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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1189666
審判番号 不服2007-21627  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-03 
確定日 2008-12-08 
事件の表示 特願2001-155930「動圧型軸受ユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月17日出願公開、特開2002-139028〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成13年5月24日(国内優先権主張 平成12年8月23日)の出願であって、平成19年4月11日付け(起案日)の拒絶理由通知に対して、平成19年6月12日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成19年7月2日(起案日)付けで拒絶査定され、これに対し、平成19年8月3日に拒絶査定不服の審判請求がなされるとともに、平成19年8月31日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし請求項4に係る発明は、 平成19年8月31日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】底部を有するハウジングと、ハウジングの内周に固定された軸受部材と、軸受部材の内周に挿通される軸部、およびフランジ部を有する軸部材と、軸受部材の内周と軸部材の軸部の外周との間に設けられ、ラジアル軸受隙間に発生する動圧で軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、軸部材のフランジ部の両端面と、これに対向する軸受部材の端面およびハウジングの底部の内面との間にそれぞれ設けられ、スラスト軸受隙間に発生する動圧で軸部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備えた動圧型軸受ユニットにおいて、
ハウジングの底部の内面と外面との平行度が0.005mm以下であることを特徴とする動圧型軸受ユニット。」

なお、平成19年8月31日付けでなされた手続補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定された請求項の削除を目的としたものと認める。

3.刊行物に記載された事項
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2000-220633号公報(以下、「刊行物1」という。)には、動圧型軸受装置に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「【0002】
【従来の技術】上記各種情報機器のスピンドルモータには、高回転精度の他、高速化、低コスト化、低騒音化などが求められている。これらの要求性能を決定づける構成要素の一つに当該モータのスピンドルを支持する軸受があり、近年では、この種の軸受として、上記要求性能に優れた特性を有する動圧型軸受の使用が検討され、あるいは実際に使用されている。」

(イ)「【0015】軸受装置1は、軸部材2と、有底円筒状のハウジング6と、ハウジング6の内周面に固定された厚肉円筒状の軸受本体7と、軸受本体7の一端側(ハウジング6の開口側をいう)を密封するシール部材8と、ハウジング6の他端開口部を封口する底部6aに設けられた隙間設定手段9とを主な構成要素とする。軸部材2は、回転軸2aと回転軸2aの下端部に圧入等で固定したスラスト円盤2bとで構成され、回転軸2aを軸受本体7の内径部に、スラスト円盤2bを軸受本体7とハウジング6の底部6aとの間の空間に収容した垂直姿勢で配置される。
【0016】軸受本体7は、例えば軟質金属あるいは合金(例えば銅、真鍮等)で形成される。軸受本体7の内周面には、動圧溝を有するラジアル軸受面7aが形成され、これより軸部材2の回転時には、ラジアル軸受面7aと回転軸2aの外周面との間のラジアル軸受隙間Cr に動圧作用が発生し、回転軸2aが非接触状態で回転自在に支持される。」

(ウ)「【0017】軸部材2をスラスト支持するスラスト軸受部11は、動圧溝を有するスラスト軸受面2b1、2b2をスラスト円盤2bの両端面に設けて構成される。この構成から、スラスト円盤2bの回転時には、上スラスト軸受面2b1と軸受本体7の下端面との間のスラスト軸受隙間Cs1、および下スラスト軸受面2b2とハウジング6の底面6a1との間のスラスト軸受隙間Cs2にそれぞれ動圧が発生するので、スラスト円盤2bは軸受本体7の下端面およびハウジング6の底面6a1に対してそれぞれ非接触状態で支持され、これにより軸部材2が軸方向両側からスラスト支持される。」

図1及び上記摘記事項(イ)の記載からみて、動圧型軸受装置は、軸部材2をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部を備えているといえる。

また、図1からみて、スラスト円盤2bの両端面と軸受本体7の下端面及びハウジング6の底面6a1は対向していると認められる。

以上の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

[刊行物1記載の発明]
「底部6aを有するハウジング6と、ハウジング6の内周面に固定された軸受本体7と、軸受本体7の内径部に収容される回転軸2a、およびスラスト円盤2bを有する軸部材2と、軸受本体7の内周面と軸部材2の回転軸2aの外周面との間に設けられ、ラジアル軸受隙間Cr に発生する動圧で軸部材2をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、軸部材2のスラスト円盤2bの両端面と、これに対向する軸受本体7の下端面およびハウジング6の底面6a1との間にそれぞれ設けられ、スラスト軸受隙間Cs1、Cs2に発生する動圧で軸部材2を非接触支持するスラスト軸受部11とを備えた動圧型軸受装置。」

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2000-87953号公報(以下、「刊行物2」という。)には、動圧型焼結含油軸受ユニットに関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(エ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、動圧型焼結含油軸受およびその製造方法に関する。この動圧型焼結含油軸受は、特に情報機器分野で用いられる、DVD-ROM、DVD-RAMなどの光ディスク装置、MOなどの光磁気ディスク装置、HiFD、Zipなどの高容量FDD(フロッピーディスクドライブ)、HDDなどの磁気ディスク装置のディスクドライブ用軸受、あるいはLBPなどのポリゴンスキャナモータ用軸受に適しており、特に薄型モータ用の軸受として好適である。」

(オ)「【0011】スラスト軸受部14において、軸受端面11f1の精度、あるいはフランジ部13aの精度が十分でないと、図16に示すように、フランジ部13aが軸受端面11f1に面接触せずに片当りとなるおそれがある。片当りでは、トルクロスが大きく、かつトルク変動の要因となって情報機器に要求される高い回転精度が得られない。また、たとえ軸受端面11f1に動圧溝を設けてスラスト軸受部を非接触に保とうとしても、動圧効果が不十分であるために、軸受端面とフランジ部との接触・摩耗を生じ、回転精度や耐久性を改善することができない。
【0012】そこで、本発明では、スラスト軸受部を構成する少なくとも一方の軸受端面と軸受内周面との直角度、およびフランジ部と軸の外周面(特にラジアル軸受面と対向する軸の外周面)との直角度を、軸と軸受本体との相対回転時に、上記一方の軸受端面とフランジ部とが片当りしない公差に管理することとした。
【0013】この場合、例えば軸受端面11f1と軸受内周面との直角度が4μm以上で、フランジ部13aと軸の外周面との直角度が3μm以上であると、フランジ部13aが軸受端面11f1に面当りせずに片当りするおそれがある。従って、軸受端面11f1と軸受内周面との直角度は3μm以内に、フランジ部13aと軸の外周面との直角度は2μm以内にそれぞれ設定する。
【0014】なお、ここでいう「直角度」とは、直角であるべき平面部分と基準となる面との組合わせにおいて、この基準面に対して直角な幾何学的平面からの直角であるべき平面部分の狂いの大きさをいう。」

(カ)「【0048】図9は、軸受11と底板15との間にフランジ部13bを設け、フランジ部13bの両側にスラスト軸受部14a、14bを構成したものである。すなわち、フランジ部13bの上端面13a1と下側の軸受端面11f2の何れか一方、および、フランジ部13bの下端面13b2と底板15の上面の何れか一方(図面では下軸受端面11f2およびフランジ部の下端面13b2)にそれぞれ図6と同様の動圧溝11kを設けたもので、図8の構造と同様の効果が奏される。」

以上の記載事項及び図面(特に、図9)の記載からみて、刊行物2には、下記の技術事項(以下、「技術事項1」という。)が記載されていると認められる。

[技術事項1]
スラスト動圧軸受部及びラジアル動圧軸受部を備えた動圧型焼結含油軸受ユニットにおいて、高い回転精度を得るために、構成部材相互の位置関係について、軸受端面と軸受内周面との直角度は3μm以内に、フランジ部と軸の外周面との直角度は2μm以内に設定すること。

4.対比・判断
本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると、その機能からみて、刊行物1記載の発明の「底部6aを有するハウジング6」は本願発明の「底部を有するハウジング」に相当し、以下同様に、「ハウジング6の内周面に固定された軸受本体7」は「ハウジングの内周に固定された軸受部材」に、「軸受本体7の内径部に収容される回転軸2a」は「軸受部材の内周に挿通される軸部」に、「スラスト円盤2b」は「フランジ部」に、「軸部材2」は「軸部材」に、「軸受本体7の内周面」は「軸受部材の内周」に、「回転軸2aの外周面」は「軸部の外周」に、「ラジアル軸受隙間Cs1」は「ラジアル軸受隙間」に、「ラジアル軸受部」は「ラジアル軸受部」に、「軸受本体7の下端面」は「軸受部材の端面」に、「ハウジング6の底面6a1」は「ハウジングの底部の内面」に、「スラスト軸受隙間Cs1、Cs2」は「スラスト軸受隙間」に、「スラスト軸受部11」は「スラスト軸受部」に、「動圧型軸受装置」は「動圧型軸受ユニット」に、それぞれ相当する。

したがって、本願発明の用語を使用して記載すると、両者は、
「底部を有するハウジングと、ハウジングの内周に固定された軸受部材と、軸受部材の内周に挿通される軸部、およびフランジ部を有する軸部材と、軸受部材の内周と軸部材の軸部の外周との間に設けられ、ラジアル軸受隙間に発生する動圧で軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、軸部材のフランジ部の両端面と、これに対向する軸受部材の端面およびハウジングの底部の内面との間にそれぞれ設けられ、スラスト軸受隙間に発生する動圧で軸部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備えた動圧型軸受ユニット」である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明は、「ハウジングの底部の内面と外面との平行度が0.005mm以下である」のに対し、刊行物1記載の発明のハウジングの底面と底部外面は、図面からみて、一応平行であると認められるものの、その平行度については不明である点。

上記相違点1について検討する。

刊行物1記載の発明は、高回転精度が要求される情報機器に適用される動圧型軸受装置であり(上記記載事項(ア)参照)、そのような動圧型軸受装置においては、各構成部材の寸法を高精度にすべきのみならず、各構成部材相互の位置関係も高精度にすべきであることは技術常識であるといえる。
そして、刊行物2記載の動圧型焼結含油軸受ユニットは、動圧型軸受装置の一例であり、刊行物1記載の発明と同様に情報機器に適用されるものであることから(上記記載事項(エ)参照)、軸受の回転精度を上げるために各構成部材の直角度に着目した刊行物2記載の上記技術事項1に接した当業者であれば、刊行物1記載の発明における動圧型軸受装置を構成するハウジングの底部の内面と外面の位置関係について、その平行度に着目し、可能な限り高精度化することは、容易に想到できることである。

ところで、ハウジングの底部の内面と外面の平行度を0.005mm以下と限定することについて本願明細書【0022】を参酌すると、その技術的意義は、組立精度の確保という一般的なものであり、上限値の0.005mmを境界として、その精度に急激な変化があるなどの意義は何ら記載されておらず、かつ、下限の数値も特定されていない以上、臨界的意義があるとは認められないから、上記平行度を0.005mm以下と特定することは、当業者が通常の創作能力を発揮して数値範囲を最適化したにすぎないものである。

してみると、刊行物1に記載された発明及び上記技術事項1を知り得た当業者であれば、動圧型軸受ユニットを高精度化するために、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、容易に想到し得るものである。

また、本願発明の作用効果について検討しても、刊行物1に記載された発明及び本願優先日前公知の技術事項1から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

ところで、請求人は、本願発明の特徴について「(4)このように、軸受ユニットの組立工程中に、軸部材のフランジ部の端面と、ハウジングの底部を密着させる工程を含む場合、ハウジング底部51の外面51aと内面51bとの平行度は、スラスト軸受隙間だけでなく、軸受ユニット全体の種々の組立精度に影響を及ぼす可能性があります。本願発明は、かかる知見に基づき、両面51a、51bの平行度を規定値以下に制限することで、上記不具合を防止し、軸受ユニットの組立精度を確保する、という特有の効果を奏する」(平成19年8月31日付け手続補正書の【本願発明が特許されるべき理由】の2.本願発明についての項参照)旨主張している。

しかしながら、請求人が主張する本願発明の特徴については、上記相違点1について検討したとおり、格別なものではなく、刊行物1に記載された発明及び本願優先日前公知の技術事項から、当業者が予測できる範囲にとどまるものであることは、上記のとおりである。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

5.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1に記載された発明及び本願優先日前公知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2ないし4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-14 
結審通知日 2008-10-15 
審決日 2008-10-28 
出願番号 特願2001-155930(P2001-155930)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谿花 正由輝大熊 雄治  
特許庁審判長 川上 益喜
特許庁審判官 藤村 聖子
村本 佳史

発明の名称 動圧型軸受ユニット  
代理人 江原 省吾  
代理人 白石 吉之  
代理人 城村 邦彦  
代理人 熊野 剛  
代理人 田中 秀佳  

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