機溶剤がイソホロン、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなるものを除く。)」が付加された。
それにより、本件発明1及び本件発明2のいずれの発明からも「刊行物1発明」が除かれたので、本件発明1及び本件発明2のいずれの発明も刊行物1に記載された発明では無くなった。
以上のとおりであるから、無効理由Iは解消され、無効理由Iは無くなった。

2.無効理由[II]について
訂正により本件発明1及び本件発明2は、「【請求項1】エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれたグリコールアセテート類を少なくとも一種含有する2種類以上の混合有機溶剤、顔料および樹脂からなる非水性インクジェットインキにおいて・・・【請求項2】更に分散剤を含む請求項1記載の非水性インクジェットインキ。」となり、本件発明1及び本件発明2のいずれの発明のグリコールアセテート類も、「本件訂正明細書中に蒸気圧が記載されている有機溶剤」あるいは、乙第6号証?乙第9号証にみられるように「当業者であれば何人も備えているであろう文献に蒸気圧が記載されている有機溶剤」だけになった。
以上のとおりであるから、無効理由IIは解消され、無効理由IIは無くなった。

3.無効理由[III]について
訂正により本件発明1及び本件発明2は、「【請求項1】エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれたグリコールアセテート類を少なくとも一種含有する2種類以上の混合有機溶剤、顔料および樹脂からなる非水性インクジェットインキにおいて・・・【請求項2】更に分散剤を含む請求項1記載の非水性インクジェットインキ。」となり、本件発明1及び本件発明2のいずれの発明のグリコールアセテート類も、「本件訂正明細書中に蒸気圧が記載されている有機溶剤」あるいは、乙第6号証?乙第9号証にみられるように「当業者であれば何人も備えているであろう文献に蒸気圧が記載されている有機溶剤」といえるものだけになった。
また、混合有機溶剤を構成する「グリコールエーテル類以外の有機溶剤の蒸気圧についても、「当業者であれば何人も備えているであろう文献に蒸気圧が記載されている有機溶剤」といえることが、乙第10号証により明白になった。
以上のとおりであるから、無効理由IIIは解消され、無効理由IIIは無くなった。

4.当審で通知した無効理由についてのまとめ
以上のとおりであるから、当審で通知した無効理由は何れも解消した。

第9 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由1?6はいずれも理由がないから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1及び2の特許を無効とすることができない。
また、本件発明1及び2の特許を無効とすべきその他の理由もない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非水性インクジェットインキ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性、耐光性、吐出性、定着性に優れた非水性インクジェットインキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットインキとしては、酸性染料、直接染料、塩基性染料等の水溶性染料をグリコール系溶剤と水に溶解したもの(特許文献1、特許文献2、特許文献3)がよく用いられている。しかし、水溶性染料としては、インキの安定性を得るため、水に対する溶解性の高いものが一般的に用いられる。したがって、インクジェット記録物は、一般的に耐水性が悪く、水をこぼしたりすると容易に記録部分の染料のにじみを生じるという問題があった。
【0003】
このような耐水性の不良を改良するため、染料の構造を変えたり、塩基性の強いインキを調製することが試みられている(特許文献4)。また、記録紙とインキとの反応をうまく利用して耐水性の向上を図ることも行われている(特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8)。これらの方法は、特定の記録紙については著しい効果をあげているが、記録紙の制約を受けるという点で汎用性に欠け、また特定の記録紙以外を用いた場合には、水溶性染料を使用するインキでは記録物の充分な耐水性が得られないことが多い。
【0004】
また、耐水性の良好なインキとしては、油溶性染料を高沸点溶剤に分散ないし溶解したもの、油溶性染料を揮発性の溶剤に溶解したものがあるが、染料は耐光性等の諸耐性で顔料に劣るため、着色剤として顔料を用いたインキが望まれている。そして最近では顔料を用いたインキでも、流動パラフィンや脂肪族炭化水素などの難揮発性溶剤や、エタノール、メチルエチルケトン、酢酸エチルなどの揮発性溶剤に分散させたものが実用化されはじめている。しかし、難揮発性溶剤では被印刷物への印字後の乾燥性や定着性に問題が有り、揮発性溶剤ではノズルの乾燥といった問題を抱えている。
【特許文献1】特開昭53-614112号公報
【特許文献2】特開昭54-89811号公報
【特許文献3】特開昭55-65269号公報
【特許文献4】特開昭56-57862号公報
【特許文献5】特開昭50-49004号公報
【特許文献6】特開昭57-36692号公報
【特許文献7】特開昭59-20696号公報
【特許文献8】特開昭59-146889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐水性、耐光性、吐出性、定着性に優れた非水性インクジェットインキの提供を目的とする。
【0006】
本発明者らは、種々の有機溶剤を非水性インクジェットインキとして検討した結果、特定の法則に従って有機溶剤を混合して使用することによって、耐水性、耐光性、吐出性に優れた非水性インクジェットインキが得られることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で示されるグリコールアセテート類を少なくとも一種含有する2種類以上の混合有機溶剤、顔料および樹脂からなる非水性インクジェットインキにおいて、混合有機溶剤の全量を1とした時の各有機溶剤の混合重量比をそれぞれx_(1)、x_(2)・・・・・・x_(n)(ただしnは整数を表す。)、20℃での各有機溶剤の蒸気圧(mmHg)をそれぞれy_(1)、y_(2)・・・・・・y_(n)(ただしnは整数を表す。)とし、A=x_(1)y_(1)+x_(2)y_(2)+・・・・・+x_(n)y_(n)、B=x_(1)/y_(1)+x_(2)/y_(2)+・・・・・+x_(n)/y_(n)とした時、下記の数式(4)、(5)、(6)を全て満たし、混合有機溶剤のインキ中の含有率が80?97重量%であることを特徴とする非水性インクジェットインキ(但し、フルオロケミカル界面活性剤、およびシリカとシリコーン油とを含む消泡剤を含む非水性インクジェットインキを除く。)に関する。
CH_(3)CO(OR_(1))_(n)OR_(2) 一般式(1)
(式中、R_(1)はエチレン基またはプロピレン基、R_(2)は炭素数1?4のアルキル基、nは1?3の整数を表す。)
3>A>0.2 数式(4)
7>B>1.5 数式(5)
6>(B-A)>0.2 数式(6)
【0009】
さらに本発明は、分散剤を含む上記非水性インクジェットインキに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、耐水性、耐光性、吐出性、定着性に優れた非水性インクジェットインキを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明では、インクジェットインキとしての適性を付与するために重要なノズルでのインキの乾燥防止と印刷後の被印刷物上での充分なインキの乾燥を両立させるために考え出した有機溶剤の配合法則であり、数値Aを乾燥係数、数値Bを保湿係数とする。乾燥係数Aは印刷後の被印刷物上でのインキ乾燥の目安となり、保湿係数Bはノズルでのインキ乾燥防止の目安となる。すなわち乾燥係数Aが大きすぎるとインキの乾燥が早すぎるため、光沢シート等を被印刷物として使用した場合、レベリング性の悪化による光沢の低下等を招く。逆に乾燥係数Aが小さすぎるとインキは乾燥せずに、被印刷物を巻き取った際にブロッキング等の問題を起こす。また保湿係数Bが小さいとノズル詰まりを起こしインクジェットインキとして好適ではない。保湿係数Bが大きすぎる場合はインキの吐出性に問題は無いが乾燥係数Aとのバランスが崩れ、インキのにじみやブロッキングの問題が発生する。このバランスの範囲を特定したものが数式(3)および数式(6)であり、保湿係数と乾燥係数の差がこの数式の範囲に入るものがインクジェットインキとして最も優れた適性を示す。
【0013】
本発明に使用する混合溶剤としては一般式(1)で示されるグリコールアセテート系の有機溶剤を主溶剤として使用することが最も好ましく、使用できるグリコールアセテート系溶剤としてはエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等があげられる。
【0014】
また、一般式(1)以外に混合溶剤として使用できる有機溶剤は、プリンタヘッドを腐蝕したり、顔料を溶解させてしまうような溶剤以外は特に制限をうけるものではない。発明者らが使用検討を行った有機溶剤を例示すると、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチル-n-ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル-n-アミルケトン、メチルイソアミルケトン、ジエチルケトン、エチル-n-プロピルケトン、エチルイソプロピルケトン、エチル-n-ブチルケトン、エチルイソブチルケトン、ジ-n-プロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ヘキシル、酢酸オクチル、乳酸メチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル等のエステル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類、n-ヘキサン、イソヘキサン、n-ノナン、イソノナン、ドデカン、イソドデカン等の飽和炭水素類、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン等の不飽和炭化水素類、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、デカリン等の環状飽和炭化水素類、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、1,1,3,5,7-シクロオクタテトラエン、シクロドデセン等の環状不飽和炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類があげられる。これらの有機溶剤は、インキ中に80?97重量%含まれることが好ましい。
【0015】
本発明に使用される顔料は、印刷インキ、塗料等に使用される種々の顔料が使用できる。このような顔料をカラーインデックスで示すと、ピグメントブラック7、ピグメントブルー15,15:1,15:3,15:4,15:6,60、ピグメントグリーン7,36、ピグメントレッド9,48,49,52,53,57,97,122,149,168,177,178,179,206,207,209,242,254,255、ピグメントバイオレット19,23,29,30,37,40,50、ピグメントイエロー12,13,14,17,20,24,74,83,86,93,94,95,109,110,117,120,125,128,137,138,139,147,148,150,151,154,155,166,168,180,185、ピグメントオレンジ36,43,51,55,59,61,71,74等があげられる。また、カーボンブラックについては中性、酸性、塩基性等のあらゆるカーボンブラックを使用することができる。
これらの顔料は、インキ中に2?10重量%含まれることが好ましく、3?7重量%含まれることがより好ましい。
【0016】
本発明では被印刷物への定着性を付与するために樹脂を添加する。使用できる樹脂としては、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-マレイン酸系樹脂、ロジン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、エチレン-酢ビ系樹脂、石油樹脂、クマロンインデン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、塩酢ビ系樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂等が挙げられる。樹脂の具体例としては、荒川化学社製のスーパーエステル75、エステルガムHP、マルキッド 33、安原社製のYS ポリスター T80、三井化学社製のHiretts HRT200X、ジョンソンポリマー社製のジョンクリル586、ダウケミカルズ社製のユーカーソリューションビニル樹脂VYHD、VYHH、VMCA等を例示することができる。これらの樹脂は、インキ中に1?13重量%含まれることが好ましく、3?8重量%含まれることがより好ましい。
【0017】
本発明は顔料の分散性、インキの保存安定性を向上させるために分散剤を使用することができる。分散剤としては、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ステアリルアミンアセテート等を用いることができる。
【0018】
分散剤の具体例としては、BYK Chemie社製「Anti-Terra-U(ポリアミノアマイド燐酸塩)」、「Anti-Terra-203/204(高分子量ポリカルボン酸塩)」、「Disperbyk-101(ポリアミノアマイド燐酸塩と酸エステル)、107(水酸基含有カルボン酸エステル)、110、111(酸基を含む共重合物)、130(ポリアマイド)、161、162、163、164、165、166、170(高分子共重合物)」、「400」、「Bykumen」(高分子量不飽和酸エステル)、「BYK-P104、P105(高分子量不飽和酸ポリカルボン酸)」、「P104S、240S(高分子量不飽和酸ポリカルボン酸とシリコン系)」、「Lactimon(長鎖アミンと不飽和酸ポリカルボン酸とシリコン)」が挙げられる。
【0019】
また、Efka CHEMICALS社製「エフカ44、46、47、48、49、54、63、64、65、66、71、701、764、766」、「エフカポリマー100(変性ポリアクリレート)、150(脂肪族系変性ポリマー)、400、401、402、403、450、451、452、453(変性ポリアクリレート)、745(銅フタロシアニン系)」、共栄社化学社製「フローレン TG-710(ウレタンオリゴマー)、「フローノンSH-290、SP-1000」、「ポリフローNo.50E、No.300(アクリル系共重合物)」、楠本化成社製「ディスパロン KS-860、873SN、874(高分子分散剤)、#2150(脂肪族多価カルボン酸)、#7004(ポリエーテルエステル型)」が挙げられる。
【0020】
さらに、花王社製「デモールRN、N(ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)、MS、C、SN-B(芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)、EP」、「ホモゲノールL-18(ポリカルボン酸型高分子)、「エマルゲン920、930、931、935、950、985(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)、「アセタミン24(ココナッツアミンアセテート)、86(ステアリルアミンアセテート)」、アビシア社製「ソルスパーズ5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、13940(ポリエステルアミン系)、17000(脂肪酸アミン系)、24000」、日光ケミカル社製「ニッコール T106(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)、MYS-IEX(ポリオキシエチレンモノステアレート)、Hexagline 4-0(ヘキサグリセリルテトラオレート)」等が挙げられる。
【0021】
分散剤は、顔料の分散安定性を考慮し、インキ中に0.1?10重量%含まれることが好ましい。
【0022】
本発明の非水性インクジェットインキは印刷物の用途によって可塑剤、表面調整剤、紫外線防止剤、光安定化剤、酸化防止剤等の種々の添加剤を使用することができる。
【0023】
本発明の非水性インクジェットインキは、まず始めにペイントシェーカー、サンドミル、ロールミル、メディアレス分散機等によって、単一もしくは混合有機溶剤中に顔料を樹脂または分散剤によって分散し、得られた顔料分散体を本発明の配合法則に従って有機溶剤で希釈して製造されるものである。
【実施例】
【0024】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。なお、実施例中、「部」は「重量部」を表す。
【0025】
まず始めに下記のような配合で顔料分散体を作成した。この分散体は有機溶剤中に顔料および分散剤を投入し、ハイスピードミキサー等で均一になるまで撹拌後、得られたミルベースを横型サンドミルで約2時間分散して作成した。
・リーガル400R(キャボット社製 カーボンブラック顔料)40.0部
・Disperbyk130(BYK Chemie社製 顔料分散剤)13.0部
・ジョンクリル586(ジョンソンポリマー社製 スチレン-アクリル樹脂)10.0部
・エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(蒸気圧:0.30mmHg)37.0部
【0026】
[実施例1]
顔料分散体を下記のような配合にて希釈してインクジェットインキを作成した。このインキを本発明の数式に当てはめるとA=0.65、B=4.81、B-A=4.16となった。
・顔料分散体 12.5部
・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(蒸気圧:3.75mmHg)10.0部
・エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(蒸気圧:0.30mmHg)67.5部
・ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(蒸気圧:0.05mmHg)10.0部
【0027】
[実施例2]
顔料分散体を下記のような配合にて希釈してインクジェットインキを作成した。このインキを本発明の数式に当てはめるとA=1.22、B=2.65、B-A=1.44となった。
・顔料分散体 12.5部
・酢酸ヘキシル(蒸気圧:3.8mmHg)15.0部
・乳酸プロピル(蒸気圧:1.0mmHg)50.0部
・エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(蒸気圧:0.30mmHg)7.5部
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(蒸気圧:0.1mmHg)15.0部
【0028】
[実施例3]
顔料分散体を下記のような配合にて希釈してインクジェットインキを作成した。このインキを本発明の数式に当てはめるとA=1.76、B=2.16、B-A=0.39となった。
・顔料分散体 12.5部
・ジエチレングリコールジメチルエーテル(蒸気圧:2.47mmHg)55.0部
・ジエチレングリコールジエチルエーテル(蒸気圧:0.6mmHg)15.0部
・シクロヘキサノン(蒸気圧:3.95mmHg)4.0部
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(蒸気圧:0.1mmHg)13.5部
【0029】
[実施例4]
顔料分散体を下記のような配合にて希釈してインクジェットインキを作成した。このインキを本発明の数式に当てはめるとA=0.45、B=5.41、B-A=4.96となった。
・顔料分散体 12.5部
・乳酸プロピル(蒸気圧:1.0mmHg)25.0部
・エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(蒸気圧:0.30mmHg)47.5部
・ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(蒸気圧:0.05mmHg)15.0部
【0031】
[比較例1]
顔料分散体を下記のような配合にて希釈してインクジェットインキを作成した。このインキを本発明の数式に当てはめるとA=2.92、B=1.00、B-A=-1.92となった。
・顔料分散体 12.5部
・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(蒸気圧:3.75mmHg)40.0部
・シクロヘキサノン(蒸気圧:3.95mmHg)30.0部
・エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(蒸気圧:0.25mmHg)17.5部
【0032】
[比較例2]
顔料分散体を下記のような配合にて希釈してインクジェットインキを作成した。このインキを本発明の数式に当てはめるとA=1.71、B=11.77、B-A=10.06となった。
・顔料分散体 12.5部
・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(蒸気圧:3.75mmHg)20.0部
・シクロヘキサノン(蒸気圧:3.95mmHg)20.0部
・エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(蒸気圧:0.25mmHg)17.5部
・トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(蒸気圧:0.03mmHg)30.0部
【0033】
実施例1?4、比較例1、2で得られたインクジェットインキについて、次のような項目について評価した。(1)粘度、(2)保存安定性、(3)吐出性、(4)乾燥性、(5)定着性、(6)耐水性。それぞれの測定法を以下に示す。
【0034】
(1)粘度:インキを25℃に調製し、ビスコメイトVM-100A(山一電機製、超音波振動式粘度計)にて測定した。
【0035】
(2)保存安定性:インキをポリプロピレン製のボトル型容器に入れ、70℃の恒温機に2週間保存、経時促進させた後、経時前後でのインキの粘度変化について測定した。この時の粘度測定は(1)の粘度測定と同様の方法で実施した。粘度の変化率が±10%以内なら○、±10%を越えたら×とした。
【0036】
(3)吐出性:インキをIP-6500(セイコーアイ・インフォテック社製、大判インクジェットプリンタ)にて光沢塩ビシートMD5(メタマーク社製)に5m連続記録し、ドット抜けを観察。ドット抜けしたノズルの数が全ノズルに対して何%あるかについて、0%の場合は○、0%?5%の場合は△、5%より多い場合は×とした。
【0037】
(4)乾燥性:インキをIP-6500(セイコーアイ・インフォテック社製、大判インクジェットプリンタ)にて光沢塩ビシートMD5(メタマーク社製)にベタ印字し、印字面を指で触り、インキが指に付着しなくなる時間によって評価。印字の際、プリンタに設置されたヒーターの温度は、プリンタヘッドの手前を35℃、プリンタヘッドの後部(印字後の乾燥部分)を40℃として評価した。印字直後にインキが付着しなければ○、印字直後にインキが付着しても、10分後にインキが付着しなくなっていれば△、10分以上経過してもインキが付着するものは×とした。
【0038】
(5)定着性:インキをIP-6500(セイコーアイ・インフォテック社製、大判インクジェットプリンタ)にて光沢塩ビシートMD5(メタマーク社製)にベタ印字し、記録物を40℃で3分間乾燥させ、ラビングテスター(テスター産業製、型式AB301)にて試験用布片(金巾3号)にて加重200g、100往復のラビング試験を塩ビシートの印字面にて実施した。試験用布片にインキが全く付着しないものを○、試験用布片にインキがやや付着するが、塩ビシートの印字面の濃度が殆ど変化しないものは△、塩ビシートの印字面のインキも殆ど剥がれてしまうものは×とした。
【0039】
(6)耐水性:インキをIP-6500(セイコーアイ・インフォテック社製、大判インクジェットプリンタ)にて光沢塩ビシートMD5(メタマーク社製)にベタ印字し、記録物を40℃で3分間乾燥させた後、塩ビシートを1分間水道水に浸漬し、指で印字面を擦ってインキが全く剥がれなければ○、インキが剥がれてしまえば×とした。
【0040】
実施例1?5、比較例1、2のインクジェットインキの蒸気圧から計算した数値A、数値B、数値Bと数値Aの差および評価結果を下記の表1にまとめた。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1?5のインキは保存安定性、吐出性、乾燥性、定着性、耐水性の全ての評価項目において良好な結果が得られたが、比較例1および2のインキは乾燥性のバランスが悪く、インクジェットインキとして好適ではなかった。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるグリコールアセテート類を少なくとも一種含有する2種類以上の混合有機溶剤、顔料および樹脂からなる非水性インクジェットインキにおいて、混合有機溶剤の全量を1とした時の各有機溶剤の混合重量比をそれぞれx_(1)、x_(2)・・・・・・x_(n)(ただしnは整数を表す。)、20℃での各有機溶剤の蒸気圧(mmHg)をそれぞれy_(1)、y_(2)・・・・・・y_(n)(ただしnは整数を表す。)とし、A=x_(1)y_(1)+x_(2)y_(2)+・・・・・+x_(n)y_(n)、B=x_(1)/y_(1)+x_(2)/y_(2)+・・・・・+x_(n)/y_(n)とした時、下記の数式(4)、(5)、(6)を全て満たし、混合有機溶剤のインキ中の含有率が80?97重量%であることを特徴とする非水性インクジェットインキ(但し、フルオロケミカル界面活性剤、およびシリカとシリコーン油とを含む消泡剤を含む非水性インクジェットインキを除く。)。
CH_(3)CO(OR_(1))_(n)OR_(2)一般式(1)
(式中、R_(1)はエチレン基またはプロピレン基、R_(2)は炭素数1?4のアルキル基、nは1?3の整数を表す。)
3>A>0.2 数式(4)
7>B>1.5 数式(5)
6>(B-A)>0.2 数式(6)
【請求項2】
更に分散剤を含む請求項1記載の非水性インクジェットインキ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-07-29 
結審通知日 2008-08-01 
審決日 2008-08-12 
出願番号 特願2004-144446(P2004-144446)
審決分類 P 1 113・ 536- YA (C09D)
P 1 113・ 121- YA (C09D)
P 1 113・ 537- YA (C09D)
P 1 113・ 113- YA (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智菅原 洋平  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
橋本 栄和
登録日 2006-11-02 
登録番号 特許第3873987号(P3873987)
発明の名称 非水性インクジェットインキ  
代理人 栗原 浩之  
代理人 鐘尾 宏紀  
代理人 鐘尾 宏紀  
代理人 村中 克年  
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