ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H |
---|---|
管理番号 | 1189943 |
審判番号 | 不服2006-13297 |
総通号数 | 110 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-02-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-06-26 |
確定日 | 2008-12-25 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第292292号「厚みすべりセラミック発振子」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月29日出願公開、特開平10-145175〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成8年11月5日の出願であって、平成18年5月19日付けで拒絶査定がなされ(発送日同年5月30日)、これに対し、平成18年6月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成18年6月26日付けで手続補正がなされたものである。 第2 平成18年6月26日付けの手続補正についての補正却下の決定 〔結論〕 平成18年6月26日付けの手続補正を却下する。 〔理由〕 1.補正内容 平成18年6月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)は、特許請求の範囲の補正を含むものであって、 本件補正前の特許請求の範囲第1乃至2項、すなわち、 「 【請求項1】 略矩形のセラミック基板と、該セラミック基板の両面に長辺方向に沿って形成され短辺方向の中央部において互いに対向する電極から成り、短辺方向に切断されて複数の発振子とされる厚みすべりセラミック発振子基体において、 前記セラミック基板はチタン酸ジルコン酸鉛から成り、 前記セラミック基板の大きさは、長辺方向が略34.3mm、短辺方向が略4.4mm、厚さが略0.25mmであり、 前記電極の互いに対向する部位が前記セラミック基板の一短辺から他短辺まで形成されているとともに、前記各電極が前記セラミック基板の長辺に沿う側面にまで連続して形成されていることを特徴とする厚みすべりセラミック発振子基体。 【請求項2】 請求項1に記載のセラミック発振子基体を前記短辺方向に切断することによって形成され、前記側面に形成された電極が配線電極に対し接続部となる厚みすべりセラミック発振子。」 であったものを、本件補正後の特許請求の範囲第1項、すなわち、 「【請求項1】 チタン酸ジルコン酸鉛から成るとともに長辺方向が略34.3mm、短辺方向が略4.4mm、厚さが略0.25mmに形成された略矩形のセラミック基板と、該セラミック基板の両面に長辺方向に沿って形成され短辺方向の中央部において互いに対向する電極とから成り、前記電極の互いに対向する部位が前記セラミック基板の一短辺から他短辺まで形成されているとともに、前記各電極が前記セラミック基板の長辺に沿う側面にまで連続して形成されている厚みすべりセラミック発振子基体を前記短辺方向に切断することによって形成され、前記セラミック基板に形成された電極よりも肉厚の配線電極に対し、前記側面に形成された電極が接続部となる厚みすべりセラミック発振子。」 に補正するものである。 つまり、本件補正は、 本件補正前の特許請求の範囲第1項を削除する補正(以下、「本件補正1」という。)、 及び、 本件補正前の(特許請求の範囲第1項を引用することにより、特許請求の範囲第1項の発明特定事項を含む)特許請求の範囲第2項に対して、「前記セラミック基板に形成された電極よりも肉厚の配線電極」という規定を付加する補正を行った上で、本件補正後の特許請求の範囲第1項として繰り上げること(以下、「本件補正2」という。) を含むものである。 2.本件補正に対する判断 (1)本件補正1について 本件補正1は、特許法第17条の2第4項第1号に規定された「請求項の削除」に該当するので、適法な補正である。 (2)本件補正2について (a) 本件補正前の特許請求の範囲第2項に対して、「前記セラミック基板に形成された電極よりも肉厚の配線電極」という規定を付加する補正を行うことは、 特許法第17条の2第4項第1号に規定された「請求項の削除」に該当しない。 (b) 本件補正2が、特許法第17条の2第4項第2号に規定された「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」に該当するか否かを検討する。 本件補正前の明細書(特に、平成17年9月27日付けの手続補正書を参照)の、 「 【0012】 本発明は、セラミック発振子基体の短辺近傍に不振動領域が存在することに起因する発振子の発振周波数のばらつきを低減することを目的とする。」 及び、 「 【0047】 【発明の効果】 本発明の厚みすべりセラミック発振子基体によるときは、基体の発振が長辺方向全体に亙って一様になるとともに、基体のインピーダンス特性が良好になる。その結果、基体と発振子の発振周波数がよく相関して、得られる発振子の発振周波数を基体の発振周波数から正しく知ることができる。したがって、切断後の発振子の発振周波数を調節するために基体に樹脂を塗着する処理を適切に行うことが可能になり、発振子の周波数のばらつきを減少させて各発振子の周波数を所望の周波数範囲内に容易に収めることができる。さらに、短辺近傍も発振子として利用できるから、歩留まりが大きく向上する。 【0048】 また、本発明の厚みすべりセラミック発振子基体からは、電極が端面にまで延設された発振子を得ることができる。端面の電極は電力供給用配線への接続に利用することが可能であり、発振子の固定と電気的な接続が容易になる。 【0049】 本発明の厚みすべりセラミック発振子基体は、構造においても材料においても良好な基体であり、発振特性の優れた発振子を得ることができる。」 という記載から、本件補正前の請求項2に係る発明が解決しようとする課題は、 ・発振子の周波数のばらつきを減少させて各発振子の周波数を所望の周波数範囲内に容易に収めること、 ・厚みすべりセラミック発振子基体の短辺近傍も発振子として利用することにより、歩留まりが大きく向上すること、 ・発振子の固定と電気的な接続を容易にすること、 である。 一方、本件補正2によって付加された事項、すなわち、「前記セラミック基板に形成された電極よりも肉厚の配線電極」という規定を付加することに関して、 本出願当初明細書の、 「 【0039】 厚みすべりセラミック発振子基体10を切断して作成された厚みすべりセラミック発振子は、それぞれ容器に収納されて発振回路として供給される。発振子を容器に収納した状態の断面図を図5に示す。容器41は蓋41aを有しており、これらは絶縁性の樹脂から成る。容器41の内底には電力供給用の配線電極42、43が設けられており、発振子10aは不振動領域である両端部を導電性樹脂ペーストによって配線電極42、43に固着される。配線電極42、43は肉厚に形成されており、発振子10aの中央部の振動領域が容器41に接触することはない。」 という記載、 平成18年6月26日提出の審判請求書における、 「セラミック発振子の側面に形成された電極を配線電極に接続した後、セラミック発振子が厚みすべり振動すると、セラミック基板に形成された電極と配線電極とが引っ張りあうことになります。 このとき、セラミック基板に形成された電極よりも配線電極のほうが薄いと配線電極の方が先に剥離しやすくなります。セラミック基板に形成された電極が剥離した場合、発振子自体を交換すればよいので、発振回路の修復にそれほど手間はかかりません。一方、配線電極はキャパシタ、抵抗等の電気素子にも接続されていますので、配線電極が剥離した場合、配線電極を簡単に交換というわけにはいかず、発振回路の修復に手間がかかるという問題が生じます。 この点、請求項1の構成では、セラミック基板に形成された電極よりも配線電極のほうが肉厚に形成されています。 これにより、セラミック発振子が厚みすべり振動しても、セラミック基板に形成された電極に比し、配線電極が剥離しにくくなります。したがって、上述した問題が解消されます。」 という主張、 平成20年7月25日付け回答書における、 「(イ)「前記セラミック基板に形成された電極よりも肉厚の配線電極に対し、前記側面に形成された電極が接続部となる」との事項(以下、事項Aとします。) ・・・(中略)・・・ そして、事項Aは、補正前の本願発明の「配線基板に取り付けるとき、本願発明では発振子を寝かせた状態で配線基板に取り付けることができる」ということに関係する構成であります。 具体的にご説明いたしますと、前記各電極が前記セラミック基板の長辺に沿う側面にまで連続して形成されることにより、発振子を配線基板に取り付けるとき、発振子を寝かせた状態で配線基板に取り付けることができます(本願図5、[0040]、[0041]参照)。そして、セラミック発振子の側面に形成された電極を配線電極に接続した後、セラミック発振子が厚みすべり振動しますと、配線電極とセラミック基板に形成された電極とが引っ張りあうことになります。 この点、事項Aによれば、前述いたしましたように、修繕に手間のかかる配線電極が剥離しにくくなります。したがって、事項Aにより、配線電極の剥離の防止しつつ、発振子を寝かせた状態で配線基板に取り付けることができるという格別な効果を奏します。」 という主張から、 「前記セラミック基板に形成された電極よりも肉厚の配線電極」とすることが解決しようとする課題は、 ・発振子の中央部の振動領域が容器に接触しないようにすること、 ・セラミック基板に形成された電極に比して、修繕に手間のかかる配線電極を剥離しにくくすること、 であることは明らかである。 (なお、「発振子を寝かせた状態で配線基板に取り付けることができるという格別な効果」に関する主張は、「前記セラミック基板に形成された電極よりも肉厚の配線電極」とすることとは、直接関係がない。) したがって、本件補正2によって付加された事項が解決しようとする課題は、本件補正前の発明が解決しようとする課題とは同一ではないから、 本件補正2は、特許法第17条の2第4項第2号に規定された「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」に該当しない。 (c) 本件補正2が、特許法第17条の2第4項第3号に規定された「誤記の訂正」、及び特許法第17条の2第4項第4号に規定された「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」に該当しないことは明らかである。 3.むすび したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明の認定 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成17年9月27日付けの手続補正書の特許請求の範囲第1項に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「 【請求項1】 略矩形のセラミック基板と、該セラミック基板の両面に長辺方向に沿って形成され短辺方向の中央部において互いに対向する電極から成り、短辺方向に切断されて複数の発振子とされる厚みすべりセラミック発振子基体において、 前記セラミック基板はチタン酸ジルコン酸鉛から成り、 前記セラミック基板の大きさは、長辺方向が略34.3mm、短辺方向が略4.4mm、厚さが略0.25mmであり、 前記電極の互いに対向する部位が前記セラミック基板の一短辺から他短辺まで形成されているとともに、前記各電極が前記セラミック基板の長辺に沿う側面にまで連続して形成されていることを特徴とする厚みすべりセラミック発振子基体。」 2.引用例の認定 原査定の拒絶の理由に引用された、特開昭55-64413号公報(以下、「引用例」という)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。 (ア) 「この発明は2つの外部接続端子を共振子本体の表裏面の一方からのみ取出すことができ量産性のよい圧電セラミック共振子の製造法を提供することを目的とする。 この目的を達成するため、この発明は分極工程で用いた分極用電極を利用して、この分極用電極を介して反対側の引出し電極と接続される補助電極を共振子本体の少なくとも一方の面に形成し、この補助電極に一方の外部接続端子を接続するものである。」 (第1頁右欄第13行から第2頁左上欄第2行) (イ) 「以下この発明を実施例により詳細に説明する。 第1図に示したように厚みすべり振動を利用する圧電セラミック共振子の共振子本体1は矢印方向、すなわち厚み方向に対し直角(板面に平行)方向に分極がなされる。この分極操作を行なうには、通常第2図に示すようにセラミックブロック5の端面に例えば銀ペーストを焼付けて分極用電極6a,6bを形成し、この電極6a,6b間に高電圧Eを印加する。」 (第2頁左上欄第3乃至11行) (ウ) 「次にこの分極工程が終了したセラミックブロック5を第3図に示すように、分極方向と平行にシート状に切断し、さらに所望の厚みに研磨した後主電極2a,2b,引出し電極3a,3bとなる電極パターンを例えば蒸着によつて形成し、次いで破線で示すように切断して個々のセラミック共振子を得る。」 (第2頁左上欄第12乃至18行) (エ) 「ここで、従来は通常第2図の分極工程終了後、分極用電極6a,6bの形成された部分を切り落とすが、この発明では分極用電極6a,6bをそのまま残しておく。そして上記の電極パターン形成時に、第3図および第4図に示すように共振子本体1の表裏面にそれぞれ分極用電極6a,6bを介して反対側の面上の引出し電極3a,3bと接続されるように補助電極7a,7bを形成する。この補助電極7a,7bと分極用電極6a,6bとの接続は電極パターンの形成に蒸着法を用いている場合は、雰囲気の端面への若干の回り込み現象を利用することで容易に形成できる。」 (第2頁左上欄第19行から第2頁右上欄第11行) 以上の引用例の記載によれば、引用例には以下の事項が開示されていると認められる。 (a) 引用例の上記(ウ)の「次にこの分極工程が終了したセラミックブロック5を第3図に示すように、分極方向と平行にシート状に切断」するという記載、 引用例の第3図には、シート状に切断されたセラミックブロック5が略矩形であることが図示されていることから、 引用例には、「略矩形のシート状セラミックブロック」が開示されていると認められる。 (b) 上記(a)の「略矩形のシート状セラミックブロック」という開示、 引用例の上記(ウ)の「次にこの分極工程が終了したセラミックブロック5を第3図に示すように、分極方向と平行にシート状に切断し、さらに所望の厚みに研磨した後主電極2a,2b,引出し電極3a,3bとなる電極パターンを例えば蒸着によつて形成」するという記載、 引用例の第3図には、「略矩形のシート状セラミックブロック」の両面に長辺方向に沿って形成され短辺方向の中央部において互いに対向する主電極2a,2bが図示されていることから、 引用例には、「略矩形のシート状セラミックブロックの両面に長辺方向に沿って形成され短辺方向の中央部において互いに対向する電極パターンを有する電極」が開示されていると認められる。 (c) 上記(a)の「略矩形のシート状セラミックブロック」という開示、 上記(b)の「略矩形のシート状セラミックブロックの両面に長辺方向に沿って形成され短辺方向の中央部において互いに対向する電極パターンを有する電極」という開示、 引用例の上記(イ)の「厚みすべり振動を利用する圧電セラミック共振子」という記載、 引用例の上記(ウ)の「次にこの分極工程が終了したセラミックブロック5を第3図に示すように、分極方向と平行にシート状に切断し、さらに所望の厚みに研磨した後主電極2a,2b,引出し電極3a,3bとなる電極パターンを例えば蒸着によつて形成し、次いで破線で示すように切断して個々のセラミック共振子を得る。」という記載から、 引用例には、「略矩形のシート状セラミックブロックと、該シート状セラミックブロックの両面に長辺方向に沿って形成され短辺方向の中央部において互いに対向する電極パターンを有する電極から成り、短辺方向に切断されて複数の圧電セラミック共振子とされる厚みすべり振動を利用する圧電セラミック共振子の基体」が開示されていると認められる。 (d) 上記(c)の「略矩形のシート状セラミックブロックと、該シート状セラミックブロックの両面に長辺方向に沿って形成され短辺方向の中央部において互いに対向する電極パターンを有する電極から成り、短辺方向に切断されて複数の圧電セラミック共振子とされる厚みすべり振動を利用する圧電セラミック共振子の基体」という開示、 引用例の上記(ウ)の「次にこの分極工程が終了したセラミックブロック5を第3図に示すように、分極方向と平行にシート状に切断し、さらに所望の厚みに研磨した後主電極2a,2b,引出し電極3a,3bとなる電極パターンを例えば蒸着によつて形成し、次いで破線で示すように切断して個々のセラミック共振子を得る。」という開示、 引用例の上記(エ)の「ここで、従来は通常第2図の分極工程終了後、分極用電極6a,6bの形成された部分を切り落とすが、この発明では分極用電極6a,6bをそのまま残しておく。そして上記の電極パターン形成時に、第3図および第4図に示すように共振子本体1の表裏面にそれぞれ分極用電極6a,6bを介して反対側の面上の引出し電極3a,3bと接続されるように補助電極7a,7bを形成する。」という記載、 引用例の第3図には、前記電極の互いに対向する部位が前記シート状セラミックブロックの一短辺から他短辺まで形成されているとともに、前記各電極が前記シート状セラミックブロックの長辺の側面を経て他面側にまで回り込んで連続して形成されていることが図示されていることから、 引用例には、「前記電極の互いに対向する部位が前記シート状セラミックブロックの一短辺から他短辺まで形成されているとともに、前記各電極が前記シート状セラミックブロックの長辺の側面を経て他面側にまで回り込んで連続して形成されていること」が開示されていると認められる。 以上の引用例の記載によれば、引用例には下記の発明(以下、「引用例発明」という。)が開示されていると認められる。 「略矩形のシート状セラミックブロックと、該シート状セラミックブロックの両面に長辺方向に沿って形成され短辺方向の中央部において互いに対向する電極パターンを有する電極から成り、短辺方向に切断されて複数の圧電セラミック共振子とされる厚みすべり振動を利用する圧電セラミック共振子の基体において、 前記電極の互いに対向する部位が前記シート状セラミックブロックの一短辺から他短辺まで形成されているとともに、前記各電極が前記シート状セラミックブロックの長辺の側面を経て他面側にまで回り込んで連続して形成されていることを特徴とする厚みすべり振動を利用する圧電セラミック共振子の基体。」 3.本願発明と引用例発明との対比 (1) 引用例発明の「略矩形のシート状セラミックブロック」、「電極パターンを有する電極」、「厚みすべり振動を利用する圧電セラミック共振子の基体」は、 それぞれ、 本願発明の「略矩形のセラミック基板」、「電極」、「厚みすべりセラミック発振子基体」に相当する。 (2) 引用例発明の「圧電セラミック共振子」は、 共振子が有する高いQ値を使用して、主に発振子として用いられることは技術常識であることを鑑みれば、 本願発明の「発振子」に相当する。 (3) 引用例発明の 「略矩形のシート状セラミックブロックと、該シート状セラミックブロックの両面に長辺方向に沿って形成され短辺方向の中央部において互いに対向する電極パターンを有する電極から成り、短辺方向に切断されて複数の圧電セラミック共振子とされる厚みすべり振動を利用する圧電セラミック共振子」と、 本願発明の 「略矩形のセラミック基板と、該セラミック基板の両面に長辺方向に沿って形成され短辺方向の中央部において互いに対向する電極から成り、短辺方向に切断されて複数の発振子とされる厚みすべりセラミック発振子基体において、 前記セラミック基板はチタン酸ジルコン酸鉛から成り、 前記セラミック基板の大きさは、長辺方向が略34.3mm、短辺方向が略4.4mm、厚さが略0.25mm」であるものとは、 「略矩形のセラミック基板と、該セラミック基板の両面に長辺方向に沿って形成され短辺方向の中央部において互いに対向する電極から成り、短辺方向に切断されて複数の発振子とされる厚みすべりセラミック発振子基体」である点で共通し、 ・本願発明の「セラミック基板」が「チタン酸ジルコン酸鉛」から成るのに対し、引用例発明の「セラミック基板」が「チタン酸ジルコン酸鉛」から成るのか不明である点、 ・本願発明の「セラミック基板」の大きさは、長辺方向が略34.3mm、短辺方向が略4.4mm、厚さが略0.25mmであるのに対し、引用例発明の「セラミック基板」の大きさは不明である点、 で相違する。 (4) 引用例発明の「前記電極の互いに対向する部位が前記シート状セラミックブロックの一短辺から他短辺まで形成されているとともに、前記各電極が前記シート状セラミックブロックの長辺の側面を経て他面側にまで回り込んで連続して形成されていること」と、 本願発明の「前記電極の互いに対向する部位が前記セラミック基板の一短辺から他短辺まで形成されているとともに、前記各電極が前記セラミック基板の長辺に沿う側面にまで連続して形成されていること」とは、 「前記電極の互いに対向する部位が前記セラミック基板の一短辺から他短辺まで形成されているとともに、前記各電極が前記セラミック基板の長辺及び側面に連続して形成されていること」で共通し、 本願発明の「各電極」は、セラミック基板の側面にまで形成されているのに対し、引用例発明の「各電極」は、他面側にまで回り込んで形成されている点、 で相違する。 (5) したがって、本願発明と引用例発明とは、 「略矩形のセラミック基板と、該セラミック基板の両面に長辺方向に沿って形成され短辺方向の中央部において互いに対向する電極から成り、短辺方向に切断されて複数の発振子とされる厚みすべりセラミック発振子基体において、 前記電極の互いに対向する部位が前記セラミック基板の一短辺から他短辺まで形成されているとともに、前記各電極が前記セラミック基板の長辺及び側面に連続して形成されていることを特徴とする厚みすべりセラミック発振子基体。」 の点で共通し、以下の点で相違する。 (相違点1) 本願発明の「セラミック基板」が「チタン酸ジルコン酸鉛」から成るのに対し、引用例発明の「セラミック基板」が「チタン酸ジルコン酸鉛」から成るのか不明である点。 (相違点2) 本願発明の「セラミック基板」の大きさは、長辺方向が略34.3mm、短辺方向が略4.4mm、厚さが略0.25mmであるのに対し、引用例発明の「セラミック基板」の大きさは不明である点。 (相違点3) 本願発明の「各電極」は、セラミック基板の側面にまで形成されているのに対し、引用例発明の「各電極」は、他面側にまで回り込んで形成されている点。 4.相違点の判断 (1)相違点1について 厚みすべり現象を利用したセラミック発振子の材料として、「チタン酸ジルコン酸鉛」を採用することは、 ・原査定の備考の欄で引用された、特開平08-242138号公報(特に、段落【0002】及び【0028】を参照) ・特開平08-237066号公報(特に、段落【0002】、【0010】、及び【0014】乃至【0019】を参照) ・特開平05-083079号公報(特に、段落【0003】乃至【0005】を参照) ・実願平05-055344号(実開平07-025621号)のCD-ROM(特に、段落【0003】乃至【0007】、【0017】、【0036】、【図6】を参照) にあるように、一般的に行われている常套手段である。 したがって、引用例発明の「セラミック基板」として、厚みすべり現象が生じる「チタン酸ジルコン酸鉛」を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。 (2)相違点2について 本出願当初明細書に、 「 【0046】 上記実施形態の説明においては代表例として具体的な数値を示したが、本発明の厚みすべりセラミック発振子基体は、これらの数値に限定されるものではなく、基体の一短辺から他短辺にまで振動領域が連続して形成されている限りどのような大きさのものであってもよい。電極形成に使用するマスクやスペーサの種々の寸法は、セラミック基板の大きさに合わせて適宜設定する。また、セラミック材料もPZTに限られるものではなく、電圧印加によって厚みすべり現象が生じ発振するものであれば、他の材料を使用してよい。」 と記載されているように、本審判請求人は、本願発明の「セラミック基板」の大きさを、長辺方向が略34.3mm、短辺方向が略4.4mm、厚さが略0.25mmとすることには、本出願所望の目的を達成するための臨界的意義を有するものでないことを自認している。 そして、厚みすべりセラミック発振子を切断処理によって形成するための「厚みすべりセラミック発振子『基体』」を如何なる形状とするかは、必要とされる「厚みすべりセラミック発振子」の大きさに応じて当業者が適宜成し得る設計的事項である。 (なお、「厚みすべりセラミック発振子『基体』」を研磨したり、樹脂を塗着するなどして「厚みすべりセラミック発振子」を形成することは周知技術であることを鑑みれば、「厚みすべりセラミック発振子『基体』」の大きさを規定することが、即、「厚みすべりセラミック発振子」の大きさを規定することになる訳ではない。 しかも、「厚みすべりセラミック発振子『基体』」の形状と「厚みすべりセラミック発振子」の形状とは、合同の関係にあるわけでも相似の関係にあるわけでもないから、「厚みすべりセラミック発振子『基体』」が有する特性を、「厚みすべりセラミック発振子」も有するとは必ずしもいえない。) したがって、必要とされる「厚みすべりセラミック発振子」を得るべく、引用例発明の「セラミック基板」の大きさを、長辺方向が略34.3mm、短辺方向が略4.4mm、厚さが略0.25mmとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (3)相違点3について 引用例発明のような、「各電極」を側面にまででなく他面側にまで回り込んで形成したものであっても、側面に形成された電極を接続部とすることは、 ・実願昭62-066516号(実開昭63-174716号)のマイクロフィルム(特に、第2図を参照) にあるように、一般的に行われている常套手段である。 しかも、専ら、側面に形成された電極を接続部とする場合、「各電極」を他面側にまで回り込ませて形成する必要はなく、「各電極」を側面にまで形成するのに留めて良いことは明らかであり、 実際、「各電極」を側面にまで形成し、側面に形成された電極を接続部とすることは、 ・実願平05-055344号(実開平07-025621号)のCD-ROM(特に、電極21c,21dより肉厚の接続電極14a,14bが図示された【図6】を参照) にあるように、一般的に行われている常套手段である。 したがって、引用例発明の「各電極」に関して、専ら、側面に形成された電極を接続部とするべく、補助電極7a,7bの形成を省略することにより、 「各電極」を他面側にまで回り込んで形成する代わりに、「各電極」をセラミック基板の側面にまで形成するように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。 5.むすび したがって、本願発明は、引用例発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-10-15 |
結審通知日 | 2008-10-21 |
審決日 | 2008-11-05 |
出願番号 | 特願平8-292292 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H03H)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 聡史、工藤 一光 |
特許庁審判長 |
長島 孝志 |
特許庁審判官 |
飯田 清司 和田 財太 |
発明の名称 | 厚みすべりセラミック発振子 |
代理人 | 佐野 静夫 |