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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B01D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B01D
管理番号 1191056
審判番号 無効2005-80266  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-09-05 
確定日 2008-12-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3308248号発明「空気の純化」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3308248号の請求項1ないし7、9ないし13に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3308248号の請求項8に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その13分の1を請求人の負担とし、13分の12を被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件は、1999年10月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年10月8日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成14年5月17日(特許第3308248号)にその発明について特許の設定登録がされたところ、平成15年1月29日にレール・リキード・ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード、及び平成15年1月28日に、日本酸素株式会社により異議申立(異議2003-70264)がされ、平成15年10月23日(受付日)に訂正請求がされ、平成16年8月3日付けで、「訂正を認める。特許第3308248号の訂正後の請求項1ないし13に係る特許を維持する」旨の決定がされ、これに対し、平成17年9月5日に無効審判が請求された。以後の無効審判における手続の経緯は以下のとおりである。

上申書(被請求人) 平成17年11月30日
答弁書 平成18年1月31日
訂正請求書 平成18年1月31日
弁駁書 平成18年3月15日
上申書(請求人) 平成18年5月19日
上申書(被請求人) 平成18年6月8日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成18年6月8日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成18年6月8日
口頭審理 平成18年6月8日
上申書(請求人) 平成18年6月22日
上申書(被請求人) 平成18年7月6日

2.訂正の適否についての判断

2-1.訂正の内容
被請求人は、平成15年10月23日(受付日)の訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正した明細書(以下、「特許明細書」という。)を平成18年1月31日付け訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、具体的な訂正の内容は以下のとおりである。

(1)訂正事項a
特許明細書の【特許請求の範囲】【請求項1】における「随意に第1の吸着剤と同じものでよい第2の吸着剤」を「第1の吸着剤と同じ物質であってもよい第2の吸着剤」と訂正する。

(2)訂正事項b
特許明細書の【特許請求の範囲】【請求項2】における「3つの前記吸着剤」を「前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49から1.0であり、又、3つの前記吸着剤」と訂正する。

(3)訂正事項c
特許明細書の【特許請求の範囲】【請求項8】における「随意に第1の吸着剤と同じものでよい第2の吸着剤」を「第1の吸着剤と同じ物質であってもよい第2の吸着剤」と訂正する。

(4)訂正事項d
特許明細書の【特許請求の範囲】【請求項11】における「随意に第1の吸着剤と同じものでよい第2の吸着剤」を「第1の吸着剤と同じ物質であってもよい第2の吸着剤」と訂正する。

(5)訂正事項e
特許明細書の【特許請求の範囲】【請求項11】における「前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49以上である」を「前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49から1.0である」と訂正する。

(6)訂正事項f
特許明細書の【特許請求の範囲】【請求項12】における「前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49以上である」を「前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49から1.0である」と訂正する。

(7)訂正事項g
特許明細書の【特許請求の範囲】【請求項13】における「前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49以上である」を「前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49から1.0である」と訂正する。

2-2.訂正の適否
上記訂正事項a、c、dは、訂正前の「随意に第1の吸着剤と同じものでよい第2の吸着剤」を明りょうにするための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、特許明細書の段落【0013】に「水を除去するための吸着剤(第1の吸着剤)及び二酸化炭素を除去するための吸着剤(第2の吸着剤)は同じ物質でよく」と記載されていることから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内おいてされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
また、上記訂正事項bは、「第3の吸着剤」について「二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49から1.0」という限定をしたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、上記訂正事項e、f、gは、訂正前のヘンリー則選択率が「0.49以上」という範囲であったものを、「0.49から1.0」であると上限値を規定するものであるから、やはり特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、第3の吸着剤の「ヘンリー則選択率」を「0.49以上」とすることは、特許明細書の【特許請求の範囲】【請求項1】等に記載されており、「ヘンリー則選択率」の上限を「1.0」とすることは、特許明細書の段落【0025】の【表1】において第3の吸着剤として用いられる物質のうちヘンリー則選択率が最大のもの、つまり「バインダーレスCaX」のヘンリー則選択率が「1.0」であることから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。

2-4.むすび
したがって、上記訂正は、特許法第134条の2ただし書き、及び、同条第5項において準用する同法第126条第3項、第4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。

3.本件特許発明
上記「2.」で記載したとおり、上記訂正は、これを認めることができるから、特許第3308248号の請求項1?13に係る特許発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1?13」という。)は、平成18年1月31日付け訂正請求書に添付した訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)の【特許請求の範囲】【請求項1】?【請求項13】に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】空気流れを窒素に富む流れ及び/又は酸素に富む流れに分離する低温蒸留の前に、供給空気流れから水、二酸化炭素、及び一酸化二窒素を除去する方法であって、水、二酸化炭素、一酸化二窒素を含む前記供給空気流れを、第1の吸着剤に通して前記水を吸着させ、第1の吸着剤と同じ物質であってもよい第2の吸着剤に通して二酸化炭素を除去し、そして第3の吸着剤に通して前記供給空気から前記一酸化二窒素を除去することを含み、前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49以上であることを特徴とする方法。
【請求項2】前記第3の吸着剤が、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49から1.0であり、又、3つの前記吸着剤をTSAによって再生する請求項1に記載の方法。
【請求項3】前記第1の吸着剤が、活性アルミナ、浸漬法アルミナ、又はシリカゲルを含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】前記第2の吸着剤が、NaX、NaA、又はCaAゼオライトを含む請求項1?3のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.5以上である請求項1?4のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】前記選択率が少なくとも0.9である請求項5に記載の方法。【請求項7】前記第3の吸着剤の、一酸化二窒素吸着のヘンリー則定数が、少なくとも79mmol/g/atmである請求項1?6のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】空気流れを窒素に富む流れ及び/又は酸素に富む流れに分離する低温蒸留の前に、供給空気流れから水、二酸化炭素、及び一酸化二窒素を除去する方法であって、水、二酸化炭素、一酸化二窒素を含む前記供給空気流れを、第1の吸着剤に通して前記水を吸着させ、第1の吸着剤と同じ物質であってもよい第2の吸着剤に通して二酸化炭素を除去し、そして第3の吸着剤に通して前記供給空気から前記一酸化二窒素を除去することを含み、前記第3の吸着剤が、カルシウム交換Xゼオライト、Naモルデン沸石、Ba交換Xゼオライト、又はバインダーレスCa交換Xゼオライトであることを特徴とする方法。
【請求項9】前記第3の吸着剤の量が、前記第2の吸着剤の二酸化炭素吸着能力が使い果たされる時点までに空気流れの一酸化二窒素含有物を吸着するのに必要な第3の吸着剤の量の150%を超えない請求項1?8のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】前記供給空気流れがエチレンを含有し、前記第3の吸着剤がこのエチレンを除去する請求項1?9のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】水、二酸化炭素、及び一酸化二窒素を含む供給空気流れを、第1の吸着剤に通して前記水を吸着させ、第1の吸着剤と同じ物質であってもよい第2の吸着剤に通して前記二酸化炭素を除去し、そして前記空気流れから前記一酸化二窒素を除去するために存在する第3の吸着剤に通すことによって前記供給空気流れから水、二酸化炭素、及び一酸化二窒素を除去すること、並びに純化された空気流れの低温蒸留を行って窒素に富む流れ及び/又は酸素に富む流れを分離することを含み、前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49から1.0である、空気の分離方法。
【請求項12】供給空気流れを窒素に富む流れ及び/又は酸素に富む流れを分離する低温蒸留の前に、供給空気流れから水、二酸化炭素、及び一酸化二窒素を除去する設備であって、一連の流体の連絡路に、前記空気流れから前記水を吸着する第1の吸着剤、前記供給空気流れから前記二酸化炭素を除去する第2の吸着剤、及び前記空気流れから前記一酸化二窒素を除去する第3の吸着剤を有し、前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49から1.0である、供給空気流れから水、二酸化炭素、及び一酸化二窒素を除去する設備。
【請求項13】供給空気流れから水を吸着する第1の吸着剤、前記空気流れから二酸化炭素を除去する第2の吸着剤、及び前記空気流れから一酸化二窒素を除去する第3の吸着剤を一連の流体の連絡路に具備し、前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49から1.0である純化装置、並びに前記純化装置における水、二酸化炭素、及び一酸化二窒素の除去の後の前記供給空気流れ中の酸素から窒素を分離する低温空気分離装置、を具備した空気分離設備。」

4.当事者の主張及び証拠方法
4-1.請求人の主張
請求人は、本件特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として甲第1号証?甲第16号証を提出して、審判請求書、弁駁書、口頭審理(口頭審理陳述要領書を含む)、及び上申書を整理すると、以下のとおり主張している。

(1)無効理由1
本件訂正発明1、5、7、8、11は、本件出願の優先日前に頒布された甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであるから、同法123条第1項第2号の規定により無効にされるべきものである。
例えば本件訂正発明8についてみると、本件訂正発明8を、「第1の吸着剤」と「第2の吸着剤」は「同じ物質であってもよい」とされていることを根拠に、「第1の吸着剤」と「第2の吸着剤」を区別せずに認定することができ、甲第1号証においてN_(2)Oを吸着させる吸着剤として記載されていると認定した「Xゼオライト」は、本件訂正発明8の「バインダーレスCa交換Xゼオライト」に実質的に対応し、両者に相違点はない。

(2)無効理由2
本件訂正発明1-13は、本件出願の優先日前に頒布された甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法123条第1項第2号の規定により無効にされるべきものである。
例えば本件訂正発明8についてみると、「第1の吸着剤」と「第2の吸着剤」が異なると認定することができ、甲第1号証に記載された発明と対比すると、甲第1号証に記載された発明は、第1の吸着剤に通して水を吸着させ、第1の吸着剤と異なる第2の吸着剤に通して二酸化炭素を除去することが限定されていない点、が相違点として挙げられるが、この相違点は、甲第1号証の従来技術、甲第2号証の従来技術に記載されているように周知の技術であるから、当業者が容易になし得ることである。

(3)無効理由3
本件訂正発明1、5、6、11、12、13においては、「第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49以上である」を構成要件として規定している。この構成要件については、以下のとおり、記載要件に違反している。
(ア)二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率は、本来、二酸化炭素と一酸化二窒素の混合ガスから一酸化二窒素を分離する際に用いられるべき指標であるが、本件訂正発明においては、第3の吸着剤に通す供給空気流れからは、二酸化炭素が既に第2の吸着剤によって除去されているのであるから、供給空気から一酸化二窒素を除去するための第3の吸着剤を規定するために「二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率」を採用することは技術的な矛盾があり、発明特定事項の技術的意味が理解できない(審判請求書第51頁第18行?第52頁第9行)。
(イ)ヘンリー則選択率の0.49?1.0の範囲、1.0を超える範囲における実施例、比較例がないことから、数値範囲全体について所望の効果を奏するか否か不明であり、発明が解決しようとする課題と、ヘンリー則選択率の数値範囲との関係が理解できず、技術上の意義が不明確である。(審判請求書第53頁下から5行目?第54頁第5行)
(ウ)明細書には、ヘンリー則選択率の臨界的意義が明らかにされていないから、ヘンリー則選択率を0.49以上とすることにより発明を特定することの技術的意味を理解することができない。(審判請求書第55頁第14行?第16行)
(エ)本件特許明細書には、ヘンリー則定数の測定方法について何ら記載がないところ、実際に3通りの方法(甲第9号証、甲第10号証)でヘンリー則選択率を決定すると、測定方法によってヘンリー則選択率に大きな差が生じうることが明らかであり、ヘンリー則選択率(ヘンリー則定数)の決定方法が明確に記載されていない以上、発明が不明確である。(審判請求書第57頁第1行?第6行)
したがって、本件訂正発明1、5、6、11、12、13は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、同法123条第1項第4号の規定により無効にされるべきものである。

なお、請求人は無効理由3の対象となる本件訂正発明を、本件訂正発明1、5、6、11、12、13としているが、本件訂正発明2?4、7、9、10も少なくとも本件訂正発明1を引用した発明であることから、本件訂正発明1?7、9?13についても無効理由3の対象とすることとする。これは「第1回口頭審理調書」に記載されているとおり、口頭審理において被請求人にも了承を得ている。

4-2.請求人の証拠方法
甲第1号証: 欧州特許出願公開第862938号
甲第2号証: 特開平10-263392号公報
甲第3号証: DOUGLAS M.RUTHVEN 「PRINCIPLES OF ADSORPTION AND ADSORPTION PROCESSES」,John Wiley & Sons,Inc.,1984,表紙、奥付、目次、p.3-5
甲第4号証: 川井利長編,「圧力スイング吸着技術集成」,工業技術会,昭和61年1月15日,目次,p120-125,奥付
甲第5号証: U.Wenning, Linde AG,「NITROUS OXIDE IN AIR SEPARATION PLANTS」,(ドイツ), MUST '96会報,1996年,表紙,目次,p.79-89
甲第6号証: 特公平6-171号公報
甲第7号証: 特開平4-222614号公報
甲第8号証: 米国特許第3078639号
甲第9号証: Diego P.Valenzuela, Alan L.Myers, 「ADSORPTION EQUILIBRIUM DATA HANDBOOK」,(米国),Prentice-Hall, 1989年,表紙,目次,奥付,p.55
甲第10号証:実験成績証明書(測定日:平成17年6月26日?6月27日、測定場所:大陽日酸株式会社 山梨研究所、測定者:大陽日酸株式会社 開発・エンジニアリング本部 山梨研究所 吸着技術研究室 中村守光)

証拠方法ではないが、本件特許発明については多くの技術的な矛盾点が見受けられることを示すために、「特許第3308248号に関する見解書(作成日:2005年8月29日、作成者:熊本大学名誉教授 日本吸着学会前会長 廣瀬勉)」が提出されている。

さらに、口頭審理陳述要領書と共に以下の甲第11?16号証を提出している。
甲第11号証:特開平8-266629号公報
甲第12号証:特開平8-252419号公報
甲第13号証:特開平1-160816号公報
甲第14号証:特開平1-249139号公報
甲第15号証:特開平9-38446号公報
甲第16号証:特開平6-183727号公報

4-3.甲第1号証ないし甲第16号証の記載事項

(1)甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
(1-ア)「空気からの酸素と窒素を極低温分離に先だって、熱交換器において固化するのを避けるためと、結果として生じる極低温工程における圧損を避けるために、様々な微量の不純物を除かねばならない。最も取り除かねばならない不純物には、二酸化炭素と水が含まれる。しかしながら、多くの空気分離プラントは、燃焼源や道路の近くに置かれる。そのような場合には、周辺の空気中に重大なレベル(ppmレベル)の窒素酸化物が存在する。こうした不純物には、NO、NO_(2)、N_(2)Oが含まれる。これらの不純物は、低温下で、N_(2)O_(3)、N_(2)O_(4)、N_(2)O_(5)等の窒素酸化物に変化する。これらの物質は液体窒素温度下で固体となるので、大気中にこれらが存在することによって、極低温分離プラントの冷却側エンドにおいて、氷結による閉塞の問題を起こしうる。従って、二酸化炭素と水だけでなく、窒素酸化物を取りのぞく空気前処理システムを設計することが望ましい。」(第2頁第3行?第12行、訳文)
(1-イ)「米国特許第4711645号明細書には、水をアルミナで除去し、続いて二酸化炭素(訳文では「窒素」となっているが、「炭素」の誤記であるので訂正した。)をゼオライトで除去する技術を利用したPSA法による水と二酸化炭素の除去技術が記載されている。」(第2頁第21行?第23行、訳文)
(1-ウ)「本発明は、ガス流の低温プロセスの上流において、PSAプロセスを用い、昇圧したガス流から水と二酸化炭素を取りのぞくプロセスであって、ガス流には少なくとも0.2体積ppmの窒素酸化物が含まれ、この窒素酸化物を含むガス流をアルミナ吸着剤に通し、次にXゼオライト、Yゼオライト及びそれらの混合物から選ばれるゼオライト吸着剤に通し、窒素酸化物を吸着させる。一般に窒素酸化物とは、NO、NO_(2)、N_(2)O、N_(2)O_(3)、N_(2)O_(4)、N_(2)O_(5)及びこれらの混合物から選ばれるものである。ゼオライト吸着剤は、アルミナとゼオライトの合計容積に対して少なくとも17%以上が好ましい。前記ガス流は空気が好ましい。」(第2頁第47行?第55行、訳文)
(1-エ)「本発明は、周辺空気などのガスから、CO_(2)、水及び種々の窒素酸化物(NO、NO_(2)、N_(2)O、N_(2)O_(3)、N_(2)O_(4)、N_(2)O_(5)およびこれらの混合物)を除去する圧力スイング吸着プロセスに関する。・・・本発明の鍵となる態様は、窒素酸化物を除去するため、アルミナ層の後の、PSA床の後段に、ゼオライト層を使用することである。前記ゼオライトは、Xゼオライト、Yゼオライト、Aゼオライトから選ばれる。好ましくは、13XゼオライトまたはNa-Yゼオライトがよい。」(第3頁第9行?第17行、訳文)
(1-オ)「本発明者らは、驚いたことに、窒素酸化物濃度がガス混合物における正常な窒素酸化物濃度を上回っている異常な状況において、13X-ゼオライト、Na-YゼオライトおよびA-ゼオライトなどのゼオライトが、窒素酸化物を選択的に除去することに成功し、低エネルギー集約的で、低コストの圧力スイング吸着プロセスにおいて所望の実用的容量を有することを見出した。この発見は、従来、低温蒸留塔へのフィード空気から水と二酸化炭素を除去するためにアルミナおよびゼオライトを用いてきた空気の低温分離にとって特に意義があることである。・・・高い窒素酸化物レベルの周辺空気について検討することは重要である。」(第3頁第35行?第43行、訳文)
(1-カ)「実施例1 PSA実験は、・・・フィードガスは、10ppmのNO_(2)を含む空気であった。実験は、2種類の形状の吸着剤を用いて行われた。第1組のテストは、・・・活性アルミナのみを用いた。第2組のテストは、活性アルミナ・・・および・・・UOP 13X-ゼオライトを・・・用いた。・・・表1の結果は、PSA層の製品側の端部に13Xゼオライトの層を追加すると、NO_(2)はゼロまで低下することを明らかに示している。
実施例2 吸着剤として活性アルミナのみを用いた・・・PSAテストを行った。このPSAの入口および出口のNOx(NO_(2)+NO)濃度を実験当日に何回か測定した。・・・アルミナの内、17容量%を13X-ゼオライトに置き換えた同じプラントについてもPSAテストを行った。・・・すべてがアルミナのPSAとは対照的に、PSAからの流出ガスにはNOxは存在しない。
実施例3 活性アルミナおよび13X-ゼオライトの両方について、NO_(2)の吸着を測定した。吸着量は・・・破過曲線により測定した。・・・表4の結果は、13X-ゼオライトは活性アルミナよりもNO_(2)を強く吸着することを示している。NO_(2)に対する13X-ゼオライトの吸着量がこのように高いことを考えると、13X-ゼオライトが、単純な減圧とN_(2)を用いた大気圧でのパージによるPSAプロセスにおいて、強く吸着するNO_(2)(訳文では「N_(2)O」となっているが、「NO_(2)」の誤記であるので訂正した。)の除去に使用できることは明白なことではない。一般に、強く吸着している化学種は加熱により再生されねばならない。」(第3頁第47行?第5頁第11行、訳文)
(1-キ)「アルミナおよびゼオライト層を有する圧力スイング吸着を用いて、水および二酸化炭素だけでなく、ゼオライトに強く吸着し、酸性である窒素酸化物も除去できるという、思いがけない結果を得た。窒素酸化物で飽和した吸着剤は、減圧および下流の低温空気分離部からの窒素による低圧パージガスの影響で、窒素酸化物が脱着して、十分再生できることが判明している。」(第5頁第17行?第21行、訳文)

(2) 甲第2号証には以下の事項が記載されている。
(2-ア)「【請求項10】 前記ゼオライトがNaYゼオライトである、請求項9記載の方法。
【請求項11】 前記アルミナが出発アルミナにpHが9以上の塩基性溶液を含浸させて得られる変性アルミナである、請求項1記載の方法。」(【特許請求の範囲】【請求項10】、【請求項11】)
(2-イ)「TSAでは、再生工程において吸着剤から二酸化炭素を脱着するのに必要な熱を加熱した再生用ガスにより供給する。」(第5欄第24行?第26行、段落【0005】)
(2-ウ)「低温蒸留の前に空気からCO_(2)と水を除去する圧力スイング吸着(PSA)法が開発されている(米国特許第4477364号明細書)。最初は、これらの吸着剤は水の除去用のアルミナとこれに続くCO_(2)除去用の13Xのようなゼオライトの二つの部分からなる床からなっていた。もっと最近になって、全てがアルミナのPSA系が文献に記載された(米国特許第5232474号明細書)。・・・アルミナ吸着剤だけでは、PSAと低温TSAの操作中に全部の窒素酸化物と一部の炭化水素類を除去するのに有効でない。従って、米国特許第4477264号明細書や英国特許第1586961号明細書におけるように、複数の吸着剤を重ねることが提案されている。・・・吸着剤を重ねるのを避けることができるように種々の空気不純物を除去することができる「単一」の吸着剤を見いだすことである。吸着剤を重ねることは、下記の1?4を含む問題を引き起こしかねない。」(段落【0007】)
(2-エ)「ヨーロッパ特許第449576号明細書には、・・・すなわち二つのアルミナ層とその後の更に二つのゼオライト層とを用いることが教示されている。・・・このほかの特許文献は全て、水の除去用のアルミナ又はシリカゲルとこれに続くCO_(2)除去用の13X又は5Aゼオライトを含む層状にした床を教示している。」(段落【0013】)
(2-オ)「【課題を解決するための手段】本発明の発明者らは、アルミナをゼオライトと混合し、別々の床又は層に保持しておかずにガス流から二酸化炭素と水を除去するのに首尾よく使用することができること、そしてこのような混合した吸着剤は二酸化炭素と水の除去ばかりでなく窒素の酸化物と炭化水素類、特にC_(2)H_(2)の除去も含めて、ガス流からの不純物の除去を更に実質的に向上させることができることを見いだした。」(段落【0027】)

(3)甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(3-ア)「1.2.選択性 経済的な分離プロセスのために優先的に要求されることは、吸着剤の充分に高い選択性、吸着量、寿命である。選択性は、吸着動力学あるいは吸着平衡の相違に依存するだろう。双方の実施例が11章に記載されるが、現行のほとんどの吸着プロセスは、平衡選択性に依存している。そのようなプロセスの検討にあたり、分離ファクタの定義が便利である。
α_(AB)=X_(A)/X_(B) / Y_(A)/Y_(B)ここで、X_(A)とY_(A)は、平衡状態の吸着層と気相における成分Aのモル分率である。・・・分離ファクタは吸着剤により広範囲に変動する。
適切な吸着剤のサーチは、吸着分離プロセスの開発におてい最初のステップとなる。分離ファクタは、温度、そしてしばしば組成によって変化するので、分離ファクタが最大となるような適切な選択は、プロセス設計において重要な要件である。理想ラングミュア系の分離ファクタは組成と独立しており、2つの関連した成分のヘンリー則定数の比に等しい。したがって、適切な吸着剤の事前選択を、しばしば、得られるヘンリー定数から直接行うことができる。
一般には、可能性のある吸着剤の範囲を選別する必要があり、これはクロマトグラフィの保持時間を測定することで都合よく成し遂げられる。クロマトグラフ法は、分離ファクタを推定する、迅速で、信頼できる方法を提供し、さらに、吸着速度に関する情報を提供するという利点もある。」(第3頁第27行?第4頁第11行、訳文)

(4)甲第4号証には以下の事項が記載されている。
(4-ア)「窒素及び酸素の吸着容量・選択係数の値を表4に示す。なお,酸素と窒素間に於ける選択係数は,窒素に対する吸着容量と同等あるいは,それ以上に酸素濃縮PSAで重要な評価の対象因子となる。吸着の選択係数αは,(2)式で定義され,それぞれ純成分吸着平衡の吸着量qと平衡圧Pを用いて算出され,大きなα値を示すものほど優れている。 α=q_(N2)/P_(N2)×P_(O2)/q_(O2)・・・・・(2)」(第122頁右欄第27行?123頁左欄第5行)

(5)甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(5-ア)「アブストラクト(Abstract) 今日、一酸化二窒素(N_(2)O)が空気分離プラントの全く新しい問題として生じており、近年、その問題が拡大してきている。・・・この過剰な一酸化二窒素は、しばしば、空気分離プラントにおいて問題を引き起こす。例えば、配管や熱交換器の詰まりや、蒸留塔での蓄積、特に希ガス製品の汚染である。」(第79頁第1行?第9行、訳文)
(5-イ)「6.モレキュラーシーブス(分子篩炭)(Molecular sieves) 空気分離プラントのためのモレキュラーシーブスの選定は、CO_(2)とH_(2)Oの吸着のために設計される。そして、この吸着サイクルは、これらを除去するために最適化される。例えばモレキュラーシーブ5Aにおける一酸化二窒素の吸着能力は、二酸化炭素に対するよりも低い。従って二酸化炭素が破過する前に破過する。更に共吸着の場合、一酸化二窒素に対する吸着能力は、二酸化炭素に対する能力よりも著しく低下する。CO_(2)が存在するときのN_(2)Oの破過曲線は、N_(2)Oが単独で吸着するときより急勾配となる。・・・ミクロ孔に既に吸着しているN_(2)OのCO_(2)による置換効果は興味深い。」(第82頁第18行?第83頁第2行、訳文)
(5-ウ)「もし、周囲に上述のようなN_(2)Oの供給源が存在すれば、数体積ppm大きい値になるかもしれない。これらの濃度や吸着剤の状態では、サイクルタイムの終わりや、もしくはそのサイクルの後半に、一酸化二窒素の破過が起こるかもしれない。N_(2)Oのための適切なサイクルタイム、あるいはCO_(2)の除去に関してモレキュラーシーブの大増量が助けとなるだろう。しかし、これはエネルギー使用量の増加と関連しており、より適切な吸着剤の研究が、将来的に必要になるだろう。」(第83頁第8行?第15行、訳文)

(6)甲第6号証には以下の事項が記載されている。
(6-ア)「本発明は、総括的に、不純物、好ましくは水、必要に応じてその中に含有される1種又はそれ以上の二次不純物、例えば二酸化炭素、二酸化イオウ、硫化水素、アセチレン系不飽和炭化水素を、非吸着性ガス流をパージガスとして入口温度55°?100℃で用いてパージ脱着させることによつて吸着剤床を周期的に再生するゼオライト系モレキュラーシーブ吸着剤の固定床で選択的に吸着及び除去させてガス流を乾燥及び精製する改良方法に関する、方法にとり臨界的に重要なことは、プロセスサイクルの吸着精製或は乾燥段階の効率を増大させながら低い再生温度を用いることを可能にさせるゼオライトXの所定のカチオン系を使用することである。」(第3欄第1行?第12行)
(6-イ)「本方法によって適当に処理する供給原料中の不純物の濃度は臨界的要因でなく、・・・供給原料の主成分は空気、酸素、水素、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、メタンを含み、これらに限定されず、及び不純物として水に加えて或いは水の代りに二酸化炭素、硫化水素、アンモニア、窒素酸化物、二酸化イオウ、オレフィン系及びアセチレン系不飽和炭化水素のような収着性物質を含有することができる。本方法において用いるゼオライト系モレキュラーシーブ吸着剤は、ホージャサイトタイプの結晶構造を有し、骨組みのSi/Al比1.0?2.5を有し、CD^(++)カチオンのイオン半径より大きいイオン半径を有する二価のカチオン種に関して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%のカチオン当量を有するゼオライトである。このようなカチオンはCa^(++)、Sr^(++)及びBa^(++)を含む。・・・バリウムカチオンが特に本発明の目的に適している。本発明において用いるためのホージャサイトタイプの好ましいゼオライトはゼオライトXであり、・・・米国特許2,882,244号に開示され及び詳細に説明されている。」(第5欄第44行?第6欄第13行)
(6-ウ)「空気流から水蒸気及び二酸化炭素を取り去るプロセスにおいて、ゼオライトXの多価金属交換体を従来のゼオライトXのナトリウムカチオン体と比較する。・・・バリウム交換したゼオライトX・・・を収容した。・・・(c)本発明に従う多価カチオンを含有する吸着剤についての漏出時間は、単に82℃で再生した場合、288℃で再生した後の従来のゼオライト13Xについての漏出時間よりもなお有意に長い。このことは、とりわけ、同じ量のCO_(2)精製について従来の13Xの場合に比べて必要とする多価金属ゼオライトX吸着剤の量が少なくなることを意味する。上に立証した特定の場合では、これは40%程度のパージガスの節約になる。」(第8欄第34行?第10欄第7行)

(7)甲第7号証には以下の事項が記載されている。
(7-ア)「本発明は流体を精製するための方法と装置に関する。さらに詳細には,本発明は,温度-スウィング吸着(temperature-swing adsorption)によって空気から水蒸気と二酸化炭素を除去するための方法と装置に関する。」(段落【0001】)
(7-イ)「図1の二容器式吸着装置を参照しつつ本発明を説明する。各容器は,別個の吸着剤XとYの層を収容するよう設計されている。これらの吸着剤は2種の異なる不純物AとBを除去(吸着剤XはAの除去用,吸着剤YはBの除去用)するのに使用される。しかしながら,本発明は,2種の吸着剤又は2種の不純物に限定されるものではないことは言うまでもない。場合によっては1種類の吸着剤で充分であり,単一の吸着剤が2種類以上の不純物を除去する場合も多い。必要に応じて,3種類以上の吸着剤を使用することもできる。」(段落【0017】)
(7-ウ)「精製すべきガス混合物が空気であり,除去すべき成分AとBがそれぞれH_(2)OとCO_(2)である場合,セクション34と38に対する好ましい吸着剤は活性アルミナ又はシリカゲルであり,セクション42と46に対する好ましい吸着剤はタイプA又はタイプXのゼオライトである。」(第6欄第28行-第33行、段落【0019】)

(8)甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
(8-ア)「表Iに記載されている次のデータは、二酸化炭素、分子あたり5個未満の炭素原子を含む飽和脂肪族炭化水素、・・・低沸点ガス類、即ち窒素、水素および一酸化炭素のゼオライトXによる吸着量を示している。本明細書の他の記載と同様に、この表では用語「吸着された重量パーセント」は、吸着剤の重量百分率の増加を意味している。」(第2欄第28行?第36行、訳文)
(8-イ)「表I」(第2?3欄)の35番目?38番目には、温度25℃、圧力5?160mmHgにおけるNaXゼオライト吸着剤のC_(2)H_(4)の吸着量(重量%)が、1.4?10.1の値であることが示されている。

(9)甲第9号証には以下の事項が記載されている。
第55頁には、二酸化炭素のゼオライトモレキュラーシーブによる吸着について記載され、「13X;LINDE(UNION CARBIDE)」を用いて「STATIC VOLUMETRIC」法、つまり定容法で求めた、温度298.15Kおよび323.15Kにおける圧力と吸着量のグラフ、つまり吸着等温線が示されている。

(10)甲第10号証には概括すると以下の事項が記載されている。
(ア)欧州特許公開第862938号公報に記載のX型ゼオライトは、本件特許の請求項1に規定されたヘンリー則選択率を有すること、(イ)測定条件、決定方法により、ヘンリー則選択率の数値は大きく変わること、を証明するために、実験を行った。
ヘンリー則選択率を求める方法には、「(1)直線近似法、(2)ラングミュア法、(3)破過法」、の代表的な3つの方法があり、それぞれの方法でヘンリー則選択率を求めた結果は以下のとおりである。
(1)直線近似法によるヘンリー則選択率は、X型ゼオライトの一種であるバインダレスCaXゼオライト(東ソー(株)製 バインダレスCa-Xゼオライト 製品名:ゼオラム 品種:F-9 SA-600 Lot No.:c990327)を用いて、一酸化二窒素と二酸化炭素の30℃における吸着量を、図1に示す測定装置と特定の測定手順による「定容法」を採用して測定し、測定した吸着量から吸着等温線を作成し、該吸着等温線の低圧の直線領域で得られる傾きから、各成分のヘンリー則定数を決定し、各成分のヘンリー則定数の比をとり、算出するものである。吸着等温線(図2、図3)の極低圧領域での測定値(二酸化炭素については5.96×10^(-6)atmまでの測定値9点、一酸化二窒素については5.62×10^(-6)atmまでの測定値10点)を最小二乗法で直線近似し、その傾きから初期等温勾配(ヘンリー則定数)を求めると、二酸化炭素については「11610mmol/g/atm」、一酸化二窒素については「9023mmol/g/atm」となり、その比は、「0.777」であり、0.777>0.49であるから、EP862938A1には、本件特許の請求項1に記載されたヘンリー則選択率を有する吸着剤が開示されているといえる。
(2)ラングミュア法によるヘンリー則選択率は、吸着等温線、すなわち、圧力と吸着量の関係をラングミュア式に当てはめ、ラングミュア式の係数《q∞、K;慶伊が示した方法(慶伊富長,「吸着」,共立出版,p.28,1979)で決定》を算出し、初期等温勾配(ヘンリー則定数)を求める方法である。上記「(1)直線近似法・・・」で求めた二酸化炭素及び一酸化二窒素の吸着量の測定結果を用い、q=q∞・K・P/(1+K・P)の式に各測定値(圧力Pにおける吸着量q)を代入し、最小二乗法でq∞とKを求めると、その積であるヘンリー則定数は、二酸化炭素については「10840mmol/g/atm」、一酸化二窒素については「9246mmol/g/atm」であり、ヘンリー則選択率は、「0.853」であって、直線近似法とは10%近い差異が生じる。
(3)破過法によるヘンリー則選択率は、破過曲線から平衡吸着量を求め、平衡吸着量を分圧(被吸着ガスの濃度)で割った値をヘンリー則定数として求めるものである。30℃におけるバンダレスCa-Xゼオライトの二酸化炭素の平衡吸着量「1.38mmol/g」、分圧「3.12×10^(-3)」、および一酸化二窒素の平衡吸着量「0.28mmol/g」、分圧「3.90×10^(-3)」を採用した結果、ヘンリー則選択率は、二酸化炭素については「442mmol/g/atm」、一酸化二窒素については「7179mmol/g/atm」となり、ヘンリー則選択率は「16.2」であるから、直線近似法とは約20倍異なる値が得られる。

(11)甲第11号証には以下の事項が記載されている。
(11-ア)「【請求項1】 CO_(2)、およびあてはまる場合にはCO、ならびにH_(2)O、SO_(2)およびNOxのうち少なくとも1種の不純物を含む大気中の空気流から医療品質の空気を製造する方法において、
(a)大気中の空気流を、CO_(2)ならびにH_(2)O、SO_(2)およびNOxのうち少なくとも1種の不純物を吸着するための少なくとも1種の吸着剤であって、CO_(2)に対する吸着選択比が前記不純物に対する吸着選択比よりも小さい吸着剤を含有する吸着床を通過させることにより浄化する工程と、
(b)浄化された空気流中のCO_(2)濃度を連続的に測定する工程と、
(c)(b)工程で測定されたCO_(2)濃度が所定の値に達したときに前記吸着床の上流の大気中の空気流を遮断する工程と、
(d)あてはまる場合には浄化された空気流からCOを除去する工程と、
(e)医療品質の空気を回収する工程とを具備したことを特徴とする方法。
【請求項2】 吸着剤が、正方晶Al_(2)O_(3)単位が少なくとも1種の金属のカチオンと結合しているゼオライトであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】 前記金属が、Ni、Co、Fe、ZnおよびCrから選択される遷移金属、Li、NaおよびKから選択されるアルカリ金属、またはCa、MgおよびSrから選択されるアルカリ土類金属であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】 前記ゼオライトが、チャバザイト、モルデナイト、ゼオライトA、ゼオライトXまたはゼオライトYであることを特徴とする請求項2または3記載の方法。」(【特許請求の範囲】【請求項1】?【請求項4】)
(11-イ)「一酸化窒素および二酸化窒素(NOx)の濃度は25.5×10^(-3)ppm未満でなければならない。」(第3頁左欄第19行-第21行、段落【0003】)
(11-ウ)「図1の装置を用い、本発明の方法にしたがって大気中の空気から医療品質の空気を製造する。・・・チャンバー1は、8×12[ラキューナ(lacuna)]ビーズ(UOP社により市販されている)の形態のモルシブ(登録商標)ゼオライト タイプ13X APGからなる吸着床を有する。このゼオライトの化学組成は、Na[(AlO_(2))_(86)(SiO_(2))_(106)・XH_(2)Oである。」(段落【0039】)

(12)甲第12号証には以下の事項が記載されている。
(12-ア)「【請求項1】 二酸化炭素および二酸化炭素より極性の低いガスを含むガス流から二酸化炭素を除去する方法であって、ケイ素-対-アルミニウムの原子比約1.0?約1.15を有するX型ゼオライトを用いて約-50℃ないし約80℃の範囲の温度でガス流を吸着させることを含む方法。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
(12-イ)「【請求項5】 吸着剤が、交換可能なカチオンが1A族、2A族、3A族、3B族、ランタニド系列、およびこれらの混合物のイオンから選ばれるX型ゼオライトである、請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。」(【特許請求の範囲】【請求項5】)
(12-ウ)「【請求項7】 ガス流が酸素、窒素、アルゴン、水素、ヘリウムまたはこれらの混合物である、請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。」(【特許請求の範囲】【請求項7】)
(12-エ)「【発明の属する技術分野】本発明は、ガス流からの二酸化炭素の除去、より詳細には空気分離の前に空気から二酸化炭素を除去することによる空気の予備精製に関するものである。」(段落【0001】)
(12-オ)「好ましい吸着剤は交換可能なカチオンとしてナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、アルミニウム、スカンジウム、ガリウム、インジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジムおよびネオジムイオンのうち1種または2種以上を含むXゼオライトである。極めて好ましいカチオンはナトリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、セリウムおよびランタン、ならびにこれらの混合物である。」(第3頁右欄第7行?第15行、段落【0007】)

(13)甲第13号証には以下の事項が記載されている。
(13-ア)「1.CO_(2)の選択的吸着によりCO_(2)を、それと非酸性ガスとの混合物から選択的に分離する循環方法において:
(a)骨格SiO_(2)/Al_(2)O_(3)モル比2ないし100を有するファウジャサイト型ゼオライト系モレキュラーシーブを含有し、かつ亜鉛、希土類、水素及びアンモニウムより成る群から選択されるカチオン種の1種、又は2種もしくはそれ以上の混合物の少なくとも20当量%を含有し、しかもアルカリ金属カチオンもしくはアルカリ土類金属カチオン又はそれらの混合物の80当量%以下を含有する固定吸着床を設ける工程:・・・をくりかえす工程、を包含して成ることを特徴とする前記方法。」(特許請求の範囲、請求項1)
(13-イ)「本発明は、一般に窒素及びメタンのような非酸性ガスからの二酸化炭素の大量除去法(・・)に関し、・・・二酸化炭素用の選択吸着剤としてフォージャサイト系結晶構造を有する特定カチオン型ゼオライトを使用する方法に関する。」(第2頁左下欄第4行-第10行)
(13-ウ)「使用するフォージャサイト系ゼオライトはX型又はY型のいずれであってもよい。」(第4頁左上欄第3行?第4行)

(14)甲第14号証には以下の事項が記載されている。
(14-ア)「1.1:1?100:1のSi:Al比を有するケイ酸富有ゼオライトからなる、NOxおよびCO用の特殊な吸着剤」(特許請求の範囲、請求項1)
(14-イ)「5.Ca、AgまたはCuでドーピングされている、請求項1から3までのいずれか1項記載の吸着剤。」(特許請求の範囲、請求項5)
(14-ウ)「ゼオライトにおけるCOおよびNOの吸着および脱着は動的方法で、一定の流速で流動するヘリウム中で測定することができ、・・・特定量のCOまたはNO(NO 20容量%とHe 80容量%とからなる希釈混合物として)を供給する。」(第3頁左下欄第18行?右下欄第4行)
(15)甲第15号証には以下の事項が記載されている。
(15-ア)「【発明の属する技術分野】本発明は、空気液化分離装置の前処理方法及び装置に関するもので、詳しくは、特定フロン全廃という環境保護を重視した社会的背景を鑑み、原料空気予冷用のフロン冷凍機を用いることなく、原料空気中に含まれる水分と炭酸ガスなどの不純物を除去するための、空気液化分離装置の前処理方法および装置に関するものである。」(段落【0001】)
(15-イ)「前記不純物を吸着除去する吸着工程aが、温度10?45℃、好ましくは25?45℃の加圧原料空気を、水分吸着剤および炭酸ガス吸着剤をそれぞれ空気入口側からこの順序で充填した吸着筒内に導入して、空塔速度が5?40cm/sで行うことを特徴とする。」(第6欄第46行?第7欄第1行、段落【0015】)
(15-ウ)「また、前記水分吸着剤が、活性アルミナ、シリカゲルもしくはA型ゼオライトまたはこれらを混成充填してなることを特徴とする。・・・また、前記ゼオライトはNa-X型ゼオライト、Ca-X型ゼオライト、Ba-X型ゼオライト、あるいはCa-A型ゼオライトであることを特徴とする。」(段落【0022】?段落【0025】)

(16)甲第16号証には以下の事項が記載されている。
(16-ア)「【請求項1】Caイオン交換率が50%以上90%未満であり、かつ、結晶含有率が90%以上であるバインダーレスCaX型ゼオライト成形体。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
(16-イ)「本発明のゼオライト成形体は、バインダーレス化されたゼオライト結晶含有率90%以上のCaX型ゼオライト成形体である。・・・一方、添加したバインダーをゼオライト結晶化する、いわゆるバインダレス化は成形体強度を低下させることなく結晶含有率を増加させることができるため好ましい方法である。」(段落【0009】)
(16-ウ)「【発明の効果】以上の説明から明らかなように本発明のCaX型ゼオライト成形体は、従来の技術で製造したものよりも著しく吸着特性に優れ、且つ成形体の割れや崩壊が防止されるなど機械的特性に優れたものである。従って、たとえば酸素PSA等の吸着分離の効率向上に役立つ。」(段落【0020】)

4-4.被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、との審決を求め、請求人の主張に対して乙第1?5号証を提示して、答弁書、口頭審理(口頭審理陳述要領書含む)、及び上申書を整理すると、以下のとおり反論している。

(1)無効理由1について
本件訂正発明8は、「方法」の発明であって、三種の吸着剤で順次、水を吸着させ、次に二酸化炭素を除去し、さらに一酸化二窒素を除去する工程を有するものであり、第1の吸着剤と第2の吸着剤は同じ物質であったとしても工程(機能)として区別されているから、請求人が第1と第2の吸着剤による2つの工程を恰も一つの工程で同時に水と二酸化炭素を除去するように認定したのは誤りである。
また、甲第1号証における「Xゼオライト」は上位概念であって、概念上、下位概念である「Ca交換Xゼオライト」を含むとしても、上位概念で記載されている甲第1号証から、下位概念のものが導き出せるか否かは甲第1号証の記載に基づいて判断されるべきところ、甲第1号証には、「Ca交換Xゼオライト」が記載されている、または実質上記載されていると判断される記載はない。

(2)無効理由2について
本件訂正発明8と甲第1号証に記載された発明を対比すると、「水用吸着剤、二酸化炭素用吸着剤の次に一酸化二窒素用の第3の吸着剤を配設する」点、「第3の吸着剤が、カルシウム交換Xゼオライト、Naモルデン沸石、Ba交換Xゼオライト、又はバインダーレスCa交換Xゼオライトである」点、で相違するが、これらの点は甲第1?8号証、さらには、甲第11?16号証に記載も示唆もされていない。ここで、甲第12号証における「二酸化炭素より極性の低いガス」に「一酸化二窒素」が含まれないことを示すために、「一酸化二窒素は、二酸化炭素に較べて、より極性の大きいガスである」ことを開示している乙第5号証を提出し、平成18年7月6日付け上申書と共に乙第5号証の表紙及び「PREFACE TO 58th EDITION」(第58版発行に当たっての助言)の写しを提出している。

(3)無効理由3について
(ア)「第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率」をその選択指標として選んだこと、およびそれを「30℃において0.49以上」としたことは、水、二酸化炭素及び一酸化二窒素が破過を起こすことなく、特に、第2の吸着剤の能力を最大限活用できる意味において、大きな技術的意義がある。これは審判請求書に添付された見解書の指摘を参酌しても左右されない。(口頭陳述要領書第17頁第2行?第7行、第26行?第28行)
(イ)ヘンリー則選択率の数値範囲は、「0.49以上」又は「0.49から1.0」であって、数値範囲としては明確であり、ヘンリー則選択率が1.0を超えた場合の比較例が記載されていないこと、ヘンリー則選択率が1.0以下の場合の作用効果が記載されていないことをもって明確でないとはいえない。(口頭陳述要領書第18頁第11行?第26行)
(ウ)ヘンリー則選択率は(ア)で述べたとおり技術的意義を有するものであり、「臨界的意義」が明確でないことをもって、特許請求の範囲が明確でないとはいえない。(口頭陳述要領書第19頁第7行?第12行)
(エ)ヘンリー則選択率(定数)の決定方法について、以下のことから発明が不明確であるとはいえない。
(i)本件特許明細書の段落【0010】のヘンリー則選択率の定義、及び表1に記載された実測値に基づけば、本件訂正発明における「ヘンリー則選択率」は容易に決定できる(答弁書第28頁下から9行目?第29頁第1行)
(ii)本件特許明細書の表1作成時の基礎データを示す乙第1号証、この基礎データに基づいて作成された各吸着剤に関する等温線を表す乙第2号証によれば、等温線は、ほぼ直線関係にあり、特に、一般にヘンリー則定数を得る際に用いられている低圧域においては、直線関係が成立していることが明らかであり、本件訂正明細書に記載された、本件訂正発明に関して測定された等温線は、直線関係にあることを示し、又、この結果は、ヘンリー則定数を等温線の勾配により正確に得られることを表している(答弁書第30頁第9行?第14行)
(iii)等温線は、一般的に圧力が低い範囲で直線関係を保ち、より圧力の低いところで、正しいヘンリー則値を得ることができることはよく知られたところであるから、本件特許明細書の表1は、乙第1号証に示した各吸着剤についての2つの吸着データのうち、圧力のより低い測定点におけるものをヘンリー則定数とそれから得られるヘンリー則選択率として纏めている(答弁書第29頁下から4行目?第30頁第1行)
(iv)乙第3号証の記載事項によれば、ヘンリー則定数は、クロマトグラフ法、重量測定法、容量測定法によりほぼ同等な正確さで実施されることは明らかである(答弁書第32頁第16行?第18行)
(v)本発明では、各圧力に対する吸着量を測定し、それを吸着等温線としてプロットしてゼロ点に至る線が直線になる十分に低い圧力範囲を、測定を繰り返すことにより決定して、その直線の傾き(mmol/g/atm)をヘンリー定数として得るものであるから、ヘンリー則定数は、その測定の条件にさえ留意すれば、一義的に定まるものである(6月8日付け上申書第5頁第第16行?第23行)
(vi)甲第10号証では、(1)最小二乗法で直線近似して、その傾きから初期等温勾配を求める方法、(2)ラングミュアー法、(3)破過曲線法、の各方法によりバインダーレスCaXゼオライトの二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率を求めているが、(2)及び(3)の方法は、適用方法に不適切又は不明な点がある上、間接的方法あるいは近似式を用いてヘンリー則定数を求めるものであって、本件のヘンリー則定数を直接に測定する方法ではないから、これらの測定値の不一致を問題にすることは妥当ではなく、また、甲第10号証で用いられた吸着剤が本発明の実施例の吸着剤と異なるので、その値が本発明の実施例と異なっていても不思議はなく、さらに、(1)については、実際の測定値が不明であるから直線近似法が適切であるか確認できない(6月8日付け上申書第3頁下から7行目?第5頁第3行)
よって、甲第9号証及び甲第10号証に記載された事項を参照したとしても、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は、本件特許の請求項1、5、6、11、12、及び13に係る特許発明について明確でないとはいえない。
さらに、口頭審理陳述要領書において、「所定の吸着剤に関して一酸化二窒素に関する吸着等温線が直線状であることは本件審判請求人も認めていることを示す」ためとして乙第4号証を提出している。

4-5.被請求人の証拠方法と記載事項
(1)乙第1号証:「第1表 吸着データ」(本件特許発明者ディモシー クリストファー ゴールデン氏による、本件特許明細書の表1作成時の基礎データ)
「吸着剤、吸着物、圧力、吸着量、ヘンリー則定数」に関するデータが記載されている。

(2)乙第2号証:「第1表の吸着データに基づく等温線第1図から第7図」
乙第1号証のデータに基づいて作成された各吸着剤に関する等温線(吸着等温線)を表す第1図から第7図が記載されている。

(3)乙第3号証:Ind. Eng. Chem. Fundam. 1980, 19, 27-32 「An Experimental Study of Single-Component and Binary Adsorption Equilibria by a Chromatographic Method」,Douglas M.Ruthven and Ravl Kumar
以下の事項が記載されている。
(3-a)「分子ふるい4AにおけるAr、O_(2)、N_(2)、CH_(4)、COの平衡等温線と、分子ふるい5AにおけるAr、O_(2)、N_(2)、CH_(4)、CH_(4)、C_(2)H_(6)、C_(2)H_(4)、及びC_(3)H_(8)の平衡等温線とをクロマトグラフ法により求めた。ヘンリー定数と全域等温線は、入手可能な重量測定及び容積測定のデータと満足すべきレベルで一致している。」(第17頁文頭?第3行、訳文)
(3-b)「クロマトグラフ法は、吸着平衡等温線を決定する従来の重量測定法及び容積測定法の代用となる。・・・ヘンリー定数と吸着熱の極値を決定するためにクロマトグラフ法を応用することはすでに十分確立されている・・・クロマトグラフ法のカラム中の濃度波速度は平衡等温線の傾きから決定されるので、この方法は単一成分系の完全な等温線の決定に簡単に拡張できる。」(第27頁左欄第1行?第13行、訳文)
(3-c)「本報では、いくつかの軽量ガスに関しての、4Aゼオライトと5Aゼオライト上への単一成分系と二成分系の両方についてのクロマトグラフ法による研究結果について報告する。・・・重量測定法とクロマトグラフ法による等温線は良く一致し、クロマトグラフ法の有効性と正確性が確認された。」(第27頁左欄下から第5行目?右欄第3行、訳文)
(3-d)「成分2の吸着が無視できる場合(これはヘリウムキャリアーを使用した通常温度での強く吸着した成分に対しては許容可能な近似である)、ヘンリー則の定数は、吸着成分Xが0に近づくとき(K_(1)=lim_(X→0)K)のKの極値から直接求まる。さらに、このような系では、・・・完全な等温線では、傾きの積分から簡単に直接求められる可能性がある。等温線の傾きは一連の異なるガス組成における保持時間から決定される。」(第26頁左欄第6行?第16行、訳文)
(3-e)「図-1 ふるい4Aに関して本クロマトグラフのデータから求めたヘンリー定数・・・と、重量法及び容積法により以前に決定された値との比較。線は以前のデータを示す。以前の測定の温度範囲は実線で示し、外挿は破線で示してある。重量法及び容量法のデータは(a)RuthvenとDerrah(1975)(b)EaganとAnderson(1975)(c)Harper等(1969)から得た。」(第28頁右欄第1行?第8行、訳文)
(3-f)「クロマトグラフ法は、単一成分及び二成分の両方の平衡等温線を決定する従来の重量測定法及び容量測定法の簡単な代替法である。・・・単一成分等温線から二成分の平衡を予測する有効な近似法と考えられる。」(第31頁右欄下から7行目?第32頁左欄第5行、訳文)
(3-g)図-1(第28頁)は、ヘンリー則定数の比較を示しており、その説明として「ふるい4Aに関して本クロマトグラフのデータから求めたヘンリー定数(・・・)と、重量法及び容積法により以前に決定された値との比較。線は以前のデータを示す。以前の測定の温度範囲は実線で示し、外挿は破線で示してある。重量法及び容量法のデータは(a)・・・(b)・・・(c)・・・から得た。」(訳文)と記載されている。

(4)乙第4号証:特開2003-121070号公報
(4-a)「(試験4)・・・低圧下における一酸化二窒素吸着量を測定した。各種吸着剤に対し一酸化二窒素を吸着させ、これら吸着剤の一酸化二窒素に関する吸着等温線を作成した。吸着試験の温度条件は10℃とした。得られた吸着等温線を図6に示す。」(段落【0034】)
(4-b)図6(第9頁)は、各種吸着剤の低圧下における一酸化二窒素に関する吸着等温線を示している。

(5)乙第5号証:「化学と物理のCRCハンドブック:CRC Handbook of Chemistry and Physics」、編集者Robert C.Weast、第58版、CRC出版社、クリーブランド州オハイオ、1977年出版、E-63
乙第5号証のE-63には、N_(2)Oの双極子モーメントは、0.167デバイであり、CO_(2)の双極子モーメントは0デバイであることが示されている。

5.当審の判断
5-1.無効理由3について
無効理由3は、「4.4-1.(3)」で述べたとおりであり、本件訂正発明1?7、9?13の「ヘンリー則選択率」に関する記載要件不備を理由とするものといえる。そこで、この「ヘンリー則選択率」に関し、以下検討する。

(1)本件訂正発明1について
(一)本件訂正発明1は、「ヘンリー則選択率」に関しては「第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49以上である」ことを発明特定事項(以下、「特定事項A」という。)とするものである。
そこで、この特定事項Aの「第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率」について、本件訂正明細書をみると、以下の記載がある。
(a)「吸着剤で示される二酸化炭素に対する一酸化二窒素の選択率は、30℃における2つの気体のHenry則定数(初期等温勾配)の比として表すことができる。13Xゼオライトでは、この比は約0.39であることを見出している。」(段落【0010】)
(b)「前記第3の吸着剤は好ましくは30℃において、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が0.5以上、より好ましくは少なくとも0.9である。」(段落【0020】)
(c)「本発明者は、いくつかの吸着剤の一酸化二窒素及び二酸化炭素に対するヘンリー則定数を測定した。以下の表1は、これらとヘンリー則選択率(ヘンリー則定数の比)を示している。以下の表1は、これらとヘンリー則選択率(ヘンリー則定数の比)を示している。」(段落【0024】)
(d)【表1】には「UOP13X、バインダーレスCaX、CaX、BaXのS(N_(2)O/CO_(2))がそれぞれ、0.39、1.00、0.49、0.51」であることが示されている。
(e)「図2は、・・・13Xゼオライトで得られた破過曲線である。・・・結果は、N_(2)OがCO_(2)よりもかなり破過する・・・CO_(2)が破過するまで予備純化装置に使用すると、かなりの量のN_(2)Oが吸着床を破過し、低温装置に達して液体酸素中で凝縮する。・・・図3は同じ実験を示し・・・バインダーレスCaXゼオライトを吸着剤として使用し・・・この場合にはN_(2)OとCO_(2)の破過が実質的に同時に起こっている。」(段落【0043】)
(f)「従って本発明によれば、13Xの第2の吸着層で二酸化炭素の吸着をこの層の許容能力まで続けることができる。・・・第2の吸着剤を去る空気中の一酸化二窒素を本質的に周囲レベルにする。これは、第3の吸着剤のCaX層で吸着され、第3の吸着剤が二酸化炭素を吸着し始めるまで処理を続けるだけでなく(これは意図された操作条件からはずれることを示す)、第3の吸着剤が二酸化炭素の破過をもたらすまで二酸化炭素を吸着させなければ、第3の吸着剤から一酸化二窒素が破過することはない。」(段落【0044】)

(二)上記記載(a)によれば、「二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率」は各気体の「ヘンリー則定数」の比として表され、「ヘンリー則定数」は「Henry則定数(初期等温勾配)」と記載されていることから、この「ヘンリー則定数」は、吸着等温線の初期(初期低圧領域)勾配から求めることができると解される。そして、「ヘンリー則選択率」は2つの気体の「ヘンリー則定数」の比であるから、「ヘンリー則定数」が決まれば自ずと決まる。
なお、この「ヘンリー則定数」については、被請求人が「ヘンリー則選択率(ヘンリー則定数)の決定方法については、特許明細書の段落【0010】において、・・・と明確に定義され」ている《答弁書第28頁(D-1)》と主張しているのに対し、請求人は、審判請求書において「本件訂正発明におけるヘンリー則定数は、mmol/g/atmで定義される初期等温勾配である。」(第56頁第5行?第6行)と述べて、吸着等温線を測定し、複数の方法によってその初期等温勾配を求めた結果(甲第10号証)も示していることからみて、双方に確たる争いはないものとみれる。

(三)また、上記記載(d)?(f)からみると、特定事項Aの技術的意義は「13Xの第2の吸着層で二酸化炭素の吸着をこの層の許容能力まで(破過するまで)続けようとすると、一酸化二窒素がかなりの量破過して低温装置に達して液体酸素中で凝縮する問題を生じる。そこで、後段に二酸化炭素に対する一酸化二窒素の選択率が大きいものを配置すれば、13Xの第2の吸着層で二酸化炭素の吸着をこの層の許容能力まで続けることができ、第2の吸着剤を去る空気中の一酸化二窒素を本質的に周囲レベルにし、一酸化二窒素が第3の吸着剤のCaX層で吸着され、第3の吸着剤が二酸化炭素を吸着し始めるまで処理を続けるだけでなく、第3の吸着剤が二酸化炭素の破過をもたらすまで二酸化炭素を吸着させなければ、第3の吸着剤から一酸化二窒素が破過することはない」効果を生じるものとみることができる。
そして、特定事項Aの臨界的意義については、必ずしも明確とはいえないが、上記した技術的意義を有するCaXは記載(d)によればヘンリー則選択率が0.49であることから、この値であれば、上記した効果を一応生じるものであると理解できる。

(四)そこで、特定事項Aが明確であるかについて、「4-1.無効理由3(エ)」について検討する。
上記(二)で述べたとおり、「ヘンリー則定数」は、吸着等温線の初期(初期低圧領域)勾配から求めることができ、「ヘンリー則選択率」は2つの気体の「ヘンリー則定数」が決まれば求められる。
ここで、「ヘンリー則定数」である「初期(初期低圧領域)勾配」についてみておくと、被請求人の6月8日付け上申書第2頁第19行?第3頁第5行の記載からみれば、「ある表面上の物理的吸着で、吸着分子-吸着分子相互作用がない場合、流体相と吸着相の濃度の間の平衡関係は線形になり、この線形関係はヘンリー法則と呼ばれ、q=Kp(q:吸着される量、p:平衡圧力、K:ヘンリー法則の定数(単位、mmol/g/atm)と定義される」ものであって、低圧領域における直線領域の傾きであるとみれる。このことは、甲第10号証の「吸着等温線の低圧の直線領域で得られる傾きから・・ヘンリー則定数を決定する」(第1頁24?25行)との記載からみて、また、当時の技術水準(例えば、一般文献;「コロイド科学I-基礎および分散・吸着-」社団法人 日本化学会編、第1刷1995年12月12日発行、第2刷1998年5月15日発行、株式会社東京化学同人、第279頁下から5行目?第280頁第10行)からみても、妥当なものといえる。
そうすると、本件訂正明細書において「ヘンリー則定数」については、定義自体が明確に記載されてはいないものの、「ヘンリー則定数」は、吸着等温線の初期(初期低圧領域)における直線領域の勾配(傾き)から求めることができ、各気体の比をとることで「ヘンリー則選択率」が決まるものとみれる。

(五)しかしながら、本件訂正発明1は、上記したとおり、「二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率」が「0.49以上である」との具体的な数値を下限値として特定するものであるから、この具体的な数値である「下限値」について検討すると、このヘンリー則選択率の具体的な数値を求めるには、上記したとおり吸着等温線の初期(初期低圧領域)勾配から「ヘンリー則定数」を求めることになるが、本件訂正明細書には、「ヘンリー則定数を測定した」(記載b)と記載されるのみで、具体的な求め方については何ら記載はない。
そこで、「ヘンリー則定数」が一義的な値として決定できるか否かについて更に詳細にみておく。

まず、「吸着等温線」を得ることについてみると、
吸着等温線を得るには、温度を一定に保って、圧力と吸着量を測定する必要があり、この方法には従来から重量法と容量法があること、及び簡便な方法としてクロマトグラフ法があることが知られている(例えば、被請求人が提出した乙第3号証)が、これらの方法によって得られた吸着等温線が一致するかと云えば、その根拠は何れの証拠をみても見い出せない。
この点に関し、被請求人は、乙第3号証を提示して上申書において「クロマトグラフ法、重量法測定法及び容量測定法は、ほぼ同等の結果が得られ」る旨主張(7月6日付上申書第2頁「(2-1)」)している。確かに、乙第3号証には、摘示事項(3-a)ないし(3-c)、(3-f)には、「4Aゼオライトと5Aゼオライトに関して、クロマトグラフ法により求めた等温線と、従来から知られている重量測定法又は容量測定法により求めた等温線は良く一致し、吸着等温線を決定する従来法の代替法となる」ことが記載され、各測定法により得られた、吸着等温線の低圧領域での勾配に当たる「ヘンリー則定数」の値が摘示事項(3-g)の図-1のグラフ、及び図-2のグラフに示されている。そして、ふるい4Aの「ヘンリー則定数」を示す図-1のグラフ及び該グラフの説明をみると、クロマトグラフ法により求めたヘンリー則定数と、従来から知られている重量法と容量法のデータから求められたヘンリー則定数が示され、重量法と容量法のデータは「(a)RuthvenとDerrah(1975)(b)EaganとAnderson(1975)(c)Harper等(1969)から求めたものである」ことが記載されている。しかしながら、これらのクロマトグラフ法、と(a)、(b)、(c)の重量法又は容量法により求められたヘンリー則定数を比較すると、本件訂正発明1で規定している「30℃」の近辺、図-1の横軸でいえば10^(3)/Tが3.3近辺の値でみると、気体の種類によっては、一部の方法により求められた値は一致しているものもあるが、全ての方法による値が完全に一致するとまではいえないから、該「ヘンリー則定数」を求める基となった、吸着等温線の初期低圧領域の勾配も、該等温線を測定する方法によって完全に一致するとまでは判断できない。

次に、「初期勾配」を求めることについてみると、
「ヘンリー則定数」は、上述したとおり吸着等温線の初期(初期低圧領域)における直線領域の勾配(傾き)を指していることから、実際に勾配を決定するためには、重量法又は容量法などによってある温度における気体の圧力と吸着量を測定して、該測定値から吸着等温線の「初期低圧領域」における「直線領域」を特定する必要がある。しかし、この「初期低圧領域」における「直線領域」の特定方法について、いずれの証拠をみても一般的に定められた方法があるとはいえない。
また、乙第1、2号証に記載された2つの具体的な圧力における吸着データは、被請求人が、「本件特許明細書の表1作成時の基礎データを示す乙第1号証、この基礎データに基づいて作成された各吸着剤に関する等温線を表す乙第2号証によれば、等温線は、ほぼ直線関係にあり、特に、一般にヘンリー則定数を得る際に用いられている低圧域においては、直線関係が成立していることが明らかであり、本件訂正明細書に記載された、本件訂正発明に関して測定された等温線は、直線関係にあることを示し、又、この結果は、ヘンリー則定数を等温線の勾配により正確に得られることを表している」(「4-4.(3)(ウ)(ii)」)と主張していることからみて、いずれも吸着等温線の「初期低圧領域」である「直線領域」に属するものとして示されていると解されるが、該吸着データを詳細にみると、2つの吸着データそれぞれとゼロ点を結ぶ直線の傾き、つまり被請求人が「ヘンリー則定数」として示した「吸着量/圧力」は、例えば「CaX」のN_(2)O吸着に関して、圧力「0.00079atm」における吸着量「0.3972mmole/g」とゼロ点を結ぶ傾きは「503mmole/g/atm」であるのに対し、圧力「0.0012atm」における吸着量「0.5919mmole/g」とゼロ点を結ぶ傾きは「493mmole/g/atm」となり、両者は一致せず、ゼロ点及びこれらの吸着データを結んだ線が完全に一つの直線を示すとはいえないことが判る。そうすると、乙第1、2号証をみても、被請求人が等温線は「直線関係が成立している」と主張している「低圧域」において、吸着等温線の「直線領域」が特定されるとは解されず、「初期低圧領域」における「直線領域」の勾配として求められる「ヘンリー則定数」も一義的に定まらないといえる。つまり、ある圧力範囲において、圧力と吸着量の測定値をプロットしたグラフが一つの直線として特定されるならば、該圧力範囲のどの測定値を採用しても、吸着量/圧力の値は該直線の勾配に一致し、ヘンリー則定数も一義的に定まるともいえるが、被請求人が提示した乙第1、2号証の2つの吸着データをみても、吸着等温線の「初期低圧領域」における「直線領域」が特定できるとは解されないのであるから、該吸着等温線の勾配は一義的に定まるものとはいえない。

(六)以上みたとおり、ヘンリー則定数は、吸着等温線の初期(初期等低圧領域)勾配から求められることは理解できるものの、ヘンリー則定数は一義的な値として決定できるものでなく、また「ヘンリー則選択率」が一義的な値として決定できないことはいうまでもなく、本件訂正明細書にも何ら明記されていない以上、本件訂正発明1の「第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49以上である」との特定事項Aが明確であるとはいえない。

(七)なお、これまでみた以外の請求人の主張についてもみておくと、
(a)「等温線は、一般的に圧力が低い範囲で直線関係を保ち、より圧力の低いところで、正しいヘンリー則値を得ることができることはよく知られたところであるから、本件特許明細書の表1は、乙第1号証に示した各吸着剤についての2つの吸着データのうち、圧力のより低い測定点におけるものをヘンリー則定数とそれから得られるヘンリー則選択率として纏めている」(「4-4.(3)(ウ)(iii)」)と主張している。
しかし、被請求人は、上述したとおり、「本件特許明細書の表1作成時の基礎データを示す乙第1号証、この基礎データに基づいて作成された各吸着剤に関する等温線を表す乙第2号証によれば、等温線は、ほぼ直線関係にあり、特に、一般にヘンリー則定数を得る際に用いられている低圧域においては、直線関係が成立していることが明らかであり、本件訂正明細書に記載された、本件訂正発明に関して測定された等温線は、直線関係にあることを示し、又、この結果は、ヘンリー則定数を等温線の勾配により正確に得られることを表している」(「4-4.(3)(ウ)(ii)」)とも主張しており、後者の主張に基づけば、乙第1号証に示された2つの吸着データはいずれもヘンリー則定数を得る際に用いられる初期低圧領域のデータとして示されていると解され、2つの吸着データとゼロ点を結ぶ線が直線であると主張しているのであるから、少なくとも乙第1号証に示された吸着データの圧力のより高い測定点までの範囲においては、いずれの圧力における測定値を採用してもヘンリー則定数は正確に得られるはずであり、より圧力の低いところで、正しいヘンリー則値を得ることができることが知られているからといって、圧力のより低い測定点におけるものをヘンリー則定数として纏める理由が不明である。また、「より圧力の低いところで、正しいヘンリー則値を得ることができる」と主張するのであれば、乙第1号証に示した2つの吸着データの、より圧力の低い測定点よりさらに圧力の低い測定点を採用しない理由も不明である。よって、上記主張を採用することはできない。
(b)「各圧力に対する吸着量を測定し、それを吸着等温線としてプロットしてゼロ点に至る線が直線になる十分に低い圧力範囲を、測定を繰り返すことにより決定して、その直線の傾き(mmol/g/atm)をヘンリー定数として得るものであるから、ヘンリー則定数は、その測定の条件にさえ留意すれば、一義的に定まるものである」(「4-4.(3)(ウ)(v)」)と主張しているが、上述したとおり、そもそも本件訂正明細書では吸着等温線を得るために「各圧力に対する吸着量を測定」する方法として複数の方法が知られているにも係わらず、測定方法を特定しておらず、かつ測定方法によって測定値が異なると解されるから、留意すべき「測定の条件」が不明であるといえる。
さらに、一般的に測定値は測定誤差を含むものであり、測定を繰り返したとしても、測定誤差がゼロになることはないとみれるから、例え測定の条件に留意しても、「初期低圧領域」である「直線領域」の直線が特定できないと解される。このことは、「測定の条件」に留意した測定値であるといえる、乙第1、2号証に記載された2つの測定値から求めた直線の傾きをみても、該傾きが完全に一致していないことからも裏付けられており、どのような場合に「ゼロ点に至る線が直線」になったと判断し、「十分低い圧力範囲」を決定するのか不明である。よって、上記主張を採用することはできない。
(c)「甲第10号証では、(1)最小二乗法で直線近似して、その傾きから初期等温勾配を求める方法、(2)ラングミュアー法、(3)破過曲線法、の各方法によりバインダーレスCaXゼオライトの二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率を求めているが、(2)及び(3)の方法は、適用方法に不適切又は不明な点がある上、間接的方法あるいは近似式を用いてヘンリー則定数を求めるものであって、本件のヘンリー則定数を直接に測定する方法ではないから、これらの測定値の不一致を問題にすることは妥当ではなく、また、甲第10号証で用いられた吸着剤が本発明の実施例の吸着剤と異なるので、その値が本発明の実施例と異なっていても不思議はなく、さらに、(1)については、実際の測定値が不明であるから直線近似法が適切であるか確認できない」(「4-4.(3)(ウ)(vi)」)と主張している。
ここで、(2)ラングミュアー法は、吸着等温線は用いるとしても、それを近似した式から計算によって「ヘンリー則定数」を求めるものと解され、(3)破過曲線法は、そもそも吸着等温線を用いずにヘンリー則定数を求めるものと解されことから、被請求人が主張するとおり、本発明の吸着等温線を用いて直接直線の傾きを求めたものとは異なるとして、ヘンリー則定数を直接に測定する方法だけに着目しても、上述したとおり、「ヘンリー則定数」は一義的に定まらないと判断できるのであるから、(2)及び(3)の適用方法に不適切又は不明な点があったとしても、上記判断に影響するものではない。
また、吸着剤の違い、又は、「直線近似」が適切か否かを検討することなく、「ヘンリー則定数」は一義的に定まらないと判断できるのであるから、吸着剤による測定値の違い、及び、(1)の方法における実際の測定値が明記されていないことも該判断に影響するものではないといえる。
なお、請求人は、具体的な測定値を明記していないとしても、測定した吸着剤の種類、容量法のうちの「定容法」による測定値から「吸着等温線」を得たこと、吸着等温線の低圧域の複数の測定値を最小二乗法による直線近似法を採用して直線を特定し、その勾配を算出したことを明確に示しているのであって、このことは「ヘンリー則定数」を決定するためには、これらの条件を記載する必要があることを示唆しているともみれることを付言する。

(八)また、「4.4-1(3)無効理由3(ア)?(ウ)」についてみておくと、上記「5.5-1.(1)(三)」で述べたとおり、特定事項Aの技術的意義及び臨界的意義は理解できる。そして、第3の吸着剤は、一酸化二窒素及び二酸化炭素が混入することを前提として、二酸化炭素が破過しなければ一酸化二窒素も破過しないようにするものであるから、該第3の吸着剤を規定するために、「二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率」を採用することに技術的な矛盾はなく、また技術的な意味が理解できないとまではいえないし、数値範囲全体にわたる実施例や比較例がないこと、及び数値範囲について臨界的意義が記載されていないことを以て、数値範囲が明確でないとまではいえない。

(九) 以上のとおりであるから、本件訂正発明1についての本件特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とされるべきである。

(2)本件訂正発明2?7、9?13について
本件訂正発明2?7、9、10は、いずれも直接に、或いは間接的に本件訂正発明1を引用するものであり、本件訂正発明11、12、13は独立請求項であるが、いずれも「第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49から1.0である」という発明特定事項を含んでおり、上記「5-1(1)」に記載したとおり、「ヘンリー則選択率」が特定できないから、本件訂正発明2?7、9?13は明確でない。
したがって、本件訂正発明2?7、9?13についての本件特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とされるべきである。

5-2.本件訂正発明8に対する無効理由1及び2について
上述したとおり、本件訂正発明1?7、9?13については無効理由1、2を検討するまでもなく無効であるから、無効理由3の対象となっていない本件訂正発明8に対する無効理由1及び無効理由2について検討する。

(1)無効理由1について
甲第1号証、摘示事項(1-ウ)には、「ガス流の低温プロセスの上流において、PSAプロセスを用い、昇圧したガス流から水と二酸化炭素を取りのぞくプロセスであって、ガス流には少なくとも0.2体積ppmの窒素酸化物が含まれ、この窒素酸化物を含むガス流をアルミナ吸着剤に通し、次にXゼオライト、Yゼオライト及びそれらの混合物から選ばれるゼオライト吸着剤に通し、窒素酸化物を吸着させる」ことが記載されており、該ガス流は「空気が好ましい」こと、該窒素酸化物は「NO、NO_(2)、N_(2)O、N_(2)O_(3)、N_(2)O_(4)、N_(2)O_(5)及びこれらの混合物から選ばれるもの」であることも記載されている。
また前記ゼオライト吸着剤に関して、摘示事項(1-エ)によれば、「窒素酸化物を除去するため、アルミナ層の後のPSA床の後段にゼオライト層を使用する」こと、及び該ゼオライト層としては「Xゼオライト、Yゼオライト、Aゼオライトから選ばれる。好ましくは13X-ゼオライトまたはNa-Yゼオライトがよい。」と記載されている。
これらの記載を本件訂正発明8の記載振りに則して表すと、甲第1号証には、「空気の低温プロセスの上流において、昇圧した空気から、水と二酸化炭素を取りのぞくプロセスであって、この空気には、NO、NO_(2)、N_(2)O、N_(2)O_(3)、N_(2)O_(4)、N_(2)O_(5)及びこれらの混合物から選ばれる窒素酸化物が含まれ、この窒素酸化物を含む空気をアルミナ吸着剤に通し、次に、Xゼオライト、Yゼオライト、Aゼオライトから選ばれ、好ましくは13X-ゼオライトまたはNa-Yゼオライトである、ゼオライト吸着剤に通して窒素酸化物を吸着させる、プロセス」の発明(以下、「甲第1発明」という。)が記載されているといえる。
ここで、本件訂正発明8と甲第1発明とを対比すると、後者の「空気」又は「昇圧した空気」、及び「プロセス」は、それぞれ前者の「空気流れ」又は「供給空気流れ」、及び「方法」に相当する。
また、甲第1発明における「空気の低温プロセス」についてみてみると、摘示事項(1-ア)に「空気からの酸素と窒素を極低温分離に先だって・・・様々な微量の不純物を除かねばならない。」と記載され、摘示事項(1-オ)に「この発見は、従来、低温蒸留等へのフィード空気から水と二酸化炭素を除去するためにアルミナおよびゼオライトを用いてきた空気の低温分離にとって特に意義があることである。」と記載されていることから、該「ガス流の低温プロセス」は「空気から酸素と窒素を、低温蒸留で極低温分離するプロセス」であるといえ、そうすると甲第1発明における「空気の低温プロセスの上流において」は、本件訂正発明8における「空気流れを窒素に富む流れ及び/又は酸素に富む流れに分離する低温蒸留の前に」に相当する。
したがって、本件訂正発明8と甲第1発明とは、「空気流れを窒素に富む流れ及び/又は酸素に富む流れに分離する低温蒸留の前に、供給空気流れから水、二酸化炭素、を除去する方法であって、水、二酸化炭素、を含む前記供給空気流れを、吸着剤に通す、方法」である点で一致するが、以下の点で相違する。

相違点1:本件訂正発明8は、「第3の吸着剤に通して前記供給空気から一酸化二窒素を除去する」前に、「第1の吸着剤に通して水を吸着させ、第1の吸着剤と同じ物質であってもよい第2の吸着剤に通して二酸化炭素を除去」するのに対し、甲第1発明は、「ゼオライト吸着剤に通して窒素酸化物を除去する」前に、「窒素酸化物を含む空気をアルミナ吸着剤に通」すものであり、水と二酸化炭素を取りのぞく吸着剤、及びその順序が特定されていない点。

相違点2:本件訂正発明8は、「水、二酸化炭素、及び一酸化二窒素を除去する」方法であって、一酸化二窒素を除去する「第3の吸着剤が、カルシウム交換Xゼオライト、Naモルデン沸石、Ba交換Xゼオライト、又はバインダーレスCa交換Xゼオライトである」のに対し、甲第1発明は、「水、二酸化炭素」と「NO、NO_(2)、N_(2)O、N_(2)O_(3)、N_(2)O_(4)、N_(2)O_(5)及びこれらの混合物から選ばれる窒素酸化物」を除去するプロセスであって、「NO、NO_(2)、N_(2)O、N_(2)O_(3)、N_(2)O_(4)、N_(2)O_(5)及びこれらの混合物から選ばれる窒素酸化物を吸着させる」ゼオライト吸着剤が「Xゼオライト、Yゼオライト、Aゼオライトから選ばれ、好ましくは13X-ゼオライトまたはNa-Yゼオライト」である点。

そして、上記相違点1、2はいずれも実質的な相違点であるから、本件訂正発明8は甲第1発明であるとすることはできない。

この無効理由1について、請求人は次のとおり主張するので検討する。
(a)請求人は、本件訂正発明8を「(b1)供給空気流れから水、二酸化炭素、及び一酸化二窒素を除去する方法であって、(b2)水、二酸化炭素、一酸化二窒素を含む前記供給空気流れを、吸着剤に通して前記水及び二酸化炭素を除去し、(b3)次の吸着剤に通して前記供給空気から前記一酸化二窒素を除去することを含み、(b4)前記次の吸着剤が、バインダーレスCa交換Xゼオライトであることを特徴とする方法」として、水と二酸化炭素を除去する第1及び第2の吸着剤を一つとして認定しており、この理由として、第1の吸着剤と第2の吸着剤が同じ物質であれば、両者は実質的に一つの吸着剤である旨、第1と第2の吸着剤が同じ物質であれば、第1の吸着剤が水のみならず二酸化炭素も吸着し、第2の吸着剤も二酸化炭素のみならず水も吸着することが予測でき、両者を概念的に区別する必要性が乏しい旨、及び本件訂正明細書段落【0037】に「初めの2つの層は従来の吸着剤であり・・・しかしながら当該技術分野で既知であるように、水と二酸化炭素の除去のための任意の適当な1又は複数の吸着剤を使用しても良く、またこれら2つの層は、1つの吸着剤の層に組み合わせても良い」と記載されていることを挙げている(弁駁書第6頁)。
しかし、本件訂正発明8は、第1の吸着剤で水、第2の吸着剤で二酸化炭素を除去することを限定して、吸着除去する順序は明確に規定していると解すべきであり、例え第1と第2の吸着剤が同じ物質であり、段落【0037】に記載されるとおり「1つの吸着剤の層に組み合わ」されたとしても、段落【0013】の「水を除去するための吸着剤(第1の吸着剤)及び二酸化炭素を除去するための吸着剤(第2の吸着剤)は同じ物質でよく、また、1つの吸着床の上流の部分と下流の部分でよい」という記載からも明らかなように、吸着除去する順序を考慮しなくて良いということにならない。
よって、請求人の上記本件訂正発明8の認定と、それに対する主張を採用することはできない。
(b)請求人は、甲第1号証には、「空気の低温蒸留プロセスの上流に配置され、昇圧した空気流から水と二酸化炭素を取り除くプロセスであって、空気流には少なくとも0.2体積ppmのN_(2)Oが含まれ、このN_(2)Oを含む空気流をアルミナ吸着剤に通し、次にXゼオライト(・・・)、Yゼオライト(・・・)及びそれらの混合物から選ばれるゼオライト吸着剤(・・・)に通し、N_(2)Oを吸着させる」発明が記載されていると認定し、前記Xゼオライトは、バインダーレスCa交換Xゼオライトの上位概念であること、及び、一般式M_(n)Al_(n)Si_(192-n)O_(384)で表されるアルミノケイ酸塩の一種であり、一般式のMは、Na、K、Mg、Ca等のカチオンであることを根拠に、甲第1号証の「Xゼオライト」には、バインダーレスCa交換Xゼオライトが包含されている旨主張しているが、単に、「Xゼオライト」に「Ca交換Xゼオライト」又は「バインダーレスCa交換ゼオライト」が包含されることをもって、上位概念で表現されている発明から下位概念で表現された発明を認定することはできない。
また、技術常識を参酌しても、請求人が認定したN_(2)Oを吸着させるゼオライトとして「Ca交換Xゼオライト」又は「バインダーレスCa交換ゼオライト」が知られているとはいえないのであるから(後述の「(2)無効理由2について」の相違点2についての検討参照)、甲第1号証には、一酸化二窒素を吸着するゼオライトとして、「Ca交換Xゼオライト」又は「バインダーレスCa交換ゼオライト」が記載されている、又は記載されているに等しいとはいえない。
よって、上記請求人の主張は採用することができない。

したがって、請求人の主張をさらに検討しても、本件訂正発明8は甲第1発明であるとすることはできない。

(2)無効理由2について
甲第1号証には、上記「(1)無効理由1について」で述べたとおりの甲第1発明が記載されており、本件訂正発明8と甲第1発明との一致点及び相違点も上記「(1)無効理由1について」で述べたとおりである。

そこで、該相違点のうち、まず相違点2について検討する。
甲第1号証の摘示事項(1-エ)からみて、甲第1発明は、「周辺空気などのガスから、CO_(2)、水および種々の窒素酸化物(NO、NO_(2)、N_(2)O、N_(2)O_(3)、N_(2)O_(4)、N_(2)O_(5)およびこれらの混合物)を除去する圧力スイング吸着プロセスに関する」ものであって、その特徴は「窒素酸化物を除去するため、アルミナ層の後の、PSA床の後段に、ゼオライト層を使用すること」であり、その結果、摘示事項(1-キ)に記載されるとおり、「アルミナおよびゼオライト層を有する圧力スイング吸着を用いて、水および二酸化炭素だけでなく、ゼオライトに強く吸着し、酸性である窒素酸化物も除去できるという、思いがけない結果を得た」ものであるとみれる。そして、甲第1号証には、窒素酸化物として一酸化二窒素のみを対象とせず、ゼオライトとして、「Xゼオライト、Yゼオライト、Aゼオライトから選ばれ」、「好ましくは13XゼオライトまたはNa-Yゼオライト」を使用することが記載されているのみである。さらに、具体例をみても、摘示事項(1-カ)に示されているとおり、ゼオライトとして「UOP 13Xゼオライト」を用いて、窒素酸化物として「NO_(2)+NO」又は「NO_(2)」の除去を確認したものが記載されているのみである。
したがって、甲第1号証には、「NO、NO_(2)、N_(2)O、N_(2)O_(3)、N_(2)O_(4)、N_(2)O_(5)及びこれらの混合物から選ばれる窒素酸化物」のうち、特に、一酸化二窒素を除去するために適したゼオライト吸着剤として、「カルシウム交換Xゼオライト、Naモルデン沸石、Ba交換Xゼオライト、又はバインダーレスCa交換Xゼオライト」を用いることが記載されているとも、示唆されているともいえない。
次に甲第2?8号証を検討する。
まず、甲第6号証には、摘示事項(6-イ)によれば「不純物として水に加えて、或いは水の代りに、二酸化炭素、硫化水素、アンモニア、窒素酸化物、二酸化イオウ、オレフィン系及びアセチレン系不飽和炭化水素のような収着性物質を含有する、供給原料ガスから、Ca^(++)、Sr^(++)、Ba^(++)を含むゼオライトXを用いて不純物を除去する」ことが記載されているが、「窒素酸化物」は不純物として含みうる物質の一つとして記載されているのみであり、かつ、「窒素酸化物」として「一酸化二窒素」を意図していることを示唆する記載もない。さらに摘示事項(6-イ)(6-ウ)に記載されるとおり、具体的には、バリウム交換したゼオライトXを用いて、空気流から水蒸気及び二酸化炭素を除去する例が開示されているのみである。してみれば、甲第6号証には、「一酸化二窒素」の吸着剤として、「Ca^(++)、Ba^(++)を含むゼオライトX」を用いることが記載されているとも、示唆されているともいえない。
次に、甲第2号証には、摘示事項(2-オ)からみて「アルミナとゼオライトの混合したものが、ガス流から二酸化炭素、さらには窒素の酸化物と炭化水素類を除去するのに使用できる」こと、ゼオライトとしては摘示事項(2-ア)に記載されるとおり「NaYゼオライト」が使用できることは記載されているが、窒素酸化物として一酸化二窒素は記載されておらず、一酸化二窒素の吸着剤として「カルシウム交換Xゼオライト、Naモルデン沸石、Ba交換Xゼオライト、又はバインダーレスCa交換Xゼオライト」を用いることが記載されているとも、示唆されているともいえない。
また、甲第3号証及び甲第4号証には、吸着剤を用いた気体の分離において、吸着剤をヘンリー則定数を指標に選択することが公知であることが開示されているのみである。
また、甲第5号証には、摘示事項(5-ア)に「一酸化二窒素(N_(2)O)が空気分離プラントの全く新しい問題として生じている」ことが記載されており、空気分離プラントにおいて一酸化二窒素に着目して除去することが示唆されているといえるが、具体的な一酸化二窒素の除去については、摘示事項(5-イ)に「例えばモレキュラーシーブ5Aにおける一酸化二窒素の吸着能力は、二酸化炭素に対するよりも低い。従って二酸化炭素が破過する前に破過する」と記載され、摘示事項(5-ウ)に「より適切な吸着剤の研究が、将来的に必要になるだろう」と記載されているのみであり、一酸化二窒素を除去する「適切な吸着剤」は記載されておらず、ましてや「カルシウム交換Xゼオライト、Naモルデン沸石、Ba交換Xゼオライト、又はバインダーレスCa交換Xゼオライト」が「適切な吸着剤」であることは記載も示唆もされていない。
また、甲第7号証には、摘示事項(7-ア)(7-イ)(7-ウ)からみて、「空気から二酸化炭素を除去するための吸着剤として、タイプA又はタイプXのゼオライト」が記載され、「不純物の種類に応じて複数の吸着剤を使用すること」が記載されているといえるが、不純物として「一酸化二窒素」は記載されておらず、ましてや一酸化二窒素を「カルシウム交換Xゼオライト、Naモルデン沸石、Ba交換Xゼオライト、又はバインダーレスCa交換Xゼオライト」で吸着することは記載も示唆もされていない。
また、甲第8号証には、NaXゼオライトがアセチレンを吸着することが開示されているのみである。
さらに、請求人の口頭審理陳述要領書において、一酸化二窒素、二酸化炭素、窒素酸化物を除く吸着剤として、Ba又はCa交換Xゼオライト、バインダーレスCa交換ゼオライト又はNaモルデン沸石を用いることが周知であることを示すとして提出された甲第11?16号証を検討する。
甲第11号証には、摘示事項(11-ア)からみて「空気から、CO_(2)ならびにH_(2)O、SO_(2)、及びNOxのうち少なくとも1種の不純物を吸着するための吸着剤として、Ni、Co、Fe、ZnおよびCrから選択される遷移金属、Li、NaおよびKから選択されるアルカリ金属、またはCa、MgおよびSrから選択されるアルカリ土類金属と結合した、チャバザイト、モルデナイト、ゼオライトA、ゼオライトXまたはゼオライトYであること」は記載されているといえるが、摘示事項(11-イ)からみて、前記NOxとしては「一酸化窒素および二酸化窒素(NOx)」を意図しており、「一酸化二窒素」について記載はなく、摘示事項(11-ウ)の具体例も、化学組成が「Na[(AlO_(2))_(86)(SiO_(2))_(106)・XH_(2)O」である「タイプ13X」ゼオライトが記載されているのみであるから、「一酸化二窒素」を、摘示事項(11-ア)に挙げられたゼオライトのうち、特に「カルシウム交換Xゼオライト、Naモルデン沸石、Ba交換Xゼオライト、又はバインダーレスCa交換Xゼオライト」を用いて吸着することは記載も示唆もされていない。
また、甲第12号証には、摘示事項(12-ア)乃至(12-オ)からみて、「ガス流から二酸化炭素を除去するために、交換可能なカチオンを有するX型ゼオライトを用いる」ことは記載されているといえるが、「二酸化炭素より極性の低いガス」を前記ゼオライトで除去することは記載されていないから、乙第5号証を参照するまでもなく、「一酸化二窒素」を除去することが記載も示唆もされていないといえる。
また、甲第13号証には、摘示事項(13-イ)(13-ウ)から「非酸性ガスから二酸化炭素を除去するために、X型のフォージャサイト系結晶構造を有する特定カチオン型ゼオライトを使用する方法」が記載されているが、「一酸化二窒素」を除去することは記載されておらず、前記特定カチオンも摘示事項(13-ア)に記載されているとおり「亜鉛、希土類、水素及びアンモニウムより成る群から選択されるカチオン種」を必須とするもので、具体例をみてもカルシウム又はバリウム交換したもの、及びNaモルデン沸石は記載されていないから、「一酸化二窒素」を「カルシウム交換Xゼオライト、Naモルデン沸石、Ba交換Xゼオライト、又はバインダーレスCa交換Xゼオライト」で除去することは記載も示唆もされていないといえる。
また、甲第14号証には、摘示事項(14-ア)(14-イ)からみて「Ca、AgまたはCuでドーピングされているケイ酸富有ゼオライトからなる、NOxおよびCO用の吸着剤」が記載されているといえるが、「NOx」としては、摘示事項(14-ウ)に記載されているとおり、主に「NO」を意図したものといえ、「一酸化二窒素」を意図しているという記載も示唆もない。よって、甲第14号証には、「一酸化二窒素」を「Ca、AgまたはCuでドーピングされているケイ酸富有ゼオライト」で除去することが記載されているとはいえず、ましてや「一酸化二窒素」を「カルシウム交換Xゼオライト、Naモルデン沸石、Ba交換Xゼオライト、又はバインダーレスCa交換Xゼオライト」で除去することが記載されているとも、示唆されているともいえない。
また、甲第15号証には、炭酸ガス吸着剤として「Na-X型ゼオライト、Ca-X型ゼオライト、Ba-X型ゼオライト、あるいはCa-A型ゼオライト」が記載されているが、「一酸化二窒素」を除去することは記載されておらず、かつ、「一酸化二窒素」を特に、「Ca-X型ゼオライト、Ba-X型ゼオライト」で除去することが記載されているとも、示唆されているともいえない。
また、甲第16号証には、バインダーレスCaX型ゼオライト成形体が記載されているが、該ゼオライト成形体で「一酸化二窒素」を除去することは記載も示唆もされていない。
以上のとおり、甲第1?8号証、及び甲第11?16号証のいずれにも、「カルシウム交換Xゼオライト、Naモルデン沸石、Ba交換Xゼオライト、又はバインダーレスCa交換Xゼオライト」を「一酸化二窒素」の除去に好適に用いることが記載も示唆もされていないから、甲第1発明において、「一酸化二窒素」を除去するために、「ゼオライト」として「カルシウム交換Xゼオライト、Naモルデン沸石、Ba交換Xゼオライト、又はバインダーレスCa交換Xゼオライト」を用いることは当業者が容易に為しうることであるとはいえない。

次に相違点1について検討する。
上記相違点2についての検討で述べたとおり、甲第1号証の摘示事項(1-エ)からみて、甲第1発明は、「周辺空気などのガスから、CO_(2)、水および種々の窒素酸化物(NO、NO_(2)、N_(2)O、N_(2)O_(3)、N_(2)O_(4)、N_(2)O_(5)およびこれらの混合物)を除去する圧力スイング吸着プロセスに関する」ものであり、その特徴は「窒素酸化物を除去するため、アルミナ層の後の、PSA床の後段に、ゼオライト層を使用すること」であり、その結果、摘示事項(1-キ)に記載されるとおり、「アルミナおよびゼオライト層を有する圧力スイング吸着を用いて、水および二酸化炭素だけでなく、ゼオライトに強く吸着し、酸性である窒素酸化物も除去できるという、思いがけない結果を得た」ものであり、アルミナとゼオライトの2層で、水と二酸化炭素に加え、窒素酸化物も除去できるということを見いだしたものといえる。
してみれば、甲第1号証の摘示事項(1-イ)、甲第2号証の摘示事項(2-ウ)、(2-エ)に記載されるとおり、水と二酸化炭素のための吸着剤の層を重ねて用いることが周知の技術であり、さらに、甲第7号証の摘示事項(7-イ)に記載されるとおり、「複数種の不純物を除去するために、該不純物に応じて複数種の吸着剤を用いること」が公知、あるいは周知の技術であったとしても、アルミナとゼオライトの2層のみで、水、二酸化炭素、及び窒素酸化物を除去するという課題を解決できる甲第1発明において、吸着剤を3層にするという動機付けはないというべきであって、吸着剤を3層とし、第1の吸着剤で水、第2の吸着剤で二酸化炭素を吸着した上で、最後のゼオライト層で窒素酸化物を除去する構成とすることは当業者が容易に想到しうることであるとはいえない。

そして、上記相違点に係る発明特定事項を採用することにより、本件訂正発明8は、「第3の吸着剤が二酸化炭素の破過をもたらすまで二酸化炭素を吸着させなければ、第3の吸着剤から一酸化二窒素が破過することは」なく、「13Xの第2の吸着層で二酸化炭素の吸着をこの層の許容能力まで続けることができる。」という効果(段落【0044】)を奏するといえ、この効果は甲第1?8号証、及び甲第11?16号証に記載された発明から当業者が予測し得ない効果であるといえる。
なお、この効果については、本件訂正明細書には、特に第2の吸着層として13Xゼオライト、第3の吸着剤としてバインダーレスCaXゼオライトを使用した場合について記載されているものの、段落【0026】に、「CaX、BaX、Na-モルデン沸石、及びバインダーレスCaX」が、「空気の予備純化のための従来の物質である13Xと5Aよりも大きい、一酸化二窒素/二酸化炭素選択率及びより大きい一酸化二窒素ヘンリー則定数を持つ」ことが記載され、段落【0043】には、「13Xゼオライト」を用いた場合「N_(2)OがCO_(2)よりもかなり速く破過する」のに対し、「バインダーレスCaXゼオライトを吸着剤として使用」すると、「この場合にはN_(2)OとCO_(2)の破過が実質的に同時に起こっている」と記載されていることからみて、従来の13Xゼオライトに比べて相対的に大きい一酸化二窒素/二酸化炭素選択率を有する、本件訂正発明8の「バンイダーレスCaXゼオライト」以外のCaX、BaX、Na-モルデン沸石についても、該効果が奏されると推認できる。
したがって、本件訂正発明8は、甲第1?8号証、甲第11?16号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

この無効理由2について、請求人は次のとおり主張するのでさらに検討する。
請求人は、甲第1号証の摘示事項(1-イ)、甲第2号証の摘示事項(2-ウ)、(2-エ)に記載されるとおり、第1の吸着剤で水を除去してから第2の吸着剤で二酸化炭素を除去することは周知の技術であり、そもそも除去したい成分に対応する吸着剤を順に積層していくことも当業者の技術常識である旨、さらに、甲第5号証に記載されるとおり、二酸化炭素による一酸化二窒素の置換脱着効果が知られていたのであるから、一酸化二窒素を吸着する吸着剤より前でガス中の二酸化炭素を除去しておくことは当業者に自明であり、上記水吸着剤と二酸化炭素吸着剤の順序を考慮すれば、自ずと第1の吸着剤で水を吸着し、第2の吸着剤で二酸化炭素を除去し、第3の吸着剤で一酸化二窒素を除去する順に吸着剤を配設することになると主張している。
確かに、空気の分離の前処理として、第1の吸着剤で水、第2の吸着剤で二酸化炭素を除去することは周知であり、甲第5号証に記載されるとおり、一酸化二窒素も除去すべき物質であることが知られており、かつモレキュラーシーブについて、一般的に二酸化炭素による一酸化二窒素の置換脱着が知られていると解される。
しかし、摘示事項(5-ウ)の「サイクルタイムの終わりや、もしくはそのサイクルの後半に、一酸化二窒素の破過が起こるかもしれない。N_(2)Oのための適切なサイクルタイム、あるいはCO_(2)の除去に関してモレキュラーシーブの大増量が助けとなるだろう」の記載からみて、甲第5号証は、一酸化二窒素の破過や二酸化炭素の除去の問題に関して、一般的なモレキュラーシーブの使用量を増加することで対処可能であることを示しているのみであり、かつ、上記相違点2についての検討で述べたとおり、甲第1?8号証、及び甲第11?16号証をみても、一酸化二窒素を除去する吸着剤として、「カルシウム交換Xゼオライト、Naモルデン沸石、Ba交換Xゼオライト、又はバインダーレスCa交換Xゼオライト」が公知であるとはいえないことを勘案すると、周知の技術及び甲第5号証から、第1の吸着剤で水、第2の吸着剤で二酸化炭素、特定の第3の吸着剤で一酸化二窒素を除去する構成を導き出すことができるとまではいえない。そして、該構成を採用することにより「第3の吸着剤が二酸化炭素の破過をもたらすまで二酸化炭素を吸着させなければ、第3の吸着剤から一酸化二窒素が破過することは」なく、「13Xの第2の吸着層で二酸化炭素の吸着をこの層の許容能力まで続けることができる」という効果を奏することが予測し得るともいえない。
したがって、該請求人の主張を検討しても、やはり本件訂正発明8は、甲第1?8号証、甲第11?16号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができないと判断されるものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許請求の範囲の記載は、本件訂正後の請求項1?7、9?13に係る発明について、特許を受けようとする発明が明確とはいえないから、本件訂正後の請求項1?7、9?13に係る本件特許は特許法第36条第6項第2号の要件を満たさない出願に対してなされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
また、本件訂正後の請求項8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、甲第1?8号証、甲第11?16号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものともいえないから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件訂正後の請求項8に係る発明についてされた本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が13分の1、被請求人が13分の12を負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
空気の純化
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】空気流れを窒素に富む流れ及び/又は酸素に富む流れに分離する低温蒸留の前に、供給空気流れから水、二酸化炭素、及び一酸化二窒素を除去する方法であって、水、二酸化炭素、一酸化二窒素を含む前記供給空気流れを、第1の吸着剤に通して前記水を吸着させ、第1の吸着剤と同じ物質であってもよい第2の吸着剤に通して二酸化炭素を除去し、そして第3の吸着剤に通して前記供給空気から前記一酸化二窒素を除去することを含み、前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49以上であることを特徴とする方法。
【請求項2】前記第3の吸着剤が、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49から1.0であり、又、3つの前記吸着剤をTSAによって再生する請求項1に記載の方法。
【請求項3】前記第1の吸着剤が、活性アルミナ、浸漬法アルミナ、又はシリカゲルを含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】前記第2の吸着剤が、NaX、NaA、又はCaAゼオライトを含む請求項1?3のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.5以上である請求項1?4のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】前記選択率が少なくとも0.9である請求項5に記載の方法。
【請求項7】前記第3の吸着剤の、一酸化二窒素吸着のヘンリー則定数が、少なくとも79mmol/g/atmである請求項1?6のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】空気流れを窒素に富む流れ及び/又は酸素に富む流れに分離する低温蒸留の前に、供給空気流れから水、二酸化炭素、及び一酸化二窒素を除去する方法であって、水、二酸化炭素、一酸化二窒素を含む前記供給空気流れを、第1の吸着剤に通して前記水を吸着させ、第1の吸着剤と同じ物質であってもよい第2の吸着剤に通して二酸化炭素を除去し、そして第3の吸着剤に通して前記供給空気から前記一酸化二窒素を除去することを含み、前記第3の吸着剤が、カルシウム交換Xゼオライト、Naモルデン沸石、Ba交換Xゼオライト、又はバインダーレスCa交換Xゼオライトであることを特徴とする方法。
【請求項9】前記第3の吸着剤の量が、前記第2の吸着剤の二酸化炭素吸着能力が使い果たされる時点までに空気流れの一酸化二窒素含有物を吸着するのに必要な第3の吸着剤の量の150%を超えない請求項1?8のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】前記供給空気流れがエチレンを含有し、前記第3の吸着剤がこのエチレンを除去する請求項1?9のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】水、二酸化炭素、及び一酸化二窒素を含む供給空気流れを、第1の吸着剤に通して前記水を吸着させ、第1の吸着剤と同じ物質であってもよい第2の吸着剤に通して前記二酸化炭素を除去し、そして前記空気流れから前記一酸化二窒素を除去するために存在する第3の吸着剤に通すことによって前記供給空気流れから水、二酸化炭素、及び一酸化二窒素を除去すること、並びに純化された空気流れの低温蒸留を行って窒素に富む流れ及び/又は酸素に富む流れを分離することを含み、前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49から1.0である、空気の分離方法。
【請求項12】供給空気流れを窒素に富む流れ及び/又は酸素に富む流れを分離する低温蒸留の前に、供給空気流れから水、二酸化炭素、及び一酸化二窒素を除去する設備であって、一連の流体の連絡路に、前記空気流れから前記水を吸着する第1の吸着剤、前記供給空気流れから前記二酸化炭素を除去する第2の吸着剤、及び前記空気流れから前記一酸化二窒素を除去する第3の吸着剤を有し、前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49から1.0である、供給空気流れから水、二酸化炭素、及び一酸化二窒素を除去する設備。
【請求項13】供給空気流れから水を吸着する第1の吸着剤、前記空気流れから二酸化炭素を除去する第2の吸着剤、及び前記空気流れから一酸化二窒素を除去する第3の吸着剤を一連の流体の連絡路に具備し、前記第3の吸着剤の、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が、30℃において0.49から1.0である純化装置、並びに前記純化装置における水、二酸化炭素、及び一酸化二窒素の除去の後の前記供給空気流れ中の酸素から窒素を分離する低温空気分離装置、を具備した空気分離設備。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、低温空気分離の前に空気流れから、水、二酸化炭素及び一酸化二窒素を除去することに関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
空気の低温分離は、高沸点物質と危険物質の両方を除去する予備純化工程を必要とする。主な高沸点空気成分には、水と二酸化炭素の両方が挙げられる。これらの不純物を周囲供給空気から除去しないと、水と二酸化炭素は分離処理の低温区画、例えば熱交換器及びLOX溜で凝固する。これは圧力降下、流量の変化及び操作上の問題をもたらす。アセチレンその他の炭化水素を含む様々な危険物質も除去しなければならない。高沸点炭化水素は塔のLOX区画で凝縮して潜在的な爆発の危険性をもたらすので問題が多い。
【0003】
窒素の酸化物も除去するべきであるということが知られている。一酸化二窒素N_(2)Oは空気の少量成分であり、周囲空気中に約0.3ppm存在する。これは、二酸化炭素と同様な物性を持ち、従って、低温蒸留設備の塔及び熱交換器内において固体を形成するので、潜在的な操作上の問題を示す。加えて、一酸化二窒素は有機物質の燃焼を促進することが知られており、また感衝撃性である。また、一酸化二窒素はそれ自体も安全性に問題がある。更に、エチレンも空気中の不純物であり、低温(cryogenic)空気分離の前に除去することが望ましい。
【0004】
空気の予備純化は通常、吸着清浄化処理によって行う。これらは、米国特許第4541851号及び同5137548号明細書で説明されるような熱スイング吸着(TSA)、又は米国特許第5232474号明細書で説明されるような圧力スイング吸着(PSA)によって行うことができる。
【0005】
Wenning(「Nitrous oxides in Air Separation Plants」U.Wenning、MUST96会報、p.79?89)は、二酸化炭素が、既に吸着されている一酸化二窒素をゼオライト吸着剤から追い出して、周囲空気よりも高い濃度で一酸化二窒素の破過をもたらすことがある様式を説明している。
【0006】
問題の解決手段は提供されていないが、Wenningは一酸化二窒素のためのより適当な吸着物質が将来的に必要になるであろうとしている。
【0007】
米国特許第4933158号明細書は、一酸化二窒素、二酸化炭素及びN_(2)F_(2)をNF_(3)から吸着するために、様々な天然ゼオライトが合成ゼオライトよりも優れていることがあるということを示唆している。
【0008】
欧州特許第0284850号明細書は、空気分離の前に、空気から水及び二酸化炭素を除去するために、多価カチオン交換ゼオライトを使用することを開示している。データは示されていないが、窒素酸化物及びオレフィンを含む他の不純物も除去できることが述べられている。この発明の好ましい態様では多価カチオンは、バリウム又はストロンチウムであり、また特に、Ca2+よりも大きいイオン半径を持つものである。しかしながら、好ましくはないが、カルシウムを使用してもよいことが示されている。ゼオライト自身は13Xでよい。多価カチオン交換ゼオライトを使用することの利益は、低温での再生の間に水を除去できることである。従って、多価カチオン交換ゼオライトは、水の吸着のために使用することが必須である。
【0009】
多価カチオン交換ゼオライトを使用することの更なる示された利点は、より多くの二酸化炭素を吸着できることであるとされている。従って明らかに、カチオン交換ゼオライトは、水の吸着と並んで二酸化炭素の吸着のために使用することが必要である。Ca交換13Xゼオライトが一酸化二窒素を吸着する程度は特に開示されていない。
【0010】
【課題を解決するための手段】
吸着剤で示される二酸化炭素に対する一酸化二窒素の選択率は、30℃における2つの気体のHenry則定数(初期等温勾配)の比として表すことができる。13Xゼオライトでは、この比は約0.39であることを見出している。
【0011】
本発明者は、ある種の吸着剤は、一酸化二窒素に対して二酸化炭素に対するものよりも実質的に大きい選択率を有することを発見した。
【0012】
ここで本発明は、空気流れを窒素に富む流れ及び/又は酸素に富む流れを分離するための低温蒸留の前に、供給空気流れから水、二酸化炭素及び一酸化二窒素及び随意にエチレンも除去する方法を提供する。ここでこの方法は、水、二酸化炭素及び一酸化二窒素を含有する前記供給空気流れを、第1の吸着剤に通して前記水を吸着させ、第2の吸着剤に通して二酸化炭素を除去し、そして第3の吸着剤に通して前記供給空気から前記一酸化二窒素と随意に前記エチレンを除去することを含む。
【0013】
水を除去するための吸着剤(第1の吸着剤)及び二酸化炭素を除去するための吸着剤(第2の吸着剤)は同じ物質でよく、また、1つの吸着床の上流の部分と下流の部分でよい。しかしながら、一酸化二窒素及び随意にエチレンを除去するための第3の吸着剤は、第1と第2の吸着剤とは異なる性質のものであることが必要である。
【0014】
前記3つの吸着剤は好ましくはTSAによって再生する。好ましくは、2組の3つの吸着剤を使用し、純化処理を連続的に実施して、定期的に再生を行う。ここでは、3つの吸着剤のそれぞれの組が純化プロセスに接続されており、交互に再生を行う。
【0015】
水を除去するための第1の吸着剤は、活性アルミナ、浸漬法アルミナ、シリカゲル、又はA若しくはXタイプのゼオライトを含む標準的な乾燥剤を好ましくは含む。
【0016】
前記第2の吸着剤は、浸漬法アルミナ、浸漬法アルミナ/ゼオライト複合材料、又はA若しくはXタイプのゼオライト、特に13X(NaX)ゼオライトを好ましくは含む。
【0017】
浸漬法アルミナは米国特許第5656064号明細書で説明されるようなものでよく、ここでは、pHが少なくとも9の塩基性溶液、例えばKHCO_(3)溶液で出発物質のアルミナを浸漬し、そして浸漬させた化合物が、意図された再生条件下で再生されないような様式でCO_(2)を吸着する形に分解されることを避けるのに十分に低い温度(例えば200℃以下)で乾燥することによって、CO_(2)除去能力を増加させている。
【0018】
浸漬する溶液のpHは、以下の式のようにアルミナの零点電荷(zero point charge)(ZPC)に関係していることが好ましい。
pH ≧ ZPC-1.4
又は、より好ましくは、
ZPC + 2 ≧ pH ≧ ZPC - 1.4
【0019】
浸漬剤は好ましくは、アルカリ金属水酸化物、若しくは水酸化アンモニウム、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、又は有機酸塩である。
【0020】
前記第3の吸着剤は好ましくは30℃において、二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が0.5以上、より好ましくは少なくとも0.9である。
【0021】
更に、第3の吸着剤の一酸化二窒素吸着に対するヘンリー則定数は、好ましくは少なくとも79mmol/g/atm、より好ましくは少なくとも500mmol/g/atm、更により好ましくは少なくとも1000mmol/g/atmである。
【0022】
前記第3の吸着剤は好ましくは、カルシウム交換Xゼオライトである。より好ましくは、この第3の吸着剤はバインダーレスカルシウム交換Xゼオライトである。
【0023】
典型的に、第3の吸着剤は、TSA空気純化処理での水の吸着が好ましくないようなものである。カルシウム交換X吸着剤は、水分に曝されることに対して非常に感受性である。水に曝されてから高温による再生を行った後でも、カルシウム交換X吸着剤は、二酸化炭素又は一酸化二窒素のような気体分子に対して低下した能力を示す。従って、第2の吸着剤は、カルシウム交換したXタイプゼオライトよりも水に対する感受性が低い物質である。
【0024】
本発明者は、いくつかの吸着剤の一酸化二窒素及び二酸化炭素に対するヘンリー則定数を測定した。以下の表1は、これらとヘンリー則選択率(ヘンリー則定数の比)を示している。
【0025】
【表1】

【0026】
CaX、BaX、Na-モルデン沸石、及びバインダーレスCaXは上述の要求を満たすが、カルシウム交換はかならずしも性能を改良しないということが理解できる。Ca交換モルデン沸石はNa-モルデン沸石よりも適当でない。上述の全ての物質が、空気のTSA予備純化のための従来の物質である13Xと5Aよりも大きい、一酸化二窒素/二酸化炭素選択率及びより大きい一酸化二窒素ヘンリー測定数を持つことも理解される。
【0027】
好ましくは、第2の吸着剤の二酸化炭素吸着能力が使い果たされるときまでに空気流れの一酸化二窒素含有物を吸着するのに必要な、第3の吸着剤の量の150%以下の第3の吸着剤が存在するようにする。
【0028】
本発明は、水、二酸化炭素、存在するならばエチレン、及び一酸化二窒素を含む供給空気流れを、第1の吸着剤に通して前記水を吸着させ、第2の吸着剤に通して二酸化炭素を除去し、そして十分な量で存在する第3の吸着剤に通して前記供給空気流れから前記一酸化二窒素と随意にエチレンを除去させることによって、前記供給空気流れから水、二酸化炭素、一酸化二窒素、及び随意にエチレンを除去すること、並びに純化した空気流れの低温蒸留を行って、窒素に富む流れ及び/又は酸素に富む流れを分離すること、を含む空気分離方法を包含する。
【0029】
本発明は更に、空気流れを窒素に富む流れ及び/又は酸素に富む流れに分離する低温蒸留の前に、供給空気流れから水、二酸化炭素、一酸化二窒素及び随意にエチレンを除去するための設備であって、前記水を吸着するための第1の吸着剤、二酸化炭素を除去するための第2の吸着剤、及び前記供給空気から前記一酸化二窒素及び随意にエチレンを除去するための第3の吸着剤を一連の流体の連絡路に(in fluid series connection)有する設備。
【0030】
本発明は、一連の流体の連絡路に前記水を吸着するための第1の吸着剤、二酸化炭素を除去するための第2の吸着剤、及び前記供給空気流れから前記一酸化二窒素及び随意にエチレンを除去するための第3の吸着剤を具備する純化装置と、前記純化装置での水、二酸化炭素及び一酸化二窒素の除去の後の前記供給空気流れの酸素から窒素を分離するための低温空気分離装置と、を有する空気分離設備も包含する。
【0031】
2?15気圧(202.65?1519.875kPa)の供給圧で供給空気の温度は5?40℃でよい。典型的な再生温度は80?400℃である。再生ガスは、N_(2)、O_(2)、CH_(4)、H_(2)、Ar、He、空気及びそれらの混合物からなっていてよい。適当な再生圧力は0.1?20barA(絶対bar)(10kPa?2MPa)である。典型的な好ましい態様では、再生流れは製品のN_(2)、又はより好ましくはN_(2)プラントからの廃棄排出物(60%O_(2)/40%N_(2))からなる。
【0032】
【発明の実施の形態】
添付の図を参照しながら好ましい態様の以下の説明によって、本発明をより詳細に例証する。
【0033】
図1に示すように、本発明で使用する設備は、空気流れを主空気コンプレッサーに導くための入り口10を有している。この主コンプレッサー12で作られた圧縮空気を冷却器14に通して、そこでこの空気中に存在する水の一部を凝縮させてドレインバルブ16を通して出す。
【0034】
冷却して部分的に乾燥させた空気を管路17を経由させて、この場合にはTSAで操作する設備の純化区画に送る。しかしながら、装置のこの区画は、当該技術分野で既知の任意の他のTSAで操作するように設計できることを理解すべきである。
【0035】
空気は管路17から、バルブ20、22を有する入り口マニホールド18に送られる。これらのバルブは管路17及びマニホールド18を容器24、26に接続している。バルブ20、22の下流では、マニホールドは、バルブ30、32を有するブリッジライン28を具備しており、それによって容器24、26を廃棄管路34へのベントにそれぞれ接続することができる。
【0036】
容器24、26の下流の末端部は、バルブ36、38を有する出口マニホールドに接続されており、それによって、それぞれの容器を製品出口管路40に接続している。バルブ36、38の上流では、マニホールドは、バルブ44、46を有するブリッジ管路42を具備しており、それによって、それぞれの容器をパージガス供給管路48に接続することができる。このパージガス供給管路48は、パージガスの供給源からコンプレッサー50及びヒーター52を経由して、バルブ44と46の間でブリッジ管路42に接続している。パージガスの供給源は、示された設備で純化して、その後で低温蒸留にかけた空気から分離した窒素、又は説明される設備で純化して、そのような蒸留にかける前の空気によるものであることが適当なことがある。
【0037】
図1の容器24及び26のそれぞれには、説明された吸着剤の3つの層がある。初めの2つの層は従来の吸着剤であり、24aと26aは水のためのものであり、24bと26bは二酸化炭素のためのものである。これらはそれぞれ、活性アルミナと13Xゼオライトであることが適当である。しかしながら当該技術分野で既知であるように、水と二酸化炭素の除去のための任意の適当な1又は複数の吸着剤を使用してもよく、また、これら2つの層は、1つの吸着剤の層に組み合わせてもよい。
【0038】
示されている第3の層は、Ca交換Xゼオライトの層24c、26cである。
【0039】
容器24又は26が稼働している場合には、水は活性アルミナの第1の吸着剤に連続的に吸着される。ウォーターフロント(water front)は、吸着床の入り口から出口に向かって連続的に移動する。第2の吸着剤として機能している13Xゼオライトは、水が第1の吸着剤を破過することを防ぐ働きをし、且つ二酸化炭素を吸着する働きもする。また、二酸化炭素フロントも第2の吸着床を通って連続的に移動する。一酸化二窒素も初めは第2の吸着剤に吸着されるが、前進する吸着された二酸化炭素のフロントによって、第2の吸着床を通って連続的に追い出される。ついには、それまでに容器を通過している空気の、蓄積された一酸化二窒素含有物は、第2の吸着剤から追い出され、そしてCa交換Xゼオライトの第3の吸着床に入り、そこで吸着される。この時点が、問題の容器の再生及び他の容器の稼動開始時期である。
【0040】
従って、第2の吸着剤はCa交換Xゼオライト層が水で汚染されるのを防ぐ働きをする。CaXは水に対して感受性なので、水による汚染は好ましくない影響を与える。
【0041】
第2の吸着剤は、CaX層が二酸化炭素を吸着する役割を軽減することも行い、それによって、必要とされるCaX層が、第2の吸着剤の二酸化炭素吸着能力を使い果たす供給空気量の一酸化二窒素含有物を吸着するために必要とされる量よりも多くないようにする。CaXは13Xよりも大きい窒素の吸着熱を示し、その熱は、窒素に富むガスでの再加圧の後で下流の低温空気蒸留工程に通過させるべきではないので、CaX層の大きさを最小化することは望ましい。従って、供給工程の初めに吸着床を出る温度パルスは、CaXゼオライトの小さい区画のみを使用することで最小化される。これは、下流の低温区画をより滑らかに運転することを可能にする。
【0042】
従って本発明で使用する吸着剤の3層構造物は、第1の層を通過する水から第3の層を保護し且つ過剰な吸着熱を下流に通過させる第3の層での二酸化炭素の吸着を避ける働きをする第2の層を具備した複数の吸着剤間の従来知られていない相乗効果を可能にする。
【0043】
図2は、CO_(2)を400ppm及びN_(2)Oを10ppm含む空気の供給ガスで25℃、100psig(790.825kPa)において、13Xゼオライトで得られた破過曲線である。これらのデータは、直径1インチ(2.54cm)、長さ6feet(183cm)のカラムで得た。実験の前に、200℃のN_(2)を流してゼオライトを再生した。結果は、N_(2)OがCO_(2)よりもかなり早く破過することを示した。13Xは前置空気純化で工業的に標準のものなので、CO_(2)が破過するまで予備純化装置を使用すると、かなりの量のN_(2)Oが吸着床を破過し、低温装置に達して液体酸素中で凝縮する。この結果は、上述のWenningの論文によって示された結果と同様なものである。図3は同じ実験を示しているが、ここではバインダーレスCaXゼオライトを吸着剤として使用している。意外なことに、この場合にはN_(2)OとCO_(2)の破過が実質的に同時に起こっている。
【0044】
従って本発明によれば、13Xの第2の吸着層で二酸化炭素の吸着をこの層の許容能力まで続けることができる。これは図2で示されるような一酸化二窒素のパルスをもたらし、その後、第2の吸着剤を去る空気中の一酸化二窒素を本質的に周囲レベルにする。これは、第3の吸着剤のCaX層で吸着され、第3の吸着剤が二酸化炭素を吸着し始めるまで処理を続けるだけでなく(これは意図された操作条件から外れることを示す)、第3の吸着剤が二酸化炭素の破過をもたらすまで二酸化炭素を吸着させなければ、第3の吸着剤から一酸化二窒素が破過することはない。
【0045】
[例]
本発明の3層吸着床の技術的思想を、直径約6インチ(15cm)、長さ4feet(122cm)のパイロット設備で試験した。吸着床は、1feet(30cm)の炭酸カリウム浸漬法アルミナ、続いて2feet(60cm)の13Xゼオライト、そして最後に1feet(30cm)のバインダーレスCaXで満たした。CO_(2)が370ppm、アセチレンが1ppm、エチレンが1ppm、そしてN_(2)Oが290ppmで供給圧が8.9barA(890kPa)、温度が14℃の供給空気を、吸着床に通すと、CO_(2)破過濃度は20ppbであった。同一の実験を、従来技術による標準の2層吸着床で行った。この吸着床はカリウム浸漬法アルミナを1feet(30cm)、そしてその後13Xゼオライトを3feet(90cm)充填してある。2つの実験の結果は、表2に示してある。
【0046】
【表2】

【0047】
表2の結果は、本発明が、この問題に対する従来技術の手法でのエチレンと一酸化二窒素の除去率の両方を劇的に改良していることを明らかに示している。
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1は、本発明の第1の態様で使用する設備の概略図である。
【図2】
図2は、13Xゼオライトを破過するCO_(2)とN_(2)Oのグラフである。
【図3】
図3は、CaXゼオライトを破過するCO_(2)とN_(2)Oのグラフである。
【符号の説明】
10…供給空気流れ
14…冷却器
16…ドレンバルブ
24、26…容器
24a、26a…第1の吸着層
24b、26b…第2の吸着層
24c、26c…第3の吸着層
34…廃棄管路
40…製品出口管路
48…パージガス供給管路
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-11-28 
結審通知日 2006-12-04 
審決日 2006-12-19 
出願番号 特願平11-285236
審決分類 P 1 113・ 537- ZD (B01D)
P 1 113・ 113- ZD (B01D)
P 1 113・ 121- ZD (B01D)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 増田 亮子
大黒 浩之
登録日 2002-05-17 
登録番号 特許第3308248号(P3308248)
発明の名称 空気の純化  
代理人 高橋 詔男  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 勝俣 智夫  
代理人 永坂 友康  
代理人 永坂 友康  
代理人 石田 敬  
代理人 西山 雅也  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 志賀 正武  
代理人 西山 雅也  

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