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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
管理番号 1187973
審判番号 不服2006-92  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-01-04 
確定日 2008-11-13 
事件の表示 平成10年特許願第135953号「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月 9日出願公開、特開平11-309242〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明の認定
本願は平成10年4月30日の出願であって,平成17年11月22日付けで拒絶の査定がされたため,これを不服として平成18年1月4日付けで本件審判請求がされるとともに,同年2月2日付けで明細書についての手続補正がされたものである。
当審においてこれを審理した結果,平成18年2月2日付けの手続補正を却下するとともに,新たな拒絶の理由を通知したところ,請求人は平成20年9月1日付けで意見書及び手続補正書を提出した。
したがって,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成20年9月1日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「入賞確率テーブルを参照して,抽選した乱数に基づいて入賞態様を決定し,決定した入賞態様に応じたフラグを立てる入賞態様決定手段と,
種々の図柄を複数列に可変表示する可変表示装置と,
前記フラグに応じた図柄を予め定められた個数の範囲内および予め定められた優先順位でこの可変表示装置に引き込んで停止表示させる停止表示制御手段とを備えて構成される遊技機であって,
特定の条件が成立したときに前記入賞態様決定手段で立てられた特定のフラグをハズレとして無効化するフラグ無効化手段と,
特定の前記条件が成立したときに予め定められた条件に従って,前記フラグ無効化手段によって特定の前記フラグがハズレとして無効化された際に,または前記入賞態様決定手段によって入賞態様が決定されずにハズレとされた際に,特定の前記フラグに応じた図柄の前記停止表示制御を前記可変表示装置の一部の表示列について中断させる停止制御中断手段と
を備え,
前記特定の条件が成立したときは,前記入賞態様決定手段によりBB入賞態様が決定されて,抽選により前記停止表示制御を中断させることに当選し,かつ,該BB入賞態様に応じた図柄が停止表示されてBB遊技が実行されて終了したときであり,
前記停止表示制御手段は,前記フラグ無効化手段によって特定の前記フラグがハズレとして無効化された際に,または前記入賞態様決定手段によって入賞態様が決定されずにハズレとされた際に,特定の前記フラグに応じた図柄の前記停止表示制御が,前記可変表示装置の一部の表示列について前記停止制御中断手段によって中断される間,前記可変表示装置の残りの表示列についてボーナス内部当たり中の前記個数および前記優先順位とは異なる,予め定められた新たな個数の範囲内および予め定められた配当量に従った新たな優先順位で図柄を引き込んで停止表示制御を行い,
前記入賞態様決定手段は,前記フラグ無効化手段によって特定の前記フラグがハズレとして無効化された際に,または前記入賞態様決定手段によって入賞態様が決定されずにハズレとされた際に,特定の前記フラグに応じた図柄の前記停止表示制御が,前記可変表示装置の一部の表示列について前記停止制御中断手段によって中断される間と,前記入賞態様決定手段により立てられた入賞態様に応じた前記フラグに応じた図柄が前記停止表示制御手段によって前記可変表示装置に停止表示される間とで,一般遊技時に用いられる同一の前記入賞確率テーブルを参照して入賞態様を決定する
ことを特徴とする遊技機。」

第2 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
当審における拒絶の理由に引用した特開平9-285596号公報(以下「引用例1」という。)には,以下のア?セの記載が図示とともにある。
ア.「複数の図柄を移動表示可能な複数の図柄表示装置と,
前記図柄表示装置の移動表示を開始させるスタートスイッチと,
前記各図柄表示装置に対応し,当該図柄表示装置の移動表示を個別に停止させる複数のストップスイッチと,
前記図柄表示装置,スタートスイッチ及びストップスイッチを制御する電子的制御装置とを備え,
前記電子的制御装置には,
前記図柄表示装置における図柄の停止態様を決定するための乱数を発生させる乱数発生手段と,
前記スタートスイッチのスタート信号にもとづいて,前記乱数発生手段により発生した乱数を抽選する乱数抽選手段と,
前記スタートスイッチのスタート信号にもとづいて,前記図柄表示装置の移動表示を開始させ,
前記乱数抽選手段により抽選した抽選乱数と,前記各ストップスイッチのストップ信号とにもとづいて,対応する図柄表示装置の移動表示を個別に停止可能なゲーム制御手段とを備え,
前記ゲーム制御手段には,
通常ゲームを制御する通常ゲーム制御手段と,
この通常ゲームの結果,図柄表示装置の停止態様が特別ゲーム移行態様に一致したことを条件に,前記通常遊技より遊技者に有利な特別ゲームを行わせる特別ゲーム制御手段と,
前記複数のストップスイッチのうち,予め設定した少なくとも1つのストップスイッチからのストップ信号に従って,当該対応する図柄表示装置の移動表示を停止させる停止制御解除ゲームを行わせる停止制御解除手段と,
前記通常ゲーム制御手段による通常ゲーム,前記特別ゲーム制御手段による特別ゲーム,及び停止制御解除手段による停止制御解除ゲームのゲーム結果を判定するゲーム結果判定手段とを備え,
前記電子的制御装置には,
前記停止制御解除手段による停止制御解除ゲームのゲーム回数を計数する回数計数手段と,
前記通常ゲーム制御手段による通常ゲームから停止制御解除手段による停止制御解除ゲームへの移行条件,及び停止制御解除手段による停止制御解除ゲームから通常ゲーム制御手段による通常ゲームへの移行条件を判定する条件判定手段とを備え,
前記条件判定手段には,
前記通常ゲーム制御手段による通常ゲーム中,停止制御解除ゲーム移行条件が達成されたことを判定し,前記停止制御解除ゲーム手段による停止制御解除ゲームを開始させる開始条件判定手段と,
前記回数計数手段より計数した停止制御解除ゲームのゲーム回数が,所定のゲーム回数に達したことを条件に,前記停止制御解除手段による停止制御解除ゲームを終了させる終了条件判定手段とを備え,
スロットマシンの前面には,回数計数手段により計数した停止制御解除ゲームの回数を表示する回数表示装置を備えたことを特徴とするスロットマシン。」(【請求項1】)
イ.「抽選乱数にもとづく停止制御を解除したゲームにおいて,遊技者によるストップスイッチの操作にのみもとづいて図柄表示装置の停止制御を行ったのでは,抽選乱数にもとづく停止制御を解除したゲーム中に,さらに特別遊技を開始させるための図柄表示装置の停止態様となるよう,図柄の移動表示を停止させることも可能となり,遊技者にとって有利なゲーム態様が無制限に行われて,遊技店の利益を不当に害してしまうといった第3の問題点があった。」(段落【0009】)
ウ.「乱数抽選手段150における乱数の抽選にもとづいて,電子的制御装置130内でソフトウェア的に当たりを発生させる条件が決定」(段落【0058】)
エ.「この特別ゲームは,いわゆるビッグボーナスと呼ばれるゲームであり,いわゆるレギュラーボーナスと呼ばれるゲームを3回行うことができ,通常ゲームと比較して多くのメダルを獲得できるようになっている。」(段落【0060】)
オ.「レギュラーボーナスゲームにおいては,乱数抽選手段150による乱数の抽選時において,図柄表示装置40に表示される図柄の停止態様が,例えば「A」「エンジェル」「エンジェル」と抽選される確率は,通常ゲームにおいて,図柄表示装置40に表示される図柄の停止態様が,予め定めた当たりの図柄の組み合わせとなる抽選確率よりも高確率,例えば4/5に設定されている。」(段落【0061】)
カ.「(停止制御解除手段)上記停止制御解除手段163は,例えば特別ゲーム制御手段162による特別ゲームの終了後,各ストップスイッチ70のストップ信号に従って,各図柄表示装置40の移動表示を停止させる停止制御解除ゲームを行わせる部分である。すなわち,停止制御解除ゲームは,停止制御解除手段163により停止制御が解除されることにより行われ,停止制御解除手段163により停止制御が解除されると,乱数抽選手段150による乱数の抽選にもとづく制御が解除され,遊技者による各ストップスイッチ70の操作のみにもとづいて,図柄表示装置40の停止制御が行われる。」(段落【0063】)
キ.「ストップスイッチ70を操作してから,例えば50mmsec未満で図柄表示装置40による図柄の移動表示を停止させることで,決定された図柄の停止態様を停止表示させることができる場合には,決定された図柄の停止態様が図柄表示装置40に停止表示されるようにし,決定された図柄の停止態様に従って,図柄の移動表示を停止させることが不自然である場合,すなわちストップスイッチ70を操作してから,例えば50mmsec以上たってから図柄表示装置40による図柄の移動表示を停止させないと,決定された図柄の停止態様を停止表示させることができない場合には,ストップスイッチ70を操作してから,例えば50mmsec以内に図柄表示装置40による図柄の移動表示を停止させ,決定された図柄の停止態様を図柄表示装置40に停止させないようにしている。」(段落【0069】)
ク.「上記した実施の形態では,停止制御解除手段163は,各ストップスイッチ70のストップ信号に従って,図柄表示装置40の移動表示を停止させる停止制御解除ゲームを行わせると説明した。しかし,停止制御解除ゲームは,これに限られず,各ストップスイッチ70のうち,少なくとも1つのストップスイッチ70のみについて,ストップスイッチ70のストップ信号に従って図柄表示装置40の移動表示を停止させるようにしてもよい。この場合,停止制御解除手段163は,例えば最初に移動表示を停止させる図柄表示装置40に対応するストップスイッチ70のみ,ストップスイッチ70のストップ信号に従って図柄表示装置40の移動表示を停止させる。なお,他のストップスイッチ70によって図柄の移動表示を停止させる図柄表示装置40については,例えば最初に移動表示を停止した図柄表示装置40に停止表示された図柄に対応した,予め定められた停止図柄の組合せ情報,あるいは停止表示された図柄に対応した,予め定められた優先順位情報にもとづいて停止制御される。」(段落【0076】)
ケ.「このように,少なくとも1つのストップスイッチ70のみについて,ストップスイッチ70のストップ信号に従って,図柄表示装置40の移動表示を停止させるようにすることで,ストップスイッチ70を操作して,意図する図柄を表示窓41に停止表示させることが困難な遊技者であってもある程度の利益が得られるようにすることができるから,遊技者の技量にによって得られる利益に著しい差が生ずることなく,遊技者に著しい不公平感を抱かせることがない。」(段落【0077】)
コ.「図6は,第3の例に係るスロットマシンの概略構成を示したブロック図である。この第3の例に係るスロットマシン220は,図6に示すように,上記した第1の例に係るスロットマシン10と比較して,電子的制御装置130内の条件判定手段180に,開始条件判定手段181,終了条件判定手段182の他に,中断条件判定手段183を備えた点と,ゲーム制御手段160に,通常ゲーム制御手段161,特別ゲーム制御手段162,停止制御解除手段163,ゲーム結果判定手段164の他に,停止制御解除一時中断手段165を備えた点が相違する。」(段落【0085】)
サ.「(停止制御解除一時中断手段)上記停止制御解除一時中断手段165は,中断条件判定手段183からの中断判定信号の入力を条件に図柄表示装置40の停止態様が特別ゲーム移行態様に一致しないように図柄表示装置40の停止態様を制御する部分である。」(段落【0087】)
シ.「停止制御解除ゲームにおいて,条件判定手段180の中断条件判定手段183により,図柄表示装置40における図柄の停止態様が特別ゲーム移行態様に一致する可能性があるかを判定する。具体的には,例えば図柄表示装置40における図柄の停止態様が特別ゲーム移行態様,例えば「7」「7」「7」で停止する可能性があるか否かを判定する。」(段落【0088】)
ス.「そして,特別ゲーム移行態様に一致する可能性があると判定した場合には,ゲーム制御手段160の停止制御解除一時中断手段165により,図柄表示装置40の停止態様が特別ゲーム移行態様に一致しないように図柄表示装置40における図柄の停止態様を制御する。すなわち,遊技者によるストップスイッチ70の操作により,例えば図柄表示装置40おける有効ライン上の図柄が,左側から順に「7」「7」と停止した場合に,遊技者が右側の図柄を「7」で停止させようと,ストップスイッチ70を操作しても,停止制御解除一時中断手段165により,図柄は「7」以外の停止態様,例えば「クイーン」で停止するように制御する。」(段落【0089】)
セ.「停止制御解除ゲームの最大可能ゲーム回数が20回,最大可能入賞回数が8回等のように設定され,停止制御解除ゲームが20回行われるまでの間に,8回の入賞があると,停止制御解除ゲームはその時点で終了させられる。」(段落【0100】)

2.引用例1記載の発明の認定
記載アの「停止制御解除ゲーム」につき,記載クには「複数のストップスイッチすべてからのストップ信号に従って,当該対応する図柄表示装置の移動表示を停止させる停止制御解除ゲーム」と「最初に操作されたストップスイッチのみストップ信号に従って,当該対応する図柄表示装置の移動表示を停止させる停止制御解除ゲーム」の両方が記載されており,後者に従い引用例1記載の発明を認定する。
記載エ等の「特別ゲーム」を「ビッグボーナスゲーム」ということにする。
記載ア?セを含む引用例1の全記載及び図示によれば,引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「複数の図柄を移動表示可能な複数の図柄表示装置と,
前記図柄表示装置の移動表示を開始させるスタートスイッチと,
前記各図柄表示装置に対応し,当該図柄表示装置の移動表示を個別に停止させる複数のストップスイッチと,
前記図柄表示装置,スタートスイッチ及びストップスイッチを制御する電子的制御装置とを備え,
前記電子的制御装置には,
前記図柄表示装置における図柄の停止態様を決定するための乱数を発生させる乱数発生手段と,
前記スタートスイッチのスタート信号にもとづいて,前記乱数発生手段により発生した乱数を抽選する乱数抽選手段と,
前記スタートスイッチのスタート信号にもとづいて,前記図柄表示装置の移動表示を開始させ,
前記乱数抽選手段により抽選した抽選乱数と,前記各ストップスイッチのストップ信号とにもとづいて,対応する図柄表示装置の移動表示を個別に停止可能なゲーム制御手段とを備え,当選役としてビッグボーナス,レギュラーボーナス及びその他の役を有するスロットマシンであって,
前記ゲーム制御手段には,
通常ゲームを制御する通常ゲーム制御手段と,
この通常ゲームの結果,図柄表示装置の停止態様がビッグボーナスゲーム移行態様に一致したことを条件に,前記通常遊技より遊技者に有利なビッグボーナスゲームを行わせるビッグボーナスゲーム制御手段と,
ビッグボーナスゲーム終了後に,前記複数のストップスイッチのうち,最初に操作されたストップスイッチによって図柄の移動表示を停止させる図柄表示装置のみストップ信号に従って,図柄表示装置の移動表示を停止させ,他のストップスイッチによって図柄の移動表示を停止させる図柄表示装置については,最初に移動表示を停止した図柄表示装置に停止表示された図柄に対応した,予め定められた優先順位情報にもとづいて停止制御するとともに,図柄の停止態様がビッグボーナスゲーム移行態様に一致する可能性がある場合には,ビッグボーナスゲーム移行態様に一致しないように図柄の停止態様を制御する停止制御解除ゲームを行わせる停止制御解除手段と,
ゲーム結果判定手段とを備え,
前記電子的制御装置には,
前記停止制御解除手段による停止制御解除ゲームのゲーム回数を計数する回数計数手段と,
前記通常ゲーム制御手段による通常ゲームから停止制御解除手段による停止制御解除ゲームへの移行条件,及び停止制御解除手段による停止制御解除ゲームから通常ゲーム制御手段による通常ゲームへの移行条件を判定する条件判定手段とを備え,
前記条件判定手段には,
前記通常ゲーム制御手段による通常ゲーム中,停止制御解除ゲーム移行条件が達成されたことを判定し,前記停止制御解除ゲーム手段による停止制御解除ゲームを開始させる開始条件判定手段と,
前記回数計数手段より計数した停止制御解除ゲームのゲーム回数が,所定のゲーム回数に達したことを条件に,前記停止制御解除手段による停止制御解除ゲームを終了させる終了条件判定手段とを備え,
スロットマシンの前面には,回数計数手段により計数した停止制御解除ゲームの回数を表示する回数表示装置を備えたスロットマシン。」(以下「引用発明1」という。)

3.本願発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
引用発明1の「複数の図柄を移動表示可能な複数の図柄表示装置」は本願発明の「種々の図柄を複数列に可変表示する可変表示装置」に相当する(「複数列」については,「ストップスイッチ」が複数存すること等から明らかである。)。
引用発明1では「乱数抽選手段により抽選した抽選乱数と,前記各ストップスイッチのストップ信号とにもとづいて,対応する図柄表示装置の移動表示を個別に停止可能」とされているが,乱数値は単なる数値であるところ,単なる数値そのものが図柄表示装置の停止に関わると解することは困難である。記載オに「図柄の停止態様が,例えば「A」「エンジェル」「エンジェル」と抽選される確率」とあること,及びスロットマシンの技術常識からみて,乱数値は「遊技の入賞態様を決定する」要素となるにすぎないと解すべきであり,引用例1に「テーブル」との文言記載はないものの,乱数値により入賞態様を決定するために「入賞確率テーブルを参照」することも技術常識に属するから,本願発明の「入賞確率テーブルを参照して,抽選した乱数に基づいて入賞態様を決定し,決定した入賞態様に応じたフラグを立てる入賞態様決定手段」は引用発明1にも備わっていると認める。
引用発明1では「抽選乱数と,前記各ストップスイッチのストップ信号とにもとづいて,対応する図柄表示装置の移動表示を個別に停止」するのであるが,入賞態様に応じた図柄(本願発明の「前記フラグに応じた図柄」に相当)を個別に停止する趣旨に解さねばならず,最終的な停止位置を決定するのに,ストップ信号と入賞態様の両方が必要な以上,「予め定められた個数の範囲内および予め定められた優先順位」かどうかはともかくとして,引用発明1も「前記フラグに応じた図柄をこの可変表示装置に引き込んで停止表示させる」ものであり,その限度で引用発明1の「ゲーム制御手段」又は「通常ゲーム制御手段」は本願発明の「停止表示制御手段」と一致する。そのことは,引用例1の記載キからも明らかである。停止表示制御手段の制御内容につき,「図柄の前記停止表示制御が,前記可変表示装置の一部の表示列について前記停止制御中断手段によって中断される間,前記可変表示装置の残りの表示列について予め定められた優先順位で図柄を引き込んで停止表示制御」することも本願発明と引用発明1の一致点である。
引用発明1の「停止制御解除ゲーム」は,「通常ゲームから停止制御解除手段による停止制御解除ゲームへの移行条件」(本願発明の「特定の条件」に相当)が成立し,「停止制御解除手段による停止制御解除ゲームから通常ゲーム制御手段による通常ゲームへの移行条件」が成立しない場合(本願発明の「予め定められた条件に従って」に相当)のゲームであり,引用発明1の「最初に操作されたストップスイッチ」に対応する図柄表示装置(本願発明の「前記可変表示装置の一部の表示列」に相当)のみストップ信号に従って,図柄表示装置の移動表示を停止(本願発明でいうところの「停止表示制御」の「中断」に相当)するのだから,本願発明の「特定の前記条件が成立したときに予め定められた条件に従って,・・・図柄の前記停止表示制御を前記可変表示装置の一部の表示列について中断させる停止制御中断手段」は引用発明1にも備わっている。さらに,「特定の条件」の具体的内容について検討するに,本願発明のそれは「前記入賞態様決定手段によりBB入賞態様が決定されて,抽選により前記停止表示制御を中断させることに当選し,かつ,該BB入賞態様に応じた図柄が停止表示されてBB遊技が実行されて終了したとき」であるのに対し,引用発明1のそれは「ビッグボーナスゲーム終了後」であるが,引用発明1の「ビッグボーナス」は本願発明の「BB入賞態様」に相当するものであり,引用発明1においても「入賞態様決定手段によりBB入賞態様が決定」及び「該BB入賞態様に応じた図柄が停止表示されてBB遊技が実行されて終了」が「ビッグボーナスゲーム終了」に該当するから,「抽選により前記停止表示制御を中断させることに当選」が条件とされるかどうかの点を除いては,「特定の条件」の具体的内容も一致している。
「スロットマシン」(引用発明1)が「遊技機」(本願発明)であることはいうまでもない。
したがって,本願発明と引用発明1の一致点及び相違点は以下のとおりである。
〈一致点〉
「入賞確率テーブルを参照して,抽選した乱数に基づいて入賞態様を決定し,決定した入賞態様に応じたフラグを立てる入賞態様決定手段と,
種々の図柄を複数列に可変表示する可変表示装置と,
前記フラグに応じた図柄をこの可変表示装置に引き込んで停止表示させる停止表示制御手段とを備えて構成される遊技機であって,
特定の条件が成立したときに予め定められた条件に従って,図柄の前記停止表示制御を前記可変表示装置の一部の表示列について中断させる停止制御中断手段と
を備え,
前記特定の条件が成立するには,前記入賞態様決定手段によりBB入賞態様が決定されて,かつ,該BB入賞態様に応じた図柄が停止表示されてBB遊技が実行されて終了することが必要であり,
前記停止表示制御手段は,図柄の前記停止表示制御が,前記可変表示装置の一部の表示列について前記停止制御中断手段によって中断される間,前記可変表示装置の残りの表示列について予め定められた優先順位で図柄を引き込んで停止表示制御を行う遊技機。」
〈相違点1〉フラグに応じた図柄を可変表示装置に引き込むに際し,本願発明は「予め定められた個数の範囲内」と限定しているのに対し,引用発明1にはその限定がない点。
〈相違点2〉フラグに応じた図柄を可変表示装置に引き込むに際し,本願発明は「予め定められた優先順位で」と限定しているのに対し,引用発明1にはその限定がない点。
〈相違点3〉本願発明が「特定の条件が成立したときに前記入賞態様決定手段で立てられた特定のフラグをハズレとして無効化するフラグ無効化手段」を備えるのに対し,引用発明1は同手段を備えない点。
〈相違点4〉本願発明が「前記入賞態様決定手段によりBB入賞態様が決定されて,かつ,該BB入賞態様に応じた図柄が停止表示されてBB遊技が実行されて終了」だけでなく「抽選により前記停止表示制御を中断させることに当選」を「特定の条件」とするのに対し,引用発明1にはかかる付加条件がない点。
〈相違点5〉「前記可変表示装置の一部の表示列について前記停止制御中断手段によって中断される」対象となる図柄につき,本願発明が「特定の前記フラグに応じた図柄」,すなわち,「フラグ無効化手段」により無効化されるフラグに応じた図柄としているのに対し,引用発明1にはその限定がない点。
〈相違点6〉「前記可変表示装置の一部の表示列について前記停止制御中断手段によって中断される間,前記可変表示装置の残りの表示列について予め定められた優先順位で図柄を引き込んで停止表示制御を行う」に際し,本願発明が「前記フラグ無効化手段によって特定の前記フラグがハズレとして無効化された際に,または前記入賞態様決定手段によって入賞態様が決定されずにハズレとされた際に,」と限定しているのに対し,引用発明1にはその限定がない点。
〈相違点7〉本願発明が「前記停止制御中断手段によって中断される間」の引き込み範囲を「前記可変表示装置の残りの表示列についてボーナス内部当たり中の前記個数および前記優先順位とは異なる,予め定められた新たな個数の範囲内」としているのに対し,引用発明1にはその限定がない点。
〈相違点8〉本願発明が「前記停止制御中断手段によって中断される間」の優先順位を「前記可変表示装置の残りの表示列についてボーナス内部当たり中の前記個数および前記優先順位とは異なる,配当量に従った新たな優先順位」としているのに対し,引用発明1にはその限定がない点。
〈相違点9〉本願発明が「前記入賞態様決定手段は,前記フラグ無効化手段によって特定の前記フラグがハズレとして無効化された際に,または前記入賞態様決定手段によって入賞態様が決定されずにハズレとされた際に,特定の前記フラグに応じた図柄の前記停止表示制御が,前記可変表示装置の一部の表示列について前記停止制御中断手段によって中断される間と,前記入賞態様決定手段により立てられた入賞態様に応じた前記フラグに応じた図柄が前記停止表示制御手段によって前記可変表示装置に停止表示される間とで,一般遊技時に用いられる同一の前記入賞確率テーブルを参照して入賞態様を決定する」と限定しているのに対し,引用発明1にはその限定がない点。

4.相違点の判断及び本願発明の進歩性の判断
関連する相違点をまとめて又は引き続いて判断するため,判断順序は相違点の順序とは異なることを断っておく。
(1)相違点1について
引用発明1の実施例では,「50mmsec未満で図柄表示装置40による図柄の移動表示を停止させる」(記載キ)とあるように,時間により引き込み範囲を定めている。多くのスロットマシンにおいては,ストップスイッチが押される直前可変表示装置は定速回転しており,定速回転であれば,時間により引き込み範囲を定めることと,図柄個数により引き込み範囲を定めることには実質的な相違はない。
加えて,引き込み範囲を図柄個数として予め設定(代表的には4コマ範囲内)することは周知である。
そうであれば,引用発明1における引き込み範囲を図柄個数により予め定めること,すなわち相違点1に係る本願発明の構成を採用することは極めて軽微な設計事項というべきである。

(2)相違点7について
引き込み範囲については,そもそも,どれだけの範囲とするかは,どの程度遊技者に利益を与えるかにより決定すべき設計事項である。
引用例1には,記載クの第1文にあるとおり,すべての表示列に対して引き込み制御しない実施形態も記載されており,記載ケのとおり「遊技者の技量にによって得られる利益に著しい差が生ずることなく,遊技者に著しい不公平感を抱かせることがない。」ことを目指して,2番目以降に停止操作される表示列に対して引き込み制御をするとの引用発明1の構成が採用されたものである。引き込み範囲が大きいほど,「遊技者に著しい不公平感を抱かせることがない」かわりに,熟練者がその技量を発揮できる局面は小さくなるだけでなく,いわゆるペイアウト率は一定にすべきであるから,「制御中断手段によって図柄の停止表示制御が一部の表示列について中断されている間」以外の期間におけるペイアウト率をさげなければならず,結果として熟練者の利益も小さくなる。「遊技者に著しい不公平感を抱かせることがない」ことと熟練者の技量発揮機会及び利益は相反する事項であり,どちらの課題に重点を置くか,あるいは両課題を部分的に達成するかは,およそ技術とはかけはなれた単なる設計事項としかいいようがない。
さらに,引用例1の記載オに「レギュラーボーナスゲームにおいては,・・・例えば「A」「エンジェル」「エンジェル」と抽選される確率は,通常ゲームにおいて,図柄表示装置40に表示される図柄の停止態様が,予め定めた当たりの図柄の組み合わせとなる抽選確率よりも高確率,例えば4/5に設定されている。」とあるように,遊技状態に応じて,遊技に関して必要な数値を変更することは周知である。引き込み範囲に限っても,例えば「パチスロ必勝ガイド」1998年2月号8?10頁に,パチスロ機「レッツ」の紹介記事が掲載されているところ,9頁左上部の囲み欄に「1?3コマスベリ」との記載があるほか,10頁右下部の「中段テンパイ」の説明及び絵柄配列図からは,左リール中央部に7番絵柄が位置する状態でストップボタンを操作した場合には,それよりも4コマ先の11番リプレイ図柄が中央部に停止しない(4コマは引き込まない)ことが読み取れ,,「左下がりテンパイ」及び「下段テンパイ」の説明によれば,左リール下部に7番絵柄が位置する状態でストップボタンを操作した場合には,それよりも4コマ先の11番リプレイ図柄が下部に停止する(4コマ引き込む)ことが読み取れるから,引き込み範囲をすべての遊技状態や入賞態様に対して一律にしなければならない理由はない。
そうであれば,引用例1において,引用発明1に先行して記載された実施形態(すべての表示列に対して引き込み制御しない実施形態)と比較すれば,「遊技者に著しい不公平感を抱かせることがない。」との課題を達成しつつ,なおかつ熟練者の技量発揮機会及び利益をも一定程度確保できるように,制御中断手段によって図柄の停止表示制御が一部の表示列について中断されている間における,残りの表示列の引き込み範囲を「特定の条件の成立前」の引き込み範囲よりも狭めること,すなわち相違点7に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(3)相違点2,8について
相違点2,8は密接に関連しているので,まとめて判断する。
以下では「制御中断手段によって図柄の停止表示制御が一部の表示列について中断されている間」を「CT期間」ということにし,少なくとも一部の表示列について図柄の停止表示制御を中断する遊技を「CT遊技」ということにする。
本願発明は,CT期間中「残りの表示列についてボーナス内部当たり中の・・・前記優先順位とは異なる,・・・予め定められた配当量に従った新たな優先順位で図柄を引き込んで停止表示制御」するものであり,相違点2における「予め定められた優先順位」も「ボーナス内部当たり中の」優先順位と解される。
引用発明1の「ビッグボーナス」及び「レギュラーボーナス」は本願発明の「ボーナス」に相当するが,引用例1にはボーナスに内部当たりし,ボーナス入賞が成立しなかった場合に,ボーナス内部当たりを次回ゲームに持ち越す旨の記載はない。しかし,引用例1に,ボーナス持ち越しに関する記載がないからといって,ボーナスの当選フラグを次回ゲームに持ち越さないと認めることはできない。実際,多くのスロットマシンではボーナスの当選フラグは,入賞不成立の場合に次回ゲームに持ち越される仕組みになっている。
また,ボーナス内部当たりを持ち越した場合にも,入賞確率テーブルを参照して,抽選した乱数に基づいて入賞態様を決定し,決定した入賞態様に応じたフラグを立てるスロットマシンも周知である。そして,ボーナス内部当たり中に新たに抽選を行えば,既に成立しているボーナスと新たな入賞態様の2つのフラグが成立することになる。また,本件出願の相当以前に頒布された特開平7-24104号公報に「大ヒットリクエスト信号はそのまま次回以降のゲームに保存される。次回のゲームを開始して乱数のサンプリングが新たに行われ,入賞確率テーブル26aと対照して大ヒット以外であったとすると,前回から持ち越されていた大ヒットリクエスト信号が優先され,各リールについて大ヒットが出るような停止制御が行われる。」(段落【0052】)と記載されているように,複数のフラグが同時に成立している場合に,優先順位を設定することも周知技術というべきである(優先順位がなければ,どのように停止制御するのか見当がつかない。)。
そうであれば,引用発明1を出発点として,ボーナス入賞が成立しなかった場合に,ボーナス内部当たりを次回ゲームに持ち越し,ボーナス内部当たり中に新たに抽選を行い,ボーナス以外の新たな当選フラグと持ち越しているボーナスフラグとの間に優先順位を予め設定すること,すなわち,相違点2に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。
次に,CT遊技の「優先順位」について検討する。
引用発明1は,「最初に移動表示を停止した図柄表示装置に停止表示された図柄に対応した,予め定められた優先順位情報にもとづいて停止制御」するのであり,引用例1の【図2】によれば,連続する3つの図柄が,「最初に移動表示を停止した際の図柄」となる。そして,最初に停止する図柄が複数であるから,その時点で入賞可能な,残り表示列の「図柄の停止態様」も複数あり,引き込むべき目標図柄が1つに定まらないために「予め定められた優先順位情報」を設定していると理解しなければならない。
引用発明1は「図柄の停止態様が特別ゲーム移行態様に一致する可能性がある場合には,ビッグボーナスゲーム移行態様に一致しないように図柄の停止態様を制御する」のであるから,最初に停止した3つの図柄の中にビッグボーナス相当図柄があれば,残り表示列についてこれを引き込み入賞させるような制御はしない。
すなわち,引用発明1における優先順位とは,ビッグボーナス相当図柄を除いた図柄に関して,残りの表示列について引き込み目標を定めるための優先順位である。
引用例1には,CT遊技においてレギュラーボーナスの成立を阻止する旨の記載はないが,「パチスロ攻略マガジン」1998年5月号,5頁(株式会社双葉社発行。以下「引用例2」という。)の左中央部に「チャレンジタイム中のリール制御」と題する囲み欄があり,「無制御といってもボーナスとリプレイは対象外。」との記載がある。要するに,引用例2には,CT期間中に,一部の表示列について停止表示制御を中断する対象となる図柄として,ボーナス相当図柄を除外する旨記載されている。
そうであれば,上記のとおり相違点2に係る本願発明の構成を採用した場合に,ビッグボーナスだけでなく,レギュラーボーナスも含めたボーナス相当図柄を除いた図柄に関して,残りの表示列について,予め定められた優先順位に従い引き込み制御することは設計事項程度というべきである。
そして,ボーナス内部当たり中の優先順位がボーナス以外の新たな当選フラグと持ち越しているボーナスフラグとの間の優先順位であるのに対し,CT遊技の優先順位はボーナス相当図柄を除いた図柄同士の優先順位であって,これら2つの優先順位は異ならざるを得ない。
さらに,CT遊技の優先順位をいかに定めるかにつき,CT期間中の遊技者の利益又は通常遊技とのバランスを考慮した配当順(前者を重視するなら,高配当のものほど優先順位を高くし,後者を重視するなら,低配当のものほど優先順位を高くする。)とすることは,設計事項程度である。
したがって,相違点8に係る本願発明の構成を採用することも当業者にとって想到容易である。

(4)相違点4について
引用例2の左上部に「チャレンジタイムの規定と仕様」と題する囲み欄があり,「CTはBIG当選毎に抽選」と記載されており,ここに記載の「BIG」が引用発明1の「ビッグボーナス」と同義であることは明らかである。
引用発明1を出発点とした場合にも,すべてのビッグボーナスゲーム終了後をCT期間とすることに代えて,引用例2の上記記載のとおり,ビッグボーナス当選毎に,ビッグボーナスゲーム終了後にCT期間に移行するかどうかの抽選を行い,移行すべきとの抽選結果の場合のみCT期間に移行すること,すなわち,相違点4に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(5)相違点3,5,6,9について
相違点3,5,6,9は密接に関連するので,まとめて判断する。
相違点3に係る本願発明の構成は,CT期間にも「入賞確率テーブルを参照して,抽選した乱数に基づいて入賞態様を決定し,決定した入賞態様に応じたフラグを立てる」ことを前提とした構成であるが,引用例1には,CT期間に「抽選した乱数に基づいて入賞態様を決定」することがそもそも記載されていない。
しかし,引用例2には,左上部の囲み欄に「CTパンク条件は・・・もしくはBIGを引いた場合。」との記載があり,この記載によればCT期間中もBIGに当選する可能性があり,抽選が行われていると解される。引用例2の左中央部の囲み欄に「無制御といってもボーナスとリプレイは対象外。」との記載があることからみて,CT期間中の抽選対象とされているのは,ボーナス(BIGを含む。)とリプレイであり,ボーナス又はリプレイに当選した場合に限っては,当選フラグに応じた停止制御を行い,CT遊技を行わないと解するのが自然であり,これ以外の解釈は採り得ない。なお,本件出願前に株式会社白夜書房より発行された「パチスロ必勝ガイド」1997年2月号119?121頁及び同誌1998年4月号115?117頁には,CT機(引用発明1同様,CT期間を設け,CT遊技を行えるスロットマシン)についての解説記事が掲載されており,「CT中もボーナスの抽選は行うそうですが」(1997年2月号121頁4段目19?20行),「CTではリプレイが「リール無制御状態」の対象外になる」(同段34?35行),「CT中にもボーナスの抽選を行っている」(1998年4月号117頁1段目14?15行),「フラグも立っていないのにボーナス役が揃うという事は絶対にない」(同頁2段目2?4行)及び「無制御の対象となるのは小役のみである。更にリプレイも無制御の対象外。つまり,CT中にリプレイのフラグが立てば,本来無制御のハズのリールがスベってリプレイを揃えようとする。当然ボーナス役も同様」(同段4?10行)との各記載があり,これら記載によれば,本件出願当時においては,CT期間中にボーナス及びリプレイに限っては抽選を行うことが,スロットマシンの技術分野における共通認識であったと解されるから,引用例2についての上記解釈を裏付けるものである。
引用発明1においても,引用例2記載の技術又は上記技術常識に従い,ボーナスとリプレイだけはCT期間にも抽選を行い,ボーナス又はリプレイに当選しない場合のみ,CT遊技を行うように構成することには何の困難性もない。
また,引用例2において,ボーナス又はリプレイ以外を抽選対象から外しているのか,当選後フラグを無効にしているのか不明であるけれども,本件出願前に頒布された特開平6-335560号公報に「確率変動状態にするか否かを抽選・・・確率変動カウンタが「0」でない場合には,当選を無効とするようにしてもよいし,抽選を行なわないようにしてもよい。」(段落【0097】)と,同じく特開平10-97264号公報に「同一の当選者を選択したときは2度目の当選を無効化するようになっている。」(段落【0052】)と記載されているように,当選しては不都合な場合に,抽選を実行し,当選後の処理としてその当選を無効とすることは周知であるとともに,スロットマシンにおいては1回の遊技中ではないものの,当選フラグが成立した後,その回の遊技終了時にフラグを無効にしたり(ボーナスフラグを除く。),入賞成立時にフラグを無効にする処理が行われていること,並びに抽選対象から外しても当選フラグを無効にしても,停止制御を解除(停止表示制御を中断)することに変わりはないから,どちらを採用するかは設計事項である。そして,後者を採用した場合の,ボーナス又はリプレイ以外の当選フラグが本願発明の「特定のフラグ」に相当する。
したがって,CT期間中(特定の条件が成立したとき)に「入賞態様決定手段で立てられた特定のフラグをハズレとして無効化するフラグ無効化手段」を備えること,すなわち,相違点3に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり,「前記可変表示装置の一部の表示列について前記停止制御中断手段によって中断される」対象となる図柄が「フラグ無効化手段」により無効化されるフラグに応じた図柄となること(相違点5に係る本願発明の構成),及びCT遊技を「前記フラグ無効化手段によって特定の前記フラグがハズレとして無効化された際に,または前記入賞態様決定手段によって入賞態様が決定されずにハズレとされた際に,」行うこと(相違点6に係る本願発明の構成)は必然的結果にすぎない。
残る検討項目は相違点9であるが,「前記入賞態様決定手段は,前記フラグ無効化手段によって特定の前記フラグがハズレとして無効化された際に,または前記入賞態様決定手段によって入賞態様が決定されずにハズレとされた際に,」は「特定の前記フラグに応じた図柄の前記停止表示制御が,前記可変表示装置の一部の表示列について前記停止制御中断手段によって中断される間」の前提条件であり,この前提条件はすでに検討したとおり,「フラグ無効化手段」を備えた場合の必然的結果にすぎない。
さらに,CT期間中と一般遊技でのボーナス及びリプレイの当選確率を異ならせるべき理由はないから,同一確率とすることは設計事項であり,同一確率であって,かつ当選後フラグを無効にするのであれば,CT期間中にも「一般遊技時に用いられる同一の前記入賞確率テーブルを参照して入賞態様を決定する」ことは自然な帰結であり,何の困難性もない。
請求人は,「本願構成によれば,CT期間中に使用する入賞確率テーブルを,CT期間以外の遊技状態中に使用する入賞確率テーブルに加えて,メモリに記憶しておく必要がありません。従いまして,記憶データ容量を削減して,記憶容量に限りがあるメモリを有効利用することができます。」(平成18年2月2日付けで提出された審判請求書の手続補正書(方式)4頁8?11行)と主張するが,CT期間中に使用する入賞確率テーブルを別途記憶する必要がないことは事実として認められるものの,その代わりCT期間中において,特定のフラグかどうかを判断し,特定のフラグであればそれを無効化する処理をしなければならず,しかもCT期間中に使用する入賞確率テーブルでは,ボーナス,リプレイ及びハズレの区別ができればよいのだから,必要な記憶データ容量は一般遊技中の入賞確率テーブルよりも小さい。これらを考慮すれば,一般遊技中の入賞確率テーブルをCT期間中にもそのまま用い特定のフラグを無効にするとの本願発明の構成と,CT期間中に使用する入賞確率テーブルを別途記憶する構成とに格別の優劣があると認めることはできない。さらに,特定の入賞態様の当選を可とする遊技状態と不可とする遊技状態としては,一般遊技状態とCT状態だけではなく,ボーナス内部当たりしていない遊技状態とボーナス内部当たり中の遊技状態(前者はボーナス当選を可とするが,後者は不可とする。)があり,その2つの遊技状態において同一の入賞確率テーブルを用いることは周知であり(例えば,特開平6-335560号公報【図9】では,S75で「ビッグボーナス・ボーナス当選フラグセット」の判断をし,YであればS76(ビッグボーナス当選許容値かどうか)及びS78(ボーナス当選許容値かどうか)の判断をスキップしている。),異なる遊技状態で同一の入賞確率テーブルを使用すること自体には何の創作力も要しない。なお,前掲特開平6-335560号公報では,当選フラグをいったん立ててから,これを無効化しているのではないが,当選フラグを立てる前に判断するか,立ててから事後判断するかの相違にすぎず,どちらを採用しても作用効果に相違はない。したがって,請求人の上記主張を採用することはできない。
以上のとおりであるから,相違点3,5,6,9に係る本願発明の構成を採用することも当業者にとって想到容易である。

(6)本願発明の進歩性の判断
相違点1?9に係る本願発明の構成を採用することは,設計事項であるか又は当業者にとって想到容易であり,これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって,本願発明は引用発明1及び引用例2記載の発明並びに周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3 むすび
以上述べたとおり,本願発明が特許を受けることができない以上,本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶を免れない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-10 
結審通知日 2008-09-16 
審決日 2008-09-30 
出願番号 特願平10-135953
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鉄 豊郎池谷 香次郎  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 小原 博生
有家 秀郎
発明の名称 遊技機  
代理人 峯岸 武司  

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