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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1190508
審判番号 不服2007-19008  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-06 
確定日 2009-01-05 
事件の表示 特願2001-358638「転がり軸受の運転状態監視装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月30日出願公開、特開2003-156038〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年11月26日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成16年10月15日付け及び平成19年4月3日付けの各手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】 それぞれが金属製で互いに対向する状態で設けられた1対の軌道輪と、これら両軌道輪の互いに対向する面に形成された軌道面同士の間に設けられた、それぞれがセラミック製である複数個の転動体とを備え、これら各軌道面とこれら各転動体の転動面との当接部に、グリース、又は、オイルエア潤滑若しくはオイルミスト潤滑により供給される潤滑油を介在させた状態で運転される転がり軸受の運転状態を監視する為、上記各セラミック製転動体のうちの少なくとも1個の転動体を導電性セラミック製とすると共に、上記転がり軸受と、電圧値が0.1?10Vの範囲に設定された直流電源と、抵抗値が1kΩ?1MΩの範囲に設定された抵抗とを直列に接続して閉回路を構成し、上記転がり軸受を構成する一方の軌道輪若しくはこの一方の軌道輪と電気的に導通している部材と、他方の軌道輪若しくはこの他方の軌道輪と電気的に導通している部材との間の抵抗値若しくはこの抵抗値に基づいて変化する電位差を監視し、この抵抗値若しくはこの抵抗値に基づいて変化する電位差が所定範囲から外れた場合に潤滑状態が不良であるとする、転がり軸受の運転状態監視装置。」

2.引用例
2-1.引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2000-192969号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は本実施形態の転がり軸受の断面図である。この玉軸受は、外輪1、内輪2、転動体3、保持器4、及びシール5から構成されている。このうち、外輪1及び内輪2はステンレス鋼であり、転動体3が導電性セラミックスで構成されている。外輪1や内輪2を構成する材料としては、ステンレス鋼以外に、軸受鋼、M50、高速度工具鋼等が考えられるが、コスト、要求性能を考慮して最適なものを選択する。また、転動体3に用いる導電性セラミックスとしては、Ti_(2)O_(3),Fe_(3)O_(4),FeO,MnO_(2),MoO_(2),VO_(2)等、酸化物系セラミックスによくみられるイオン伝導体,即ちイオンが固体の中を伝わって移動し、これにより電気伝導を生ずるものや、金属的な電気伝導,即ち電子が電荷担体として作用し、金属と同様の電気伝導を示すTiC,WC,W_(2)C,TaC,ZrC,Mo_(2)C,TiN,NbN,CrB,LaB_(4),Mo_(2)B_(5),NbB,VB,V_(3)B_(2),W_(2)B_(5),YB_(4),ZrB_(12),Cr_(3)Si,MoSi_(2),NbSi_(2),NbSi_(2),Si_(2)Ta,Si_(3)Ta_(5),SiTi,Si_(2)Ti,Si_(2)V,Si_(2)W等の所謂遷移元素の炭化物、窒化物、硼化物、珪化物が考えられる。……」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「それぞれが金属製で互いに対向する状態で設けられた外輪1及び内輪2と、これら外輪1及び内輪2の互いに対向する面に形成された軌道面同士の間に設けられた、それぞれが導電性セラミックス製である複数個の転動体3とを備えた転がり軸受。」
2-2.引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、特開2001-311427号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(い)「【0016】図1は、本発明の実施形態に係る相対運動部品監視装置のブロックとこれにより監視される相対運動部品としての転がり軸受の上半分の縦断面図である。
【0017】図1において、A1は、転がり軸受、Bは、相対運動部品監視装置である。
【0018】この転がり軸受A1は、内輪2、外輪4、ボール6および波形保持器8を備え、これら軸受構成部品は、いずれも金属材で形成されて導電性を有している。
【0019】そして、内輪2の外周面および外輪4の内周面に対して固体潤滑膜10が被覆形成されている。この固体潤滑膜10は、潤滑性を備えかつ軸受構成部品を構成する金属材より電気導電度が低いものであれば本発明に含まれるが、好ましくは非導電性材例えば不導体や半導体が好ましい。不導体としては例えばフッ素系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、あるいは窒化珪素、アルミナなどがあり、半導体としては二硫化モリブデン、二硫化タングステンがある。」
(う)「【0021】この場合、内外輪2,4に固体潤滑膜10を形成しない場合は、ボール6の外周面に固体潤滑膜を形成してもよい。
【0022】いずれにしても、図1で示される転がり軸受A1は、内輪2とボール6との接触面、外輪4とボール6との接触面は、互いに相対運動する一対の接触面を構成し、少なくともいずれか一方の接触面に固体潤滑膜が形成された相対運動部品となっている。」
(え)「【0023】上記転がり軸受A1の場合、内輪2と外輪4との間の電気抵抗値は、固体潤滑膜10の電気抵抗値と、固体潤滑膜10以外の軸受構成部品の電気抵抗値とを加算した値であるが、この軸受構成部品は金属材で構成されていてその電気抵抗値は小さくて無視した場合、転がり軸受A1の実質上の電気抵抗値は、固体潤滑膜10の電気抵抗値が支配的となる。
【0024】そのため、内輪2と外輪4との間の電気抵抗値は、固体潤滑膜10の膜厚に比例した値となる。したがって、固体潤滑膜10の電気抵抗値が小さくなることは、固体潤滑膜10の膜厚が薄くつまり摩耗が進行していることとなる。
【0025】そして、相対運動部品監視装置Bは、その固体潤滑膜10の電気抵抗値の変化から当該固体潤滑膜10の摩耗状態を検知するようになっている。」
(お)「【0027】図2で示すように、この相対運動部品監視装置Bは、一対の計測プローブ12a,12b、抵抗値測定手段14、管理手段16、報知手段18および表示手段20を有する。なお、一対の計測プローブ12a,12bは、相対運動部品監視装置Bの構成要素であるが、図面上は、この装置Bの外部に示されている。
【0028】一対の計測プローブ12a,12bは、一端側が転がり軸受A1の内輪4と外輪6の側面にそれぞれ当接されて用いられる。
【0029】抵抗値測定手段14は、両計測プローブ12a,12b間の電圧から転がり軸受A1の電気抵抗値を測定つまり摩耗状態を検知し、その測定(検知)結果を管理手段16に入力するようになっている。……」
(か)「【0036】演算制御手段26は、入力手段22で指定された相対運動部品が、図1で示されている転がり軸受A1の場合、データメモリ24の部品エリア24aからその転がり軸受A1に対応した初期電気抵抗値とそれに対応する固体潤滑膜10の初期膜厚とを読み出とともに抵抗値測定手段14から入力した測定電気抵抗値と初期電気抵抗値とを比較する。そして、演算制御手段26は、測定電気抵抗値に対応した現在の固体潤滑膜10の膜厚を演算する。この演算は、電気抵抗値と膜厚とが比例関係にあるから、固体潤滑膜10の現膜厚は、(測定電気抵抗値/初期電気抵抗値)×初期膜厚の演算式で得られ、演算制御手段26は、この演算を実行する。」
(き)「【0040】このようにして演算制御手段26は、データメモリ24の履歴エリア24bに、転がり軸受A1の固体潤滑膜10の膜厚変化を記憶(履歴記憶)させるとともに、今回測定演算した膜厚と前回測定演算した膜厚とを比較し、かつ、両比較結果から、固体潤滑膜10が交換時期膜厚に到来する時期あるいは寿命膜厚に到来する時期を予測ないしは推定し、これによって、転がり軸受A1の寿命予知やその交換時期を管理することができる。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例2には、次の発明(以下、「引用例2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「それぞれが金属材で構成されて互いに対向する状態で設けられた内輪2と外輪4と、これら内輪2と外輪4の互いに対向する面に形成された軌道面同士の間に設けられた、それぞれが導電性を有したボール6とを備え、これら各軌道面とこれら各ボール6の転動面との当接部に固体潤滑膜10を介在させた状態で運転される転がり軸受A1の運転状態を監視する為、上記転がり軸受A1を構成する内輪2と外輪4との間の抵抗値を監視する抵抗値測定手段14と、測定電気抵抗値と初期電気抵抗値とを比較して固体潤滑膜10の現膜厚を演算する演算制御手段26を備えて、固体潤滑膜10の交換時期を管理する、転がり軸受の運転状態監視装置。」

3.対比
本願発明と上記引用例1発明とを対比すると、後者の「外輪1及び内輪2」は前者の「1対の軌道輪」に相当し、後者の「転動体3」は前者の「転動体」に相当する。
以上より、本願発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「それぞれが金属製で互いに対向する状態で設けられた1対の軌道輪と、これら両軌道輪の互いに対向する面に形成された軌道面同士の間に設けられた、それぞれがセラミック製である複数個の転動体とを備え、上記各セラミック製転動体のうちの少なくとも1個の転動体を導電性セラミック製とした転がり軸受。」点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願発明は、転がり軸受の各軌道面と各転動体の転動面との当接部に「グリース、又は、オイルエア潤滑若しくはオイルミスト潤滑により供給される潤滑油を介在させた状態で運転される」のに対して、引用例1発明は、前記当接部にこのような潤滑油を介在させた状態で運転されるものか否か不明である点。
[相違点2]
本願発明は、「転がり軸受の運転状態監視装置」であって、「運転状態を監視する為」、「上記転がり軸受と、電圧値が0.1?10Vの範囲に設定された直流電源と、抵抗値が1kΩ?1MΩの範囲に設定された抵抗とを直列に接続して閉回路を構成し」、「上記転がり軸受を構成する一方の軌道輪若しくはこの一方の軌道輪と電気的に導通している部材と、他方の軌道輪若しくはこの他方の軌道輪と電気的に導通している部材との間の抵抗値若しくはこの抵抗値に基づいて変化する電位差を監視し、この抵抗値若しくはこの抵抗値に基づいて変化する電位差が所定範囲から外れた場合に潤滑状態が不良であるとする」のに対して、引用例1発明は、「転がり軸受」自体であって、そのような「転がり軸受の運転状態監視装置」ではない点。

4.判断
4-1.[相違点1]について
転動体をセラミック製とした転がり軸受であって、各軌道面と各転動体の転動面との当接部に「グリース、又は、オイルエア潤滑若しくはオイルミスト潤滑により供給される潤滑油を介在させた状態で運転される」転がり軸受は、本願出願前周知のものと認められる(例えば、特開平10-26132号公報、特開平11-166546号公報、特開平11-182560号公報、特開平11-336767号公報、特開2000-240658号公報、等参照)から、引用例1発明において、転がり軸受の各軌道面と各転動体の転動面との当接部に「グリース、又は、オイルエア潤滑若しくはオイルミスト潤滑により供給される潤滑油を介在させた状態で運転される」ものとすることは、本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。
4-2.[相違点2]について
引用例2には上記のとおりの「転がり軸受の運転状態監視装置」の発明が記載されており、この引用例2発明は、「転がり軸受を構成する一方の軌道輪若しくはこの一方の軌道輪と電気的に導通している部材と、他方の軌道輪若しくはこの他方の軌道輪と電気的に導通している部材との間の抵抗値若しくはこの抵抗値に基づいて変化する電位差を監視」するものであって、「測定電気抵抗値と初期電気抵抗値とを比較して固体潤滑膜10の現膜厚を演算する演算制御手段26を備えて、固体潤滑膜10の交換時期を管理する」ものであるから、「抵抗値若しくはこの抵抗値に基づいて変化する電位差が所定範囲から外れた場合に潤滑状態が不良であるとする」技術思想を含むものと認められる。
引用例2発明は固体潤滑膜10を介在させたものであるが、引用例2発明の「転がり軸受の運転状態監視装置」が「グリース、又は、オイルエア潤滑若しくはオイルミスト潤滑により供給される潤滑油を介在させた状態で運転される」転がり軸受についても適用できることは、引用例2に、上記(い)に摘記したとおり、「この固体潤滑膜10は、潤滑性を備えかつ軸受構成部品を構成する金属材より電気導電度が低いものであれば本発明に含まれるが、好ましくは非導電性材例えば不導体や半導体が好ましい。」の記載があり、また、通常、「グリース、又は、オイルエア潤滑若しくはオイルミスト潤滑により供給される潤滑油」の潤滑膜の電気導電度が金属材より低いことから、当業者が容易に予測し得ることである。
引用例1発明において、転がり軸受の各軌道面と各転動体の転動面との当接部に「グリース、又は、オイルエア潤滑若しくはオイルミスト潤滑により供給される潤滑油を介在させた状態で運転される」ものとすることが当業者が容易に想到し得ることであることは上記のとおりであり、このようなものにおいても潤滑状態の良不良を監視することが必要ないし好適であることは当業者に明らかであるから、このようにしたものにおいて、「転がり軸受を構成する一方の軌道輪若しくはこの一方の軌道輪と電気的に導通している部材と、他方の軌道輪若しくはこの他方の軌道輪と電気的に導通している部材との間の抵抗値若しくはこの抵抗値に基づいて変化する電位差を監視し」、「抵抗値若しくはこの抵抗値に基づいて変化する電位差が所定範囲から外れた場合に潤滑状態が不良であるとする」引用例2発明を適用し、「転がり軸受の運転状態監視装置」とすることは、引用例2発明に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。
また、軸受の潤滑状態を監視する為の具体的構成として、「軸受と、直流電源と、抵抗とを直列に接続して閉回路を構成」することも、本願出願前周知のことと認められる(例えば、特公昭58-40136号公報、特開昭58-62537号公報、実願平4-41194号(実開平5-94526号)のCD-ROM、特開2001-272311号公報、等参照)ので、「運転状態を監視する為」、「転がり軸受と、直流電源と、抵抗とを直列に接続して閉回路を構成」することは、上記本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることであり、その「直流電源」の「電圧値」、「抵抗」の「抵抗値」を、それぞれ、「0.1?10Vの範囲」、「1kΩ?1MΩの範囲」に設定することは、潤滑油の特性や軸受の構成乃至各種諸元等に応じて実験等により決定し得る数値の最適範囲の選択に過ぎず、当業者の通常の創作力の発揮に過ぎない。なお、上記特開2001-272311号公報には、「電圧値」を「例えば1V程度」(【0029】参照)、「抵抗値」を「例えば10kΩ」(【0030】参照)、「1MΩ」、「1kΩ」(【0034】参照)とするという旨の記載があり、本願発明の上記数値限定を充足する例が示されている。
よって、上記引用例1発明を、「運転状態を監視する為」、「上記転がり軸受と、電圧値が0.1?10Vの範囲に設定された直流電源と、抵抗値が1kΩ?1MΩの範囲に設定された抵抗とを直列に接続して閉回路を構成し」、「上記転がり軸受を構成する一方の軌道輪若しくはこの一方の軌道輪と電気的に導通している部材と、他方の軌道輪若しくはこの他方の軌道輪と電気的に導通している部材との間の抵抗値若しくはこの抵抗値に基づいて変化する電位差を監視し、この抵抗値若しくはこの抵抗値に基づいて変化する電位差が所定範囲から外れた場合に潤滑状態が不良であるとする」「転がり軸受の運転状態監視装置」とすることは、引用例2発明及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

なお、請求人は、審判請求書において、「電流の値を適切に規制しなければ電食が生じてしまう、と言う、本願発明特有の事情に基づき、電圧値及び抵抗値を上述の様な値に設定したものです。言い換えれば、セラミック製の転動体を使用した転がり軸受に関して、電食の発生防止を意図しなければ、この様な電圧値及び抵抗値を設定する事はできないものです。」と主張するが、軌道輪及び転動体間に電位差を付加する構成を採用する以上、不安定な電気的接触状態で電食が発生する虞のあることも当業者にとって十分予測し得ることであり、電食を回避することは当業者が当然に考慮すべき事項である。

そして、本願発明の作用効果は、引用例1、2に記載された各発明及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-31 
結審通知日 2008-11-04 
審決日 2008-11-17 
出願番号 特願2001-358638(P2001-358638)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤田 和英  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 岩谷 一臣
常盤 務
発明の名称 転がり軸受の運転状態監視装置  
代理人 大田 隆史  
代理人 武藤 正樹  
代理人 小山 武男  
代理人 小山 欽造  

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