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審決分類 審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1188906
審判番号 不服2004-23686  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-18 
確定日 2008-12-04 
事件の表示 平成10年特許願第159361号「部品出荷拠点における発注情報作成システム」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月24日出願公開,特開平11-353392〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成10年6月8日の出願であって,平成15年9月22日付けの拒絶理由通知に対して,同年11月25日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたが,平成16年10月14日付けで拒絶の査定がなされ,この拒絶の査定を不服として,同年11月18日に審判請求がなされるとともに同年12月16日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成16年12月16日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年12月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成16年12月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
出荷先から送られてくる出荷情報に応じて出荷先に出荷する機能と,出荷する部品を補充するために発注情報を部品供給元に出力し,その出力された発注情報に応じて納品される部品を受け入れて処理して出荷に備える機能と,を有する部品出荷拠点に備えられたコンピュータによる発注情報作成システムにおいて,
コンピュータが備える出荷情報記憶ファイルに,出荷部品名と出荷部品数と出荷日時とを指定する出荷情報を入力する入力手段と,
発注から納品までにかかる予め定められた時間と,部品供給元の出荷便の予定時刻である発注タイミング群とを記憶した,コンピュータが備える稼動カレンダー等記憶ファイルからその出荷日時に出荷可能となるタイミングで納品される発注タイミング群を特定する特定手段と,
発注部品名と発注部品数と出荷日時とを指定する発注情報を記録するコンピュータが備える発注情報記憶ファイルを用いて,前記特定手段により特定された発注タイミング群の各発注タイミングに対応する出荷日時が,前記出荷情報ファイルに入力されているか否かを判別する判別手段と,
前記発注情報記憶ファイルを用いて,前記判別手段で「未入力」と判別されたときには,その発注タイミングで,コンピュータの演算処理装置により算出される過去の一定期間内の各発注タイミング毎の平均発注数,又は直前発注数を標準数として仮発注し,前記判別手段で「入力済み」と判別されたときには,その発注タイミング以後の前記特定された発注タイミング群に対して,入力された出荷部品数と仮発注された総数とに基づいて各発注タイミングにおける発注数をコンピュータの演算処理装置により算出して発注する発注手段と,
を実行し,部品供給元に発注情報を作成することを特徴とする発注情報作成システム。」
と補正された。(アンダーラインは,補正された部分を示すものとして,手続補正書に表示されたものを援用したものである。)
上記補正は,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項(以下「発明特定事項」という。)である「その出荷日時に出荷可能となるタイミングで納品される発注タイミング群を特定する手段」を「発注から納品までにかかる予め定められた時間と,部品供給元の出荷便の予定時刻である発注タイミング群とを記憶した,コンピュータが備える稼動カレンダー等記憶ファイルからその出荷日時に出荷可能となるタイミングで納品される発注タイミング群を特定する特定手段」とする補正(以下「発注タイミング群を特定する手段についての補正」という。),同じく「前記特定手段により特定された発注タイミング群の各発注タイミングに前記出荷情報入力手段による出荷情報が入力されているか否かを判別する手段」を「発注部品名と発注部品数と出荷日時とを指定する発注情報を記録するコンピュータが備える発注情報記憶ファイルを用いて,前記特定手段により特定された発注タイミング群の各発注タイミングに対応する出荷日時が,前記出荷情報ファイルに入力されているか否かを判別する判別手段」とする補正(以下「出荷情報が入力されているか否かを判別する手段についての補正」という。)を含むものである。

2 補正の目的
上記補正は,特許法第17条の2第1項で掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正であるから,特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものに限られる。そこで,発注タイミング群を特定する手段についての補正,出荷情報が入力されているか否かを判別する手段についての補正を含む上記補正が,特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものであるのか否か検討する。

発注タイミング群を特定する手段についての補正は,発明特定事項である発注タイミング群を特定する手段について「発注から納品までにかかる予め定められた時間と,部品供給元の出荷便の予定時刻である発注タイミング群とを記憶した,コンピュータが備える稼動カレンダー等記憶ファイルから」と限定するものであり,出荷情報が入力されているか否かを判別する手段についての補正は,発明特定事項である出荷情報が入力されているか否かを判別する手段について「発注部品名と発注部品数と出荷日時とを指定する発注情報を記録するコンピュータが備える発注情報記憶ファイルを用いて」と限定するものであって,発注タイミング群を特定する手段についての補正,出荷情報が入力されているか否かを判別する手段についての補正は,いずれも発明特定事項を限定する補正であって,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
原査定の拒絶の理由は,平成15年9月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由Aであり,要するに,「請求項1は,ソフトウェアによる情報処理がコンピュータのハードウエア資源を用いて具体的に実現されたコンピュータシステムとして特定する記載はなされておらず,自然法則を利用した技術的思想の創作にはあたら」ず,「特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていない」旨のものであって,請求項1における,発注タイミング群を特定する手段についての記載,出荷情報が入力されているか否かを判別する手段についての記載が明りょうでないことを指摘するものではなく,原査定の備考における,『請求項1は,「入力する手段」,「特定する手段」,「判別する手段」,「発注する手段」といった機能手段を有するものの,いずれの機能手段を特定する記載も,それらの手段が果たすべき業務上の機能を単に特定するに留まり,その業務上の機能を果たすために,コンピュータが備えるのハードウエア資源をどのように用いて具体的に実現された技術的手段であるのかを特定するものではない。すなわち,この請求項には,ソフトウエアによる情報処理がコンピュータのハードウエア資源を用いて具体的に実現されたコンピュータシステムとして特定する記載はなされていない。』との指摘も,請求項1における,発注タイミング群を特定する手段についての記載,出荷情報が入力されているか否かを判別する手段についての記載が明りょうでないことを指摘するものではない。
したがって,「発注から納品までにかかる予め定められた時間と,部品供給元の出荷便の予定時刻である発注タイミング群とを記憶した,コンピュータが備える稼動カレンダー等記憶ファイルから」と限定する発注タイミング群を特定する手段についての補正,「発注部品名と発注部品数と出荷日時とを指定する発注情報を記録するコンピュータが備える発注情報記憶ファイルを用いて」と限定する出荷情報が入力されているか否かを判別する手段についての補正は,特許法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものとはいえない。
「発注から納品までにかかる予め定められた時間と,部品供給元の出荷便の予定時刻である発注タイミング群とを記憶した,コンピュータが備える稼動カレンダー等記憶ファイルから」と限定する発注タイミング群を特定する手段についての補正,「発注部品名と発注部品数と出荷日時とを指定する発注情報を記録するコンピュータが備える発注情報記憶ファイルを用いて」と限定する出荷情報が入力されているか否かを判別する手段についての補正が,特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求の削除,同項第3号に掲げる誤記の訂正のいずれの事項を目的とするものでもないことは明らかである。
以上のとおり,発注タイミング群を特定する手段についての補正,出荷情報が入力されているか否かを判別する手段についての補正は,いずれも発明特定事項を限定する補正であり,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえ,それらの補正を含む上記補正は,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件
そこで,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,明細書の記載要件(特許法第36条第6項)の観点から以下に検討する。

(1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の第3段落には,「発注から納品までにかかる予め定められた時間と,部品供給元の出荷便の予定時刻である発注タイミング群とを記憶した,コンピュータが備える稼動カレンダー等記憶ファイルからその出荷日時に出荷可能となるタイミングで納品される発注タイミング群を特定する特定手段」と記載され,「部品供給元の出荷便の予定時刻である発注タイミング群」と記載されている。
しかしながら,「発注タイミング群」は「発注タイミング」の群と解釈され,「発注タイミング」は「発注」する「タイミング」と解釈されるのが通常であり,上記の「部品供給元の出荷便の予定時刻である発注タイミング群」の記載は,「発注タイミング群」の通常解釈される語義と整合しないものである。
また,発明の詳細な説明及び図面の記載をみるに,「【0016】図3は出荷情報を入力して発注情報を出力するまでの処理内容を示している。ステップS1では,海外事業体への出荷便毎の出荷時刻を入力する。ステップS2では,発注カード(かんばんとも称する)の振出し可能範囲を決定する。例えば,その右に図示されているように,出荷時刻がt0であり,納品されてから出荷するまでに必要とされる準備時間がTであるとすると,納品タイミングがt9以後になってしまうと時刻t0 では出荷できないために,時刻t0の出荷のための発注は,遅くとも,納品タイミングt8 で納品される発注タイミングt4には発注を終えていなければならないことがわかる。一方,発注タイミングt1で発注した部品が納品タイミングt5で納品される場合,納品タイミングt5 が早すぎてそのタイミングで納品されると他の出荷作業の邪魔となり,納品タイミングt6以後に納品されるようにしたい場合がある。この場合,ステップS2では,納品タイミングt6 ?t8 で納品されるt2 ?t4の発注タイミングを,発注カード(かんばん)の振出し可能範囲とする。この例では,この振出し可能範囲が発注タイミング群として特定される。なお,発注タイミング群の特定は,指定された出荷時刻に間に合う納品タイミングで納品できる複数回の発注タイミングの範囲で行われ,すでに後述する標準数で仮発注された発注タイミングがある場合はこの仮発注の発注タイミングを含めて行われる。」と記載されているように,発注タイミングは納品タイミングと別のものとして説明されているのであり,「発注タイミング」が「部品供給元の出荷便の予定時刻である」ことなど記載も示唆もされていない。
したがって,上記の「部品供給元の出荷便の予定時刻である発注タイミング群」の記載は,「発注タイミング群」の通常解釈される語義と整合しないものであり明りょうでなく,また,発明の詳細な説明にも記載されていない事項である。
(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の第4段落には,「発注部品名と発注部品数と出荷日時とを指定する発注情報を記録するコンピュータが備える発注情報記憶ファイルを用いて,前記特定手段により特定された発注タイミング群の各発注タイミングに対応する出荷日時が,前記出荷情報ファイルに入力されているか否かを判別する判別手段」と記載されている。
しかしながら,上記の記載では,「発注部品名と発注部品数と出荷日時とを指定する発注情報」をどのように用いて「前記特定手段により特定された発注タイミング群の各発注タイミングに対応する出荷日時が,前記出荷情報ファイルに入力されているか否かを判別する」のか明確でない。
したがって,上記の「発注部品名と発注部品数と出荷日時とを指定する発注情報を記録するコンピュータが備える発注情報記憶ファイルを用いて,前記特定手段により特定された発注タイミング群の各発注タイミングに対応する出荷日時が,前記出荷情報ファイルに入力されているか否かを判別する判別手段」の記載は,明りょうでない。

上記(1)(2)のとおり,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されておらず,また,明確でもない。
したがって,本件出願は,特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 新規事項
上記1の項で述べたとおり,本件補正は,発明特定事項である「その出荷日時に出荷可能となるタイミングで納品される発注タイミング群を特定する手段」を「発注から納品までにかかる予め定められた時間と,部品供給元の出荷便の予定時刻である発注タイミング群とを記憶した,コンピュータが備える稼動カレンダー等記憶ファイルからその出荷日時に出荷可能となるタイミングで納品される発注タイミング群を特定する特定手段」とする補正を含むものであり,発注タイミング群について「部品供給元の出荷便の予定時刻である発注タイミング群」と記載するものである。
しかしながら,願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)をみるに,「【0016】 図3は出荷情報を入力して発注情報を出力するまでの処理内容を示している。ステップS1では,海外事業体への出荷便毎の出荷時刻を入力する。ステップS2では,発注カード(かんばんとも称する)の振出し可能範囲を決定する。例えば,その右に図示されているように,出荷時刻がt0であり,納品されてから出荷するまでに必要とされる準備時間がTであるとすると,納品タイミングがt9以後になってしまうと時刻t0では出荷できないために,時刻t0の出荷のための発注は,遅くとも,納品タイミングt8で納品される発注タイミングt4には発注を終えていなければならないことがわかる。一方,発注タイミングt1で発注した部品が納品タイミングt5で納品される場合,納入タイミングt5が早すぎてそのタイミングで納品されると他の出荷作業の邪魔となり,納品タイミングt6以後に納品されるようにしたい場合がある。この場合,ステップS2では,納品タイミングt6?t8で納品されるt2?t4の発注タイミングを,発注カード(かんばん)の振出し可能範囲とする。」と記載されているように,発注タイミングは納品タイミングと別のものとして説明されているのであり,「発注タイミング」が「部品供給元の出荷便の予定時刻である」ことなど記載も示唆もされていない。
したがって,上記の「部品供給元の出荷便の予定時刻である発注タイミング群」の記載は,当初明細書等に記載されていない事項であり,本件補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。

5 むすび
上記3の項で述べたとおり,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,平成15年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
また,上記4の項で述べたとおり,本件補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり,この点からも,同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成16年12月16日付けの手続補正は上記のように却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成15年11月25日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
出荷先から送られてくる出荷情報に応じて出荷先に出荷する機能を有し,出荷する部品を補充するために発注情報を部品供給元に出力し,その出力された発注情報に応じて納品される部品を受け入れて処理して出荷に備える機能を有するコンピュータによる情報処理システムを用いた部品出荷拠点における発注情報作成システムにおいて,前記コンピュータによる情報処理システムが,
出荷部品名と出荷部品数と出荷日時を指定する出荷情報を入力する手段と,
その出荷日時に出荷可能となるタイミングで納品される発注タイミング群を特定する手段と,
前記特定手段で特定された発注タイミング群の各発注タイミングに前記出荷情報入力手段による出荷情報が入力されているか否かを判別する手段と,
その判別手段で未入力と判別されたときにはその発注タイミングで過去の一定期間内の各発注タイミング毎の平均発注数,又は直前発注数を標準数として仮発注し,その判別手段で入力済と判別されたときにはその発注タイミング以後の前記特定された発注タイミング群に対して,入力された出荷部品数と仮発注された総数とに基づいて各発注タイミングにおける発注数を算出して発注する手段と,を実行し,部品供給元に発注情報を作成することを特徴とする発注情報作成システム。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,平成15年9月22日付け拒絶理由通知書に記載された理由Aであり,該理由Aは次のとおりのものである。
『A.この出願の下記の請求項に記載されたものは,下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。

請求項1の記載からでは,所謂コンピュータシステムを特定しているのではなく,受発注の仕組みを単に特定したものであるとも解することができる。
よって,請求項1は,ソフトウエアによる情報処理がコンピュータのハードウエア資源を用いて具体的に実現されたコンピュータシステムとして特定する記載はなされておらず,自然法則を利用した技術的思想の創作」にあたらない。』
そして,原査定の備考において,次のように指摘している。
『出願人は意見書にて「第1の理由である“請求項1の記載では,所謂コンピュータシステムを特定していない”点につきましては,今回補正により,請求項1に係る発明のソフトウエアによる情報処理がコンピュータのハードウエア資源を用いて行うものであることを明確にしましたので,当該理由は解消したものと考えます。」と主張している。
出願人が主張するように請求項1に記載されたものは,コンピュータシステムを特定しているものと認められる。しかしながら,コンピュータ・ソフトウエア関連発明において,請求項に係る発明が特許法上の発明であるためには,ソフトウエアによる情報処理がコンピュータのハードウエア資源を用いて具体的に実現されたコンピュータシステムとして特定する記載はなされていなければならない(ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって,使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより,使用目的に応じた特有のシステムが構築されていなければならい。)。
そこで本願発明をみるに,請求項1は,「入力する手段」,「特定する手段」,「判別する手段」,「発注する手段」といった機能手段を有するものの,いずれの機能手段を特定する記載も,それらの手段が果たすべき業務上の機能を単に特定するに留まり,その業務上の機能を果たすために,コンピュータが備えるのハードウエア資源をどのように用いて具体的に実現された技術的手段であるのかを特定するものではない。すなわち,この請求項には,ソフトウエアによる情報処理がコンピュータのハードウエア資源を用いて具体的に実現されたコンピュータシステムとして特定する記載はなされていない。
よって,本願発明は,依然として特許法第29条第1項柱書に規定する要件を
満たしていない。』

3 当審の判断
本願発明は,「欠品を生じさせないでしかも在庫量を縮小することのできる管理技術を開発するものであり,特に,部品供給元に対する発注の管理技術を開発するもの」(本願明細書段落【0003】)であり,機器等に対する制御又は該制御に伴う処理を具体的に行うものではなく,対象の物理的性質又は技術的性質に基づく情報処理を具体的に行うものでもないことは明らかである。
そして,本願発明の「発注情報作成システム」は実質的にコンピュータ・システムであると認められるので,本願発明は,その実施にソフトウェアを必要とする発明,すなわち,コンピュータ・ソフトウェア関連発明である。
このコンピュータ・ソフトウェア関連発明が,特許法第2条第1項で特許法での「発明」の定義としていうところの「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるのは,発明がそもそもが一定の技術的課題を達成できる具体的なものになっていなければならないことから,ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されている場合であり,そのためには,ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段によって,使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより,使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築されていることが提示されている必要がある。
そこで,本願発明が,「ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されたもの」であるのか否かについて検討する。

本願発明の「出荷先から送られてくる出荷情報に応じて出荷先に出荷する機能を有し,出荷する部品を補充するために発注情報を部品供給元に出力し,その出力された発注情報に応じて納品される部品を受け入れて処理して出荷に備える機能を有するコンピュータによる情報処理システムを用いた部品出荷拠点における発注情報作成システム」は,「コンピュータによる情報処理システム」の有する機能を記載したものであり,情報処理を具体的に提示するものではない。また,仮に,「出荷先から送られてくる出荷情報に応じて出荷先に出荷する機能を有し,出荷する部品を補充するために発注情報を部品供給元に出力し,その出力された発注情報に応じて納品される部品を受け入れて処理して出荷に備える機能を有する」が文言上「コンピュータによる情報処理システム」ではなく「部品出荷拠点における発注情報作成システム」に係るとしても,「部品出荷拠点における発注情報作成システム」の有する機能を記載したものであり,情報処理を具体的に提示するものではない。
本願発明の「その出荷日時に出荷可能となるタイミングで納品される発注タイミング群を特定する手段」は,コンピュータによる情報処理システムが備える特定のための「手段」が「その出荷日時に出荷可能となるタイミングで納品される発注タイミング群を特定する」という処理を行うことを記載している。しかしながら,「その出荷日時に出荷可能となるタイミングで納品される発注タイミング群を特定する」という処理は,他の発明特定事項をあわせみても,どのような情報をどのように処理して「その出荷日時に出荷可能となるタイミングで納品される発注タイミング群を特定する」のか提示しておらず,ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか把握されるものではない。
本願発明の「前記特定手段で特定された発注タイミング群の各発注タイミングに前記出荷情報入力手段による出荷情報が入力されているか否かを判別する手段」は,コンピュータによる情報処理システムが備える判別のための「手段」が「前記特定手段で特定された発注タイミング群の各発注タイミングに前記出荷情報入力手段による出荷情報が入力されているか否かを判別する」という処理を行うことを記載している。しかしながら,「前記特定手段で特定された発注タイミング群の各発注タイミングに前記出荷情報入力手段による出荷情報が入力されているか否かを判別する」という処理は,他の発明特定事項をあわせみても,どのような情報をどのように処理して「前記特定手段で特定された発注タイミング群の各発注タイミングに前記出荷情報入力手段による出荷情報が入力されているか否かを判別する」のか提示しておらず,ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか把握されるものではない。
本願発明の「その判別手段で未入力と判別されたときにはその発注タイミングで過去の一定期間内の各発注タイミング毎の平均発注数,又は直前発注数を標準数として仮発注し,その判別手段で入力済と判別されたときにはその発注タイミング以後の前記特定された発注タイミング群に対して,入力された出荷部品数と仮発注された総数とに基づいて各発注タイミングにおける発注数を算出して発注する手段」は,コンピュータによる情報処理システムが備える発注のための「手段」が,「その判別手段で未入力と判別されたときには」「その発注タイミングで過去の一定期間内の各発注タイミング毎の平均発注数,又は直前発注数を標準数として仮発注」するという処理を行い,「その判別手段で入力済と判別されたときには」「その発注タイミング以後の前記特定された発注タイミング群に対して,入力された出荷部品数と仮発注された総数とに基づいて各発注タイミングにおける発注数を算出して発注する」という処理を行うことを記載している。しかしながら,「その発注タイミングで過去の一定期間内の各発注タイミング毎の平均発注数,又は直前発注数を標準数として仮発注」するという処理は,他の発明特定事項をあわせみても,どこから得たどのような情報をどのように処理して「平均発注数」を得るのか提示しておらず,また,どこから得たどのような情報をどのように処理して「直前発注数」を得るのか提示しておらず,ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか把握されるものではない。さらに,「その発注タイミング以後の前記特定された発注タイミング群に対して,入力された出荷部品数と仮発注された総数とに基づいて各発注タイミングにおける発注数を算出して発注する」という処理も,他の発明特定事項をあわせみても,「仮発注された総数」をどのように得るのか提示しておらず,また,「入力された出荷部品数」と「仮発注された総数」とからどのように情報処理して「各発注タイミングにおける発注数を算出」するのか提示しておらず,ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか把握されるものではない。
本願発明の「部品供給元に発注情報を作成する」は,「発注情報作成システム」の行う処理を機能的に記載したものであり,情報処理を具体的に提示するものではない。

すなわち,本願発明のコンピュータによる情報処理システムが備える特定のための「手段」が行う「その出荷日時に出荷可能となるタイミングで納品される発注タイミング群を特定する」という処理及び同じく判別のための「手段」が行う「前記特定手段で特定された発注タイミング群の各発注タイミングに前記出荷情報入力手段による出荷情報が入力されているか否かを判別する」という処理及び同じく発注のための「手段」が行う「その判別手段で未入力と判別されたときにはその発注タイミングで過去の一定期間内の各発注タイミング毎の平均発注数,又は直前発注数を標準数として仮発注し,その判別手段で入力済と判別されたときにはその発注タイミング以後の前記特定された発注タイミング群に対して,入力された出荷部品数と仮発注された総数とに基づいて各発注タイミングにおける発注数を算出して発注する」という処理は,ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか提示するものではない。
そして,本願発明のコンピュータによる情報処理システムが備える入力のための「手段」が行う「出荷部品名と出荷部品数と出荷日時を指定する出荷情報を入力する」という情報処理が情報入力処理として把握されるとしても,該情報処理は,「欠品を生じさせないでしかも在庫量を縮小することのできる管理」をするために本願発明が行う情報処理の一部分の処理にしかすぎず,本願発明は,全体として,その目的を達成するための情報処理がハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか提示するものではない。
したがって,本願発明は,全体として,ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されたものとは認められない。

4 むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,「自然法則を利用した技術的思想の創作」とはいえず,特許法第2条第1項に定義された「発明」に該当せず,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-02 
結審通知日 2008-10-07 
審決日 2008-10-21 
出願番号 特願平10-159361
審決分類 P 1 8・ 561- Z (G06Q)
P 1 8・ 537- Z (G06Q)
P 1 8・ 575- Z (G06Q)
P 1 8・ 1- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小山 和俊  
特許庁審判長 清田 健一
特許庁審判官 小山 満
山本 穂積
発明の名称 部品出荷拠点における発注情報作成システム  
代理人 福田 鉄男  
代理人 犬飼 達彦  
代理人 岡田 英彦  
代理人 石岡 隆  

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