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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  A23L
管理番号 1190061
審判番号 無効2008-800072  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-04-24 
確定日 2008-12-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第3084687号発明「生物ミネラルの製造方法」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 特許第3084687号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
被請求人は,平成8年8月7日に,名称を「天然ミネラル食品及びその製造方法」(その後,「生物ミネラルの製造方法」に補正された。)とする特許出願をし,平成12年7月7日,特許庁から特許第3084687号として設定登録を受けた。
これに対して,請求人から平成20年4月24日付けで請求項1及び2に係る発明についての特許に対して,無効審判の請求がなされたところ,その後の手続の経緯は,以下のとおりである。

答弁書: 平成20年 7月22日
口頭審理陳述要領書(被請求人): 平成20年 9月 2日
答弁書を補正する手続補正書: 平成20年 9月 2日
口頭審理: 平成20年 9月 9日
上申書(請求人): 平成20年10月 7日
意見書(被請求人): 平成20年10月 9日

なお,平成20年9月9日の口頭審理において,無効理由が通知され,平成20年10月9日の意見書は,該通知に対して提出されたものである。

第2 本件発明
本件特許第3084687号の請求項1及び2に係る発明は,その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認める。(以下,それぞれ「本件発明1」,「本件発明2」という。)

「【請求項1】 一種類以上のミネラルを含む生物体を,上記ミネラルのうち抽出採取すべきミネラルがガス化して消失する加熱上限温度以下の温度で加熱することによって当該生物体の有機質成分を除去させ,上記採取すべきミネラルを残留させて抽出採取する生物ミネラルの製造方法において,予め決められた単一の種類の又は複数種類組合わされてなる生物体より特定のミネラルを,そのミネラルを抽出できる加熱上限温度で加熱して抽出採取し,これとは別に上記生物体より他の種類のミネラルを,当該ミネラルを抽出できる加熱上限温度で加熱することによって抽出採取し,両ミネラルを混合する生物ミネラルの製造方法。
【請求項2】 それぞれが異なる種類のミネラルを含有する多数の生物体を混合し,該生物体の混合物より多種類のミネラルを抽出採取する請求項1の生物ミネラルの製造方法。」

第3 当事者の主張の要点
1.請求人の主張
本件特許明細書の段落0019に加熱上限温度が示されているが,これは元素が単体で存在しているときの沸点であるが,ミネラルは,他のものと結合して存在しており,単体の沸点に基づいて生物体の特定のミネラルを抽出採取することはできない。
したがって,本件発明1及び2は,その発明の実施が不可能であり,特許法第29条に規定する「発明」の要件を満たしておらず,また,明細書は,当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されたものとは言えず,特許請求の範囲は,その特許を受けようとする発明を明確に記載したものではないため,特許法第36条第4項第1号(平成14年法律第24号による改正において特許法第36条第4項第1項が新設されたので,本件において適用される該改正前の特許法第36条第4項のことと解釈する。)及び同第6項第2号に規定する要件を満たしていないので,特許法第123条第1項第2号及び第4号の規定により無効とされるべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:「理化学辞典 第3版増補版」(1986年,岩波新書 510頁)の写し
甲第2号証:「理化学辞典 第3版増補版」(1986年,岩波新書 169頁)の写し
甲第3号証:分析結果報告書の写し

2.被請求人の主張
一般的に生物体中のミネラルは大半が有機化合物,また一部が無機化合物として存在し,単一体として存在するミネラルは希と考えられ,単一体として存在する場合の化学的な沸点より,ミネラルがガス化して消失する温度は高い場合が多い。よって,単一体で存在する場合の化学的な沸点を加熱上限温度として加熱すれば,抽出対象のミネラルが単一体として存在すれば排除でき,複合体として存在すれば残存することになり,複合体として存在するミネラルを抽出するための最も効率的な方法となる。
したがって,「単体の沸点に基づいて生物体の特定のミネラルを抽出採取することはできない」との指摘は全く当たらない。
被請求人は,本件特許発明に基づく方法により安定した生物ミネラルを製造販売しているのである。

<証拠方法>
乙第1号証:東京高等裁判所 平成18年(ネ)第4950号判決書
乙第2号証:株式会社やつか 閉鎖事項全部証明書
乙第3号証:アストラル株式会社 履歴事項全部証明書
乙第4号証:有限会社エイキ日環連 履歴事項全部証明書
乙第5号証1:有限会社新樹 履歴事項全部証明書
乙第5号証2:有限会社新樹 閉鎖事項全部証明書
乙第6号証:株式会社ナカヤ 履歴事項全部証明書
乙第7号証:平成18年12月12日付 売買基本契約書の写し
乙第8号証1:請求人宛の被請求人の通知書(警告状)の写し
乙第8号証2:通知書の配達証明書の写し

第4 当審の無効理由通知
1.無効理由の概要
当審で通知した無効理由の概要は,「出願当初の請求項3にあった「これとは別に生物体より他の種類のミネラルを抽出採取」という技術事項について,平成11年9月27日に提出の手続補正,及び平成12年2月18日に提出の手続補正により補正された請求項1において,「生物体」が「上記生物体」と補正され,「上記生物体」とは,請求項1において,直前に記載されている「生物体」を意味するものと解される。とすると,この補正により,請求項1に係る本件特許は,予め決められた単一の種類の又は複数種類組合わされてなる生物体より抽出採取した特定のミネラルと,これと同じ生物体より別途抽出採取した他の種類のミネラルを混合するものとなる。しかし,出願当初の明細書又は図面にはミネラルを混合することについて,請求項3,段落0011,0024及び0027に記載があるが,そのいずれにも同じ生物体から抽出採取したミネラルを混合することが説明されていないので,該補正は出願当初の明細書又は図面に記載した範囲内のものでないことになり,本件特許1及び請求項1を引用する本件特許2は,特許法第123条第1項第1号に該当し,無効とすべきものと認められる。」というものである。

2.当審で通知した無効理由に対する被請求人の意見概要
第1に,「上記生物体」は,「予め決められた単一の種類の又は複数種類組合わされてなる生物体」を示すものであり,直前の特定のミネラルを抽出採取した生物体と同じ生物体と限定されるものでなく,第2に,特別限定して解釈する法令等の根拠はないし,第3に,拒絶理由通知に対応した補正であるものの,拒絶理由は「生物体」の記載であることを理由とするものでも,「上記生物体」とすれば解消される内容でもないから,限定解釈する根拠となり得ないものであり,
また,出願当初の明細書には,混合される複数のミネラルの原材料は,同じ生物体か別の生物体かにつき特に限定していないので,同じ場合も別のものである場合もあり得ることは自明のことであり,別々のものに限定して解釈する合理的理由はない旨を,被請求人は主張している。

第5 当審で通知した無効理由についての当審の判断
「上記」とは,被請求人も示すように,「前に書き記してある・こと(文句)」の意味であるから,普通に解釈すれば,「上記生物体」は,直前の「予め決められた単一の種類の又は複数種類組合わされてなる生物体」の「生物体」を示すものであるから,「予め決められた単一の種類の又は複数種類組合わされてなる生物体」において,予め決められたものである生物体のことを示すことになり,予め決められた生物体とは別の決め方をした別の生物体を意味することにはならないことは明らかである。
このことは,また,本件特許に係る出願について,平成11年9月28日に提出した意見書の記載からも明らかである。
すなわち,該意見書においては,
引用文献には,イオウ,ヨウ素,フッ素,塩素等の「加熱上限温度」以上の温度で加熱して生物体よりミネラルを抽出することや,複数の生物体に由来するミネラルを混合することが記載されていることを認めた上で,
本願請求項1の発明は,
a. 特定のミネラルを,そのミネラルを抽出できる加熱上限温度で加熱して抽出し,
b. これとは別に上記生物体より他の種類のミネラルを,当該ミネラルを抽出できる加熱上限温度で加熱することによって抽出して両ミネラルを混合する。
点において,引用例の発明にはない独自の構成を備え,
上記構成上の特徴により,加熱上限温度の低いミネラルを低温処理で抽出することにより,同一対象の生物体より多種類のミネラルの抽出ができ,逆に加熱上限温度の高いミネラルを高温処理で抽出することにより,同一対象の生物体よりより限られた少ない種類のミネラルの抽出ができる結果,低温処理のものと高温処理のものの配合量の調整により,ミネラルの用途や目的に応じた全体のミネラルバランスの調整が可能になるなどの独自の作用効果を奏することなどを主張しているのであるから,「上記生物体」を,同一対象の生物体ではなく,別の生物体も包含するものとして解釈する余地はないというべきものである。

そして,出願当初の明細書の記載においては,混合される複数のミネラルの原材料について,同じ生物体か別の生物体かにつき特に限定していないのは被請求人が認めるとおりであるが,このことは,同じ生物体から抽出採取したミネラルどうしを混合する場合も含めた広い概念(上位概念)が記載されているというにすぎず,そのことにより同じ生物体から抽出採取したミネラルを混合することが記載されていることにならないことはいうまでもないことである。そして本件特許1及び2は,同じ生物体から抽出採取したミネラルを混合する場合は,加熱上限温度の低いミネラルを低温処理で抽出することにより,同一対象の生物体より多種類のミネラルの抽出ができ,逆に加熱上限温度の高いミネラルを高温処理で抽出することにより,同一対象の生物体よりより限られた少ない種類のミネラルの抽出ができる結果,低温処理のものと高温処理のものの配合量の調整により,ミネラルの用途や目的に応じた全体のミネラルバランスの調整が可能になるなどの独自の作用効果を奏することになるものであるが,そのような発明が認識できるように,出願当初の明細書に記載されてもいないし,該記載から自明のこととも認められないものである。

以上によれば,平成11年9月27日に提出の手続補正,及び平成12年2月18日に提出の手続補正は,出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものと認められず,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

第6 請求人の主張する無効理由について
1.加熱上限温度に関する本件特許明細書の記載について
請求項1には,「抽出採取すべきミネラルがガス化して消失する加熱上限温度」とあり,
段落0018には,「ちなみに人体に有用な主なミネラルとその沸点その他の加熱上限温度を示すと表4に示す通りであり,ここで示される加熱上限温度が本発明によって各ミネラルを抽出する際の加熱上限温度である。」と説明されるとともに,表4(ミネラルが単体のときの沸点が示されている。)が示され,
段落0020には,「したがってある原料例えばイタドリをセレン(Se)の加熱上限温度688℃まで加熱燃焼させると,当該加熱点以下の加熱上限温度を有するミネラル例えば硫黄(S),ヨウ素(I),フッ素(F),塩素(Cl)等は略消失除去される一方,加熱点以上の加熱上限温度を有する例えばセレン(Se),カリウム(K),カドミウム(Cd),ナトリウム(Na),亜鉛(Zn),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),鉛(Pb),マンガン(Mn),銅(Cu),クロム(Cr),鉄(Fe),コバルト(Co)等のミネラルが残存し,抽出採取される。」と説明され,
段落0021には,このことから本発明によって主に特定のミネラルのみを抽出採取するときは,他に含有されるミネラルの大半又はすべてが,そのミネラル以下の加熱上限温度を有する原料生物体を選ぶことが望ましく,特定のミネラルを多く効率的に抽出採取するときは,当該ミネラルを特に多量に含む生物体を原料に選ぶことが望ましい。表1に示すように常温で単体ではガスでしか存在しないフッ素や塩素は本発明の方法では採取することは不可能であるが,184.4℃の加熱上限温度を有するヨウ素の抽出は可能であり,生物体等が有する有機質毒素(例えばメチルアルコール)等が184.4℃で消失すること及び軟質で低密度の原料の加熱による炭化及び灰化可能温度を考慮すれば,加熱の下限温度は184.4℃とすることも可能であるが,概ね200℃又はその近傍と考えてもよい。但し,このように低温加熱による場合,原料の炭化から灰化に至るまでに時間を必要とし,加熱時間を長くする必要がある。」と説明され,
段落0025には,本発明では,原料生物体内に含まれるミネラルの加熱上限温度に応じた加熱をすることにより,少なくとも加熱点以上の加熱上限温度を有するミネラルを確実に抽出採取し,それ以下のミネラルを残存させない明確さや含有ミネラルの安定性がある。」と記載されている。

これらの記載によれば,本願特許明細書には,加熱上限温度はミネラルの単体のときの沸点であり,これ以上の温度では,その加熱上限温度のミネラルは略消失除去され,それ以下の温度では,そのミネラルは残存し抽出採取されることが説明されているものである。

2.当審の判断
ミネラルの元素が化合物となっているときには,化合物としての性質を示し,単体の性質は示さないことは,化学の技術常識であり,加熱温度において,単体として存在しないミネラルが,単体と同様に沸点において蒸発し,消失除去されるものではないことは当然のことであり,被請求人の「単一体で存在する場合の化学的な沸点を加熱上限温度として加熱すれば,抽出対象のミネラルが単一体として存在すれば排除でき,複合体として存在すれば残存することになり」との主張も,これを裏付けるものである。
そして,生物体が加熱されるときに,各種のミネラルがどのようになっていくか,明細書の記載からは明らかでない。ミネラルによっては熱分解され,単体や別の化合物となるものもあるやもしれないが,化合物のまま変化しないものもあるやもしれない。また,大気中の酸素や他の成分と反応して別の化合物となることも高温のもとではあることである。さらに,単体又は化合物として,その沸点を超えなくても揮発してゆき,加熱時間によっては略消失除去されることもあるやもしれない。
このように,様々な状況が想定されるものであって,明細書で説明されるように,単体の沸点を加熱上限温度として,「抽出採取すべきミネラルがガス化して消失する加熱上限温度以下の温度で加熱することによって当該生物体の有機質成分を除去させ,上記採取すべきミネラルを残留させて抽出採取する」ように当業者が実施しようとしても,そのようなことはできないというべきものである。

以上によれば,本件特許明細書は,当業者が,本件特許1及び本件特許2が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないので,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

第7 むすび
以上のとおり,本件特許1及び本件特許2は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり,また,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,特許法第123条第1項第1号及び第4号に該当し,無効とすべきものである。

審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人の負担とすべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-23 
結審通知日 2008-10-28 
審決日 2008-11-10 
出願番号 特願平8-224457
審決分類 P 1 113・ 561- Z (A23L)
P 1 113・ 536- Z (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 恵理子上條 肇  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 光本 美奈子
鵜飼 健
登録日 2000-07-07 
登録番号 特許第3084687号(P3084687)
発明の名称 生物ミネラルの製造方法  
代理人 橘 哲男  
代理人 河野 誠  

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