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審決分類 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
管理番号 1187964
審判番号 不服2005-11721  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-22 
確定日 2008-11-13 
事件の表示 特願2001-241657「マイクロ波誘電体組成物及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月26日出願公開、特開2003- 55039〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年8月9日の出願であって、平成17年5月24日付けで拒絶査定が発送され、同年6月22日に拒絶査定不服審判が請求され、同年9月15日に審判請求書の請求の理由について補正がなされ、その後、当審において平成20年5月14日付けで拒絶理由が通知され、平成20年7月22日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正書が提出されたものである。

2.当審の拒絶理由の内容
当審において平成20年5月14日付けで通知した、拒絶理由の理由「2.この出願の明細書の記載は、下記(い)の点で、特許法第36条第4項および同条第6項第1号の規定を満足するものでない。」の実施可能要件違反及びサポート要件違反についての指摘事項は、次のとおりのものである。
「(い)発明の詳細な説明の記載から、「マイクロ波誘電体組成物であり、品質係数が10000(GHz)以上であり、温度係数が-30(ppm/℃)?30(ppm/℃)であること」が把握できる組成物は、実施例1,2に記載された組成物および実施例3に記載のXが「0.8」?「2.2」の組成物のみである。そして、特許請求の範囲に記載された組成物のうち、実施例のない組成物および実施例3に示された「X]が「2.5」以上の組成物については、その品質係数および温度係数が如何なる値になるのか、また、前記特性を有するマイクロ波誘電体組成物をいかにして実施するのかが不明である。したがって、本願の発明の詳細な説明には、特許請求の範囲に記載された発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しているということができず、特許請求の範囲に記載された組成物のうち、実施例の記載のない組成および実施例3に示された「X]が「2.5」以上の組成を有する組成物を含む発明については、「マイクロ波誘電体組成物であり、品質係数が10000(GHz)以上であり、温度係数が-30(ppm/℃)?30(ppm/℃)である」点についての記載が欠如し、実質的な記載があるとすることはできない。」

3.請求人の平成20年7月22日付け意見書における主張
3-1.「(2)特許法第36条第4項及び第6項第1号に関する拒絶理由について
『マイクロ波誘電体組成物であり、品質係数が10000(GHz)以上であり、温度係数が-30(ppm/℃)?30(ppm/℃)である』ことが把握できる組成物は、実施例1?3に記載のXが『0.8』?『2.2』の組成物のみであり、前記特性を有するマイクロ波誘電体をいかにして実施するのかが不明であることから、審判長殿は、本願の発明の詳細な説明は、特許請求の範囲に記載された発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということができないと判断されている。
本件出願人らは、前記手続補正書により実施例1?3に記載される誘電体特性の測定結果に基づいて組成比の範囲を特定し、その範囲に応じて品質係数と温度係数の範囲を減縮補正している。この補正により、本願の発明の詳細な説明は、請求項1?4に記載される発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分な記載となるに到ったと思料される。」
3-2.「(3)特許法第29条第2項に関する拒絶理由について
引用文献1には、La_(4)BaTi_(4)O_(15)およびLa_(4)Ba_(2)Ti_(5)O_(18)のマイクロ波誘電体特性について、品質係数(Q.f)が11583および31839であり、温度係数(τf)が-17および-36.4であることを示す表の記載がある。更に、引用文献2には、様々な相の六角形ペロブスカイト構造をもつ組成MLa_(4)O_(15)(M=Ca,Sr,Ba),・・・,Ca_(2)La_(4)Ti_(5)O_(18)が記載されていることから、同様の構造を有する引用文献1に記載のLa_(4)BaTi_(4)O_(15)およびLa_(4)Ba_(2)Ti_(5)O_(18)のように、マイクロ波誘電体共振器に利用できることを想起させるものであると、審判長殿は判断されている。
また、『マイクロ波誘電体組成物であり、品質係数が10000(GHz)以上であり、温度係数が-30(ppm/℃)?30(ppm/℃)である』という限定は、明細書に裏づけがなく、その範囲が引用文献1の組成物の品質係数および温度係数を含むものであることを考えると、本願請求項1、2に係る組成物が引用文献1と同様にマイクロ波誘電体共振器に利用できることを、引用文献1に記載の品質係数及び温度係数を含む数値範囲により示した程度のものであると判断されている。更に、実施例の記載がない組成物は引用文献1から予想できない効果を相することはできないと判断されている。
本件出願人らは、実施例1?3に基づき、組成比、品質係数及び温度係数の範囲を限定している。これらは、実施例1?3に関する誘電特性の測定結果から初めて明らかにされたものであり、引用文献1に記載されるマイクロ波誘電体組成物との差異が明確になったことは明らかであり、本願発明は引用文献1及び2に対して十分な進歩性を有するに到ったと思料される。」
3-3.「(1-2)引用文献との比較
引用文献1には、La_(4)BaTi_(4)O_(15)およびLa_(4)Ba_(2)Ti_(5)O_(18)のマイクロ波誘電体特性について、品質係数(Q.f)が11583および31839であり、温度係数(τf)が-17および-36.4であることを示す表の記載がある。しかしながら、全てはA=Ba且つR=Laの場合のデータである。構成元素が変わった場合に、例え同様の構造を有していても、同様の物性を有することは固体物理において容易に想到できる現象とは言えず、実際に構成元素の異なる物質を測定して初めて明らかにされることである。例えば、半導体物理の分野などでは、不純物の添加等により新たな現象が発現することが明らかにされている。
従って、引用文献2には、様々な相の六角形ペロブスカイト構造をもつ組成MLa_(4)O_(15)(M=Ca,Sr,Ba),・・・,Ca_(2)La_(4)Ti_(5)O_(18)が記載されているが、同様の構造を有することを明らかにしただけの文献であり、マイクロ波誘電体共振器に利用できることを想起させるものであるとは云えない。」
3-4.「(2-2)引用文献との比較
引用文献1には、La_(4)BaTi_(4)O_(15)およびLa_(4)Ba_(2)Ti_(5)O_(18)のマイクロ波誘電体特性について、品質係数(Q.f)が11583および31839であり、温度係数(τf)が-17および-36.4であることを示す表の記載がある。しかしながら、全てはX=1,X=2の場合のデータである。本願発明は、組成比Xを細かく変化させ、マイクロは誘電体特性の組成比依存性を丹念に調べることで初めて明らかにされたものであり、十分な進歩性を有している。
従って、引用文献2には、様々な相の六角形ペロブスカイト構造をもつ組成MLa_(4)O_(15)(M=Ca,Sr,Ba),・・・,Ca_(2)La_(4)Ti_(5)O_(18)が記載されているが、同様の構造を有することを明らかにしただけの文献であり、マイクロ波誘電体共振器に利用できることを想起させるものであるとは云えない。」

4.本願特許請求の範囲の記載
本願の特許請求の範囲の記載は、平成20年7月22日付け手続補正書によって補正された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
A_(n)R_(4)Ti_(3+n)O_(12+3n)で表されるセラミック組成物からなり、Aはアルカリ土類金属元素のBa又はSr、Rは希土類元素のLa又はNdであり、A=Ba且つR=Laという場合を含まず、組成比n=1又は2であるマイクロ波誘電体組成物であり、品質係数Q・fがQ・f>11583(GHz)であり、温度係数が-23.6(ppm/℃)?0(ppm/℃)であることを特徴とするマイクロ波誘電体組成物。
【請求項2】
A_(x)R_(4)Ti_(3+x)O_(12+3x)で表されるセラミック組成物からなり、Aはアルカリ土類金属元素、Rは希土類元素であり、組成比Xは0.8<X<2.2(X=1,2を除く)の範囲にあるマイクロ波誘電体組成物であり、品質係数Q・fがQ・f>11583(GHz)であり、温度係数が-23.4(ppm/℃)?18.6(ppm/℃)であることを特徴とするマイクロ波誘電体組成物。
【請求項3】
与えられた組成比n(n=1又は2)の下で組成式A_(n)R_(4)Ti_(3+n)O_(12+3n)の組成物(Aはアルカリ土類金属元素のBa又はSr、Rは希土類元素のLa又はNd、但しA=Ba且つR=Laという場合を除く)を生成するように、ACO_(3)又はAO、R_(2)O_(3)及びTiO_(2)を所要量だけ混合して仮焼し、これを所定形状に成型した後本焼成して、組成式A_(n)R_(4)Ti_(3+n)O_(12+3n)で表されるセラミック組成物を形成するマイクロ波誘電体組成物の製造方法であり、このマイクロ波誘電体組成物の品質係数Q・fがQ・f>11583(GHz)であり?、温度係数が-23.6(ppm/℃)?0(ppm/℃)であることを特徴とするマイクロ波誘電体組成物の製造方法。
【請求項4】
与えられた組成比Xは(0.8<X<2.2、但しX=1、2を除く)の下で組成式A_(x)R_(4)Ti_(3+x)O_(12+3x)の組成物(Aはアルカリ土類金属元素、Rは希土類元素)を生成するように、ACO_(3)又はAO、R_(2)O_(3)及びTiO_(2)を所要量だけ混合して仮焼し、これを所定形状に成型した後本焼成して、組成式A_(x)R_(4)Ti_(3+x)O_(12+3x)で表されるセラミック組成物を形成するマイクロ波誘電体組成物の製造方法であり、このマイクロ波誘電体組成物の品質係数Q・fがQ・f>11583(GHz)であり、温度係数が-23.4(ppm/℃)?18.6(ppm/℃)であることを特徴とするマイクロ波誘電体組成物の製造方法。」

5.当審の判断
先ず、実施可能要件について検討する。
平成20年7月22日付け手続補正書によって補正された請求項1及び請求項3は、公知例のBaとLaの組み合わせのみを除外する2つの整数比の、アルカリ土類金属元素のBa又はSrと希土類元素のLa又はNdの組み合わせを含む組成式で表された6組のセラミック組成物を請求するもので、その裏付けとなる実施例は、組成比n=1でSrとLa、BaとNdの2種類の組成物の測定によるものである。
さらに、請求項2及び請求項4に至っては、公知例をも含むアルカリ土類金属元素と希土類元素の組み合わせを0.8?2.2(但し1、2を除く)の実数の比で表した組成式について、その全てを僅か1組でしかも公知であるBaとLaの組み合わせの2種の焼成条件の実施例で説明しようとするものである。なお、アルカリ土類金属元素を本願明細書段落【0042】に基づいて4種類、希土類元素を本願明細書段落【0042】に基づいて17種類とし、実数の比を0.1毎としても15の比となるから、除かれた2つの比を引いても13あり、全体で4×17×13=884となり、膨大な数の組成物について品質係数と温度係数という2つのマイクロ波誘電体としての特性の試験が必要となる。
そして、誘電体特性を含む固体物理の分野において、結晶構造が同一としても同族元素を単に組み合わせた組成物が同様の性質を有することが類推できないことが通常であるということは、磁性材料等の開発の歴史を引用するまでもなく、一般的な常識ということができるところ、本願の発明の詳細な説明には、マイクロ波誘電体に必要な2つの物性を併せて実現するための条件は何ら記載されておらず、単に段落【0028】で「このホモロガス構造が優秀なマイクロ波誘電体特性を発現するなら、Ba、Laとは異なる他の成分元素を用いたホモロガス構造も優秀なマイクロ波誘電体特性を発現するに違いないのではないかと着想するに到った。」とし、段落【0034】で「また、別の観点から、本発明者等は、n=1、2、4に限定されたホモロガス構造ではなく、この自然数から多少はずれた位置にあるホモロガス類似構造も優秀なマイクロ波誘電体特性を発現するのではないかと着想した。このホモロガス類似構造とは、n=1とn=2のホモロガス構造の共存組成物のように、複数のホモロガス組成物からなる混合系や、n=1又はn=2を主として含む組成物などを意味する。特に、n=1、2、4の周辺の組成比Xでマイクロ波誘電体特性が良好になるのではないかと考えた。従がって、組成比Xを実数にまで拡張することにする。」とし、段落【0037】?【38】において「更に、本発明者等はマイクロ波誘電体組成物として、Ba-La系に限られないのではないかと着想するに到った。ホモロガス構造が優秀なマイクロ波誘電体特性を発揮するなら、Ba-Laの近縁系のホモロガス類似構造も同様の特性を発揮するに違いない。
即ち、Baを他のアルカリ土類金属元素と置換し、Laを他の希土類元素と置換して得られるホモロガス類似構造を有するマイクロ波誘電体組成物も優秀なマイクロ波特性を発揮するはずである」と、着想が述べられるに留まり、構造と同族元素の置換による類推以上の材料設計上の技術的根拠が明らかにされておらず、組成比の数値限定の決定理由も明確には述べられていないものである。
結局、これら全ての特性を同時に満たす組成物及びその製造方法は試行錯誤による外はなく、当業者に過度の負担を強いるものであり、本願の発明の詳細な説明が実施可能要件を満たすものとすることはできない。
したがって、本願の発明の詳細な説明に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものとすることができない。
また、サポート要件について検討すると、請求項1乃至4に係る発明については、上記したように膨大な数の組成物を請求し、それを僅か4つの組成物のデータと技術的根拠の乏しい類推により、裏付けようとするものであり、到底、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明にサポートされたものとすることができず、特許請求の範囲に記載された発明が不当に広いという不備があるといわざるを得ない。
したがって、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとすることができない。
そして、当審の拒絶理由に対する請求人の平成20年7月22日付け意見書における「構成元素が変わった場合に、例え同様の構造を有していても、同様の物性を有することは固体物理において容易に想到できる現象とは言えず、実際に構成元素の異なる物質を測定して初めて明らかにされることである。」(3-3.参照)という主張や「本願発明は、組成比Xを細かく変化させ、マイクロは誘電体特性の組成比依存性を丹念に調べることで初めて明らかにされたものであ」(3-4.参照)るという主張を、本願の請求項1乃至4に記載された発明が詳細な説明に裏付けられたものでないことへの理由付けとして援用する。
してみると、当審において通知した、平成20年5月14日付け拒絶理由の理由である、特許法第36条第4項(実施可能要件)違反及び同法第36条第5項第1号(サポート要件)違反は、いずれも妥当なものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、本願は、依然として、特許法第36条第4項及び第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-02 
結審通知日 2008-09-09 
審決日 2008-09-22 
出願番号 特願2001-241657(P2001-241657)
審決分類 P 1 8・ 531- WZ (C04B)
P 1 8・ 534- WZ (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武重 竜男  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 木村 孔一
繁田 えい子
発明の名称 マイクロ波誘電体組成物及びその製造方法  
代理人 三木 久巳  
代理人 三木 久巳  

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