ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D |
---|---|
管理番号 | 1188239 |
審判番号 | 不服2007-7400 |
総通号数 | 109 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-01-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-03-12 |
確定日 | 2008-11-20 |
事件の表示 | 特願2002- 27021「ディスクブレーキ装置用シム板」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月15日出願公開、特開2003-227530〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成14年2月4日の出願であって、平成19年2月7日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成19年3月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、そして、当審において平成20年6月27日(起案日)付けで拒絶理由が通知され、平成20年8月29日付けで手続補正がなされたものである。 2.本願発明1 本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成20年8月29日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。 「摩擦パッド裏面側に取り付けた、摩擦パッドと該摩擦パッドをロータに対して押圧する押圧部材との間に介在するディスクブレーキ装置用のシム板であって、 シム基板の少なくとも前記押圧部材と対面する側の面上に設けた、ゴムからなる振動減衰材層と、 前記振動減衰材層上に設けた、面内方向に局所的に伸縮可能な、ポリイミド材からなる表面層とを具えることを特徴とするディスクブレーキ装置用シム板。」 3.刊行物及びその記載事項 これに対し、本願の出願前に国内で頒布された以下の刊行物に記載された事項は次の通りである。 (1)刊行物1 平成20年6月27日(起案日)付けで通知した拒絶理由で引用された特開平8-267650号公報には、「拘束型制振材」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。 イ.「本発明は、金属板等の剛性体と振動吸収性に優れた高分子粘弾性体とからなる拘束型制振材に係るもので、特に自動車のブレーキ鳴き防止シムや建築物の外装板への使用に適した拘束型制振材の改良に関する。」(2ページ1欄24-28行;段落番号【0001】参照) ロ.「本発明による拘束型制振材は、剛性体の少なくとも片面に、高分子粘弾性層と、前記剛性体の剛性率より小さく、かつ前記高分子粘弾性層の剛性率より大きい剛性率の硬質被覆層とを順次に形成したことを要旨としている。」(3ページ3欄17-21行;段落番号【0008】参照) ハ.「前記剛性体面に形成する高分子粘弾性層としては、天然ゴム、NBR、SBR、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等の合成ゴム、ポリエチレン樹脂、ポリアミド等の熱硬化性樹脂等の振動損失係数の高い素材が挙げられる。」(3ページ4欄5-9行;段落番号【0010】参照) ニ.「前記高分子粘弾性層に形成する硬質被覆層には、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化型または紫外線硬化等の高分子樹脂・・・・・・等が挙げられ、前記高分子粘弾性層と同様に、使用目的や要求特性に合わせて自由な選定が可能である。」(3ページ4欄10-15行;段落番号【0011】参照) ホ.「実際の適用に際しては、例えばブレーキシムであれば、剛性の高い樹脂層には、ブレーキピストンの攻撃に耐えるだけの耐圧縮性・張り剛性をもち、かつ耐熱度の高い熱硬化性高分子樹脂を選定すれば良い。また表面の滑りがブレーキの鳴きに影響している場合には、滑り性の高い熱硬化性高分子樹脂を選定するか、もしくはさらに滑り性の高い二硫化モリブデン被膜をコーティングすることで、起振力の軽減と拘束型制振構造による高い制振効果を同時に実現できる。」(3ページ3欄44行-4欄35行;段落番号【0014】参照) ヘ.「高分子粘弾性層に特に剛性率の小さいゴム等を選定した場合、ゴムそのものは等方性であるため、何れの方向にも変形し易いにもかかわらず、硬質被覆層の存在により、圧縮力に対し、断面部からのゴムのフローを抑制できるため、見かけの弾性率が高くなり、その結果耐圧縮力を強化できる。また、剪断方向には拘束力が働かないため、ゴムの弾性率をそのまま発現できるような異方性を実現できる。 これは、ブレーキシムのように圧縮力に対しては高い強度を必要とし、ローターの回転力に伴うスティック・スリップ現象が原因で発生する起振力の軽減に効果的で、鳴き防止に有効となり得る。」(4ページ5欄1-12行;段落番号【0016】、【0017】参照) これらの記載事項によれば、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 「剛性体の少なくとも片面に、天然ゴム、NBR、SBR、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等の合成ゴムからなる高分子粘弾性層と、前記剛性体の剛性率より小さく、かつ前記高分子粘弾性層の剛性率より大きい剛性率のポリイミド樹脂等からなる硬質被覆層を順次に形成したブレーキシム」 (2)刊行物2 平成20年6月27日(起案日)付けで通知した拒絶理由で引用された実願昭56-61152号(実開昭57-172940号)のマイクロフィルムには、「デイスクブレーキ」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。 チ.「この考案はデイスクブレーキ、詳しくは、一般に「鳴き」と呼ばれるブレーキパツドに発生する高周波数振動に起因するブレーキノイズを防止するデイスクブレーキの防振構造に関するものである。」(1ページ20行?2ページ4行) リ.「一対のブレーキパツド(2)(3)がブレーキデイスク(1)を押圧して裏金(6)(7)のトルク伝達部(6a)(6b)(7a)(7b)がトルクメンバー(13)のトルク受け部(14)(15)と当接し、ブレーキデイスク(1)すなわち車輪の回転を制動する。」(4ページ9-13行) ヌ.「第5?8図には、補強用のシムの取付および形状を示す。第5図はインナーブレーキパツド(2)をブレーキデイスク(1)側から見た図であり、第6図はインナーブレーキパツド(2)をピストン(12)側から見た図である。(21)は前述の防振材、(22)はこの防振材(21)を補強するインナーブレーキパツド(2)用のシムである。シム(22)(23)は第7,8図に示すような形状を有しており、インナーブレーキパッド(2)用のシム(22)およびアウターブレーキパッド(3)用のシム(23)とともに、ピストン(12)および押え腕(11)が当接する部分の防振材(21)を覆つて保護するとともに、トルク伝達部(6a)(6b)(7a)(7b)がトルク受け部(14)(15)と当接する部分の防振材(21)をも覆つている。・・・・・・シム(22)(23)の爪部(24)は、シム(22)(23)がブレーキパツド(2)(3)から脱落しないよう、防振材(21)と裏金(6)(7)とをそれぞれ挟着している。」(6ページ18行-7ページ20行) 摘記事項ヌ.に関し、刊行物2中で旧字体で表記してあるものは、新字体により表記している。 これらの記載によれば、刊行物2には、以下の発明(以下、「刊行物2記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 「ピストン(12)が当接する部分の防振材(21)を覆って保護し、爪部(24)によりブレーキパツド(2)(3)から脱落しないようにされ、トルクメンバー(13)のトルク受け部(14)(15)と当接し、ブレーキデイスク(1)すなわち車輪の回転を制動するトルク伝達部(6a)(6b)(7a)(7b)を有するシム(22)(23)」 4.対比 本願発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「剛性体」は本願発明1の「シム基板」に相当し、同様に、「天然ゴム、NBR、SBR、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等の合成ゴムからなる高分子粘弾性層」は「ゴムからなる振動減衰材層」に相当する。また、刊行物1記載の発明の「剛性体の剛性率より小さく、かつ前記高分子粘弾性層の剛性率より大きい剛性率のポリイミド樹脂等からなる硬質被覆層」と、本願発明1の「振動減衰材層上に設けた、面内方向に局所的に伸縮可能な、ポリイミド材からなる表面層」とは、少なくとも「振動減衰材層上に設けた、ポリイミド材からなる表面層」である点では共通する。さらに、刊行物1記載の発明の「ブレーキシム」は、本願発明1の「ディスクブレーキ装置用シム板」に相当する。 そうすると、請求項1に係る発明と刊行物1記載の発明とは、請求項1に係る発明の用語に倣えば 「シム基板の少なくとも押圧部材と対面する側の面上に設けた、ゴムからなる振動減衰材層と、 前記振動減衰材層上に設けた、ポリイミド材からなる表面層とを具えるディスクブレーキ装置用シム板。」 である点で一致し、下記の2つの相違点で相違する。 相違点A 本願発明1は、「摩擦パッド裏面側に取り付けた、摩擦パッドと該摩擦パッドをロータに対して押圧する押圧部材との間に介在するディスクブレーキ装置用のシム板であ」るのに対し、刊行物1記載の発明はこの点について特定されていない点。 相違点B 本願発明1の表面層は、「面内方向に局所的に伸縮可能な」ものであるのに対し、刊行物1記載の発明は、この点についての特定がない点。 5.判断 上記相違点について検討すると、 はじめに相違点Aについて検討するに、刊行物2記載の発明のシム板(22)(23)も「ピストンが当接する部分の防振材を覆って保護」するとともに、ブレーキパッドから脱落しないための爪部(24)が設けられていることからみて、「摩擦パッド裏面側に取り付けた、摩擦パッドと該摩擦パッドをロータに対して押圧する押圧部材との間に介在するディスクブレーキ装置用のシム板」と解せられるものであるし、そもそも同様の構成は慣用手段にすぎないものである。そうすると、刊行物1記載の発明の「ディスクブレーキ装置用シム板」に対し、刊行物2記載の発明あるいは慣用手段を踏まえて、所要の設計変更を行うことにより、相違点Aに係る本願発明1に係る構成とすることは、当業者であれば容易になしうるものである。 つぎに相違点Bについて検討するに、刊行物1記載の発明の表面層も、振動減衰材層上に設けられたものであり、さらに、ポリイミド樹脂が採用されるものである以上、請求項1記載の発明のポリアミド材からなる表面層と同様の物性あるいは性質を有するであろうことは、当業者であれば容易に理解できるものである。そうすると、相違点Bに係る請求項1に係る発明の構成は、刊行物1記載の発明も実質的に有するものであるか、刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易になしうるものにすぎない。 そして、請求項1に係る発明が奏する作用効果も、刊行物1及び刊行物2に記載された発明から当業者が予測できる範囲のものである。 なお、請求人は、平成20年8月29日付けの意見書において、「すなわち、刊行物1は、拘束型制振材を提供することを目的として、高分子粘弾性体層を制振鋼板の代わりにポリイミド樹脂等からなる硬質被覆層で覆った構成を開示しているに過ぎず(段落番号[0007],[0008]参照)、ここでのブレーキ鳴きの防止は本願発明と明らかに異なり、二硫化モリブデンコーティング等によるピストンと表面層との間の滑りによって達成しようとしている(段落番号[0014]参照)。 また、刊行物2は、ブレーキ鳴きの防止用に、単に金属板に緩衝材をコーティングしたシムを開示しているに過ぎない(第3頁第8?15行参照)。 従って、これら刊行物1,2記載の技術では、例えそれらを組み合わせたとしても、本願発明の前述した「制動動作時の表面層と押圧部材との接触部における押圧部材の微少な変位により、表面層がその面内方向に局所的に伸縮変形し、この表面層の面内方向への局所的な伸縮変形に伴い、表面層の下の振動減衰層もその面内方向へ局所的に変形することとなるため、結果として十分な減衰効果を得ることができるので、振動減衰層に極めて剛性の低いものを用いて強度や耐久性の問題を生じさせたり振動減衰層に厚さを増加させたものを用いてブレーキフィールの悪化の問題を生じさせたりすることなしに、鳴きの防止を図ることができる。」という顕著な効果は到底奏することはできない。 しかもこれらの刊行物には、本願発明の「ポリイミド材という材料と薄い層状の形態との組合せによって局所的に伸縮可能とした表面層を、ゴムからなる振動減衰層上に設けることで、制動動作時の表面層と押圧部材との接触部における押圧部材の微少な変位により、表面層がその面内方向に局所的に伸縮変形し、この表面層の面内方向への局所的な伸縮変形に伴い、表面層の下の振動減衰層もその面内方向へ局所的に変形するようにして、十分な減衰効果を得ることができるようにし、振動減衰層に極めて剛性の低いものを用いて強度や耐久性の問題を生じさせたり振動減衰層に厚さを増加させたものを用いてブレーキフィールの悪化の問題を生じさせたりすることなしに、鳴きの防止を図る」という技術的思想について、記載はおろか示唆すら全くない。 従って、請求項1記載の本願発明のディスクブレーキ装置用シム板は、前記刊行物1,2記載の発明から当業者が容易に想到し得たものでなく、明らかに進歩性がある。」と主張している。 そこで、上記主張についてさらに検討するに、本願発明1に記載された表面層に関する技術事項は、「振動減衰材層上に設けた、面内方向に局所的に伸縮可能な、ポリイミド材からなる表面層」であり、表面層がポリイミド材からなることは特定されているものの、「薄い層状の形態」についての特定はない。してみると、上記主張における、『本願発明の「ポリイミド材という材料と薄い層状の形態との組合せによって局所的に伸縮可能とした表面層を、ゴムからなる振動減衰層上に設ける』という構成は、本願発明1では特定されていない事項「薄い層状の形態」を有すものであるから、本願発明1とは整合しない。したがって、上記構成を含んだ『本願発明の「ポリイミド材という材料と薄い層状の形態との組合せによって局所的に伸縮可能とした表面層を、ゴムからなる振動減衰層上に設けることで、・・・・・・鳴きの防止を図る」という技術的思想について、記載はおろか示唆すら全くない。』との主張は、本願発明1に基づく主張ではない。そして、この点を踏まえ、本願発明1の「振動減衰材層上に設けた、面内方向に局所的に伸縮可能な、ポリイミド材からなる表面層」に係る事項と刊行物1記載の発明の「前記剛性体の剛性率より小さく、かつ前記高分子粘弾性層の剛性率より大きい剛性率のポリイミド樹脂等からなる硬質被覆層」に係る事項とを対比すると、刊行物1記載の発明は、本願発明1の「振動減衰材層」に相当する「高分子粘弾性層」と「硬質被覆層」が順次積層、すなわち「高分子粘弾性層」の上に「硬質被覆層」を設けたものであり、かつ、この「硬質被覆層」は、高分子粘弾性層の剛性率よりも大きな剛性率のポリアミド樹脂層等からなることからみて、両者は、「振動減衰材層上に設けた、ポリイミド材からなる表面層」である点で共通するものの、本願発明1の表面層は「面内方向に局所的に伸縮可能な」ものであるのに対し、刊行物1記載の発明の「硬質被覆層」は、この点の特定はないという相違点を有することは、「4.対比」の一致点及び相違点Bにおいて述べたとおりである。そして、この相違点は、上述の相違点Bの検討において述べたとおり、本願発明1及び刊行物1記載の発明が、「振動減衰材層上に設けた、ポリイミド材からなる表面層」を有する、すなわち構成が共通するものである以上、本願発明1の表面層が「面内方向に局所的に伸縮可能な」ものであれば、構成が共通する刊行物1記載の発明も、同様に「面内方向に局所的に伸縮可能な」もの、すなわち、相違に係る本願発明1の事項を実質的に有することは、当業者であれば容易に理解できるものであるし、仮に理解できないとしても、容易に想到しうるものである。さらに、刊行物1の摘記事項ホ.(段落番号【0014】)には、「表面の滑りがブレーキの鳴きに影響している場合には、滑り性の高い熱硬化性高分子樹脂を選定する・・・・・・で、起振力の軽減と拘束型制振構造による高い制振効果を同時に実現できる。」、すなわちブレーキの鳴きを防止するために、ポリイミド樹脂のような滑り性の高い熱硬化性高分子樹脂を選定することが記載されていることを踏まえれば、刊行物1記載の発明がブレーキの鳴きを防止するという効果を奏するものであることは、当業者であれば容易に理解できるものである。 よって、請求人の上記主張は採用できない。 6.むすび したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明1)は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2ないし4に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-09-17 |
結審通知日 | 2008-09-24 |
審決日 | 2008-10-08 |
出願番号 | 特願2002-27021(P2002-27021) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16D)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 林 道広 |
特許庁審判長 |
村本 佳史 |
特許庁審判官 |
溝渕 良一 水野 治彦 |
発明の名称 | ディスクブレーキ装置用シム板 |
代理人 | 来間 清志 |
代理人 | 藤谷 史朗 |
代理人 | 澤田 達也 |
代理人 | 杉村 興作 |
代理人 | 竹内 直樹 |
代理人 | 杉村 憲司 |