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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C22C
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  C22C
管理番号 1187802
審判番号 無効2007-800262  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-11-28 
確定日 2008-10-29 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3449307号発明「溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3449307号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3449307号は、平成11年8月25日に出願(特願平11-237934号)されたものであって、平成15年7月11日に、その特許権の設定登録がされ、その後、請求人JFEスチール株式会社から本件無効審判が請求されたものである。
以下に、請求以後の経緯を整理して示す。

平成19年11月28日付け 審判請求書の提出
平成20年 3月 3日付け 審判事件答弁書の提出
同日付け 訂正請求書の提出
平成20年 3月12日付け 訂正理由通知書の送付
同日付け 職権審理結果通知書の送付
平成20年 4月11日付け 意見書の提出(被請求人より)
同日付け 手続補正書(補正対象;訂正請求書)の提出
平成20年 4月14日付け 弁駁書の提出
平成20年 6月 4日 口頭審尋の実施
平成20年 8月 8日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人より)
平成20年 8月 8日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人より)
平成20年 8月 8日 口頭審理の実施
平成20年 8月13日付け 上申書の提出(請求人より)
平成20年 8月22日付け 上申書の提出(被請求人より)
平成20年 8月22日付け 上申書の提出(請求人より)

2.請求人の主張

1)請求人は、審判請求書によれば、「本件特許である、特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の甲第1?14号証を証拠方法として提出している。

甲第1号証;特開昭63-439号公報
甲第2号証;特開昭63-440号公報
甲第3号証;特開平8-176724号公報
甲第4号証;特開平10-298708号公報
甲第5号証;特開平10-88276号公報
甲第6号証;特開平9-31536号公報
甲第7号証;「新しい構造用鋼材とその諸特性、表紙、1,3?4,105?110頁、奥付」、昭和56年11月25日、日本鋼構造協会発行
甲第8号証;特開昭60-238449号公報
甲第9号証;特開平11-236645号公報
甲第10号証;「第159・160回西山記念技術講座 新しい時代を創造する高性能厚板、表紙、106?107頁、奥付」、平成8年2月7日、社団法人日本鉄鋼協会発行
甲第11号証;特開平10-25536号公報
甲第12号証;特開昭62-151544号公報
甲第13号証;特許第3449307号公報(本件特許公報)
甲第14号証;「鉄鋼製造法(第4分冊)、表紙、12?17,278?281,480頁、奥付」、昭和47年6月30日、丸善株式会社発行

2)そして、請求人は、審判請求書によれば、以下の無効理由a?eを主張しているものと認める。

a;本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、該請求項1に係る発明の本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
b;本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第7又は8号証に記載された発明に基いて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、該請求項1に係る発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
c;本件特許の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と甲第7又は8号証に記載された発明に基いて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、該請求項1に係る発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
d;本件特許の請求項1に係る発明は、甲第9号証に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であるから、該請求項1に係る発明の本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
e;請求項1に係る発明についての本件特許は、特許法第36条第6項第2号に適合しておらず同項に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものである。そして、上記第2号に適合していない理由として、下記の点を指摘していると認める。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

請求項1に記載の発明は、B添加高張力鋼に係るものであって、質量%で、C:0.05?0.15%、Si:0.3%以下、Mn:0.5?3.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:0.3?1.33%、Ti:0.005%以下、B:0.0003?0.0025%、Al:0.002?0.06%、N:0.004%以下、O:0.004%以下、ならびにCu:0.2?0.8%、Cr:0.2?1.0%、Mo:0.2?1.0%、V:0.005?0.1%およびNb:0.005?0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部は実質的にFeからなり、かつAl含有量とO含有量の関係が式「Al/O≧1.12」を満たせば、必ず、溶接熱影響部靭性に優れたものとなるとの発明であるが、上述したような要件を満たしても、溶接熱影響部靭性に劣ったものが知られており、上記記載の発明は明確とはいえない。

3)また、請求人は、審理の全趣旨によれば、平成20年4月11日付け手続補正書により補正された同年3月3日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)が認められても、以下の無効理由A及びBを主張しているものと認める。

A;本件特許の請求項1に係る訂正発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、該訂正発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(以下、「無効理由A」という。)
B;本件特許の請求項1に係る訂正発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、該訂正発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(以下、「無効理由B」という。)

3.被請求人の主張
被請求人は、審判事件答弁書によれば、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、審理の全趣旨によれば、本件訂正は認められるものであり、そして、無効理由A及びBに理由はないと主張し、以下の乙第1?4号証を提出している。

乙第1号証;「図解金属材料技術用語辞典、表紙、542?543頁、奥付」、1996年9月30日、日本工業新聞社発行
乙第2号証;「溶接構造要覧、表紙、III?IV,73?77頁、奥付」、1988年3月1日、黒木出版社発行
乙第3号証;「第104・105回西山記念技術講座 マイクロアロイング技術の最近の動向、表紙、総目次頁,「厚鋼板の特性に及ぼすマイクロアロイの効果と問題」と記載された表題頁と目次頁,125?131頁、奥付」、昭和60年5月2日、社団法人日本鋼構造協会発行
乙第4号証;「溶接構造要覧、表紙、III?IV,72?73頁、奥付」、1988年3月1日、黒木出版社発行

4.本件訂正について

4-1.平成20年4月11日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)について
本件補正は、概要、訂正請求書に記載されていた、明細書の段落【0030】、【0032】、【0036】、【0040】及び【0043】についての訂正事項を削除すると共に、これに合わせて、同書に添付した全文訂正明細書を補正するものと認める。
そして、本件補正は、訂正請求書の要旨を変更しているとの理由は見当たらず、また、これに対する主張を、無効審判請求人は、してはいない。
以上のことから、本件補正は、特許法第134条の2第5項の規定により準用する同法第131条の2第1項の規定を満たし、認められるものである。

4-2.本件訂正の内容
本件補正は、先に「4-1」で述べたように認められるものであるから、本件訂正は、本件補正により補正された訂正請求書及び添付した全文訂正明細書の記載から見て、以下の訂正事項a?iからなるものと認める。

訂正事項a;特許請求の範囲の記載につき、
「【請求項1】質量%で、C:0.05?0.15%、Si:0.3%以下、Mn:0.5?3.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:0.3?1.33%、Ti:0.005%以下、B:0.0003?0.0025%、Al:0.002?0.06%、N:0.004%以下、O:0.004%以下、ならびにCu:0.2?0.8%、Cr:0.2?1.0%、Mo:0.2?1.0%、V:0.005?0.1%およびNb:0.005?0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部は実質的にFeからなり、かつAl含有量とO含有量の関係が式「Al/O≧1.12」を満たすことを特徴とする溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼。」とあるのを、
「【請求項1】質量%で、C:0.05?0.15%、Si:0.20%以下、Mn:0.5?3.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:0.5?1.33%、Ti:0.005%以下、B:0.0003?0.0025%、Al:0.002?0.055%、N:0.004%以下、O:0.004%以下、ならびにCu:0.2?0.8%、Cr:0.2?1.0%、Mo:0.2?1.0%、V:0.005?0.1%およびNb:0.005?0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部は実質的にFeからなり、かつAl含有量とO含有量の関係が式「Al/O≧1.12」を満たすことを特徴とする、引張強さが80kgf/mm^(2)以上の溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼。」と訂正する。
訂正事項b;明細書の段落【0010】の記載につき、
「ところが、安定かつ安価に高強度を確保するめには、C量を無制限に低減することができない。・・・(審決注;「・・・」は、記載の省略を示す。以下、同様。)」とあるのを、
「ところが、安定かつ安価に高強度を確保するためには、C量を無制限に低減することができない。・・・」と訂正する。
訂正事項c;明細書の段落【0013】の記載につき、
「質量%で、C:0.05?0.15%、Si:0.3%以下、Mn:0.5?3.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:0.3?1.33%、Ti:0.005%以下、B:0.0003?0.0025%、Al:0.002?0.06%、N:0.004%以下、O:0.004%以下、ならびにCu:0.2?0.8%、Cr:0.2?1.0%、Mo:0.2?1.0%、V:0.005?0.1%およびNb:0.005?0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部は実質的にFeからなり、かつAl含有量とO含有量の関係が式「Al/O≧1.12」を満たすことを特徴とする溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼。」とあるのを、
「質量%で、C:0.05?0.15%、Si:0.20%以下、Mn:0.5?3.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:0.5?1.33%、Ti:0.005%以下、B:0.0003?0.0025%、Al:0.002?0.055%、N:0.004%以下、O:0.004%以下、ならびにCu:0.2?0.8%、Cr:0.2?1.0%、Mo:0.2?1.0%、V:0.005?0.1%およびNb:0.005?0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部は実質的にFeからなり、かつAl含有量とO含有量の関係が式「Al/O≧1.12」を満たすことを特徴とする、引張強さが80kgf/mm^(2)以上の溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼。」と訂正する。
訂正事項d;明細書の段落【0022】の記載につき、
「・・・これは、両者の硬さが明確に相違することか明らかである。」とあるのを、
「・・・これは、両者の硬さが明確に相違することから明らかである。」と訂正する。
訂正事項e;明細書の段落【0031】の記載につき、
「これに対し、本発明が対象とするB添加高張力鋼では、低Ti化によってTiNの影響が取り除かれて焼入性が上昇し、この焼入性の上昇により低靭性な上部ベイナイト組織の生成量が減少するために靭性が向上するものと推定される。」とあるのを、
「これに対し、本発明が対象とする引張強さが80kgf/mm^(2)以上のB添加高張力鋼では、低Ti化によってTiNの影響が取り除かれて焼入性が上昇し、この焼入性の上昇により低靭性の上部ベイナイト組織の生成量が減少するために靭性が向上するものと推定される。」と訂正する。
訂正事項f;明細書の段落【0038】の記載につき、
「・・・好まし上限は0.02%、より好ましい上限は0.01%である。」とあるのを、
「・・・好ましい上限は0.02%、より好ましい上限は0.01%である。」と訂正する。
訂正事項g;明細書の段落【0039】の記載につき、
「・・・好まし上限は0.005%、より好ましい上限は0.002%である。」とあるのを、
「・・・好ましい上限は0.005%、より好ましい上限は0.002%である。」と訂正する。
訂正事項h;明細書の段落【0041】の記載につき、
「・・・好まし上限は0.003%、より好ましい上限は0.001%である。」とあるのを、
「・・・好ましい上限は0.003%、より好ましい上限は0.001%である。」と訂正する。
訂正事項i;明細書の段落【0044】の記載につき、
「・・・好まし上限は0.003%、より好ましい上限は0.0015%である。」とあるのを、
「・・・好ましい上限は0.003%、より好ましい上限は0.0015%である。」と訂正する。

4-3.本件訂正の適否
ここでは、「願書に添付した明細書又は図面」を「訂正前明細書」という。また、本件訂正前の特許請求の範囲請求項1については「旧請求項1」と、本件訂正後については「新請求項1」という。

4-3-1.訂正事項aについて

1)この訂正は、まずは、旧請求項1に記載されていた「Si:0.3%以下」、「Ni:0.3?1.33%」及び「Al:0.002?0.06%」の記載を、それぞれ、「Si:0.20%以下」、「Ni:0.5?1.33%」及び「Al:0.002?0.055%」と訂正し、同項に係る発明であるB添加高張力鋼につき、これが含有するSi、Ni及びAlの含有量割合の数値的範囲をより限定するもので、更に、この訂正は、旧請求項1に記載されていた「溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼」の記載を、「引張強さが80kgf/mm^(2)以上の溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼」と訂正し、同項に係る発明であるB添加高張力鋼につき、これの引張強さを数値的に限定するものといえる。

2)また、訂正前明細書には、甲第13号証によれば、
「Ni:0.3?1.33%
Niは母材の靭性を損なうことなく強度上昇に寄与する元素である。また、溶接熱影響部の靭性向上にも効果を有する。これらの効果を得るためには最低でも0.3%が必要である。一方、過剰なNi添加は溶接部の硬度上昇を招いて耐溶接割れ性を劣化させるので上限を1.33%とした。好ましい範囲は0.5?1.33%、より好ましい範囲は1.0?1.33%である。」(段落【0040】)並びに、
「【実施例】容量が200kgの真空精錬炉を用い、表1に示す化学組成を有する7種類の鋼を溶解した。そして、得られた各鋼の鋼塊を熱間鍛造と熱間圧延によって板厚50mmの鋼板に仕上げた後、980℃での焼入れと630℃での焼戻し処理を施して母材とした。」(段落【0048】)及び、
「本発明例」の「1」の、「化学組成(質量%)」の「Si」に対応する欄に「0.20」と記載され、同様に、「2」の「Si」に対応する欄に「0.18」と、更に、「3」の「Si」に対応する欄に「0.19」と記載され、また、同様に、「1」の「Al」に対応する欄に「0.033」と、「2」の「Al」に対応する欄に「0.040」、「3」の「Al」に対応する欄に「0.055」と記載された【表1】(段落【0049】)、
の記載が認められ、この訂正は、これらの記載を根拠にしたものといえる。

3)以上のことから、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、この訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由は見当たらない。

4-3-2.訂正事項b、d、f、g、h、iについて
訂正事項bは、訂正前明細書の段落【0010】に記載の「確保するめには、」を「確保するためには、」と訂正するもので、また、同様に、訂正事項dは、段落【0022】に記載の「相違することか明らかである」を「相違することから明らかである」と、更に、訂正事項f、g、h及びiは、それぞれ、段落【0038】、段落【0039】、段落【0041】及び段落【0044】のいずれにも記載の「好まし上限は」を「好ましい上限は」と訂正するもので、これら訂正は、誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当し、また、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。
更に、これら訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由は見当たらない。

4-3-3.訂正事項cについて
この訂正は、訂正事項aと整合を図るべく訂正前明細書の段落【0013】の記載を訂正するもので、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、先の「4-3-1」で検討したことから、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかであるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由は見当たらない。

4-3-4.訂正事項eについて
この訂正は、まず、訂正前明細書の段落【0031】に記載の「本発明が対象とするB添加高張力鋼では、」を「本発明が対象とする引張強さが80kgf/mm^(2)以上のB添加高張力鋼では、」と訂正するもので、訂正事項aと整合を図るべく明細書の記載を訂正するもので、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、先の「4-3-1」で検討したことから、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。
更に、この訂正は、訂正前明細書の段落【0031】に記載の「この焼入性の上昇により低靭性な上部ベイナイト組織の生成量が減少するため」を「この焼入性の上昇により低靭性の上部ベイナイト組織の生成量が減少するため」と訂正するもので、誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当し、また、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。
また、これら訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由は見当たらない。

4-3-5.まとめ
本件訂正は、特許法第134条の2第1項の規定を満たし、また、同条第5項において準用する特許法第126条第3、4項の規定に適合するので、これを認める。
なお、これに対する主張を、無効審判請求人は、してはいない。

5.当審の判断
本件訂正は、先に「4」で述べたように、認められるものである。そこで、まずは、無効理由Aについて、見ていくことにする。

5-1.本件特許に係る発明
本件訂正後の本件特許に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、本件訂正により訂正された明細書又は図面(以下「訂正明細書等」という。)によれば、その特許請求の範囲請求項1に記載の事項により特定されるもので、同項の記載は、以下のとおりと認める。

「質量%で、C:0.05?0.15%、Si:0.20%以下、Mn:0.5?3.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:0.5?1.33%、Ti:0.005%以下、B:0.0003?0.0025%、Al:0.002?0.055%、N:0.004%以下、O:0.004%以下、ならびにCu:0.2?0.8%、Cr:0.2?1.0%、Mo:0.2?1.0%、V:0.005?0.1%およびNb:0.005?0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部は実質的にFeからなり、かつAl含有量とO含有量の関係が式「Al/O≧1.12」を満たすことを特徴とする、引張強さが80kgf/mm^(2)以上の溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼。」

ここで、本件発明について検討しておく。

1)本件発明は、質量%でTiを0.005%以下、含有するものである。

2)一方、訂正明細書等には、以下の記載a?cが認められる。

a;「Ti:0.005%以下
Tiは本発明鋼を特徴付ける重要な元素で、その含有量が0.005%を超えると溶融線近傍での焼入性が低下し、所望の溶接熱影響部靭性が確保できないので、0.005%以下とした。なお、十分な焼入性を確保するにはTiの含有量を0.005%以下に制限するとともに、N含有量を0.004%以下に抑える必要がある。それにより、少なくとも溶融線近傍の十分な焼入性が確保される。好ましい上限は0.003%、より好ましい上限は0.001%である。」(段落【0041】)
b;「【実施例】
容量が200kgの真空精錬炉を用い、表1に示す化学組成を有する7種類の鋼を溶解した。そして、得られた各鋼の鋼塊を熱間鍛造と熱間圧延によって板厚50mmの鋼板に仕上げた後、980℃での焼入れと630℃での焼戻し処理を施して母材とした。」(段落【0048】)及び、
「区分」及び「鋼No.」が「本発明例」及び「2」である欄に対応して「化学成分(質量%)」の「Ti」の対応する欄に「-」と記載された【表1】(段落【0049】)(審決注;平成20年4月11日付け手続補正書に添付された全文訂正明細書の段落【0049】にある【表1】に記載された「化学成分(重量%)」は、「化学成分(質量%)」の誤記と認める。)
c;「表4に示す結果からわかるように、本発明例の鋼(鋼No. 1?3)は、いずれも溶接熱影響部内での最低硬さがHvCRより大きく、吸収エネルギーが105?120Jと溶接熱影響部の靭性が良好であった。」(段落【0057】)

記載aには、本件発明において、Tiを0.005%以下とすることの技術的意義が記載され、この記載によれば、その含有量が0.005%を超えると溶融線近傍での焼入性が低下し、所望の溶接熱影響部靭性が確保できないことが窺え、Tiの含有量としては、その上限値に技術的意義のあることが窺えるのであって、少なくとも、Tiを積極的に含有させることについての技術的意義は記載されていない。
また、記載b及びcには、本発明例の鋼(鋼No. 2)が記載され、該鋼は、本件発明の具体例であることは明らかで、ここには、Tiの含有量についての記載はない。

3)そして、本件発明は、先に「1)」で述べたように、質量%でTiを0.005%以下、含有するものであるが、「2)」で認定した、Tiの含有量についての技術的意義や本件発明の具体例の記載ぶりを勘案すると、本件発明は、Tiを実質的に含有しないもの、すなわち、Tiを不可避不純物として含んでいるものも包含していると、いうことができる。

5-2.無効理由Aについて

5-2-1.甲第1号証記載の発明

1)甲第1号証には、以下の記載ア?カが認められる。

ア;「2.特許請求の範囲
(1)重量%にて
C:0.02?0.20% 、Si:0.15%以下
Mn:0.50?2.00% 、Cr:0.05?2.0%
Ni:0.05?5.0% 、Mo:0.05?1.0%
V;0.005?0.10% 、B:0.0005?0.0025%
Cu:0.05?1.0% 、sol.Al:0.02?0.10%
O:0.0002?0.0030%、N:0.0005?0.0035%
かつB、Nは上記範囲内でB/N:0.35?2.0を満たして含有し、残部Feおよび不可避不純物からなることを特徴とする高入熱溶接用調質高張力鋼。」(1頁左下欄4行?下から6行)
イ;「本発明は溶接構造物に使用される引張強さ70kgf/mm^(2)以上の母材強度を有し、且つ溶接入熱80KJ/cmでも良好な低温靭性を有する高入熱溶接用調質高張力鋼に関するものである。」(1頁右下欄下から9?6行)
ウ;「(作用)
すなわち、本発明は種々の実験結果により引張強さ70kgf/mm^(2)以上の鋼における溶接部低温靱性支配因子を明らかにしたこと、及びその結果から低コストで溶接入熱向上策を開発したことに基づいてなしたものである。先にも述べた如くこの種の高張力鋼ではB添加による焼入性向上効果を用い、母材のミクロ組織を下部ベーナイトとすることにより良好な低温靱性を得るのが一般的であるが、溶接部、特にFusion Line部においては低温靱性が著しく低下する。」(2頁左下欄7行?下から4行)
エ;「sol.Alは、母鋼板製造時に、AINを形成し、γ粒の粗大化を防止しかつ固溶N量を低減し、γ粒界に偏析可能な固溶B量を確保する。所望の作用を得るには0.02%以上の含有が必要である。一方、0.10%を超える含有では、鋳造時に表面庇を生じかつ、鋼板の清浄度が著しく低下する。以上からsol.Alの含有量は0.02?0.10%に限定した。」(4頁左下欄3?9行)
オ;「Nは本発明のポイントとなる元素である。その作用は前述のとおりである。即ち、多層感溶接部Fusion Line付近ではAc_(3)直上の850?1100℃の範囲でBをBNとして固定して、Bの新オーステナイト粒界への偏析を抑制すると共に、旧γ粒界から生成する新オーステナイト粒を細粒にするという2つの作用によって焼入性の低下を生じ、上部ベーナイトを生成して低温靱性の低下を生じる。低N化によって、Bの再分布が容易になると共に、新オーステナイト粒の形態も比較的大きな粒となって焼入性が向上し、低温靱性が向上する。」(4頁左下欄下から5行?右下欄6行)
カ;「(実施例)
第1表に示す化学成分を有する本発明鋼A?Gと比較鋼H?Kをそれぞれ転炉で溶製後、RH脱ガス処理を行ない、造塊一分塊法にてスラブを製造した。該スラブを1250℃に加熱後圧延を開始し圧延仕上温度を1000℃とし、第1表に示す板厚に圧延したのち室温まで放冷した。その後調質熱処理として焼入れ(930℃)?焼戻し(630℃)を施した。制御冷却によるG鋼は、1050℃で加熱し圧延後Ar_(3)変態点より高温である800℃より制御冷却を開始し、室温まで冷却し、次いで焼戻し(630℃)を施した。このようにして得られた鋼板からサンプルを切出し母材性能、継手性能を調査した。その結果を第2表に示すが本発明に従ったA?G鋼は、比較鋼に比して母材性能はもちろん溶接継手部靱性が優れていることが明らかである。」(5頁右上欄下から2行?左下欄末行)並びに、
「例」及び「鋼」が「本発明」及び「B」である欄に対応して「化学成分(重量%)」の「C」の対応する欄に「0.10」と記載され、同様に、「Si」の欄に「0.09」、「Mn」の欄に「0.95」、「P」の欄に「0.012」、「S」の欄に「0.002」、「Cr」の欄に「0.48」、「Ni」の欄に「0.85」、「Mo」の欄に「0.45」、「V」の欄に「0.04」、「B」の欄に「0.0010」、「Cu」の欄に「0.26」、「sol.Al」の欄に「0.060」、「O」の欄に「0.0022」及び「N」の欄に「0.0018」と記載され、更に「Ti」の欄が空欄として記載されており、
更に、「例」及び「鋼」が「本発明」及び「C」である欄に対応して、「化学成分(重量%)」の「C」の対応する欄に「0.10」と記載され、同様に、「Si」の欄に「0.07」、「Mn」の欄に「0.92」、「P」の欄に「0.007」、「S」の欄に「0.001」、「Cr」の欄に「0.51」、「Ni」の欄に「1.43」、「Mo」の欄に「0.47」、「V」の欄に「0.03」、「B」の欄に「0.0011」、「Cu」の欄に「0.25」、「sol.Al」の欄に「0.057」、「O」の欄に「0.0015」及び「N」の欄に「0.0018」と記載され、更に「Ti」の欄が空欄として記載された、第1表(6頁)及び、
「例」及び「鋼」が「本発明」及び「B」である欄に対応して「母材性能」、「引張試験*1」、「T.S(Kgf/mm^(2))の対応する欄に「83.6」と、同様に、「本発明」及び「C」である欄に対応して「85.2」と記載された、第2表(6頁)

2)甲第1号証には、記載アによれば、「重量%にて、C:0.02?0.20%、Si:0.15%以下、Mn:0.50?2.00%、Cr:0.05?2.0%、Ni:0.05?5.0%、Mo:0.05?1.0%、V;0.005?0.10%、B:0.0005?0.0025%、Cu:0.05?1.0%、sol.Al:0.02?0.10%、O:0.0002?0.0030%、N:0.0005?0.0035%、且つ、B、Nは上記範囲内でB/N:0.35?2.0を満たして含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる高入熱溶接用調質高張力鋼」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。そして、甲1発明は、記載イ、ウ及びオによれば、溶接入熱80KJ/cmでも良好な低温靭性を有し、この低温靭性とは、溶接部、特にFusion Line部やその付近でのものであることが窺える
一方、甲第1号証の記載カには、本発明鋼Bが記載され、本発明鋼Bが甲1発明の具体例であることは、甲第1号証の記載全体の趣旨からして、明らかである。なお、この点について補足しておくと、本発明鋼Bは、記載カによれば、Pを0.012%、Sを0.002%、含有するものであるが、PやSが甲1発明の不可避不純物に相当することは、甲第1号証に、甲1発明に関し、これらを含有させることの技術的意義が記載されていないことなどから、明らかである。
そして、本発明鋼Bが甲1発明の具体例であることを踏まえた上で、記載カをみると、本発明鋼Bは、以下のとおりのもので、甲第1号証には、本発明鋼Bの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「重量%にて、C:0.10%、Si:0.09%、Mn:0.95%、Cr:0.48%、Ni:0.85%、Mo:0.45%、V:0.04%、B:0.0010%、Cu:0.26%、sol.Al:0.060%、O:0.0022% 、N:0.0018%を含有し、残部Fe及び、P:0.012%、S:0.002%を含む不可避不純物からなる、引張強さが83.6kgf/mm^(2)で、Fusion Line部やその付近での良好な低温靭性を有する高入熱溶接用調質高張力鋼」

5-2-2.本件発明と引用発明との対比判断

1)引用発明の「重量%」は、「質量%」ということができ、また、引用発明は、Al含有量とO含有量の関係としてのAl/Oは、大凡、27.3であって、更に、Fusion Line部やその付近での良好な低温靭性を有するものであるが、このFusion Line部やその付近は、溶接熱影響部ということができる。
また、本件発明は、先に「5-1」で述べたように、Tiを実質的に含有しないもの、すなわち、Tiを不可避不純物として含んでいるものも包含していると、いうことができ、この点においては、引用発明も変わるところがないといえる。
以上のことを踏まえ、本件発明と引用発明とを対比すると、
両発明は、「質量%で、C:0.05?0.15%、Si:0.20%以下、Mn:0.5?3.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:0.5?1.33%、Ti:0.005%以下、B:0.0003?0.0025%、Al、N:0.004%以下、O:0.004%以下、ならびにCu:0.2?0.8%、Cr:0.2?1.0%、Mo:0.2?1.0%、V:0.005?0.1%およびNb:0.005?0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部は実質的にFeからなり、かつAl含有量とO含有量の関係が式「Al/O≧1.12」を満たす、引張強さが80kgf/mm^(2)以上の溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼。」で一致し、
以下の相違点Aで相違していると認められる。

相違点A;Al含有量が、引用発明は0.060%であるのに対し、本件発明は0.002?0.055%である点で相違し、しかも、Al含有量とO含有量の関係が式「Al/O≧1.12」を満たし、引張強さが80kgf/mm^(2)以上の溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼である点。

2)そこで、この相違点Aについて検討する。
引用発明は、先に「5-2-1」の「2)」で述べたことから明らかなように、甲1発明の具体例である。
その一方で、甲第1号証には、先に「5-2-1」の「1)」で摘示した記載エには、甲1発明においてAlを、所定量、含有させる技術的意義として、母鋼板製造時にγ粒の粗大化を防止し、また、γ粒界に偏析可能な固溶B量を確保するためには0.02%以上の含有が必要であること、更に、鋳造時に表面庇を生じ、且つ、鋼板の清浄度が著しく低下するのを避けるためには0.10%以下とすることが必要であることが記載されている。
そして、この記載に接した当業者は、甲1発明の具体例である引用発明を実施するに際して、Alを含有させる量を、0.02%以上0.10%以下の範囲で、少なくとも、0.060%の前後の範囲で、適宜に、変更しようとすることは普通に考え付くことで、0.055%程度或いはこれを少し下回る程度の含有量に変更することも、容易に想到し得るものである。
そして、この変更が、Al含有量とO含有量の関係が式「Al/O≧1.12」を満たす程度のものであることは明らかで、更に、この変更の程度が、0.060%から、0.055%程度或いはこれを少し下回る程度のものへという、僅かな変更であることから、この変更後のものも、引張強さが83.6kgf/mm^(2)程度の80kgf/mm^(2)以上で、やはり、溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼であると考えるのが自然である。
また、仮に、上記変更後のものは、引張強さが80kgf/mm^(2)以上でないとしても、本件発明を具体例とする甲1発明は、先に「5-2-1」の「1)」で摘示した記載イによれば、引張強さが70kgf/mm^(2)以上のもので、引張強さがより大きいものを狙ったものであることは明らかで、同じく摘示した記載カによれば、甲1発明の具体例であることが明らかな本発明鋼Cの引張強さが85.2kgf/mm^(2)でもあることから、引用発明において、Alを含有させる量を0.055%程度或いはこれを少し下回る程度の%に変更するとともに、高入熱溶接用調質高張力鋼とする、その調整法を適宜に変更して、少なくとも、引張強さが80kgf/mm^(2)以上のものとすることは容易に設計できるものといえる。

3)ここで、本件発明の効果について検討しておく。
本件発明は、質量%で、Al:0.002?0.055%を含有したことを、いわゆる、発明特定事項とするものである。
一方、訂正明細書等の段落【0034】?【0043】には、以下の記載が認められる。

「【0034】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のB添加高張力鋼の化学組成を上記のように定めた理由について詳細に説明する。なお、以下において、「%」は「質量%」を意味する。
・・・。
【0043】
Al:0.002?0.06%
Alは鋼の脱酸に重要な元素である。この効果を得るためには0.002%以上の含有量が必要である。しかし、過剰なAl添加は溶接熱影響部において島状マルテンサイト組織の生成を助長し、靭性を劣化させる。このため、Al含有量は0.002?0.06%とした。好ましい範囲は0.004?0.04%、より好ましい範囲は0.004?0.02%である。」

そして、この記載によれば、Alを含有する意義は、鋼の脱酸効果にあるが、過剰に含有させると靭性を劣化させることから、その含有量を0.002?0.06%とすることが窺え、この0.002%という下限値は鋼の脱酸効果を発揮させるに必要な含有量で、また、0.06%という上限値は、靭性を劣化させないという効果を奏するための上限含有量としての意義のあることが窺える。
一方、本件発明におけるAl含有量は、上述したように、0.002?0.055%で、この上限値の0.055%は、小数点以下、下2桁目までの有効数字としてみると、0.06%となり、このことを考え合わせると、上記記載は、本件発明においてAl含有量を0.002?0.055%含有させることの技術的意義を実質的に記載しているものといえる。
なお、補足すれば、このAl含有量の上限値である0.06%との数値は、その有効数字から見て、0.055?0.064%との数値となり、このような数値範囲のものとして、上記上限値は、上述した意義を有しているということができるのであって、本件発明は、Alの含有量につき、下限値が0.002、上限値が0.055?0.064%の、この上下限の範囲内にあることによって、上述した効果を発揮していると解することができるのである。
他方、引用発明は、先に「5-2-2」の「1)」で認定したとおり、本件発明に対し、「質量%で、C:0.05?0.15%、Si:0.20%以下、Mn:0.5?3.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:0.5?1.33%、Ti:0.005%以下、B:0.0003?0.0025%、Al、N:0.004%以下、O:0.004%以下、ならびにCu:0.2?0.8%、Cr:0.2?1.0%、Mo:0.2?1.0%、V:0.005?0.1%およびNb:0.005?0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部は実質的にFeからなり、かつAl含有量とO含有量の関係が式「Al/O≧1.12」を満たす、引張強さが80kgf/mm^(2)以上の溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼。」で一致するもので、Alの含有量が0.060%である点でのみ相違するが、この0.060%という含有量は、上述した、本件発明において、Alの含有量につき、その効果を発揮する数値範囲内に含まれるものである。
してみると、引用発明は、本件発明と同等の効果を奏しているということができ、本件発明の効果は、格別、顕著な効果ということはできない。

4)以上のことから、引用発明において、相違点Aは容易に為し得るもので、本件発明は、引用発明に基いて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものといえる。

5)これに対し、被請求人は、要するに、本件発明と引用発明とは、溶接熱影響部内において、その靭性を問題とする部位を異にしているから、これら発明は、その解決を図る課題が異なり、また、その解決する手段についての基本的な考え方を異にするから、本件発明は、引用発明に基いて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたとはいえないと、主張する。
そこで、検討すると、これまで述べてきたように、本件発明は、引用発明とは相違点Aで相違し、該相違点Aは容易に為し得るもので、本件発明は、引用発明に基いて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたといえるものであって、仮に、被請求人の主張するように、本件発明と引用発明とに上記課題の相違があり、その解決する手段についての基本的な考え方に相違があったとしても、何ら、上記判断を左右するものではなく、被請求人の主張は妥当性を欠くものである。

5-2-3.まとめ
本件発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、無効理由Aには理由があるといわざるを得ない。

6.むすび
本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.05?0.15%、Si:0.20%以下、Mn:0.5?3.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:0.5?1.33%、Ti:0.005%以下、B:0.0003?0.0025%、Al:0.002?0.055%、N:0.004%以下、O:0.004%以下、ならびにCu:0.2?0.8%、Cr:0.2?1.0%、Mo:0.2?1.0%、V:0.005?0.1%およびNb:0.005?0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部は実質的にFeからなり、かつAl含有量とO含有量の関係が式「Al/O≧1.12」を満たすことを特徴とする、引張強さが80kgf/mm^(2)以上の溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、引張強さが80kgf/mm^(2)以上の溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】
構造物の高性能化、大型化が進むのに伴って高強度鋼板の開発の重要性が高まっている。鋼板強度は、添加元素の増加により達成される。しかし、添加元素の増加は、一般に、溶接施工時の耐溶接割れ性を低下させる。このため、添加元素量を増加させることなく高強度が得られるような組成、製造法に関する種々の検討がなされてきた。その結果、微量(0.0003?0.002%程度)のB添加により鋼の焼入性が著しく向上することから、耐溶接割れ性の極端な劣化を生じさせることなく引張強さが80kgf/mm^(2)を超える高強度鋼を製造できることが明らかにされている。
【0003】
溶接構造用の鋼板には、一般に、上記の耐溶接割れ感受性の他に溶接熱影響部靭性が要求される。溶接熱影響部靭性の改善方法としては、一般的に、以下の(イ)?(ニ)の方法が有効とされている。
【0004】
(イ)析出物を利用して高温加熱された際の旧オーステナイト結晶粒の粗大化を防止する。
【0005】
(ロ)析出物を利用して粒内変態を促進することにより組織を微細化する。
【0006】
(ハ)C、Si、Alを低減することにより島状マルテンサイト組織などの硬化第二相の生成を抑制する。
【0007】
(ニ)N量を低減することによりマトリックスの靭性を向上させる。
【0008】
ただし、上記(イ)?(ニ)の方法が検討された対象は、引張強さが60kgf/mm^(2)程度の比較的低強度の鋼材においてである。
【0009】
母材の引張強さが80kgf/mm^(2)以上の高強度B添加鋼の溶接熱影響部靭性の改善方法としては、C、SiおよびSol.Al量を低減して島状マルテンサイト組織などの硬化第二相の生成量を減らす方法(特開平9-67620号公報)や、N量を0.002%以下に低減する方法(特公平1-21847号公報)があるにすぎない。
【0010】
ところが、安定かつ安価に高強度を確保するためには、C量を無制限に低減することができない。また、実製造を想定した場合、Al量の極端な低減は脱酸不足を招く懸念がある。すなわち、上記の特開平9-67620号公報に示される方法では、実質的に効果を挙げうるのはSi量の低減だけであるという問題があった。また、特公平1-21847号公報に示されるN量を低減する方法については、N量が0.002%以下の鋼を安定かつ大量に生産することが難しいという問題があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、C、NおよびAl量の極端な低減が不要で、安定かつ大量に生産することが容易であり、所望の母材特性と耐溶接割れ性を備えるとともに、良好な溶接熱影響部靭性を示す引張強さが80kgf/mm^(2)以上のB添加高張力鋼を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、次の溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼にある。
【0013】
質量%で、C:0.05?0.15%、Si:0.20%以下、Mn:0.5?3.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:0.5?1.33%、Ti:0.005%以下、B:0.0003?0.0025%、Al:0.002?0.055%、N:0.004%以下、O:0.004%以下、ならびにCu:0.2?0.8%、Cr:0.2?1.0%、Mo:0.2?1.0%、V:0.005?0.1%およびNb:0.005?0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部は実質的にFeからなり、かつAl含有量とO含有量の関係が式「Al/O≧1.12」を満たすことを特徴とする、引張強さが80kgf/mm^(2)以上の溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼。
【0014】
本発明者らは、B添加高張力鋼の母材特性と耐溶接割れ性を劣化させることなく、溶接熱影響部靭性を向上させる方法について鋭意研究を行った結果、次のことを知見して上記の本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、代表的なB添加高張力鋼の一つであるHT100相当鋼(0.11%C-0.2%Si-0.9%Mn-1.3%Ni-0.5%Cr-0.5%Mo-0.04V-0.01%Nb-0.01%Ti-0.02%Al-0.001%B-0.004%N)を用いて溶接入熱量4.5kJ/mmの1層溶接を行い、その溶接部の靭性、硬さ分布およびミクロ組織を詳細に調査した。
【0016】
その結果、溶接熱影響部において靭性が最も低下するのは溶融線近傍である。また、溶接部、具体的には溶接金属の厚さ方向の中央を通る母材表面に平行な線上では、図1に示すような硬さ分布を示し、溶融線近傍には硬さ低下領域が存在していることが判明した。これは、溶融線近傍のミクロ組織の観察結果と硬さ測定結果より、溶融線近傍では何らかの理由で焼入性が低下し、上部ベイナイト組織が生成するためと推定される。
【0017】
上記の結果は、溶融線近傍での靭性低下の原因が下記の2つのうちのいずれかであることを示唆している。
【0018】
(A)溶融線近傍では旧オーステナイト粒が粗大化するために靭性が低下する。
【0019】
(B)溶融線近傍では上部ベイナイト組織が生成するために靭性が低下する。
【0020】
そこで、これらのいずれが靭性低下の主原因であるかを究明するために次の実験を行った。すなわち、その実験は、上記のHT100相当鋼を1350℃に加熱した後に冷却速度10℃/秒で200℃まで冷却した試験片(以下、急冷材という)と、1350℃に加熱した後に冷却速度10℃/秒で500℃まで冷却し、次いで冷却速度1℃/秒で200℃まで冷却した試験片(以下、徐冷材という)を作製し、両者の組織、硬さおよび靭性を調査する実験である。なお、実際の溶接熱サイクルは徐冷材に近い。
【0021】
その結果、急冷材と徐冷材の旧オーステナイト粒径は、いずれも約200μmで大きな差はなかった。急冷材のビッカース硬さHvは320であり、粒内に上部ベイナイト組織の生成は認められなかった。一方、徐冷材のビッカース硬さHvは270程度であり、粒内に上部ベイナイト組織の生成が認められた。また、急冷材の靭性は-10℃のシャルピー衝撃試験において150J以上の吸収エネルギーを示したのに対し、徐冷材の吸収エネルギーは40J程度であった。
【0022】
以上の結果、実際の溶接継手の溶融線近傍での靭性低下の原因は、結晶粒の粗大化によるのではなく、焼入性の低下による上部ベイナイト組織の生成が主たる原因であることが判明した。これは、両者の硬さが明確に相違することから明らかである。
【0023】
そこで、溶融線近傍での焼入性の低下(硬さ低下)を防止し、優れた溶接熱影響部靭性を有する鋼を得るための条件について種々検討を行った結果、以下の知見を得た。
【0024】
(a)溶融線近傍の溶接熱影響部靭性に優れた鋼では、図1中に示したmin.Hv(HAZ)は下記の(1)式を満たす。
【0025】
min.Hv(HAZ)≧0.7×(800×C+295)・・・(1)
なお、(1)式中のCは母材のC含有量(質量%)である。また、(1)式中の右辺における「800×C+295」は母材のC含有量より推定されるマルテンサイト組織の硬さを示している。
【0026】
(b)低Ti化と低N化は、いずれも、図1中に示したmax.Hv(HAZ)を上昇させることなくmin.Hv(HAZ)のみを上昇させ、溶融線近傍の硬さを上昇させて靭性を向上させる。その効果は、Tiについては0.005質量%以下、Nについては0.002質量%以下に低減した場合に顕著になる。
【0027】
上記のうち、Nによる効果は、前述の特公平1-21847号公報に示されるのと同じであるが、Ti量を0.005質量%以下にした場合、0.004質量%までであればNを含んでも、N量が0.0015質量%、Ti量が0.01質量%の鋼と同等の吸収エネルギーを示すことを確認した。
【0028】
すなわち、大気中から混入しやすいために、商業規模ではN含有量を0.002%以下に低減するのは難しい。しかし、N含有量が0.004%までであれば、Nに比べてその含有量を低くしやすいTiの含有量を0.005%以下に制限することで、溶接熱影響部靭性に優れた鋼を安定かつ大量生産することが可能であることを知見した。
【0029】
なお、TiおよびN量を低減した場合、上記のmin.Hv(HAZ)のみが上昇する理由の詳細は不明であるが、次によるものと推定される。
【0030】
すなわち、従来の大入熱対策鋼では、TiNが高温でも比較的安定なことと、溶接による加熱冷却が短時間加熱であることが相まって、溶融線近傍の高温加熱域においてもTiNの一部が結晶質のまま残留し、旧オーステナイト結晶粒の粗大化が抑制される。さらに、冷却過程においては、フェライトの変態生成核として機能するため組織が微細化されて靭性が向上する。これらの作用は、TiNが溶融線近傍の焼入性を低下させる作用を持つことを示している。
【0031】
これに対し、本発明が対象とする引張強さが80kgf/mm^(2)以上のB添加高張力鋼では、低Ti化によってTiNの影響が取り除かれて焼入性が上昇し、この焼入性の上昇により低靭性の上部ベイナイト組織の生成量が減少するために靭性が向上するものと推定される。
【0032】
(c)C量、Al量およびSi量の増加に伴って溶接部の靭性が低下する。その原因は、島状マルテンサイト組織などの硬化第二相の減少に伴うものと推定される。このため、C、AlおよびSi含有量は、それぞれ、0.15%以下、0.06%以下、0.3%以下に制限する必要がある。
【0033】
(d)Al量を低減した場合には靭性が向上するが、「Al/O(酸素)」値が1.12未満となる量にまでAl量を低減しすぎると上記のmin.Hv(HAZ)が低下し、これに伴って靭性が低下する。これは、「Al/O」値が1.12未満では、Ti酸化物が生成するため粒内変態核が増加して変態温度が上昇し、焼入性が低下して上部ベイナイト組織が生成しやすくなるためと推定される。したがって、「Al/O」値は、O量を0.004質量%以下に制限したうえで、1.12以上にする必要がある。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のB添加高張力鋼の化学組成を上記のように定めた理由について詳細に説明する。なお、以下において、「%」は「質量%」を意味する。
【0035】
C:0.05?0.15%
Cは鋼の強度を上昇させるうえで最も重要な元素である。その効果を得るためには0.05%以上の含有量が必要である。一方、Cの過剰な添加は溶接熱影響部での島状マルテンサイト組織などの硬化第二相の生成を助長するので、その上限を0.15%とした。好ましい範囲は0.05?0.12%、より好ましい範囲は0.07?0.12%である。
【0036】
Si:0.3%以下
Siは鋼の脱酸元素または強度上昇元素として重要である。そのためには最低でも0.05%程度含有させるのがよい。しかし、過剰なSi添加は溶接熱影響部での島状マルテンサイト組織の生成量の増加を招き、靭性を低下させる。このため、上限を0.3%に限定した。好ましい上限は0.20%、より好ましい上限は0.10%である。なお、脱酸または強度補償をSi以外の他の元素で代替することが可能であるため、特に下限値は設けない。
【0037】
Mn:0.5?3.5%
Mnは鋼の強度、靭性を調整する上で重要な元素である。これらの効果を得るためには最低でも0.5%が必要である。一方、過剰なMn添加は中心偏析を助長し、板厚方向での特性バラツキを生じるため、その上限を3.5%とした。好ましい範囲は0.5?2.5%、より好ましい範囲は0.8?1.5%である。
【0038】
P:0.03%以下
Pは鋼に不可避的に混入する不純物元素であり、その含有量は低いほど好ましい。実用上許容しうる上限は0.03%である。好ましい上限は0.02%、より好ましい上限は0.01%である。
【0039】
S:0.01%以下
Sは上記のPと同様に、鋼に不可避的に混入する不純物元素であり、その含有量は低いほど好ましい。実用上許容しうる上限は0.01%である。好ましい上限は0.005%、より好ましい上限は0.002%である。
【0040】
Ni:0.3?1.33%
Niは母材の靭性を損なうことなく強度上昇に寄与する元素である。また、溶接熱影響部の靭性向上にも効果を有する。これらの効果を得るためには最低でも0.3%が必要である。一方、過剰なNi添加は溶接部の硬度上昇を招いて耐溶接割れ性を劣化させるので上限を1.33%とした。好ましい範囲は0.5?1.33%、より好ましい範囲は1.0?1.33%である。
【0041】
Ti:0.005%以下
Tiは本発明鋼を特徴付ける重要な元素で、その含有量が0.005%を超えると溶融線近傍での焼入性が低下し、所望の溶接熱影響部靭性が確保できないので、0.005%以下とした。なお、十分な焼入性を確保するにはTiの含有量を0.005%以下に制限するとともに、N含有量を0.004%以下に抑える必要がある。それにより、少なくとも溶融線近傍の十分な焼入性が確保される。好ましい上限は0.003%、より好ましい上限は0.001%である。
【0042】
B:0.0003?0.0025%
Bは極微量で焼入性を高める元素である。この効果を得るには0.0003%以上の含有量が必要である。しかし、過剰なBの添加は溶接性を悪くするので上限を0.0025%とした。好ましい範囲は0.0003?0.0020%、より好ましい範囲は0.0003?0.0015%である。
【0043】
Al:0.002?0.06%
Alは鋼の脱酸に重要な元素である。この効果を得るためには0.002%以上の含有量が必要である。しかし、過剰なAl添加は溶接熱影響部において島状マルテンサイト組織の生成を助長し、靭性を劣化させる。このため、Al含有量は0.002?0.06%とした。好ましい範囲は0.004?0.04%、より好ましい範囲は0.004?0.02%である。
【0044】
N:0.004%以下
Nは鋼に不可避的に混入する不純物元素である。よってその含有量は低いほど好ましい。本発明において許容しうる上限は0.004%である。好ましい上限は0.003%、より好ましい上限は0.0015%である。
【0045】
O(酸素):0.004%以下
Oは鋼に不可避的に混入する不純物元素である。よってその含有量は低いほど好ましい。本発明において許容しうる上限は0.004%であるAl/O:1.12以上Al含有量とO含有量の比Al/Oが1.12以上では、酸化物のほぼ全量が実質的にAl_(2)O_(3)(アルミナ)となる。これに対し、Al/Oが1.12未満ではTi酸化物が形成される。このTi酸化物は、鋼中に均一に分散し、かつ粒内変態の生成核となる。このことは、Ti酸化物の形成が実質的には変態温度を上昇させることを示している。本発明鋼では、溶接熱影響部における焼入性向上を主眼としており、Ti酸化物の形成は好ましくない。よってTi酸化物を実質的に含有しない鋼を得るために本限定を加えた。
【0046】Cu、Cr、Mo、V、Nb:
これらの元素は添加しなくてもよいが、添加すれば、いずれの元素も鋼の強度を向上させる。したがって、この効果を得たい場合には、これらのうちから選んだ1種を単独添加または2種以上を複合添加してよい。その効果は、Cu、CrおよびMoについては0.2%以上、VとNbについては0.005%以上で顕著になる。しかし、Cuは0.8%、CrとMoは1.0%、VとNbは0.1%を超えて含有させると、いずれも溶接性が劣化する。このため、これらの元素を添加する場合の含有量は、Cuは0.2?0.8%、CrとMoは0.2?1.0%、VとNbは0.005?0.1%とするのがよい。
【0047】
上記の化学組成を有する本発明のB含有高張力鋼は、転炉や電気炉などの製鋼炉を用いて溶製し、必要に応じてその溶湯をAOD炉やVOD炉などの製錬炉を用いて製錬し、次いで造塊法や連続鋳造法などで所定の大きさの鋳片(スラブ)とすることで容易に製造することができる。また、その鋼板などの製品は、前記の鋳片(スラブ)を例えば既存の厚板圧延ミルやホットストリップミルなどに供して所定寸法に成形することで容易に製造できる。
【0048】
【実施例】
容量が200kgの真空精錬炉を用い、表1に示す化学組成を有する7種類の鋼を溶解した。そして、得られた各鋼の鋼塊を熱間鍛造と熱間圧延によって板厚50mmの鋼板に仕上げた後、980℃での焼入れと630℃での焼戻し処理を施して母材とした。
【0049】
【表1】

【0050】
表2に、各母材鋼板の機械的性質(降伏強さ、引張強さ、伸び)と試験温度-80℃のシャルピー吸収ネルギーを示すが、いずれの母材鋼板も優れた強度と靭性を備えている。
【0051】
【表2】

【0052】
上記の各母材鋼板を対象に、表3に示す条件のもとで1層盛りSAW溶接を行った。
【0053】
【表3】

【0054】
そして、得られた各鋼板の溶接部、具体的には溶接金属の厚さ方向の中央を通る母材表面に平行な線上母材肉厚の中央位置における硬さ分布を測定して溶接熱影響部内における最低硬さ(min.Hv)と最高硬さ(max.Hv)を調べた。また、各鋼板の溶接部から、溶接金属の厚さ方向の中央と溶融線とがノッチ溝の長手方向の中央に位置するJIS Z 2202に規定される4号試験片を採取して試験温度-10℃のシャルピー衝撃試験に供し、吸収エネルギーを測定することによって溶接熱影響部の靭性を調べた。
【0055】
以上の結果を、表4に示した。なお、表4中のHvCRは、母材のC含有量より推定されるマルテンサイト組織の硬さから予想される溶融線近傍の最低硬さ(min.Hv)を示し、式「0.7×(800×C+295)」で求められる値である。
【0056】
【表4】

【0057】
表4に示す結果からわかるように、本発明例の鋼(鋼No.1?3)は、いずれも溶接熱影響部内での最低硬さがHvCRより大きく、吸収エネルギーが105?120Jと溶接熱影響部の靭性が良好であった。
【0058】
これに対し、比較例の鋼(鋼No.4?7)のうち、鋼No.4?6は、いずれも溶接熱影響部内での最低硬さがHvCRより小さく、吸収エネルギーも43?51Jと本発明例鋼の1/2以下で、溶接熱影響部の靭性が悪かった。
【0059】
また、鋼No.7は、最低硬さはHvCRよりも大きいものの、吸収エネルギーが48Jで溶接熱影響部の靭性が悪かった。これは、Al量が多すぎるために島状マルテンサイト組織などの硬化第二層が生成したためと考えられる。
【0060】
【発明の効果】
本発明のB添加高張力鋼は、N含有量が比較的高いにもかかわらず、溶接部靭性に優れている。このため、生産性、経済性の面で不利な脱N処理が不要で、溶接部靭性に優れたB添加高張力鋼を安価に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接部の硬さ分布の一例を示す模式図である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-09-01 
結審通知日 2008-09-03 
審決日 2008-09-17 
出願番号 特願平11-237934
審決分類 P 1 113・ 832- ZA (C22C)
P 1 113・ 121- ZA (C22C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 河野 一夫  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 長者 義久
近野 光知
登録日 2003-07-11 
登録番号 特許第3449307号(P3449307)
発明の名称 溶接熱影響部靭性に優れたB添加高張力鋼  
代理人 杉岡 幹二  
代理人 穂上 照忠  
代理人 千原 清誠  
代理人 松本 悟  
代理人 穂上 照忠  
代理人 千原 清誠  
代理人 杉岡 幹二  

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