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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1188923
審判番号 不服2007-7606  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-15 
確定日 2008-12-04 
事件の表示 特願2005-308029「太陽電池用ダイオード素子装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月 1日出願公開、特開2007- 27673〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、特許法第46条の2第1項の規定により、平成17年7月11日に出願した実願2005-5389号(以下「基礎出願」という。)に係る実用新案登録第3114603号(登録日:平成17年8月31日)に基づいて平成17年10月24日に特許出願したものであって、平成18年5月17日付けで手続補正がなされたが、平成19年2月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月15日付けで拒絶査定不服審判請求がなさるとともに、同日付けで手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

2 本件補正についての却下の決定
(1)結論
本件補正を却下する。

(2)理由
ア 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1につき、補正前の
「P層とN層とからなるベアチップ部の上面と下面に電極を備えてなるチップダイオードを、円筒状有底の電極体の内部に装着し、かつ前記電極体の筒状内に樹脂充填してなる第1のダイオード素子と、
P層とN層とからなるベアチップ部の上面と下面に電極を備えてなるチップダイオードを、前記第1のダイオード素子とはP層とN層とを天地逆にして円筒状有底の電極体の内部に装着し、かつ前記電極体の筒状内に樹脂充填してなる第2のダイオード素子と、
前記第1及び第2のダイオード素子の電極体外周をそれぞれ装着するための2個の円形穴を設け、これらの円形穴に、前記第1及び第2のダイオード素子の電極体の外周をそれぞれ挿設してなる端子板と、
を備えてなることを特徴とする太陽電池用ダイオード素子装置。」

「P層とN層とからなるベアチップ部の上面と下面に電極を備えてなるチップダイオードの前記下面電極を、円筒状有底の第1の電極体の筒状内部底面に接続するとともに前記ベアチップ部の上面電極に棒状の第2の電極体を接続し、かつ前記第1の電極体の筒状内に樹脂充填してなる第1のダイオード素子と、
P層とN層とからなるベアチップ部の上面と下面に電極を備えてなるチップダイオードを前記第1のダイオード素子とはP層とN層とを天地逆にして下面電極を円筒状有底の第1の電極体の筒状内部底面に接続するとともに前記ベアチップ部の上面電極に棒状の第2の電極体を接続し、かつ前記第1の電極体の筒状内に樹脂充填してなる第2のダイオード素子と、
前記第1及び第2のダイオード素子の前記第1の電極体外周をそれぞれ装着するための2個の円形穴を設け、これらの円形穴に、前記第1及び第2のダイオード素子の前記第1の電極体の外周をそれぞれ挿設してなる端子板と、
を備えてなることを特徴とする太陽電池用ダイオード素子装置。」
に補正しようとする内容を含むものである。

イ 補正の目的
補正前の請求項1には、第1及び第2のダイオード素子の電極体並びにこれら電極体とチップダイオードとの接続について明記されていないが、ダイオード素子が二つの電極体を有すること、及び、これら電極体と、チップダイオードが備える電極とが接続されることは、当業者にとって自明のことというべきである。
そうすると、上記補正の内容は、補正前の請求項1において当業者にとって自明のことである、ダイオード素子が有する二つの電極体について、「円筒状有底の第1の電極体」と「棒状の第2の電極体」であること、同じく、これら電極体と、チップダイオードが備える電極との接続について、「チップダイオードの前記下面電極を、円筒状有底の第1の電極体の筒状内部底面に接続するとともに前記ベアチップ部の上面電極に棒状の第2の電極体を接続」するとの限定を付加するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。

ウ 独立特許要件
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

(ア)刊行物の記載
a 原査定の拒絶の理由に引用され、基礎出願の出願前に頒布された特開平10-242671号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。

(a)「【0005】図7は従来の整流装置の正側整流器の他の構造を示す断面図である。正側整流器は複数の整流用ダイオード221が正側の出力端子を兼ねるヒートシンク302に電気的にかつ機械的に接続されて構成されている。
【0006】整流用ダイオード221は、アノード電極221aと、アノード電極221aと電気的に接続されモールド樹脂221bによってモールドされた図示しないダイオードチップと、このダイオードチップと電気的に接続されカソード電極となる金属ベース221cとから構成されている。
【0007】金属ベース221cは板状を成し一側の主面にモールド樹脂211bによってモールドされたダイオードチップを搭載している。また金属ベース221cの外周面は、ローレット切り加工が施されきざみ目が形成されている。一方、ヒートシンク302には、貫通孔302aが穿孔されている。整流用ダイオード221は、外周面にきざみ目が形成された金属ベース221cを、貫通孔302aに圧入されて接続されている。」

(b)「【0021】・・・図1は本発明の整流装置の正側整流器の構造を示す断面図である。正側整流器は複数の一方向導通素子である整流用ダイオード231が正側の出力端子を兼ねる放熱部材であるヒートシンク303に電気的にかつ機械的に接続されている。・・・
【0023】金属ベース231cは例えば銅で作製され円板状を成し一側の主面にモールド樹脂231bによってモールドされたダイオードチップを搭載している。・・・一方、ヒートシンク303は例えばアルミニュウムで作製され板状をなし、表面に円形の凹設部303aが形成されている。・・・」

(c)図7には、複数の整流用ダイオード221が、ヒートシンク302に穿孔された複数の貫通孔302aに、それぞれ圧入される様子が示されている。

b 原査定の拒絶の理由に引用され、基礎出願の出願前に頒布された特開平9-307042号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。

「【0002】
【従来の技術】例えば、実公平5-19957号公報に示されるように、金属により形成され且つ凹部を有する支持電極と、リード電極と、支持電極の凹部の底部とリード電極との間に固着された半導体チップと、凹部内に充填され且つ半導体チップを被覆する保護樹脂とを備えた自動車用交流発電機の出力整流ダイオードは公知である。この出力整流ダイオードでは、図2に示すように、皿状の支持電極2とリード電極3のヘッダ部3aとの間にダイオードチップ(半導体チップ)1を固着し、支持電極2内に充填した保護樹脂4によりダイオードチップ1及びリード電極3のヘッダ部3a側を封止している。支持電極2は、銅を主成分とする金属にニッケルめっきを施した金属板から構成され、皿状に形成された凹部2aを有し、ダイオードチップ1の放熱板を兼ねる。リード電極3は、ニッケルめっきを施した棒状の銅製リード部材から構成され、フランジ状に形成されたヘッダ部3aと、ヘッダ部3aから略垂直に延びるリード部3bと、リード部3b中にU字形に形成されたベンド部3cとを有する。ダイオードチップ1は、支持電極2の凹部2aの底部2b及びリード電極3のヘッダ部3aの各々に対してそれぞれ半田5、6により固着される。」

c 原査定の拒絶の理由に引用され、基礎出願の出願前に頒布された特開2000-228529号公報(以下「刊行物3」という。)には、過電圧防止素子を有する太陽電池モジュールに関して、以下の記載がある。

「【0037】
(過電圧防止素子)図6は、本発明に好適に用いられる過電圧防止素子の一例を示す概観図及び図6(a)のA-A′における概略断面図である。図6の過電圧防止素子は、2個の構成素子601a、601bと電極タブ602a、602b及び中間接続電極タブ603により構成され、2個の構成素子の直列体となっている。該電極タブ602a、602b及び該中間接続電極タブ603は、図6(b)のように上下互い違いに該構成素子601a、601bに接続されている。このような空間的接続形式をとることにより、過電圧防止素子の厚さが薄くなると共に光起電力素子の平面性も保てる。特に、光起電力素子を耐候性樹脂に一体的に封止する後述の太陽電池モジュールの形式をとる場合には、耐候性樹脂封止作業において、樹脂充填不良などが起こり難く、また、太陽電池モジュールの外観にも凹凸が生じ難くなる。
【0038】
過電圧防止素子の構成素子の種類、性能、大きさ、形状等は、光起電力素子の大きさや、出力特性、接続形態、太陽電池モジュールに要求される性能等により様々なものを選択できる。・・・構成素子は、できるだけ小さな形状で、薄いものが好ましく、例えば、ダイオードを構成素子として用いる場合は、チップダイオードやフラットダイオードが好適に用いられる。
【0039】
具体的には、PN接合ダイオード、ショットキーバリアダイオード、定電圧ダイオード、抵抗素子等を構成素子として用いることができる。」

(イ)引用発明
上記(ア)a(a)及び(c)によれば、刊行物1には、「従来の整流装置の正側整流器」として、
「整流用ダイオード221が、アノード電極221aと、アノード電極221aと電気的に接続されモールド樹脂221bによってモールドされたダイオードチップと、このダイオードチップと電気的に接続されカソード電極となる金属ベース221cとから構成され、外周面にきざみ目が形成された前記金属ベース221cをヒートシンク302に穿孔された貫通孔302aに圧入して、複数の整流用ダイオード221が、正側の出力端子を兼ねるヒートシンク302に電気的にかつ機械的に接続された、整流装置の正側整流器。」
が記載されているものと認められる。
ここで、上記(ア)a(a)及び(c)の記載からは、金属ベース221c及び貫通孔302aの平面形状は明らかでないものの、上記(ア)a(b)によれば、刊行物1には、「本発明の整流装置の正側整流器」として、金属ベース231cが円板状を成すこと、ヒートシンク303に形成された凹設部303が円形のものであることが記載されていることが認められ、上記「従来の整流装置の正側整流器」における金属ベース221c及び貫通孔302aの平面形状が、「本発明の整流装置の正側整流器」における金属ベース231c及び凹設部303の平面形状と異なるものと解する理由もないから、上記「従来の整流装置の正側整流器」における金属ベース221cも円板状であり、貫通孔302aも円形のものであると解するのが相当である。
したがって、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「整流用ダイオードが、アノード電極と、アノード電極と電気的に接続されモールド樹脂によってモールドされたダイオードチップと、このダイオードチップと電気的に接続されカソード電極となる円板状の金属ベースとから構成され、外周面にきざみ目が形成された前記金属ベースをヒートシンクに穿孔された円形の貫通孔に圧入して、複数の整流用ダイオードが、正側の出力端子を兼ねるヒートシンクに電気的にかつ機械的に接続された、整流装置の正側整流器。」(以下「引用発明1」という。)

(ウ)対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。

a 引用発明1の「ダイオードチップ」、「カソード電極となる円板状の金属ベース」、「アノード電極」、「整流用ダイオード」、「円形の貫通孔」、「正側の出力端子を兼ねる放熱部材であるヒートシンク」及び「整流装置の正側整流器」は、それぞれ、本願補正発明の「チップダイオード」、「第1の電極体」、「第2の電極体」、「ダイオード素子」、「円形穴」、「端子板」及び「ダイオード素子装置」に相当する。
そして、引用発明1の「カソード電極となる円板状の金属ベース」と、本願補正発明の「円筒状有底の第1の電極体」とは、「円形の電極体」である点で一致する。

b 引用発明1の「整流用ダイオード」は、「アノード電極と、アノード電極と電気的に接続されモールド樹脂によってモールドされたダイオードチップと、このダイオードチップと電気的に接続されカソード電極となる円板状の金属ベースとから構成され」るものであるところ、上記aに照らせば、「ダイオード素子」は、「チップダイオードを、円形の第1の電極体、及び第2の電極体に接続した」ものであるといえる。
他方、本願補正発明の「ダイオード素子」は、「P層とN層とからなるベアチップ部の上面と下面に電極を備えてなるチップダイオードの前記下面電極を、円筒状有底の第1の電極体の筒状内部底面に接続するとともに前記ベアチップ部の上面電極に棒状の第2の電極体を接続」したものであって、「ダイオード素子」は、「チップダイオードを、円形の第1の電極体、及び第2の電極体に接続した」ものといえるから、両者は、この点において一致する。

c 引用発明1は、「複数の整流用ダイオード」を備えるものであるところ、上記aに照らせば、「複数のダイオード素子」を備えるものといえる。
他方、本願補正発明は、「第1のダイオード素子」と「第2のダイオード素子」とを備えるものであって、「複数のダイオード素子」を備えるものといえるから、両者は、この点において一致する。

d 引用発明1は、「(整流用ダイオードを構成する)外周面にきざみ目が形成された金属ベースをヒートシンクに穿孔された円形の貫通孔に圧入して、複数の整流用ダイオードが、正側の出力端子を兼ねるヒートシンク302に電気的にかつ機械的に接続された」ものであるところ、上記aに照らせば、引用発明は、「複数のダイオード素子の第1の電極体外周をそれぞれ装着するための複数個の円形穴を設け、これらの円形穴に、前記複数のダイオード素子の前記第1の電極体の外周をそれぞれ挿設してなる端子板」との構成を備えるものといえる。
他方、本願補正発明は、「第1及び第2のダイオード素子の第1の電極体外周をそれぞれ装着するための2個の円形穴を設け、これらの円形穴に、前記第1及び第2のダイオード素子の前記第1の電極体の外周をそれぞれ挿設してなる端子板」との構成を備えるものであって、「複数のダイオード素子の第1の電極体外周をそれぞれ装着するための複数個の円形穴を設け、これらの円形穴に、前記複数のダイオード素子の前記第1の電極体の外周をそれぞれ挿設してなる端子板」との構成を備えるものといえるから、両者は、当該構成を備える点において一致する。

e 以上によれば、両者は、
「チップダイオードを、円形の第1の電極体、及び第2の電極体に接続した、複数のダイオード素子と、
前記複数のダイオード素子の第1の電極体外周をそれぞれ装着するための複数個の円形穴を設け、これらの円形穴に、前記複数のダイオード素子の前記第1の電極体の外周をそれぞれ挿設してなる端子板と、
を備えてなるダイオード素子装置。」
である点で一致し、下記(a)及び(b)の点で相違するものと認められる。

(a)ダイオード素子が、本願補正発明では、「P層とN層とからなるベアチップ部の上面と下面に電極を備えてなるチップダイオードの前記下面電極を、円筒状有底の第1の電極体の筒状内部底面に接続するとともに前記ベアチップ部の上面電極に棒状の第2の電極体を接続し、かつ前記第1の電極体の筒状内に樹脂充填してなる」ものであるのに対して、引用発明1では、「アノード電極と、アノード電極と電気的に接続されモールド樹脂によってモールドされたダイオードチップと、このダイオードチップと電気的に接続されカソード電極となる円板状の金属ベースとから構成され」る以上の具体的な構成が不明である点(以下「相違点1」という。)。

(b)本願補正発明は、太陽電池用のものであり、複数のダイオード素子として、第1のダイオード素子と、該第1のダイオード素子とはベアチップ部のP層とN層とを天地逆にした第2のダイオード素子とを備え、それらの第1の電極体を装着するために設ける端子板の円形穴を2個設けた太陽電池用ダイオード素子であるのに対して、引用発明1は、整流装置の正側整流器であり、複数のダイオード素子が2個であるのか不明であり、第1の電極体を端子板に装着するために設ける端子板の円形穴も2個であるのか不明である点(以下「相違点2」という。)。

f 要すれば、両者は、いずれも複数のダイオード素子と、これらを装着する端子板とを備えてなるダイオード素子装置であって、「端子板の円形穴にダイオード素子の第1の電極体の外周をそれぞれ挿設してなる」とする、端子板に対するダイオード素子の装着のための構成において一致し、本願補正発明は、ダイオード素子の具体的な構成を特定し(相違点1)、また、太陽電池用のものであり、ダイオード素子がベアチップ部のP層とN層とを天地逆にした関係にある2個のダイオード素子であって、これに伴い端子板の円形穴も2個である(相違点2)のに対して、引用発明はそのようなものでない点で相違するものである。

(エ)相違点についての判断
a 相違点1について
(a)PN接合のチップダイオードは、基礎出願の出願前に周知のものである(例えば上記特開2000-228529号公報の段落【0038】【0039】、特開2002-158324号公報の【0002】参照。なお、後者は、本願明細書の【0004】に【特許文献1】として記載されているものである。)から、引用発明1におけるチップダイオードを、「P層とN層とからなるベアチップ部の上面と下面に電極を備えてなるチップダイオード」とすることは、当業者が適宜なし得る程度のことである。
(b)しかるところ、上記(ア)bによれば、刊行物2には、次の発明が記載されているものと認められる。

「金属により皿状に形成され且つ凹部を有する支持電極と、ニッケルめっきを施した棒状の銅製リード部材から構成されたリード電極と、支持電極の凹部の底部とリード電極の各々に対してそれぞれ半田により固着されたダイオードチップと、凹部内に充填され且つダイオードチップを被覆する保護樹脂とを備えた自動車用交流発電機の出力整流ダイオード。」(以下「引用発明2」という。)

(c)引用発明2は整流用ダイオードであるから、引用発明1のダイオード素子(整流用ダイオード)の構成として引用発明2の出力整流ダイオードの構成を採用することにより、円形の第1の電極体(カソード電極となる円板状の金属ベース)を、皿状に形成され且つ凹部を有するものとし、第2の電極体(アノード電極)を、ニッケルめっきを施した棒状の銅製リード部材から構成されたものとし、チップダイオードが下面に備える電極を前記第1の電極体の凹部の底部に接続するとともに、チップダイオードが上面に備える電極を前記第2の電極体に接続し、前記第1の電極体の凹部内に樹脂を充填することは、当業者が容易になし得る程度のことである。

(d)ここで、皿状に形成され且つ凹部を有する円形の第1の電極体は「円筒状有底」のものといえ、ニッケルめっきを施した棒状の銅製リード部材から構成された第2の電極体は、「棒状の電極体」といえる。
そして、上記(a)のとおり、引用発明1におけるチップダイオードを、「P層とN層とからなるベアチップ部の上面と下面に電極を備えてなるチップダイオード」とすることが、当業者が適宜なし得る程度のことであることを踏まえると、引用発明1において、ダイオード素子を、「P層とN層とからなるベアチップ部の上面と下面に電極を備えてなるチップダイオードの前記下面電極を、円筒状有底の第1の電極体の筒状内部底面に接続するとともに前記ベアチップ部の上面電極に棒状の第2の電極体を接続し、かつ前記第1の電極体の筒状内に樹脂充填してなる」ものとすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。

b 相違点2について
(a)上記(ア)cによれば、刊行物3には、次の発明が記載されているものと認められる。

「2個の構成素子601a、601bと電極タブ602a、602b及び中間接続電極タブ603により構成される過電圧防止素子であって、前記2個の構成素子はPN接合ダイオード等からなり、中間接続電極タブ603に上下互い違いに直列に接続されている太陽電池モジュールに用いられる過電圧防止素子。」(以下「引用発明3」という。)

(b)ここで、引用発明3は、中間接続電極タブ603に上下互い違いに直列に接続されているものであるから、構成素子たる2個のPN接合ダイオードは、互いにP層とN層を天地逆にして中間接続電極タブ603に接続されることが明らかである。
すなわち、引用発明3は、太陽電池モジュールに用いられる過電圧防止素子において、構成素子たる2個のPN接合ダイオードが、互いにP層とN層を天地逆にして中間接続電極タブ603に接続される技術を開示するものといえる。

(c)しかるところ、引用発明3は、複数のダイオードを接続して用いる技術である点で、引用発明1と共通するものであるから、複数のダイオード素子と、これらを装着する端子板とを備えてなるダイオード素子装置であって、「端子板の円形穴にダイオード素子の第1の電極体の外周をそれぞれ挿設してなる」とする、端子板に対するダイオード素子の装着のための構成を備える引用発明1を、太陽電池モジュールの過電圧防止素子に転用することは、当業者が容易に推考し得る程度のことである。

(d)そして、引用発明3が、2個のPN接合ダイオードを、互いにP層とN層を天地逆にして中間接続電極タブ603に接続するものであることからすると、複数のダイオード素子を、第1のダイオード素子と、該第1のダイオード素子とはベアチップ部のP層とN層とを天地逆にした第2のダイオード素子とを備えるものにするとともに、それらを装着するために設ける端子板の円形穴を2個とすることは、引用発明1を、太陽電池モジュールの過電圧防止素子に転用する際に、当業者が当然考慮する程度のことである。
したがって、引用発明において、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。

(e)なお、請求人は、請求の理由において、「引用刊行物1、引用刊行物2に記載の発明に、引用刊行物3に記載の発明を併せ考慮しても、確実・簡単にダイオード素子を直列に端子板に容易に取り付けることができ、かつ電極体を端子板に密着装着できるので放熱性が良く、さらに端子板との接続を短時間で出来るという相乗効果があるという本願発明の奏する効果は期待できない」旨主張する(平成19年4月6日付け手続補正書(方式)4頁末行?5頁4行参照。)。
しかし、「確実・簡単にダイオード素子を端子板に容易に取り付けることができ、かつ電極体を端子板に密着装着できるので放熱性が良く、さらに端子板との接続を短時間で出来る」との効果を奏する点において、本願補正発明と引用発明1との間に格別の差異があるものとはいえず、「ダイオード素子を直列に端子板に容易に取り付けることができ」との効果も、引用発明1において、複数のダイオード素子を、第1のダイオード素子と、該第1のダイオード素子とはベアチップ部のP層とN層とを天地逆にした第2のダイオード素子とを備えるものにすれば当然奏される効果以上のものではないから、本願補正発明が、当業者の予測可能な域を超えるほどの格別顕著な効果を奏するものとはいえない。

(オ)小括
以上の検討によれば、本願補正発明は、刊行物1ないし刊行物3にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本願発明について
(1)本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成18年5月17日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、前記2(2)アにおいて、補正前のものとして示したとおりのものである。

(2)判断
前記2(2)イのとおり、本件補正は、特許請求の範囲を減縮を目的としたものと認められる。
しかるところ、前記2(2)ウで検討したとおり、本願発明に係る特許請求の範囲を減縮したものである本願補正発明が、刊行物1ないし刊行物3にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、減縮前の本願発明も、本願補正発明と同様の理由により、刊行物1ないし刊行物3にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上の検討によれば、本願発明は、刊行物1ないし刊行物3にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-09 
結審通知日 2008-10-10 
審決日 2008-10-21 
出願番号 特願2005-308029(P2005-308029)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 棚田 一也村岡 一磨  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 三橋 健二
小牧 修
発明の名称 太陽電池用ダイオード素子装置  
代理人 中村 茂信  
代理人 中村 茂信  

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