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審決分類 |
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正しない A63F 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない A63F 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない A63F 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正しない A63F |
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管理番号 | 1191378 |
審判番号 | 訂正2008-390024 |
総通号数 | 111 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-03-27 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2008-02-25 |
確定日 | 2009-01-19 |
事件の表示 | 特許第3537630号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件は、平成9年4月18日に出願され、平成16年3月26日に特許第3537630号として設定登録(請求項数2)された特許について訂正(以下「本件訂正」という。)を求めるものである。 当審において本件審判請求を審理した結果、平成20年4月8日付けで訂正拒絶理由を通知したところ、請求人は同年5月8日付けで意見書を提出した。 第2 本件審判請求についての判断 1.訂正内容 本件訂正は、特許請求の範囲の訂正、発明の詳細な説明の訂正、図面の簡単な説明及び発明の名称の訂正の訂正から成っており、特許請求の範囲の訂正に限っていうと、訂正前の請求項1を削除し、請求項2を独立形式に改めた上で次のように訂正するものである。以下、訂正後の請求項2に記載された事項によって特定される発明を「訂正発明」という。 「上下方向に回転可能な円筒状をした円筒状をしたリールドラムと、このリールドラムの外周に左右方向を幅方向として設けられる、種々の図柄が描かれたリール帯と、前記リールドラムの内部に設けられ、これら図柄を背後から照らす光源とを備えて構成される、スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し、ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止するスロットマシンの回転リールユニットにおいて、 前記図柄の内、第1の種類及び第2の種類の2つの特定図柄は、その一部分をそれぞれ半透明に形成され、その半透明に形成した部分を、前記リールドラムの回転方向に直交する方向において、前記特定図柄の種類ごとにリール帯の右方又は左方に配され、前記特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は、種類ごとに異なる色に着色されると共に、遮光性が付されたことを特徴とするスロットマシンの回転リールユニット。」(下線部は、訂正前の請求項2にそれが引用する請求項1を併せたものを訂正前請求項2とした上で、それに対して訂正がされた箇所を当審において示すものである。) 2.訂正目的の検討 上記下線部の内、「上下方向に回転可能な円筒状をした」、「左右方向を幅方向として」、「前記リールドラムの内部に設けられ」及び「前記図柄の内、第1の種類及び第2の種類の2つの特定図柄は、その一部分をそれぞれ半透明に形成され、その半透明に形成した部分を、前記リールドラムの回転方向に直交する方向において、前記特定図柄の種類ごとにリール帯の右方又は左方に配され、前記特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は、種類ごとに異なる色に着色されると共に、遮光性が付された」との部分は、「回転リールユニット」を直接的に限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮を目的とするものと認める。「上下方向に回転可能」及び「左右方向を幅方向」とするかどうかについては、回転リールユニットの形状等のみからは定まらないものの、種々の図柄が描かれており、図柄の多くは方向性を持っていることから、回転リールユニットの構成としても特定できる。 また、訂正前の請求項2には「前記遊技機はスロットマシンまたは弾球遊技機である」との限定があるから、「スロットマシンの回転リールユニット」と訂正することも、特許請求の範囲を減縮を目的とするものと認める。もっとも、「回転リールユニット」が用いられる対象が「スロットマシン」であるのか「弾球遊技機」であるのかによって、「回転リールユニット」がどのように特定されるのかについては幾分疑義があるものの、スロットマシン用回転リールユニットと弾球遊技機用の回転リールユニットでは、サイズの相違等があると考えられるから、漠然とではあるが「スロットマシンの」と限定することには意味があるものと認める。 しかし、そのスロットマシンが「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し、ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止するスロットマシン」であるのか、それ以外のスロットマシンであるのかによって、回転リールユニットを特定することはできない。もちろん、特定図柄の一部分が半透明に形成されていることから、ストップスイッチの操作時期を遊技者が適切に判断することが可能となり、「ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止するスロットマシン」に適していることは認められるものの、それは、「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し、ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止するスロットマシンの回転リールユニット」以外の構成によって特定できるものであって、この構成によって回転リールユニットを特定することは困難である。 しかも、特定図柄の一部分が半透明に形成されていても、「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し、ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止するスロットマシン」以外のスロットマシンに使用できない理由はないから、「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し、ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止するスロットマシンの回転リールユニット」と訂正することにより、訂正後の請求項2の発明はかえって不明確となった。この点さらに補足すると、「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し、ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止するスロットマシンの」との修飾語が「回転リールユニット」を限定するものだとすると、訂正後の請求項2から「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し、ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止する」との文言を除いた「スロットマシンの回転リールユニット」であって、訂正発明の技術的範囲の属するものと属しないものがなければならない。しかし、そのような回転リールユニットは、すべからく「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し、ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止するスロットマシン」に使用できるばかりか、「特定図柄の半透明に形成された部分」を有する関係上、そのようなスロットマシンに使用することが適切であるから、どのような回転リールユニットが後者に該当するのか理解しがたい。そして、訂正後の請求項2から「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し、ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止する」との文言を除いた「スロットマシンの回転リールユニット」のうちのどのような回転リールユニットが後者に該当するのか理解しがたいことは、上記修飾語が存在するがために発明が不明確になることを意味する。 形式的には、上記修飾語は回転リールユニットが用いられる対象であるスロットマシンを限定するものであるから、上記修飾語は用途を限定するものである。そして、発明の用途を限定することにより、発明自体が間接的に限定されることがあり得ることは認めるが、本件においては用途を限定することが回転リールユニットの限定には結びつかないのである。また、「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し、ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止するスロットマシンの回転リールユニット」は、本件出願当時例をあげるまでもなく周知であるから、訂正発明が「回転リールユニット」の用途を新たに開発した用途発明であると認めることもできない。 特許法は訂正審判における訂正目的として「特許請求の範囲の減縮」(126条1項1号)をあげているが、これは形式的に特許請求の範囲の減縮に該当すればよいというのではなく、減縮後の特許請求の範囲が明確であり、特許発明の技術的範囲がどのように減縮されるかも明確であることが前提である。 本件訂正はこの前提を欠くから、特許法126条1項ただし書きの規定に適合しない。 3.新規事項追加 「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は、種類ごとに異なる色に着色されると共に、遮光性が付された」について検討する。 訂正前の明細書には「各シンボルは上記実施形態と同様にリール帯31を形成する透明フィルム材の裏面に光透過性有色インキが印刷されて描かれているが、各半透明部分32aおよび33aにはこの有色インキが印刷されていない。その後の光透過性白色インキによる背景印刷は全面に対して行われ、最後の遮光性銀色インキによるマスク処理は各半透明部分32aおよび33aを除く領域に対して行われている。」(段落【0024】)と記載されており、「最後の遮光性銀色インキによるマスク処理」が訂正後の「遮光性が付された」に該当することは認められるものの、遮光性が付されるのは半透明部分を除く全体であって、当然図柄部分以外にも遮光性が付されている。 ところが、訂正後の上記記載においては、「種類ごとに異なる色に着色される」部分と「遮光性が付された」部分は「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分」として同一部分であるように記載されているから、図柄以外の部分には遮光性が付されないものを含むが、そのようなことは訂正前の明細書からは一切窺い知ることができない。 したがって、「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分」を着色し、遮光性を付すことなど訂正前明細書に記載されていないし、自明の事項でもない。 この点請求人は、半透明部分がリール帯の右方又は左方に配されていること、及び半透明部分の識別性から、「訂正後の特許請求の範囲の記載は、特定図柄以外の部分についても遮光性を付していることが自明」(意見書8頁2?3行)と主張するが、特定図柄以外の部分にも遮光性を付すのなら、そのように明確に記載しなければならないだけでなく、「右方又は左方」を背景に近い箇所に限定解釈しなければならない理由はない。したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。 そればかりか、「種類ごとに異なる色に着色」も訂正前明細書には記載されていない。請求人は、この訂正の根拠を訂正前の段落【0025】及び段落【0018】の記載に求めている。段落【0025】の記載が、訂正前の請求項1,2に係る発明の実施例の説明であることは認めるが、そこには「種類ごとに異なる色に着色」に該当する記載はない。訂正前の明細書においては、段落【0016】?【0022】に、【図1】(a)に示される回転リールユニットの説明記載があるが、これは訂正前の請求項1,2に係る発明の実施例ではない。そうすると、段落【0018】に「リール帯21上の各セブン22の図柄部分はそれぞれ光透過性赤色インキで着色され、各ウルフ23の図柄部分はそれぞれ光透過性青色インキで着色されている。」との記載があることは事実であるものの、訂正前の請求項1,2に係る発明とは無関係であるから、この記載があるからといって、訂正前の請求項1,2に係る発明において「種類ごとに異なる色に着色」が記載されていたわけではない。しかも、「遊技者はこの発光色の相違から特定シンボルの種類を識別することが出来」(段落【0022】)及び「遊技者はこの発光位置の相違から特定シンボルの種類を識別することが出来」(段落【0031】)との記載によれば、特定シンボルの種類を識別する手段として、2つの異なる手段が異なる実施形態(一方の実施形態は発明の実施例ではない。)として記載されているのであって、それらを併用することが記載されていたのではない。さらに、段落【0022】の上記記載及び「リール帯21上の各セブン22の図柄部分はそれぞれ光透過性赤色インキで着色され、各ウルフ23の図柄部分はそれぞれ光透過性青色インキで着色されている。リール帯21はこの光透過性有色インキによる各シンボルの印刷後、光透過性白色インキで背景が印刷される。最後に、セブン22およびウルフ23の図柄領域を除き、遮光性銀色インキが印刷されてマスク処理が施されている。」(段落【0018】)によれば、特定図柄に相当するセブンおよびウルフの図柄領域だけが、光源の光を透過可能であり、他の領域は遮光されるのだから、リール背後の光源からの光を透過可能な領域を異なる色に着色することに技術的意義があるのであって、透過不可能な領域を異なる色に着色することが記載されていないことは理の当然である。そうである以上、2つの実施形態を併用するとしても、リール背後の光源からの光を透過可能な領域であるところの異なる種類の特定図柄の半透明部分を異なる色で着色することが導かれるだけであって「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は、種類ごとに異なる色に着色」は導かれない。 請求人は、段落【0025】の「各シンボルは上記実施形態と同様にリール帯31を形成する透明フィルム材の裏面に光透過性有色インキが印刷されて描かれている」との記載を根拠に、「有色インクがどのようなものであるかは「上記実施形態」と同様である。」(意見書8頁19?20行)と主張するが、上記記載は「リール帯31を形成する透明フィルム材の裏面に光透過性有色インキが印刷されて描かれている」点が、段落【0025】の実施形態と「上記実施形態」(段落【0018】の実施形態)で共通することをいうにとどまり、インク色までも「同様」としていると認めることはできない。 請求人はさらに、「訂正前明細書に明示的に記載された事項でないとしても、「特定図柄」の遮光部分を「種類ごとに異なる色に着色」することは、当業者であれば自明です。」(意見書9頁7?9行)とも主張するが、後記進歩性の判断で述べるとおり、異なる図柄を異なる色に着色することが周知であることは事実として認めることができるものの、図柄自体の属性として異なる色であるべき場合に異なる色に着色することが周知であるにとどまり、図柄自体の属性とは関係なく、「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は、種類ごとに異なる色に着色される」ことまでが自明であると認めることはできない。 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法126条3項の規定に適合しない。 4.独立特許要件欠如 (1)引用刊行物記載の発明の認定 本件出願前に頒布された特開平7-100241号公報(添付の参考資料1であり、以下「引用例1」という。)には、以下のア?クの記載が図示とともにある。 ア.「複数の回転リールを横方向に並列し、各回転ドラムの外周の表面に複数のシンボルマークを所定間隔で表示し、各回転ドラムを回転させてシンボルマークを移動表示するスロットマシンにおいて、 上記複数の回転リールのうち、少なくとも1個の回転リールには、その複数のシンボルマークのうち少なくとも1個のシンボルマークの位置に形成され、当該回転リールの内外に光を通過可能な少なくとも1個の透光窓と、この透光窓を照明するとともに、当該回転リールの内部に配置された発光源とを備えたことを特徴とするスロットマシン。」(【請求項1】) イ.「本発明は、スロットマシンに関し、特に初心者でも特定のシンボルマークを狙い易くしたものである。」(段落【0001】) ウ.「従来、この種のスロットマシンとしては、複数の回転リールを横方向に並列し、各回転ドラムの外周の表面に複数のシンボルマークを所定間隔で表示し、各回転ドラムを回転させてシンボルマークを移動表示していた。そして、遊技者は、各回転ドラムの回転タイミングに合わせて、各回転リールの回転を停止させるためのストップスイッチを操作し、各回転リールが停止した際に回転リールの外周の表面に表示されたシンボルマークの組み合わせが、予め定めた特定の組み合わせとなった場合に、賞としてのメダルを払い出す等していた。」(段落【0002】) エ.「上記スロットマシン10の表面には、図2に示すように、向かって右側の表示窓42の右斜め下方に、メダルを投入するメダル投入口21を設けている。また、向かって左側の表示窓30の左斜め下方には、各表示窓30?32に表示されたシンボルマークの移動表示を開始させるためのレバー状のスタートスイッチ22と、各表示窓30?32の下方に位置するとともに、各表示窓に移動表示されているシンボルマークの移動表示を個別に停止させるためのボタン状の3個のストップスイッチ23?25とを設けている。」(段落【0011】) オ.「3個の回転リール40?42は、図3に示すように、スロットマシン10の内部に収容されたリールユニット50に組み込まれている。上記リールユニット50は、図3に示すように、中空な筐体51と、この筐体51の内部を縦割りに3つに仕切る3枚の支持板52と、これらの支持板52に個々に固定され、各回転リール40?42をそれぞれ回転する3個のリールモータ53とを備える。」(段落【0012】) カ.「各回転リール40?42は、図3に示すように、上記各リールモータ53により回転される回転ドラム60と、この回転ドラム60の外周に貼着される帯状のリールテープ70とから構成されている。上記リールテープ70の表面は、図3,4に示すように、複数のシンボルマークが所定間隔で表示されている。そして、リールテープ70には、その複数のシンボルマークのうち少なくとも1個のシンボルマークの位置に、表裏面に光を通過可能な少なくとも1個の透光窓71が形成されている。」(段落【0013】) キ.「透光窓71を貫通孔より構成したが、貫通孔に限らず、透光性を有していれば足り、例えば透光窓71の位置だけ透明乃至は半透明として、他の箇所を黒等に着色してマスクしてもよい。一方、前記回転ドラム60の内部には、図1に示すように、リールテープ70の透光窓71を照明する発光源としてのランプ80を配置している。」(段落【0015】) ク.「ビッグボーナスは、例えば「7」のシンボルマークが有効ライン上に3個揃うことにより達成される。」(段落【0018】) 記載キの「黒等に着色してマスク」した部分は、「透明乃至は半透明」部分の背景となる部分であり、「透明乃至は半透明」は「半透明」であることを含む。 したがって、引用例1には、リールユニットとして次のようなものが記載されていると認めることができる。 「3個の回転リールを横方向に並列し、各回転リールをそれぞれ回転する3個のリールモータを備えたスロットマシンのリールユニットであって、 各回転リールは回転ドラムとその外周に貼着される帯状のリールテープから構成され、リールテープの表面は、複数のシンボルマークが所定間隔で表示されており、 少なくとも1個の回転リールには、その複数のシンボルマークのうち少なくとも1個のシンボルマークの位置に関して、黒等に着色してマスクした背景中に半透明部分を配し、回転ドラムの内部には、リールテープの前記半透明部分を照明する発光源としてのランプを配置したリールユニット。」(以下「引用発明1」という。) (2)訂正発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定 引用発明1の「回転ドラム」、「帯状のリールテープ」及び「シンボルマーク」は、訂正発明の「リールドラム」「リール帯」及び「図柄」にそれぞれ相当し、引用発明1の回転リールは横方向に並列しているから、「上下方向に回転可能な円筒状をした円筒状をしたリールドラムと、このリールドラムの外周に左右方向を幅方向として設けられる、種々の図柄が描かれたリール帯と、これら図柄を背後から照らす光源」を備えることは訂正発明と引用発明1の一致点である。 回転リールユニットが適用されるスロットマシンが「スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し、ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止する」であることは、回転リールユニットを特定するものではないが、仮に特定できるとしても、引用例1にはスタートスイッチやストップスイッチの存在が記載されている(記載エ参照)から、相違点にはならない。「スタートスイッチ」と「スタートレバー」の文言の相違が実質的な相違点を構成しないことはいうまでもない。 「図柄を背後から照らす光源」については、訂正発明が「遮光性が付された」ことを要件としていることから、実質的には「リール背後の光源」にすぎず、引用発明1の「リールテープの前記半透明部分を照明する発光源としてのランプ」と異ならない。 引用発明1の「少なくとも1個のシンボルマーク」及び「半透明部分」は、訂正発明の「特定図柄」及び「半透明に形成され」た「一部分」にそれぞれ相当し、それらが特定図柄の位置に関係して配されている点で、訂正発明と引用発明1は一致する。 したがって、訂正発明と引用発明1の一致点及び相違点は以下のとおりである。 〈一致点〉「上下方向に回転可能な円筒状をした円筒状をしたリールドラムと、このリールドラムの外周に左右方向を幅方向として設けられる、種々の図柄が描かれたリール帯と、これら図柄を背後から照らす光源とを備えて構成される、スタートレバーの操作により前記リールドラムの回転を開始し、ストップスイッチの操作により前記リールドラムの回転を停止するスロットマシンの回転リールユニットにおいて、特定図柄の位置に関係して、半透明に形成された一部分を配したスロットマシンの回転リールユニット。」 〈相違点1〉半透明に形成された部分と特定図柄の位置関係について、訂正発明では、特定図柄の一部分としているのに対し、引用発明1にはその特定がない点。 〈相違点2〉半透明に形成された部分と特定図柄種類の関係につき、訂正発明では「第1の種類及び第2の種類の2つの特定図柄」に関係して「前記リールドラムの回転方向に直交する方向において、前記特定図柄の種類ごとにリール帯の右方又は左方に配され」及び「種類ごとに異なる色に着色」と限定するのに対し、引用発明1ではそもそも「第1の種類及び第2の種類の2つの特定図柄」に関係しているとはいえない点。 〈相違点3〉訂正発明では、特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は遮光性が付されているのに対し、引用発明1では「黒等に着色してマスクした背景中に半透明部分を配し」ているものの、訂正発明が上記構成を有するとまではいえない点。 (3)相違点の判断 〈相違点1について〉 引用発明1では、黒等に着色してマスクした背景中に半透明部分を配している。背景を黒等に着色することの技術的意義が引用例1に明確に記載されているわけではないが、背景が白地であったのでは、リール回転中に半透明部分を認識することが困難、すなわち、半透明部分からの光の視認性が低下することは明らかであり、またそのことが明らかであるからこそ、引用例1に記載されていないと解すべきである。 本件出願前に頒布された実願昭60-175597号(実開昭62-84485号)のマイクロフィルム(添付の参考資料3であり、以下「引用例2」という。)には、「第5図(2)は、・・・ドラム1aの周面中央部に縦線状のマーク16を一連に付することによって、・・・タイミング付与手段(審決注;訂正発明及び引用発明1の「半透明に形成された一部分」もタイミング付与手段の1つであると認める。)を形成した」(7頁13?17行)との記載があり、第5図(2)からは縦線状のマーク16が、3つの絵柄(訂正発明の「図柄」に相当)部分と重複していることが読み取れる。 同じく本件出願前に頒布された特開平4-108468号公報(添付の参考資料2であり、以下「引用例3」という。)には、「絵柄を透した光透過部を形成すると共に、リールの内部に表示窓に対応しかつ前記光透過部に対向した発光面を有する光源を配設した」(【請求項1】)との記載がある。ここでいう光透過部は、特定の図柄を狙い易くするため、すなわちタイミング付与手段として設けられたものではないが、絵柄(訂正発明の「図柄」に相当)の一部分を光透過部とする点では訂正発明と一致する構成が記載されているといえ、引用例3の記載からみても、図柄の一部分を半透明に形成することの阻害要因がないことは明らかである。 他方、図柄(引用発明1のシンボルマーク)は、通常白地に対して着色されて形成されるものであるから、図柄には着色部分があると考えられる。そして、引用例2の上記記載・図示からは、タイミング付与手段と図柄が重複することを容認することが読み取ることができ、さらに引用例3には図柄の一部分を光透過性にする構成が記載されており、図柄の着色部分自体の一部を半透明とすれば、半透明部分の視認性が向上することは明らかである。 そうである以上、引用発明1を出発点として、白地に対して着色処理によりシンボルマークを形成するとの通常の処理を維持し、半透明部分の視認性を確保するために着色部である図柄それ自体の一部分を半透明部分とすること、すなわち相違点1に係る訂正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。 〈相違点2について〉 本件出願前に頒布された「必勝パチスロファン」平成7年10月号(添付の参考資料4はその一部であり、以下「引用例4」という。)には、 「コンドルの目押しは羽根を見ながら押せ クランキーコンドルは目押しをする機会が多い。ボーナス絵柄をそろえる時はもちろんのこと、ビッグ中の小役ゲームにも目押しは必要だ。 その中にあって、一番目押しする回数が多いのはコンドルである。レギュラーの時には、必ずこの絵柄の目押しをするからである。 コンドルの目押しのポイントは羽根の部分を見ながら狙うとよい。コンドルは黒い絵柄だし、右側にはみ出た羽根の形は他のものにはない。目立つはずだ。 ちなみに、赤7は切れ目押し。青7は直視だと見やすい。」(7頁左下欄)との記載があり、同記載がスロットマシン遊技についての記載であることは明らかである。 上記記載によれば、遊技者が目押し対象とする絵柄(訂正発明の「図柄」に相当)が複数種類あることは明らかである。引用例4によらずとも、引用例1記載の「ビッグボーナス」相当図柄(引用例4記載の「赤7」及び「青7」もその例と解される。)が複数種類存するスロットマシンは周知であり、その場合には当然複数の図柄が目押し対象となる。 そうであれば、引用発明1を出発点として、半透明部分の配置対象となるシンボルマーク(図柄)を複数種類とすること、その中でも2種類とすることは当業者にとって想到容易である。 もっとも、そのようにした場合でも、2種類の図柄を区別せず、同一性状の半透明部分を配し、どの図柄が目押し対象となるかを遊技者の視認力又は偶然に任せることも一案であるが、遊技者の便宜を図り、2種類の図柄の半透明部分を区別可能とすることも一案であり、どちらを採用するかは設計事項である。そして、後者を採用する場合、さまざまな区別手法が想定できる。区別手法として、あるものを類似の他のものと区別又は識別するために、位置の相違を用いることは、例えば、特開平7-141472号公報に「連続する文字列情報があるかという情報に基ずいてカーソル、マ-クの形状を変化させた一例である。このようにすれば、前もって使用者が分かるので使い勝手は向上する。また、形を変化させる方法だけでなく、色、表示位置により区別してもよく」(段落【0033】)と、特開平5-81290号公報に「A領域およびB領域については、点灯位置により区別がつく」(段落【0023】)と、特開昭64-26925号公報に「障害表示手段7と画面表示手段8は、ディスプレイ端末装置上での表示領域として予め設定した位置により区別しておく」(2頁左下欄6?9行)と、特開平8-178198号公報に「カメラ等のセンサの監視視野内に複数の異常発生箇所が生じる可能性がある場合には、例えばカメラの視野内の位置により識別したり」(段落【0006】)と、特開平4-43358号公報に「各チップ毎の異なる位置に同形のパターン5を形成し、その形成位置により識別する方法等が用いられている。」(2頁左上欄14?17行)と、特開昭62-68034号公報に「モータのコイルの抵抗値のちがいをリード線の取り出し口の位置により識別することができ」(2頁左下欄1?3行)と、及び特公平7-56726号公報に「第3図に示すディスクと異なる点は判別マーク14にある。・・・ディスクの種類はこのマークの個数或いは位置により識別できるようになっている。」(4欄6?11行)とそれぞれ記載されているように周知である。 そうであれば、引用発明1を出発点として、2種類の図柄を区別するために、2種類の図柄における半透明部分の位置を互いに異ならせることは図柄区別に当たっての設計事項というべきである。さらに、高速回転中に異なる半透明部分を位置において区別しようとすれば、「リールドラムの回転方向に直交する方向」において異なる位置に配することは当然採用すべき事項にすぎず(リールドラムの回転方向の位置を異ならせても、高速回転であるがゆえに区別困難となる。)、異なる位置が離れているほど区別しやすいことは自明であるから、「前記特定図柄の種類ごとにリール帯の右方又は左方に配され」とすることも設計事項というべきである。 請求人は、「特開平7-141472号公報、特開平5-81290号公報、特開昭64-26925号公報、特開平8-178198号公報、特開平4-43358号公報及び特開昭62-68034号公報に記載の技術は「類似する複数のものから1つのものを区別又は識別する」技術です。これに対し、相違点2に係る構成は、回転中の複数の図柄の中の2つについて、いずれか1つの特定図柄を区別又は識別するためのものです。」(意見書14頁27行?15頁5行)と主張するが、「回転中の複数の図柄の中の2つ」は特定図柄であり「類似する複数のもの」に該当するから、「類似する複数のものから1つのものを区別又は識別する」技術である点は、上記各文献記載の技術と共通している。 請求人はさらに、「特公平7-56726号公報に記載された技術はそもそも、人の視覚による識別性を向上する技術ではなく、発光ダイオードと光検出器によって反射率の差を検出する精度を向上する技術であり、その技術分野においても発明の目的においても、訂正発明とは全く関係がありません。」(意見書15頁6?9行)とも主張するが、「人の視覚による識別性を向上する技術」であることに共通性がないとしても、「類似する複数のものから1つのものを区別又は識別する」技術である点では共通し、人の視覚による場合にも、位置の相違を区別又は識別に利用できることは明らかである。 そればかりか、引用例4の「コンドルの目押しのポイントは羽根の部分を見ながら狙うとよい。コンドルは黒い絵柄だし、右側にはみ出た羽根の形は他のものにはない。」との記載からは、特定図柄(引用例4記載の例では「コンドル」)を他の図柄と区別するために、左右方向における同特定図柄特有の位置を利用することが読み取れるから、引用発明1を出発点として2種類の図柄を区別するに当たって、2種類の図柄それぞれにおいて、左右方向における各図柄特有の位置を持たせる(当然、右方又は左方とすることが有利である。)ことは当業者が難なく採用できる構成というべきである。そして、引用発明1を出発点として、半透明部分の配置対象となるシンボルマーク(図柄)を2種類とする場合には、各図柄特有の位置となるべきものが、各図柄における半透明部分であることは当然であるから、この点からみても、「第1の種類及び第2の種類の2つの特定図柄は、その一部分をそれぞれ半透明に形成され、その半透明に形成した部分を、前記リールドラムの回転方向に直交する方向において、前記特定図柄の種類ごとにリール帯の右方又は左方に配され」との構成に至ることに困難性はない。 また、「赤7」,「青7」に例示されるように、図柄はカラー表示することが多く、異なる図柄を異なる色に着色することは、半透明部分を区別するかどうかに関係なく広く採用されている技術であるから、「種類ごとに異なる色に着色」することも設計事項というべきである。 以上のとおりであるから、相違点2に係る訂正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。 〈相違点3について〉 本件出願前に頒布された特開平6-327808号公報(以下「引用例5」という。)には、「本発明は、回転体(リールテープ)を備える遊戯装置(スロットマシン、パチスロ及び同装置を内蔵するパチンコ遊技機など)に用いられる回転体をユニット化した回転体構造に関する。」(段落【0001】)、「リールテープRとしては、透過性印刷処理を施した半透明リールテープを用いることができる。半透明リールテープは、透明テープ材の裏面に光透過性有色インキでシンボルを印刷し、その後、光透過性白色インキで背景を印刷し、最後に、特殊シンボル領域を除き、光遮光性銀色打ち印刷(マスク処理)を行うことにより、より安価に形成できる。」(段落【0019】)及び「特殊シンボルLがウインドウWに出現した時、遊戯者は特殊シンボルLを通じてリール5、6、7の内側に配置された発光源40の光を見ることができる。」(段落【0020】)との各記載があり、「回転体をユニット化した回転体構造」とは「回転リールユニット」にほかならず、リールの内側に発光源を配するとともに、リールの一部分を除く部分に遮光性を付すことが記載されている。 引用例5における「リールの一部分」は「特殊シンボル領域」であって、引用発明1の「半透明部分」とは異なるけれども、引用発明1においても「半透明部分」からの光の透過を強調して遊技者が認識しやすくすることは当然考慮すべきであり、「半透明部分」以外からの光の透過を阻止するために、引用例5記載の「光遮光性銀色打ち印刷(マスク処理)」を採用することには困難性がない。そして、「半透明部分」以外全部に遮光性を付せば、「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分」に遮光性を付すことになる。 すなわち、相違点3に係る訂正発明の構成を採用することも当業者にとって想到容易である。 (4)訂正発明の独立特許要件の判断 相違点1?3に係る訂正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできないから、訂正発明は引用発明1、引用例2?5記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 すなわち、本件訂正は特許法126条5項の規定に適合しない。 第3 むすび 以上のとおり、本件訂正は特許法126条1項ただし書き、同条3項及び同条5項の規定にに適合しないから、本件訂正を認めることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-05-12 |
結審通知日 | 2008-05-15 |
審決日 | 2008-05-27 |
出願番号 | 特願平9-116101 |
審決分類 |
P
1
41・
121-
Z
(A63F)
P 1 41・ 851- Z (A63F) P 1 41・ 841- Z (A63F) P 1 41・ 856- Z (A63F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 池谷 香次郎 |
特許庁審判長 |
津田 俊明 |
特許庁審判官 |
河本 明彦 太田 恒明 伊藤 陽 川島 陵司 |
登録日 | 2004-03-26 |
登録番号 | 特許第3537630号(P3537630) |
発明の名称 | 遊技機の回転リールユニット |
代理人 | 松永 暁太 |
代理人 | 佐藤 玲太郎 |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 進藤 利哉 |
代理人 | 中込 秀樹 |
代理人 | 長沢 幸男 |
代理人 | 今井 博紀 |
代理人 | 岩渕 正樹 |
代理人 | 田中 康久 |
代理人 | 小椋 崇吉 |
代理人 | 小野寺 隆 |
代理人 | 佐藤 武史 |
代理人 | 八木澤 史彦 |
代理人 | 長沢 美智子 |
代理人 | 清水 俊介 |
代理人 | 岩渕 正紀 |
代理人 | 井口 嘉和 |