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審決分類 |
審判 訂正 2項進歩性 訂正しない A61N 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない A61N |
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管理番号 | 1188180 |
審判番号 | 訂正2007-390140 |
総通号数 | 109 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-01-30 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2007-12-16 |
確定日 | 2008-12-04 |
事件の表示 | 特許第3446095号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 (1)本件特許第3446095号に係る発明についての出願は、平成10年1月14日に出願され、平成15年7月4日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。 (2)その後、平成17年11月2日に第1回目の訂正審判(訂正2005-39202)が請求され、平成18年4月20日付けで訂正拒絶の審決がなされた。 (3)続いて、平成18年5月17日に第2回目の訂正審判(訂正2006-39078)が請求された。 (4)一方、平成18年7月13日に請求項1,2に係る発明について特許無効審判(無効2006-80128)が請求された。 (5)上記(3)の訂正審判は、平成18年9月4日に取り下げられるとともに、同日付けで上記(4)の特許無効審判において答弁書及び訂正請求書が提出された。 (6)そして、平成19年3月5日付けで請求項1,2に係る発明についての特許を無効とする旨の審決がなされた。 (7)これに対し、平成19年4月9日に審決の取消しを求める訴えが知的財産高等裁判所に提起され(平成19年(行ケ)第10124号)、その訴えの提起があった日から90日の期間内である同年5月7日に第3回目の訂正審判(訂正2007-390054)が請求されたところ、当該裁判所は、平成19年5月30日付けで、特許法181条2項の規定を適用して審決の取消しの決定をした。 (8)その後、平成19年11月13日付けで再度、請求項1,2に係る発明についての特許を無効とする旨の審決がなされた。 (9)これに対し、平成19年12月12日に審決の取消しを求める訴えが知的財産高等裁判所に提起された(平成19年(行ケ)第10414号)。 (10)上記(9)の訴えの提起があった日から90日の期間内である同年12月16日に第4回目の訂正審判(訂正2007-390140)が請求された(以下、「本件審判」という。)。 (11)そして、平成20年1月18日付けで訂正拒絶理由が通知され、これに対し、同年1月27日付け及び2月17日付けで意見書が提出された。 第2 請求の要旨 本件審判の請求の要旨は、特許第3446095号の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1における 「また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し、前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とすることで、前記パルストランスの一次電流値を得る、」 との記載を 「また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し、前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とし、前記一次巻線の駆動信号のパルスの出力後一定時間(To)経過後一次電流を前記MPUの読み込みタイミングで前記入力信号から読み込むことで、前記パルストランスの一次電流値を得る、」 と訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1における 「一方、前記MPUの記憶装置には、前記駆動電圧の数値と前記一次電流値(I1)および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り、 前記特性値テーブルには前記設定電圧(V)毎の数値を有し、 当該数値には、下記式(1)を使用する場合は無負荷励磁電流(IO)と短絡電流(1次電流I1S、2次電流I2S)を含み、また下記式(2)を使用する場合は定数(α)と無負荷励磁電流(IO)を含み、 MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に、 駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して、 前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I2)を下記式(1)または式(2)を用いて計算し、 その数値を前記LCDに表示することで、 前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とする低周波治療器。 式(1) I2=I2S/(I1S-IO)×(I1-IO) 式(2) I2=α(I1-IO)、ただしα=定数 」 との記載を、 「一方、前記MPUの記憶装置には、前記駆動電圧の数値と前記一次電流値(I_(1))および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り、 前記特性値テーブルには前記設定電圧(V)毎の数値を有し、 当該数値は、無負荷励磁電流(I_(O))と定数(α)であり、 前記無負荷励磁電流(I_(O))は、前記パルストランスの無負荷時の一次電流であり、 また、前記定数(α)は、事前試験を行い、前記無負荷励磁電流(I_(O))を求めた上で下記式からαを求めることで算出する計算値のことであり、 MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に、 駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して、 前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I_(2))を下記式を用いて計算し、 その数値を前記LCDに表示することで、 前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とする低周波治療器。 I_(2)=α(I_(1)-I_(O))、ただしα=定数 」 と訂正する。 (3)訂正事項3 本件特許明細書の段落番号【0004】における 「また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し、前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とすることで、前記パルストランスの一次電流値を得る、また設定電流は前記プッシュボタンによって増加又は減少して設定され、前記D/A変換器から前記パルストランスに前記設定電圧(V)として出力する、一方、前記MPUの記憶装置には、前記駆動電圧の数値と前記一次電流値(I1)および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り、前記特性値テーブルには前記設定電圧(V)毎の数値を有し、当該数値には、下記式(1)を使用する場合は無負荷励磁電流(IO)と短絡電流(1次電流I1S、2次電流I2S)を含み、また下記式(2)を使用する場合は定数(α)と無負荷励磁電流(IO)を含み、MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に、駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して、前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I2)を下記式(1)または式(2)を用いて計算し、その数値を前記LCDに表示することで、前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とするものである。 式(1) I2=I2S/(I1S-IO)×(I1-IO) 式(2) I2=α(I1-IO)、ただしα=定数 」 との記載を、 「また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し、前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とし、前記一次巻線の駆動信号のパルスの出力後一定時間(To)経過後一次電流を前記MPUの読み込みタイミングで前記入力信号から読み込むことで、前記パルストランスの一次電流値を得る、 また設定電流は前記プッシュボタンによって増加又は減少して設定され、前記D/A変換器から前記パルストランスに前記設定電圧(V)として出力する、 一方、前記MPUの記憶装置には、前記駆動電圧の数値と前記一次電流値(I_(1))および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り、 前記特性値テーブルには前記設定電圧(V)毎の数値を有し、 当該数値は、無負荷励磁電流(I_(O))と定数(α)であり、 前記無負荷励磁電流(I_(O))は、前記パルストランスの無負荷時の一次電流であり、 また、前記定数(α)は、事前試験を行い、前記無負荷励磁電流(I_(O))を求めた上で下記式からαを求めることで算出する計算値のことであり、 MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に、 駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して、 前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I_(2))を下記式を用いて計算し、 その数値を前記LCDに表示することで、 前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とするものである。 I_(2)=α(I_(1)-I_(O))、ただしα=定数 」 と訂正する。 なお、上記下線部は訂正箇所を示す。 第3 訂正拒絶理由の概要 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1,2に記載された発明は、本件出願前に日本国内で公然実施された伊藤超短波株式会社製の低周波治療器Trio300に係る発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 よって、本件審判の請求は、特許法第126条第5項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。 第4 当審の判断 1.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「パルストランスの一次電流値」について「前記一次巻線の駆動信号のパルスの出力後一定時間(To)経過後一次電流を前記MPUの読み込みタイミングで前記入力信号から読み込むことで、」一次電流値を得るとの限定を付加するものであるから、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0010】における「またほぼ同時に、図3の7および8のタイミングで、図1に示す信号7および8を設定されたパルス幅で出力する35。パルスの出力後、一定時間(図3のTo)経過後、一次電流を図3の53および54のタイミングで、図1の入力信号6から読み込む36。今後パルス幅が変化しても出力モードが変わらない限り読み込み時間(To)は一定である。」との記載に基づくものである。そして、上記「図1に示す信号7および8」は、本件特許明細書の段落【0007】における「またトランスの駆動方法は、パルス幅・周期および駆動時間をプログラムで管理された信号7と信号8を周期毎に交互に駆動し、正負一対の刺激パルスを得る。信号7を駆動すると正(上)パルス、また信号8を駆動すると負(下)パルスを得る。」との記載、及び図1の記載からみて、パルストランスの駆動信号、すなわち「一次巻線の駆動信号」を意味することは明らかであり、また、上記「図3の53および54のタイミング」は、本件特許明細書の段落【0008】における「図3は本発明の動作を示すタイミングチャート図である。図3において、・・・53と54はそれぞれプラス波形およびマイナス波形の電流値をMPUが読み込むタイミングを示す。」との記載からみて、「MPUの読み込みタイミング」を意味することは明らかである。 したがって、本件特許明細書における上記の「パルスの出力後、一定時間(図3のTo)経過後、一次電流を図3の53および54のタイミングで、図1の入力信号6から読み込む36。」という記載は、「一次巻線の駆動信号のパルスの出力後、一定時間(図3のTo)経過後、一次電流をMPUの読み込みタイミングで、図1の入力信号6から読み込む36。」と同じことであるということができる。 よって、訂正事項1は、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「特性値テーブル」が有する「設定電圧(V)毎の数値」について、(1)式を使用する場合と(2)式を使用する場合の二者択一であったのを、(2)式を使用する場合だけに限定するとともに、「無負荷励磁電流(IO)」について「無負荷励磁電流(I_(O))は、前記パルストランスの無負荷時の一次電流であり」との限定を付加し、「定数(α)」について「定数(α)は、事前試験を行い、前記無負荷励磁電流(I_(O))を求めた上で下記式からαを求めることで算出する計算値のことであり、」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項2は、本件特許明細書の段落【0009】における「また無負荷時(r=∞)の一次電流をI_(O)とする。」との記載、及び「または事前試験を行い、トランスのI_(O)を求めた上、前述した式(2)からαを求め特性値テーブルを作る。」との記載に基づくものであり、新規事項を追加するものではない。 さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項1を訂正事項1及び訂正事項2のように訂正することに伴って、発明の詳細な説明の記載内容をその請求項1の記載内容と整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして、訂正事項3は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 2.独立特許要件 そこで、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1,2に記載された発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」「本件訂正発明2」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。 (1)本件訂正発明1,2 ア 本件訂正発明1 「【請求項1】プログラム制御のためのMPUと、パルストランスから刺激パルスを発生する手段、および前記刺激パルスの様態を表示する手段を備えた低周波治療器において、 前記刺激パルスは前記パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で、一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し、 前記刺激パルスの出力電流値を数値表示するためのLCDと、前記出力電流値を手入力するためのプッシュボタンと、を備え、 また前記MPUが前記パルストランスの駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器および前記MPUが前記パルストランスの駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有し、 また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し、前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とし、前記一次巻線の駆動信号のパルスの出力後一定時間(To)経過後一次電流を前記MPUの読み込みタイミングで前記入力信号から読み込むことで、前記パルストランスの一次電流値を得る、 また設定電流は前記プッシュボタンによって増加又は減少して設定され、前記D/A変換器から前記パルストランスに前記設定電圧(V)として出力する、 一方、前記MPUの記憶装置には、前記駆動電圧の数値と前記一次電流値(I_(1))および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り、 前記特性値テーブルには前記設定電圧(V)毎の数値を有し、 当該数値は、無負荷励磁電流(I_(O))と定数(α)であり、 前記無負荷励磁電流(I_(O))は、前記パルストランスの無負荷時の一次電流であり、 また、前記定数(α)は、事前試験を行い、前記無負荷励磁電流(I_(O))を求めた上で下記式からαを求めることで算出する計算値のことであり、 MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に、 駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して、 前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I_(2))を下記式を用いて計算し、 その数値を前記LCDに表示することで、 前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とする低周波治療器。 I_(2)=α(I_(1)-I_(O))、ただしα=定数 イ 本件訂正発明2 「【請求項2】前記パルストランスの二次回路に、整流・平滑回路および出力制御回路を設け、前記整流・平滑回路には整流用ダイオードと正負の電圧を貯えるための平滑コンデンサを有し、また前記出力制御回路には前記MPUからの出力信号で駆動されるリレーとホトカプラを有し、前記MPUは、前記リレーによって出力モードを切り替え、また前記平滑回路の出力を前記ホトカプラで制御して、プラス波形およびマイナス波形からなる出力波形を人体に供給することで、前記刺激パルスの出力を一次側とは絶縁された状態で制御することを特徴とする請求項1に記載の低周波治療器。」 (2)低周波治療器Trio300 ア 公然実施について 上記「第1(4)」の特許無効審判において提出された、低周波治療器Trio300(以下、単に「Trio300」という。)についての製造・検査・出荷記録を示す甲第3号証の1、2、社内移動伝票(出庫)を示す甲第4号証の1ないし3、入出庫一覧表を示す甲第5号証、売上伝票、請求書を示す甲第6号証の1、2、報告書を示す甲第7号証、Trio300の写真を示す甲第8号証の1ないし8、Trio300の取扱説明書を示す甲第9号証を総合すれば、Trio300が、遅くとも平成9年中には製造・販売されたことは明白であり、Trio300に係る発明が本件出願の出願前に公然実施された発明であることは明白である。 イ Trio300に係る発明について 上記「第1(4)」の特許無効審判において提出された証拠のうち、特に甲第8号証の1ないし8(Trio300の写真)、甲第9号証(Trio300の取扱説明書)、甲第10号証(Trio300の解析報告書)を総合すると、Trio300に関して、次のことがわかる。 a.特に甲第10号証5/24頁、11/24?12/24頁の「イ)回路動作」の欄、14/24頁の「〈3〉電流の表示」の欄(○で囲まれた数は、審決中表記不可能であるため、〈3〉で代用する。以下同様。)の記載から、Trio300はプログラム制御を行うCPUと、出力トランス(T1)から電流値がmAオーダー(例えばTENS-CSTモード)またはμAオーダー(MCRモード)のパルス信号を刺激パルスとして発生し、出力トランス(T1)の実出力電流値(Ap)、すなわち刺激パルスの様態を表示するLCDを備えた低周波治療器であること。 b.特に、甲第10号証5/24頁、6/24頁の【図1】、8/24頁の【図2】、10/24頁【図3】、11/24?12/24頁の「イ)回路動作」等の記載から、出力トランス(T1)の一次側センタータップに、D/A変換器が出力する直流電圧が電圧増幅回路B(U102A、Q104、Q106)により増幅された後、直流電圧制御回路(Q108、Q110)を経て、駆動電圧である所定の設定電圧を印加するとともに、CPUにより一方のトランス駆動回路(Q113、Q115)及び他方のトランス駆動回路(Q114、Q116)に対して交互にパルス信号が出力され、出力トランス(T1)の一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって、刺激パルスが発生し、LCDがこの刺激パルスの実出力電流値(Ap)を数値表示すること。 c.特に甲第10号証5/24頁、6/24頁の【図1】、8/24頁の【図2】、10/24頁【図3】、11/24?12/24頁の「イ)回路動作」の欄、13/24頁の「〈2〉電流の計測」の欄等の記載から、Trio300のおいては、前面操作キーにより、周期(周波数)、パルス幅、治療時間などを設定し、UPキー、DOWNキーを押すことにより出力電流値を増加又は減少することにより設定すると、CPUのD/A変換器が、この設定電流値に対応して上記b.で述べた直流電圧を出力設定値として出力すること。 そして、出力トランス(T1)の一次側回路に電流検出抵抗(R108-R113)からなる電流検出回路を設置し、これら抵抗の両端電圧を電圧増幅回路A(U101B)を介してA/D変換器の入力信号とすることで、AD変換値(Ai)、すなわち出力トランス(T1)の駆動電流である一次電流値(Ai)を得ること。 d.特に甲第10号証13/24?14/24頁の「イ)」欄、添付資料C-3/6等の記載から、CPUの記憶装置には、出力トランス(T1)の出力設定値に対応するTENS-CSTモードの係数テーブルがあり、この係数テーブルは出力トランス(T1)の出力設定値毎の数値を有し、当該数値には、パラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)を含み、CPUのプログラムは、出力トランス(T1)の出力設定値を設定する毎に、当該出力設定値からパラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)を参照して、下記の式を使用して実出力電流値(Ap)を計算し、その数値をLCDに表示すること。 (式) Ap=P1/1000×Ai-P2/10 以上を総合すれば、Trio300に係る発明は、次のようなものであると認められる。 「プログラム制御のためのCPUと、出力トランス(T1)から刺激パルスを発生する手段、及び前記刺激パルスの様態を表示するLCDを備えた低周波治療器において、前記刺激パルスは前記出力トランス(T1)のセンタータップに直流電圧制御回路(Q108、Q110)により所定の設定電圧を印加した上で、一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し、前記刺激パルスの出力電流値を数値表示するためのLCDと、前記出力電流値を手入力するためのUPキー、DOWNキーとを備え、また前記CPUが前記出力トランス(T1)の駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器及び前記CPUが前記出力トランス(T1)の駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有し、また前記出力トランス(T1)の一次側回路に電流検出抵抗(R108-R113)を設置し、前記電流検出抵抗(R108-R113)の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とすることで、前記出力トランス(T1)の一次電流値(Ai)を得るようにし、また設定電流は前記UPキー、DOWNキーによって増加又は減少して設定され、前記D/A変換器から前記出力トランス(T1)に駆動電圧の出力設定値として出力する一方、前記CPUの記憶装置には係数テーブルがあり、前記係数テーブルは前記出力設定値毎の数値を有し、当該数値は、パラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)を含み、CPUのプログラムは、前記出力設定値を設定する毎に、前記出力設定値と一次電流からパラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)を参照して、下記の式を使用して実出力電流値(Ap)を計算し、その数値をLCDに表示するようにした低周波治療器。 Ap=P1/1000×Ai-P2/10 」 また、Trio300に係る発明は、次の回路構成をも備えているものと認められる。 「出力トランス(T1)の二次回路に、整流ダイオード(D10)を有する整流回路、平滑コンデンサ(C37、C38)を有する平滑回路を設け、前記整流回路及び平滑回路は、それぞれ整流ダイオード(D10)と正負の電圧を貯えるための平滑コンデンサ(C37、C38)を有し、またCPUからのリレー制御信号によって切り換えられるラッチリレー(RY1)とフォトカプラ(PC1、PC2)を有し、前記ラッチリレー(RY1)によりTENS-CNTモード、MCRモードを切り換え、また前記平滑回路の出力を前記フォトカプラに出力して、正負のパルスを刺激パルスとして人体に供給することで、前記刺激パルスの出力を一次側とは絶縁された状態で制御する回路構成。」 (3)本件訂正発明1についての検討 ア 対比 本件訂正発明1とTrio300に係る発明とを対比すると、Trio300に係る発明の「CPU」は、その技術的意義からみて、本件訂正発明1の「MPU」に相当し、以下同様に「出力トランス(T1)」は「パルストランス」に、「LCD」は「(前記刺激パルスの様態を)表示する手段」に、「UPキー、DOWNキー」は「プッシュボタン」に、「出力設定値」は「設定電圧(V)」あるいは「駆動電圧」に、「実出力電流値(Ap)」は「パルストランスの二次電流の波高値(I_(2))」あるいは「刺激パルスの出力電流値」にそれぞれ相当する。 そして、Trio300に係る発明において、「パラメータ1(P1)」と「パラメータ2(P2)」は、ともに出力トランス(T1)の特性値といい得るものであるから、「所定の特性値」の限りで、本件訂正発明1における「定数(α)」及び「無負荷励磁電流(I_(O))」とそれぞれ共通し、Trio300に係る発明の「係数テーブル」は、本件訂正発明1における「既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブル」に相当するものということができる。 さらに、Trio300に係る発明における式「Ap=P1/1000×Ai-P2/10」は、「一次電流値(I_(1))と所定の特性値に基いてパルストランスの二次電流の波高値を求める式」の限りで、本件訂正発明1における式「I_(2)=α(I_(1)-I_(0))、ただしα=定数」と共通し、計算した数値をLCDに表示することで、実出力電流値(Ap)を正確に把握することを可能にしていることは明白である。 してみると、本件訂正発明1とTrio300に係る発明との一致点、相違点は次のとおりである。 〈一致点〉 「プログラム制御のためのMPUと、パルストランスから刺激パルスを発生する手段、および前記刺激パルスの様態を表示する手段を備えた低周波治療器において、前記刺激パルスは前記パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で、一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し、前記刺激パルスの出力電流値を数値表示するためのLCDと、前記出力電流値を手入力するためのプッシュボタンと、を備え、また前記MPUが前記パルストランスの駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器および前記MPUが前記パルストランスの駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有し、また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し、前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とすることで、前記パルストランスの一次電流値を得る、また設定電流は前記プッシュボタンによって増加又は減少して設定され、前記D/A変換器から前記パルストランスに前記設定電圧として出力する、一方、前記MPUの記憶装置には、既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り、前記特性値テーブルには前記設定電圧毎の数値を有し、当該数値は、所定の特性値を含み、MPUのプログラムは前記設定電圧を設定する毎に、駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して、前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値を、一次電流値と所定の特性値に基いてパルストランスの二次電流の波高値を求める式を用いて計算し、その数値を前記LCDに表示することで、前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握するようにした低周波治療器。」 〈相違点〉 相違点1:パルストランスの一次電流値を得るに当たり、本件訂正発明1では、「前記一次巻線の駆動信号のパルスの出力後一定時間(To)経過後一次電流を前記MPUの読み込みタイミングで前記入力信号から読み込む」のに対して、 Trio300に係る発明では、どのようなタイミングで一次電流を入力信号から読み込むのか明らかでない点。 相違点2:本件訂正発明1では、MPUの記憶装置には、「前記駆動電圧の数値と前記一次電流値(I_(1))および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブル」があり、特性値テーブルが有する設定電圧(V)毎の数値が「無負荷励磁電流(I_(O))と定数(α)であり、前記無負荷励磁電流(I_(O))は、前記パルストランスの無負荷時の一次電流であり、 また、前記定数(α)は、事前試験を行い、前記無負荷励磁電流(I_(O))を求めた上で下記式からαを求めることで算出する計算値のことであり」、「MPUのプログラム」が「前記設定電圧(V)を設定する毎に、 駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して、 前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I_(2))」を計算するに当たり、「I_(2)=α(I_(1)-I_(O))」を用いるのに対し、 Trio300に係る発明では、CPUの記憶装置には「係数テーブル」があり、係数テーブルが有する設定電圧毎の数値が「パラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)」であり、「CPUのプログラム」が「前記出力設定値を設定する毎に、前記出力設定値と一次電流からパラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)を参照して、実出力電流値(Ap)」を計算するに当たり、「Ap=P1/1000×Ai-P2/10 」 を用いる点。 イ 判断 相違点1について検討する。 パルス電流の測定において、パルスの出力などの適当な基準となる時点から一定時間経過した時点でサンプリングすることは当然のことであり、当業者であれば、発生しうる最小のパルス幅と最大のパルス幅を考慮してサンプリング時点を決定するのが普通である。サンプリング時点を積極的にずらしたり、変化させたりすることはむしろ極めて特異なことであり、特別の事情がない限り、サンプリング時点を変動させることは一般的には行われない。そして、Trio300に係る発明も、「刺激パルスは・・・一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生」するものであり、電磁誘導の法則に依存するものである以上、一次電流に関する毎回の読み込みタイミングについて同一性を保証することは当業者であれば当然に考慮することといえるから、Trio300に係る発明において、一次電流を入力信号から読み込むタイミングとして、「一次巻線の駆動信号のパルスの出力後一定時間(To)経過後一次電流を前記MPUの読み込みタイミングで前記入力信号から読み込む」ように構成することは、当業者にとって格別なことではなく設計的事項にすぎないというべきである。 次に、相違点2について検討する。 Trio300に係る発明において、パラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)は、ともに、出力設定値毎に記憶された定数というべきものであり、CPUの記憶装置には、出力設定値、及びこれに対応してパラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)が係数テーブルとして記憶されており、出力設定値を設定する毎に、出力設定値と一次電流から上記係数テーブルに記憶されたパラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)を呼び出して、実出力電流値(Ap)を計算するものと解される。 一般に、マイクロコンピュータによる複数のパラメータの計算処理において、各パラメータをどのように記憶するかは、必要とするメモリ容量や演算速度等を勘案することにより、適宜選択し得ることであり、CPUの記憶装置に一次電流値(Ai)を記憶させ、出力設定値と一次電流値(Ai)から係数テーブルを参照して、パラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)を呼び出し、実出力電流値(Ap)を計算することは、当業者が適宜採用し得る程度の設計的事項にすぎないことというべきである。 次に、Trio300に係る発明において使用する「式 Ap=P1/1000×Ai-P2/10 」の技術的意義について検討する。 ここで、出力トランスの一次電流に無負荷励磁電流に相当するオフセットがあること、オフセットを除いた一次電流値と二次電流値が比例関係にあることは技術常識である。 このことは、本件特許出願の日よりも前に発行された「絵とき電気機器」(昭和61年2月20日 株式会社オーム社)において、負荷時の一次全電流I_(1)、励磁電流I_(O)、一次負荷電流I_(1)’の関係が「I_(1)=I_(O)+I_(1)’」で表されていること(112ページ10行)、一次負荷電流I_(1)’と二次電流I_(2)との関係が「I_(1)’=-I_(2)/a」で表されていること(115ページ16行)からも明らかである(両式より、I_(2)=-a(I_(1)-I。)という関係が導き出せる。)。 以上を踏まえ、上記式「Ap=P1/1000×Ai-P2/10 」と本件訂正発明1における式「I_(2)=α(I_(1)-I_(O))、ただしα=定数 」とを対比すると、本件訂正発明1における「I_(O)」すなわち「無負荷励磁電流」は、一次巻線及び二次巻線の物理的特性が既定のものであれば、出力設定値に応じて一義的に定まるものであることは明白であるから、両式を、一次電流値を変数とした一次式としてみた場合、「P1/1000」が「α(定数)」に、「P2/10 」が「αI_(O)」に、それぞれ相当する。 そして、Trio300に係る発明においても、本件訂正発明1においても、パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で、一次巻線の両端を交互に駆動することにより、二次側の誘起電圧を発生させており、通常の技術常識に照らして、両者において、一次巻線及び二次巻線の物理的特性が同一である場合、設定電圧が与えられれば、一次電流値と二次電流値との対応関係は同一である。 しかも、Trio300に係る発明も、一次電流に基づき二次電流を正確に計算することを課題としているのは当然のことであるから、本件訂正発明1及びTrio300に係る発明の一次巻線及び二次巻線の物理的特性が同一の場合、結果として、「P1/1000」及び「P2/10 」を、「α(定数)」及び「-αI_(O)」のそれぞれと、数値的にみても同等の値とすることは、当業者が容易になし得ることというべきである。 また、CPUを用いて制御が行われる機器において、数式の演算に代えて、または数式のパラメータについて、事前の計算により、または事前の実験によりデータを求めておき、これをルックアップテーブルに予め格納しておくことは周知の技術である。また、演算式がある場合にはその演算式を用いてその演算式に含まれるパラメータを事前に実験、計算等により求めることも、一般にキャリブレーションを行うときに採用されている周知の手法にすぎない。そうすると、Trio300に係る発明において、パラメータを、事前の試験を行い、一次電流値と二次電流値が比例関係にあることを表した式から算出して求めることも、当業者であれば必要に応じて適宜なし得ることというべきである。 したがって、相違点2に係る本件訂正発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到できたものである。 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、Trio300に係る発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)本件訂正発明2についての検討 本件訂正発明2に関して、特許請求の範囲の請求項2で付加された発明を特定するために必要な事項と、Trio300に係る発明が備えている上記回路構成とを対比すると、その技術的意義、機能等からみて、上記回路構成における「整流回路」及び「平滑回路」は、本件訂正発明2の「整流・平滑回路」に相当し、以下同様に、「整流ダイオード(D10)」は「整流用ダイオード」に、「平滑コンデンサ(C37、C38)」は「正負の電圧を蓄えるための平滑コンデンサ」に、「CPUからのリレー制御信号」は「MPUからの出力信号」に、「ラッチリレー(RY1)」は「リレー」に、「TENS-CNTモード、MCRモード」は「出力モード」に、そして、「正負のパルス」は「プラス波形およびマイナス波形からなる出力波形」に、それぞれ相当し、Trio300に係る発明の「ラッチリレー(RY1)」及び「フォトカプラ(PC1、PC2)」が本件訂正発明2の「出力制御回路」を構成するものといえる。 そうすると、Trio300に係る発明も、特許請求の範囲の請求項2で付加された発明を特定するために必要な事項のすべてを備えているものということができ、本件訂正発明2とTrio300に係る発明との相違点は、上記「(3)ア」で検討した相違点1,2以外にないから、本件訂正発明2も、上記「(3)イ」で検討したとおり、Trio300に係る発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)むすび したがって、本件訂正発明1,2は、本件出願前に日本国内で公然実施されたTrio300に係る発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 第5 むすび したがって、本件審判の請求は、特許法第126条第5項の規定に適合しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-04-01 |
結審通知日 | 2008-04-04 |
審決日 | 2008-04-16 |
出願番号 | 特願平10-37878 |
審決分類 |
P
1
41・
856-
Z
(A61N)
P 1 41・ 121- Z (A61N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中田 誠二郎 |
特許庁審判長 |
阿部 寛 |
特許庁審判官 |
仲村 靖 川本 真裕 |
登録日 | 2003-07-04 |
登録番号 | 特許第3446095号(P3446095) |
発明の名称 | 低周波治療器 |