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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部無効 2項進歩性  A23L
審判 全部無効 特29条の2  A23L
管理番号 1191071
審判番号 無効2007-800064  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-03-28 
確定日 2008-12-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3544023号発明「フライ食品用の具材」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.本件の経緯の概要
本件特許第3544023号の請求項1?6に係る発明についての出願は、平成7年2月24日に出願され、平成16年4月16日にその発明について特許権設定登録がなされ、この特許に対して、平成19年3月28日付で株式会社武蔵野化学研究所より特許無効審判が請求され、これに対し、平成19年6月18日付で被請求人から第1回目の答弁書および訂正請求書が提出され、これに対し、平成19年8月21日付で請求人から弁駁書が提出され、平成19年10月4日付で被請求人から第2回目の答弁書および訂正請求書が提出され、平成19年12月13日付で請求人から口頭審理陳述要領書1と2が、同日付けで被請求人から口頭審理陳述要領書1と2が提出され、平成19年12月13日に口頭審理を行い、論点整理を行った後、口頭審理の際に審理した事項について、平成19年12月21日付並びに平成20年1月31日付で被請求人から、平成20年1月31日付で請求人からそれぞれ上申書が提出され、被請求人の平成20年1月31日付上申書に対し平成20年2月5日付で請求人からさらに上申書が提出され、これに対して平成20年2月25日付で被請求人から上申書が提出され、これに対して平成20年3月3日付で請求人からさらに上申書が提出されたものである。
第2.平成19年10月4日付の訂正の可否に対する判断
1.訂正事項
平成19年10月4日付の訂正の内容は、本件特許発明の明細書を当該訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり、具体的には、特許請求の範囲について、訂正前の請求項1?6を下記のとおり訂正することを求めるものである。
なお、平成19年6月18日付の訂正の請求は、特許法第134条の2第4項の規定により、取り下げられたものとみなす。
訂正前の特許請求の範囲
「【請求項1】フライ食品用の具材に対し、架橋澱粉または乳酸Naを添加してなることを特徴とするフライ食品用の具材。
【請求項2】架橋澱粉、乳酸Naの添加量が、具材100重量部に対してそれぞれ0.5?10重量部、0.1?5重量部である請求項1に記載のフライ食品用の具材。
【請求項3】フライ食品用の具材に対し、「乳酸Na」と「架橋澱粉および/またはカラギーナン」を添加してなることを特徴とするフライ食品用の具材。
【請求項4】乳酸Na、架橋澱粉およびカラギーナンの添加量が、具材100重量部に対してそれぞれ0.1?5重量部、0.5?10重量部および0.05?5重量部である請求項3に記載のフライ食品用の具材。
【請求項5】請求項1から4のいずれかに記載のフライ食品用の具材を用いてなるフライ食品。
【請求項6】フライ食品が春巻またはコロッケである請求項5に記載のフライ食品。」

訂正後の特許請求の範囲
「【請求項1】冷凍フライ食品用の具材に対し、架橋澱粉または乳酸Naを添加してなり、該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在することを特徴とする冷凍フライ食品用の具材。
【請求項2】架橋澱粉、乳酸Naの添加量が、具材100重量部に対してそれぞれ0.5?10重量部、0.1?5重量部である請求項1に記載の冷凍フライ食品用の具材。
【請求項3】冷凍フライ食品用の具材に対し、「乳酸Na」と「架橋澱粉および/またはカラギーナン」を添加してなり、該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在することを特徴とする冷凍フライ食品用の具材。
【請求項4】乳酸Na、架橋澱粉およびカラギーナンの添加量が、具材100重量部に対してそれぞれ0.1?5重量部、0.5?10重量部および0.05?5重量部である請求項3に記載の冷凍フライ食品用の具材。
【請求項5】請求項1から4のいずれかに記載の冷凍フライ食品用の具材を用いてなる冷凍フライ食品。
【請求項6】冷凍フライ食品が春巻またはコロッケである請求項5に記載の冷凍フライ食品。」
2.訂正事項に対する判断
上記の請求項1についての訂正は、訂正前の「フライ食品」なる文言を「冷凍フライ食品」と訂正するとともに(以下、「訂正事項A」という。)、「フライ食品」について「フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在する」ことを特定するものである(以下、「訂正事項B」という。)。
訂正事項Aについて、被請求人は「フライ食品」なる文言を、本願の願書に添付した明細書【0013】中の記載に基づいて、「冷凍フライ食品」と限定するものであると主張しているところ、当該訂正事項Aは、特許請求の範囲を減縮するものであると認められる。そして、明細書の上記箇所には、「通常、本発明の冷凍フライ食品は、食用に供する前にオーブントースターや、電子レンジ等により加熱すればよいが、もちろん、油で処理することも可能である。」等と記載されているから、上記訂正事項Aは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項Bについて、被請求人は、本願の願書に添付した明細書【0009】中の記載に基づいて「フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在する」ことを明確にするものであると主張しているところ、明細書の【0009】には、「本発明におけるフライ食品とは、春巻、揚げギョウザ、揚げシューマイ、揚げワンタン、揚げパン、フライドパイ、てんぷら、コロッケ、トンカツ、クリームコロッケ等、油で揚げて調理する食品であり、特にこれらは、中身の具材部分と通常衣と呼ばれる表皮部分が存在し、さらに、コロッケ、トンカツ、クリームコロッケ等は、具材部分と表皮部分の間に小麦粉と水を主成分とするバッター液に由来するペースト状の層が存在する。」と記載されているから、上記訂正事項Bは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項A及び訂正事項Bからなる請求項1の訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書きおよび同条第5項において準用する特許法第126条第3および4項に規定する要件を満たすものである。
また、上記の請求項2?6についての訂正も、それぞれ、訂正事項A及び訂正事項Bからなるものであり、同様に、特許法第134条の2第1項ただし書きおよび同条第5項において準用する特許法第126条第3および4項に規定する要件を満たすものである。
3.訂正の可否について、結論
以上のとおりであるから、上記請求項1?6の訂正からなる上記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書きおよび同条第5項において準用する特許法第126条第3および4項に規定する要件を満たすものであるから、当該訂正を認める。

第3.本件特許発明
平成19年10月4日付の訂正が上述のとおり認められたので、本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ本件発明1?6という。)は、当該訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】冷凍フライ食品用の具材に対し、架橋澱粉または乳酸Naを添加してなり、該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在することを特徴とする冷凍フライ食品用の具材。
【請求項2】架橋澱粉、乳酸Naの添加量が、具材100重量部に対してそれぞれ0.5?10重量部、0.1?5重量部である請求項1に記載の冷凍フライ食品用の具材。
【請求項3】冷凍フライ食品用の具材に対し、「乳酸Na」と「架橋澱粉および/またはカラギーナン」を添加してなり、該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在することを特徴とする冷凍フライ食品用の具材。
【請求項4】乳酸Na、架橋澱粉およびカラギーナンの添加量が、具材100重量部に対してそれぞれ0.1?5重量部、0.5?10重量部および0.05?5重量部である請求項3に記載の冷凍フライ食品用の具材。
【請求項5】請求項1から4のいずれかに記載の冷凍フライ食品用の具材を用いてなる冷凍フライ食品。
【請求項6】冷凍フライ食品が春巻またはコロッケである請求項5に記載の冷凍フライ食品。」


第4.請求人が主張する無効理由の概要
請求人株式会社武蔵野化学研究所は、
1.審判請求に際し、証拠方法として下記甲第1?11号証を提出し、「本件特許の請求項1?6に係る発明は、甲第2号証?甲第5号証に記載された発明と同一であるかまたはこれらと甲第10号証?甲第11号証に記載された発明との組み合わせに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、あるいは、甲第6号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号もしくは同法第29条第2項または同法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。」と主張し、
2.これに対し被請求人により平成19年6月18日付でなされた第1回目の訂正請求に対応して、平成19年8月21日付で下記甲第第12?20号証を添付した弁駁書を提出して、当該訂正後の請求項1乃至6に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効にされるべきである旨を主張し、
さらに、これに対し被請求人により平成19年10月4日付でなされた第2回目の訂正請求に対応して、平成19年12月13日付で下記甲第21?28号証を添付した口頭審理陳述要領書1と2を提出して、第2回目の訂正後の請求項1乃至6に係る発明の特許は、以下の(1)および(2)の理由により、特許法第123条第1項第2号の規定により無効にされるべきである旨を主張している。
(1)本件訂正後の請求項1?6に係る発明は、甲第2乃至5号証及び/または甲第14号証刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易にその発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである(以下、無効理由1という。)。
(2)本件訂正後の請求項1?6に係る発明は、甲第2乃至5号証及び/または甲第14号証刊行物に記載された発明と、甲第10乃至11号証、甲第16乃至19号証、及び甲第23乃至26号証刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易にその発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである(以下、無効理由2という。)。

そして、当該主張に関し、口頭審理後、請求人は、平成20年1月31日付で提出した上申書に添付して、下記甲第29号証の実験成績証明書を提出し、さらに平成20年3月3日付けで提出した上申書に添付して、下記甲第30号証として甲第29号証の実験成績証明書の訂正頁と、甲第31号証を提出している。

請求人により弁駁書において新たに甲第12?20号証を追加してなされた主張、及び、口頭審理陳述要領書1と2において新たに甲第21?28号証を追加してなされた主張は、それぞれ被請求人が行った訂正請求に起因して必要になった主張と認められ、また、審理を遅延させるおそれがないものであるから、審判長は、特許法第131条の2第2項の規定により、その請求の理由の補正を認める決定をし、平成19年12月13日の口頭審理において、請求人及び被請求人に通知し、両当事者は以後これを前提とした主張・立証を行っている。


甲第1号証:特許第3544023号公報
甲第2号証:特開昭59-175870号公報
甲第3号証:特開平5-49424号公報
甲第4号証:特開平6-181680号公報
甲第5号証:特開平4-79861号公報
甲第6号証:特開平7-313112号公報
甲第7号証:特開昭63-123358号公報
甲第8号証:東京高判平成15年6月5日(平成13年(行ケ)第338号 )
甲第9号証:食品添加剤「スラック」のカタログ(平成3(1991)年4 月、武蔵野商事株式会社作成)
甲第10号証:特開昭50-129760号公報
甲第11号証:特開平1-222743号公報
甲第12号証:最判平成3年3月8日(昭和62年(行ツ)第3号)
甲第13号証:西尾実ら編、岩波国語辞典第二版、株式会社岩波書店発行
甲第14号証:高橋雅弘監修、「冷凍食品の知識」、株式会社幸書房発行
甲第15号証:特開平6-98739号公報
甲第16号証:食添用有機酸とその誘導品、有限会社化学市場研究所発行
甲第17号証:指定品目食品添加剤便覧(改訂第31版)1993年版、株 式会社食品と科学社発行
甲第18号証:特開平5-328912号公報
甲第19号証:冷凍食品年監 1995年版、株式会社冷凍食品新聞社発行甲第20号証:食品化学新聞(平成8(19996)年6月20日発行)
甲第21号証:高橋雅弘監修、「冷凍食品の知識」、株式会社幸書房発行
甲第22号証:農林物資規格調査委員会の平成19年9月11日開催総会配 付資料6 日本農林規格の見直しについて「調理冷凍食品」甲第23号証:特開平3-247260号公報
甲第24号証:特開平4-222584号公報
甲第25号証:食品安全委員会・添加物専門調査会の第41回添加物専門調 査会配付資料2 意見聴取要請の概要、
甲第26号証:「新食品添加物マニュアル第2版」、日本食品添加物協会発 行
甲第27号証:農林物資規格調査会食品部会の平成12年6月27日に開催 された部会の議事録、「(6)調理冷凍食品の日本農林規格 等の見直しについて」
甲第28号証:食品添加物表示問題連絡会・日本食品添加物協会共著、「食 品添加物表示の実務」、日本食品添加物協会発行
甲第29号証:実験成績証明書(平成20年1月21日作成)
甲第30号証:実験成績証明書(平成20年1月21日作成)の訂正頁
甲第31号証:大田静行、湯木悦二著、「改訂フライ食品の理論と実際」、 株式会社幸書房発行


第5.被請求人の主張
一方、被請求人は、上記審判請求に対し、平成19年6月18日付で第1回目の訂正請求を行うとともに、下記乙第第1?5号証を添付した第1回目の答弁書を提出し、これに対し請求人から平成19年8月21日付けで提出された弁駁書に対応して、平成19年10月4日付で第2回目の訂正請求を行うとともに、下記乙第6?25号証を添付した第2回目の答弁書を提出し、さらに、平成19年12月13日付で下記乙第26?29号証(乙第27号証は実験成績証明書)を添付した口頭審理陳述要領書1を提出して、請求人の提出した証拠方法によっては、訂正後の請求項1乃至6に係る発明の特許を無効にすることはできないと主張している。
そして、これにつき、口頭審理後、被請求人は、平成19年12月21日付で提出した上申書に添付して下記乙第30号証を提出し、さらに平成20年1月31日付で提出した上申書に添付して下記乙第31号証の実験成績証明書を提出し、さらに平成20年2月25日付で提出した上申書に添付して下記乙第32号証と下記乙第33号証の実験成績証明書を提出している。


乙第1号証:日本語大辞典(1989年11月6日発行)、第1727頁
乙第2号証:広辞苑第4版(1991年11月15日発行)、第2269頁乙第3号証:冷凍食品の事典(2000年9月20日)、第5?7頁
乙第4号証:広辞苑第4版(1991年11月15日発行)、第1488頁乙第5号証:総務省編、平成12年(2000年)産業関連表(2004年 6月)、第83?84頁、第210?212頁
乙第6号証:官報第15485号(「調理冷凍食品の日本農林規格」、昭和 53年8月25日発行)
乙第7号証:「冷凍食品の知識」(幸書房、昭和57年4月10日発行)
乙第8号証:官報(平成14年7月2日発行)
乙第9号証:特開昭64-60334号公報
乙第10号証:特開平1-291755号公報
乙第11号証:特開平2-16937号公報
乙第12号証:特開平4-40870号公報
乙第13号証:特開平5-244883号公報
乙第14号証:特開平5-316982号公報
乙第15号証:特開平9-201170号公報
乙第16号証:特開平11-125号公報
乙第17号証:特開2000-106837号公報
乙第18号証:特開2002-142699号公報
乙第19号証:特開2003-23987号公報
乙第20号証:特開2004-16027号公報
乙第21号証:特開2004-57041号公報
乙第22号証:特開2005-218330号公報
乙第23号証:ピューラック株式会社が株式会社アルスよりファックスにて 受信した書面(1999年4月14日受信)
乙第24号証:食品化学新聞(1996年6月20日発行)
乙第25号証:「食品加工学」(中央法規出版、1991年3月25日発行 )
乙第26号証:「日本農林規格品質表示基準 食品編(改訂版)」(昭和6 2年12月10日発行、中央法規出版、農林水産省 消費・ 安全局 表示・規格課監修、第3625?3630頁)
乙第27号証:実験成績証明書(平成19年11月29日作成)
乙第28号証:知財高裁平成17年(行ケ)第10490号審決取消請求事 件判決(平成18年6月29日)
乙第29号証:知財高裁平成17年(行ケ)第10718号審決取消請求事 件判決(平成18年6月22日)
乙第30号証:「食品衛生小六法(平成13年度版)」(平成12年10月 20日発行、新日本法規出版、食品衛生研究会編)、第24 57頁、第2588頁
乙第31号証:実験成績証明書(平成20年1月31日作成)
乙第32号証:「味覚の生理学」(初版、佐藤昌康、1991年4月5日発 行、朝倉書店)
乙第33号証:実験成績証明書(平成20年2月25日作成)


第6.当審の判断
1.無効理由1について
(1)本件発明1について
本件発明1は、訂正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】冷凍フライ食品用の具材に対し、架橋澱粉または乳酸Naを添加してなり、該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在することを特徴とする冷凍フライ食品用の具材。」
これに対して、審判請求人は無効理由1として、本件発明1は、甲第2乃至5号証及び/または甲第14号証刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。

(2)甲号証の記載事項
甲第2号証乃至甲第5号証及び甲第14号証には、以下の事項が記載されている。

甲第2号証:特開昭59-175870号公報
(二の1)「本発明は加工食品にグリシン0.1?1重量%およびグリシンの50?500重量%に相当する酢酸塩および/または乳酸塩を含有せしめることを特徴とする加工食品の保存性向上方法に関し、その目的とするところは、パン,スポンジ・ケーキ,ドーナツ,ワッフルなどのベーカリー製品,うどん,そば,スパゲテイ他の麺類,もち菓子他のあんを材料とする和菓子類,焼売,餃子他の惣菜類,かまぼこ,ちくわ他の水産練製品,ハム,ソーセージ他の畜肉加工品類等、広範にわたる加工食品に対し、食味や食感等の嗜好特性を低下させることなく、優れた保存性を付与することにある。」(第1頁左欄第10行?同頁右欄第1行)
(二の2)「本発明でいう酢酸塩および乳酸塩とは、食品添加物として安全なそれぞれのナトリウム塩又はカリウム塩を指し、これを2種以上併用することも差支えない。」(第2頁右上欄第3行?第6行)、と記載され、
実施例では、ワッフル、生スパゲッティー、ウインナーソーセージに、グリシンと乳酸ナトリウムを別々に添加した場合に比べ、両者を併用した場合には、常温で、保存性が相乗的に向上することが記載されている。

甲第3号証:特開平5-49424号公報
(三の1)「少なくとも次の(1)?(4):(1)グルコノデルタラクトン 0.5?10重量% (2)一種以上の有機酸および/またはその塩 0.05?1重量% (3)エタノール 0.2?3重量% (4)水 残量 を含む水溶液からなる食品の品質改良剤。」(【請求項1】)
(三の2)「本発明の品質改良剤は、ゆで麺、そば、スパゲッティーなどの麺類、漬物、珍味、野菜、ご飯、かまぼこ、ハム・ソーセージ、コロッケ、カツレツ、天ぷら、かき揚げなどの食品の製造過程で添加したり、あるいは食品を浸漬処理する際に使用することができるが、本発明の品質改良剤を適用することのできる食品はこれらに留まるものではなく食品一般に用いることが可能であり、また使用法もこれらに限定されるものではない。」(段落【0013】)
(三の3)「本発明で用いる有機酸やその塩は食品添加物として認められている食用酸やその塩であり、有機酸としては、酢酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、アジピン酸、リンゴ酸、乳酸およびこれらの混合物など、有機酸塩としては、これらのカリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩などおよびこれらの混合物を挙げることができる。これらの中でも乳酸およびその塩は好ましく使用することができる。本発明の食品の品質改良剤中の有機酸やその塩の含有量が1重量%を越えると酸味などの食味に影響がでるので好ましくない。また、含有量が0.05重量%以下であると保存効果と共に食感・食味、歩留りが低下する。」(段落【0015】)
(三の4)「本発明の食品の品質改良剤がそれ自体のpH保持性や安定性が優れており、且つそれを用いて食感・食味が良く、常温で長期保存可能な高品質食品を作ることができる理由は、グルコノデルタラクトンが食品の保存性向上に寄与し、有機酸やその塩が食品の品質向上、保存性向上、歩留り向上に寄与し、そしてエタノールがグルコノデルタラクトンの溶解性を向上させると共に、長期保存安定性向上に寄与するものと考えられるが、この理由に限られるものではない。」(段落【0017】)、と記載され、
実施例では、グルコノデルタラクトン、乳酸ナトリウム、エタノール及び水からなる品質改良剤をゆで麺に添加すると、ゆで麺の歩留りが高く、pH安定性がよく、食感、食味が常温において長期に亘り保たれることが記載されている。

甲第4号証:特開平6-181680号公報
(四の1)「エビを(1)塩類の水溶液に浸漬させた後に、(2)アミノ酸並びに有機酸及び/又は有機酸塩からなる水溶液に浸漬させることを特徴とするエビの処理方法。」(【請求項1】)、「有機酸塩が酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウムである請求項1記載の処理方法。」(【請求項5】)
(四の2)「エビは弁当類の具剤として非常によく用いられる素材である。エビフライ、エビてんぷら等を有する弁当類は美味の為デパート、コンビニエンスストア等で広く販売されている。しかし、エビは常に微生物汚染から生じる食中毒の危険がつきまとう。これは、調理加熱後、消費者が食する迄、一定期間室温で保存される為である。即ち、この室温保存中に微生物が急激に増殖するからである。この為、製造業者は保存性を向上させる為に厳しい加熱条件で処理し、次にグリシン等の市販の日持ち向上剤を添加する等の工夫を施している。しかし、このような処理を施すと、保存性は確保できるが、エビは硬くなり食感、味が悪くなるという欠点が生じる。」(段落【0002】)
(四の3)「上記課題を解決する為に本発明者らは鋭意検討を加えた結果、(1)エビを塩類の水溶液に浸漬させた後に、(2)アミノ酸並びに有機酸及び/又は有機酸塩からなる水溶液に浸漬させることにより、本発明を完成するに至らしめた。」(段落【0004】の一部)
(四の4)「このようにアミノ酸と有機酸及び/又は有機酸塩の混合溶液に浸漬処理することによりエビのpHを7.5以下にすることができる。このpH7.5以下という条件で初めて、味に影響の出ない少量で、グリシン等の微生物増殖抑制作用をもつアミノ酸の作用を発揮させることができる。
このような2段階浸漬処理を施したエビはそのまま調理に付しても良く、また、冷凍処理して流通過程にのせても良い。本発明方法で得られるエビをてんぷら、フライ類に使用すると加熱しても食感が良く、しかも保存性に富むてんぷら、フライ類を作ることが可能である。従って弁当等の外食産業にとって極めて有用な技術である。」(段落【0012】?【0013】)、と記載され、
実施例では、(1)生エビを炭酸水素ナトリウムと塩化ナトリウムの水溶液に浸漬させた後、(2)グリシンと乳酸の水溶液に浸漬させた後、エビを凍結保存し、このエビを解凍しててんぷらに調理すると、無処理のものに比べ、食感、常温における保存性に優れることが記載されている。

甲第5号証:特開平4-79861号公報
(五の1)「水産練り製品の製造に際し、難消化性デキストリン75重量%以下と加工澱粉25重量%以上の比率で同時又は別々に添加することを特徴とする食物繊維を含有する水産練り製品の製造法。」(【請求項1】)
(五の2)「不溶性食物繊維を水産練り製品に添加すると、弾力性が低下し、ぼそぼそした好ましくない食感になると共に、保水性が低下し、離水が多くなる欠点があった。」(第1頁右下欄下から第4行?下から第1行)
(五の3)「本発明に於いては難消化性デキストリンと加工澱粉とを併用することをその基本の要旨とするが、特に食物繊維としては数多くのものが知られているが、その中でも難消化性デキストリンを使用し、且つ数多くある変性澱粉の中の特定の加工澱粉を定められた比率で用いることにより、食感的にもまた品質的にも優れた食物繊維含有水産練り製品を得ることができる。」(第2頁左下欄第2行?第9行)
(五の4)「加工澱粉としては、軽度の次亜塩素酸ソーダ処理澱粉、架橋澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉等が例示されるが、この中でもアセチル澱粉とヒドロキシプロピル澱粉を選択的に使用することが特に好ましい。」(第2頁左下欄第16行?第20行)
(五の5)「水産練り製品には多数の種類があるが、基本的には原料魚より、採肉、水晒し、脱水、砕肉、搾潰、調味、成形、加熱、冷却、製品の工程、また冷凍すり身を用いる場合には解凍後、搾潰以下の工程に従って製造される。その際加熱方法(蒸煮、湯煮、焙焼、油喋)、成型法(板付き、ちくわ、巻物など)、混和物の種類(卵黄、野菜、チーズなど)により種類分けされるが、本発明に於ける水産練り製品は魚肉を原料とした練り製品を意味し、これらはいずれにも適用される。」(第3頁左上欄第1行?第10行)、と記載され、
実施例では、難消化性デキストリンとリン酸架橋ヒドロキシプロピル澱粉を、解凍した冷凍すり身に加え、油喋した揚げかまぼこは、食感的に好ましいことが記載されている。

甲第14号証:高橋雅弘監修、「冷凍食品の知識」、株式会社幸書房発行
その第207頁は、「9.2調理冷凍食品の日本農林規格および関連制度」の項であり、表9.16として「調理冷凍食品特定9品目における食品添加物の品目リスト」が記載されている。そこには、調理冷凍食品として、えびフライ、コロッケ、しゅうまい、ぎょうざ、春巻、ハンバーグステーキ・ミートボール、フィッシュハンバーグ・フィッシュボールの9品目が上段に横並びに記載され、左端には上から、化学調味料の用途区分のL-グルタミン酸ナトリウム、5´-イノシン酸ナトリウム、5´-グアニル酸ナトリウム、5´-リボヌクレオタイドナトリウム、5´-リボヌクレオタイドカルシウム、コハク酸二ナトリウム、呈味補助剤の用途区分のグリシン、クエン酸ナトリウム、pH調整剤の用途区分のグルコノデルタラクトン、クエン酸、dl-リンゴ酸、着香料の用途区分、着色料の用途区分のβ-カロチン、リボフラビン、乳化安定剤のグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、カゼインナトリウム、品質改良剤の用途区分の乳酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、結着補強剤の用途区分の重合リン酸塩、膨張剤の用途区分の一剤式合成膨張剤、保湿剤の用途区分のD-ソルビトール、合成殺菌料の用途区分の次亜塩素酸ナトリウムからなる、計24の食品添加剤が、縦並びに記載されている。そして、これら食品添加剤がそれぞれどの調理冷凍食品に添加されるかが、個々に丸印で示されている。この表9.16によれば、品質改良剤の用途区分の乳酸ナトリウムは、えびフライとコロッケに添加されることが示されている。

(3)対比・判断
(3-1)本件発明1
本件発明1は、「従来より、フライ食品はそのクリスピーな表面の食感が品質の良否を決める要素として重要視されてきた。そのために、フライした後、表面が吸湿しないうちになるべく早く食するのを良しとし、調理法も通常は食する直前に、消費者自身がフライするのが一般的であった。
ところが、消費者においてフライする作業は、作業性の悪さと廃油の処理の点から、近年特に嫌われており、より簡便な調理法、特にオーブントースターや電子レンジ調理に適したフライ食品が求められてきた。
この問題の解決のためには、冷凍解凍、加熱の際、中の具材からの離水を防ぐことで、衣に水分が浸透するのを防ぐ方法が考えられる。目的は異なるものの、従来より冷凍コロッケの具材の離水防止にα化澱粉を具材に添加することによって、保水性を向上させる(特開昭50-52248号)等が提案されている。ところが、単に具のα化澱粉を添加しただけでは、冷凍中の澱粉老化現象により、表面への水分移行は防止できず、また、冷凍中の離水も完全に防ぐことができない。」(本件特許明細書段落【0002】?【0004】)という従来技術が有する問題点を解決するためになされたものである。
そしてそのために、「本発明は、フライ食品用の具材に対し、架橋澱粉または乳酸Naを添加してなることを特徴とするフライ食品用の具材であり、また、フライ食品用の具材に対し、「乳酸Na」と「架橋澱粉および/またはカラギーナン」を添加してなることを特徴とするフライ用具材である。さらに、本発明は、前記具材を用いてなることを特徴とするフライ食品である。そして、前記フライ食品用の具材において、架橋澱粉、乳酸Naおよびカラギーナンの添加量は、フライ食品用の具材100重量部に対して、それぞれ0.5?10重量部、0.1?5重量部、0.05?5重量部のものが好ましい。
架橋澱粉またはカラギーナンにおいては、上記の下限として示される配合量より多くなるにしたがい、離水の発生が防止されたり、表面への水分移行の発生が防止される効果が顕著となり、より好ましい。また、上記の上限として示される配合量より多くなるにしたがい、通常、具材の食感が堅くなる傾向がある。乳酸Naが上記の下限として示される配合量より多くなるにしたがい、離水の有無にかかわらず水分移行は起こりにくくなり、クリスピー感が顕著となる。また、上記の上限として示されている配合量より多くなるにしたがい、通常、食味が悪くなる傾向がある。」(本件特許明細書段落【0007】?【0008】)とあるように、冷凍フライ用の具材に架橋澱粉または乳酸ナトリウムを添加することにより、「特にプレフライ後、冷凍保存して使用された場合でも、オーブントースターや電子レンジ等のより簡便な調理法によって、フライ直後のようなクリスピーな食感の美味しく食することのできる」(本件特許明細書段落【0005】)冷凍フライ食品、およびそのような食感を付与できる冷凍フライ食品用の具材を提供するものである。
そして、本件特許明細書の実施例によれば、プレフライ後冷凍保存した春巻き、及び未フライで冷凍保存したクリームコーンコロッケの具材に、架橋澱粉及び/または乳酸ナトリウムを添加することにより、再加熱後あるいはフライ後の食感の良さ、パリパリ感あるいはサクサク感、および食味のよさに優れるという効果が得られている。
以下本件発明1を、(A)乳酸ナトリウムを添加する態様と、(B)架橋澱粉を添加する態様に分けて、それぞれ検討する。
(3-2)本件発明1(A)と甲第2?4号証に記載された発明との対比、判断
加工食品に乳酸ナトリウムを添加することが記載されている甲第2号証には、甲第2号証記載事項(二の1)に、グリシンと乳酸ナトリウムを加工食品に添加すると、食味や食感等の嗜好特性を低下させることなく優れた保存性を付与できることが記載され、同じく甲第3号証には、甲第3号証記載事項(三の4)及び実施例に、グルコノデルタラクトン、乳酸ナトリウム、エタノール及び水からなる品質改良剤を添加すると、pH保持性や安定性に優れ、食感・食味が良い常温で長期保存可能な高品質食品を作れることが、また、記載事項(三の2)に、そのような食品にはコロッケ、カツレツなどのフライ食品が含まれることが記載され、同じく甲第4号証には、甲第4号証記載事項(四の3)?(四の5)に、塩類の水溶液に浸漬させた後、グリシン並びに乳酸又は乳酸ナトリウムからなる水溶液に浸漬させたエビをてんぷら、フライ類に使用すると、加熱しても食感が良く、しかも常温において保存性に富むてんぷら、フライ類を作ることができることが記載されている。
そこで、本件発明1(A)とこれら甲号証に記載された発明を比較すると、甲第2?4号証には、食品に優れた保存性を付与するために乳酸ナトリウムを添加することが記載され、特に甲第3、4号証には、具材部分と表皮部分とを有するフライ食品に保存性を高めるために乳酸ナトリウムを添加することが記載されており、保存目的であることから乳酸ナトリウムは通常具材に添加されるものと考えられるので、本件発明1(A)と甲第3、4号証に記載された発明とは、フライ食品用の具材に対し、乳酸ナトリウムを添加してなり、該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在する、フライ食品用の具材である点で共通するが、(i)前者では冷凍フライ食品用の具材であるのに対して、後者では、保存性の向上を目的として保存剤を添加するものであること及び常温流通の食品を対象とすることからみて、冷凍フライ食品用の具材ではない点、及び(ii)前者では、乳酸ナトリウムのみを添加すればよいのに対して、後者では、乳酸ナトリウムとグリシンあるいはグルコノデルタラクトン等の保存料を併用するものである点、で相違する。また、甲第2号証に記載された発明は、これに加えて、乳酸ナトリウムを添加する食品が、具材部分と表皮部分とを有するフライ食品ではない点で、更に本件発明1(A)と相違する。
そこで、まず上記相違点(ii)について検討する。
甲第2?4号証に記載された発明は、食品の常温における優れた保存性を得るために、食品に対し乳酸ナトリウムとグリシンあるいはグルコノデルタラクトン等の保存剤を併用・添加するものであり、これにより所期の効果が得られるものであるから、これらの保存剤を併用せず、乳酸ナトリウムのみを添加する食品は、そもそも甲第2?4号証に記載された発明に基づいては、容易に想起し得ないものである。
なお、甲第2号証には、乳酸ナトリウムのみを添加した食品も記載されてはいるが、これは、保存剤を併用する食品に対する比較対象として、乳酸ナトリウムのみを添加したものでは保存性が不十分であることを示すために記載されたものに過ぎず、甲第2号証には、当該乳酸ナトリウムのみを添加した食品を冷凍保存することは記載されておらず、これが冷凍保存に適した何等かの特性を有することを示唆する記載もない。また、甲第2号証には、対象食品として、具材部分と表皮部分が存在するフライ食品は例示されていない。
もっとも、本件発明1(A)は、乳酸ナトリウムを添加することのみを規定し、グリシンあるいはグルコノデルタラクトン等の保存剤を含有する具材部分と表皮部分が存在するフライ食品を除外してはいないので、本願発明1(A)には、甲第3、4号証に記載された具材部分と表皮部分とが存在するフライ食品と同様の組成を有するフライ食品も一応含まれるともいえるので、次いで、相違点(i)について、甲第3、4号証に記載されたフライ食品を冷凍保存することを容易に想到し得たかどうか検討すると、甲第3、4号証に記載のフライ食品は、甲第3号証に「常温で長期保存可能な高品質食品を作る」と記載され(三の4)、甲第4号証に「エビは弁当類の具剤として非常によく用いられる素材である。エビフライ、エビてんぷら等を有する弁当類は美味の為デパート、コンビニエンスストア等で広く販売されている。しかし、エビは常に微生物汚染から生じる食中毒の危険がつきまとう。これは、調理加熱後、消費者が食する迄、一定期間室温で保存される為である。即ち、この室温保存中に微生物が急激に増殖するからである。」(四の2)、「上記課題を解決する為に本発明者らは鋭意検討を加えた結果、(1)エビを塩類の水溶液に浸漬させた後に、(2)アミノ酸並びに有機酸及び/又は有機酸塩からなる水溶液に浸漬させることにより、本発明を完成するに至らしめた。」(四の3)と記載されているとおり、常温における保存性を高めるために保存料成分と乳酸ナトリウムを併用するものであり、この常温流通フライ食品をわざわざ冷凍保存しようとすることは、当業者が容易に想起することではないといえる。
そして、本件発明1(A)においては、具材部分と表皮部分とを有する冷凍フライ食品の具材に乳酸ナトリウムを添加することにより、冷凍解凍、加熱の際、中の具材からの離水を防ぐことで、衣に水分が浸透するのを防ぎ、冷凍保存した場合でも、表面の食感がクリスピーなフライ食品が得られるという、冷凍保存ではなく常温保存を目的とする甲第3、4号証に記載された発明からでは予測できない格別な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1の一態様である本件発明1(A)は、甲第2?4号証に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(3-3)本件発明1(B)と甲第5号証に記載された発明との対比、判断 甲第5号証記載事項(五の2)及び実施例には、難消化性デキストリンと架橋澱粉を原料のすり身に添加してフライした揚げかまぼこは、その食感が改善されたことが記載されており、本件発明1(B)と甲第5号証に記載された発明を比較すると、甲第5号証に記載の揚げかまぼこのようなフライ水産練り製品は、通常、具材部分と表皮部分とが存在するフライ食品ではないので、両者は、架橋澱粉を添加したフライ食品用の具材である点で共通するが、(i)前者では、冷凍フライ食品用の具材であるのに対して、後者では、冷凍することは記載されていない点、(ii)フライ食品が、前者では具材部分と表皮部分とが存在するものであるのに対して、後者では表皮部分が存在しないものである点、及び(iii)前者では、架橋澱粉のみを添加すればよいのに対して、後者では、難消化性デキストリンと架橋澱粉を併用するものである点、で相違する。
これら相違点で示されるように、甲第5号証に記載のフライ食品は表皮部分が存在しないものであり、しかも冷凍保存することは記載されていないのであるから、表皮部分の冷凍解凍時の食感を改善しようとする本件発明1の課題が甲第5号証には存在せず、甲第5号証の記載から本件発明1(B)の上記(i)?(iii)の相違点の構成を採用することを、当業者が容易になし得るとはいえない。
そして、本件発明1(B)においては、かかる構成の相違により、冷凍解凍、加熱の際、中の具材からの離水を防ぐことで、衣に水分が浸透するのを防ぎ、冷凍保存した場合でも、表面の食感がクリスピーなフライ食品が得られるという、甲第5号証に記載された発明からは予測できない格別な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1の一態様である本件発明1(B)は、甲第5号証に記載された事項から、当業者が容易に発明し得たものとはいえない。

(3-4)本件発明1(A)と甲第14号証に記載された発明との対比、判断
甲第14号証には冷凍フライ食品を含む調理冷凍食品に添加する食品添加物が列挙され、具材部分と表皮部分とが存在するフライ食品に該当するえびフライとコロッケに品質改良剤として乳酸ナトリウムを添加する場合が記載されている。しかしながら、これにより、これらの食品のどのような品質を改良するのかは記載されておらず、また、乳酸ナトリウムを具材に添加することは記載されていない。
これについて、被請求人は、第2回目の答弁書第5頁第21行?第6頁第4行において、乙第6?8号証を引用して、「甲第14号証に記載の表9.16は、昭和53年に制定された「調理冷凍食品の日本農林規格」(乙第6号証、第3条および第4条)の内容をまとめたものである。そして、この表は当該日本農林規格において使用してよいともされる食品添加剤の種類をポジティブリスト方式で規定したものである(乙第7号証:甲第14号証と同じ書籍の201頁)。すなわち、甲第14号証の表は、日本農林規格上、冷凍エビフライおよび冷凍コロッケに乳酸ナトリウムを使用することが許されることを示すものにすぎず、乳酸ナトリウムが現実に使用されていたことを示すものではない。実際、平成14年に改正された「調理冷凍食品の日本農林規格」では、冷凍エビフライおよび冷凍コロッケの項目から乳酸ナトリウムが削除されている(乙第8号証)。」と、表9.16は、実際にそのような食品が存在したことを意味しない旨、主張する。
これに対して、請求人は、口頭審理陳述要領書1第4頁下から第3行?第5頁第10行において、甲第21号証を提出して、「ここで、甲第14号証の表9.16に記載のように、ポジティブリスト方式によって日本農林規格として使用可能な食品添加物を選定するにあたっては、当然に、それまでの使用実績を考慮するでありましょう。すなわち、ポジティブリスト方式において、それまで全く使用されていなかった品目に対して特定の食品添加物の使用を許容するなどということは、通常考えられません。むしろ、それまで一定の使用実績のあった食品添加物の中から、特定のものを選定してリストに列挙させようとするのが自然な発想であると考えられます。このことは、甲第21号証(甲第14号証と同じ書籍の205頁)において、「(c)使用できる食品添加物の規制」の説明の項に「使用できる食品添加物の品目別リストを表9.16に示します。このリストは使用形態と本来の使用目的での妥当性に照らして、品質保持上の有効性と製造加工上の不可欠性から必要最小限度の考え方で選定されています。」と記載されている(甲第21号証第205頁第5行?第9行)ことからも明らかであります。」と、乳酸ナトリウムが品質改良剤として表9.16に掲載されたのは、一定の使用実績があったことを示すものである旨、主張する。
上記表9.16についての双方の説明によれば、これは、調理冷凍食品の日本農林規格を制定するに際し、原則添加を禁止した上で、添加してよいものをリストに列挙するポジティブリスト方式で、使用してもよい食品添加剤を列挙したものであり、その選定の基準は、使用形態と本来の使用目的での妥当性に照らして、品質保持上の有効性と製造加工上の不可欠性から必要最小限度の考え方で選定されているとのみ記載されていることからすれば、必ずしも冷凍フライ食品で使用されていたことを示すものとはいえず、表9.16の記載をもって、直ちに、乳酸ナトリウムを添加した冷凍エビフライおよび冷凍コロッケが実際に存在したということはできないが、いずれにしても、表9.16の記載は、冷凍エビフライおよび冷凍コロッケの品質を改良するために乳酸ナトリウムを使用することを当業者に想起させるものであるということはできる。
そして、そのような観点で表9.16をみると、下記(i)、(ii)の2つの点で不明であり、当審は、これらの点を口頭審理で明らかにするよう予め双方に指摘した。
(i)えびフライとコロッケへの添加が許されている品質改良剤の用途区分の乳酸ナトリウムとは、具体的にどのような品質を改良するためのものであるか。グルコン酸カルシウムも、同様にえびフライとコロッケへ添加が許されている品質改良剤であることが参考になるかもしれない。
(ii)品質改良剤としての乳酸ナトリウムは、えびフライとコロッケにのみ添加が許され、他の7品目、しゅうまい、ぎょうざ、春巻、ハンバーグステーキ・ミートボール、フィッシュハンバーグ・フィッシュボールでは添加が許されていない。えびフライとコロッケは、バッター層とパン粉層からなる衣材を有することで他の7品目と相違するのであることからみて、乳酸ナトリウムは衣材に添加するもののようにみえる。

これに対し、口頭審理において、表9.16の乳酸ナトリウムについて、被請求人は、表9.16に記載の他の用途区分、例えば、化学調味料、呈味補助剤、pH調整剤、結着補強剤、保湿剤、合成殺菌料以外の用途であることは確かである旨を、また、請求人は、何の品質改良剤であるかは答えない旨を、発言した。
両当事者の発言が上述のとおりのものであったので、乳酸ナトリウムが冷凍フライ食品であるえびフライまたはコロッケにおいてどのような品質を改良するのかは、依然として不明のままである。
してみると、仮に甲第14号証に記載された乳酸ナトリウムを添加した冷凍エビフライおよび冷凍コロッケが本願出願前に実際に存在したとしても、甲第14号証の記載をもって、乳酸ナトリウムが当該冷凍フライ食品の具材に添加されていたとは、直ちにいえない。
また、甲第14号証の記載に接した当業者が、具材部分と表皮部分とが存在する冷凍フライ食品であるえびフライまたはコロッケに、品質改良剤として乳酸ナトリウムを添加することを想起したとしても、何のための品質改良剤であるかが不明であり、しかも、上述のとおり、甲第14号証の記載からは乳酸ナトリウムは表皮部分(衣材)に添加するもののようにも見える以上、特にこれを具材に添加する動機付け、理由は存在しないから、乳酸ナトリウムをこれらの食品の具材に添加することは、当業者の設計事項であるとはいえないし、また、甲第14号証の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものともいえない。
なお、請求人が提出した甲第20号証には、冷凍フライに関するものではないが、粉末乳酸ナトリウムについて、「フライ用バッターミックスに四%添加して、エビフライを作った結果、エビフライの形が良くなった。又、天ぷら粉に一・五%添加した場合も同様の結果を得た。」(記事の最下段)と記載されており、当該記載は、当業者が、甲第14号証の記載から、乳酸ナトリウムを具材ではなく衣部分に添加することを想起するであろうことを窺わせるものである。
そして、本件発明1(A)は、乳酸ナトリウムを具材部分と表皮部分とが存在する冷凍フライ食品の具材に添加することにより、冷凍保存後であっても、オーブントースターや電子レンジ等のより簡便な調理法によって、表面の食感がフライ直後のような食感のよいフライ食品を提供できるという、甲第14号証の記載から予測できない格別な効果が奏せられるものである。
したがって、本件発明1の一態様である本件発明1(A)は、甲第14号証に記載された発明とはいえず、また、甲第14号証に記載された事項から、当業者が容易に発明し得るものとはいえない。
(3-5)本件発明1と甲第2?5号証及び甲第14号証に記載された発明との対比、判断
甲第2?5号証には、乳酸ナトリウムまたは架橋澱粉を冷凍保存するフライ食品に添加することは記載も示唆もなく、また、甲第14号証の記載からは、乳酸ナトリウムを冷凍フライ食品の具材に添加することを当業者が容易に想到することができないのは、上述の如くであり、両者を組み合わせても、同様に、乳酸ナトリウムまたは架橋澱粉を冷凍フライ食品用の具材に添加するという、本件発明1の構成を容易に導くことはできない。
そして、本件発明1において奏せられる効果も、甲第2?5号証及び甲第14号証の記載から予測できない格別のものである(これについては、後述する「3.付記」も参照されたい。)。
したがって、本件発明1は、甲第2?5号証及び甲第14号証に記載された事項から、当業者が容易に発明し得たものとはいえない。
(4)他の請求項について
本件発明2?4は、本件発明1を技術的に具体化または限定したものであり、本件発明1と同様の理由で、甲第2?5号証及び甲第14号証に記載された事項から、当業者が容易に発明し得たものとはいえない。
また、本件発明5、6は、本件発明1?4の冷凍フライ食品用の具材を用いた冷凍フライ食品に係るものであり、同様に、甲第2?5号証及び甲第14号証に記載された事項から、当業者が容易に発明し得たものとはいえない。
2.無効理由2について
請求人は、訂正前の請求項1?6に係る発明について、甲第2?5号証及び/または甲第14号証に記載された発明と、甲第10?11号証、甲第16?至19号証、及び甲第23?26号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易にその発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張している。
(1)甲号証の記載
甲第10号証?11号証、甲第16?至19号証、及び甲第23?26号証には、それぞれ以下の事項が記載されている。
甲第10号証:特開昭50-129760号公報
特許請求の範囲に「冷凍コロッケ類を製造するに当たり、中種の調製時に、中種原料に天然ガム類、粘質物、合成糊料などの一種または二種以上を0.005?1.5%とグリセリン脂肪酸エステルを0.05?0.5%とを、粉末状でまたは溶解させて併用添加することを特徴とする冷凍コロッケ類の製造法。」と記載され、
冷凍コロッケ類の中種にカラギーナン等の粘質物とグリセリン脂肪酸エステルとを添加することにより、解凍調理時に中種破裂をしない冷凍コロッケとなることが記載されいている。
甲第11号証:特開平1-222743号公報
特許請求の範囲に「中種の周囲に衣がつけられたフライ用調理食品であって、中種に保形剤として地上系澱粉と天然多糖類とが含有され、かつこの中種が冷凍された後解凍されていることを特徴とするフライ用調理食品。」(請求項1)と記載され、
チルド流通に乗せても保形性がよく、衣のべたつきや剥がれがないとともに優れた食感を有する、中種の周囲に衣が付けられたフライ用調理食品であって、中種に保形剤として地上系澱粉(トウモロコシ等から得られる穀物澱粉)と天然多糖類とが含有され、かつこの中種が冷凍されたのち解凍されている食品が記載され、天然多糖類としてカラギーナンが例示されている。
甲第16号証:食添用有機酸とその誘導品、有限会社化学市場研究所発行
乳酸ソーダ即ち乳酸ナトリウムについて、93頁に、「a 乳酸ソーダの特性 可塑作用 乳酸ソーダは乳酸のナトリウム塩で、乳酸の最大の特性であるタンパク質に対する強力な可塑作用をそのままそなえており、Brabender試験によると、生地は粘ちょう性を増し、弾力性がきわめて大きくなる。 保湿性 乳酸ソーダは優れた保水力をそなえており、その力は保湿剤として知られているソルビトールよりも強力で、しかも他の保湿剤と異なり、湿度が低下しても保湿力は殆んど変化しない。乳酸ソーダの保湿性はこのような保水力に加えて、乳酸ソーダの可塑作用により製品の綺目立が改良されることからも来ている。」と記載され、また、「b 乳酸ソーダの使用法 原料配合の際、乳酸ソーダを、小麦粉重量に対して、洋菓子の場合は1.0?1.5%、和菓子の場合は2.0%加えて従来どおり製造する。市販の気泡剤と併用して差し支えないだけでなく、綺目荒れなどの欠点を防ぐ。【実験例1】乳酸ソーダの添加量とケーキの大きさ … 【実験例2】スポンジケーキに及ぼす乳酸ソーダの効果 乳酸ソーダ添加のものは対照に比べてバッターの膨きがやや良く、粘度は高い。ケーキは容積大、焼き色は淡目で、内相は白く冴える。クラムは細かく、ソフトで、食べて口当たりはよい。また、老化も対照に比べて遅延する。」と記載されている。
甲第17号証:〈指定品目〉食品添加物便覧(改訂第31版)1993年版、株式会社食品と科学社発行
45頁の乳酸ナトリウムの項に、「用途 呈味料 清酒(0.005?0.01%)などのpH調整、風味改良、菓子(スイスロール、スポンジケーキ、ビスケット、マルチパン)の品質改良のほか、保湿剤として用いる その他 カゼインのプラスティタイザー、凍結抑制剤」と記載されている。

甲第18号証:特開平5-328912号公報
【特許請求の範囲】に「具材をバッターで少なくとも被覆し、油ちょうした食品の少なくとも衣部に径0.1?5mmの開孔を有する冷凍又は冷蔵状態の電子レンジ又はオーブン調理用油ちょう済フライ食品。」(【請求項1】)、「具材を、油溶性物質5?50重量%と、水和性難溶高分子40?85重量%と、増粘性可溶高分子0.8?10重量%とを含有する衣材よりなるバッターで少なくとも被覆し、油ちょうした食品の少なくとも衣部に径0.1?5mmの開孔を有する冷凍又は冷蔵状態の電子レンジ又はオーブン調理用油ちょう済フライ食品。」(【請求項2】)と記載され、
【要約】の【目的】に「電子レンジ又はオーブン加熱によっても衣のクリスピー感が損なわれない油ちょう済フライ食品を得る。」と記載され、
【発明の詳細な説明】に、従来技術の問題点について、「具材に衣材としてバッターとパン粉を付着させ油ちょう後、冷凍した電子レンジ調理対応の油ちょう済食品が多種上市されている。これらの食品は簡便性という点に関しては極めて優れた食品であるが、電子レンジ加熱により調理するため加熱中に具材等より発生する水蒸気により衣が湿り、サクッとした食感を保持することが困難で、さらに具材からの水蒸気の圧力で衣が調理中にパンクし、食感のみならず、外観においても商品性が著しく低下する。」(【0002】)と記載され、請求項に記載された発明の効果として、「食感の良い衣として特に、増粘剤、油溶物主体のバッターを用い、且つ、衣に開孔することにより、電子レンジで加熱すると具材から蒸発した水分は、衣に開けた孔から外部に出ていき衣の湿りも、パンクも発生せず衣はサクッとした良い食感を維持することができる。又、この衣はオーブン加熱にも対応するものである。」(【0063】)と記載されている。
甲第19号証:冷凍食品年鑑 1995年版、株式会社冷凍食品新聞社発行
冷凍食品の分類別品目表に、フライ類、天ぷら・あげもの類の内訳として、水産フライ、農産フライ、畜産フライ、その他フライ、から揚・竜田揚、天ぷら・あげもの、コロッケ類、カツ類、スティック類が記載されている。
甲第23号証:特開平3-247260号公報
特許請求の範囲に「酸性物質よりなるpH調整剤で処理された魚肉に穀粉及び植物蛋白粉末よりなる群から選択される安定剤が添加混合されている加工用魚肉素材。」(請求項1)と記載され、
畜肉様あるいは組織状繊維蛋白様の適度な硬さとソフトな食感を有する魚肉加工食品を得るために、酸性物質よりなるpH調整剤で処理された魚肉に植物蛋白粉末を添加して魚肉素材を製造することが記載されており、当該魚肉素材は、凍結してもドリップの生成が少ないこと、フライ製品等の原料素材として有用であることが記載され、pH調整剤として乳酸ナトリウムが例示されている。
甲第24号証:特開平4-222584号公報
特許請求の範囲に「冷凍食品に甘味度50以下のオリゴ糖を含有させることを特徴とする冷凍食品の凍結変性防止及び凍結・解凍時間の短縮方法。」(【請求項1】)、「冷凍食品に有機酸塩を含有させる請求項1記載の方法。」(【請求項2】)と記載され、
冷凍食品に甘味度50以下のオリゴ糖を単独で、あるいはオリゴ糖と有機酸塩を併用することにより、凍結時の変性防止、及び凍結、解凍時間を早めることが記載され、有機酸塩としては、呈味度の低いもの、すなわち、リンゴ酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酢酸塩のようなものが使用できることが記載され、冷凍食品としては、冷凍変性防止については、ベシャメルソース、卵製品、豆腐製品、野菜等において効果を発揮し、特に凍結ソースと具剤層を交互に積層した構造の冷凍食品において顕著な効果が得られ、凍結・解凍時間の短縮については、スープ類、ソース類、コロッケ等フライものにおいてはもちろん、凍結素材(海老、さかな、肉類)等のグレーズ剤として効果を発揮すると記載されている。
甲第25号証:食品安全委員会・添加物専門調査会の第41回添加物専門調査会配付資料2 意見聴取要請の概要、
日本において、乳酸塩類の食品添加物として、昭和32年に乳酸、乳酸カルシウム、乳酸鉄が、昭和35年に乳酸ナトリウムが指定されており、調味料や強化剤として食品に使用されていることが記載されている。
甲第26号証:「新食品添加物マニュアル第2版」、日本食品添加物協会発行
乳酸ナトリウムの食品添加物としての主要用途は、調味料、酸味料であることが記載されている。

(2)当審の判断
(2-1)甲第10、11号証には、冷凍コロッケの中種にカラギーナン等の天然多糖類を添加することが記載されているが、このことをもって、冷凍コロッケの具材(中種)に乳酸ナトリウム若しくは架橋澱粉を添加することが導かれるものではない。
(2-2)甲第19号証により、本件出願前に、具材部分と表皮部分が存在するものも含め、既に多数の冷凍フライ食品が上市されていたことが示され、甲第18号証には、衣部分と具材部分とを有する油ちょう済み冷凍フライ食品においては、再加熱時に衣のクリスピー感が失われるという問題があり、これは、電子レンジ等による「加熱中に具材等より発生する水蒸気により衣が湿る」ことが原因である旨が記載されている。一方、甲第16号証、甲第17号証などにより、乳酸ナトリウムを保湿剤として食品に添加することが知られている。請求人の弁駁書における主張は、これらのことから、具材部分と表皮部分が存在する冷凍フライ食品において、具材に乳酸ナトリウムを添加することにより、具材の保湿性を高め、もって、再加熱時に具材からの水蒸気の発生を抑制することによって、表皮部分のクリスピー感が損なわれるのを抑制することは、当業者が容易に想到し得ることであり、また、このような技術背景の下で甲第14号証を見れば、冷凍エビフライおよび冷凍コロッケの品質を改良するために乳酸ナトリウムを具材に添加することは、当業者が容易に想到し得ることである、というものであると考えられる。
しかしながら、甲第16号証の乳酸ナトリウムを保湿剤として用いる旨の記載は、その前後を見るとケーキなどの小麦粉焼成品の保湿性、老化防止について述べているものであり、甲第17号証にもこれを超える記載は認められない。
そして、甲第17号証の「菓子(スイスロール、スポンジケーキ、ビスケット、マルチパン)の品質改良」に用いる旨の記載と、甲第16号証の「a 乳酸ソーダの特性 可塑作用 乳酸ソーダは乳酸のナトリウム塩で、乳酸の最大の特性であるタンパク質に対する強力な可塑作用をそのままそなえており、Brabender試験によると、生地は粘ちょう性を増し、弾力性がきわめて大きくなる。」という記載を合わせると、乳酸ナトリウムは小麦粉に含まれるタンパク質に作用して、小麦粉生地の粘ちょう性を増加させる品質改良剤としてよく知られていたことが理解できる。そしてこのことは、むしろ、上記甲第14号証に記載された、冷凍フライ食品であるえびフライまたはコロッケに添加してもよいとされた品質改良剤としての乳酸ナトリウムは、当該フライ食品の小麦粉を利用した部分、すなわち衣材に用いられるのであろうことを、当業者に想起させるものといえる。
また、乳酸ナトリウムの保湿性に関し、請求人が提出した甲第9号証には、乳酸ナトリウム(商品名スラック)について、「スラックは、他の保湿剤に比べ温度、湿度の変化による差が少ないので、保湿力の本当に必要となる低温度、低湿度時において効果の高い保湿剤といえる。その結果、離水防止、歩留まり向上、吸水性、品質の安定、老化防止等の効果がある。」旨記載されており、これらの記載からは、冷凍食品の再加熱時などの高温下での乳酸ナトリウムの保湿効果が直ちに期待できるとはいえないから、これらの記載をもって、冷凍フライ食品の具材に乳酸ナトリウムを添加することにより、具剤の保湿性を高め、もって、「再加熱時に具材からの水蒸気の発生を抑制すること」が容易に想到し得ることとは認めがたい。
(2-3)甲第23号証には、魚肉の品質を改良するために乳酸塩等を添加すること、こうして得た魚肉素材をフライ食品とすること、また、当該魚肉素材を冷凍保存し、適時解凍して使用することは記載されているが、当該魚肉素材をフライ食品とした後、冷凍保存することは記載されていない。
また、甲第24号証には、冷凍食品の具材に、オリゴ糖単独あるいはオリゴ糖と有機酸塩を併用することにより、凍結時の変性防止、及び凍結、解凍時間を早めることが記載されているが、オリゴ糖単独で用いてもよいばかりか、オリゴ糖と併用する有機酸塩の作用、効果について記載されていないこと、また、有機酸塩として乳酸塩が例示されているものの、乳酸ナトリウムは具体的に例示されておらず、これを用いた実施例も記載されていないこと、また、これらを添加する対象の冷凍食品は、ソース類、スープ類などの液状のものから肉類などの凍結素材におよぶ多岐、多種のものであることからすれば、甲第24号証に具剤部分と表皮部分が存在する冷凍フライ食品用の具材に乳酸ナトリウムを添加することが記載されているとはいえない。また、冷凍食品のうち、特に具剤部分と表皮部分が存在する冷凍フライ食品の具材に、特に乳酸塩のうち例示されていない乳酸ナトリウムを添加しようとすることを、甲第24号証の記載から当業者が容易に想到し得るということもできない。
更にまた、甲第25号証、及び甲第26号証には、乳酸ナトリウムが調味料、酸味料や強化剤として食品に添加されるものであることが記載されているが、このことが、乳酸ナトリウムがフライ食品において調味料等として常用されているものであることを直ちに示すものではないから、このことをもって、乳酸ナトリウムを添加した、具剤部分と表皮部分が存在する冷凍フライ食品用の具材が知られていたとも、また、当業者が容易に想到し得るものであるともいえない。
(2-4)以上のとおりであるから、上記甲各号証のいずれにも、あるいはそれらを組み合わせても、具剤部分と表皮部分が存在する冷凍フライ食品の具材に乳酸ナトリウムまたは架橋澱粉を添加するという本件発明1の構成を予測できる記載はない。
そして、このことは、上記1.(3-2)?(3-5)で検討したとおり、甲第2?5号証及び甲第14号証においても同様である。
したがって、本件発明1は、甲第2?5号証及び/または甲第14号証に記載された発明と、甲第10?11号証、甲第16?至19号証、及び甲第23?26号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明1において奏せられる効果は、これらの甲号証の記載から予測できない格別のものである(これについては、後述する「3.付記」も参照されたい。)。
また、本件発明2?6も、上記1.(4)と同様な理由で、本件発明1と同様に、甲第2?5号証及び/または甲第14号証に記載された発明と、甲第10?11号証、甲第16?至19号証、及び甲第23?26号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

3.付記(本件発明の奏する効果について)
被請求人は、乳酸ナトリウムを具材部分に添加する効果の顕著性を、表皮部分に添加する場合と比較する実験の結果を、実験成績証明書として提出した。
まず、平成19年12月13日付で提出した口頭審理陳述要領書1で乙第27号証として冷凍クリームコロッケに関する実験成績証明書を提出し、口頭審理でのやりとりをふまえ、さらに平成20年1月31日付で提出した上申書で乙第31号証として、再度冷凍クリームコロッケに関する実験成績証明書を提出した。
これに対し、請求人は、平成20年1月31日付で提出した上申書で、甲第29号証として冷凍のクリームコロッケ、ポテトコロッケ、トンカツ、メンチカツ、魚すり身フライ、エビフライ、チキンナゲット、エビ天ぷら、なす天ぷら、鶏唐揚げ、春巻きに関する実験成績証明書を提出し、クリームコロッケとトンカツと春巻き以外の上記冷凍フライ食品では、乳酸ナトリウムを具材に添加するよりも、バッター、衣の表皮部分に添加する方が効果があることを示した。これに対して、被請求人は、さらに平成20年2月25日付で提出した上申書で、請求人の提出した甲第29号証の実験は、表皮部分の乳酸ナトリウムの添加量が不適切である旨主張し、かつ乙第33号証として冷凍クリームコロッケにおける乳酸ナトリウムの添加量が効果に及ぼす影響に関する実験成績証明書を提出した。
請求人は、これに対して平成20年3月3日付けで提出した上申書で、被請求人の平成20年2月25日付で提出した上申書における主張について反論するとともに、甲第30号証として甲第29号証の実験成績証明書の訂正頁を提出した。
以上の双方から提出された実験成績証明書の記載及び主張から理解されることは、乳酸ナトリウムの添加量等の実験条件、すなわち冷凍フライ食品の製造条件によっては、たとえ乳酸ナトリウムを具材に添加した場合でも、所望の効果が得られないことがあるということである。しかしながら、食品によっては、添加物の適切な配合量が変わりうることは、むしろ当然のことであり、食品製造時にその種々の条件を好適化することは通常のことと認められる。
そして、本件特許明細書には、フライ済み冷凍春巻及び未フライ冷凍クリームコロッケの具材部分に乳酸ナトリウムまたは架橋澱粉、あるいは両者を添加した実施例が記載され、添加しない場合に比べ、フライ後の食感に優れていることが記載され、さらに、乳酸ナトリウムまたは架橋澱粉を具材に加えることによって、冷凍中の離水の発生及び加熱時の表面への水分移行の発生が防止され、食感が向上するという、乳酸ナトリウム及び架橋澱粉の作用についても本件特許明細書に記載されているのであるから、実施例に記載されていない他の冷凍フライ食品においても、適切な量を添加することにより、同様の作用効果を奏するであろうことの合理的説明もなされている。
してみれば、請求人の行った特定の条件下での試験において、いくつかの冷凍フライ食品について特段の効果が得られなかったことをもって、本件発明が本件特許明細書に記載した効果を有するものでないとはいえず、本件発明が、請求人の引用する甲各号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるともいえない。
4.その他の無効理由について
請求人は、審判請求時に証拠方法として甲第6号証を提出し、本件特許の請求項1?6に係る発明は、甲第6号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない旨主張しているので、この無効理由について検討する。
甲第6号証は、本願の特許出願の日の前に特許出願され、本願の特許出願後に出願公開された特願平6-132563号(出願日平成6年5月23日)の公開公報である特開平7-313112号公報(出願公開日平成7年12月5日)であり、出願の日から出願公開の日まで、明細書及び図面の補正はなされていないので、該公報の明細書及び図面の記載が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載である。
そこには、「本発明は、保存性が良好な魚肉練り製品の製造方法に関する。」(段落【0001】)、
「魚肉原料に、乳酸の可食性塩0.5?5.0重量%、糖アルコール1.0?10重量%と、酢酸、酢酸の可食性塩、グリシン、アラニンより選ばれた1種又は2種以上0.1?2.0重量%とを添加することを特徴とする魚肉練り製品の製造方法。」(【請求項1】)、「乳酸の可食性塩、酢酸の可食性塩が、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩である請求項1記載の魚肉練り製品の製造方法。」(【請求項2】)、
「これらの魚肉練り製品は、例えば蒲鉾のように成形し蒸し上げられた後、必要な場合には表面に焼きを入れて焦げ目をつけ、そのまま若しくは簡単な包装をして販売されるか、竹輪のように棒状の金属に付けて直ちに表面を加熱して焦げ目を付けて加熱成形し、そのまま若しくは簡単な包装の後に流通販売されるか、さつまあげのように一定の形にしてすり身を油であげた後、そのまま若しくは簡単な包装をして販売されるか、或いはすり身を一定の型にはめ込んだプラスチック包装材に押し込み成形して加熱した後、販売されている。
魚肉練り製品を汚染する可能性のある微生物の種類は、魚肉練り製品を製造する際に、加熱してから包装するか、包装してから加熱するかによって非常に異なり、保存可能期間も異なる。前者の方法は比較的保存期間が短く、後者の方法は保存期間が長いのが普通である。」(段落【0003】?【0004】)、
「本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、乳酸及び/又は乳酸の可食性塩と、糖アルコールと、酢酸、酢酸の可食性塩、グリシン、アラニンより選ばれた1種又は2種以上とを特定の割合で魚肉練り製品原料に練り込んで魚肉練り製品を製造することにより、人体に対する安全性が非常に高く、食塩の添加量を少なくしても、耐熱性の低い細菌、乳酸菌、食中毒菌、黴や、耐熱性の高い細菌や食中毒菌の発生をきわめて効果的に抑制して製品の保存性を高めることができ、しかも食品の食感、食味の向上をも図ることができることを見い出し本発明を完成するに至った。」(段落【0014】)、
「【発明の効果】
以上説明したように本発明方法により得られる魚肉練り製品は、人体に対する安全性が非常に高く、食塩の添加量を少なくしても、耐熱性の低い細菌、乳酸菌、食中毒菌、黴や、耐熱性の高い細菌や食中毒菌の発生をきわめて効果的に抑制し、食品の保存性を高めることができ、しかも食品の食感、食味の向上をも図ることができる等の種々の効果を有する。」(段落【0043】)と記載されている。
これらの記載からみて、甲第6号証に記載された発明は、乳酸ナトリウムと糖アルコール等を併用することにより、常温で保存性の高い練り製品を製造するものであり、冷凍フライ食品用の具材に対し、架橋澱粉または乳酸Naを添加してなり、該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在する冷凍フライ食品用の具材に係る本件発明1と同一の発明であるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲第6号証に記載された発明と同一であるとはいえず、また同様に、訂正後の請求項2?6に係る発明も、甲第6号証に記載された発明と同一であるとはいえない。

第7.結び
以上の通りであるから、請求人の主張する理由および提出した証拠方法によっては、本件の請求項1ないし6に係る発明の特許を無効とすることができない。
また、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、審判費用は、請求人の負担とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
フライ食品用の具材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍フライ食品用の具材に対し、架橋澱粉または乳酸Naを添加してなり、該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在することを特徴とする冷凍フライ食品用の具材。
【請求項2】
架橋澱粉、乳酸Naの添加量が、具材100重量部に対してそれぞれ0.5?10重量部、0.1?5重量部である請求項1に記載の冷凍フライ食品用の具材。
【請求項3】
冷凍フライ食品用の具材に対し、「乳酸Na」と「架橋澱粉および/またはカラギーナン」を添加してなり、該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在することを特徴とする冷凍フライ食品用の具材。
【請求項4】
乳酸Na、架橋澱粉およびカラギーナンの添加量が、具材100重量部に対してそれぞれ0.1?5重量部、0.5?10重量部および0.05?5重量部である請求項3に記載の冷凍フライ食品用の具材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の冷凍フライ食品用の具材を用いてなる冷凍フライ食品。
【請求項6】
冷凍フライ食品が春巻またはコロッケである請求項5に記載の冷凍フライ食品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、電子レンジで再加熱した場合でも、そのクリスピーな食感を保持できる、春巻、揚げギョウザ、揚げシューマイ、揚げワンタン、コロッケ、トンカツ、揚げパン、フライドパイ、てんぷら、クリームコロッケフライ等のフライ食品用の具材およびフライ食品に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、フライ食品はそのクリスピーな表面の食感が品質の良否を決める要素として重要視されてきた。そのために、フライした後、表面が吸湿しないうちになるべく早く食するのを良しとし、調理法も通常は食する直前に、消費者自身がフライするのが一般的であった。
【0003】
ところが、消費者においてフライする作業は、作業性の悪さと廃油の処理の点から、近年特に嫌われており、より簡便な調理法、特にオーブントースターや電子レンジ調理に適したフライ食品が求められてきた。
【0004】
この問題の解決のためには、冷凍解凍、加熱の際、中の具材からの離水を防ぐことで、衣に水分が浸透するのを防ぐ方法が考えられる。目的は異なるものの、従来より冷凍コロッケの具材の離水防止にα化澱粉を具材に添加することによって、保水性を向上させる(特開昭50-52248号)等が提案されている。ところが、単に具のα化澱粉を添加しただけでは、冷凍中の澱粉老化現象により、表面への水分移行は防止できず、また、冷凍中の離水も完全に防ぐことができない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、特にプレフライ後、冷凍保存して使用された場合でも、オーブントースターや電子レンジ等のより簡便な調理法によって、フライ直後のようなパリパリ、サクサク、カリカリ等と表現されるクリスピーな食感の美味しく食することのできるフライ食品、およびそのような食感を付与できるフライ食品用の具材を提供することを目的とするものであある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、具材に対し、架橋澱粉または乳酸Na、あるいは「乳酸Na」と「架橋澱粉および/またはカラギーナン」を添加すると、これをプレフライして冷凍保存した後、電子レンジで再加熱するだけで、フライ直後のようなクリスピーな食感のフライ食品が得られることを発見し、しかも、α化澱粉を用いる従来法に比べて、その効果が著しいことを確認し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、フライ食品用の具材に対し、架橋澱粉または乳酸Naを添加してなることを特徴とするフライ食品用の具材であり、また、フライ食品用の具材に対し、「乳酸Na」と「架橋澱粉および/またはカラギーナン」を添加してなることを特徴とするフライ食品用の具材である。さらに、本発明は、前記具材を用いてなることを特徴とするフライ食品である。そして、前記フライ食品用の具材において、架橋澱粉、乳酸Naおよびカラギーナンの添加量は、フライ食品用の具材100重量部に対して、それぞれ0.5?10重量部、0.1?5重量部、0.05?5重量部のものが好ましい。
【0008】
架橋澱粉またはカラギーナンにおいては、上記の下限として示される配合量より多くなるにしたがい、離水の発生が防止されたり、表面への水分移行の発生が防止される効果が顕著となり、より好ましい。また、上記の上限として示される配合量より多くなるにしたがい、通常、具材の食感が堅くなる傾向がある。乳酸Naが上記の下限として示される配合量より多くなるにしたがい、離水の有無にかかわらず水分移行は起こりにくくなり、クリスピー感が顕著となる。また、上記の上限として示されている配合量より多くなるにしたがい、通常、食味が悪くなる傾向がある。架橋澱粉と乳酸Naおよびカラギーナンを組み合わせて用いる場合は、架橋澱粉と乳酸Na、乳酸Naとカラギーナンの組み合わせが好ましく、特に架橋澱粉と乳酸Naとカラギーナンの組み合わせが最も好ましい。
【0009】
本発明におけるフライ食品とは、春巻、揚げギョウザ、揚げシューマイ、揚げワンタン、揚げパン、フライドパイ、てんぷら、コロッケ、トンカツ、クリームコロッケ等、油で揚げて調理する食品であり、特にこれらは、中身の具材部分と通常衣と呼ばれる表皮部分が存在し、さらに、コロッケ、トンカツ、クリームコロッケ等は、具材部分と表皮部分の間に小麦粉と水を主成分とするバッター液に由来するペースト状の層が存在する。
【0010】
フライ食品用の具材としては、通常使用されている原料を用いればよく、例えば、肉類、魚類、野菜類その他必要により添加されるものが挙げられる。肉類としては牛肉、豚肉、鶏肉であり、通常はスライス状、細切り状、ミンチ状になったものである。魚類としてはタラ、ホキ、アジ、いわし等であり、通常はスリ身状になったものである。野菜類としては、キャベツ、タマネギ、ジャガイモ、ニンジン等であり、通常は細かくカットあるいはペースト状になったものである。その他澱粉、調味料等が例示される。
【0011】
上記のような原料をカット、混練、加熱等して、中身の具材成形する。これをパン粉、麺帯、春巻の皮等で包み込み、次いでフライし、冷凍等の工程を経てフライ食品となる。
【0012】
ここでいう架橋澱粉とは、2箇所以上の水酸基に多官能基を結合させた澱粉誘導体で、原料としては特定されず、タピオカ、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉のいずれでもよい。また、単なる架橋反応の他、アセチル化と架橋反応、エーテル化と架橋反応の組み合わせで得られたものでもよい。カラギーナンは、海藻の中の紅藻類から抽出される、「α(1→3)結合」および「β(1→4)結合」を交互に繰り返してなる直鎖状のガラクタンである。
【0013】
添加法はフライ食品用具材を加熱する前に混合するだけでよいが、原料中の粉末類と予め混合することが好ましい。本発明の具材を用いて、フライ食品を調製した後、通常はプレフライし、冷凍保存することが好ましい。もちろん、冷凍保存することなく提供することもできるが、冷凍保存により流通させることが、より好ましい。通常、本発明の冷凍フライ食品は、食用に供する前にオーブントースターや、電子レンジ等により加熱すればよいが、もちろん、油で処理することも可能である。油で処理する場合には、事前にプレフライすることは不要となる場合が多い。パン粉の粒径、麺帯の厚さ、大きさ、形は公知の例に準ずることができる。
【0014】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
春巻用具材として、常法に従い、カットした豚肉25重量部、キャベツ30重量部、たけのこ5重量部、人参5重量部、水と調味料その他35重量部を混合し(具材Aとする、100重量部)、混練した後、150℃、15分加熱した。具材Aの調製時に、架橋澱粉4重量部を加えた。春巻の皮は予め春巻用皮成形機を使用して、薄くシート化したものを準備した。この春巻の皮で前記の具材を巻いて、融点25℃のパーム分別油でフライ(180℃、3分)した。フライ後-18℃以下になるまで急速冷凍し、24時間放置後、電子レンジ(500W)で再加熱した。
【0015】
官能検査は16名のパネラーで行い、食感の良いものを10点、食感の悪いものを1点とした。また、最もパリパリ感を感じるものを10点、ソフトな食感でパリパリ感を感じないものを1点とし、さらに、食味の良いものを10点、食味の悪いものを1点とした。以上、10点評価で評価し、それぞれ16名の平均値を出した。結果を表1に示した。
(実施例2)
具材Aに対して、乳酸Na2重量部を加え、混練した後、加熱した具材を用いた。その他は実施例1と同様にして春巻を製造し、実施例1と同様に官能検査を行った。その結果を表1に示した。
【0016】
(実施例3)
具材Aに対して、架橋澱粉4重量部、乳酸Na2重量部を加え、混練した後、加熱した具材を用いた。その他は実施例1と同様にして春巻を製造し、実施例1と同様に官能検査を行った。その結果を表1に示した。
【0017】
(実施例4)
具材Aに対して、カラギーナン0.2重量部、乳酸Na2重量部を加え、混練した後、加熱した具材を用いた。その他は実施例1と同様にして春巻を製造し、実施例1と同様に官能検査を行った。その結果を表1に示した。
(実施例5)
具材Aに対して、架橋澱粉4重量部、カラギーナン0.2重量部、乳酸Na2重量部を加え、混練した後、加熱した具材を用いた。その他は実施例1と同様にして春巻を製造し、実施例1と同様に官能検査を行った。その結果を表1に示した。
【0018】
(比較例1)
具材Aに対して、α化澱粉4重量部を加え、混練した後、加熱した具材を用いた。その他は実施例1と同様にして春巻を製造し、実施例1と同様に官能検査を行った。その結果を表1に示した。
(実施例6)
クリームコーンコロッケ用具材として、常法に従い、粒コーン80重量部、玉葱5重量部、水と調味料その他15重量部を混合し(具材Bとする、100重量部)、具材Bの調製時に、架橋澱粉0.5重量部、乳酸Na0.1重量部を加えた。混練した後、加熱、冷却した。その後、成形し、バッター液に浸漬、パン粉付けした後、冷凍した。フライ以降は実施例1と同様に実施し、官能検査は16名のパネラーで行い、食感の良いものを10点、食感の悪いものを1点とした。また、最もサクサク感を感じるものを10点、ソフトな食感でサクサク感を感じないものを1点とし、さらに、食味の良いものを10点、食味の悪いものを1点とした。以上10点評価で評価し、それぞれ16名の平均値を出した。その結果を表2に示した。
【0019】
(実施例7)
具材Bに対して、架橋澱粉2重量部、乳酸Na1重量部を加え、混練した後、加熱した具材を用いた。その他は実施例6と同様にしてクリームコロッケを製造し、実施例6と同様に官能検査を行った。その結果を表2に示した。
(実施例8)
具材Bに対して、架橋澱粉10重量部、乳酸Na5重量部を加え、混練した後、加熱した具材を用いた。その他は実施例6と同様にしてクリームコロッケを製造し、実施例6と同様に官能検査を行った。その結果を表2に示した。
(比較例2)
具材Bに対して、α化澱粉4重量部を加え、混練した後、加熱した具材を用いた。その他は実施例6と同様にしてクリームコロッケを製造し、実施例6と同様に官能検査を行った。その結果を表2に示した。
【0020】
表1および表2から分かるように、本発明の春巻およびクリームコロッケは、食感の良さ、パリパリ感あるいはサクサク感、および食味の良さ共に、比較例よりも優れている。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【発明の効果】
実施例の結果から明らかなように、本発明によれば、具材に対し、架橋澱粉または乳酸Na、あるいは「乳酸Na」と「架橋澱粉および/またはカラギーナン」を添加することにより、プレフライして冷凍保存した後、電子レンジで再加熱した場合でも、フライ直後のような、クリスピーな食感のフライ食品用具材およびフライ食品が得られる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-03-27 
結審通知日 2008-03-31 
審決日 2008-04-14 
出願番号 特願平7-59994
審決分類 P 1 113・ 16- YA (A23L)
P 1 113・ 113- YA (A23L)
P 1 113・ 121- YA (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内田 淳子  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 鈴木 恵理子
光本 美奈子
登録日 2004-04-16 
登録番号 特許第3544023号(P3544023)
発明の名称 フライ食品用の具材  
代理人 泉谷 玲子  
代理人 千葉 昭男  
代理人 中村 充利  
代理人 中村 充利  
代理人 富田 博行  
代理人 奈良 泰男  
代理人 都祭 正則  
代理人 千葉 昭男  
代理人 宇谷 勝幸  
代理人 小野 新次郎  
代理人 社本 一夫  
代理人 長谷川 俊弘  
代理人 藤田 健  
代理人 富田 博行  
代理人 社本 一夫  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 泉谷 玲子  
代理人 小林 泰  
代理人 八田 幹雄  

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