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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200627219 審決 特許
不服20056282 審決 特許
無効2008800028 審決 特許
無効2009800085 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61M
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  A61M
管理番号 1191068
審判番号 無効2007-800033  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-02-22 
確定日 2009-01-05 
事件の表示 上記当事者間の特許第2769592号発明「重炭酸透析用人工腎臓灌流用剤の製造方法及び人工腎臓灌流用剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第2769592号の請求項9及び10に係る発明(以下「本件特許発明9」及び「本件特許発明10」ともいう。)についての出願は、平成4年12月14日に特許出願され,平成10年4月17日に特許権の設定の登録がされたものである。
(2)これに対して,請求人は、本件特許発明9及び10は、特許法第36条の規定に違反してなされたと主張し、さらに、本件特許発明9及び10は、甲第2号証に記載された発明であるかまたは甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、本件特許発明9及び10は、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定に違反してなされたとも主張している。
(3)被請求人は、平成19年5月14日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。当該訂正の内容は、本件特許発明の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。
すなわち、
訂正事項a
特許掲載公報第12欄47行?第14欄1行(段落【0041】)に「各検体についてこの液を調製し、各液の各電解質イオン濃度を測定した。試験結果を表8に示す。なお、Na^(+)、K^(+)、Ca^(2+)、Mg^(2+)、Cl^(-)、CH_(3)COO^(-)の各電解質イオン濃度の測定及びブドウ糖の濃度の測定は、ダイオネクス社製のイオンクロマトグラフを使用して行なった。」とあるのを、「各検体についてこの液を調製し、各液のブドウ糖の濃度を測定した。試験結果を表8 に示す。なお、ブドウ糖の濃度の測定は、ダイオネクス社製のイオンクロマトグラフを使用して行なった。」と訂正する。
訂正事項b
特許掲載公報第14欄【表8】を、以下のとおり訂正する。
【訂正前】

【訂正後】


2.訂正の可否に対する判断
(1)これらの訂正事項について検討する。
訂正前の実施例3の【表8】のイオン濃度データは、実施例1の【表5】のイオン濃度データと全く同じであり、技術常識からみて不自然である。被請求人の釈明によれば、実施例3の【表8】に、実施例1の【表5】のイオン濃度データが転記されてしまったものである。そして、実施例1及び2が、ブドウ糖を含まないものであるのに対し、実施例3は、ブドウ糖を含むものであり、ブドウ糖の濃度の測定を行うものであるから、被請求人の釈明は首肯し得るものである。
そうすると、上記の訂正事項bは、技術常識からみて不自然であり実施例3の記載を明りょうでないものとしているイオン濃度データを削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、この訂正は、出願当初の明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、上記の訂正事項aは、上記の訂正事項bにともなって、実施例3の【表8】の説明中、イオン濃度データに関する記載を削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とし、出願当初の明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)したがって、平成19年5月14日付けの訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.請求人の主張
これに対して、請求人は、以下の無効理由1及び2により、本件特許発明9及び10の特許は無効とすべきものである旨の主張をし、甲第1号証ないし甲第3号証を提出している。請求人の主張の概要は以下のとおりである。
(1)無効理由1(記載不備)
甲第1号証の実験報告書は、本件技術分野における通常の知識を有する者である、ニプロ株式会社医薬品研究所 製剤研究室長 熊本大学薬学部客員教授 薬学博士 甲斐俊哉が上記実施例3を追試した結果を報告したものである。追試の目的は、実施例3に従って製造したものが、請求項9および請求項10に記載された構成を有するか否かを確認することにある。
請求項9には、「塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層」が記載されている。したがって、請求項7とは異なり、コーティング層がブドウ糖を含むことが本件特許発明9の構成要件の1つになっている。
しかるに、甲第1号証によれば、造粒実験および造粒物の観察結果に基づいて、「ブドウ糖は塩化ナトリウム粒子表面の電解質コーティング層には含まれていないことが明らかとなった。」と結論されている。すなわち、本件特許の明細書には、本件特許発明9の「物」を得る方法が記載されていない。
したがって、本件特許の明細書は、請求項9および請求項10に関して、発明の詳細な説明において、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載」していない点で、特許法第36条4項(平成6年改正前)の規定に違反している。
逆に、仮に、実施例3の記載を優先して解釈するならば、実施例3に記載されている発明は、コーティング層にブドウ糖を含んでいないから、特許請求の範囲の請求項9および請求項10は、発明の詳細な説明に記載されていない発明を記載したものである点で、特許法第36条5項1号の規定に違反している。

(2)無効理由2(新規性欠如)
請求項9においては、明確に、「ブドウ糖を含むコーティング層」と記載されているが、仮に、この記載を、造粒物が何らかの形でブドウ糖を含んでいればよいことを意味していると解釈した場合には、本件特許発明9および本件特許発明10は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である特開平2-311419号公報(甲第2号証)に記載された発明と実質的に同一であり、本件特許は、請求項9および請求項10につき、特許法第29条1項3号に違反して特許されたことになる。
甲第3号証の実験報告書は、本件技術分野における通常の知識を有する者である、ニプロ株式会社医薬品研究所 製剤研究室長熊本大学薬学部客員教授 薬学博士 甲斐俊哉が甲第2号証の実施例2を追試した結果を報告したものである。追試の目的は、実施例2に従って製造したものが、いかなる構成を有するか否かを確認することにある。
甲第3号証の結果によれば、「ブドウ糖粒子が、凝集粒子内に取り込まれているもの、あるいは単独で存在しているブドウ糖粒子が視覚的に確認された。」と結論されている。ここで、「ブドウ糖粒子が、凝集粒子内に取り込まれている」状態は、文字どおりに理解すれば、ブドウ糖がコーティング層中に含まれている状態とは異なる。しかし、すでに記載不備に関して指摘したとおり、本件特許の実施例3の追試結果においても、ブドウ糖は、塩化ナトリウムの凝集粒子に一部が付着している程度であって、文字どおりの意味でコーティング層に含まれてはいない。
したがって、ブドウ糖がコーティング層に含まれているか否かという観点から本件特許発明9および本件特許発明10と甲第2号証記載の発現とを比較すると、実質的な相違点は存在しない。
よって、本件特許は、請求項9および請求項10について、特許法第29条1項3号の規定に違反して特許されたものである。
なお、仮に、甲第2号証の実施例2に基づいて製造された造粒物と、本件特許の実施例3に基づいて造粒された造粒物との間に構成上の微差があったとしても、物の発明として、そのような微差によっては、作用効果には何らの相違も認められないから、本件特許発明9および本件特許発明10は、甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、本件特許は、請求項9および請求項10につき、特許法第29条2項に違反して特許されたものである。

(証拠方法)
(1)甲第1号証 実験報告書(特許第2769592号)
(甲斐俊哉作成)
(2)甲第2号証 特開平2-311419号公報
(3)甲第3号証 実験報告書 (特開平2-311419号)
(甲斐俊哉作成)

4.被請求人の主張
一方、被請求人は、請求人の主張する無効理由1,2はいずれも誤りであると主張し、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第8号証を提出している。
(証拠方法)
(1)乙第1号証 「サンエイ糖化株式会社結晶ブドウ糖」カタログ
(2)乙第2号証 特開2002一102337号公報
(3)乙第3号証 Technical News ●飛行時間型二次イオン質量分析法
(4)乙第4号証 化学便覧 基礎編II(抄)
(5)乙第5号証 実験報告書(特許第2769592号)(被請求人従業 員青山秀幸作成)
(4)乙第6号証 知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10736号 判決
(7)乙第7号証 同上更正決定
(8)乙第8号証 最高裁判所平成18年(行ヒ)第330号決定調書

5.本件特許
本件特許発明9及び10は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項9及び10に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項9】塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコープイング層を有し、かつ、複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。
【請求項10】さらに酢酸を含有してなる請求項9に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。」

6.当審の判断
(1)無効理由1について
請求人の主張は、本件特許明細書の請求項9及び10に対応する、すなわちブドウ糖を含んでいる唯一の実施例である実施例3の記載に従って追試実験をしたところ、ブドウ糖は塩化ナトリウム粒子表面の電解質コーティング層には含まれておらず、本件特許発明9及び10に関して、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載したものとはいえず、特許法第36条4項(平成6年改正前)の規定に違反しているというものである。
そこで、請求人が本件特許明細書の実施例3の追試実験であるとして提出した甲第1号証の実験報告書(特許第276959号)(甲斐俊哉作成)について検討する。

ア.ブドウ糖粒子と塩化ナトリウム粒子の大きさについて
甲第1号証の実験報告書によれば、実験1,2に用いた原料について、「塩化ナトリウム(日局Nacl、大塚化学社製)・・・ブドウ糖(日局C_(6)H_(12)O_(6)、サンエイ糖化社製)・・・」と記載されており(甲第1号証第2頁「2.実験装置と原料(2)原料」)、考察において、「写真3及び4に粉末透析剤の製造に使用される日本薬局方の塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子の写真を示した。ブドウ糖粒子の大きさは、塩化ナトリウム粒子とほぼ同等かそれ以上の大きさである。」と説明している。甲第1号証第6頁の【写真3】塩化ナトリウム粒子(×10),【写真4】ブドウ糖粒子(×10)を見ると、ブドウ糖粒子の径は塩化ナトリウム結晶粒子の径のおおよそ2倍程度の径である。そして、【写真3】、【写真4】とその倍率からみる限り、塩化ナトリウム粒子は概ね500μm、ブドウ糖粒子は概ね1000μm程度である。
甲第1号証では、ブドウ糖粒子について、原料として、「ブドウ糖(日局C_(6)H_(12)O_(6)、サンエイ糖化社製)」を使用したと記載されているが、乙第1号証(「サンエイ糖化株式会社結晶ブドウ糖」カタログ)によれば、5種類の製品が記載されているが、この5種類の製品のうち、計算上考えられる最も平均粒径が大きい場合は、「含水結晶ブドウ糖(TDH)」において、32メッシュ(500μm)超が5%、32メッシュ(500μm)が70%、70メッシュ(210μm )が25%、100メッシュ(150μm)以下が0%である場合であり、平均粒径は、32メッシュ(500μm)超が1000μmであるとしても、450μm程度(1000μm×5%+500μm×70%+210μm×25%+150μm×0%)である。
そうすると、甲第1号証の【写真4】ブドウ糖粒子(×10)は、粒径が概ね1000μm程度であるから、「ブドウ糖(日局C_(6)H_(12)O_(6)、サンエイ糖化社製)」をそのまま用いたものと認めることはできない。
一方、本件特許明細書の実施例3には、塩化ナトリウム粒子及びブドウ糖粒子の粒径については記載されていない。
そこで検討するに、本件特許明細書の実施例3に接した当業者は、その追試実験をするに際し、塩化ナトリウム及びブドウ糖に関しては、当該分野において通常使われるものを用いようとするのが自然である。さらに、実施例3は「塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層」を有する重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造実施例であり、水の存在下に粘りを生じながら混合する造粒物に更にブドウ糖を加え、ブドウ糖をコーティング層中に含ませるものであるから、コーティング層内成分となるべきブドウ糖としては、核粒子である塩化ナトリウムに比べれば粒径の小さいものを用いようとするのが自然である。
そうすると、甲第1号証の実験1,2で使用している塩化ナトリウムの粒径は、【写真3】塩化ナトリウム粒子(×10)を見ると概ね500μmであるから、当業者であれば、本件特許明細書の実施例3を追試するにあたり、500μmよりも小さい通常使われるブドウ糖粒子を用いるのが自然である。
なお、請求人の提出した弁ぱく書を精査するも、これらの点に対する具体的な反論はなく、単に、甲第1号証の2頁にあるとおり、日本薬局方のブドウ糖を特別な処理することなく用いており、何ら、恣意的な処理は行っていないと主張するのみである。
したがって、甲第1号証の実験1,2は本件特許明細書記載の実施例3の正しい追試実験であるとは認められない。
イ.原料の仕込量について
甲第1号証の実験1,2は、原料の仕込量が合計約「1.473kg」であり、実施例3の合計「1213.55kg」(1t超)に比して、約1000分の1である。
そして、二重缶式攪拌混合機(蒸気過熱)による造粒実験において、仮に原料の仕込量だけが異なり、二重缶式攪拌混合機の容量や、加熱等の造粒条件が全く同じであれば、加熱混合される原料の量が少ないほど乾燥に要する時間も短くなることは明らかであることからも分かるように、原料の仕込量は、二重缶式攪拌混合機の容量や加熱条件と同様、実験結果に影響する事項である。
しかしながら、甲第1号証には、実験1、2で、原料の仕込量を約1000の1にスケールダウンしたことにともない、本件特許明細書の実施例3の追試実験となるように、二重缶式攪拌混合機の容量や加熱条件について、どのような条件設定を行ったか一切説明がなされていない。
なお、被請求人は、甲第1号証の実験1,2では、原料の仕込量を約1000分の1にスケールダウンしたにも拘わらず、加熱等の造粒条件がスケールダウンした原料の量に適合しておらず、そのために乾燥が速く進行し、ブドウ糖を添加した段階ではこれを溶解する水が実質的に存在しない状態となり、ブドウ糖がコーティング層中に取り込まれなかったと考えられ、このことは甲第1号証の【写真2】からも明白に窺い知ることができると主張しているが、これに対して、請求人は、弁ぱく書において、甲第1号証の二重缶式撹梓混合機の容量は特別なものではなく、実験用の装置であるから、当然、実製造スケールよりも小さいが、恣意的に容量を選択した事実はないと反論するだけであり、実質的な反論はしていない。
したがって、甲第1号証の実験1,2は本件特許明細書記載の実施例3の正しい追試実験であるとは認められない。

ウ.小括
上記ア、イのとおり、請求人が提出した甲第1号証の実験1,2は、本件特許明細書の実施例3の正しい追試実験とは認められず、同証の分析結果の信憑性について検討するまでもなく、甲第1号証により、本件特許明細書は、請求項9および請求項10に関して、発明の詳細な説明において、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載していないとすることはできない。
そして、請求人は、仮に、実施例3の記載を優先して解釈するならば、実施例3に記載されている発明は、コーティング層にブドウ糖を含んでいないから、特許請求の範囲の請求項9および請求項10は、発明の詳細な説明に記載されていない発明を記載したものであると主張しているが、この主張は、「実施例3に記載されている発明は、コーティング層にブドウ糖を含んでいない」との前提において誤っており、採用することはできない。
なお、請求人は、審判請求書の第6?7頁の(5)記載不備(無効理由1)のなお書きとして、本件特許の実施例3の記載を注意して読めば、「5の段階で添加されるブドウ糖が2の段階で加えられた電解質化合物とともにコーティングを形成することなど、そもそも考えられないのである」から、本件特許明細書の実施例3により、請求項9の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤は得られないことは当然である旨主張しているが、4の段階では、特異な粘りが生じているものの溶融状態であるのだから、5の段階で添加されるブドウ糖が2の段階で加えられた電解質化合物とともにコーティングを形成することが当然にあり得ないとはいえない。(なお、5の段階、2の段階、4の段階の数字は○付き数字であるが、表示できないため○を省略した。)
さらに、請求人は弁ぱく書第4頁下から第9?6行、第5頁第10?13行において、当業者が実施例3を追試しようとすれば、通常入手可能なブドウ糖を使用することは当然であり、被請求人の主張するような粒度調整などの前処理をしなければ実施できないというのであれば、当然、実施例に記載すべきことであり、その記載がない以上、明細書に記載不備があることになると主張しているが、被請求人は答弁書において、当業者であれば、塩化ナトリウム粒子の周りにコーティング層を形成しつつある電解質化合物中に更にコーティング層成分として含ませるという目的を達成するのに適した粒径を有するブドウ糖を、市販で容易に入手可能なブドウ糖の各種スペックの範囲の中から適宜選択することができること、また、その際に、ブドウ糖粒子として、核粒子である塩化ナトリウムの2倍もの径であるものは選択しないこと、そして、例示として、45μm程度の粒径のブドウ糖を挙げているのであり(答弁書第6頁末行?第7頁第14行)、粒度調整などの前処理をしなければ本件特許発明9,10が実施できないとは主張していない。そして、本件特許発明9,10の実施に際し使用するブドウ糖は、当業者が市販で容易に入手可能なブドウ糖の各種スペックの範囲の中から適宜選択することができるものであるから、本件特許明細書の実施例3において、ブドウ糖の粒子径が記載されていないとしても、明細書の不備とはいえない。
また、請求人は、弁ぱく書の第4頁下から第6?4行、第5頁第16?18行において、仕込量が少ない場合には、本件特許の発明が実施不能になることなど、明細書中のどこにも、記載はもちろん、示唆もされていないことを指摘しているが、上記「イ.原料の仕込量について」では、単に、甲第1号証の実験例1,2において、原料の仕込量が約1000分の1と少ないことをもって直ちに、追試実験とは認められないと判断するものではなく、この点は上記「イ.原料の仕込量について」における判断に影響するものではない。
また、被請求人は、「なお、念のため」として、市販の局方仕様の塩化ナトリウム(平均粒径約310μm)と、同じく局方仕様のブドウ糖(平均粒径約250μm)を試料とし、二重缶式攪拌混合機に対する材料の仕込量を本件特許明細書の【表7】のとおりとした試験を実施例3の再現試験として行うとともに、比較のためにブドウ糖を予め食紅で着色したものの追試を行い、反射イメージング法によるマッピングをも実施した結果を乙第5号証(実験報告書(被請求人従業員青山秀幸作成)として提出している。これに対して、請求人は、弁ぱく書第6頁において、ブドウ糖がコーティング層に含まれることにはならない、或いは、ブドウ糖を含むコーティング層を介して複数の塩化ナトリウム粒子が結合する構造が存在しないことは明らかであると主張するが、【写真1】?【写真5】を見ると、【写真2】では、造粒物が一様に赤く染まっており、また、【写真1】、【写真2】では、粒子同士が結合しており、実施例3の追試実験として特に不自然なものではない。

(2)無効理由2について
本件特許発明9,10は甲第2号証の記載の発明と比較すると実質的な相違点は存在せず、新規性を有さない、また、仮に構造上の差があったとしても微差であり容易に発明できたものである、との請求人の主張は、本件特許明細書の請求項9においては、明確に、「ブドウ糖を含むコーティング層」と記載されているが、仮に、この記載を、造粒物が何らかの形でブドウ糖を含んでいればよいことを意味していると解釈した場合の主張である。
そして、請求人がこのように請求項9の記載を解釈するのは、請求人の提出した甲第1号証によれば、本件特許の実施例3の追試結果においても、ブドウ糖は、塩化ナトリウムの凝集粒子に一部が付着している程度であって、文字どおりの意味でコーティング層に含まれてはいないとの主張に基づくものである。
しかしながら、本件特許発明9,10は、請求項9,10に記載されているとおり、「ブドウ糖を含むコーティング層」を有するものであり、請求項9,10の「ブドウ糖を含むコーティング層」との記載を、造粒物が何らかの形でブドウ糖を含んでいればよいことを意味していると解釈する余地はない。
したがって、本件特許明細書の請求項9の「ブドウ糖を含むコーティング層」との記載を、造粒物が何らかの形でブドウ糖を含んでいればよいことを意味していると解釈した場合についての無効理由2は前提において誤りである。
そして、甲第2号証には、「ブドウ糖を含むコーティング層」を有する造粒物が記載されていないことは明らかである。
したがって、本件特許発明9,10は、甲第2号証に記載された発明であるとすることはできないし、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明9,10に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法及び人工腎臓潅流用剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤を調製するための、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムの各電解質化合物並びに酢酸を含む人工腎臓潅流用剤の製造方法において、各電解質化合物を、酢酸ナトリウム100重量部(無水塩として)に対して10重量部以上の水(酢酸ナトリウムに結合している結晶水も含む)の存在下で混合し、且つ、得られる混合物を60℃以上に加熱して酢酸ナトリウムを一時溶融状態においた後、該混合物に酢酸を混合することを特徴とする重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法。
【請求項2】電解質化合物とともにブドウ糖を混合する請求項1に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法。
【請求項3】酢酸ナトリウムを溶融状態におく前後においてブドウ糖を電解質化合物と混合する請求項2記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法。
【請求項4】電解質化合物又は電解質化合物とブドウ糖とを、酢酸ナトリウム100重量部に対して20重量部以上の水の存在下で混合する請求項1?3のいずれかに記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法。
【請求項5】(1)特定量の水に塩化カリウムを溶解させる工程、(2)得られる塩化カリウムの濃厚液に塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを溶解させて塩化カリウムを析出させる工程、(3)得られる塩化カリウム懸濁液を塩化ナトリウムと加熱混合する工程、(4)得られる混合物を酢酸ナトリウムと、酢酸ナトリウム100重量部(無水塩として)に対して10重量部以上の水(酢酸ナトリウムに結合している結晶水も含む)の存在下で混合し、且つ、得られる混合物を50℃以上に加熱して酢酸ナトリウムを一時溶融状態においた後、該混合物を酢酸と混合する工程からなることを特徴とする重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法。
【請求項6】請求項1?5のいずれかに記載の方法により製造できる重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。
【請求項7】塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物を含むコーティング層を有し、かつ、複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。
【請求項8】さらに酢酸を含有してなる請求項7に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。
【請求項9】塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し、かつ、複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。
【請求項10】さらに酢酸を含有してなる請求項9に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、重炭酸透析用人工腎臓灌流用剤及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
重炭酸透析用人工腎臓灌流剤(以下、重炭酸透析液という)として、一般には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムの各電解質と必要に応じて添加されるブドウ糖とからなる通常A剤と称する人工腎臓灌流用剤と、粉末状の重炭酸ナトリウム又はこれの水溶液からなる通常B剤と称する人工腎臓灌流用剤とを混合した水溶液が使用されている。参考のため一般に使用されている重炭酸透析用人工腎臓灌流剤10リットルに含まれる各成分の量を表1に示す。
【0003】
【表1】

B剤については、溶液状のものも、粉末状のものも開発されており、適宜選択して使用することができる。一方、A剤については、多数の成分からなる混合物であるため均一な組成の粉剤を得ることが困難である。そのため、現状では、工場において水溶液とし、10リットル程度のポリエチレン容器に包装して、使用場所である病院や透析センターに輸送している。しかし、水溶液としたA剤は、重量及び容積が大きいため輸送コスト及び病院等での保管スペースの点から望ましくない。また、包装に使用するポリエチレン容器の使用後の廃棄物処理問題の点からも望ましくない。
【0004】
なお、A剤の粉剤化技術としては、各電解質化合物を混合・粉砕して造粒する乾式造粒法及び各電解質化合物をスラリーとして造粒・乾燥する湿式造粒法が知られている。しかし、これらの物理的な粉砕・造粒方法には、粉砕工程や造粒工程において装置の摩擦によって異物が混入し、電解質化合物を汚染しやすいという問題がある。
【0005】
また、公知の乾式造粒法により得られる粉剤は、各々の電解質化合物の硬度が異なり、混合・粉砕の際に、それぞれ、粉砕されやすいものとされにくいもの、造粒物になりやすいものとなりにくいものがあるため、造粒物として回収されるものの成分と造粒されずに粉末として残存するものの成分との間に大きなバラツキが生じやすい。すなわち、各電解質化合物の原料としての添加割合と、造粒物の成分組成とが一致しにくく、場合によっては、造粒後に、各電解質化合物の組成を補正するため特定の電解質化合物を添加混合する必要がある。この問題点を解決する方法として、各電解質化合物を微粉末化することによって、造粒物の硬度を上げる方法即ち粉末として残存するものの量を低減する方法も知られている。しかし、電解質化合物を微粉末化するためには面倒な操作を必要とするし、粉末として残存するものの量を低減するためには繰り返し造粒する必要があり、粉砕・造粒装置の摩擦などによる異物の混入で電解質化合物が汚染されやすくなるという問題がある。
【0006】
さらに、湿式造粒法については、乾燥時の固結により塊状物が発生しやすいため、製品とする際の整粒の前に破砕等の操作を必要とする等、製造工程が煩雑であるため大量生産することが難しいという問題がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、重炭酸透析液(重炭酸透析用人工腎臓灌流剤)に使用する粉末状(顆粒状乃至細粒状)のA剤(人工腎臓灌流用剤)の新たな製造方法を提供することにある。また、成分組成が均一な粉末状(顆粒状乃至細粒状)のA剤を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記現状の問題点を踏まえ、重炭酸透析液を構成する電解質化合物の溶解度、熱溶融時の特性を巧みに利用した加熱混合によれば、物理的な造粒方法によらず即ち特殊な造粒設備を必要とせず且つもともと純粋な電解質化合物を汚染することなく造粒できることを見出して本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、重炭酸透析用人工腎臓灌流剤(重炭酸透析液)を調製するための、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及び酢酸ナトリウムの各電解質化合物、酢酸並びに必要に応じてブドウ糖を含む人工腎臓灌流用剤(A剤)の製造方法において、各電解質化合物を、酢酸ナトリウム100重量部(無水塩として)に対して10重量部以上好ましくは20重量部以上の水(酢酸ナトリウムに結合している結晶水も含む)の存在下で混合し、且つ、得られる混合物を50℃以上好ましくは60℃以上に加熱して酢酸ナトリウムを一時溶融状態においた後、該混合物に酢酸を混合することを特徴とする重炭酸透析用人工腎臓灌流用剤の製造方法にある。
【0010】
本発明は、特に、(1)特定量の水に塩化カリウムを溶解させる工程、(2)得られる塩化カリウムの濃厚液に塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを溶解させて塩化カリウムを析出させる工程、(3)得られる塩化カリウム懸濁液を塩化ナトリウムと加熱時混合する工程、(4)得られる混合物を酢酸ナトリウムと、酢酸ナトリウム100重量部(無水塩として)に対して10重量部以上の水(酢酸ナトリウムに結合している結晶水も含む)の存在下で混合し、且つ、得られる混合物を50℃以上に加熱して酢酸ナトリウムを一時溶融させた後、該混合物を酢酸と混合する工程からなることを特徴とする前記の重炭酸透析用人工腎臓灌流用剤の製造方法にある。
【0011】
本発明は、さらに、以下の人工腎臓灌流用剤にある。
1.塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる微量の電解質化合物を含むコーティング層を有し、かつ、複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓灌流用剤。
2.塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる微量の電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し、かつ、複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓灌流用剤。
上記1.及び2.の灌流用剤は、必要に応じてさらに酢酸を含有していてもよい。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の人工腎臓灌流用剤(A剤)は粉末状であって、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムの各電解質化合物を必須成分として含有し、必要に応じてブドウ糖を含有する。該人工腎臓灌流用剤(A剤)はさらに酢酸を含んでいてもよい。本発明のA剤においては、塩化ナトリウム粒子の表面に、他の電解質化合物及び必要に応じて使用されるブドウ糖が付着して均一な組成のコーティングを形成しており、該コーティングの作用によって複数の塩化ナトリウム粒子が結合して造粒物を形成している。本発明のA剤においては、各造粒物を形成する各成分の割合はほぼ一定で特定の値にある。そのため、特定量のA剤を特定量の水に溶解して得られる溶液の各電解質化合物の濃度の割合は常に特定の所望の値になるという特徴がある。従って、本発明の粉末状のA剤を使用する際即ち水溶液にする際に、特定の電解質化合物の濃度を改めて補正する必要がない。
【0014】
このような本発明のA剤は、各電解質化合物又は各電解質化合物とブドウ糖とを特定量の水の存在下で混合し、且つ、電解質化合物の内、少なくとも酢酸ナトリウムを一時溶融させることによって製造することができる。そして、本発明のA剤の製造方法においては、酢酸ナトリウム100重量部に対して10重量部以上好ましくは20重量部以上更に好ましくは20?70重量部の水を使用する。水の使用量が少なすぎると酢酸ナトリウムを溶融状態にすることが困難となり均一なコーテイング層を形成させにくくなる。一方、必要以上に多くしても効果に差はなく、逆に後工程での乾燥に時間がかかるという問題が発生する恐れがある。また、本発明においては、得られる混合物を50℃以上好ましくは60℃以上更に好ましくは65?100℃に加熱することによって酢酸ナトリウムを一時溶融状態にする。加熱温度が低すぎると酢酸ナトリウムを実質的に溶融状態にすることができない。一方、必要以上に高くしても効果に差はなく、必要以上に多量のエネルギーを消費することになる。なお、ブドウ糖を使用する場合には、加熱温度は60?80℃とするのがよい。また、結晶水を有する酢酸ナトリウムを使用する場合は、該結晶水は、別途に添加する水と同等の作用をはたす。また、一般に結晶水を有する酢酸ナトリウムを57?59℃以上に加熱すると、酢酸ナトリウムが結晶水に溶解する現象に対して、ここでは、酢酸ナトリウムを含む混合物を加熱することによって、酢酸ナトリウムの少なくとも一部をその結晶水又は別途に添加した水に溶解させることをもって「酢酸ナトリウムを一時溶融状態におく」という。
【0015】
本発明のA剤の製造方法における塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、ブドウ糖及び水の混合手順については特に限定はなく、公知の一般的な混合方法を採用できる。ただし、各成分の混合に使用する撹拌混合機としては、内容物を外部から間接的に蒸気加熱でき且つ乾燥もしやすい二重缶式のものが便利である。また、塩化ナトリムの表面に、他の電解質化合物のコーティングを効率よく形成させる点から以下の手順で行うのがよい。
【0016】
(1)特定量の水に塩化カリウムを溶解させて塩化カリウムの濃厚液を得る。この際使用する水の量については特に限定はないが、操作の効率の点から、後で添加する酢酸ナトリウム100重量部に対して10?50重量部好ましくは20重量部程度の水を使用するのがよい。そして、必要量の塩化カリウムを完全に溶解できない場合には、最小限の水を追加して溶解させるのがよい。
【0017】
(2)塩化カリウムの濃厚液に塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを溶解させ、塩化カリウムを析出させて塩化カリウム懸濁液を得る。
【0018】
(3)塩化カリウム懸濁液に塩化ナトリウムを混合する。この場合、予め塩化ナトリウムを撹拌混合機に入れ40℃以上に加熱しておいた中に、塩化カリウム懸濁液を入れ撹拌混合するのがよい。
【0019】
混合の容易さの点のみからは、塩化カリウム懸濁液において、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムが全て溶解した状態で塩化ナトリウムと混合するのが好ましいと考えられる。しかし、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムの溶解度に比べ塩化カリウムの溶解度が低いため、全ての成分を溶解させるためには大量の水を必要とする。これに対して、塩化カリウム懸濁液は、水の必要量が少なくてよく、後工程で乾燥が容易であり、しかも、塩化カリウムの濃厚液に塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを溶解させることによって得られる懸濁液は、析出する塩化カリウムが細かい微細粒子であることから、完全に溶解させた溶液と同様に極めて混合しやすい。
【0020】
(4)得られた混合物について必要に応じて乾燥して水の量を調整した後、酢酸ナトリウムを混合する。この際、水の量は、混合する酢酸ナトリウム100重量部に対して20重量部程度に調整するのがよい。そして、酢酸ナトリウムを混合した後、該混合物の温度を50℃以上好ましくは60℃以上に維持すると、酢酸ナトリウムが溶融状態になって混合物に粘りが生じ、造粒物が形成される。
【0021】
本発明のA剤の製造方法においては、前記(4)のようにして得られた造粒物に更に酢酸を混合する。この場合、酢酸を混合する前又は混合した後に該造粒物を乾燥することによってさらさらした顆粒状もしくは細粒状の粉体とすることができる。
【0022】
なお、ブドウ糖を使用する場合、ブドウ糖の均一分散性及び造粒性の向上の点からブドウ糖は前記(4)の工程又は酢酸を混合する工程において混合するのがよい。
【0023】
【作用】
本発明のA剤の製造方法においては、溶融した酢酸ナトリウムが、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム等の微量の電解質化合物又はこれらの電解質化合物及びブドウ糖と均一に分散し、また、これら微量の電解質化合物を取り込んだ酢酸ナトリウムが塩化ナトリウムの結晶粒子の表面に付着してコーティング層を形成し、さらに、該コーティング層が結合剤となって複数の塩化ナトリウム結晶粒子の間で結合が繰返されて造粒物、すなわち、本発明の人工腎臓灌流用剤が形成される。得られた造粒物に酢酸を加えれば、酢酸を含有する本発明の人工腎臓灌流用剤となる。
【0024】
そして、本発明のA剤と重炭酸ナトリウムからなるB剤とを併用して適当量の水に溶解することによって重炭酸透析液を調製することができる。参考のため一般に使用されている重炭酸透析液の各電解質化合物(イオン)の濃度を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、特殊な造粒操作を行うことなく、塩化ナトリウムの結晶表面に微量電解質化合物のコーティング層を形成し且つ該コーティング層を結合剤として塩化ナトリウム粒子同士を結合させることによって顆粒状又は細粒状の混合粉体(A剤)を得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、乾式造粒機、湿式造粒機、コーティング装置を必要とせず、簡易の混合装置のみでコーティング及び造粒が行なえ、しかも均一性に優れた製品を大量且つ安価に生産することができる。さらに、その結果、装置の摩擦等による異物混入の問題も発生しにくい。
【0027】
本発明のA剤は、重量、容積とも小さい粉末製剤であり且つその組成が均一であるので、本発明のA剤によれば、従来の溶液製剤と同等の品質(電解質化合物含有量の均一性)を保持したままで、輸送コストの低減、病院等での保管スペースの削減が図れる。さらに簡易な包装材料を使用できるので、ポリエチレン容器等の廃棄物処理問題を解決する手段として、医療機関のみならず社会的にも極めて有用である。
【0028】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明の特徴及び有用性を一層明らかにする。なお、以下においては、表3に示す電解質イオン濃度のA剤を基準として、A剤の製造を行なった。
【0029】
【表3】

*A剤を使用する(B剤と混合する)際にpH調整剤として添加する氷酢酸に由来するCH_(3)COO^(-)(2.5mEq/l)を含む。
【0030】実施例1
表4に示す各原料(1000kg)を使用した。
【0031】
【表4】

先ず塩化ナトリウム823.69kgを二重缶式攪拌混合機(蒸気加熱)に入れ、攬拌しながら加熱し内容物温度を68℃とした。次に塩化カリウム26.53kgを入れ、更に塩化カルシウム36.63kg及び塩化マグネシウム21.71kgを入れて加熱混合した。この内容物に純水17リットル(後で添加する酢酸ナトリウム100重量部に対して24重量部)を入れ、更に酢酸ナトリウム70.07kgを添加して加熱混合した。
【0032】
酢酸ナトリウム添加の15分後に内容物はやや白色を増し、更に加熱混合を続けると内容物に特異な粘りが生じ内容物の粒子同士が付着し始めた。更に1時間加熱混合をつづけると、内容物が乾燥して、さらさらした顆粒状乃至細粒状の粉体が得られた。この粉体を冷却した後、酢酸21.37kgを添加して30分間混合し、製品983kgを回収した。
【0033】
得られた製品からランダムに5個の検体を抜き取って試験を行なった。試験は検体7.024gを水に溶解し、更に重炭酸ナトリウム2.52gを溶かして350mlとした。各検体について同様な液を調製し、各液の各電解質イオン濃度を測定した。試験結果を表5に示す。なお、Na^(+)、K^(+)、Ca^(2+)、Mg^(2+)、Cl^(-)、CH_(3)COO^(-)の各電解質イオン濃度の測定は、ダイオネクス社製のイオンクロマトグラフを使用して行なった。
【0034】
【表5】

実施例2
表4に示す各原料(1000kg)を使用した。
【0035】
先ず塩化ナトリウム823.69kgを二重缶式撹拌混合機(蒸気加熱)に入れ、撹拌しながら加熱し内容物温度を70℃とした。一方、塩化カリウム26.53kgを純水85リットルに溶解させた後、得られた溶液に塩化カルシウム36.63kg及び塩化マグネシウム21.71kgを入れて溶解させて、塩化カリウムの微細な結晶を含む懸濁液を得た。得られた懸濁液を前記の塩化ナトリウムを入れた撹拌混合機の中に入れた後、撹拌混合及び加熱を続けて内容物を乾燥した。この際、内容物の水分を測定し、該水分が1.85%になったとき、この内容物(温度82℃)に酢酸ナトリウム70.07kgを添加して加熱混合した(含水量は酢酸ナトリウム100重量部に対して27重量部)。
【0036】
酢酸ナトリウム添加の15分後に内容物はやや白色を増し、更に加熱混合を続けると内容物に特異な粘りが生じ内容物の粒子同士が付着し始めた。更に1.5時間加熱混合をつづけると、内容物が乾燥して、さらさらした顆粒状乃至細粒状の粉体が得られた。この粉体を冷却した後、酢酸21.37kgを添加して30分間混合し、製品976kgを回収した。
【0037】
得られた製品からランダムに5個の検体を抜き取って試験を行なった。試験は検体7.024gを水に溶解し、更に重炭酸ナトリウム2.52gを溶かして350mlとした。各検体について同様な液を調製し、各液の各電解質イオン濃度を測定した。試験結果を表6に示す。なお、Na^(+)、K^(+)、Ca^(2+)、Mg^(2+)、Cl^(-)、CH_(3)COO^(-)の各電解質イオン濃度の測定は、ダイオネクス社製のイオンクロマトグラフを使用して行なった。
【0038】
【表6】

実施例3
表7に示す各原料(1213.55kg)を使用した。なお、本実施例では、表3に示す電解質イオン濃度で且つブドウ糖濃度1.5g/lのA剤を基準として、A剤の製造を行なった。
【0039】
【表7】

先ず塩化ナトリウム823.69kgを二重缶式攪拌混合機(蒸気加熱)に入れ、攪拌しながら加熱し内容物温度を73℃とした。次に塩化カリウム26.53kgを入れ、更に塩化カルシウム36.63kg及び塩化マグネシウム21.71kgを入れて加熱混合した。この内容物に純水17リットル(後で添加する酢酸ナトリウム100重量部に対して24重量部)を入れ、更に酢酸ナトリウム70.07kgを添加して加熱混合した。
【0040】
酢酸ナトリウム添加の15分後に内容物はやや白色を増し、更に加熱混合を続けると内容物に特異な粘りが生じ内容物の粒子同士が付着し始めた。次に、ブドウ糖213.55kgを添加して混合し、更に加熱混合をつづけると、内容物の粘りは更に増し、その後、内容物が乾燥して、さらさらした顆粒状乃至細粒状の粉体が得られた。この粉体を冷却した後、酢酸21.37kgを添加して30分間混合し、製品1191kgを回収した。
【0041】
得られた製品からランダムに5個の検体を抜き取って試験を行なった。試験は検体8.524gを水に溶解し、更に重炭酸ナトリウム2.52gを溶かして350mlとした。各検体についてこの液を調製し、各液のブドウ糖の濃度を測定した。試験結果を表8に示す。なお、ブドウ糖の濃度の測定は、ダイオネクス社製のイオンクロマトグラフを使用して行なった。
【0042】
【表8】

実施例1?3で得られたA剤(製品)は、いずれも長期に安定なさらさらした顆粒状乃至細粒状の粉体であった。また、その試験結果(表5、表6、表8)から、組成の均一性において極めて良好であることが判った。すなわち、各検体を水に溶解した際の各電解質イオン濃度が、いずれも、基準となるA剤の各電解質イオン濃度(表3)から実用上問題がない範囲内にあり、且つ、各電解質イオン濃度の各検体間でのバラツキ(SD)が極めて小さい。
【0043】比較例1
表4に示す各原料(1000kg)を、純水を使用せずに混合して混合粉末975kgを回収した。なお、酢酸ナトリウムによるコーティング及び造粒は起らず、得られた混合粉末は、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムと見られる塊状物を含んでおり、しかも、やや湿った流動性の粉末であって、室温保存において1週間で固結した。
【0044】参考例1
実施例1で得られたA剤(製品)の顕微鏡写真(20倍)を参考写真1として示す。また、比較例1で得られた混合粉末の顕微鏡写真(20倍)を参考写真2として示す。
【0045】参考例2
実施例1で得られたA剤(製品)及び比較例1で得られた混合粉末の粒度分布を表9に示す。
【0046】
【表9】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-02-15 
結審通知日 2008-02-19 
審決日 2008-03-13 
出願番号 特願平4-353965
審決分類 P 1 123・ 113- Y (A61M)
P 1 123・ 536- Y (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 淑久松本 貢  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 穴吹 智子
川上 美秀
登録日 1998-04-17 
登録番号 特許第2769592号(P2769592)
発明の名称 重炭酸透析用人工腎臓灌流用剤の製造方法及び人工腎臓灌流用剤  
代理人 田中 順也  
代理人 三枝 英二  
代理人 岩坪 哲  
代理人 田中 順也  
代理人 三枝 英二  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 岩坪 哲  
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