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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16L |
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管理番号 | 1188577 |
審判番号 | 不服2007-6528 |
総通号数 | 109 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-01-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-03-05 |
確定日 | 2008-11-25 |
事件の表示 | 平成10年特許願第169295号「パイプ継手」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月14日出願公開,特開平11-344170〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件出願(以下「本願」という。)は,平成10年6月3日の出願であって,平成18年5月17日に明細書についての補正がなされたものの,平成19年1月24日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年3月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同年3月30日に明細書についての補正がなされたものである。 2.平成19年3月30日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] (1)本件補正後の本願発明 本件補正により,特許請求の範囲における請求項1ないし4のうちの請求項1は, 「差口パイプが受口パイプに差し込まれ環状のシーリング材を介し密封し固定されるパイプ継手において,上記シーリング材がその外周部において上記受口パイプに嵌着されるもので,該シーリング材の少なくとも上記差口パイプに当接する内周部の摺接面に滑性熱融着層が形成され,且つ該滑性熱融着層が粉末状で分子量が200万以上のポリオレフィン樹脂を上記シーリング材の摺接面に熱融着して成り,しかも,上記シーリング材が,合成ゴム製或いは熱可塑性エラストマー製のOリングで,前記受口パイプの内面に円周方向に沿い凹設された嵌着溝に嵌着されて成ることを特徴とするパイプ継手。」 となった。 本件補正は,本件補正前の請求項1に係る発明を特定するのに必要な事項である,「シーリング材がその内周部において差口パイプに嵌着される場合は,該シーリング材の少なくとも受口パイプに当接する外周部の摺接面に滑性熱融着層が形成され」る態様を削除することで,パイプ継手が「シーリング材がその外周部において受口パイプに嵌着される」もののみであることを限定し,また,同じく必要な事項である「ポリオレフィン樹脂」の「分子量が200万以上」であることを限定し,さらに,同じく必要な事項である「シーリング材」が,「合成ゴム製或いは熱可塑性エラストマー製のOリングで,受口パイプの内面に円周方向に沿い凹設された嵌着溝に嵌着されて成」るものであることを限定したものであるから,平成18年改正前特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (2)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-110463号公報(以下「引用例」という。)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,下水管継手部の内側に装着される下水管用ゴム輪に関するものである。」 ・「【0007】 【作用】上述したとおり,本発明の下水管用ゴム輪のリップ部の表面にはあらかじめ滑り性の良い熱硬化型塗料が塗布されているから,下水管の施工に当たって一方の塩ビ管を他方の塩ビ管の継手部に挿入することが容易であり,かつ施工時に砂などが付着することもない。 【0008】 【実施例】以下に実施例および比較例を挙げて,本発明をさらに詳しく説明する。 (実施例1)図1に示すように,リップ部3aの表面にあらかじめシリコーン系の熱硬化型塗料5を塗布した下水管用ゴム輪3を一方の下水道用塩ビ管2の継手部2aの内側に装着した。この継手部2aに他方の塩ビ管1を挿入する作業を行ったところスムーズに挿入することができた。塩ビ管1を挿入するのに要した力は20?25kg・fであった。」 ・「【0011】 【発明の効果】以上説明したように,本発明の下水管用ゴム輪のリップ部の表面にはあらかじめ滑り性の良い熱硬化型塗料が塗布されているから,下水管の施工に当たって一方の塩ビ管を他方の塩ビ管の継手部にスムーズに挿入することができるとともに,従来から行われている施工現場でのグリースなどの非硬化型滑剤の塗布作業を廃止して漏水の発生要因を除去することができ,その結果,下水管施工の作業効率を著しく向上させることができる。」 ・図1には,全体として,塩ビ管1と塩ビ管2とを接続する「管継手」が示されているといえる。 ・図1には,ゴム輪3の少なくとも塩ビ管1に当接する内周部の摺接面に形成される熱硬化型塗料5の層が示されている。 ・図1には,ゴム輪3が,リップ部3aを有するリング状物で,塩ビ管2の内面に円周方向に沿い凹設された溝に装着されていることが示されている。 これらの記載事項及び図示内容によれば,引用例には, 「塩ビ管1が塩ビ管2に差し込まれゴム輪3を介し固定される管継手において,上記ゴム輪3がその外周部において上記塩ビ管2に装着されるもので,該ゴム輪3の少なくとも上記塩ビ管1に当接する内周部の摺接面に熱硬化型塗料5の層が形成され,且つ該熱硬化型塗料5の層が滑り性の良い熱硬化型塗料5を上記ゴム輪3の摺接面に塗布して成り,しかも,上記ゴム輪3が,リップ部3aを有するリング状物で,前記塩ビ管2の内面に円周方向に沿い凹設された溝に装着されて成る管継手。」 という事項を含む発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認定することができる。 (3)対比 本願補正発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「塩ビ管1」及び「塩ビ管2」は,本願補正発明の「差口パイプ」及び「受口パイプ」にそれぞれ相当する。 次に,引用発明の「ゴム輪3を介し固定される管継手」については,ゴム輪は「環状のシーリング材」といえ,また,ゴム輪を介した固定が「密封」を目的としたものであることは明らかであるから,本願補正発明の「環状のシーリング材を介し密封し固定されるパイプ継手」に相当する。 また,引用発明の「装着される」は,実質的に,本願補正発明の「嵌着される」に相当する。 続いて,引用発明の「熱硬化型塗料5」が滑り性の良いものであることから,引用発明の「熱硬化型塗料5の層」と,本願補正発明の「滑性熱融着層」とは,「滑性層」という概念で共通する。 ここで,本願補正発明の「ポリオレフィン樹脂」は滑性熱融着層に用いられるものであり滑り性の良い材料であることが明らかであるから,引用発明の「熱硬化型塗料5の層が滑り性の良い熱硬化型塗料5をゴム輪3の摺接面に塗布して成」る態様と,本願補正発明の「滑性熱融着層が粉末状で分子量が200万以上のポリオレフィン樹脂をシーリング材の摺接面に熱融着して成」る態様とは,「滑性層が滑り性の良い材料をシーリング材の摺接面に形成して成」る態様という概念で共通する。 さらに,引用発明の「ゴム輪3」がゴム製であることは明らかであるから,引用発明の「ゴム輪3が,リップ部3aを有するリング状物」という構成と,本願補正発明の「シーリング材が,合成ゴム製或いは熱可塑性エラストマー製のOリング」という構成とは,実質的に,「シーリング材が,合成ゴム製或いは熱可塑性エラストマー製のリング状物」という概念で共通する。 最後に,引用発明の「溝に装着されて」は,実質的に,本願補正発明の「嵌着溝に嵌着されて」に相当する。 そうすると,両者は, 「差口パイプが受口パイプに差し込まれ環状のシーリング材を介し密封し固定されるパイプ継手において,上記シーリング材がその外周部において上記受口パイプに嵌着されるもので,該シーリング材の少なくとも上記差口パイプに当接する内周部の摺接面に滑性層が形成され,且つ該滑性層が滑り性の良い材料を上記シーリング材の摺接面に形成して成り,しかも,上記シーリング材が,合成ゴム製或いは熱可塑性エラストマー製のリング状物で,前記受口パイプの内面に円周方向に沿い凹設された嵌着溝に嵌着されて成るパイプ継手。」 の点で一致し,以下の点で相違している。 ・相違点1 滑性層が,本願補正発明では「滑性熱融着層」であるのに対し,引用発明では「熱硬化型塗料の層」である点。 ・相違点2 滑性層の滑り性の良い材料が,本願補正発明では「粉末状で分子量が200万以上のポリオレフィン樹脂」であるのに対し,引用発明では「滑り性の良い熱硬化型塗料」である点。 ・相違点3 滑性層をシーリング材の摺接面に形成する手法が,本願補正発明では「熱融着」であるのに対し,引用発明では「塗布」である点。 ・相違点4 リング状物が,本願補正発明では「Oリング」であるのに対し,引用発明では「リップ部を有するリング状物」である点。 (4)相違点についての判断 ・相違点1ないし3について 滑性層における滑り性の良い材料として超高分子量のポリオレフィン樹脂を用いること,及び,滑性層をポリオレフィン樹脂で形成する手法として熱融着を用いること,はいずれも周知の技術である(例えば,特開平6-182951号公報の「【0049】・・・,本発明に係る建築用ガスケットは,上記のような熱可塑性エラストマー(A)層(基体層)と,上記のような超高分子量ポリオレフィン組成物(B)層(滑性樹脂層)とで構成されている。【0050】本発明に係る建築用ガスケットは,上記の両層を積層させることによって得ることができる。熱可塑性エラストマー(A)層[以下,(A)層と略す]と超高分子量ポリオレフィン組成物(B)層[以下,(B)層と略す]との積層方法は,ガスケットの形状,大きさ,要求性能により異なり,特に限定されないが,たとえば以下のような積層方法が挙げられる。(1)予め成形された(A)層,(B)層を,少なくとも一方の層が溶融する温度以上の温度で圧縮成形機などを用いて熱融着する方法。(2)多層押出成形機で(A)層と(B)層とを同時に押出成形して熱融着する方法(共押出成形)。」及び「【0052】また,本発明に係る建築用ガスケットにおいて,上記の超高分子量ポリオレフィン組成物(B)層は,耐摩耗性,耐傷付性,摺動性および耐薬品性に優れている。」という記載や,原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-78680号公報の「【0010】そして,この摺接部材3の少なくとも窓ガラスに接触し得る部分は,基体層である変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー層4に積層された,超高分子量ポリオレフィン組成物および滑性樹脂からなる滑性樹脂層5で構成されている。」及び「【0013】本発明によれば,自動車用ウェザーストリップ1を構成する摺接部材3の内,少なくとも窓ガラス7と接触する部分に,変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー層4と,この変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー層4の表面に熱融着された超高分子量ポリオレフィン組成物および滑性樹脂からなる滑性樹脂層5とを設ける。」という記載を参照)。 また,滑り性の良い材料である超高分子量のポリオレフィン樹脂の分子量として,200万以上の範囲を含むものを用いることは周知の技術である(例えば,特開平8-261341号公報の「【0031】一方,超高分子量ポリエチレンの粘度平均分子量は,約50?800万,約100?600万または約100?400万にすることができるが,・・・。【0032】このように高密度,高分子量化により,耐摩耗性,自己潤滑性,耐衝撃性,耐薬品性,水の比重よりも軽いという軽量性,低吸水性による寸法安定性等の各諸特性に優れる。」の記載や,特開平8-41852号公報の「【0027】滑り層4は,約100万以上の平均分子量を有する所謂超高分子量ポリエチレンからなるもので,表面滑り性,耐衝撃性,耐摩耗性,耐薬品性(耐腐食性)に極めて優れている。この滑り層4は,上記超高分子量ポリエチレンからなる所要厚みの板材をケーシング1の内周面に沿って張着して形成されたものである。この超高分子ポリエチレンからなる板材としては,市販のものを使用することができ,例えば,ソマール工業株式会社製の登録商標であるソマライトとして知られているものが好ましい。このソマライトの超高分子量ポリエチレンは,平均分子量は約200万以上で,とりわけ,滑り性,非付着性,耐摩耗性,耐薬品性に極めて優れた特性を有する。」という記載を参照)。 なお,粉体のポリオレフィン樹脂を用いて層を形成することも周知の技術である(例えば,原査定において周知の技術として示された特公平6-77715号公報の〔従来の技術〕の欄の記載や,同じく周知の技術として示された特開平5-200351号公報の【0013】等の「接着性ポリオレフィン粉体」に関する記載を参照)。 そして,引用発明における熱硬化型塗料の層に代えて,滑り性の良い他の材料を用いて形成することは当業者の通常の創作能力の発揮と認められるから,前記した各周知の技術を参酌すると,引用発明の層の材料として滑り性の良い超高分子量のポリオレフィン樹脂を採用し,その際,粉末状で分子量が200万以上のポリオレフィン樹脂を熱融着することは,当業者が容易になし得たものである。 そうすると,引用発明において前記周知の技術を参酌し,相違点1ないし3に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。 ・相違点4について パイプ継手におけるリング状のシーリング材として,Oリングを用いることは周知の技術である(例えば,実願昭47-44600号(実開昭49-2946号)のマイクロフィルムにおける第1図及び第2図に示されるパツキン1を参照。パツキン1の断面が円形であるから,パツキン1はOリングといえるものである。なお,第1図及び第2図のほか,明細書3ページ4ないし6行の「パツキン内部の弾性材料の発泡体3を耐蝕性耐摩耗性に優れた合成樹脂層2で被覆している」という記載によると,このパツキン1は弾性材料を合成樹脂層2で被覆したものであることも参照)。 そして,引用発明におけるシーリング材として,周知の技術であるOリングを採用することに格別の技術的な困難性はないものと認められる。 したがって,引用発明において,前記周知の技術を参酌し,相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。 そして,本願補正発明の全体構成から奏される効果も,引用発明及び周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって,本願補正発明については,引用発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (5)むすび 以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年改正前特許法17条の2第5項で準用する特許法126条5項の規定に違反するものであり,平成18年改正前特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下を免れない。 3.本願発明について 本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成18年5月17日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。 「差口パイプが受口パイプに差し込まれ環状のシーリング材を介し密封し固定されるパイプ継手において,上記シーリング材がその外周部において上記受口パイプに嵌着される場合は,該シーリング材の少なくとも上記差口パイプに当接する内周部の摺接面に滑性熱融着層が形成され,或いは上記シーリング材がその内周部において上記差口パイプに嵌着される場合は,該シーリング材の少なくとも上記受口パイプに当接する外周部の摺接面に滑性熱融着層が形成され,且つ該滑性熱融着層が粉末状のポリオレフィン樹脂を上記シーリング材の摺接面に熱融着して成ることを特徴とするパイプ継手。」 (1)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は,前記「2.(2)」に記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明は,前記「2.」で検討した本願補正発明から,発明を特定するのに必要な事項である,「シーリング材がその内周部において差口パイプに嵌着される場合は,該シーリング材の少なくとも受口パイプに当接する外周部の摺接面に滑性熱融着層が形成され」る態様を削除することでパイプ継手が「シーリング材がその外周部において受口パイプに嵌着される」もののみであるとした限定を省き,また,同じく必要な事項である「ポリオレフィン樹脂」の「分子量が200万以上」であるとの限定を省き,さらに,同じく必要な事項である「シーリング材」が,「合成ゴム製或いは熱可塑性エラストマー製のOリングで,受口パイプの内面に円周方向に沿い凹設された嵌着溝に嵌着されて成」るものであるとの限定を省いたものである。 そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「2.(4)」に記載したとおり引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,本願発明についても,相違点2及び4についての検討が不要になるほかは同様の理由により,引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)むすび 以上のとおり,本願発明については,引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,本願は,その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく,特許法49条2号の規定に該当し,拒絶をされるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-09-10 |
結審通知日 | 2008-09-16 |
審決日 | 2008-09-29 |
出願番号 | 特願平10-169295 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F16L)
P 1 8・ 121- Z (F16L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渡邉 洋 |
特許庁審判長 |
田良島 潔 |
特許庁審判官 |
大河原 裕 本庄 亮太郎 |
発明の名称 | パイプ継手 |
代理人 | 山広 宗則 |