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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1189678
審判番号 不服2007-35031  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-27 
確定日 2008-12-11 
事件の表示 特願2002-164263「転がり軸受、これを用いたベルト式無段変速機」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月15日出願公開、特開2004- 11712〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

この出願は、平成14年6月5日の出願であって、平成19年11月21日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年12月27日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願の請求項1に係る発明

本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成19年8月3日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】内輪と外輪との間に複数の転動体が転動自在に配設された転がり軸受において、内輪、外輪、および転動体のうちの少なくともいずれかは、質量比で、炭素(C)の含有率が0.60%以上1.20%以下、硅素(Si)の含有率が0.10%以上1.5%以下、マンガン(Mn)の含有率が0.10%以上1.5%以下、クロム(Cr)の含有率が0.50%以上3.0%以下である合金鋼を所定形状に成形した後、浸炭窒化処理と焼入れおよび焼戻しを施して得られ、軌道輪の軌道面および/または転動体の転動面をなす表層部の炭素含有率が0.80質量%以上1.30%質量(審決注:「質量%」の誤記と認める。以下、「質量%」と表記する。)以下、前記表層部の窒素含有率が0.05質量%以上0.50質量%以下であり、前記表層部の硬さがビッカース硬度(Hv)で700以上850以下であり、前記表層部の残留圧縮応力が-100MPa乃至-500MPaであり、前記表層部に平均粒径100nm以上500nm以下の炭化物および/または炭窒化物が分散析出されていることを特徴とする、ベルト式無段変速機のベルトを巻き付けるプーリの回転軸を支持する用途で使用される転がり軸受。」

3.引用刊行物とその記載事項

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項は次のとおりである。

刊行物1:特開平11-101247号公報
刊行物2:特開2000-328203号公報

(1)刊行物1に記載された発明

刊行物1には、「転がり軸受部品」に関して、図面とともに次の記載がある。

(ア)「【請求項1】炭素を0.4?0.8重量%、ケイ素を0.15?1.1重量%、マンガンを0.3?1.5重量%含む鋼を浸炭窒化して得られる転がり軸受部品であって、浸炭窒化された表層は、0.6?1.3重量%の炭素および0.25?0.5重量%の窒素を含み、かつその圧縮残留応力が150MPa以上、残留オーステナイトが20?35体積%、炭窒化物の最大粒径が8μm以下およびビッカース硬度が700以上である、転がり軸受部品。
【請求項2】前記鋼は、1.0重量%以下のクロムを含む、請求項1に記載の転がり軸受部品。」(【特許請求の範囲】)

(イ)「【発明の属する技術分野】この発明は、転がり軸受部品に関し、特に、自動車のトランスミッションなどの高荷重かつ異物が混入した潤滑条件下で使用される転がり軸受部品に関するものである。」(段落【0001】)

(ウ)「まず、冷間加工性を向上させるためには、鋼中の炭素、シリコン、マンガン、クロムなどの添加元素の量が大きく影響し、それらを減らす、または最適化することで冷間加工性が向上する。
異物が混入した潤滑条件下で疲労寿命を長くするためには、浸炭窒化により部品の表層に最適量のオーステナイトを分布させ、高い硬度、靱性および耐熱性を付与するとともに、靱性を失わない範囲で部品内部の硬度を浸炭焼入れ品よりも高くすることが有効である。
割れ疲労強度を向上させるためには、浸炭窒化処理により適量の残留オーステナイトと残留圧縮応力を付与し、さらに炭窒化物の粒径を最適化することが有効である。また、残留応力は、主に、部品の表層と内部との炭素量の差および表層と内部の硬度差に大きく影響される。」(段落【0008】ないし【0010】)

(エ)「このような検討結果に基づきなされた本発明の転がり軸受部品は、炭素を0.4?0.8重量%、ケイ素を0.15?1.1重量%、マンガンを0.3?1.5重量%含む鋼を浸炭窒化して得られるものであり、浸炭窒化された表層は、0.6?1.3重量%の炭素および0.25?0.5重量%の窒素を含み、かつその圧縮残留応力が150MPa以上、残留オーステナイトが20?35体積%、炭窒化物の最大粒径が8μm以下およびビッカース硬度が700以上のものである。なお、転がり軸受部品とは、転がり軸受用の外輪、内輪および転動体を意味する。」(段落【0011】)

(オ)「原料としての鋼に炭素を添加するのは鋼の硬度を高めるためである。炭素の含有率を0.8重量%以下としたのは、0.8重量%を超えると浸炭窒化しても表層と内部の硬度差が生じにくくなり、表層に圧縮残留応力が付与されにくくなるためおよび炭窒化物の最大粒径が8μmを超える可能性が出てくるためである。
炭素の含有率を0.4重量%以上としたのは、0.4重量%未満では内部硬度が低下しすぎるためである。」(段落【0012】及び【0013】)

(カ)「また、鋼にシリコンおよびマンガンを添加するのは焼入性を向上させるためである。シリコンおよびマンガンの含有率を1.1重量%以下および1.5重量%以下としたのは、この範囲を超えると、冷間加工性が大きく低下するためである。また、シリコンおよびマンガンの含有率を0.15重量%および0.3重量%以上としたのは、この範囲未満であれば、焼入れ性が低下し、内部まで十分に焼きが入らないためである。」(段落【0014】)

(キ)「浸炭窒化された表層部分の炭素の含有率を0.6?1.3重量%としたのは、炭素の含有率が1.3%を超えると大きな炭化物が多く生成するため割れ疲労強度が低下する可能性があるからである。また、0.6重量%以上としたのは、0.6重量%未満では十分な硬度と残留オーステナイト量が確保できないためである。」(段落【0015】)

(ク)「窒素の含有率を0.25重量%?0.5重量%としたのは、0.25重量%未満では十分な耐熱性を得ることができないため、0.5重量%超えると焼入れ性に寄与しないε炭化物が多く生成し、必要な炭素がε炭化物に取られるため焼入れ性が悪くなり、寿命が短くなるからである。」(段落【0016】)

(ケ)「炭窒化物の最大粒径が8μm以下としたのは、8μmを超えると、炭窒化物が割れの起点となりやすいからである。」(段落【0018】)

(コ)「ビッカース硬度を700以上としたのは、700未満であれば、表面が摩耗しやすくなり、十分な疲労寿命が得られないからである。」(段落【0019】)

(サ)「また、鋼は1.0重量%以下のクロムを含むことが好ましい。この場合、クロムが炭化物を形成するため、表層の硬度が向上しやすくなる。また、クロムを添加すると焼入れ性も向上する。クロムの含有率を1.0重量%未満としたのは、1.0重量%を超えると冷間加工性が低下することや、1.0重量%を超えて添加してもその効果が小さいためである。」(段落【0021】)

(シ)「図3より、圧縮残留応力が大きいほど割れ疲労強度は大きくなり、圧縮残留応力が0に近づくにつれて割れ疲労強度が低下する。従来のものより大きな強度が得られるのは、圧縮残留応力が150MPa以上のときであることがわかる。」(段落【0039】)

したがって、以上の記載を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「転がり軸受部品において、炭素を0.4?0.8重量%、ケイ素を0.15?1.1重量%、マンガンを0.3?1.5重量%、1.0重量%以下のクロムを含む鋼を、浸炭窒化して得られ、転がり軸受部品の表層は、0.6?1.3重量%の炭素および0.25?0.5重量%の窒素を含み、そのビッカース硬度が700以上であり、圧縮残留応力が150MPa以上、炭窒化物の最大粒径が8μm以下である、自動車のトランスミッションなどの転がり軸受部品。」

(2)刊行物2に記載された発明

刊行物2には、「転がり軸受」に関して、図面とともに次の記載がある。

(ス)「【発明の属する技術分野】本発明は、転がり軸受に係わり、特に金属バリなどの異物や泥水が混入し潤滑条件が劣化やすい環境下、例えば自動車、農業機械、建設機械および鉄鋼機械等のトランスミッションや無段変速機用(トロイダルCVT、ベルトCVT)エンジン補機用( オルタネータ、コンブレッサー、水ポンプ等)に使用される転がり軸受に関する。」(段落【0001】)

(セ)「【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明の転がり軸受は、軌道輪と転動体とを備えた転がり軸受において、・・・(中略)・・・Mo=0.5?2.0wt%及びV=0.5?2.0wt%のうち少なくとも一種を添加して50?300nmのMo系またはV系の微細な炭化物を分散析出させ、残部がFeや不可避成分を含有してなり、熱処理において前記軌道輪への10μmを超える共晶炭化物の発生を抑制したことを特徴としている。」(段落【0012】)

(ソ)「これら表3、表4の寿命試験結果から明らかなように・・・(中略)・・・そして、微細なMo・V系炭化物が平均粒径300、215、180nmと折出しているので、5μmを超える共晶炭化物の発生が抑制されて強固な不動態被膜が5、30、15nmと均一に形成されており、試験終了後に軌道面の観察を行ったが状態は良好であり、150時間に至っても外輪剥離が生じなかった。」(段落【0030】)

4.対比・判断

(1)一致点

本願発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明における「転がり軸受部品」は、「転がり軸受用の外輪、内輪および転動体を意味する」(上記刊行物1の記載事項(エ))から、本願発明の「内輪と外輪との間に複数の転動体が転動自在に配設された転がり軸受において、内輪、外輪、および転動体のうちの少なくともいずれか」に相当するものであり、かつ、発明の課題とその解決手段に照らせば、発明の対象物を製品として捉えた「転がり軸受」にも相当するということができる。
刊行物1発明における各成分の「重量%」は、含有率の表現が異なるものの本願発明の「質量比」として表記した含有率「%」及び「質量%」に相当するものであり、刊行物1発明における表記「?」は、上記刊行物1の記載事項(オ)ないし(ク)からみて下限の数値「以上」、上限の数値「以下」の範囲を指しているものと認められる。
刊行物1発明に含まれる成分は、「炭素(C)」、「ケイ素(珪素(Si)と同義)」、「マンガン(Mn)」、及び「クロム(Cr)」について、本願発明に含まれる成分と共通すると同時に、その含有率も部分的に重複(それぞれ、炭素:0.6%以上0.8%以下、珪素:0.15%以上1.1%以下、マンガン:0.3%以上1.5%以下、及び、クロム:0.5%以上1.0%以下の範囲で重複(「%」はいずれも質量%を意味するものとする。以下同様。))しており、かつ、これらの成分を含むことから、刊行物1発明の「鋼」は、本願発明の「合金鋼」に相当することは明らかである。
刊行物1発明の「浸炭窒化して得られ」は、本願発明の「浸炭窒化処理と焼入れおよび焼戻しを施して得られ」に対して、少なくとも「熱処理を施す」点で共通している。
刊行物1発明の「転がり軸受部品の表層」は、少なくとも軌道輪の軌道面または転動体の転動面の表層を意味することは技術常識として捉えられるから、本願発明の「軌道輪の軌道面および/または転動体の転動面をなす表層部」に相当する。
また、表層部の特性において、両者は、表現の差異はあるものの、実質的に、炭素含有率:0.8%以上1.3%以下、窒素含有率:0.25%以上0.5%以下、ビッカース硬度:700以上850以下、及び、残留圧縮応力:-150乃至-500MPa(刊行物1発明と本願発明の数値の正負の差異は残留値を正の数とみるか負の数とみるかの差異によるもので技術的な差異はない。)の範囲で部分的に重複しており、かつ、炭窒化物の粒径においても、刊行物1発明が「最大粒径」で特定し(上記刊行物1の記載事項(ウ))、本願発明が「平均粒径」で特定しているが、両者は、上記表層部の炭窒化物の粒径を最適化した点で共通している。
刊行物1発明の「自動車のトランスミッションなどの転がり軸受部品」は、回転軸を支持する用途で使用されることは明らかであるから、本願発明の「ベルト式無段変速機のベルトを巻き付けるプーリの回転軸を支持する用途で使用される転がり軸受」と、少なくとも「自動車のトランスミッションなどの回転軸を支持する用途で使用される転がり軸受」である限りにおいて相当するものである。

そうすると、両者は、本願発明の表記にならえば、
「内輪と外輪との間に複数の転動体が転動自在に配設された転がり軸受において、内輪、外輪、および転動体のうちの少なくともいずれかは、質量比で、炭素(C)の含有率が0.60%以上0.8%以下、硅素(Si)の含有率が0.15%以上1.1%以下、マンガン(Mn)の含有率が0.3%以上1.5%以下、クロム(Cr)の含有率が0.50%以上1.0%以下である合金鋼を、熱処理を施して得られ、軌道輪の軌道面および/または転動体の転動面をなす表層部の炭素含有率が0.80質量%以上1.30質量%以下、前記表層部の窒素含有率が0.25質量%以上0.50質量%以下であり、前記表層部の硬さがビッカース硬度(Hv)で700以上850以下であり、前記表層部の残留圧縮応力が-150MPa乃至-500MPaであり、前記表層部の炭窒化物の粒径を最適化した、自動車のトランスミッションなどの回転軸を支持する用途で使用される転がり軸受」である点において一致している。

(2)相違点

一方、両者の相違点は、以下のとおりである。

[相違点1]
本願発明は、上記「合金鋼」を「所定形状に成形した後、熱処理」したのに対し、刊行物1発明では、所定形状に成形した後に熱処理しているかどうか明らかでない点。

[相違点2]
本願発明は、上記熱処理として「浸炭窒化処理と焼入れおよび焼戻し」を施したのに対して、刊行物1発明は、浸炭窒化しているものの「焼き入れおよび焼戻し」は施しているか否か明らかでない点。

[相違点3]
上記炭窒化物について、本願発明は、上記表層部に「平均粒径100nm以上500nm以下の炭窒化物が分散析出」されているのに対し、刊行物1発明は、上記表層部に「最大粒径が8μm以下」となっている点。

[相違点4]
本願発明は、「ベルト式無段変速機のベルトを巻き付けるプーリ」の回転軸を支持する用途で使用されるのに対し、刊行物1発明は、「自動車のトランスミッションなど」の回転軸を支持する用途で使用される点。

(3)相違点の判断

[相違点1について]
転がり軸受は、熱処理によって表面が硬化することなどから、各部品を熱処理する前に所定形状に成形することは、きわめて一般的な製造方法(必要であれば、特開2000-240665号公報の段落【0017】ないし【0019】、特開2001-200314号公報の【請求項3】及び段落【0046】、特開2002-21858号公報の【請求項4】、参照)であり、刊行物1発明が仮に上記一般的な製造方法を採用していないとしても、刊行物1発明にこの製造方法を適用することに何ら困難性はない。

[相違点2について]
上記相違点1に挙げた所定形状に成形した後の転がり軸受の熱処理として、「浸炭窒化処理と焼入れおよび焼戻し」することは、周知事項(「上記相違点1について」で示した3件の公報に記載された発明も、いずれも、「浸炭窒化処理と焼入れおよび焼戻し」を施している。)であり、刊行物1発明に上記周知事項で挙げた熱処理を適用することは当業者が容易に実施できることである。

[相違点3について]
刊行物1発明の表層部の炭窒化物は、「最大粒径」で「8μm以下」として、該粒径は小さい方が望ましいことが示唆されていることに照らせば、当業者がその数値範囲を最適化する動機は十分に存在していたということができ、かつ、刊行物2には、炭化物ではあるが分散析出させる平均粒径の最適化の程度としてナノオーダー(50?300nm)のものが記載されている(上記刊行物2の記載事項(セ)及び(ソ))ことに照らせば、上記炭窒化物を「最大粒径」ではなく「平均粒径」からみて「100nm以上500nm以下」とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。

[相違点4について]
刊行物1発明の転がり軸受は、自動車のトランスミッションなどに使用されるものであるが、さらに、刊行物2には、転がり軸受が上記トランスミッションの一つである無段変速機(ベルトCVT)、すなわち、ベルト式無段変速機にも使用されることが記載されている。そして、刊行物1発明も刊行物2に記載された発明も転がり軸受という同一の技術分野に属するものであることから、刊行物2発明に接した当業者であれば、刊行物1発明の転がり軸受をベルト式無段変速機のベルトを巻き付けるプーリの回転軸を支持する用途に使用することは容易に想到できることである。

以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明及び刊行物2に記載された発明並びに周知事項を適用して当業者が容易に想到できたものというべきであるところ、本願発明において「合金鋼」の成分などを数値限定した点が、臨界的意義を有するものであるかどうかについて、念のため、検討する。
すなわち、一般に、実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、当業者が通常行うべきことであるから、公知技術に対して数値限定を加えることにより、特許を受けようとする発明が進歩性を有するためには、当該数値範囲を選択することが当業者に容易であったといえないことが必要であり、これを基礎付ける事情として、当該数値範囲に臨界的意義があることが明細書に記載され、当該数値限定の技術的意義が明細書上、明確にされていなければならない。
そこで、本願の明細書の詳細な説明の段落【0015】?段落【0021】に記載された「臨界的意義」について検討すると、合金鋼各成分等の数値限定は、その含有率の上限と下限の意味について次のように説明されている。
炭素(C)について、「熱処理後のマトリックス硬さをHv650とするために、0.60%以上含有する必要がある。1.20%を超えて含有すると、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成され易くなって、転がり疲労寿命や耐衝撃性が著しく低下する場合がある。」(段落【0015】及び【0016】)。
珪素(Si)について、「0.10%未満であると、焼戻し軟化抵抗性を向上させる効果が十分に得られない。1.5%を超えると、加工性が著しく低下する。」(段落【0017】)。
マンガン(Mn)について、「Mnは焼入れ性を高くする作用を有する。0.10%未満であると、この作用が実質的に得られない。1.5%を超えると、加工性が著しく低下する。」(段落【0017】)。
クロム(Cr)について、「Crは、マトリックスに固溶して、焼入れ性、焼戻し軟化抵抗性、耐食性等を高くする元素である。また、微細な炭化物を形成して、熱処理時の結晶粒の粗大化を防止することにより、転がり疲労寿命を長くしたり、耐摩耗性や耐熱性を高くしたりする元素である。0.50%未満であると、これらの作用が十分に得られない。Crの含有率が多いと、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成され易くなって、転がり疲労寿命や機械的強度が著しく低下する場合がある。特に、3.0%を超えると旋削性が低くなる場合がある。」(段落【0017】及び【0018】)。
これらの説明は、いずれも各成分の含有率について、各成分が合金に対して奏する機能に着目して個別に最適化したものというべきであって、それぞれの上限と下限の値を境にして,特性に急激な変化があるという臨界的意義があるものではない。

さらに、本願発明の上記表層部に関する数値限定の上限と下限の意味について、本願の明細書の詳細な説明には、次のように記載されている。
表層部の炭素含有率について、「軌道輪(内輪および/または外輪)の軌道面および/または転動体の転動面をなす表層部の炭素含有率が0.8質量%未満であると、十分な転がり疲れ寿命を得るために必要な硬さが得られない。また、1.30質量%を超えると、巨大炭化物が生成し易くなる。巨大炭化物は割れ起点になり易い。」(段落【0019】及び【0020】)
表層部の窒素含有率について、「0.05%以上であると、焼戻し軟化抵抗性の向上作用によって、微細な炭窒化物が分散析出し易くなる。0.50%を超えると、研磨加工が困難になり、脆性割れ強度が低下する。」(段落【0020】)
表層部の硬さについて、「軌道面等(軌道面および/または転動面)の表層部の硬さ(表面硬さ)がHv700未満であると、耐摩耗性や表面疲労を十分に軽減できない。また、靱性を考慮して上限値をHv850とした。」(段落【0020】)
表層部の残留圧縮応力について、「軌道面等表層部の残留圧縮応力を前記範囲にすることにより、前記表層部に微小な亀裂や微小剥離が生じた場合でも、亀裂伝播を抑制して早期剥離が防止される。」(段落【0020】)
表層部に分散析出されている炭化物および/または炭窒化物の平均粒径について、「前記平均粒径とすることにより、亀裂伝播抑制効果、耐摩耗性向上効果、耐水素脆性抑制のための水素トラップ効果が得られる。」(段落【0021】)
これらの説明も、いずれも、それぞれの数値が有する軸受の機能への影響に対してその評価をしたものであるから、個別に最適化したものというべきであって、それぞれの上限と下限の値を境にして,特性に急激な変化があるという臨界的意義があるものではない。

さらに、本願発明が全体として奏する効果は、本願の明細書の段落【0033】の【表1】に記載された、転がり軸受の合金成分の含有率や表層部の特性を適宜変更して最適な値の組合せを試験的に評価した結果に基づくものであり、こうした試験的に数値範囲の最適値を求めることが当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない以上、予測できないような効果ではない。また、上記各条件を総合して相乗効果を発揮するわけでもない。

なお、審判請求人は、本件審判請求書の中で、
「引用文献2には、ベルトCVT等に使用される転がり軸受において、50?300nmのMo系またはV系の微細な炭化物を分散析出させることが記載されている。しかし、この文献に記載された発明の目的は、軌道輪に強固な不動態被膜を形成することで、異物や泥水が混入する潤滑状態が良好でない環境下における早期剥離を防止し、軸受寿命を大幅に延長することである。そのために、軌道輪をなす鋼のクロム(Cr)含有率を10.0?13.0wt%としている。
また、引用文献2の[0009]には、先願技術2ではクロム含有率が4.0?8.0wt%であるため、十分な厚さの不動態被膜が形成されないため、十分な効果が期待できないとの記載がある。この記載は、本発明で使用する合金鋼の「クロム含有率=0.50%以上3.0%以下」を否定する記載である。したがって、引用文献2は、本願の引用文献として不適切である。
また、当業者が引用文献1と引用文献2を組み合わせたとしても、使用する合金鋼のクロム含有率が異なる本発明に容易に想到することはない。」(平成19年11月27日付けの審判請求の理由に対する手続補正書の【本願発明が特許されるべき理由】の項参照)など、本願発明は、当業者が容易に想到できるものではない旨、主張している。
しかしながら、上記刊行物2(審判請求書の「引用文献2」に相当)に記載されている「微細な炭化物を分散析出」した転がり軸受は、炭化物の平均粒径の最適化の程度としてナノオーダー(50?300nm)であることを示唆しているものであり、この限りにおいてはクロムの含有率に左右される技術事項ではない。したがって、本願発明は、上記に説示したとおり、刊行物1発明に刊行物2に記載された技術事項を適用して当業者が容易に想到できたものである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび

以上のとおり、本願発明は、原査定の拒絶理由に引用された刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2008-10-07 
結審通知日 2008-10-14 
審決日 2008-10-27 
出願番号 特願2002-164263(P2002-164263)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谿花 正由輝  
特許庁審判長 川上 益喜
特許庁審判官 村本 佳史
岩谷 一臣
発明の名称 転がり軸受、これを用いたベルト式無段変速機  
代理人 内藤 嘉昭  
代理人 森 哲也  
代理人 崔 秀▲てつ▼  
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