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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1187829
審判番号 不服2007-15083  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-25 
確定日 2008-11-13 
事件の表示 特願2005-164009「データ処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 1月 5日出願公開、特開2006- 4421〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成6年9月27日に出願した特願平6-230860号の一部を平成17年6月3日に新たな特許出願としたものであって,平成19年1月31日付けで拒絶理由通知がされ,これに対し,同年4月3日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものの,同年4月23日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年5月25日に拒絶査定不服審判が請求され,同年6月25日付けで手続補正書が提出されたものである。

2.平成19年6月25日付けの手続補正について
平成19年6月25日付けで提出された手続補正書による手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲についての補正を含み,その内容は,補正前の請求項4乃至7及び請求項12乃至15の記載を削除し,補正前の請求項8乃至11及び請求項16の番号を繰り上げて,請求項4乃至8としたもの(請求項1乃至3については補正なし)であり,特許法第17条の2第4項第1号に掲げる第36条第5項に規定する請求項の削除を目的とするものであるから,本件補正における特許請求の範囲についてする補正は,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものである。

3.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,本件補正により補正された請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
【請求項1】
仮想現実空間を提供する仮想現実空間提供装置において,
前記仮想現実空間を形成するオブジェクトと,端末を介して前記仮想現実空間に接続する所定の者に対応しており,前記仮想現実空間内で前記所定の者に割り当てられた対象オブジェクト及び課金情報が登録される個人オブジェクトとを記憶する記憶手段と,
前記個人オブジェクトによる所定の手続に応じて,前記オブジェクトを前記個人オブジェクトを所有するものに割り当てられる対象オブジェクトとして前記個人オブジェクトに登録する個人オブジェクト管理手段と,
前記個人オブジェクトに登録された課金情報に基づいて,前記個人オブジェクトを所有する前記所定の者に対して課金処理を行う課金手段と
を具備することを特徴とする仮想現実空間提供装置。

4.引用例
(引用例1)
原査定の拒絶の理由に引用された,福田和智,田原忠行,「ビジュアルパソコン通信「富士通Habitat」におけるオンライン処理技術」,FUJITSU,富士通株式会社,1992年9月10日,第43巻,第6号,p.639-p.646(以下「引用例1」という。)には,図と共に,以下の事項が記載されている。
(A)あらまし(第639頁)
「・・・そこで富士通は,画像,音,文字のマルチメディアをサポートした新しい概念のパソコン通信システム「富士通Habitat」を開発し,1990年2月10日から有償サービスを開始した。本システムは,FM TOWNS,FM Rなどのパソコン上で動作する端末プログラムとUNIXマシン上で動作するホストプログラムとの連携によって処理され,最適な処理分担によって高速なレスポンスおよびシステムの柔軟な拡張性を実現している。また,ホストコンピュータと端末間の通信には,高効率伝送および高信頼性伝送を実現する独自の通信プロトコルを採用している。・・・」
(B)富士通Habitatの概要(第640頁左欄?第641頁左欄)
「富士通Habitatの世界は,コンピュータネットワーク上にビジュアルに表現された架空の世界であり,ホームタウン,ダウンタウン,公園,森林,迷宮などの地区から構成されている。・・・例えば,ダウンタウンは,喫茶店、バー,玩具屋,「頭」を売る「ヘッドショップ」などの店頭や店内の画面からなっており,世界全体で数百画面の規模となっている。
ユーザは,人会時に自分のキャラクタとなる「頭(老若男女,動物やモンスタなど1000種類以上もある)」と「身体」を一つ組み合わせて,富士通Habitatの世界で自分の分身(以下,アバタ)を作り,ホームタウンのマンションの一室から生活を開始する。また,入会時には,生活のためのお金も与えられる。
ユーザは,マウスでアイコンをクリックしてコマンドを与え,アバタを操る。・・・これらの基本コマンドを表-1に示す。基本コマンドのほかに,表-2に示すような拡張コマンドも用意した。・・・また,キーボード操作によって,この世界で出会うアバタたちと会話もできる(図-1)。
このような世界の中で,アバタはお金を使って買物をしたり,仲間と喫茶店でお喋りに興じたり,また仲間とイベントを実施したりするなど,コミュニケーションとエンタテイメントの世界を繰り広げることができる。
・・・(以下略)・・・」
(C)表-1,表-2(第640頁右欄)
表-1,表-2には,それぞれ,基本コマンド,拡張コマンドについて,コマンド名称とその機能概要が例示されている。特に,表-2には,コマンド名称「問い合わせ」の機能概要として,「自分のマンション名を得る。」,「自分の所持金を表示する。」,「物の値段を表示する。」が示されている。
(D)図-1(第641頁左欄)
図-1には,端末表示の様子が示されており,その表示内容は,富士通Habitatの世界の中でアバタたちが,「この壺は古代中国の由緒正しい品だぞ,これがたったの2000トークン!」,「どこがだよぉ?ただのガラクタじゃねぇか」,「このランプだって昔アラジンが使っていたやつだ」,「本当に中国から仕入れて来たんか?」などの会話をしている様子が示されている。
(E)システムの概要(第641頁右欄?第646頁右欄)
「●ネットワーク構成
ここでは,富士通Habitatのネットワーク構成(図-2)を説明する。
ネットワーク網は,FENICS網(富士通の提供する高速ディジタル回線網)と公衆回線網である。ユーザは,FM TOWNS(以下,端末)を最寄りのアクセスポイント(AP)へ接続し,全国均一料金で利用できる。
一方,富士通Habitatセンタは,UNIXコンピュータである富士通Aシリーズで運用している。また,富士通HabitatはNIFTY-Serveの1サービスとして提供されることから,ユーザ管理(ユーザID,パスワード管理),課金処理はNIFTY-Serveセンタで処理される。そのため,専用回線によって富士通Habitatセンタ(以下,センタ)とNIFTY-Serveセンタが接続されている。
●処理分担の考え方
本システムは,センタと端末の分散処理で実現する。
分散処理のシステム設計では,センタ,端末がそれぞれどのように処理分担するかがキーポイントであり,レスポンスタイムに大きく影響する。
一般的に,画像通信は,通信量を最小にすることが肝要である。本システムで直接画像データの送受信を行うと仮定すると,トランザクションあたりの通信量は数十Kバイトとなり,レスポンスタイムが大きい。そこで,アバタ,頭,木,建物などの画像データ(以下,オブジェクト)は,端末側のCD-ROMに格納しておき,そのオブジェクトの制御情報をセンタで管理し,センタからのコマンドとして制御情報を伝送することによって画像処理を行う方式を採用した。
なお,音楽や効果音についても,同様な処理方式を採用している。この方式による伝送量は数十バイトであり,クイックレスポンスを実現している。また,システム運用後にオブジェクトや富士通Habitat世界の構成を変更したい場合には,センタで管理している制御情報を修正すればよく,拡張性・柔軟性に富んだシステムといえる。
具体的にセンタでは,端末に表示されるオブジェクトの情報(持ち運びの可否,それに対してアクションを起こした場合にどのような処理をするかなど),富士通Habitat世界の構成情報およびユーザ情報(何を所持しているか,どこにいるかなど)をデータベースによって管理している。
一方,端末では,センタからのコマンドに従ってアニメーション動作(歩く,ジャンプ,挙手など),効果音の発生(ドアの開閉時など)などの処理をしている。
・・・(中略)・・・
●全体処理の流れ
本システムは,大別すると,ログイン,サービスおよびログアウトの3フェーズからなる。以下,図-3の全体処理の流れに従って,概要を説明する。
1)ログインフェーズ
センタ接続が指示されると,ダイヤリングによってセンタとの接続が行われた後,ユーザ情報(ユーザID,パスワード)がセンタに通知される(図中(1))。
センタでは,この情報の正当性をチェックするため,NIFTY-Serveセンタにそれを要求する((2))。
NIFTY-Serveセンタでは,そのユーザ管理情報を照合し,結果をセンタに通知する((3))。
照合結果を受け取ったセンタでは,その結果を端末に通知する((4))とともに,課金情報の取得開始をNIFTY-Serveセンタに要求する((5))。
一方,端末では,富士通Habitatの画面を表示(図-1)し,サービスフェーズヘ移行する。
2)サービスフェーズ
マウス操作やキーボードからの会話メッセージが人力されると,その情報を動作指示としてセンタに通知する((6))。
センタでは,通知された情報の解析,動作可否の判断,動作に対応する処理などをした後,その結果(判断結果,アニメーションをどのように動かすかなど)を通知する((7))。
その後,端末は,アニメーション動作などの処理を実行し,ユーザからの次の入力を侍ち合わせる。
3)ログアウトフェーズ
ログアウトが指示されると,その旨をセンタに通知((8))した後,回線を切断する。
センタでは,ユーザの最終状態を保持するため,ユーザ管理情報を更新するとともに,NIFTY-Serveセンタに課金情報の取得終了を通知((9))し,回線を切断する。
・・・(以下略)・・・」

ア)上記摘記事項(B)及び(C)の記載からみて,「ホームタウン,ダウンタウン,公園,森林,迷宮などの地区から構成され,ユーザは自分の分身であるアバタを作り,このアバタを所定のコマンドで操作して,所持金を使って買物をしたり,仲間と会話をするなどの生活を行う,コンピュータネットワーク上にビジュアルに表現された架空の世界(富士通Habitatの世界)」が開示されていると認められる。
イ)上記摘記事項(A)及び(E)の「●ネットワーク構成」の記載からみて,コンピュータネットワークを介してユーザ端末(端末プログラムが動作するパソコン)に前記「架空の世界」を提供する「センタのホストコンピュータ(富士通Habitatセンタを運用するホストプログラムが動作するUNIXコンピュータ)」が開示されていると認められる。
ウ)上記摘記事項(B)及び(E)の「●処理分担の考え方」の記載からみて,「センタのホストコンピュータ」は,「ユーザ端末のCD-ROMに格納され,当該ユーザ端末に表示される前記架空の世界を形成するオブジェクト(アバタ,頭,木,建物などの画像データ)の制御情報(持ち運びの可否,それに対してアクションを起こした場合にどのような処理をするかなど)と,ユーザ端末を介して前記架空の世界に接続するユーザに対応しており,前記架空の世界のユーザ情報(何を所持しているか,どこにいるかなど)とをデータベースによって管理する手段」を備えていることが開示されていると認められる。
エ)上記摘記事項(B),(C),(D)及び(E)の「●処理分担の考え方」,「●全体処理の流れ」の記載からみて,「センタのホストコンピュータ」は,「サービスフェーズにおけるアバタによる所持金を使った買物などの動作処理に応じて,ログアウトフェーズで,ユーザの最終状態を保持するため,ユーザ情報を更新する手段」を備えていることが開示されていると認められる。
オ)上記摘記事項(E)の「●ネットワーク構成」,「●全体処理の流れ」の記載からみて,「センタのホストコンピュータ」は,「課金処理を行う他センタ(NIFTY-Serveセンタ)に対して,ログインフェーズでログインしたユーザの課金情報の取得開始を要求し,ログアウトフェーズで当該ユーザの課金情報の取得終了を通知する手段」を備えていることが開示されていると認められる。

そうしてみると,引用例1には,以下の発明(以下,「引用例1記載の発明」という。)が開示されていると認められる。
「ホームタウン,ダウンタウン,公園,森林,迷宮などの地区から構成され,ユーザは自分の分身であるアバタを作り,このアバタを所定のコマンドで操作して,所持金を使って買物をしたり,仲間と会話をするなどの生活を行う,コンピュータネットワーク上にビジュアルに表現された架空の世界を提供するセンタのホストコンピュータにおいて,
ユーザ端末のCD-ROMに格納され,当該ユーザ端末に表示される前記架空の世界を形成するオブジェクト(アバタ,頭,木,建物などの画像データ)の制御情報(持ち運びの可否,それに対してアクションを起こした場合にどのような処理をするかなど)と,ユーザ端末を介して前記架空の世界に接続するユーザに対応しており,前記架空の世界のユーザ情報(何を所持しているか,どこにいるかなど)とをデータベースによって管理する手段と,
サービスフェーズにおけるアバタによる所持金を使った買物などの動作処理に応じて,ログアウトフェーズで,ユーザの最終状態を保持するため,ユーザ情報を更新する手段と,
課金処理を行う他センタに対して,ログインフェーズでログインしたユーザの課金情報の取得開始を要求し,ログアウトフェーズで当該ユーザの課金情報の取得終了を通知する手段
を具備するセンタのホストコンピュータ」

5.対比
そこで,本願発明と引用例1記載の発明とを比較すると,
a)引用例1記載の発明の「ホームタウン,ダウンタウン,公園,森林,迷宮などの地区から構成され,ユーザは自分の分身であるアバタを作り,このアバタを所定のコマンドで操作して,所持金を使って買物をしたり,仲間と会話をするなどの生活を行う,コンピュータネットワーク上にビジュアルに表現された架空の世界」は,本願発明の「仮想現実空間」に相当するものと認められ,
b)引用例1記載の発明の「ユーザ端末」,「ユーザ」は,それぞれ本願発明の「端末」,「所定の者」に相当するものと認められ,更に,引用例1記載の発明の「ユーザ端末のCD-ROMに格納され,当該ユーザ端末に表示される前記架空の世界を形成するオブジェクト(アバタ,頭,木,建物などの画像データ)の制御情報(持ち運びの可否,それに対してアクションを起こした場合にどのような処理をするかなど)」と,本願発明の「仮想現実空間を形成するオブジェクト」は,「仮想現実空間を形成するオブジェクトに関する情報」で共通していると認められ,また,引用例1記載の発明の「所持している」ものは,本願発明の「割り当てられた対象オブジェクト」に対応することから,引用例1記載の発明の「ユーザ端末を介して前記架空の世界に接続するユーザに対応しており,前記架空の世界のユーザ情報(何を所持しているか,どこにいるかなど)」と,本願発明の「端末を介して前記仮想現実空間に接続する所定の者に対応しており、前記仮想現実空間内で前記所定の者に割り当てられた対象オブジェクト及び課金情報が登録される個人オブジェクト」は,「端末を介して前記仮想現実空間に接続する所定の者に対応しており、前記仮想現実空間内で前記所定の者に割り当てられた対象オブジェクトが登録される所定の者に関する情報」で共通すると認められることから,引用例1記載の発明の「ユーザ端末のCD-ROMに格納され,当該ユーザ端末に表示される前記架空の世界を形成するオブジェクト(アバタ,頭,木,建物などの画像データ)の制御情報(持ち運びの可否,それに対してアクションを起こした場合にどのような処理をするかなど)と,ユーザ端末を介して前記架空の世界に接続するユーザに対応しており,前記架空の世界のユーザ情報(何を所持しているか,どこにいるかなど)とをデータベースによって管理する手段」と,本願発明の「前記仮想現実空間を形成するオブジェクトと、端末を介して前記仮想現実空間に接続する所定の者に対応しており、前記仮想現実空間内で前記所定の者に割り当てられた対象オブジェクト及び課金情報が登録される個人オブジェクトとを記憶する記憶手段」は,「前記仮想現実空間を形成するオブジェクトに属する情報と、端末を介して前記仮想現実空間に接続する所定の者に対応しており、前記仮想現実空間内で前記所定の者に割り当てられた対象オブジェクトが登録される所定の者に関する情報とを管理記憶する手段」で共通すると認められ,
c)引用例1記載の発明の「サービスフェーズにおけるアバタによる所持金を使った買物などの動作処理」は,前記架空の世界に存在してこれを形成するオブジェクトを当該架空の世界内でアバタのユーザが所持する状態にするための,当該アバタによる所定の手続であり,更に,引用例1記載の発明の「ログアウトフェーズで,ユーザの最終状態を保持するため,ユーザ情報を更新する」ことは,前記オブジェクトを,前記アバタのユーザが所持する状態であるものとして,当該ユーザ情報を更新することであり,引用例1記載の発明の「アバタ」は,本願発明の「個人オブジェクト」に対応することから,引用例1記載の発明の「サービスフェーズにおけるアバタによる所持金を使った買物などの動作処理に応じて,ログアウトフェーズで,ユーザの最終状態を保持するため,ユーザ情報を更新する手段」と,本願発明の「前記個人オブジェクトによる所定の手続に応じて、前記オブジェクトを前記個人オブジェクトを所有するものに割り当てられる対象オブジェクトとして前記個人オブジェクトに登録する個人オブジェクト管理手段」は,「個人オブジェクトによる所定の手続に応じて、前記オブジェクトを前記個人オブジェクトを所有するものに割り当てられる対象オブジェクトとして前記所定の者に関する情報に更新登録する手段」で共通すると認められ,
d)引用例1記載の発明の「センタのホストコンピュータ」と,本願発明の「仮想現実空間提供装置」は,以下の点で相違するものの,「仮想現実空間提供コンピュータ」である点で共通していることから,本願発明と引用例1記載の発明は,
「仮想現実空間を提供する仮想現実空間提供コンピュータにおいて、
前記仮想現実空間を形成するオブジェクトに関する情報と、端末を介して前記仮想現実空間に接続する所定の者に対応しており、前記仮想現実空間内で前記所定の者に割り当てられた対象オブジェクトが登録される所定の者に関する情報とを管理記憶する手段と,
個人オブジェクトによる所定の手続に応じて、前記オブジェクトを前記個人オブジェクトを所有するものに割り当てられる対象オブジェクトとして前記所定の者に関する情報に更新登録する手段
を具備する仮想現実空間提供コンピュータ」
である点で一致し,以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明では,上記「仮想現実空間を形成するオブジェクトに関する情報」が,「仮想現実空間を形成するオブジェクト」であるのに対して,引用例1記載の発明では,「仮想現実空間を形成するオブジェクト」の制御情報のみである点。

[相違点2]
本願発明では,上記「端末を介して前記仮想現実空間に接続する所定の者に対応しており、前記仮想現実空間内で前記所定の者に割り当てられた対象オブジェクトが登録される所定の者に関する情報」が,「対象オブジェクト」に加えて「課金情報が登録される個人オブジェクト」であり,この「個人オブジェクトに登録された課金情報に基づいて、前記個人オブジェクトを所有する前記所定の者に対して課金処理を行う課金手段」を「仮想現実空間提供コンピュータ」が備えるのに対して,引用例1記載の発明では,「対象オブジェクト」に加えて「課金情報が登録される個人オブジェクト」であるかどうか明確ではなく,また,「仮想現実空間提供コンピュータ」がこのような「課金手段」を備えていない点。

6.当審の判断
(1)相違点1について
上記摘記事項(E)の「●処理分担の考え方」に,「一般的に,画像通信は,通信量を最小にすることが肝要である。本システムで直接画像データの送受信を行うと仮定すると,トランザクションあたりの通信量は数十Kバイトとなり,レスポンスタイムが大きい。そこで,アバタ,頭,木,建物などの画像データ(以下,オブジェクト)は,端末側のCD-ROMに格納しておき,そのオブジェクトの制御情報をセンタで管理し,センタからのコマンドとして制御情報を伝送することによって画像処理を行う方式を採用した。」と記載されるように,引用例1記載の発明において,オブジェクトの画像データは端末のCD-ROMに格納し,オブジェクトの制御情報はセンタで管理する方式を採用する創作過程において,センタから直接画像データ(オブジェクト)の送受信をすることも検討されており,この方式がレスポンスの向上を目的として採用されていることも鑑みれば,引用例1記載の発明において,ユーザ端末のCD-ROMに格納された架空の世界を形成するオブジェクト(アバタ,頭,木,建物などの画像データ)を,その制御情報(持ち運びの可否,それに対してアクションを起こした場合にどのような処理をするかなど)と共に管理記憶するように設計変更することに,技術的な阻害要因は認められず,このような設計変更に格別の困難性は認められない。
してみれば,引用例1記載の発明において,管理記憶する手段の「仮想現実空間を形成するオブジェクトに関する情報」として,オブジェクトの制御情報のみならず,画像データも含めた「仮想現実空間を形成するオブジェクト」を管理記憶する手段を備えるようにすることは,当業者が容易に成し得たものと認められる。
したがって,相違点1に係る本願発明の構成は,引用例1記載の発明及び引用例1記載の事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。

(2)相違点2について
上記摘記事項(B)に記載されるように,ユーザは自分の分身であるアバタ(オブジェクト)を作り,ホームタウンのマンションの一室から生活を開始し,ユーザはアバタを所定のコマンドで操作することにより,所持金を使って買物をしたり,仲間と会話をしたり,また仲間とイベントを実施したりなどするものであり,アバタは架空の世界のユーザであり,引用例1記載の発明における「架空の世界のユーザ情報(何を所持しているか,どこにいるかなど)」は,アバタの管理情報であるといえるから,このようなアバタの管理情報をアバタ(オブジェクト)に登録される情報とすること,すなわち,「端末を介して前記仮想現実空間に接続する所定の者に対応しており、前記仮想現実空間内で前記所定の者に割り当てられた対象オブジェクトが登録される個人オブジェクト」とすることに,格別の技術的な困難性は認められない。
また,現実世界に類似するように仮想現実世界を構築することは,当該技術分野における基本的な技術的課題であり,架空の世界でアバタが,買物で商品を購入するために所持金からお金を支払うことや,マンションの一室を賃貸するために賃貸料金を支払うことなど,物品を所有・占有するための支出行為についても現実世界と同様に構築することは,当業者が行う通常の創作活動の範囲内のものと認められる。そして,架空の世界でアバタが物品を所有・占有するという,ユーザに提供されるサービスに対して,物品を所有・占有することに応じた支出を課金情報として採用し,当該課金情報に基づいて,サービス提供の対価として当該ユーザに対して課金処理するようにすることは,サービスに対する課金方法として格別のものとは認められず,この課金処理を実現するために,引用例1記載の発明の,「架空の世界のユーザ情報(アバタの管理情報)」として,「何を所持しているか」に加えて,「その物品を所持するための支出(課金情報)」を登録するようにすること,すなわち,「対象オブジェクト及びその対象オブジェクトに対応する課金情報」を登録するようにすることに,格別の技術的な困難性は認められない。
また,上記摘記事項(E)の「●ネットワーク構成」に,「また,富士通HabitatはNIFTY-Serveの1サービスとして提供されることから,ユーザ管理(ユーザID,パスワード管理),課金処理はNIFTY-Serveセンタで処理される。そのため,専用回線によって富士通Habitatセンタ(以下,センタ)とNIFTY-Serveセンタが接続されている。」と記載されるように,課金処理がセンタ(富士通Habitatセンタ)の仮想現実空間提供コンピュータ(センタのホストコンピュータ)ではなく,他センタ(NIFTY-Serveセンタ)で処理されるのは,サービスの提供形態を原因とするものであり,各センタ間が専用回線で接続されたシステム構成が採用されている点も鑑みれば,引用例1記載の発明の仮想現実空間提供コンピュータ(センタのホストコンピュータ)に課金処理を行うための手段を備えるようにすることに,技術的な阻害要因は認められず,このような設計変更に格別の困難性は認められない。
してみれば,引用例1記載の発明において,「端末を介して前記仮想現実空間に接続する所定の者に対応しており、前記仮想現実空間内で前記所定の者に割り当てられた対象オブジェクト及び課金情報が登録される個人オブジェクト」を記憶管理するようにし,「前記個人オブジェクトに登録された課金情報に基づいて、前記個人オブジェクトを所有する前記所定の者に対して課金処理を行う課金手段」を「仮想現実空間提供コンピュータ」が備えるようにすることは,当業者が容易に成し得たものと認められる。
したがって,相違点2に係る本願発明の構成は,引用例1記載の発明,引用例1記載の事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。

(3)本願発明の作用効果
また,本願発明の作用効果も,引用例1及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

(4)まとめ
したがって,本願発明は,引用例1記載の発明,引用例1記載の事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。

7.むすび
以上のとおり,本願発明は,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。


8.平成20年6月2日付け回答書に記載の補正案について
平成20年4月1日付け審尋に対する同年6月2日付け回答書に補正案が記載されているので,採用できるものであるかどうか,以下に一応検討する。
上記補正案は,上記請求項1の「・・・対象オブジェクト及び課金情報が登録される個人オブジェクトとを記憶する記憶手段」を,「・・・対象オブジェクト及び前記オブジェクトまたは前記仮想現実空間の所定の範囲の空間を単位とした課金情報が登録される個人オブジェクトとを記憶する記憶手段」とするものである。
(1)上記「前記オブジェクトまたは前記仮想現実空間の所定の範囲の空間を単位とした課金情報」(以下,「補正事項」と記す)は,出願当初明細書等の0069段落の記載に基づくものであると回答書で説明されているものの,0069段落には,「図11の実施例においては,オブジェクトを単位として課金処理を行うようにしたが,例えば図12に示すように,仮想現実空間10を構成する所定の範囲の空間を単位として課金処理を行うようにすることも可能である。」と記載されており,
1)0069段落には,「図11の実施例においては,オブジェクトを単位として課金処理を行う・・・」と記載されているものの,この実施例の他の記載(例えば,0068段落)を参酌すると,0069段落の「オブジェクト」は「対象オブジェクト」の意味であることは明白である。ところで,請求項1には,「対象オブジェクト」の他に「仮想現実空間を形成するオブジェクト」も記載されており,補正事項にある「前記オブジェクト」は,「対象オブジェクト」ではなく,「仮想現実空間を形成するオブジェクト」を意味すると把握され,個人オブジェクトに,「仮想現実空間を形成するオブジェクト」(全てのオブジェクト)の課金情報が登録されていることになるから,補正事項は出願当初明細書等に記載された事項とは認められない。
2)請求項1は,図11の実施例に対応するものと認められ,図12の実施例に関する「前記仮想現実空間の所定の範囲の空間を単位とした」を含む補正事項は,0069段落の記載に基づくものとは認められないから,補正事項は出願当初明細書等に記載された事項とは認められない。
3)0069段落には,「オブジェクトを単位として課金処理を行う」,「仮想現実空間10を構成する所定の範囲の空間を単位として課金処理を行う」と記載されているものの,これらを「課金情報」として登録することを記載していない。また,明細書のその他の記載を参酌しても,「課金情報」について具体的に説明がないため,補正事項は出願当初明細書に記載された事項とは認められない。
したがって,補正案による補正は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(2)仮に補正事項が出願当初明細書に記載された事項であるとしても,上記6.(2)で検討したように,個人オブジェクトに,「対象オブジェクト及びその対象オブジェクトに対応する課金情報」を登録することに,格別の技術的な困難性は認められず,同様に,対象オブジェクトを単位とした課金情報で課金処理を行うようにすることも,格別の技術的な困難性は認められない。
したがって,補正案の請求項1に係る発明も,引用例1記載の発明,引用例1記載の事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,上記(1),(2)の理由により,補正案は採用できるものではない。
 
審理終結日 2008-09-17 
結審通知日 2008-09-18 
審決日 2008-09-30 
出願番号 特願2005-164009(P2005-164009)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮司 卓佳  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 ▲吉▼田 耕一
山本 穂積
発明の名称 データ処理装置  
代理人 稲本 義雄  

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