• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1189991
審判番号 不服2007-25741  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-20 
確定日 2008-12-25 
事件の表示 平成 8年特許願第358841号「送りねじ付き直線運動案内装置およびそのインナブロックの成形方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 9月22日出願公開、特開平 9-250541〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成8年12月27日(優先権主張平成8年1月11日)の出願であって、平成19年8月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年9月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成19年10月11日付けで明細書について手続補正がなされたものである。

2 平成19年10月11日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年10月11日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
2-1 補正事項
本件補正は、補正前の明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、
「所定間隔を隔てて互いに平行に設けられる一対の側壁を備えた軌道レールと、
前記軌道レールの側壁間に挿入され軌道レールの長手方向に往復移動自在に設けられるインナブロックと、
前記インナブロックの左右側面と軌道レールの側壁との間に転動自在に介装される複数の直線案内用転動体と、
前記インナブロックに貫通形成された送りねじ孔に螺合される送りねじ軸と、を備え、
前記インナブロックは、ブロック本体と、前記ブロック本体の軸方向両端に取り付けられた側蓋と、を備え、
前記ブロック本体の両側面に前記軌道レールの側壁内側面に形成された転動体転走溝と対向するように転動体転走溝が形成されているとともに、前記ブロック本体の中実部に前記送りねじ孔が貫通形成され、前記ブロック本体の両側面と送りねじ孔との間に軸方向に貫通する直線案内用転動体戻し孔が形成され、
一方、側蓋には、前記軌道レールとブロック本体の対向する転動体転走面間を転動する負荷域の転動体を直線案内用転動体戻し孔に方向転換させる直線案内用転動体方向転換路外周部が設けられた送りねじ付き直線運動案内装置において、
前記ブロック本体の外周部の内少なくとも転動体転走溝が形成される両側面部が薄肉の薄肉レース部材によって構成され、
前記ブロック本体の中実部が薄肉レース部材間を埋める充填材によって構成されているとともに、前記送りねじ孔のねじ溝部が形成された円筒状レース部材が前記充填材内に一体的に埋設され、
前記直線案内用転動体戻し孔が前記充填材に成形されている
ことを特徴とする送りねじ付き直線運動案内装置。」
を、
「所定間隔を隔てて互いに平行に設けられる一対の側壁を備えた軌道レールと、
前記軌道レールの側壁間に挿入され軌道レールの長手方向に往復移動自在に設けられるインナブロックと、
前記インナブロックの左右側面と軌道レールの側壁との間に転動自在に介装される複数の直線案内用転動体と、
前記インナブロックに貫通形成された送りねじ孔に螺合される送りねじ軸と、を備え、
前記インナブロックは、ブロック本体と、前記ブロック本体の軸方向両端に取り付けられた側蓋と、を備え、
前記ブロック本体の両側面に前記軌道レールの側壁内側面に形成された転動体転走溝と対向するように転動体転走溝が形成されているとともに、前記ブロック本体の中実部に前記送りねじ孔が貫通形成され、前記ブロック本体の両側面と送りねじ孔との間に軸方向に貫通する直線案内用転動体戻し孔が形成され、
一方、側蓋には、前記軌道レールとブロック本体の対向する転動体転走面間を転動する負荷域の転動体を直線案内用転動体戻し孔に方向転換させる直線案内用転動体方向転換路外周部が設けられた送りねじ付き直線運動案内装置において、
前記ブロック本体の外周部の内の少なくとも転動体転走溝が形成される両側面部が薄肉レース部材によって構成され、
前記ブロック本体の中実部が前記薄肉レース部材間を埋める充填材によって構成されているとともに、前記送りねじ孔のねじ溝部が形成された円筒状レース部材が前記充填材内に一体的に構成され、
前記ブロック本体が、金型内に前記円筒状レース部材および前記薄肉レース部材を挿入して充填材を充填する型成形によって一体成形されているとともに、前記直線案内用転動体戻し孔が前記充填材に成形されている
ことを特徴とする送りねじ付き直線運動案内装置。」
とする補正を含んでいる。なお、下線は対比の便のために当審において付したものである。

2-2 補正の目的・新規事項の有無
上記補正は、実質的には、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項に基づいて、補正前の請求項1に記載された「ブロック本体」に関して、「前記ブロック本体が、金型内に前記円筒状レース部材および前記薄肉レース部材を挿入して充填材を充填する型成形によって一体成形されているとともに」と、限定して特定するものであるから、新規事項を追加するものではなく、発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更することのない範囲で、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
よって、本件補正の目的は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する目的に合致する。

2-3 独立特許要件
そこで、上記の特許請求の範囲の減縮を目的とした補正を含む補正後の本願発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2-3-1 本願補正発明
補正後の本願請求項1に係る発明は、平成18年10月30日付け及び平成19年10月11日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下、「本願補正発明」という。)
「所定間隔を隔てて互いに平行に設けられる一対の側壁を備えた軌道レールと、
前記軌道レールの側壁間に挿入され軌道レールの長手方向に往復移動自在に設けられるインナブロックと、
前記インナブロックの左右側面と軌道レールの側壁との間に転動自在に介装される複数の直線案内用転動体と、
前記インナブロックに貫通形成された送りねじ孔に螺合される送りねじ軸と、を備え、
前記インナブロックは、ブロック本体と、前記ブロック本体の軸方向両端に取り付けられた側蓋と、を備え、
前記ブロック本体の両側面に前記軌道レールの側壁内側面に形成された転動体転走溝と対向するように転動体転走溝が形成されているとともに、前記ブロック本体の中実部に前記送りねじ孔が貫通形成され、前記ブロック本体の両側面と送りねじ孔との間に軸方向に貫通する直線案内用転動体戻し孔が形成され、
一方、側蓋には、前記軌道レールとブロック本体の対向する転動体転走面間を転動する負荷域の転動体を直線案内用転動体戻し孔に方向転換させる直線案内用転動体方向転換路外周部が設けられた送りねじ付き直線運動案内装置において、
前記ブロック本体の外周部の内の少なくとも転動体転走溝が形成される両側面部が薄肉レース部材によって構成され、
前記ブロック本体の中実部が前記薄肉レース部材間を埋める充填材によって構成されているとともに、前記送りねじ孔のねじ溝部が形成された円筒状レース部材が前記充填材内に一体的に構成され、
前記ブロック本体が、金型内に前記円筒状レース部材および前記薄肉レース部材を挿入して充填材を充填する型成形によって一体成形されているとともに、前記直線案内用転動体戻し孔が前記充填材に成形されている
ことを特徴とする送りねじ付き直線運動案内装置。」

2-3-2 引用例及びその記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平4-115842号公報(以下、「第1引用例」という。)には、「テーブル移送装置」に関して、図面とともに次の記載がある。
(ア) 「本発明は、たとえば工作機械やロボット等の直線運動部に用いられるテーブル移送装置に関する。」(公報第1ページ右欄第1行及び第2行)
(イ) 「1はテーブル移送装置全体を示しており、概略、ガイドレール2と、このガイドレール2に沿って案内されるテーブル3と、テーブル3を駆動するための送りねじ軸としてのボールねじ軸4とから構成されている。
ガイドレール2は断面コ字形状で、その上面に開口する凹所21を挟んで左右に互いに対向するように互いに平行に延びる一対の突堤22,22が設けられている。」(公報第2ページ下段左欄第12行ないし第20行)
(ウ) 「ガイドレール2の各突提22の内側面22a,22aには、幅広の凹溝22b,22bが全長にわたって刻設されており、この凹溝22b,22bの隅角部に、上下2条づつ計4条のボール転走面4a,4b,4c,4dが設けられている。
テーブル3は、概略テーブル本体31とテーブル本体31の両端面に取付けられる側蓋としてのエンドプレート32とから構成されている。
テーブル3は、ガイドレール2上面の凹所21に挿入され、直線案内用のボール6…を介してガイドレール2の内側面の各突堤22,22間に挟み込まれるように支持される。テーブル本体31の両側面には、上記ガイドレール2の各ボール転走面4a,4b,4c,4dに対応する4条のボール転走面5a,5b,5c,5dが刻設されており、互いに対向する各ボール転走面4a,5a;4b,5b;4c,5c;4d,5d間に多数のボール6が転動自在に介在されている。
また、テーブル本体31の中央には、送りねじ軸としてのボールねじ軸4が螺合されるボールねじ孔8が貫通形成されている。」(公報第2ページ下段右欄第3行ないし第3ページ上段左欄第3行)
(エ) 「一方、このボールねじ孔8とテーブル本体31側面との間には、各ボール転走面5a,5b,5c,5dに対応して負荷領域のボール6を逃がすための第1ボール逃げ孔6a,6b,6c,6dがボールねじ孔8を挟んで2条づつ計4条設けられている。」(公報第3ページ上段左欄第10行ないし第15行)
(オ) 「このエンドプレート32に、前記直線案内用ボール6の負荷域と、第1ボール逃げ孔6a,…間の方向転換部としての、第1リターン通路11a,11b,11c,11dが前記ボールねじ用ボール5の負荷域と第2ボール逃げ孔8a,8b間の方向転換部としての第2リターン通路14a,14bとが形成されている。」(公報第3ページ下段右欄第2行ないし第8行)
以上の点を総合すると、第1引用例には、
「所定間隔を隔てて互いに平行に設けられる一対の突堤22,22を備えたガイドレール2と、
前記ガイドレール2の突堤22,22間に挿入されガイドレール2の長手方向に往復移動自在に設けられるテーブル3と、
前記テーブル3の左右側面とガイドレール2の突堤22,22との間に転動自在に介装される複数の直線案内用のボール6と、
前記テーブル3に貫通形成されたボールねじ孔8に螺合されるボールねじ軸4と、を備え、
前記テーブル3は、テーブル本体31と、前記テーブル本体31の軸方向両端に取り付けられたエンドプレート32と、を備え、
前記テーブル本体31の両側面に前記ガイドレール2の突堤22,22内側面に形成されたボール転走面4a,4b,4c,4dと対向するようにボール転走面5a,5b,5c,5dが形成されているとともに、前記テーブル本体31の中実部に前記ボールねじ孔8が貫通形成され、前記テーブル本体31の両側面とボールねじ孔8との間に軸方向に貫通する第1ボール逃げ孔6a,6b,6c,6dが形成され、
一方、エンドプレート32には、前記ガイドレール2とテーブル本体31の対向するボール転走面間を転動する負荷域のボール6を第1ボール逃げ孔6a,6b,6c,6dに方向転換させる第1リターン通路11a,11b,11c,11d外周部が設けられたテーブル移送装置。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭60-263724号公報(以下、「第2引用例」という。)には、「リニアガイド装置」に関して、図面とともに次の記載がある。
(カ) 「本発明は、長尺のレール上を鞍状の摺動体が摺動するリニヤガイド装置の改良に関する。」(公報第1ページ右欄第8行及び第9行)
(キ) 「従来のレールおよび摺動体は成形加工に手間がかかり、質量が重いという欠点があつた。」(公報第2ページ上段左欄第12行ないし第14行)
(ク) 「レール10は鋼板を四角筒状に折り曲げて成る基体12と、その中空部に充填されたエポキシ・コンクリート20とから成る。」(公報第2ページ下段左欄第9行ないし第12行)
(ケ) 「摺動体30は鋼板を逆凹形状に折り曲げて成る基体40と、その中空部に充填されたエポキシ・コンクリート50とから成り、1対の袖部32と両者を連結する連結部34とを含む。…各袖部32を形成するエポキシ・コンクリート52には直線状のボール戻り孔54が全長にわたつて上下2段に形成してあり、」(公報第2ページ下段右欄第1行ないし第12行)
(コ) 「レール10および摺動体30が共に硬鋼を折り曲げて成る基体12および40と、その中空部に充填された充填部材としてのエポキシ・コンクリート20および50とから成るので、従来のようにレールおよび摺動体がともに中実の硬鋼で製造されていた場合に比べて、振動等がより効果的に減衰される。
また、基体12および40は鋼板から成るが、その中空部にはエポキシ・コンクリート20および50が充填されているので、レール10および摺動体30の剛性は十分に高く、摺動体30に重荷重が加わつたり高速度で摺動する場合にもレール10および摺動体30の剛性が不足することはない。さらに、レール10および摺動体30は軽く、しかもコンパクトな構造でありながら、前記減衰性能を向上させるとともに、高剛性を保持することができるのである。」(公報第3ページ下段左欄第13行ないし右欄第11行)

2-3-3 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
後者の「突堤22,22」は、その機能、配置からみて前者の「側壁」に相当し、以下同様に、「ガイドレール2」は「軌道レール」に、「テーブル3」は「インナブロック」に、「直線案内用のボール6」は「直線案内用転動体」に、「ボールねじ孔8」は「送りねじ孔」に、「ボールねじ軸4」は「送りねじ軸」に、「テーブル本体31」は「ブロック本体」に、「エンドプレート32」は「側蓋」に、「ボール転走面4a,4b,4c,4d」は「転動体転走溝」に、「ボール転走面5a,5b,5c,5d」は「転動体転走溝」に、「第1ボール逃げ孔6a,6b,6c,6d」は「直線案内用転動体戻し孔」に、「ボール転走面」は「転動体転走面」に、及び「第1リターン通路11a,11b,11c,11d外周部」は「直線案内用転動体方向転換路外周部」に、それぞれ相当する。
また、後者の「テーブル移送装置」は前者でいう「送りねじ付き直線運動案内装置」に他ならない。
したがって、両者は、本願補正発明の表記に倣えば、
「所定間隔を隔てて互いに平行に設けられる一対の側壁を備えた軌道レールと、前記軌道レールの側壁間に挿入され軌道レールの長手方向に往復移動自在に設けられるインナブロックと、前記インナブロックの左右側面と軌道レールの側壁との間に転動自在に介装される複数の直線案内用転動体と、前記インナブロックに貫通形成された送りねじ孔に螺合される送りねじ軸と、を備え、前記インナブロックは、ブロック本体と、前記ブロック本体の軸方向両端に取り付けられた側蓋と、を備え、前記ブロック本体の両側面に前記軌道レールの側壁内側面に形成された転動体転走溝と対向するように転動体転走溝が形成されているとともに、前記ブロック本体の中実部に前記送りねじ孔が貫通形成され、前記ブロック本体の両側面と送りねじ孔との間に軸方向に貫通する直線案内用転動体戻し孔が形成され、一方、側蓋には、前記軌道レールとブロック本体の対向する転動体転走面間を転動する負荷域の転動体を直線案内用転動体戻し孔に方向転換させる直線案内用転動体方向転換路外周部が設けられた送りねじ付き直線運動案内装置。」である点で一致し、次の点で相違している。
〈相違点1〉
本願補正発明は、「前記ブロック本体の外周部の内の少なくとも転動体転走溝が形成される両側面部が薄肉レース部材によって構成され、前記ブロック本体の中実部が前記薄肉レース部材間を埋める充填材によって構成されているとともに、前記送りねじ孔のねじ溝部が形成された円筒状レース部材が前記充填材内に一体的に構成され、前記ブロック本体が、金型内に前記円筒状レース部材および前記薄肉レース部材を挿入して充填材を充填する型成形によって一体成形されているとともに、前記直線案内用転動体戻し孔が前記充填材に成形されている」のに対し、引用発明は、テーブル本体31が、本願補正発明でいう薄肉レース部材及び充填材によって構成されていない点。

2-3-4 相違点の判断
前記(カ)及び(ケ)の摘示によれば、第2引用例には、「長尺のレール上を摺動体が摺動するリニヤガイド装置において、摺動体30は鋼板を逆凹形状に折り曲げて成る基体40と、その中空部に充填されたエポキシ・コンクリート50とから成り、袖部32を形成するエポキシ・コンクリート52には直線状のボール戻り孔54が全長にわたつて上下二段に形成する」事項が記載されているものと認める。
ここで、第2引用例に記載された「摺動体30」と本願補正発明の「ブロック本体」とは、直線運動装置を摺動する部材である限りにおいて、共通している。
してみると、第2引用例に記載された「基体40」、「エポキシ・コンクリート」及び「直線状のボール戻り孔54」は、本願補正発明の「薄肉レース部材」、「充填材」及び「直線案内用転動体戻し孔」に対応するので、第2引用例には、上記相違点1に係る事項のうち、「前記ブロック本体の外周部の内の少なくとも転動体転走溝が形成される両側面部が薄肉レース部材によって構成され、前記ブロック本体の中実部が前記薄肉レース部材間を埋める充填材によって構成されているとともに、前記直線案内用転動体戻し孔が前記充填材に成形されている」なる事項が示唆されているといえる。
ここで、第2引用例に記載された事項は、直線案内装置に関する技術であり、本願補正発明と引用発明と技術分野を同一にするものであるから、第2引用例に記載された事項を引用発明に適用することを妨げる特段の事情も窺えない。
そして、第2引用例には、ボールが転走する面を鋼板から成る基体によって形成することが記載されているのであるから、第2引用例に記載された事項を引用発明に適用するに際し、ボール転走面5a,5b,5c,5dが形成される両側面部を鋼板から成る基体によって構成するのに加えて、ボールが転走する面としてのボールねじ孔8に対しても鋼板から成る基体をエポキシ・コンクリート50で一体的に構成することは、当業者であれば容易に認識できる事項である。さらには、送りねじ付き直線運動案内装置において、ブロック本体に送りねじ孔のねじ溝部、すなわち送りねじのボール転走面が形成された円筒状レース部材を一体的に取り付けることは本願出願前周知の技術(必要ならば、特開平6-272713号公報の段落番号【0010】及び【図1】の「ナット19」、並びに特開昭61-117044号公報の第2ページ上段右欄第18行ないし第20行及び第1図の「ボールナット6」を参照)である。
さらに、本願補正発明では「前記ブロック本体が、金型内に前記円筒状レース部材および前記薄肉レース部材を挿入して充填材を充填する型成形によって一体成形されているとともに」なる成形方法の要件を発明特定事項とするものであるが、本願補正発明が成形方法の発明ではなく、物の発明であることは明らかであるから、本願補正発明の新規性あるいは進歩性を判断する場合においては、当該成形方法については、発明の対象となる物の構成を特定するための要件として、どのような意味を有するかという観点から検討して、これを判断する必要はあるものの、それ以上に、その成形方法自体としての新規性あるいは進歩性等を検討する必要はない。そして、薄肉レース部材に充填材が充填されたブロック本体という物そのものについて、第2引用例に示唆がなされていることは、上述のとおりである。
また、仮に、上記発明特定事項を新規性あるいは進歩性等の観点から判断するとしても、直線運動案内装置において、ブロック本体を型成形によって薄肉レース部材と一体成形することは本願出願前周知の技術(必要ならば、特開平6-58331号公報段落番号【0020】及び【0021】、並びに特公平5-36648号公報第3欄第7行ないし第11行等を参照)であるので、上記発明特定事項は格別なものではない。
したがって、引用発明に第2引用例に記載された事項を適用し、その際に前記各周知技術を勘案し設計変更を施して、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものと認める。
そして、本願補正発明の効果も、引用発明及び第2引用例に記載された事項、並びに前記各周知の技術から、当業者であれば予測できる程度のものであって格別なものとはいえない。

よって、本願補正発明は、第1引用例及び第2引用例に記載された発明、並びに前記各周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-3-5 むすび
以上により、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本願発明について
3-1 本願発明
平成19年10月11日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成18年10月30日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は以下のとおりである。(以下、「本願発明」という。)
「所定間隔を隔てて互いに平行に設けられる一対の側壁を備えた軌道レールと、
前記軌道レールの側壁間に挿入され軌道レールの長手方向に往復移動自在に設けられるインナブロックと、
前記インナブロックの左右側面と軌道レールの側壁との間に転動自在に介装される複数の直線案内用転動体と、
前記インナブロックに貫通形成された送りねじ孔に螺合される送りねじ軸と、を備え、
前記インナブロックは、ブロック本体と、前記ブロック本体の軸方向両端に取り付けられた側蓋と、を備え、
前記ブロック本体の両側面に前記軌道レールの側壁内側面に形成された転動体転走溝と対向するように転動体転走溝が形成されているとともに、前記ブロック本体の中実部に前記送りねじ孔が貫通形成され、前記ブロック本体の両側面と送りねじ孔との間に軸方向に貫通する直線案内用転動体戻し孔が形成され、
一方、側蓋には、前記軌道レールとブロック本体の対向する転動体転走面間を転動する負荷域の転動体を直線案内用転動体戻し孔に方向転換させる直線案内用転動体方向転換路外周部が設けられた送りねじ付き直線運動案内装置において、
前記ブロック本体の外周部の内少なくとも転動体転走溝が形成される両側面部が薄肉の薄肉レース部材によって構成され、
前記ブロック本体の中実部が薄肉レース部材間を埋める充填材によって構成されているとともに、前記送りねじ孔のねじ溝部が形成された円筒状レース部材が前記充填材内に一体的に埋設され、
前記直線案内用転動体戻し孔が前記充填材に成形されている
ことを特徴とする送りねじ付き直線運動案内装置。」

3-2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された第1引用例及び第2引用例の記載事項は、前記[2-3-2 引用例及びその記載事項]に記載したとおりである。

3-3 対比
本願発明と引用発明を対比すると、両者は、本願発明の表記に倣えば、
「所定間隔を隔てて互いに平行に設けられる一対の側壁を備えた軌道レールと、前記軌道レールの側壁間に挿入され軌道レールの長手方向に往復移動自在に設けられるインナブロックと、前記インナブロックの左右側面と軌道レールの側壁との間に転動自在に介装される複数の直線案内用転動体と、前記インナブロックに貫通形成された送りねじ孔に螺合される送りねじ軸と、を備え、前記インナブロックは、ブロック本体と、前記ブロック本体の軸方向両端に取り付けられた側蓋と、を備え、前記ブロック本体の両側面に前記軌道レールの側壁内側面に形成された転動体転走溝と対向するように転動体転走溝が形成されているとともに、前記ブロック本体の中実部に前記送りねじ孔が貫通形成され、前記ブロック本体の両側面と送りねじ孔との間に軸方向に貫通する直線案内用転動体戻し孔が形成され、一方、側蓋には、前記軌道レールとブロック本体の対向する転動体転走面間を転動する負荷域の転動体を直線案内用転動体戻し孔に方向転換させる直線案内用転動体方向転換路外周部が設けられた送りねじ付き直線運動案内装置。」である点で一致し、次の点で相違している。
〈相違点2〉
本願発明は、「前記ブロック本体の外周部の内少なくとも転動体転走溝が形成される両側面部が薄肉の薄肉レース部材によって構成され、前記ブロック本体の中実部が薄肉レース部材間を埋める充填材によって構成されているとともに、前記送りねじ孔のねじ溝部が形成された円筒状レース部材が前記充填材内に一体的に埋設され、前記直線案内用転動体戻し孔が前記充填材に成形されている」のに対し、引用発明は、テーブル本体31が、本願発明でいう薄肉レース部材及び充填材によって構成されていない点。

3-4 相違点の判断
前記(カ)及び(ケ)の摘示によれば、第2引用例には、「長尺のレール上を摺動体が摺動するリニヤガイド装置において、摺動体30は鋼板を逆凹形状に折り曲げて成る基体40と、その中空部に充填されたエポキシ・コンクリート50とから成り、袖部32を形成するエポキシ・コンクリート52には直線状のボール戻り孔54が全長にわたつて上下二段に形成する」事項が記載されているものと認める。
ここで、第2引用例に記載された「摺動体30」と本願発明の「ブロック本体」とは、直線運動装置を摺動する部材である限りにおいて、共通している。
してみると、第2引用例に記載された「基体40」、「エポキシ・コンクリート」及び「直線状のボール戻り孔54」は、本願発明の「薄肉レース部材」、「充填材」及び「直線案内用転動体戻し孔」に対応するので、第2引用例には、上記相違点2に係る事項のうち、「前記ブロック本体の外周部の内少なくとも転動体転走溝が形成される両側面部が薄肉レース部材によって構成され、前記ブロック本体の中実部が前記薄肉レース部材間を埋める充填材によって構成されているとともに、前記直線案内用転動体戻し孔が前記充填材に成形されている」なる事項が示唆されているといえる。
ここで、第2引用例に記載された事項は、直線案内装置に関する技術であり、本願発明と引用発明と技術分野を同一にするものであるから、第2引用例に記載された事項を引用発明に適用することを妨げる特段の事情も窺えない。
そして、第2引用例には、ボールが転走する面を鋼板から成る基体によって形成することが記載されているのであるから、第2引用例に記載された事項を引用発明に適用するに際し、ボール転走面5a,5b,5c,5dが形成される両側面部を鋼板から成る基体によって構成するのに加えて、ボールが転走する面としてのボールねじ孔8に対しても鋼板から成る基体をエポキシ・コンクリート50で一体的に埋設することは、当業者であれば容易に認識できる事項である。さらには、送りねじ付き直線運動案内装置において、ブロック本体に送りねじ孔のねじ溝部、すなわち送りねじのボール転走面が形成された円筒状レース部材を一体的に埋設することは本願出願前周知の技術(必要ならば、特開平6-272713号公報の段落番号【0010】及び【図1】の「ナット19」、並びに特開昭61-117044号公報の第2ページ上段右欄第18行ないし第20行及び第1図の「ボールナット6」を参照)である。
したがって、引用発明に第2引用例に記載された事項を適用し、その際に前記周知技術を勘案し設計変更を施して、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものと認める。

そして、本願発明の効果も、引用発明及び第2引用例に記載された事項、並びに前記周知の技術から、当業者であれば予測できる程度のものであって格別なものとはいえない。

よって、本願発明は、第1引用例及び第2引用例に記載された発明、並びに前記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上により、請求項1に係る発明(本願発明)は、第1引用例及び第2引用例に記載された発明、並びに前記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それゆえ、本願は、特許請求の範囲の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-23 
結審通知日 2008-10-28 
審決日 2008-11-10 
出願番号 特願平8-358841
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡野 卓也  
特許庁審判長 溝渕 良一
特許庁審判官 岩谷 一臣
山岸 利治
発明の名称 送りねじ付き直線運動案内装置およびそのインナブロックの成形方法  
代理人 和久田 純一  
代理人 世良 和信  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ