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審決分類 審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  B02C
審判 全部無効 2項進歩性  B02C
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B02C
管理番号 1190016
審判番号 無効2007-800019  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-02-02 
確定日 2008-12-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第1706534号発明「回転式加圧型セパレ-タをそなえた粉砕機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯の概要及び本件特許発明
1.手続の経緯の概要
本件特許第1706534号発明は、昭和57年6月29日に出願され、平成2年6月13日付けで出願公告の決定がなされ、平成3年1月31日付けで特許異議の申立がなされ、平成4年2月7日付けで特許異議の申立は理由がないものとの決定がなされ、同日付けで特許査定がなされ、平成4年10月27日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
これに対し、平成19年2月2日付けで請求人より本件無効審判の請求がなされ、平成19年4月19日付けで被請求人より審判事件答弁書が提出された。なお、訂正請求はなされなかった。
その後、平成19年6月26日に口頭審理が実施されたが、当該口頭審理に先立ち、請求人より平成19年6月12日付けの口頭審理陳述要領書及び平成19年6月26日付けの口頭審理陳述要領書(2)が提出され、被請求人より平成19年6月12日付けの口頭審理陳述要領書及び平成19年6月20日付けの口頭審理陳述要領書が提出された。
そして、請求人及び被請求人双方から平成19年7月9日付けの上申書がそれぞれ提出され、被請求人から再度平成19年7月23日付けの上申書が提出された。

2.本件特許発明
本件特許第1706534号発明(以下、「本件特許発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。
「1 回転テーブルと、この回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴つて従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し、粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシユートを配設し、センターシユートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け、この回転筒には放射状に配置されたベーンを取付け、粉砕機内部を加圧雰囲気とした構成にした粉砕機において、回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシユートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ、この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み、回転筒の下端から噴出するように構成したことを特徴とする回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機。」

なお、本件特許発明について請求人は次のようにA.乃至I.に分説している。
「A.回転テーブルと、
B.この回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴つて従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し、
C.粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシユートを配設し、
D.センターシユートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け、
E.この回転筒には放射状に配置されたベーンを取付け、
F.粉砕機内部を加圧雰囲気とした構成にした粉砕機において、
G.回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシユートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ、
H.この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み、回転筒の下端から噴出するように構成した
I.ことを特徴とする回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機。」
(以下、A.乃至I.に係る構成を、それぞれ「構成要件A」乃至「構成要件I」という。)


第2.請求人の主張の概要
請求人は、「特許第1706534号発明の明細書の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として概ね次の1.乃至3.のように主張するとともに、証拠方法として、4.のように審判請求時に甲第1号証乃至甲第8号証を提出した。

1.無効理由1
本件特許の請求項1に係る特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、または甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、容易に発明できたものであり、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、この特許は昭和57年8月24日法律第83号による改正前の特許法第123条第1項第1号(以下「旧特許法第123条第1項第1号」等と表示する。)の規定により、無効とすべきである。(審判請求書3ページ1行から7行)

2.無効理由2
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の欄には、当業者が容易に実施することができる程度に本件特許発明が記載されておらず、旧特許法第36条第4項の規定に違反して特許されたものであるから、旧特許法第123条第1項第3号の規定により、無効とすべきである。(審判請求書3ページ8行から12行)

3.無効理由3
本件特許の請求項は、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものということはできず、旧特許法第36条第5項の規定する要件を満たしていないから、旧特許法第123条第1項第3号の規定により、無効とすべきである。(審判請求書3ページ13行から17行)

4.証拠方法
甲第1号証 「Energie und Technik」1969年3月号、第111頁?113頁の写し
甲第1号証の2 同上の抄訳文
甲第2号証 米国特許第2981490号公報写し(1961年4月25日発行)
甲第3号証 特開昭57-90304号公報写し(昭和57年6月5日発行)
甲第4号証 本件特許の出願中に提起された異議申立において出願人(被請求人)が提出した答弁書の写し
甲第5号証 同上異議申立における決定の写し
甲第6号証 特開昭55-127158号公報写し
甲第7号証 近代編集者発行「シール技術」(昭和47年12月25日発行)抜粋写し
甲第8号証 特開昭55-92145号公報写し


第3.被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、概ね次の1.乃至3.のように主張するとともに、証拠方法として4.のように乙第1号証乃至乙第4号証を提出した。

1.無効理由1について
甲第1号証には、本件特許発明の構成要件の一部について記載されておらず、これらが記載されていることを前提とする請求人の主張自体が誤りであり、甲第1号証に記載された発明には本件特許発明を導く動機付けなども見当たらない。また、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明も、本件特許発明とは異質のものであり、これらの発明を甲第1号証に記載された発明に組み合わせても、本件特許発明のように構成することを当業者が容易に想到することはできない。(審判事件答弁書2ページ20行から12ページ7行)

2.無効理由2について
本件特許の明細書は、当業者が本件特許発明を容易に実施できる程度に記載されており、旧特許法第36条第4項に規定する要件を満たしている。(審判事件答弁書12ページ8行から13ページ11行)

3.無効理由3について
本件特許の特許請求の範囲の請求項1は、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであり、旧特許法第36条第5項に規定する要件を満たしている。(審判事件答弁書13ページ12行から14ページ15行)

4.証拠方法
乙第1号証 特開昭58-180242号公報
乙第2号証 「燃料協会誌」第69巻第9号、平成2年9月20日、(社)燃料協会発行
乙第3号証 特開昭48-25216号公報
乙第4号証 特開昭54-100564号公報
(なお、乙第1号証及び乙第2号証は、本件特許発明に係る出願がなされた日よりも後に公開されたものである。)


第4.無効理由1
1.請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書で、概ね次の(1)乃至(6)のように主張した。

(1)「甲第1号証には、構成要件I(回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機)に対応する記載があることもわかる。従って、甲第1号証には本件特許発明の構成要件のうち、A?F及びIが記載されている。」(11ページ8行から10行)

(2)「甲第1号証には、本件特許発明の構成要件G(回転筒とセンターシュートの間の環状隙間と送風装置とを連通させる空気導管)、及びH(隙間に加圧空気を吹き込み下端から噴出させること)についての開示はない。」(11ページ25行から12ページ2行)

(3)「しかし、装置内部を加圧雰囲気とする場合、加圧状態を維持すると共に、内部の物質が外部に漏出したり、内部の物質が回転部と固定部の隙間に入り込むのを防ぐために、シールする必要があることは例えば特開昭55-127158号公報(甲第6号証)に、内部を加圧雰囲気として運転する粉砕機において、「回転部(注:センターシュート3)と非回転部(注:外筒4)の間にシールを施す必要」のあることが記載されている(公報第2頁左上欄16行?17行)。
そしてこのような開口部をシールする方法として、空気の流れで封止すること(いわゆるエアシール)も、周知の技術に過ぎない。特に、内部が加圧雰囲気の装置において、装置内部の粉塵が外部へ漏出することを防止するために開口部にエアシールを施すことは、様々な分野で広く採用されている周知技術である。その一例として、「シール技術」と題された書籍の抜粋写しを提出する(甲第7号証)。この文献は、多種多様なシール技術について解説した教科書的な書籍であるが、175頁には、「特にシール効果を高める必要のある場合は、内圧や外圧よりやや高い圧力の適当な流体をシール部に注入して、エアカーテンのような原理でシールする方法もある。」との記載がある。また、甲第1号証においても、回転するローラ軸と固定のローラ軸受けの間の隙間について、「ローラ軸受の気密封止は空気遮断シールにより行われている。」と明記されている。なお、この種の粉砕機においてローラ軸と軸受けの間の隙間を空気でシールすることは広く行われており、例えば特開昭55-92145号公報(甲第8号証)にも、「車軸66の軸部分74は、小径であり、その外周と支持体76の内壁との間に環状室78が画定される。環状室78には十分な圧力のシール空気を供給し、シール空気が室78から支持体76の壁を貫通している連通口80を通つてカバー82の後側の環状空間へ流出するようにする。かくして、カバー82とローラ54のホイール部分60との間から常時空気が流出し、それによって石炭の粉塵が軸受64内に進入するのを防止する。」(公報第2頁右下欄11行?19行)と記載されているとおりである。」(12ページ3行から13ページ1行)

(4)「甲第1号証には本件特許発明の構成要件中、G及びH以外の構成が記載されており、この甲第1号証に、回転する部材と固定された部材の間の環状隙間に加圧空気を吹き込んで下端から噴出させることを開示する甲第2号証を組み合わせれば、構成要件G及びHが容易に得られる。そして、これら甲号証の技術分野が類似であることからして、そのような組み合わせは極めて容易である。従って、甲第1号証の加圧型ミルにおけるセンターシュートと回転筒の間の隙間に、甲第2号証に開示された空気導管を連通させ、この隙間に加圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み、回転筒の下端から噴出するように構成する程度のことは、当業者が何らの工夫をすることなくなし得ることである。」(14ページ21行から15ページ4行)

(5)「そして、甲1号証と甲3号証は、いずれも竪型ミルの分級機に関する技術であって、両技術を組み合わせることには何の阻害要因も存在しない。従って、甲第1号証のセンターシュートjと回転筒kの間の環状隙間に、甲第3号証に記載された供給管から加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み、回転筒の下端から噴出するように構成することもまた、容易になしえたことである。」(15ページ21から26行)

(6)「なお、甲第1号証は、本件特許の出願中に提起された異議申立でも甲第1号証として引用されたが、それに関して出願人は次のように主張した(甲第4号証)。
「なるほど、異議申立人が言うように甲第1号証には内部を加圧雰囲気とした構成の加圧型粉砕機、或いはセパレータが示されているとしても、それらの開示は前記本件発明の構成部分のうちの(1)である基本構成(注:構成要件A?F及びI)を示したに過ぎないものであ」る(4頁4行?9行)。
更に、特許異議の決定(甲第5号証)においても、「甲第1号証には粉砕機内部を加圧雰囲気とした粉砕機で、それには本件発明のセンターシュートと回転筒に相当する構造があり、更に環状の隙間があることが記載されている」と認定されている(理由欄3行?6行)。」(11ページ11から22行。なお、「本件特許の出願中」は「本件特許の出願公告後」の誤り。)

2.被請求人の主張の概要
被請求人は、審判事件答弁書で、概ね次の(1)乃至(5)のように主張した。

(1)「構成要件D、Eについて
甲第1号証には、2種類のローラミル用の分級装置が記載されている。一つは図2に示された分級用の羽根が固定された「フラップ遠心分級装置」であり、もう一つは図4に示された分級用の羽根が回転する「回転式分級装置」である。
請求人は、このうちの図4にj,kという符号を追加し、「jはセンターシュート、kはその外側に回転可能に設けられた回転筒であり、回転筒kには上記『分級羽根を含む周回する円錐体a』(抄訳文第3頁)が取り付けられている。」と主張し(審判請求書7頁5行?7行)、「図4のセンターシュートjは構成要件C(センターシュート)に、回転筒kはD(回転筒2)に、また円錐体aの分級羽根はE(ベーン)に、それぞれ相当する。」(審判請求書10頁下1行?11頁2行)と主張するが、これは請求人が、図4から各部の構成を自己に都合良く解釈したものであって、実際に開示されている内容とは異なる。
図4に付随する説明としては、a;分級羽根を伴った回転する円錐体、b;ころ軸受を伴うV字ベルトのプーリ、c;分級機の出口、との記載があるだけで、本件特許発明のような、センターシュートの外側に回転筒を配し、該回転筒にベーンを取り付けるという構成については、全く記載がないし、その必要性も示唆されていない。」(3ページ16行から4ページ3行)

(2)「構成要件F、Iについて
・・・(中略)・・・
しかし、図2はフラップ式の分級装置を備えた竪型粉砕機の図にすぎず、回転式分級装置が記載された図ではなく、甲第1号証には、回転式分級装置を加圧雰囲気で使用した装置についての記載がある訳ではない。
甲第1号証における図4に関する記載として、「3.分級装置」の欄には、
「上記のロール・ミルは2つの分級装置、すなわちフラップ遠心分級装置〔図2〕、または回転式分級装置〔図4〕を備えることができる。回転式分級装置は急峻な粒度特性曲線を有する優れた分級効果を有している。この曲線は無段階の回転数調整によって粗調整または微調整範囲にシフトすることができる。分級装置は、極めて均一な、または微細に完成した粉炭が必要な場合は常に使用される。吹き込み式ミル用にはほとんどの場合フラップ遠心分級装置で十分である。分級装置は構造が簡単で、保守は必要ない。」(参考資料1参照)
との記載がある。ここでいう「吹き込み式ミル」(原文:Einblasemulen)とは、送風機を空気吹き込み用としてミルの前段に配した加圧型ミルを指している。この記載は、図4に示された回転式分級装置の場合、加圧雰囲気で使用されることがないことを述べているのであって、この記載からは、本件特許発明の課題や構成が到底示唆されるものではないことは明らかである。
なお、甲第1号証の「加圧動作用には、ハウジングを通って案内される揺動レバーのシーリングが困難になることがあるので、従来から使用されている構造を変更する必要があった。それは全面的に新たな構造になった[図2]。」との記載も、[図2]と記載されているように、フラップ遠心分級装置を前提としたもので、この記載から、回転式分級装置を用いたものにも加圧式がそのまま採用されることを開示したものではない。」(5ページ9行から6ページ6行)

(3)「以上のとおり、甲第1号証には、少なくとも本件特許発明の構成要件D、E、F及びI、並びに「環状隙間」の要件が記載されていないから、そもそも本件特許発明の課題が示唆されることはなく、これと甲第2号証とを組み合わせる動機付けが存在せず、また、仮に甲第2号証を組み合わせたとしても、本件発明を想到することはできない。」(11ページ9行から13行)

(4)「また、仮に甲第1号証に環状隙間に存在していると仮定しても、センターシュートとその回りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に微粉が侵入して回転筒の円滑な回転を阻害したり、センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する、という課題自体がないか、少なくとも甲第1号証に接した当業者がこれを認識することはないから、構成要件G及びHに関し甲第2号証のエアシール技術を適用する動機付けはない。また、甲第2号証のエアシール技術は、本件特許発明の構成要件G及びHとは目的、構成、作用を全く異にするので、これを甲第1号証の技術と組み合わせることについて、容易とは言えない。」(11ページ14行から22行。なお、「環状隙間に」は「環状隙間が」の誤記。)

(5)「また、以上のとおり、甲第1号証には、少なくとも構成要件D、E、F及びIに相当するセンターシュートとその回りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒についての記載(環状隙間の存在を開示あるいは示唆する記載)及び回転セパレータを加圧型で用いるという記載はなく、環状の隙間に微粉が侵入して回転筒の円滑な回転を阻害したり、センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する、という課題自体がない。したがって、甲第1号証に甲第3号証を組み合わせても本件発明を想到することはできないし、また組み合わせること自体ができない。
甲第3号証のシュート8の外側に設けられた外筒17は、回転する構造ではないから、甲第3号証には環状の隙間に微粉が侵入して外筒17の回転が阻害される、という課題が存在しない。よって、甲第1号証に甲第3号証を組み合わせようとする動機付けはない。甲第3号証の技術は、本件特許発明の構成要件G及びHとは目的、構成、作用を全く異にするので、これを甲第1号証の技術と組み合わせることが、容易とは言えない。」(11ページ23行から12ページ7行)

3.甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明、並びに甲第6号証乃至甲第8号証に記載された事項
(1)甲第1号証に記載された発明
ア.甲第1号証が、国立国会図書館に昭和44年4月22日に受け入れされたL.A.Klepzig Verlag社が発行したEnergie und Technik誌1969年3月号の111から113ページの写しであることは、当審において職権で確認した。
したがって、甲第1号証が、本件特許発明についての出願の出願日前に公知である刊行物の写しであることは、事実である。
そして、甲第1号証には、以下のとおり記載されている。(なお、引用箇所中のaウムラウト、oウムラウト、uウムラウト及びエスツェットは、それぞれae、oe、ue及びssと表記すると共に、下線を付した。)
a.「2. Muehlenkonstruktionen
・・・(中略)・・・
Waehrend noch vor einigen Jahren ueberwiegend Kohleneinblasemuehlen mit nachgeschalteten Staubgeblaesen zum Einsatz kamen, haben sich inzwischen Druckmuehlen mit vorgecshalteten Druckerhoehungsgeblaesen allgemein durchgesetzt.
・・・(中略)・・・

3. Sichter
Die beschriebenen Walzenmuehlen koennen mit zwei Sichterbauarten ausgeruestet werden, einem Klappenzentrifugalsichter (Bild 2) oder einem Kreiselsichter (Bild 4). Der Kreiselsichter hat einen guten Sichtwirkungsgrad mit steiler Koernungskennlinie. Diese Kennlinie laesst sich durch stufenlose Drehzahlverstellung in den groeberen bzw. feineren Bereich verschieben. Der Sichter wird immer dann eingesetzt, wenn ein extreme gleichmaessiger oder feiner Fertigstaub gefordert wird. Fuer Einblasemuehlen ist der Klappenzentrifugalsichter in den meisten Faellen ausreichend. Der Sichter ist einfach im Aufbau und erfordert keine Wartung.」(甲第1号証Energie und Technik誌1969年3月号の112ページ1行から113ページ21行)
以下、上記記載事項の当審翻訳文。
「2.ミルの構造
・・・(中略)・・・
数年前は、まだ主に粉炭送風機を後ろに連結した石炭噴射ミルが使用されていたが、最近では、その前に加圧送風機を連結した圧力ミルが一般的になっている。
・・・(中略)・・・

3.分級機
上記のローラミルは、2種類の分級機、フラップ遠心分級機(図2)または回転分級機(図4)、を装備することができる。回転式分級機は急な粒度特性曲線の良好な篩効果度を持つ。この特性曲線は無段回転数調整によって荒い領域または細かい領域へ移動され得る。極度に均一なまたは微細な完成炭塵が必要とされるときに分級機が使用される。噴射ミルのためには多くの場合フラップ遠心分級機で十分である。この分級機は単純な構成で、メンテナンスを必要としない。」

b.「Bild 2: Walzenmuehle neuer Konstruktion
a Muehlengetriebe
b Mahlschuessel
c Mahlwalzen
d oelhydr. Federungssystem
e ausgeschwenkte Mahlwalze
f Schaufelkranz
g Anschlagpuffer
h Klappen-Zentrifugalsicher」
(112ページ図2に付された説明)
以下、上記記載事項の翻訳文。
「図2:新しい構造のローラミル
a ミル駆動装置
b 粉砕皿
c 粉砕ローラ
d 油圧バネシステム
e 外側に旋回された揺動粉砕ローラ
f 羽根輪
g ストッパー緩衝器
h フラップ遠心分級機」

「Bild 4: Kreiselsichter mit oberem Antrieb ueber Keilriemen
a umlaufender Konus mit Sichtleisten
b Keilriemenscheibe mit Waelzlager
c Sichteraustritt」
(113ページ図4に付された説明)
以下、上記記載事項の翻訳文。
「図4:V字ベルトによる上部駆動装置を有する回転分級機
a 分級体を有する回転する円錐体
b ころ軸受けを有するV字ベルトのプーリ
c 分級機の出口」

c.甲第1号証の図2が、ローラミルをどのように描いた図面であるのかは、甲第1号証には明記されていないものの、その左右方向ほぼ中央で上下方向に延びる一点鎖線よりも左側のうち、少なくとも「b」よりも上方については、「b」や「c」に多数の斜線が描かれていることや、図を構成する各実線が、前記一点鎖線を挟んだ左右で連続的に繋がっていないことからみて、ローラミルの部分破断面図であると認められる。
ここで、甲第1号証には、ローラミルに必須の石炭を供給するシュートについて明記されていないが、図2の「b」の上方に描かれた部分についてみると、前記一点鎖線左側には、一点鎖線をほぼ中心に有する長方形部分が描かれており、甲第1号証の頒布時のローラミルの一般的な構造を勘案すれば、この部分がローラミルの中央(センター)に存在するシュート、すなわちセンターシュートと考えるのが自然である。

d.上記a.の「加圧運転には、今まで使用してきた構造を変更しなければならなかった。全く新しい構造となった。(図2)」なる記載からみて、図2として描かれた新しい構造のローラミルが、加圧ミルであることは明らかである。
ここで、甲第1号証の「Fuer Einblasemuehlen ist der Klappenzentrifugalsichter in den meisten Faelle1n ausreichend.」(113ページ。なお、下線は当審で付した。)という記載について、被請求人は、「ここでいう「吹き込み式ミル」(原文:Einblasemulen)とは、送風機を空気吹き込み用としてミルの前段に配した加圧型ミルを指している。この記載は、図4に示された回転式分級装置の場合、加圧雰囲気で使用されることがないことを述べているのであって、この記載からは、本件特許発明の課題や構成が到底示唆されるものではないことは明らかである。」と主張している。
しかし、甲第1号証には「Waehrend noch vor einigen Jahren ueberwiegend Kohleneinblasemuehlen mit nachgeschalteten Staubgeblaesen zum Einsatz kamen, haben sich inzwischen Druckmuehlen mit vorgecshalteten Druckerhoehungsgeblaesen allgemein durchgesetzt.」(112ページ。なお、下線は当審で付した。)と記載されており、「Kohlen」が石炭を意味することを勘案すれば、「Einblasemuehlen」は前述の記載の「Kohleneinblasemuehlen mit nachgeschalteten Staubgeblaesen」と同種のミルであると考えるのが通常であるから、少なくとも甲第1号証においては、被請求人の上記主張の「吹き込み式ミル」は、「Kohleneinblasemuehlen mit nachgeschalteten Staubgeblaesen」、すなわち「粉炭送風機を後ろに連結した石炭噴射ミル」(3.(1)ア.a.の翻訳文参照)を指すと解するのが妥当である。
そして、「Einblase」が直接「加圧」を意味する語でないこと、前記甲第1号証の112ページの記載では、「Kohleneinblasemuehlen」に対するものとして、「Druckmuehlen mit vorgecshalteten Druckerhoehungsgeblaesen」、すなわち、「加圧送風機を連結した圧力ミル」(3.(1)ア.a.の翻訳文参照)が記載されていることを考慮すれば、甲第1号証において、「Einblasemuehlen」をあえて「加圧型ミル」とすることには妥当性はない。
仮に、被請求人が主張するとおり、前記「吹き込み式ミル」が加圧型ミルであったとしても、上記甲第1号証の113ページの上記記載「Fuer Einblasemuehlen ist der Klappenzentrifugalsichter in den meisten Faellen ausreichend.」は、フラップ遠心分級機で十分事足りることを意味するにすぎず、加圧ミルの分級機として回転分級機を用いること自体を否定しているわけではない。
また、上記b.からみて、「フラップ遠心分級機(図2)」という記載は、「フラップ遠心分級機」が図2に描かれた装置全体を指すのではなく、図2に描かれた加圧ミルの分級機hのみを指しているのは明らかである。
したがって、「上記のローラミルは、2種類の分級機、フラップ遠心分級機(図2)または回転分級機(図4)、を装備することができる。」なる記載を併せてみれば、図4として描かれた回転分級機が、図2として描かれた加圧ミルのフラップ遠心分級機に代えて装備され得ることがわかる。

e.図4の左右方向ほぼ中央で上下方向に延びる線にもっとも近い箇所に、上下方向に符号bの上方にまで到る実線を含む長方形部分が描かれている。
甲第1号証には、この長方形部分について明記されていないが、上記c.及びd.から、この長方形部分は「センターシュート」であると認められる。
なお、甲第1号証には、この長方形部分の名称について明記されていないものの、この部分が「センターシュート」であることは、口頭審理調書に記載されたとおり、請求人、被請求人双方に争いがない。

f.図4には、「センターシュート」の上下方向に延びる一対の縦の線(以下、「左内側線」及び「右内側線」という。)に対して、その外方に僅かな間隔をおき、かつ左内側線及び右内側線にほぼ平行に上下方向に延びる一対の縦の線(以下、「左外側線」及び「右外側線」という。)が描かれている。
この「右外側線」の外方に隣接してaなる文字が付された三角形が存在し、この三角形に隣接して右外方かつ上方に向かって延びる細長い長方形が存在しているが、図4のaに関する説明を参酌すると、この細長い長方形の部分は、「分級体」(Sichtleisten)であると認められる。
なお、口頭審理調書に記載されたとおり、この細長い長方形が「Sichtleisten」に相当することは、請求人、被請求人双方に争いがない。

g.上記3.(1)ア.のa.からみて、「円錐体」が回転することは明らかではあるが、甲第1号証には、「円錐体」がどのようにして回転するのかについて文言上の記載はない。
ここで、甲第1号証の図4に描かれた回転分級機において、「円錐体」が分級体を有していることを勘案すると、前記「円錐体」の回転が、分級のために強制的に駆動されることで生じる回転であるといえる。
そのため、前記駆動が、「ころ軸受けを有するV字ベルトのプーリ」並びにこの「プーリ」に隣接する「左外側線」及び「右外側線」を含む部分を順次介して行われる、すなわち、「プーリ」、「左外側線」及び「右外側線」を含む部分並びに「円錐体」が一体的に回転するとは考えられるものの、「左外側線」及び「右外側線」を含む部分並びに「センターシュート」に係る具体的な構成が、どのようなものであるのかは不明である。
なお、この点については、口頭審理において、請求人は、「センターシュート」が「左外側線」及び「右外側線」を含む部分に対して回転する旨主張し、被請求人は、「センターシュート」並びに「左外側線」及び「右外側線」を含む部分が一体的に回転する旨の主張をしている。
しかし、甲第1号証は、技術の概要を紹介する雑誌の記事であり、甲第1号証の各図面が、どのような作図法により描かれた図面であるのか、どの程度の精緻さで描かれた図面であるのか等、図面の詳細に関する記載はない。
そのため、請求人及び被請求人の前記主張に係る細部の構成までは、各図面から明確に把握することはできないとするのが相当である。
また、甲第1号証の頒布時、様々な構造のミルや分級機が知られており、前記「左外側線」及び「右外側線」を含む部分並びに「センターシュート」に係る具体的な構成が一義的に把握できるものでもなく、これを一義的に把握できるとするに足る明確な証拠も、請求人及び被請求人のいずれからも提出されていない。
したがって、請求人及び被請求人の前記「左外側線」及び「右外側線」を含む部分並びに「センターシュート」に係る構成についての主張は、いずれも採用することができない。

イ.甲第1号証に記載された発明
したがって、甲第1号証には、次の発明が記載されているといえる。
「粉砕皿(Mahlschuessel)と、この粉砕皿上に配置された粉砕皿の回転に伴って従動回転する複数個の粉砕ローラ(ausgecshwenkte Mahlwalze)とを有し、粉砕ローラ(ausgecshwenkte Mahlwalze)の上方にセンターシュートが存在し、分級体を有する回転する円錐体(umlaufender Konus mit Sichtleisten)を設け、ローラミル(Walzenmuehle)内部を加圧雰囲気とした構成にした回転式加圧型セパレータをそなえたローラミル(Walzenmuehle)。」(括弧内はいずれも原文。以下、「甲第1号証に記載された発明」という。)

(2)甲第2号証に記載された発明
ア.甲第2号証には、以下a.乃至g.が記載されている。
a.「本発明は、遠心力を利用した衝撃装置に関するものであって、連続的に移動する物体を遠心力により、非常に高速度で外方向に激突させるための電動ローターからなる。本発明はより詳細には、電動機及びローターのための支持構造にも関する。
流動性の物体に遠心力を利用して衝撃を与えるための設備は、粒子の微細化、破壊及び粉砕、並びに化学、冶金その他の工業における様々な種類の物質の変形といった、様々な目的のために使われた。」(1欄15行から24行の翻訳文)

b.「図6は、図3に示された構造のうち、エアシールに関係する部分を拡大した部分的な垂直断面図である。」(2欄31行から33行の翻訳文)

c.「より具体的には、衝突装置は梁12及び14にボルト止めされたカバープレート32を有し、カバープレート32の直下にはドライブシャフト36に接続された衝突ローター34が回転可能に懸架されている。ドライブシャフト36はベアリング38及び40によって回転可能に支持されている(図1及び図3)。」(2欄56行から62行の翻訳文)

d.「上部リング60は、円周方向に間隔を空けて設けられた複数の衝突部材62により、底板56に連結されている。カバープレート32には、衝突ローター34と同心状にかつ衝突ローター34から離間して、複数のターゲット衝突部材64が取り付けられている。カバープレート32は製品供給口66a,66bを有しており、環状リング68がロータリング60の内縁に近接してカバープレート32から垂下している。製品供給シュート72,74が(供給口66a,66bから)斜め上方に延び、天板75の開ロ72a,72bに嵌入している。」(3欄3行から11行の翻訳文)

e.「個々の粒子がローターの底板56にぶつかると、遠心力の作用によって外側へ放り出され、衝突部材62への衝突によって非常に高速となり、外側の接線方向にはじき飛ばされてターゲット衝突部材64に衝突する。このときの衝撃力は極めて大きい。その後、製品粒子は重力によって下方へ落下し、容器54を経て図示しないダクトから外部へ導かれる。」(3欄26行から35行の翻訳文)

f.「ベアリング38の内部レース118及び120はシャフト36の肩部122の直下に位置し、ドライブシャフト上のスリーブ124,環状のガード125及びカラー127を介して、ドライブシャフト36に螺合されたナット129によって保持されている。」(4欄68行から73行の翻訳文)

g.「図3及び図6の参酌によって明らかなとおりであるが、ローターのケーシングから汚染物質が漏洩することを防止するため、空気を逆流させる作用を及ぼすための構造を提供する。図示されているように、リング状の構成要素(202に大まかに図示されている)は、カバープレート32に適切に固定される。リング202は流路206を形成し、これはリング202により形成される環状の流路208に至っている。リング202の環状部品202aは、流路208の直上に配置されるとともに、スリーブ127に隣接しており、流路210a,210b及び210cが形成される。各種部品は、スリーブ127及び環状部202aの間に若干の間隔(図面において誇張した)が形成されるような寸法に設計されている。これらの間隔の寸法は、加圧空気がパイプ216を経て流路206に入ったときに、リング202とスリーブ127との隙間を抜けるよりも、流路210a,210b及び210cを抜ける方がより大きな抵抗を受けるように設計されている。このようにして、流路206に流入する空気の大部分は、ローターのケーシング内部に向かって下向き矢印の流路の方へと進むこととなるのであり、これにより、危険ないし有害なおそれのある粒子が外部に向かってケーシングから上方へ出ていくことを防止する。」(7欄41行から61行の翻訳文)

イ.上記ア.のa.乃至g.からみて、甲第2号証には、次の発明が記載されているといえる。
「パイプ216を介してリング202とスリーブ127との隙間に加圧空気を入れ、加圧空気がリング202とスリーブ127との隙間を抜けるように構成した衝撃装置。」(以下、「甲第2号証に記載された発明」という。)

(3)甲第3号証に記載された発明
ア.甲第3号証には、以下a.乃至c.が記載されている。
a.「石炭粉砕機の一種である竪型ボールミルは軸心をほぼ鉛直に配置したシユートにより原料炭を自然落下させ、粉砕部において所定の粒径の粉砕炭に粉砕するものであるが、粉砕機の運転中にシユート内で原料炭が詰つてしまい、粉砕機の運転を停止せざるを得ないような事態が生ずることがある。先ず第1図において竪型ボールミルの作動状態の概略を説明すると、原料炭Cはシユート8内を自然落下して粉砕機本体1の下部粉砕輪5に至り、この粉砕輪の遠心力によりボール7側に移動し粉砕される。粉砕された石炭は空気入口15から流入する乾燥用空気A(200?300℃)により分級機12に搬送され、所定の粒径以下の粉砕炭はこの乾燥用空気と共に微粉炭出口14を経て燃焼装置に供給される。一方、所定の粒径より大きな粉砕炭は下降して再度粉砕される。」(1ページ左下欄20行から右下欄16行)

b.「要するにこの発明は、シユートの閉塞が、シユート壁面温度が高温となるため生ずることに着目し、シユートを冷却するよう空気冷却可能な二重管構造としたものである。」(2ページ左上欄9行から12行)

c.「第2図は以上の実験結果に基づいて構成したシユートの構造を示す。シユート8の外部にはこのシユート8と同一軸心線上に位置するよう外筒17を配置し、この外筒17とシユート8の間に冷却空気通過用の環状空間20を形成する。外筒17の上部には冷却空気供給管18が接続し、一方外筒17の下端部は環状空間20の開口部つまり冷却空気出口19となっている。環状空間20に供給する冷却用空気A1は常温のもので良くこの冷却空気A1の通過によりシユート8の壁面温度を降下させる。環状空間20を下降した冷却用空気A1は出口19から噴出するが、この冷却空気の流れにより分級機12において分級された大径の粉砕炭が再度舞い上ることなく良好に粉砕部に落下するという副次的効果も発揮する。」(2ページ右上欄18行から左下欄12行)

イ.上記ア.のa.乃至c.からみて、甲第3号証には、次の発明が記載されているといえる。
「下部粉砕輪5と、この下部粉砕輪5上に配置された複数個のボール7とを有し、ボール7の上方に、その軸心をほぼ鉛直にシユート8を配設し、シユート8の外側に同心状に外筒17を設けたボールミルにおいて、外筒下端から所定距離離れた上方位置に冷却空気供給管18を取付けて外筒17とシユート8との間の環状空間20と接続させ、この環状空間20に冷却空気を供給し、出口19から噴出するように構成した分級機12を備えたボールミル。」(以下、「甲第3号証に記載された発明」という。)

(4)甲第6号証に記載された事項
「回転部(注:センターシュート3)と非回転部(注:外筒4)の間にシールを施す必要」である旨の記載。(2ページ左上欄16行から17行)

(5)甲第7号証に記載された事項
「特にシール効果を高める必要のある場合は、内圧や外圧よりやや高い圧力の適当な流体をシール部に注入して、エアカーテンのような原理でシールする方法もある。」(175ページ左欄9行から13行)

(6)甲第8号証に記載された事項
a.「第1図には、上方部分14と、フランジ継目17において該上方部分に接合された中間部分16と下方部分18とからなる殻体12を有する本発明の石炭粉砕ミル10が示されている。
・・・(中略)・・・
カバー44は、ボルト46によってテーブル30に固定し、環状軌道40は、ボルト48によつてテーブル30に固定する。従つて、テーブルがモータ36によつて回転されると、カバー44と軌道40はテーブルと共に回転する。
未粉砕の石炭は、ミル10の頂部を通してテーブル30の中央上方にまで垂下させた石炭供給管50を通してミル内へ導入する。石炭はテーブル30上へ落下すると遠心力により環状軌道40上へ半径方向外方へ移送され。次いで、軌道の凹部42内において軌道に圧接するローラ54と軌道との間にはさまれて通過する。好ましい実施形態においては数個のローラ54を使用するが、第1図には図を簡略にするために1個のローラ54だけが示されている。」(2ページ右上欄5行から左下欄15行)

b.「車軸66の軸部分74は、小径であり、その外周と支持体76の内壁との間に環状室78が画定される。環状室78には十分な圧力のシール空気を供給し、シール空気が室78から支持体76の壁を貫通している連通口80を通つてカバー82の後側の環状空間へ流出するようにする。かくして、カバー82とローラ54のホイール部分60との間から常時空気が流出し、それによって石炭の粉塵が軸受64内に進入するのを防止する。」(2ページ右下欄11行から19行)

4.当審の判断
(1)本件特許発明と甲第1号証に記載された発明との対比
甲第1号証に記載された発明の「粉砕皿(Mahlschuessel)」(括弧内は原文。以下同様。)、「粉砕ローラ(ausgecshwenkte Mahlwalze)」及び「ローラミル(Walzenmuehle)」は、それぞれ本件特許発明の「回転テーブル」、「粉砕ローラ」及び「粉砕機」に相当する。
また、甲第1号証に記載された発明の「分級体(Sichtleisten)」は、分級という機能からみて、本件特許発明の「ベーン」と同様のものである。
したがって、両発明は、「回転テーブルと、この回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴つて従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し、ベーンを設け、粉砕機内部を加圧雰囲気とした回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機。」である点で一致し、次の点において相違する。

ア.相違点1
本件特許発明では、「センターシユートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」てなり、「回転筒とセンターシユートとの間」に「環状隙間」が存在するのに対し、甲第1号証に記載された発明では、センターシュートは存在するものの、その外側に同心状に回転筒を回転可能に設けているか否かは不明であり、「環状隙間」が存在するのか否かが不明な点。

イ.相違点2
本件特許発明では、「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシユートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ、この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み、回転筒の下端から噴出するように構成した」のに対し、甲第1号証に記載された発明には、そのような構成がない点。

(2)相違点についての検討、判断
上記相違点1及び2について検討する。
ア.相違点1について
「センターシユートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」という構成について、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、甲第6号証乃至甲第8号証に記載された技術事項を以下a.乃至e.で検討する。

a.甲第2号証に記載された発明について
甲第2号証に記載された発明の「パイプ216」及び「衝撃装置」は、それぞれ本件特許発明の「空気導管」及び「粉砕機」に相当する。
また、甲第2号証に記載された発明の「加圧空気」は、隙間を抜ける所定圧力の空気である限りにおいて、本件特許発明の「加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気」に相当する。
したがって、両発明は、「空気導管を介して隙間に所定圧力の空気を入れた粉砕機」という点で一致する。
なお、上記相違点1に係る構成、特に「センターシユートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」という構成は、甲第2号証に記載された発明は有していない。

b.甲第3号証に記載された発明について
甲第3号証に記載された発明の「下部粉砕輪5」、「ボール7」、「シユート8」及び「ボールミル」は、それぞれ本件特許発明の「回転テーブル」、「粉砕ローラ」、「センターシユート」及び「粉砕機」に相当する。
また、甲第3号証に記載された発明の「外筒17」は、センターシユートの外側に同心状に設けられているものである限りにおいて、本件特許発明の「回転筒」に相当し、甲第3号証に記載された発明の「冷却空気」及び「冷却空気供給管18」は、空気が供給され、かつ環状隙間へ連通される限りにおいて、本件特許発明の「所定圧力の空気」及び「空気導管」に相当し、「分級機12」は分級という機能の限りにおいて「回転式加圧型セパレータ」に相当する。
したがって、両発明は、「回転テーブルと、この回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴つて従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し、粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシユートを配設し、センターシユートの外側に同心状に筒を設けた粉砕機において、筒下端から所定距離離れた上方位置に空気導管を取付け、筒とセンターシユートとの間の環状隙間に空気を吹き込み、筒の下端から噴出するように構成したセパレータをそなえた粉砕機。」という点で一致する。
なお、上記相違点1に係る構成、特に「センターシユートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」という構成は、甲第3号証に記載された発明は有していない。

c.甲第6号証に記載された技術事項について
上記3.(4)の記載事項からみて、甲第6号証は、「回転部と非回転部においてはシール部が必要」という一般的な課題を例示するにすぎない。

d.甲第7号証に記載された技術事項について
上記3.(5)の記載事項からみて、甲第7号証は、「特にシール効果を高める必要のある場合は、内圧や外圧よりやや高い圧力の適当な流体をシール部に注入して、エアカーテンのような原理でシールする方法もある」という装置内の圧力よりも高い所定圧力の空気をシールすべき隙間に吹き込むという、シールの一形態を示すにすぎない。

e.甲第8号証に記載された技術事項について
上記3.(6)の記載事項a.からみて、本件特許発明と甲第8号証に記載された技術事項は、「回転テーブルと、この回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴つて従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し、粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシユートを配設した粉砕機。」という点を前提とすることで一致するといえるものの、甲第8号証に記載された技術事項は、上記3.(6)の記載事項b.からみて、「カバー82とローラ54のホイール部分60との間から常時空気が流出し、それによって石炭の粉塵が軸受64内に進入するのを防止する」ことに過ぎず、上記相違点1に係る構成、特に「センターシユートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」という構成については示唆するものではない。

以上のように、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、甲第6号証乃至甲第8号証に記載された技術事項には、いずれにも上記相違点1に係る本件特許発明の構成は備わっていない。
また、甲第1号証に記載された発明において、上記相違点1に係る本件特許発明のように構成することが、設計事項であるといえるような根拠もない。

イ.相違点2について
本件特許発明の解決しようとする課題は、その明細書に記載されたとおり「そこで、従来の回転式セパレータを採用し、分級効率を増大させようとすると、従来の回転式セパレータは負圧型ミルに適用されているため、加圧型の粉砕機に取付けようとすると、粉砕機内部は加圧雰囲気であるため粉砕機上部中心部より垂下する固定のセンターシユートとその回りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉が侵入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり、センターシユート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する。」(なお、「別粉」は「微粉」の誤記。)である。これは、すなわち、粉砕機内部が加圧雰囲気であり、センターシユートと回転筒との隙間が存在することを前提とした課題である。

上記ア.のとおり、相違点1に係る本件特許発明の構成を備えているものがない以上、甲第1号証に記載された発明に、隙間に係る技術に関する甲第2号証に記載された発明や甲第3号証に記載された発明等を組み合わせたとしても、上記相違点2に係る本件特許発明のように構成することはできない。
仮に、甲第1号証に記載された発明が、「センターシユート」の外側に「環状隙間」を有するものであったとしても、その「環状隙間」が、前記課題が生じるような隙間であるか否かは不明であるから、たとえ、請求人の上記1.(3)の主張のごとく、甲第6号証乃至甲第8号証に例示された、シールの必要性や、シールの必要な隙間に空気を吹き込むことでシールするということが周知であったとしても、甲第1号証に接した当業者が、前記隙間に係る課題を認識できたとまではいえない。
したがって、甲第2号証や甲第3号証にシール部材が記載されているからといって、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証や甲第3号証に記載された発明の組み合せが想到容易であるとはいえない。

5.むすび
以上のとおり、本件特許発明が、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、甲第6号証乃至甲第8号証に記載された技術事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものということができない。


第5.無効理由2及び3
1.無効理由2
(1)請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書で、概ね次のア.及びイ.のように主張した。

ア.「本件特許の明細書には構成要件Gの「所定距離」について、「回転筒下端から所定距離離れた上方位置から下方へ向かって粉砕機内部の加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気(シールエヤ)を送風装置によって吹き込み」(公報第3欄4行?7行)、「このとき、所定圧力の空気が回転筒22の下端から所定距離離れた上方の位置から環状隙間内へ供給され」(公報第4欄18行?20行)としか記載されておらず、かかる「所定距離」が具体的にどの程度であればよいのかを示す数値等が全く記載されていない。
従って、当業者が本件特許の発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても、当該当業者は具体的にどの位置から所定圧力の空気を吹き込めばよいのか把握することができず、本件特許を実施することは不可能である。
なお、仮に「所定距離」の意義に関し、本件特許の明細書の記載(公報第4欄18行目から30行目等)を参酌して「回転筒の回転を利用することにより環状隙間全周からの空気の噴出を達成できるような距離」をいうものと解釈したとしても、それによって具体的な数値を導くことは不可能であるから、いずれにしても「所定距離」の意義が不明で実施不可能であるとの結論に差異はない。」(審判請求書16ページ9行から17ページ3行)

イ.「空気導管16は、回転筒22の高さ方向の中間よりすこし上方位置において空気導管16に接続している。しかし、この状態では、高速で回転する回転筒22に取付けられた空気導管側の端部も回転筒22と一緒にセンターシュートの外周を回転せざるを得ないが、回転にもかかわらず空気導管が破壊されずに環状隙間に空気を導入できる構造を想定するのは困難であり、明細書にも開示がない。たとえば仮に、空気導管16をきわめて柔軟で長いものと想定したとしても、回転筒22が回転すれば該空気導管は回転筒22の外周に空気導管16が巻き付いてしまい、すぐに長さが不足して空気導管16がどこかで分断してしまうであろう。
このように、空気導管16を回転筒22に連結して取付けた形態では、本件発明を実施することは不可能であり、本件特許発明の作用効果を奏する実施形態とはなり得ない。」(審判請求書17ページ25行から18ページ9行)

(2)当審の判断
ア.前記(1)ア.の請求人の主張について
本件特許発明に係る明細書の詳細な説明には、「そこで、従来の回転式セパレータを採用し、分級効率を増大させようとすると、従来の回転式セパレータは負圧型ミルに適用されているため、加圧型の粉砕機に取付けようとすると、粉砕機内部は加圧雰囲気であるため粉砕機上部中心部より垂下する固定のセンターシユートとその回りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉が侵入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり、センターシユート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する。
本発明は回転セパレータを加圧型ミルに適用できる回転式加圧型セパレータを提供することを目的としている。
本発明においては、上記の目的を達成するために、センターシユート(原料送入シユート)とベーンを取付けたロータが固定された回転可能な回転筒とを同心状に配置し、両者間に形成される環状の隙間に、回転筒下端から所定距離離れた上方位置から下方へ向かつて粉砕機内部の加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気(シールエヤ)を送風装置によつて吹き込み、環状隙間の下端の全周囲から噴出される構造を採用した。」と記載されている。
当業者が当該記載に基づき本件特許発明を実施しようとすれば、空気が回転筒の下端のから噴出することが可能な範囲で、回転筒の下端からの距離を調節すれば良いだけであって、その実施にあたり格別なものが必要とも認められない。
また、「所定距離」の具体的な数値は、空気の圧力や環状隙間の寸法等、他の構成に応じて変化し得るものであり、一義的に決定されるものとも認められないため、特定の値に限定しなくては実施不可能であるとするだけの合理的な理由もない。

イ.前記(1)イ.の請求人の主張について
回転筒へ空気導管を取付けることは、本件特許発明についての出願の出願日前に周知の技術(乙第3号証、乙第4号証参照)であり、かつ、本件特許発明の実施にあたり、このような周知技術を採用することが格別困難なこととも認められない。
そのため、前記周知技術を発明の詳細な説明に記載していないことをもって、当業者が本件特許発明を容易に実施できないとはいえない。

したがって、本件特許発明に係る出願の明細書に記載された発明の詳細な説明の記載は、昭和60年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たしている。

2.無効理由3
(1)請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書で、概ね次のア.及びイ.のように主張した。

ア.「請求項における「回転筒下端から所定距離離れた上方位置」との記載からは、「所定距離」が具体的にどの程度の距離を示しているかが不明であり、かつ、明細書上もその構成を特定できる記載は存在しない。従って、本件の特許請求の範囲は、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものということはできず、旧特許法第36条第5項の規定する要件を満たしていない。」(審判請求書18ページ14から19行)

イ.「請求項における「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ、」との記載は、どのようにして空気導管を回転筒に取り付けたまま回転筒22を回転させることができるのかが不明であって、明細書上もその構成を特定できる記載は存在しない。従って、本件の特許請求の範囲は、この点においても発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものということはできず、旧特許法第36条第5項の規定する要件を満たしていない。」(審判請求書18ページ20行から19ページ1行)

(2)当審の判断
ア.前記(1)ア.の請求人の主張について
本件特許発明は、空気が回転筒の下端から噴出する限りにおいて、「所定距離」を適宜決定することができるものであるから、「所定距離」が限定されていないことをもって、発明の構成に不可欠の事項を記載していないとまでは言えない。

イ.前記(1)イ.の請求人の主張について
上記第5.の1.(2)のイ.でも説示したように、出願時の技術水準を参酌すると、空気導管を回転筒に取り付けたままで回転筒を回転させることが十分に可能であるのは明らかであるから、本件発明の目的からすると、空気が回転筒の下端から噴出するという機能を得るための構成が記載されていれば十分であり、空気導管の回転筒への取付構造が限定されていないことをもって、発明の構成に不可欠の事項を記載していないとまでは言えない。

したがって、本件特許発明に係る出願の明細書に記載された特許請求の範囲の記載は、昭和60年改正前特許法第36条第5項に規定する要件を満たしている。


第6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-04 
結審通知日 2007-09-07 
審決日 2007-10-26 
出願番号 特願昭57-110810
審決分類 P 1 113・ 532- Y (B02C)
P 1 113・ 531- Y (B02C)
P 1 113・ 121- Y (B02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西村 和美大熊 幸治  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 小谷 一郎
石井 孝明
登録日 1992-10-27 
登録番号 特許第1706534号(P1706534)
発明の名称 回転式加圧型セパレ-タをそなえた粉砕機  
代理人 牧野 知彦  
代理人 吉澤 敬夫  
代理人 高橋 元弘  
代理人 一色国際特許業務法人  
代理人 野口 明男  
代理人 飯塚 卓也  
代理人 伊丹 勝  
代理人 落合 孝文  

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