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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 C08K
管理番号 1191657
審判番号 不服2006-18762  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-28 
確定日 2009-01-28 
事件の表示 特願2000-522161「マイクロカプセル化ゴム添加剤」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 6月 3日国際公開、WO99/27012、平成13年12月 4日国内公表、特表2001-524568〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成10年11月18日(パリ条約による優先権主張 平成9年11月25日、ドイツ国)を国際出願日とする出願であって、平成16年11月8日付けで拒絶理由が通知され、平成17年3月9日に意見書とともに手続補正書が提出され、さらに、平成18年1月27日付けで拒絶理由が通知され、平成18年4月27日に意見書が提出されたが、平成18年5月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成18年8月28日に拒絶査定不服審判が請求され、平成18年9月26日付けで手続補正がなされ、平成18年10月16日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、当審において平成20年2月4日付けで審尋がなされ、平成20年4月10日に回答書が提出されたものである。

第2.平成18年9月26日付けの手続補正についての補正却下の決定

1.補正却下の決定の結論
平成18年9月26日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)を却下する。

2.理由
本件手続補正は、特許請求の範囲の請求項1及び10に関しては、
「【請求項1】
マイクロカプセルの形態で被覆材(b)で被覆された少なくとも一つのゴム添加剤(a)を含有するゴム添加剤組成物において、
前記ゴム添加剤(a)は結晶性可溶性硫黄であり、及び
前記被覆材(b)が、120?140℃の温度までは、ゴム又はゴム混合物中で不溶であり、かつ、ワックス、パラフィン、ポリエチレン、エチレン-ビニルアセテートコポリマー、ポリビニルアルコール及びそれらの混合物からなる群から選択され、
前記マイクロカプセルが、1?75μmの大きさを持つ
ことを特徴とするゴム添加剤組成物。
【請求項10】
ゴム添加剤組成物の製造方法において、
液化した、溶解した、懸濁した又は乳化した形態にある少なくとも一のゴム添加剤及び被覆材を含有する混合物を固化せしめてマイクロカプセルを形成すること
但し、前記マイクロカプセルは、前記被覆材で被覆された前記少なくとも1つのゴム添加剤で構成され、かつ1?75μmの大きさを有し、
前記少なくとも1つのゴム添加剤は、結晶性可溶性硫黄であり、及び
前記被覆材は、120?140℃の温度までは、ゴム又はゴム混合物中で不溶であり、かつ、ワックス、パラフィン、ポリエチレン、エチレン-ビニルアセテートコポリマー、ポリビニルアルコール及びそれらの混合物からなる群から選択されること
を特徴とする製造方法。」

を、

「【請求項1】
マイクロカプセルの形態で被覆材(b)で被覆された少なくとも一つのゴム添加剤(a)を含有するゴム添加剤組成物において、
前記ゴム添加剤(a)は結晶性可溶性硫黄であり、及び
前記被覆材(b)が、120?140℃の温度までは、ゴム又はゴム混合物中で不溶であり、かつ、ワックス、パラフィン、ポリエチレン、エチレン-ビニルアセテートコポリマー、ポリビニルアルコール及びそれらの混合物からなる群から選択され、
前記マイクロカプセルが、1?75μmの大きさを持ち、
前記マイクロカプセルは、低温融解性ワックス様物質によって互いに結合され、0.1?10mmの大きさのビーズを形成している
ことを特徴とするゴム添加剤組成物。
【請求項10】
ゴム添加剤組成物の製造方法において、
液化した、溶解した、懸濁した又は乳化した形態にある少なくとも一のゴム添加剤及び被覆材を含有する混合物を固化せしめてマイクロカプセルを形成すること
但し、前記マイクロカプセルは、前記被覆材で被覆された前記少なくとも1つのゴム添加剤で構成され、かつ1?75μmの大きさを有し、
前記少なくとも1つのゴム添加剤は、結晶性可溶性硫黄であり、及び
前記被覆材は、120?140℃の温度までは、ゴム又はゴム混合物中で不溶であり、かつ、ワックス、パラフィン、ポリエチレン、エチレン-ビニルアセテートコポリマー、ポリビニルアルコール及びそれらの混合物からなる群から選択され、及び
前記固化されたマイクロカプセルは、低温融解性ワックス様物質をスプレーすることによって、0.1?10mmの大きさのビーズに変換されていること
を特徴とする製造方法。」

と、補正するものであり、これは、請求項1において「前記マイクロカプセルは、低温融解性ワックス様物質によって互いに結合され、0.1?10mmの大きさのビーズを形成している」との事項を追加する補正事項(以下、「補正事項1」という。)及び請求項10において「前記固化されたマイクロカプセルは、低温融解性ワックス様物質をスプレーすることによって、0.1?10mmの大きさのビーズに変換されていること」との事項を追加する補正事項(以下、「補正事項2」という。)を含むものである。

(2)本件手続補正の目的について
補正事項1は、複数のマイクロカプセルが存在する場合において、それらの相互関係とでもいうべき存在形態について規定するものであるが、補正前の特許請求の範囲には、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項として、複数のマイクロカプセルが存在する場合においてのマイクロカプセルの存在形態については何ら記載されていない。したがって、補正事項1は、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではないから、請求項の限定的減縮を目的としたものには該当しない。
なお、請求人は、補正事項1について、平成18年10月16日付けの手続補正書(審判請求書の補正)において、「請求項1は、平成17年3月9日付手続補正書による補正後の(以下「従前の」ということもある。)請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定したものに基づく。」(補正の説明の[3.2.1])、「即ち、構成要件[1E]において、構成要件[1A]の被覆材(b)で被覆されたゴム添加剤(a)から構成されるマイクロカプセルの、ゴム添加剤組成物における形態を特定の形態に限定した。」(同[3.2.1.1])、「即ち、ゴム添加剤組成物において、マイクロカプセルは、低温融解性ワックス様物質によって互いに結合され0.1?10mmの大きさのビーズを形成している形態に限定した。」(同[3.2.1.2])、「なお、同段落に「ビーズと結合しているワックス様物質の低融点のために、マイクロカプセルは引き続いてゴム混合物へ混入される間に再び元の形態で放出された」と記載されているとおり、このビーズは、ゴム混合物ないしゴム中において、マイクロカプセルと同じ作用効果を奏する。即ち、補正の前後において、請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であることは明らかである。従って、この補正は、上述のとおり、発明を特定するために必要な事項を限定したものでもあるから、特許法第17条の2第4項第2号の要件を充足していることは明らかである。」(同[3.2.1.4])と記載するところであるが、いずれの記載をみても、補正事項1がいかなる「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項」を限定したものであるのかは明確ではない。
また、補正事項1が、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとも認められない。
したがって、補正事項1は特許法第17条の2第4項各号に規定するいずれの事項をも目的とするものではない。
よって、補正事項2について検討するまでもなく、本件手続補正は特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(3)独立特許要件について
本件手続補正は、上記2.(2)で記載したとおり、却下すべきものであるが、仮に本件手続補正における補正事項1が請求項の限定的減縮を目的とするものであるとした場合に、補正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて検討する。

(4)特許法第36条第6項第2号について
補正後の請求項1に係る発明は「低温融解性ワックス様物質」を発明の特定事項とするものである。
しかるに、「低温融解性ワックス様物質」に関して、明細書の発明の詳細な説明においては、実施例6に「ペンタエリスリトール-テトラ-ステアレート(pentaerythritol-tetra-stearate)又は鉱油のような低温融解性、ワックス様物質0.227Kgをスプレーすることにより、流動床反応器(マイクロカプセル化添加剤2.27Kg)へ移され、最初に得られた粉末は、マイクロカプセルから0.1?10mmの大きさのビーズ(beads)に変換された。」(段落【0056】)と記載されているだけであって、「低温融解性ワックス様物質」における「低温融解性」の温度範囲、あるいは「ワックス様物質」にはワックス以外にいかなる物質が包含されるかなどについての記載はなく、さらに、「低温融解性ワックス様物質」の技術的範囲が本件出願の時に当業者にとって自明のことであるとも認められないことから、「低温融解性ワックス様物質」にいかなる物質が包含されるものであるか明確ではない。
したがって、補正後の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
よって、補正後の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものとは認められない。
上記のとおりであるから、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本件審判請求について

1.本願発明
上記のように平成18年9月26日付けの手続補正は、決定をもって、却下された。したがって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年3月9日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
マイクロカプセルの形態で被覆材(b)で被覆された少なくとも一つのゴム添加剤(a)を含有するゴム添加剤組成物において、
前記ゴム添加剤(a)は結晶性可溶性硫黄であり、及び
前記被覆材(b)が、120?140℃の温度までは、ゴム又はゴム混合物中で不溶であり、かつ、ワックス、パラフィン、ポリエチレン、エチレン-ビニルアセテートコポリマー、ポリビニルアルコール及びそれらの混合物からなる群から選択され、
前記マイクロカプセルが、1?75μmの大きさを持つ
ことを特徴とするゴム添加剤組成物。」

2.先願明細書の記載事項
原査定の拒絶の理由とされた平成16年11月8日付け拒絶理由通知(原査定である平成18年5月25日付け拒絶査定では、「この出願については、平成16年11月4日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものである。」と記載されているが、拒絶理由通知書の日付けは平成16年11月8日であることから、「平成16年11月4日付け拒絶理由通知書」は「平成16年11月8日付け拒絶理由通知書」の誤記であると認められる。)に引用された本願の先願に係る出願である特願平08-137234号の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 加硫剤または加硫促進剤の少なくともいずれか一方を芯材とし、融点が140℃以上の樹脂を膜材として、前記芯材の表面を前記膜材でコーティングしてなる粒状物を含有することを特徴とするゴム組成物。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)

(イ)「本発明のゴム組成物に使用される粒状物の膜材を形成する製膜方法としては、一般に知られるマイクロカプセル化する方法が採択され、・・・。」(段落【0012】)

(ウ)「本発明のゴム組成物には、加硫剤が使用され、加硫剤は、イオウが一般的であるがその他過酸化物等特に制約はない。」(段落【0015】)

(エ)表1には、サンプル7として、芯材がイオウ、コーティング樹脂がポリエチレン樹脂、平均総粒径が50ミクロン、芯材量が71%である実施例が、記載されている。(段落【0021】、【表1】)

3.先願明細書に記載された発明
先願明細書には、上記摘記事項からみて、「加硫剤としてのイオウを芯材とし、融点140℃以上の樹脂としてのポリエチレン樹脂を膜材として、前記芯材の表面を前記膜材でコーティングしてなるマイクロカプセル化した粒状物であって、その平均総粒径が50ミクロンである粒状物」の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているものと認める。

4.対比、判断
本願発明における「被覆材」が先願発明における「膜材」に相当し、本願発明における「ゴム添加剤」が先願発明における「芯材」に相当し、本願発明における「ゴム添加剤組成物」が先願発明における「粒状物」に相当することは明らかである。また、先願発明における「膜材」は、上記3.のとおり「融点140℃以上の樹脂」を用いるものであることから、140℃の温度まではゴム又はゴム混合物中であっても、溶解しないものと解釈される。したがって、本願発明と先願発明は、「マイクロカプセルの形態で被覆材で被覆されたゴム添加剤を含有するゴム添加剤組成物において、被覆材が、140℃の温度までは、ゴム又はゴム混合物中で不溶であり、かつ、ポリエチレンであり、マイクロカプセルが50μm程度であるゴム添加剤組成物」で一致しており、本願発明においてはゴム添加剤として結晶性可溶性硫黄を用い、先願発明ではイオウを用いる点で一応相違している。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明における、「硫黄はさまざまな同素体が存在する。ゴム産業できわめて頻繁に使用される硫黄の形態は結晶(斜方硫黄又は単斜硫黄)であり、それぞれ124℃及び129℃で融解する。」(段落【0004】)、「硫黄の他の同素体、即ち、非晶質の不溶性硫黄の使用によりこの問題を解決することが技術状態である。」(段落【0007】)、「特に好ましい添加剤は結晶性硫黄であるが、本発明は非晶質硫黄にも適用されうる。」(段落【0025】)、「例えば、添加剤としての結晶性可溶性硫黄と比較して、本発明の添加剤はおよそ130℃までの温度では析出(blooming)/硫化(sulphuring up)が起こらないという利点がある。」(段落【0031】)の記載にみられるように、ゴム添加剤としての硫黄については、結晶性可溶性硫黄と非晶質硫黄とが共に周知の物であると認められる。一方、先願明細書において結晶性可溶性硫黄を格別排除する記載もないことから、先願発明におけるイオウにはこの両者が包含されていると解するのが相当である。よって、先願発明における「イオウ」に、本願発明における「結晶性可溶性硫黄」が含まれないとすることはできない。
したがって、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一である。

第4.むすび
以上のとおりであり、本願発明の発明者と先願発明の発明者とは同一でなく、本件出願の時に本願の出願人と先願発明に係る出願人とが同一の者でもないことから、本願は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-26 
結審通知日 2008-09-02 
審決日 2008-09-16 
出願番号 特願2000-522161(P2000-522161)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (C08K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中川 淳子  
特許庁審判長 渡辺 仁
特許庁審判官 一色 由美子
亀ヶ谷 明久
発明の名称 マイクロカプセル化ゴム添加剤  
代理人 内田 潔人  
代理人 加藤 朝道  

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