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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1188873
審判番号 不服2007-18604  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-04 
確定日 2008-12-04 
事件の表示 特願2001-330533「光学フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月 8日出願公開、特開2003-131007〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成13年10月29日の出願であって、平成19年1月17日付けで拒絶の理由が通知され、平成19年3月22日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年5月31日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として平成19年7月4日付けで本件審判請求がされるとともに、平成19年8月1日付けで手続補正がなされたものである。


第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成19年8月1日の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成19年3月22日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲についての

「【請求項1】
酢酸セルロース基材上に活性エネルギー線硬化型樹脂を硬化させたハードコート層を設けた光学フィルムにおいて、
該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍で酢酸セルロース基材成分とハードコート成分が混在し、
該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍の屈折率が、該酢酸セルロース基材から該ハードコート層に向かって該酢酸セルロース基材の屈折率から該ハードコート層の屈折率に連続的に変化することを特徴とする光学フィルム。」

の記載を、

「【請求項1】
酢酸セルロース基材上に活性エネルギー線硬化型樹脂を硬化させたハードコート層を設けた光学フィルムにおいて、
該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍で酢酸セルロース基材成分とハードコート成分が混在し、
該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍の屈折率が、該酢酸セルロース基材から該ハードコート層に向かって該酢酸セルロース基材の屈折率から該ハードコート層の屈折率に連続的に変化し、干渉ムラがないことを特徴とする光学フィルム。」

と補正するものである。

2 本件補正の適否の検討
(1)目的要件(平成18年改正前の特許法第17条の2第4項)についての検討
本件補正は、「光学フィルム」を「干渉ムラがない」「光学フィルム」と前記「光学フィルム」の性質を限定する補正であるから、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に当たる。
したがって、本件補正は、同法第17条の2第4項の規定に適合する。

(2)独立特許要件についての検討
上記「2 本件補正の適否の検討」の「(1)目的要件」の欄で検討したとおり、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正を含むものである。そこで、本件補正が、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否か、すなわち、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうかを検討する。

ア 本願補正発明の認定
本願補正発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲の【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「酢酸セルロース基材上に活性エネルギー線硬化型樹脂を硬化させたハードコート層を設けた光学フィルムにおいて、
該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍で酢酸セルロース基材成分とハードコート成分が混在し、
該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍の屈折率が、該酢酸セルロース基材から該ハードコート層に向かって該酢酸セルロース基材の屈折率から該ハードコート層の屈折率に連続的に変化し、干渉ムラがないことを特徴とする光学フィルム。」

イ 独立特許要件違反1(特許法第29条第1項第3号)
(ア)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-352620号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下のaないしiの記載が図面とともにある。

a 「【請求項1】 溶融流延によって形成されたセルロースエステルフィルムを有することを特徴とする光学フィルム。」

b 「【請求項7】 前記セルロースエステルフィルムがセルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートから選ばれる少なくとも一種を有することを特徴とする請求項1?6の何れか1項記載の光学フィルム。」

c 「【請求項21】 前記セルロースエステルフィルムの少なくとも一方の面にセルロースエステルを溶解もしくは膨潤させる溶媒を含む塗布組成物によって塗設された塗布層を有することを特徴とする請求項1?20の何れか1項記載の光学フィルム。
【請求項22】 前記光学フィルムの少なくとも一方の面に帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選択される少なくとも1層を設けたことを特徴とする請求項1?21の何れか1項記載の光学フィルム。
【請求項23】 請求項1?22の何れか1項記載の光学フィルムを少なくとも1方の面に用いたことを特徴とする偏光板。
【請求項24】 請求項1?22の何れか1項記載の光学フィルム、及び請求項23記載の偏光板の少なくとも一方を用いたことを特徴とする液晶表示装置。」

d 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は溶融流延によって形成されたセルロースエステルフィルムを有する光学フィルム、及びそれを偏光板保護フィルムとして用いた偏光板、及びその偏光板を含む液晶表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】液晶表示装置(LCD)は低電圧、低消費電力でIC回路への直結が可能であり、そして特に薄型化が可能であることから、ワードプロセッサやパーソナルコンピュータ、テレビ、モニター、携帯情報端末等の表示装置として広く採用されている。このLCDは、基本的な構成は例えば液晶セルの両側に偏光板を設けたものである。
【0003】ところで偏光板は一定方向の偏波面の光だけを通すものである。従って、LCDは電界による液晶の配向の変化を可視化させる重要な役割を担っている。即ち、偏光板の性能によってLCDの性能が大きく左右される。
【0004】偏光板の偏光子はヨウ素などを高分子フィルムに吸着・延伸したものである。即ち、二色性物質(ヨウ素)を含むHインキと呼ばれる溶液を、ポリビニルアルコールのフィルムに湿式吸着させた後、このフィルムを一軸延伸することにより、二色性物質を一方向に配向させたものである。
【0005】偏光板の保護フィルムとしては、セルロース樹脂、特にセルローストリアセテートが用いられている。
【0006】セルロースエステルフィルムは、光学的、物理的に偏光板用の保護フィルムとして有用であるため一般に広く用いられている。しかしながら、フィルムの製造方法はハロゲン系の溶媒を用いた流延製膜法による製造方法であるため、溶媒回収に要する費用は非常に大きい負担となっていた。そのため、ハロゲン系以外の溶媒が色々と試験されたが満足する溶解性の得られる代替物はなかった。代替溶媒以外に、特開平10-95861号記載の冷却法等新規溶解方法も試されたが、工業的な実現が難しくさらなる検討が必要とされている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は溶媒を使用することなく光学的、物理的に優れ、特に寸法安定性に優れた光学フィルムを提供することである。更に別の目的として、溶融流延法で得られるフィルムが持つ塗布性不良や膜厚方向のレターデーションの不安定性を改善することにある。
【0008】尚、本発明において光学フィルムとは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の各種表示装置に用いられる機能フィルムのことであり、特に偏光板保護フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、輝度向上フィルム、視野角拡大等の光学補償フィルム等を含む。特にその中でも本発明のセルロースエステルフィルムを偏光板保護フィルムとして採用した偏光板及び該偏光板を装着した液晶表示装置を提供することにある。」

e 「【0039】保護フィルムを構成するセルロースエステルフィルムはセルロースの低級脂肪酸エステル製のものを使用するのが好ましい。セルロースの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味し、例えばセルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等がセルロースの低級脂肪酸エステルの好ましいものとして挙げられる。その他にも、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレート等の混合脂肪酸エステルを用いることが出来る。(以下略)」

f 「【0071】又、上記セルロースエステルフィルムは良好な塗布性を有するものである。セルロースエステルフィルムを用いた光学フィルムでは、各種機能を付与するために塗布工程で帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層、光学補償層などを塗設することができる。従来の溶液流延法によって製膜されたセルロースエステルフィルムでは、製造後の経過時間によって塗布性が変わることがあった。この問題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、セルロースエステルフィルムの残留有機溶媒量が一因であることが判明した。
【0072】特に、セルロースエステルを溶解もしくは膨潤させる溶媒を含む塗布組成物によって塗設する際に、セルロースエステルフィルムの残留有機溶媒量が多いとブラッシングを起こしたり、塗膜に微細な亀裂が発生することが確認された。これらの現象は塗布環境にも依存することが判明しているが、完全に原因が特定されてはいない。
【0073】上記セルロースエステルフィルムでは、各種機能を付与するために塗布工程で帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、防眩層、易接着層、光学補償層、配向層などの機能層を塗設する際に、セルロースエステルを溶解もしくは膨潤させる溶媒を含む塗布組成物によって塗設しても、安定して良好な塗布性を得られることが確認された。又、該セルロースエステルフィルムに塗布層を設けた場合でも、塗布層の膜厚は通常セルロースエステルフィルムの膜厚よりも薄いため、前述のRt値は安定した値を得ることができる。
【0074】残留有機溶媒量が0.1質量%未満であるとそのような塗布故障が起こることは少なく、特に0.08質量%未満ではより少なくなり、0.05質量%未満であることが更に好ましく、0.03質量%未満であることが更に好ましい。特に巻物(ロール)の状態でその中心から表面(外)にかけて上記範囲にあることが望ましい。」

g 「【0106】本発明の光学フィルム、或いは偏光板保護フィルムとして使用して偏光板には帯電防止加工、クリアハードコート加工、防眩加工、反射防止加工、易接着加工等を施すことが出来る。或いは配向膜を形成して液晶層を設け、光学補償機能を付与することもできる。」

h 「【0122】本発明の光学フィルムには、クリアハードコート層を設けることが出来る。クリアハードコート層としては活性線硬化性樹脂或いは熱硬化樹脂が好ましく用いられる。
・・・(中略)・・・
【0133】活性線硬化性樹脂層を塗設する際の溶媒として前述の樹脂層を塗設する溶媒、例えば、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、その他の溶媒の中から適宜選択し、或いは混合されて利用できる。好ましくは、プロピレングリコールモノ(C1?C4)アルキルエーテル又はプロピレングリコールモノ(C1?C4)アルキルエーテルエステルを5質量%以上、更に好ましくは5?80質量%以上含有する溶媒が用いられる。
・・・(中略)・・・
【0138】・・・(中略)・・・帯電防止層或いはクリアハードコート層はそれぞれ単独でもしくは積層して設けることができる。具体的には、特願平11-291784号、特開平6-123806号、同9-113728号、同9-203810号等の帯電防止付き光学フィルム、偏光板保護フィルム、セルロースエステルフィルム等のどちらかの面に直接もしくは下引き層を介して設けることが出来るのである。」

i 「【0245】・・・(中略)・・・溶剤による方法とは、具体的には偏光板用保護フィルムとして用いるセルロースエステルフィルムを溶解させる溶剤又は膨潤させる溶剤を含む組成物を塗布することによって行われる。これらのカールを防止する機能を有する層の塗布液は従ってケトン系、エステル系の有機溶剤を含有するものが好ましい。好ましいケトン系の有機溶媒の例としてはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、乳酸エチル、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、イソホロン、エチル-n-ブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジエチルケトン、ジ-n-プロピルケトン、メチルシクロヘキサノン、メチル-n-ブチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、メチル-n-へプチルケトン等、好ましいエステル系の有機溶剤の例としては酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル等が挙げられる。しかしながら、用いる溶剤としては溶解させる溶剤及び/又は膨潤させる溶剤の混合物の他、更に溶解させない溶剤を含む場合もあり、これらを透明樹脂フィルムのカール度合や樹脂の種類によって適宜の割合で混合した組成物及び塗布量を用いて行う。この他にも、クリアハード加工や帯電防止加工を施してもカール防止機能を発揮する。」

(イ)引用例1記載の発明の認定
a 引用例1の上記記載事項f(段落【0073】)には、セルロースエステルフィルムに各種機能を付与するための機能層として、「帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、防眩層、易接着層、光学補償層、配向層など」と記載されている。そして、引用例1の上記記載事項g(段落【0106】)には、「本発明の光学フィルム、或いは偏光板保護フィルムとして使用して偏光板には帯電防止加工、クリアハードコート加工、防眩加工、反射防止加工、易接着加工等を施すことが出来る。或いは配向膜を形成して液晶層を設け、光学補償機能を付与することもできる。」と記載されている。さらに、引用例1の段落【0107】?【0121】には帯電防止層についての詳細な説明が記載され、引き続いて、引用例1の段落【0122】?【0138】には活性線硬化性樹脂や熱硬化樹脂を用いたクリアハードコート層についての詳細な説明が、引用例1の段落【0139】?【0223】には反射防止層についての詳細な説明が、引用例1の段落【0224】?【0236】には防眩層についての詳細な説明が、引用例1の段落【0252】?【0256】には易接着層についての詳細な説明が記載されている。
すると、引用例1の上記記載事項f(段落【0073】)におけるセルロースエステルフィルムに各種機能を付与するための機能層の例示順序と引用例1の上記記載事項g(段落【0106】)における各種加工の例示順序及び段落【0107】以降における各層の説明の順序との共通性、及び、引用例1の上記記載事項f(段落【0073】)の「硬化樹脂層」と引用例1の上記記載事項h(段落【0122】?【0138】)の「クリアハードコート層」とは材料が硬化樹脂である点で共通であることに照らすと、引用例1の上記記載事項f(段落【0073】)の「硬化樹脂層」が引用例1の上記記載事項g(段落【0106】)及び上記記載事項h(段落【0122】?【0138】)の「活性線硬化性樹脂」や「熱硬化樹脂」を用いた「クリアハードコート層」を意味することは明らかである。

b 引用例1の上記記載事項f(段落【0073】)には、「セルロースエステルを溶解もしくは膨潤させる溶媒」が記載されている。そして、発明の詳細な説明の欄には、「セルロースエステルを溶解もしくは膨潤させる溶媒」の具体的な説明は引用例1の上記記載事項i(段落【0245】)にしか記載されていない。したがって、引用例1の上記記載事項f(段落【0073】)における「セルロースエステルを溶解もしくは膨潤させる溶媒」の具体例は、引用例1の上記記載事項i(段落【0245】)に挙げられた溶剤であることは明らかである。
すると、引用例1の上記記載事項f(段落【0073】)における「セルロースエステルを溶解もしくは膨潤させる溶媒」には、引用例1の上記記載事項i(段落【0245】)に例示された物質の一つである「酢酸メチル」が含まれることになる。
また、引用例1の上記記載事項h(段落【0133】)には、クリアハードコート層に用いられる活性線硬化性樹脂を塗設する際の溶媒として「エステル類」が記載されているところ、酢酸メチルはエステル化合物であるから、引用例1の上記記載事項f(段落【0073】)における「セルロースエステルを溶解もしくは膨潤させる溶媒」に酢酸メチルが含まれると認定することは、引用例1の上記記載事項h(段落【0133】)の記載とも矛盾しない。

c したがって、引用例1の上記記載事項aないしiから、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。

「溶融流延によって形成されたセルロースアセテートフィルムと、前記セルロースアセテートフィルムの一方の面に前記セルロースアセテートフィルムを溶解もしくは膨潤させる溶剤である酢酸メチルを含む活性線硬化樹脂組成物を塗設し前記活性線硬化樹脂を硬化して形成されたクリアハードコート層とを有する液晶表示装置用偏光板保護フィルム。」(以下、「引用発明1」という。)

(ウ)本願補正発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
a 引用発明1の「溶融流延によって形成されたセルロースアセテートフィルム」、「活性線硬化樹脂を硬化して形成されたクリアハードコート層」、「液晶表示装置用偏光板保護フィルム」は、それぞれ、本願補正発明の「酢酸セルロース基材」、「活性エネルギー線硬化型樹脂を硬化させたハードコート層」、「光学フィルム」に相当する。

b 出願人は、平成19年3月22日付け意見書及び平成19年8月1日付けの手続補正により補正された平成19年7月4日付けの審判請求書の請求の理由において、本願の発明の詳細な説明の欄の段落【0027】の実施例と段落【0029】の比較例を対照するなどしながら、酢酸セルロース基材を溶解または膨潤させる性質を持った溶剤として酢酸メチルを含む溶剤を用いることによって、はじめて、酢酸セルロース基材成分とハードコート成分が混在した界面が形成され、界面近傍の屈折率が基材からハードコート層に向かって基材の屈折率からハードコート層の屈折率に連続的に変化することにより、干渉ムラのない光学フィルムとすることができる旨主張している。
そして、引用発明1の「クリアハードコート層」は「セルロースアセテートフィルムの一方の面に前記セルロースアセテートフィルムを溶解もしくは膨潤させる溶剤である酢酸メチルを含む活性線硬化樹脂組成物を塗設し前記活性線硬化樹脂を硬化して形成」されている。
したがって、引用発明1の「液晶表示装置用偏光板保護フィルム」も、セルロースアセテートフィルムとクリアハードコート層の界面が不明確になり、界面近傍でセルロースアセテートフィルム成分とクリアハードコート成分とが混在した状態になっており、かつ、界面近傍の屈折率がセルロースアセテートフィルムからクリアハードコート層に向かってセルロースアセテートフィルムの屈折率からクリアハードコート層の屈折率に連続的に変化し、干渉ムラがないことは明らかである。
したがって、引用発明1の「前記セルロースアセテートフィルムの一方の面に前記セルロースアセテートフィルムを溶解もしくは膨潤させる溶剤である酢酸メチルを含む活性線硬化樹脂組成物を塗設し前記活性線硬化樹脂を硬化して」「クリアハードコート層」を「形成」した「液晶表示装置用偏光板保護フィルム」は、本願補正発明の「該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍で酢酸セルロース基材成分とハードコート成分が混在し」、「該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍の屈折率が、該酢酸セルロース基材から該ハードコート層に向かって該酢酸セルロース基材の屈折率から該ハードコート層の屈折率に連続的に変化し、干渉ムラがないことを特徴とする光学フィルム」に相当する。

c すると、本願補正発明と引用発明1とは、

「酢酸セルロース基材上に活性エネルギー線硬化型樹脂を硬化させたハードコート層を設けた光学フィルムにおいて、
該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍で酢酸セルロース基材成分とハードコート成分が混在し、
該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍の屈折率が、該酢酸セルロース基材から該ハードコート層に向かって該酢酸セルロース基材の屈折率から該ハードコート層の屈折率に連続的に変化し、干渉ムラがないことを特徴とする光学フィルム。」

である点で一致し、相違点はない。

(エ)本願補正発明の独立特許要件の判断
以上のとおり、本願補正発明は引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

ウ 独立特許要件違反2(特許法第29条第2項)
(ア)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である引用例1には、前記「イ 独立特許要件違反1(特許法第29条第1項第3号)」の「(ア)引用刊行物の記載事項」の欄に摘記したとおりの事項が記載されている。

(イ)引用例1記載の発明の認定
a 引用例1の上記記載事項f(段落【0073】)には、セルロースエステルフィルムに各種機能を付与するための機能層として、「帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、防眩層、易接着層、光学補償層、配向層など」と記載されている。そして、引用例1の上記記載事項g(段落【0106】)には、「本発明の光学フィルム、或いは偏光板保護フィルムとして使用して偏光板には帯電防止加工、クリアハードコート加工、防眩加工、反射防止加工、易接着加工等を施すことが出来る。或いは配向膜を形成して液晶層を設け、光学補償機能を付与することもできる。」と記載されている。さらに、引用例1の段落【0107】?【0121】には帯電防止層についての詳細な説明が記載され、引き続いて、引用例1の段落【0122】?【0138】には活性線硬化性樹脂や熱硬化樹脂を用いたクリアハードコート層についての詳細な説明が、引用例1の段落【0139】?【0223】には反射防止層についての詳細な説明が、引用例1の段落【0224】?【0236】には防眩層についての詳細な説明が、引用例1の段落【0252】?【0256】には易接着層についての詳細な説明が記載されている。
すると、引用例1の上記記載事項f(段落【0073】)におけるセルロースエステルフィルムに各種機能を付与するための機能層の例示順序と引用例1の上記記載事項g(段落【0106】)における各種加工の例示順序及び段落【0107】以降における各層の説明の順序との共通性、及び、引用例1の上記記載事項f(段落【0073】)の「硬化樹脂層」と引用例1の上記記載事項h(段落【0122】?【0138】)の「クリアハードコート層」とは材料が硬化樹脂である点で共通であることに照らすと、引用例1の上記記載事項f(段落【0073】)の「硬化樹脂層」が引用例1の上記記載事項g(段落【0106】)及び上記記載事項h(段落【0122】?【0138】)の「活性線硬化性樹脂」や「熱硬化樹脂」を用いた「クリアハードコート層」を意味することは明らかである。

b したがって、引用例1の上記記載事項aないしhから、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。

「溶融流延によって形成されたセルロースアセテートフィルムと、前記セルロースアセテートフィルムの一方の面に前記セルロースアセテートフィルムを溶解もしくは膨潤させる溶剤を含む活性線硬化樹脂組成物を塗設し前記活性線硬化樹脂を硬化して形成されたクリアハードコート層とを有する液晶表示装置用偏光板保護フィルム。」(以下、「引用発明2」という。)

(ウ)本願補正発明と引用発明2の一致点及び相違点の認定
a 引用発明2の「溶融流延によって形成されたセルロースアセテートフィルム」、「活性線硬化樹脂を硬化して形成されたクリアハードコート層」、「液晶表示装置用偏光板保護フィルム」は、それぞれ、本願補正発明の「酢酸セルロース基材」、「活性エネルギー線硬化型樹脂を硬化させたハードコート層」、「光学フィルム」に相当する。

b 本願の発明の詳細な説明の欄の段落【0018】?【0025】の記載から、本願補正発明の「ハードコート層」は、基材を溶解または膨潤させる性質を持った溶剤によって塗液化された活性エネルギー線硬化型樹脂の塗液を基材に塗布することによって形成されており、このように、ハードコート層を形成する活性エネルギー線硬化型樹脂を塗液化するための溶剤として基材を溶解または膨潤させる性質を持った溶剤を用いると、塗布直後から基材を溶解しつつ樹脂層を形成するために、基材とハードコート層との界面が不明確になり(すなわち、界面近傍で基材成分とハードコート層成分が混在し)、基材とハードコート層との界面近傍の屈折率が、基材からハードコート層に向かって基材の屈折率からハードコート層の屈折率に連続的に変化することになると認められる。
そして、引用発明2の「クリアハードコート層」は「セルロースアセテートフィルムの一方の面に前記セルロースアセテートフィルムを溶解もしくは膨潤させる溶剤を含む活性線硬化樹脂組成物を塗設し前記活性線硬化樹脂を硬化して形成」されている。
したがって、引用発明2の「液晶表示装置用偏光板保護フィルム」においても、セルロースアセテートフィルム上に単にクリアハードコート層を形成した場合に比べて、セルロースアセテートフィルムとクリアハードコート層の界面が不明確になり、界面近傍でセルロースアセテートフィルム成分とクリアハードコート成分とが混在した状態になっており、かつ、界面近傍の屈折率がセルロースアセテートフィルムからクリアハードコート層に向かってセルロースアセテートフィルムの屈折率からクリアハードコート層の屈折率に連続的に変化していることは明らかである。

c すると、本願補正発明と引用発明2とは、

「酢酸セルロース基材上に活性エネルギー線硬化型樹脂を硬化させたハードコート層を設けた光学フィルムにおいて、
該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍で酢酸セルロース基材成分とハードコート成分が混在し、
該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍の屈折率が、該酢酸セルロース基材から該ハードコート層に向かって該酢酸セルロース基材の屈折率から該ハードコート層の屈折率に連続的に変化することを特徴とする光学フィルム。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

〈相違点〉
本願補正発明の「光学フィルム」は「干渉ムラがない」ものであるのに対し、引用発明2の「液晶表示装置用偏光板保護フィルム」が「干渉ムラがない」ものであるとの限定がない点。

(エ)相違点についての判断
a 基材上にハードコート層を設けた場合に、前記基材の屈折率と前記ハードコート層の屈折率との差により前記基材と前記ハードコート層との界面で反射光が発生して干渉ムラが生じてしまうこと、及び、前記界面での屈折率差を減少させる等して前記干渉ムラをなくすようにすることは、本願出願時において周知の事項である(特開平7-56002号公報(段落【0002】?【0005】など)、特開平10-282301号公報、特開平11-305007号公報(段落【0006】など)、特開平8-197670号公報を参照。以下、「周知事項1」という。)。
そして、前記「(ウ)本願補正発明と引用発明2の一致点及び相違点の認定」の「b」の欄で述べたとおり、引用発明2の「液晶表示装置用偏光板保護フィルム」においても、セルロースアセテートフィルム上に単にクリアハードコート層を形成した場合に比べて、セルロースアセテートフィルムとクリアハードコート層の界面が不明確になり、界面近傍でセルロースアセテートフィルム成分とクリアハードコート成分とが混在した状態になっており、かつ、界面近傍の屈折率がセルロースアセテートフィルムからクリアハードコート層に向かってセルロースアセテートフィルムの屈折率からクリアハードコート層の屈折率に連続的に変化しているから、セルロースアセテートフィルム上に単にクリアハードコート層を形成した場合に比べて、引用発明2の「液晶表示装置用偏光板保護フィルム」のセルロースアセテートフィルムとクリアハードコート層との界面における屈折率差が減少していることは明らかである。すると、セルロースアセテートフィルム上に単にクリアハードコート層を形成した場合に比べて、引用発明2の「液晶表示装置用偏光板保護フィルム」ではセルロースアセテートフィルムとクリアハードコート層との界面での反射光の発生は抑制され、その結果、干渉ムラの発生の程度も抑制されていることは明らかである。
また、引用発明2の「偏光板保護フィルム」は「液晶表示装置」用に用いられるものである。そして、表示装置に存在する界面での反射光が干渉して着色等の色ムラが発生し、それが表示装置の視認を阻害すること、及び、前記干渉をなくすようにすることも、本願出願時において当業者に周知の事項である(特開2001-264515号公報(段落【0002】など)を参照。以下、「周知事項2」という。)。
すると、上記周知事項1や上記周知事項2に照らし、引用発明2の「液晶表示装置用偏光板保護フィルム」のセルロースアセテートフィルムとクリアハードコート層との界面近傍でセルロースアセテートフィルム成分とクリアハードコート成分とがより混在した状態とし、セルロースアセテートフィルムとクリアハードコート層の界面をより不明確にして、引用発明2の「液晶表示装置用偏光板保護フィルム」の干渉ムラをなくすようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(オ)本願補正発明の独立特許要件の判断
以上のとおり、本願補正発明は引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本件補正は平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、本件補正は同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本件審判請求についての判断
1 本願発明の認定
本件補正が却下されたから、平成19年3月22日付けの手続補正により補正された明細書及び図面に基づいて審理すると、本願の請求項1に係る発明は、平成19年3月22日付けで補正された明細書の特許請求の範囲の【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「酢酸セルロース基材上に活性エネルギー線硬化型樹脂を硬化させたハードコート層を設けた光学フィルムにおいて、
該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍で酢酸セルロース基材成分とハードコート成分が混在し、
該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍の屈折率が、該酢酸セルロース基材から該ハードコート層に向かって該酢酸セルロース基材の屈折率から該ハードコート層の屈折率に連続的に変化することを特徴とする光学フィルム。」(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物の記載事項及び引用例1記載の発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1には、前記「第2 補正の却下の決定」の「2 本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の「イ 独立特許要件違反1(特許法第29条第1項第3号)」の「(ア)引用刊行物の記載事項」の欄に摘記したとおりの事項が記載されており、引用例1に記載された発明(引用発明1、引用発明2)は、前記「第2 補正の却下の決定」の「2 本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の「イ 独立特許要件違反1(特許法第29条第1項第3号)」の「(イ)引用例1記載の発明の認定」の欄及び前記「第2 補正の却下の決定」の「2 本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の「ウ 独立特許要件違反2(特許法第29条第2項)」の「(イ)引用例1記載の発明の認定」の欄に記載したとおりのものと認めることができる。

3 拒絶の理由1(特許法第29条第1項第3号)
(1)本願発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
本願発明は、本願補正発明の発明特定事項から、前記「第2 補正の却下の決定」の「2 本件補正の適否の検討」の「(1)目的要件(平成18年改正前の特許法第17条の2第4項)についての検討」の欄で述べた限定事項を省いたものである。
したがって、前記「第2 補正の却下の決定」の「2 本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の「イ 独立特許要件違反1(特許法第29条第1項第3号)」の「(ウ)本願補正発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定」の欄の「本願補正発明」を「本願発明」と読み替えると、本願発明と引用発明1とは、

「酢酸セルロース基材上に活性エネルギー線硬化型樹脂を硬化させたハードコート層を設けた光学フィルムにおいて、
該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍で酢酸セルロース基材成分とハードコート成分が混在し、
該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍の屈折率が、該酢酸セルロース基材から該ハードコート層に向かって該酢酸セルロース基材の屈折率から該ハードコート層の屈折率に連続的に変化することを特徴とする光学フィルム。」

である点で一致し、相違点はない。

(2)本願発明の新規性の判断
したがって、本願発明は引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

4 拒絶の理由2(特許法第29条第1項第3号)
(1)本願発明と引用発明2の一致点及び相違点の認定
本願発明は、本願補正発明の発明特定事項から、前記「第2 補正の却下の決定」の「2 本件補正の適否の検討」の「(1)目的要件(平成18年改正前の特許法第17条の2第4項)についての検討」の欄で述べた限定事項を省いたものである。
したがって、前記「第2 補正の却下の決定」の「2 本件補正の適否の検討」の「(2)独立特許要件についての検討」の「ウ 独立特許要件違反2(特許法第29条第2項)」の「(ウ)本願補正発明と引用発明2の一致点及び相違点の認定」の欄の「本願補正発明」を「本願発明」と読み替えると、本願発明と引用発明2とは、

「酢酸セルロース基材上に活性エネルギー線硬化型樹脂を硬化させたハードコート層を設けた光学フィルムにおいて、
該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍で酢酸セルロース基材成分とハードコート成分が混在し、
該酢酸セルロース基材と該ハードコート層の界面近傍の屈折率が、該酢酸セルロース基材から該ハードコート層に向かって該酢酸セルロース基材の屈折率から該ハードコート層の屈折率に連続的に変化することを特徴とする光学フィルム。」

である点で一致し、相違点はない。

(2)本願発明の新規性の判断
したがって、本願発明は引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。したがって、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-01 
結審通知日 2008-10-07 
審決日 2008-10-21 
出願番号 特願2001-330533(P2001-330533)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 113- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邉 勇  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 村田 尚英
日夏 貴史
発明の名称 光学フィルム  
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