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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H02K
管理番号 1191827
審判番号 無効2007-800029  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-02-16 
確定日 2009-02-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第2134716号発明「振動型軸方向空隙型電動機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第2134716号(昭和62年5月21日出願、平成10年2月6日設定登録。)の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、その願書に添付した明細書及び図面(以下「本件明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「N,Sの磁極を交互に複数個有する界磁マグネットを固定子として備え,偏心且つ振動して回転するように複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置することで平面において円板状を形成しないように変形形成したコアレス偏平電機子を上記界磁マグネットと軸方向の空隙を介して面対向し且つ回動自在に支持した,振動型軸方向空隙型電動機。」

2.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件発明についての特許(以下「本件特許」という。)を無効とする、との審決を求め、以下の理由を挙げて、本件特許は、特許法123条1項2号に該当し、無効とすべきである旨主張するとともに、証拠方法として甲第1ないし4号証を提出している。

(1) 理由
本件発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2) 証拠方法
甲第1号証: 特許第2134716号 登録原簿の写し
甲第2号証: 特公平7-85636号公報(本件特許に係る公告公報)
甲第3号証: 特開昭55-122467号公報
甲第4号証: 特許異議決定の写し

3.被請求人の主張
一方、被請求人は、本件発明は甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できないものであり、特許法29条2項の規定に該当しないので、本件審判請求は成り立たない旨主張している。

4.甲第3号証
甲第3号証には、直流電動機に関して、図面とともに次の記載がある。
(ア) 「N,S極に等しい開角で磁化された2n個(nは1以上の整数)の磁極を備えた界磁磁極と、・・・発生トルクに寄与する導体部の開角が前記した界磁磁極の磁極幅にほぼ等しく巻回された複数個の電機子巻線と、・・・磁路内で前記した界磁磁極に対向して設けられた波巻電機子と、該波巻電機子若しくは前記した界磁磁極を回転自在に支持すると共に、外筺に設けた軸承に支承された回転軸とより構成される直流電動機において、前記した電機子巻線を所定個削除して構成された電機子と、削除された前記した電機子巻線の両端子が接続していた整流装置を電気的に短絡する短絡部材とより構成されたことを特徴とする少数個の電機子巻線に構成した波巻電機子を備えた直流電動機。」(1欄7行ないし2欄3行)
(イ) 「本発明は、波巻電機子を構成する電機子巻線の所定個数を短絡することにより削除し、従つて電機子の厚みを薄く形成し、しかも整流特性を良好にした波巻電機子を円板状若しくは円筒状に形成して有効な直流電動機に関するものである。」(2欄19行ないし3欄3行)
(ウ) 「第1図は、円板状の電機子を設けた整流子電動機の構成の説明図である。」
(5欄1ないし2行)
(エ) 「回転軸1には一体にモールドされた電機子7及び整流子8が固定されている。電機子7は筺体2と界磁磁極6との空隙磁界内に介在するように構成されている。」(5欄10ないし13行)
(オ) 「電機子13は、電機子巻線13-3,13-4,13-5,13-6が第7図(b)に示すように配設され、一体にモールドされて構成している。・・・第1図示の電機子7に相当する。」(6欄16行ないし7欄8行)
(カ) 「上述した全ての実施例は、円板状の無鉄心電機子を設けた整流子電動機に本発明を適用したものである・・・」(53欄3ないし5行))
(キ) 第1図には、電機子7を界磁磁極6と軸方向の空隙を介して対向させた配置構成が示されており、また回転軸1が筺体2から突出している構成が示されている。
(ク) 第7図(b)には、複数の電機子巻線を回転中心を基準に片寄らせて配置した構成が示されている。

上記記載事項及び図示内容を総合すると、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が開示されているといえる。
「N,S極に等しい開角で磁化された2n個の磁極からなる界磁磁極を備え、複数の電機子巻線を回転中心を基準に片寄らせて配置し、一体にモールドして円板状に形成した無鉄心電機子を上記界磁磁極と軸方向の空隙を介して対向して、回転自在に支持した、直流電動機。」

5.対比
(1) 本件発明と甲3発明とを対比する。
(ア) 甲3発明の「N,S極に等しい開角で磁化された2n個の磁極からなる界磁磁極を備え」は、本件発明の「N,Sの磁極を交互に複数個有する界磁マグネットを固定子として備え」に相当する。
(イ) 甲3発明の「複数の電機子巻線を回転中心を基準に片寄らせて配置し、一体にモールドして円板状に形成した無鉄心電機子」と、本件発明の「偏心且つ振動して回転するように複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置することで平面において円板状を形成しないように変形形成したコアレス偏平電機子」とは、その作用・機能をみると、「複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置したコアレス偏平電機子」の点で共通する概念を有する。
(ウ) 甲3発明の「界磁磁極と軸方向の空隙を介して対向して、回転自在に支持した」は、その作用機能からみて、本件発明の「界磁マグネットと軸方向の空隙を介して面対向し且つ回動自在に支持した」に相当する。
(エ) 甲3発明の「直流電動機」と、本件発明の「振動型軸方向空隙型電動機」とは、「軸方向空隙型電動機」という概念で共通する。

すると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりとなる。
(2) 一致点
「N,Sの磁極を交互に複数個有する界磁マグネットを固定子として備え、複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置したコアレス偏平電機子を上記界磁マグネットと軸方向の空隙を介して面対向し且つ回動自在に支持した、軸方向空隙型電動機。」

(3) 相違点
複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置したコアレス偏平電機子に関して、本件発明のものは、「偏心且つ振動して回転するように」したものであって、かつ、「平面において円板形状を形成しないように変形形成した」ものであることにより、「振動型」軸方向空隙型電動機を構成しているのに対し、甲3発明のものは、偏心且つ振動して回転するようにしたものであるかが明確ではなく、かつ、一体にモールドして円板状を形成している点。

6.判断
上記相違点について検討する。
甲3発明は、直流電動機の電機子巻線が多層に重畳されることによる電機子の厚みを薄くすることを目的としており、また、甲第3号証全体をみても、振動を積極的に発生させるような特殊な機能に関する記載やそれを示唆する記載は一切なく、また第1図の断面図の回転軸1が筺体2から突出していることから、甲3発明のものは、通常目的の電動機、即ち回転軸により負荷に回転力を与えるために使用される機械とみるのが相当である。そして通常目的の電動機であれば、振動は負荷に対して好ましくない影響を与えるものであるから、電動機自体から生じる回転軸の偏心等による振動をできる限り避けるように設計することは技術常識である。
ここで、上記相違点1に係る甲3発明の構成である「一体にモールドして円板状に形成した無鉄心電機子」は、甲第3号証の上記4.(エ)及び(オ)の記載をみると、複数の電機子巻線のうち所定個の電機子巻線を削除した後、削除した電機子部分をも含めて一体にモールドして円板状に形成されたものであることは明らかである。
この円板状の電機子の作成手順及び上記電動機の使用目的に関する認定事項を踏まえると、甲3発明の円板状に形成した電機子は、通常目的の電動機として使用できるよう、電機子コイルの片寄りによる偏心の影響をモールド部をも含めた全体形状により許容範囲に低減するための構成になっているものと解するのが自然である。
すると、甲3発明の電動機において、通常目的の電動機として使用するよう一旦モールドして円板状に形成した電機子を、敢えて円板状を形成しないように変形形成しようとすることに、合理的な理由があるとはいえない。
一方、本件発明は、振動型軸方向空隙型電動機において回転軸に取り付ける旋回板を不要とすることを目的(甲第2号証の6欄27ないし31行)としており、その目的の達成のために「複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置することで平面において円板状を形成しないように変形形成したコアレス偏平電機子」を構成として採用したものである。そして当該構成は、本件明細書の「第1図及び第2図に示す振動型軸方向空隙型電動機20(注:本件発明の実施例に相当)と,第10図乃至第12図の振動型軸方向空隙型電動機4(注:従来技術のものに相当)とが異なるのは,・・・電機子コイル12-3がなく且つ電機子コイル12-3のプラスチックモールド部をも削除してコアレス偏平電機子21そのものが平面において円板状を形成しないように変形形成して偏心する形状に構成しているので,コアレス偏平電機子21が軽くなると共に偏心振動し易くなる等の点において,電動機20の外観上において差異が見られる。」(甲第2号証の8欄4ないし17行参照。)なる記載をみると、コアレス偏平電機子を平面において円板状を形成しないように変形形成すること、即ち電機子コイルの一部及びそのプラスチックモールド部をも削除して偏心する形状を構成することにより、コアレス偏平電機子を軽くできると共に偏心振動し易くし、前記目的を達成したものである。
すると、上記相違点に係る本件発明の構成は、振動型という特殊用途の電動機であるからこそ必要な構成であって、この構成によりコアレス偏平電機子を軽量化でき、かつ、振動し易くでき、その結果、旋回板を不要とできるという格別の効果を奏するものである。他方、甲3発明が、振動型とはいえないことは、上述したところから明らかである。
したがって、甲3発明において、上記相違点に係る本件発明の構成とすることは、甲第3号証全体をみても、それを肯定するに足る合理的な理由はなく、また当該構成を有することにより本件発明は格別の効果を奏するものであることから、当業者に容易であるということはできない。

なお、請求人は、平成19年6月19日に実施した口頭審理において、甲3発明の電動機は円板状ではあるが、複数の電機子巻線を回転中心を基準に片寄らせて配置する構成を備えたものであるから、振動が生じるものであり、振動が生じるものである以上、振動を起こさせる手段として用いることも任意である旨主張している。
しかしながら、甲第3号証には、積極的に振動を起こさせる等の記載は一切なく、それを示唆する記載もないことは、上述したとおりである。また電機子巻線とモールド部材との比重等も不明であることから、単に図面の記載と複数の電機子巻線を回転中心を基準に片寄らせて配置する構成から直ちに本件発明の適用対象である無線電話呼び出し装置等に使用できるほどの振動が生じるものとは必ずしもいえない。そうすると、請求人の振動が生じるものである以上、振動を起こさせる手段として用いることが任意であるとする主張は、理由があるものとはいえない。仮に、甲3発明を振動を起こさせる手段として用いたとしても、電動機単体で振動を起こさせる手段として使用しようとする発想が得られないものである以上、周知の振動型電動機のように突出した軸に旋回板を取り付けることを想到し得たにすぎない。
また同じく口頭審理において、甲3発明において電機子コイル以外のモールド部を必要に応じて削除することは設計的事項である旨主張している。
しかしながら、上述のとおり、甲3発明は通常目的の電動機と解されることから、上記技術常識を踏まえると、敢えて偏心を大きくするような変形を行う合理的な理由はなく、この変更には阻害要因があるというべきである。
したがって、出願人の上記主張は採用することができない。

7.むすび
以上のとおりであるから、無効審判請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2007-06-26 
出願番号 特願昭62-124640
審決分類 P 1 113・ 121- Y (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 栗林 敏彦  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 田良島 潔
渋谷 善弘
登録日 1998-02-06 
登録番号 特許第2134716号(P2134716)
発明の名称 振動型軸方向空隙型電動機  
代理人 鷹見 雅和  
代理人 佐野 惣一郎  
代理人 佐野 惣一郎  

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