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審決分類 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
管理番号 1191386
審判番号 不服2007-6410  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-01 
確定日 2008-11-27 
事件の表示 特願2002-302226「プロピレン系共重合体からなるフィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年4月23日出願公開、特開2003-119224〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成6年10月6日(優先権主張 平成5年10月6日 日本国)に出願した特願平6-243182号の一部を、平成14年10月16日に新たな特許出願としたものであって、平成18年3月7日付けで拒絶理由が通知され、同年4月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年1月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年3月1日に審判請求がなされ、同年4月2日に手続補正書が提出され、同年5月15日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年5月16日に審判請求書の手続補正書(方式)の手続補足書が提出され、同年10月2日付けで前置報告がなされ、当審において、同年11月5日付けで審尋がなされ、平成20年1月7日に回答書が提出され、同年2月6日付けで拒絶理由が通知され、同年4月14日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.当審で通知した拒絶理由の概要
当審で通知した平成20年2月6日付け拒絶理由通知書に記載した理由3の概要は、以下のとおりのものである。
「3)本願は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第5項第1号及び第6項(審決注:拒絶理由通知書の記載は「及び第6項」が脱落した明らかな誤記である。)に規定する要件を満たしていない。



本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)のうち、発明の詳細な説明の実施例において具体的に開示されその効果が示されているのはトリアドタクティシティーが96.9%と97.3%のもののみである。そして発明の詳細な説明にはトリアドタクティシティーをこれ以上大きくするためにいかなる反応条件を選択すれば良いのかについて何ら記載されておらず、また、当該事項は出願時において自明の事項であったとはいえない。
請求人が提出した手続補足書の実験成績報告書(2)の重合実験1には、重合温度0℃で行った結果、トリアドタクティシティーが98.2%の重合体が得られることが記載されている。
しかしながら、本願明細書の記載、特に段落【0008】?【0018】及び実施例1,2の記載から重合温度を下げれば高いトリアドタクティシティーのものが得られることについて記載も示唆もなく、また、当該事項が出願時に自明であったともいえない(公知であったのと自明であったのは違うことに留意されたい。)のであるから、トリアドタクティシティーが97.3%より大きい重合体について、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されていないものを含むものである。
請求人は、トリアドタクティシティーは重合温度により調節できると主張するかもしれないが、たとえ当該事項が本願出願時に自明であったとしても、本願実施例1と請求人が提出した手続補足書の実験成績報告書(2)の重合実験1との比較から重合温度が下がると2,1-挿入の割合が下がるのであるから、高いトリアドタクティシティーと同時に2,1-挿入の割合も満足させるような重合条件を見出すことは、当業者が容易になし得ることとはいえない(重合実験1ではトリアドタクティシティーが98.2%となっているが、2,1-挿入の割合が0.6と下限値に近くなっており、これ以上(例えば99%)トリアドタクティシティーを上げるために重合温度を低くすると2,1-挿入の割合は下限値の0.5を下回る蓋然性が高い。)。
したがって、発明の詳細な説明には、トリアドタクティシティーの値が非常に高い値、例えば99%を超える値を有し、他の条件も全て満足する重合体について、当業者が実施をすることができる程度に具体的な手段について記載されていないのであるから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されていないものを含むものである。」

第3.当審の判断
1.本願発明の認定
本願発明は、平成20年4月14日提出の手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(a)プロピレン単位を95?99.5モル%、エチレン単位を0.5?5モル%含んでなり、
(b)頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の、^(13)C-NMRスペクトルから下記式により求められるトリアドタクティシティーが96.9%以上であり、
【数1】

(c)^(13)C-NMRで測定した、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5?1.5%(但し、0.5%の場合を除く。)、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05%以下であり、
(d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度が0.1?12dl/gの範囲にあるプロピレン系共重合体からなることを特徴とするフィルム。」

2.本願明細書の発明の詳細な説明の記載事項
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
「本発明のプロピレン系共重合体は、たとえば、
(A)後述するような遷移金属化合物と、
(B)
(B-1)有機アルミニウムオキシ化合物、および
(B-2)前記遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、
所望により
(C)有機アルミニウム化合物
からなるオレフィン重合用触媒の存在下にエチレンとプロピレンとを共重合することにより得ることができる。
以下、本発明のプロピレン系共重合体の製造に用いられるオレフィン重合用触媒について説明する。
本発明で用いられるオレフィン重合触媒を形成する遷移金属化合物(A)(以下「成分(A)」と記載することがある。)は、下記一般式(I)で表される遷移金属化合物である。」(段落【0022】?【0023】)
「本発明で用いられるオレフィン重合用触媒を形成する(B-1)有機アルミニウムオキシ化合物(以下「成分(B-1)」と記載することがある。)は、従来公知のアルミノキサンであってもよく、また特開平2-78687号公報に例示されているようなベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物であってもよい。」(段落【0034】)
「本発明で用いられるオレフィン重合用触媒を形成する(B-2)前記遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物(以下「成分(B-2)」と記載することがある。)としては、特表平1-501950号公報、特表平1-502036号公報、特開平3-179005号公報、特開平3-179006号公報、特開平3-207703号公報、特開平3-207704号公報、US-547718号公報などに記載されたルイス酸、イオン性化合物およびカルボラン化合物を挙げることができる。」(段落【0039】)
「本発明で用いられるオレフィン重合用触媒を形成する(C)有機アルミニウム化合物(以下「成分(C)」と記載することがある。)としては、例えば下記一般式(III)で表される有機アルミニウム化合物を例示することができる。」(段落【0042】)
「本発明で用いられるオレフィン重合用触媒は、無機あるいは有機の、顆粒状ないしは微粒子状の固体である微粒子状担体に、上記成分(A)、成分(B)および成分(C)のうち少なくとも一種の成分が担持された固体状オレフィン重合用触媒であってもよい。」(段落【0050】)
「また、本発明で用いられるオレフィン重合触媒は、上記の微粒子状担体、成分(A)、成分(B)、予備重合により生成するオレフィン重合体および、所望により成分(C)から形成されるオレフィン重合触媒であってもよい。」(段落【0056】)
「なお、本発明に係るオレフィン重合用触媒は、上記のような各成分以外にもオレフィン重合に有用な他の成分、たとえば、触媒成分としての水なども含むことができる。」(段落【0057】)
「プロピレンとエチレンとの共重合温度は、懸濁重合法を実施する際には、通常-50?100℃、好ましくは0?90℃の範囲であることが望ましく、溶液重合法を実施する際には、通常0?250℃、好ましくは20?200℃の範囲であることが望ましい。また、気相重合法を実施する際には、共重合温度は通常0?120℃、好ましくは20?100℃の範囲であることが望ましい。共重合圧力は、通常、常圧?100kg/cm^(2)、好ましくは常圧?50kg/cm^(2)の条件下であり、共重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。さらに共重合を反応条件の異なる2段以上に分けて行うことも可能である。」(段落【0058】)
「【実施例1】
充分に窒素置換した2リットルのオートクレーブに、ヘキサンを750ml仕込み、プロピレン/エチレン混合ガス(エチレン:2.9モル%)雰囲気下におき、25℃で20分間攪拌した。反応系にトリイソブチルアルミニウム0.25ミリモル、メチルアルミノキサン0.5ミリモル、rac-ジフェニルシリルビス{1-(2,7-ジメチル-4-イソプロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリドをZr原子に換算して0.0015ミリモル加え、50℃に昇温し全圧を2kg/cm^(2)-Gに保ちながら1時間重合を行った。重合後、脱気して大量のメタノール中でポリマーを回収し、80℃で10時間減圧乾燥した。
得られたポリマーは26.9gであり、重合活性は17.9kgポリマー/ミリモルZr、極限粘度[η]=2.2dl/g、エチレン含量=3.0モル%、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のトリアドタクティシティー=97.3%、プロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.9%、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.04%であった。また、得られたポリマーから成形されたフィルムのヒートシール開始温度は118℃であり、熱処理後のヒートシール開始温度は120℃であった。
【実施例2】
充分に窒素置換した2リットルのオートクレーブに、ヘキサンを900ml仕込み、トリイソブチルアルミニウムを1ミリモル加え、70℃に昇温した後、エチレンをフィードして1.5kg/cm^(2)に加圧し、プロピレンをフィードして全圧を8kg/cm^(2)-Gにし、メチルアルミノキサン0.3ミリモル、rac-ジメチルシリルビス{1-(2,7-ジメチル-4-イソプロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリドをZr原子に換算して0.001ミリモル加え、プロピレンを連続的にフィードして全圧を8kg/cm^(2)-Gに保ちながら20分間重合を行った。重合後、脱気して大量のメタノール中でポリマーを回収し、110℃で10時間減圧乾燥した。
得られたポリマーは21.2gであり、重合活性は21kgポリマー/ミリモルZr、極限粘度[η]=1.5dl/g、エチレン含量=4.7モル%、頭-尾結合からなるプロピレン連鎖部のトリアドタクティシティー=96.9%、プロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合は1.1%、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.04%以下であった。また、得られたポリマーから成形されたフィルムのヒートシール開始温度は107℃であり、熱処理後のヒートシール開始温度は111℃であった。」(段落【0065】?【0068】)

3.判断
本願発明は、プロピレン系共重合体からなるフィルムに関するものであり、前記プロピレン系共重合体が、
「(b)頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の、^(13)C-NMRスペクトルから下記式(式は省略)により求められるトリアドタクティシティー(以下、単に「トリアドタクティシティー」という。)が96.9%以上であり、
(c)^(13)C-NMRで測定した、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合(以下、「2,1-挿入の割合」という。)が0.5?1.5%(但し、0.5%の場合を除く。)、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合(以下、「1,3-挿入の割合」という。)が0.05%以下であ」ることを、発明の構成に欠くことができない事項として有するものである。
しかるに、本願明細書の発明の詳細な説明においては、上記トリアドタクティシティー、2,1-挿入の割合及び1,3-挿入の割合が本願発明の規定を満たすプロピレン系共重合体としては、実施例1において、トリアドタクティシティーが97.3%であり、2,1-挿入の割合が0.9%であり、1,3-挿入の割合が0.04%であるものの製造実験例が示され、実施例2において、トリアドタクティシティーが96.9%であり、2,1-挿入の割合が1.1%であり、1,3-挿入の割合が0.04%以下であるものの製造実験例が示されているが、これら以外にはトリアドタクティシティー、2,1-挿入の割合及び1,3-挿入の割合のいずれもが本願発明の規定を満たすプロピレン系共重合体の具体的な製造実験例は示されていない。
そして、一般に、プロピレン系共重合体における立体規則性及び位置規則性は、少なくとも、触媒の種類、重合温度、重合圧力といった重合条件により大きく影響を受けることが技術常識であるから、立体規則性の指標であるトリアドタクティシティー並びに位置規則性の指標である2,1-挿入の割合及び1,3-挿入の割合が特定されたプロピレン系共重合体の製造に際しては、これらの重合条件が十分に特定される必要があるといえる。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明におけるこれらの重合条件に関する記載について以下に検討する。
触媒の種類については、段落【0022】?【0023】、【0034】、【0039】、【0042】、【0050】、【0056】、【0057】において、触媒の構成成分が多数列記されているものの、触媒の構成成分と、得られるプロピレン系共重合体のトリアドタクティシティー、2,1-挿入の割合及び1,3-挿入の割合との関係について、何ら記載されていない。
重合温度については、段落【0058】において、各種の重合方法における望ましい温度範囲が列記されているものの、重合温度と、得られるプロピレン系共重合体のトリアドタクティシティー、2,1-挿入の割合及び1,3-挿入の割合との関係について、何ら記載されていない。
重合圧力については、段落【0058】において、通常採用される圧力範囲及び好ましい圧力範囲が記載されているものの、重合圧力と、得られるプロピレン系共重合体のトリアドタクティシティー、2,1-挿入の割合及び1,3-挿入の割合との関係について、何ら記載されていない。
したがって、発明の詳細な説明における触媒の種類、重合温度、重合圧力に関する記載からでは、これらの重合条件をどのように変化させることにより、プロピレン系共重合体のトリアドタクティシティー、2,1-挿入の割合、1,3-挿入の割合がどのように変化するのかが明らかでないから、これらの指標をどのようにして制御し、例えば、トリアドタクティシティーが99%を超え、2,1-挿入の割合、1,3-挿入の割合のいずれもが本願発明の規定を満たすプロピレン系共重合体を製造することができるのかが明らかでない。
してみると、発明の詳細な説明の記載からでは、実施例1及び2で製造されたプロピレン系共重合体以外のトリアドタクティシティー、2,1-挿入の割合及び1,3-挿入の割合のいずれもが本願発明の規定を満たすプロピレン系共重合体を製造するための具体的な重合条件が明らかでない。
そして、当該プロピレン系共重合体が、実質的に発明の詳細な説明に記載したものであるというためには、少なくともその製造のための具体的な重合条件が発明の詳細な説明に記載されていることが必要であるから、当該プロピレン系共重合体は、実質的に発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
したがって、トリアドタクティシティー、2,1-挿入の割合及び1,3-挿入の割合のいずれもが本願発明の規定を満たすプロピレン系共重合体は、その全般にわたり、実質的に発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、当該プロピレン系共重合体を、発明の構成に欠くことができない事項として有する本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

4.請求人の主張についての検討
請求人は、平成20年4月14日提出の意見書の「(4-2)」において、概略以下のとおり主張している。
(主張1)
審判請求書に添付した実験成績報告書(2)の重合実験1と本願明細書の実施例1との対比、および重合実験2と本願明細書の実施例2との対比から、重合温度を下げることによりトリアドタクティシティーの値が顕著に増加することが分かる。また、実験成績報告書(2)の重合実験1ではトリアドタクティシティーが98.2%のものが得られていることから、重合温度をさらに下げることにより99%を超えるトリアドタクティシティーを達成できることは明白である。
(主張2)
本願明細書には、50℃で重合した本願実施例1の重合体のトリアドタクティシティーが97.3%であるのに対して、重合温度が70℃である本願実施例2の重合体のトリアドタクティシティーが96.9%と記載されているのであるから、本願明細書には「重合温度を下げれば高いトリアドタクティシティーを有する重合体が得られる」ことについて記載、あるいは示唆がされているとみなされるべきである。
(主張3)
同一の遷移金属錯体を用いて実施された、本願明細書の実施例1、2及び実験成績報告書(2)の重合実験結果をプロットした相関図(図1)から、当業者はトリアドタクテイシテイーが99%近くで2,1-挿入の割合が0.5を下回る蓋然性が高いとは必ずしも判断しないであろうことが予想される。
(主張4)
請求人によって出願された欧州特許出願公開第0629632号明細書(公開日1994年12月21日)の実施例をまとめた表及び得られたプロピレン系共重合体のトリアドタクティシティーと、2,1-挿入の割合との関係をプロットした図から、トリアドタクティシティーと、2,1-挿入の割合とは、必ずしも明確な相関を示さないことが判る。また、触媒構造が微妙に異なる(例えば置換基)のみで、重合体のミクロ構造が大きく変化することも判る。
上記欧州特許出願公開第0629632号明細書の実施例で使用されている遷移金属錯体は、インデニル基の4-位の置換基がアリール基であるが、インデニル基の4-位の置換基がアルキル基である本願明細書の段落[0024]に記載された遷移金属化合物を用いた場合であっても、同様に得られるプロピレン系共重合体のトリアドタクティシティーと、2,1-挿入の割合とは、必ずしも明確な相関を示さないと考えられる。
(主張5)
したがって、本願明細書に記載した遷移金属化合物を用いて、低温で重合することにより99%を超えるような高いトリアドタクティシティーを有し、かつ2,1-挿入の割合が本願発明で特定する範囲にあるプロピレン系共重合体が、当業者に過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行うことなく得られる。

上記(主張1)?(主張5)について検討する。
上記「3.判断」で述べたとおり、本願明細書には、 重合温度と、得られるプロピレン系共重合体のトリアドタクティシティーとの関係について、何ら記載されていない。
また、(主張2)の根拠とされた本願明細書の実施例は、わずか2例にすぎず、しかも、これらの実施例は重合に用いられる触媒の種類が異なるものであるから、これらの実施例の記載のみから、「重合温度を下げれば高いトリアドタクティシティーを有する重合体が得られる」との傾向を見いだすことはできない。
してみると、(主張1)及び(主張3)の根拠とされた審判請求書に添付した実験成績報告書(2)の重合実験1及び2で示された、重合温度を0℃とすることにより、得られるプロピレン系共重合体のトリアドタクティシティーが、それぞれ、98.2%及び97.6%となることが、本願明細書の記載から自明なものとは認められないから、当該実験成績報告書(2)は、本願明細書の記載要件の適否の判断にあたり、参酌することができないものである。
また、(主張4)の根拠とされた欧州特許出願公開第0629632号明細書は、本願出願時において公知のものではなく、本願出願時における技術常識を示すものとも認められないから、当該欧州特許出願公開明細書も、本願明細書の記載要件の適否の判断にあたり、参酌することができないものである。
したがって、上記(主張1)?(主張4)及びこれらの主張を基礎とする(主張5)は、いずれも採用することができないものである。

また、仮に、審判請求書に添付した実験成績報告書(2)及び欧州特許出願公開第0629632号明細書を参酌したとしても、
(主張1について)
実験成績報告書(2)においては、トリアドタクティシティーが99%を超え、かつ、2,1-挿入の割合、1,3-挿入の割合のいずれもが本願発明の規定を満たすプロピレン系共重合体の製造実験例は示されておらず、
(主張2について)
本願明細書の実施例の記載のみから、「重合温度を下げれば高いトリアドタクティシティーを有する重合体が得られる」との傾向を見いだすことはできないことは、上述のとおりであり、
(主張3について)
プロピレン系共重合体のトリアドタクテイシテイーと2,1-挿入の割合との関係が、トリアドタクテイシテイーが99%を超える範囲において、相関図(図1)中の曲線の関係となる根拠が明らかではなく、
(主張4について)
当該主張は、むしろ、プロピレン系共重合体のトリアドタクティシティーと、2,1-挿入の割合とは、必ずしも明確な相関を示さないことを主張するものであるから、
(主張5について)
上記「3.判断」で述べた、発明の詳細な説明における触媒の種類、重合温度、重合圧力に関する記載からでは、これらの重合条件をどのように変化させることにより、プロピレン系共重合体のトリアドタクティシティー、2,1-挿入の割合、1,3-挿入の割合がどのように変化するのかが明らかでないから、これらの指標をどのようにして制御し、例えば、トリアドタクティシティーが99%を超え、2,1-挿入の割合、1,3-挿入の割合のいずれもが本願発明の規定を満たすプロピレン系共重合体を製造することができるのかが明らかでないとの判断が覆されるものではない。
したがって、上記実験成績報告書(2)及び欧州特許出願公開第0629632号明細書を参酌したとしても、(主張1)?(主張5)は、いずれも採用することができないものである。

5.まとめ
よって、本願は、平成6年法律第116号附則第6条第2項の規定によりなお従前の例によるとされた同法による改正前の特許法第36条第5項第1号及び第6項に規定する要件を満たしていない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、当審で通知した平成20年2月6日付け拒絶理由通知書に記載した拒絶理由は妥当なものであり、本願はこの拒絶理由によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-29 
結審通知日 2008-09-30 
審決日 2008-10-14 
出願番号 特願2002-302226(P2002-302226)
審決分類 P 1 8・ 534- WZ (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小出 直也  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 野村 康秀
山本 昌広
発明の名称 プロピレン系共重合体からなるフィルム  
代理人 鈴木 俊一郎  

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