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審決分類 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
管理番号 1189920
審判番号 不服2004-26593  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-12-28 
確定日 2008-12-25 
事件の表示 特願2000-177749「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月11日出願公開、特開2001-340574〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1.手続きの経緯

本願は、平成12年5月30日に出願された特願2000-159701号の一部を特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願としたものであって、平成16年12月1日付で拒絶査定がされたのに対し、同年12月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付手続補正がされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成16年12月28日付の手続補正を却下するとともに、平成20年4月21日付で最後の拒絶理由を通知したところ、請求人は平成20年6月6日付で意見書と手続補正書を提出した。


第2.補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成20年6月6日付けの手続補正(以下、「第2補正」という。)を却下する。

[理由]

1.補正内容

第2補正は、特許請求の範囲の補正を含んでおり、特許請求の範囲についてみると、次の(補正前)から(補正後)へと補正するものである(ただし、下線は当審による)。なお、平成16年12月28日付の手続補正は先に当審において却下したので、(補正前)の特許請求の範囲とは、平成16年11月8日付手続補正(以下、「第1補正」という。)により補正された明細書中の特許請求の範囲である。

(補正前)
「【請求項1】 図柄を変動表示可能な第1図柄表示部L1、第2図柄表示部L2及び第3図柄表示部L3を有する図柄表示器を有し、
可変表示ゲームにおいて、第1図柄表示部L1、第2図柄表示部L2、第3図柄表示部L3の図柄を一斉に変動し、その後、第1図柄表示部L1、第2図柄表示部L2、第3図柄表示部L3の順に図柄を停止して、それらの図柄が予め設定された大当たり図柄を表示すると遊技者に有利な状態になる遊技機であって、
前記可変表示ゲームにおいて、
第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2の図柄に同じ図柄を停止表示してリーチとした後に、前記図柄表示器には第3図柄表示部L3のみを表示し、
その第3図柄表示部L3にリーチ図柄を変動表示すると共に大当たり予告が可能であり、
その後、前記第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2と第3図柄表示部L3に確定図柄を停止表示することを特徴とする遊技機。
【請求項2】 大当たり予告は第3図柄表示部L3の図柄によって行うことを特徴とする請求項1の遊技機。
【請求項3】 大当たりになったときには、第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2が同じ図柄を表示してのリーチの時の図柄と異なる図柄を第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2及び第3図柄表示部L3に表示することを特徴とする請求項1又は請求項2の遊技機。」

(補正後)
「【請求項1】 図柄を変動表示可能な第1図柄表示部L1、第2図柄表示部L2及び第3図柄表示部L3を有する図柄表示器を有し、
可変表示ゲームにおいて、第1図柄表示部L1、第2図柄表示部L2、第3図柄表示部L3の図柄を一斉に変動し、その後、第1図柄表示部L1、第2図柄表示部L2、第3図柄表示部L3の順に図柄を停止して、予め設定された大当たり図柄を表示すると大当たりとなる遊技機であって、
前記可変表示ゲームにおいて、
第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2に同じ図柄を停止表示してリーチとした後に、第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2の図柄を消去し、 前記第3図柄表示部L3は、
前記第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2に停止表示して消去した図柄より大きく、更に、その消去した図柄と同じ図柄は遊技者に大当たりとなる旨を印象づける態様で変動表示し、
その後、前記第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2に消去した図柄を再表示することにより、第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2と第3図柄表示部L3に確定図柄を停止表示することを特徴とする遊技機。
【請求項2】 遊技者に大当たりとなる旨を印象づける態様は図柄を点滅表示することである請求項1の遊技機。
【請求項3】 前記第3図柄表示部L3は、前記第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2に停止表示して消去した図柄と異なる図柄を遊技者に大当たりとなる旨を印象づける態様で変動表示し、
その後、前記第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2に消去した図柄と異なる図柄を再表示することにより、第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2と第3図柄表示部L3に確定図柄を停止表示することを特徴とする請求項1又は請求項2の遊技機。」

上記補正前後の特許請求の範囲を比較すると、第2補正の補正内容は以下のとおりである。

<補正事項1>
請求項1において、補正前の「それらの図柄が予め設定された大当たり図柄を表示すると遊技者に有利な状態になる」を、「予め設定された大当たり図柄を表示すると大当たりとなる」に変更した。

<補正事項2>
請求項1において、補正前の「第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2の図柄に同じ図柄を停止表示して」なる記載から、「の図柄」を削除した。
<補正事項3>
請求項1において、補正前の「前記図柄表示器には第3図柄表示部L3のみを表示し、」を、「第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2の図柄を消去し、」に変更した。

<補正事項4>
請求項1において、補正前の「その第3図柄表示部L3にリーチ図柄を変動表示すると共に」を、「前記第3図柄表示部L3は、前記第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2に停止表示して消去した図柄より大きく、更に、・・・変動表示し、」に変更した。

<補正事項5>
請求項1において、補正前の「大当たり予告が可能であり、」を、「その消去した図柄と同じ図柄は遊技者に大当たりとなる旨を印象づける態様で(変動表示し、)」と変更した。

<補正事項6>
請求項1において、補正前の「その後、」と「前記第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2と第3図柄表示部L3に確定図柄を停止表示する」との間に、「前記第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2に消去した図柄を再表示することにより、」を挿入した。

<補正事項7>
請求項2において、補正前の「大当たり予告は第3図柄表示部L3の図柄によって行うことを特徴とする」を、「遊技者に大当たりとなる旨を印象づける態様は図柄を点滅表示することである」に変更した。

<補正事項8>
請求項3において、補正前の「大当たりになったときには、」を、「前記第3図柄表示部L3は、前記第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2に停止表示して消去した図柄と異なる図柄を遊技者に大当たりとなる旨を印象づける態様で変動表示し、その後、」と変更し、また、補正前の「第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2が同じ図柄を表示してのリーチの時の図柄と異なる図柄を第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2及び第3図柄表示部L3に表示する」を「前記第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2に消去した図柄と異なる図柄を再表示することにより、第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2と第3図柄表示部L3に確定図柄を停止表示する」に変更した。

2.補正目的の検討

(1)請求項の削除かについて
第2補正の前後で請求項の数は変わっておらず、第2補正は請求項の削除を目的とするものではない。

(2)補正事項1乃至4並びに補正事項6について
補正事項1乃至3について検討すると、まず、大当たり図柄を表示して遊技者に有利な状態になることと大当たり図柄を表示して大当たりとなることとの間には実質的な相違がなく、強いて言うならば前者の場合は大当たりとなることを当然に介したうえで遊技者に有利な状態になることまでを記載しているのに対して、後者の場合は大当たりとなることまでしか記載していないため、補正事項1は発明を限定するものではない。また、補正事項3は、補正前の記載では第3図柄表示部L3以外の表示は許されないのに対して、補正後には第1図柄表示部L1および第2図柄表示部L2以外の表示は許されるため、補正事項3も発明を限定するものではない。そして、補正前のこれらの箇所の記載は明りょうであるから、補正事項1および3は、誤記の訂正を目的とするもの、不明りょうな記載の釈明を目的とするもののいずれにも、厳密な意味では該当しない。しかしながら、これらの変更は実際上軽微であるので、ここでは補正事項2と合わせ、補正事項1乃至3については、誤記の訂正を目的とするものと認める。
補正事項4は、補正前の「リーチ図柄を変動表示」の部分を、リーチ図柄以外の図柄の変動表示も含むように補正した点については、誤記の訂正を目的とするものと認め、図柄の大きさを「大きく」とした点については、限定であることを認める。補正事項6は、「確定図柄を停止表示」について、第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2には消去した図柄が再表示されることを特定した点で、限定であることを認める。

(3)補正事項5および補正事項7について
補正事項5および補正事項7は、補正前には「大当たり予告が可能」であり、また「大当たり予告」を「行う」のに対して、補正後には「その消去した図柄と同じ図柄は」、すなわち、いわゆるリーチ図柄は「遊技者に大当たりとなる旨を印象づける態様で変動表示する」ものであり、具体的には「図柄を点滅表示する」態様で変動表示するものである。
ここで、遊技機において「大当たり予告」の語の意味は明確であり、大当たりになることを事前に予告するものであって、たとえ偽報等により予告が完全でない場合があり得ることも考えられるにせよ、それと異なる意味を持つものではない。
これに対して、補正後の記載では、いわゆるリーチ図柄である「その消去した図柄と同じ図柄は遊技者に大当たりとなる旨を印象づける態様で変動表示」するというものである。すなわち、停止表示されれば大当たりとなる図柄を変動表示中に印象づけ、同じく変動表示中の他の図柄との識別を強調するのであって、当該大当たりとなる図柄が実際に停止表示されることを予告する「大当たり予告」とは、全く意味内容が異なる。
上記補正前後の意味内容の相違は、特許請求の範囲の記載のみからも明らかであるが、それに加えて請求人もまた、当該「大当たり予告」と変動表示中に当たりとなる図柄を印象づけることとの明確な意味の相違は認識しており、当該「大当たり予告」の語を導入した第1補正と同日付の意見書において、次のように主張している。
「(2)引用文献2(特開平4-352977号公報)との対比
(イ)この公報の段落[0014]には、「この変動表示用LED35a?35eは、後述するリーチ状態時に最終図柄列49cに当たり図柄が表示され得る位置に近付きつつあること又は当該位置に来たことを電気的に表示するものである。」旨が開示してある。(ロ)しかし、この表示態様は、「大当たり」になったことを予告するものではない。即ち、最終図柄列49cの図柄が、変動し、当たり図柄に近付きつつあること。、又は、当該図柄になったことを報知するに過ぎず、「大当たり」になったか否かは、この引用文献2に記載の事項から明らかでないと思料する。」(平成16年11月8日付意見書第2頁36-43行)
すなわち、請求人もまた、「大当たり予告」と変動表示中に当たりとなる図柄を印象づけることとの、明確な意味の相違は認識しており、前者の技術事項が後者の技術事項とは相違することを主張している。
さらに付言すれば、上記請求人の主張を待つまでもなく、当審も、「大当たり予告」と変動表示中の当たり図柄が印象づけられることとは相違する技術内容として区別しており、後記「第3.本件審判請求についての判断」及び先に通知した平成20年4月21日付拒絶理由のいずれにおいても、「大当たり予告」に関する従来技術または周知技術として、上記特開平4-352977号公報は考慮していない。
以上のとおり、補正事項5および7は、補正前の「大当たり予告」を、変動表示中の所定図柄の印象づけという、意味内容の相違する技術内容へと差し替えるものであり、発明を限定するものではない。また補正前の「大当たり予告」の意味内容は明りょうであり、補正事項5および7は不明りょうな記載の釈明または誤記の訂正を目的とするものとは認められない。なお、上記のとおり請求人は、大当たりになったことを予告するという「大当たり予告」の語の意味を認識していたうえに、それに依拠して変動表示中の当たり図柄の印象づけとの相違を主張していたのであるから、その点からしても、「大当たり予告」を主張のとおり異なる技術内容へと変更した補正事項5および7を、誤記の訂正または不明りょうな記載の釈明と認めることはできない。

(4)補正事項8について
補正事項8は、補正前には「大当たりになったとき」についての記載であり、「第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2及び第3図柄表示部L3」の表示図柄は「リーチの時の図柄と異なる図柄」であったところ、補正後には所定の図柄を「印象づける態様で変動表示」した後についての記載であり、また、停止表示する図柄が消去した図柄と「異なる図柄」として特定されるのは、「再表示」が言及される「第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2」のみである。すなわち、補正前と補正後とでは、いかなるときに何をするかという点について、いずれも補正後が補正前をより限定する関係にないから、補正事項8は発明を限定したものではない。また、補正前の当該記載は明りょうであり、補正事項8は不明りょうな記載の釈明あるいは誤記の訂正を目的とするものでもない。

(5)補正目的のまとめ
以上を整理すると、補正事項5、補正事項7および補正事項8を含む第2補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的としたものとも認められず、平成18年改正前特許法第17条の2第4項1号、2号、3号、4号のいずれの規定にも該当しない。
すなわち、第2補正は平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反している。

3.補正却下の結論

上記のとおり、平成20年6月6日付け手続補正は平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反しているから、その余の補正要件を検討するまでもなく、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されなければならない。

よって、結論のとおり決定する。


第3.本件審判請求についての判断

平成20年6月6日付け手続補正、および平成16年12月28日付手続補正は当審において却下したから、同年11月8日付け手続補正(すなわち「第1補正」)で補正された明細書及び図面に基づいて審理する。

1.新規事項追加

第1補正は特許請求の範囲の補正を含んでおり、第1補正後の請求項1の記載は、「第2.補正の却下の決定 1.補正内容」に(補正前)請求項1として示したとおりである。

当該請求項1には「大当たり予告が可能」と記載されているが、当該記載は、当初の特許請求の範囲には記載されていない。請求人はこの事項の補正の根拠として、第1補正と同日付の意見書において「(a)段落[0028?0030]、図7には、リーチアクションにおいて、「図柄表示器に第3図柄表示部L3のみを表示し、その第3図柄表示部L3にリーチ図柄を変動表示すると共に、大当たり予告報知をする(図7(C))」旨が開示してある。(b)又、段落[0032?0035]、図8には、リーチアクションにおいて、「図柄表示器に第3図柄表示部L3のみを表示し、その第3図柄表示部L3にリーチ図柄を変動表示すると共に、大当たり予告報知をする(図8(C))」旨が開示してある。」(平成16年11月8日付け意見書第1頁34-41行)と主張しているので、その妥当性につき検討する。
なるほど、上記の主張された根拠箇所中には、「L3の図柄が、大当たりである旨を印象づける態様で表示する・・・(図7(C))・・・L3の図柄が、大当たり図柄である旨の印象づける態様で表示する(図7(F))」(段落【0029】)、「図柄変動中において、リーチ図柄(大当たり図柄)を、点滅等を介して表示する(図8(C))ことによって、遊技者はリーチ図柄(大当たり図柄)を認識する。・・・リーチ図柄を消去しても、リーチ図柄を遊技者に報知することによって、リーチ図柄を再認識させることができる」(段落【0033】)、「第3図柄表示部L3の図柄変動中に、図7(A)の段階で示したリーチ図柄以外の図柄(或いは図柄表示領域)を点滅等によって図柄を特定し、その図柄が停止したとき、大当たりとなるように構成してもよい」(段落【0035】)との記載がある。
ところが、前掲出願人の主張に反して、これらの箇所中に「大当たり予告」の語は記載されていない。
そして、上記の箇所中には、L3の「図柄」がリーチ図柄等である旨を印象づける報知をするという技術事項は示されていると認められるものの、「大当たり予告」をするという技術事項が示されているわけではない。とりわけ、上記した段落【0033】及び段落【0035】における一連の処理とその目的についての記載からすれば、ここに示される技術事項は、回転変動中の図柄のうちリーチ図柄(あるいは止まれば大当たりとする図柄)を識別させるというだけのものであり、それを超えて「大当たり」を「予告」するというものではない。また、上記した段落【0029】については、当該「印象づけ」をL3の図柄の回転変動中に行うのか回転停止時に行うのかが曖昧とされているが、前者として前述した回転中「図柄」の識別と相違する技術事項が示されているものではないし、後者としても段落【0030】にいうところの「最初の大当たり・・(図7(C))」及び「再度、図柄変動をして、特定図柄の「7」の大当たり・・・(図7(G))」という2つの段階の大当たりについて、それぞれの結果表示を個別に演出することが示されているに過ぎず、それを超えて各段階の「大当たり」を「予告」することが記載されているわけではない。また、最初の段階における「印象づけ」によって2段階目の大当たりを「予告」することが記載されているわけでもない。その余の当初明細書中にも「大当たり予告」の語は記載されておらず、そのような技術事項が記載されたに等しいということはできない。

また、第1補正後の請求項2の記載は「第2.補正の却下の決定 1.補正内容」に(補正前)請求項2として示したとおりであるところ、そこで「大当たり予告」を「行う」と明記されている点は、上に述べたと同様、当初明細書に記載された事項ではなく、また記載されたに等しい事項でもない。

すなわち、第1補正は当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものではないから、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2.進歩性

(1)本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、第1補正後の特許請求の範囲における請求項1の記載によって特定されるものであり、その記載は「第2.補正の却下の決定 1.補正内容」に(補正前)請求項1として示したとおりである。

(2)引用刊行物およびそこにおける記載事項の認定
本願出願日前に頒布された刊行物である、特開平5-123441号公報(以下、「引用例」という。)には、次の記載がされている。
ア.「複数種類の識別情報が可変表示可能な可変表示部を複数有する可変表示装置が設けられ、該可変表示装置の停止時の表示結果が予め定められた特定の識別情報の組合せになった場合に所定の遊技価値が付与可能な状態となる遊技機であって、
前記可変表示装置を可変表示させるとともに、予め定められた可変停止条件の成立に基づいて、前記複数の可変表示部を停止時期を異ならせて停止制御可能な可変表示制御手段と、
前記複数の可変表示部の一部がまだ可変表示している段階で、停止している可変表示部の表示結果が前記特定の識別情報の組合せの成立条件を満たしている場合に、可変表示中の識別情報を拡大して表示する拡大表示手段とを含むことを特徴とする、遊技機。」(【請求項1】)
イ.「図1は、弾球遊技機の一例のパチンコ遊技機の遊技盤面を示す正面図である。・・・・・その始動入賞玉検出器の検出信号に基づいて、前記可変表示装置3の各図柄表示部3a,3b,3cが可変開始される。そして、所定時間の経過に基づいてまず左図柄表示部3aが停止し、その後中図柄表示部3bが停止し、最後に右図柄表示部3cが停止し、停止時の表示結果が予め定められた特定の識別情報(たとえば777)になれば、可変入賞球装置4の開閉板を開成させて遊技者にとって有利な第1の状態とし所定の遊技価値が付与可能な状態にする。」(段落【0008】)
ウ.「左図柄表示部3aと中図柄表示部3bとが停止された状態で、停止している可変表示部(3a,3b)の表示結果が特定の識別情報の組合せ(たとえば777)の成立条件を満たしている場合(リーチ状態)には、図3に示すように、可変表示中の識別情報(右図柄表示部3cで表示される識別情報)が拡大されて表示される。この拡大された可変表示中の識別情報は、液晶表示器22により点滅しながらゆっくり変動表示され、所定時間後に停止制御される。なお、この可変表示中の識別情報が拡大表示されている最中においては、左図柄表示部3aと中図柄表示部3bとで表示される識別情報は図3に示すように左上隅に縮小された状態で表示される。これにより、遊技者は、既に停止している可変表示部の識別情報を忘れてしまうという不都合がなく、さらに、リーチ状態において遊技者が注視する変動中の識別情報が見やすくリーチ状態時における遊技者の期待感をより一層盛り上げることができる。なお、リーチ時に行なわれる可変表示中の識別情報の拡大表示は、液晶表示器22とは別に設けられた拡大表示用の表示器により表示させてもよい。また左上隅に縮小表示された左図柄と中図柄を表示しなくても良いし、どちらか一方を表示するようにしても良い。」(段落【0016】)

(2)引用発明の認定
引用例は記載事項ア.の末尾にあるとおり「遊技機」に関する。
記載事項ア.における「可変表示部」は、記載事項イ.の具体例で「左図柄表示部3a」「中図柄表示部3b」「右図柄表示部3c」であり、記載事項ウ.にあるように「可変表示器」は「液晶表示器22」であり得る。すなわち、引用例には「複数種類の識別情報が可変表示可能な左図柄表示部3a、中図柄表示部3b、右図柄表示部3cを有する液晶表示器22」なる技術事項が開示されている。
記載事項ア.における「前記可変表示装置を可変表示させるとともに」は、記載事項イ.により具体化すれば「始動入賞玉検出器の検出信号に基づいて・・各図柄表示部3a,3b,3cが可変開始される」である。また、同記載事項イ.によれば、「所定時間の経過に基づいてまず左図柄表示部3aが停止し、その後中図柄表示部3bが停止し、最後に右図柄表示部3cが停止し」という処理が後続し、「停止時の表示結果が予め定められた特定の識別情報(たとえば777)になれば、・・・遊技者にとって有利な第1の状態」となる。
さらに、記載事項ウ.によると、「左図柄表示部3aと中図柄表示部3bとが停止された状態」で、「リーチ状態」となった場合には、「可変表示中の識別情報」である「右図柄表示部3cで表示される識別情報」を「拡大」して「液晶表示部22」に「変動表示」し、「所定時間後に停止制御」する技術事項が開示されている。加えて同記載事項ウ.によると、「この可変表示中の識別情報が拡大表示されている最中においては・・・・・左上隅に縮小表示された左図柄と中図柄を表示しなくても良い」から、すなわち当該拡大表示の「最中」においては「左図柄と中図柄を表示しない」という技術事項も開示されている。

以上を整理すると、引用例には、
「複数種類の識別情報が可変表示可能な左図柄表示部3a、中図柄表示部3b、右図柄表示部3cを有する液晶表示器22を有し、
始動入賞玉検出器の検出信号に基づいて、各図柄表示部3a,3b,3cが可変開始され、所定時間の経過に基づいてまず左図柄表示部3aが停止し、その後中図柄表示部3bが停止し、最後に右図柄表示部3cが停止し、停止時の表示結果が予め定められた特定の識別情報(たとえば777)になれば、遊技者にとって有利な第1の状態となる遊技機であって、
左図柄表示部3aと中図柄表示部3bとが停止された状態で、リーチ状態となった場合には、可変表示中の識別情報である右図柄表示部3cで表示される識別情報を拡大して液晶表示器22に変動表示し、所定時間後に停止制御し、
この可変表示中の識別情報が拡大表示されている最中においては、左図柄と中図柄を表示しない、
遊技機」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)引用発明と本願発明との対比
上記引用発明と本願発明とを対比する。
引用発明における「識別情報」、「可変表示」は、それぞれ本願発明の「図柄」、「変動表示」に相当する。また、引用発明における「左図柄表示部3a、中図柄表示部3b、右図柄表示部3c」は、本願発明における「第1図柄表示部L1、第2図柄表示部L2及び第3図柄表示部L3」に相当し、引用発明における「液晶表示器22」中のこれら表示部3a、3b、3cに対応する表示器部分は、本願発明の「図柄表示部」に相当する。
引用発明の遊技機における「各図柄表示部3a,3b,3c」の「可変開始」は、いずれも「始動入賞玉検出器の検出信号」に基づくものであり、また停止時と異なり各図柄表示部において時間が異なる旨の記載もないから、本願発明における「一斉に変動し」と実際上相違しない。また、引用発明における「所定時間の経過に基づいてまず左図柄表示部3aが停止し、その後中図柄表示部3bが停止し、最後に右図柄表示部3cが停止し、」は、本願発明における「その後、第1図柄表示部L1、第2図柄表示部L2、第3図柄表示部L3の順に図柄を停止して」に相当する。そして、引用発明におけるこれら図柄表示の「可変開始」から「停止」までは、本願発明における「可変表示ゲーム」に相当する。
引用発明において「停止時の表示結果が予め定められた特定の識別情報(たとえば777)になれば、遊技者にとって有利な第1の状態となる」は、本願発明における「それらの図柄が予め設定された大当たり図柄を表示すると遊技者に有利な状態になる」に相当する。
引用発明において、「左図柄と中図柄を表示しない」という可変表示中の識別情報の拡大表示の「最中」とは、すなわち「左図柄表示部3aと中図柄表示部3bとが停止された状態で、リーチ状態となった」時点の後であり、リーチとなった時点においては左図柄表示部3aと中図柄表示部3bとに同じ識別情報を停止表示したことが明らかであるから、前記「最中」は本願発明における「第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2の図柄に同じ図柄を停止表示してリーチとした後に、」に相当する。また当該「最中」には、「液晶表示器22」中の図柄表示部3a、3b、3cに対応する表示器部分中、「右図柄表示部3cで表示される識別情報」しか表示を行っていないから、このことは本願発明における「前記図柄表示器には第3図柄表示部L3のみを表示し、」に相当する。さらに、引用発明において「可変表示中の識別情報である右図柄表示部3cで表示される識別情報」の「変動表示」の中には、当然に「リーチ」に対応する識別情報も含まれているから、このことは本願発明における「その第3図柄表示部L3にリーチ図柄を変動表示する」に相当する。
引用発明において「所定時間後に停止制御」することと、本願発明において「その後、前記第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2と第3図柄表示部L3に確定図柄を停止表示すること」とは、「その後、最後の図柄表示部も停止する」点で一致する。

以上を整理すると、引用発明と本願発明とは、
「図柄を変動表示可能な第1図柄表示部L1、第2図柄表示部L2及び第3図柄表示部L3を有する図柄表示器を有し、
可変表示ゲームにおいて、第1図柄表示部L1、第2図柄表示部L2、第3図柄表示部L3の図柄を一斉に変動し、その後、第1図柄表示部L1、第2図柄表示部L2、第3図柄表示部L3の順に図柄を停止して、それらの図柄が予め設定された大当たり図柄を表示すると遊技者に有利な状態になる遊技機であって、
前記可変表示ゲームにおいて、
第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2の図柄に同じ図柄を停止表示してリーチとした後に、前記図柄表示器には第3図柄表示部L3のみを表示し、
その第3図柄表示部L3にリーチ図柄を変動表示すると共に、
その後、最後の図柄表示部も停止する、遊技機。」
という点で一致し、以下の点で相違、または一応のところ相違する。

・相違点1
本願発明ではリーチとした後の変動表示と共に「大当たり予告が可能」であるのに対して、引用発明ではその記載がない点。
・相違点2
本願発明では「その後、前記第1図柄表示部L1と第2図柄表示部L2と第3図柄表示部L3に確定図柄を停止表示する」のに対して、引用発明ではその旨が直接明記はされていない点。

(4)相違点の判断および本願発明の進歩性
相違点1について検討すると、引用発明がリーチ時において可変表示中の識別情報の拡大表示を行う目的の1つとして、記載事項ウ.には「リーチ状態時における遊技者の期待感をより一層盛り上げる」ことが示されている。また一方で、遊技者の期待を盛り上げる演出として、いわゆる「大当たり予告」は、たとえば特開2000-140264号公報に「予告表示を行うタイミング(特定のタイミング)になると・・・・遊技者は予告によって大当たりに近い遊技状態にあることを認識」(段落【0036】)ならびに「用語の「特定のタイミング」は、・・・例えば、リーチ時、リーチになってから抽選が終わるまでの抽選期間、」(段落【0009】)と記載され、また特開2000-126384号公報に「大当りの予告をする」(段落【0064】)と記載され、さらには特開2000-107391号公報に「大当り予告機能」(段落【0173】)と記載されるように、周知技術である。そうであれば、引用発明において、「リーチ状態時」における「期待感をより一層盛り上げる」という記載された目的に沿う演出をさらに意図して、周知の「大当たり予告」を「リーチ状態」中の演出として併せて採用し、相違点1に係る本願発明の構成を得ることは、困難性がなかったものといわざるを得ない。
相違点2について検討すると、引用発明において「左図柄と右図柄を表示しない」のは、残る最後の識別情報を拡大して変動表示している「最中」のことであり、その「最中」を過ぎた後には左図柄と右図柄を表示しない理由がない。また、そもそも引用例においても、全ての図柄表示部の停止によって「停止時の表示結果が予め定められた特定の識別情報」たとえば「777」になるかという遊技のために、図柄の変動表示と停止を行わせているのであるから、最後の変動表示の「最中」には「左図柄と中図柄を表示しない」としても、実際上最終的には全ての図柄表示部に「確定図柄」を「停止表示」して、図柄の変動表示による遊技の結果を示しつつ1回の該遊技を終えていると考えるべきである。すなわち、相違点2は実質的な相違点ではなく、相違点としても単なる設計事項というほかはない。
以上のとおり、相違点1-2に係る本願発明の構成を得ることは困難ではなく、また、そのようにして本願発明の構成を採用したことによる効果も、格別のものとは認められない。
したがって、本願発明は引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4.むすび

第2補正は却下されなければならず、また、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさない補正がされているとともに、本願発明が特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2008-10-10 
結審通知日 2008-10-21 
審決日 2008-11-04 
出願番号 特願2000-177749(P2000-177749)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63F)
P 1 8・ 55- WZ (A63F)
P 1 8・ 571- WZ (A63F)
P 1 8・ 573- WZ (A63F)
P 1 8・ 574- WZ (A63F)
P 1 8・ 572- WZ (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 酒井 保吉村 尚  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 伊藤 陽
有家 秀郎
発明の名称 遊技機  
代理人 犬飼 達彦  

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