• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1191990
審判番号 不服2005-4084  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-03-09 
確定日 2009-02-05 
事件の表示 特願2001-106877「プロバイダ消費者金融方法及びプロバイダ消費者金融システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月18日出願公開、特開2002-304526〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯

本願は,平成13年4月5日の出願であって,平成17年1月31日付けで拒絶査定がされ,これに対して同年3月9日に審判請求がされるとともに,同年4月6日に手続補正書が提出されたものである。

2 平成17年4月6日に提出された手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)の適否について

2-1 本件補正の内容について
本件補正による補正前の請求項1?7は,請求項2が請求項1を引用し,請求項3が請求項1,2を択一的に引用し,請求項5が請求項4を引用し,請求項6が請求項4,5を択一的に引用したものであるであるところ,本件補正により,請求項2,5,7が削除され,請求項は,1?4となった。

このうち,請求項1についてみると,補正の前後の請求項の記載は,次のとおりである。

(1)【本件補正前】
「プロバイダのプロバイダ側処理装置と前記プロバイダとインターネット接続契約を結んでいるユーザの顧客端末とがネットワークを介して接続されたネットワークシステムに於けるプロバイダ消費者金融方法であって,
前記顧客端末は,ユーザの操作に従って,前記ユーザを特定するユーザ特定情報と借り入れ希望金額とを含む現金借り入れ申し込みを前記プロバイダ側処理装置へ送信し,
前記プロバイダ側処理装置は,前記プロバイダとインターネット接続契約を結んでいる各ユーザの顧客情報であって,契約日と,インターネットの利用料金の引き落としを行った年月日と,引き落としに成功したか否かを示す引き落とし可否情報とを含む顧客情報が登録された顧客情報記憶部を有し,前記顧客端末から現金借り入れ申し込みが送られてきたとき,前記顧客情報記憶部に登録されている各ユーザの顧客情報の内の,前記現金借り入れ申し込み中のユーザ特定情報によって特定されるユーザの顧客情報中の契約日と現在日時とから前記ユーザの前記プロバイダへの加入期間が所定期間以上であるか否かを判定すると共に,前記顧客情報中の引き落とし可否情報に基づいて利用料金の支払が遅滞なく行われているか否かを判定し,加入期間が所定期間以上であり,且つ利用料金の支払いが遅滞なく行われたと判定した場合,前記顧客端末のユーザを信用ありと判定することを特徴とするプロバイダ消費者金融方法。」

(2)【本件補正後】(下線は,補正で加入された部分)
「プロバイダのプロバイダ側処理装置と前記プロバイダとインターネット接続契約を結んでいるユーザの顧客端末と金融業者側処理装置とがネットワークを介して接続されたネットワークシステムに於けるプロバイダ消費者金融方法であって,
前記顧客端末は,ユーザの操作に従って,前記ユーザを特定するユーザ特定情報と借り入れ希望金額とを含む現金借り入れ申し込みを前記プロバイダ側処理装置へ送信し,
前記プロバイダ側処理装置は,前記プロバイダとインターネット接続契約を結んでいる各ユーザの顧客情報であって,契約日と,インターネットの利用料金の引き落としを行った年月日と,引き落としに成功したか否かを示す引き落とし可否情報とを含む顧客情報が登録された顧客情報記憶部を有し,前記顧客端末から現金借り入れ申し込みが送られてきたとき,該現金借り入れ申し込み中の借り入れ希望金額が所定金額未満であれば,前記顧客情報記憶部に登録されている各ユーザの顧客情報の内の,前記現金借り入れ申し込み中のユーザ特定情報によって特定されるユーザの顧客情報中の契約日と現在日時とから前記ユーザの前記プロバイダへの加入期間が所定期間以上であるか否かを判定すると共に,前記顧客情報中の引き落とし可否情報に基づいて利用料金の支払が遅滞なく行われているか否かを判定し,加入期間が所定期間以上であり,且つ利用料金の支払いが遅滞なく行われたと判定した場合,前記顧客端末のユーザを信用ありと判定し,前記現金借り入れ申し込み中の借り入れ希望金額が所定金額以上であれば,前記金融業者側処理装置に対して前記顧客端末のユーザの信用調査を行うために必要になる情報を依頼し,
前記金融業者側処理装置は,前記依頼に従って前記顧客端末のユーザの信用調査を行うために必要になる情報を前記プロバイダ側処理装置へ送信し, 前記プロバイダ側処理装置は,前記金融業者側処理装置から送られてきた情報に基づいて前記ユーザの信用調査を行うことを特徴とするプロバイダ消費者金融方法。」

2-2 本件補正の目的について
補正後の請求項1は,補正前の請求項1に,
「と金融業者側処理装置」,
「現金借り入れ申し込み中の借り入れ希望金額が所定金額未満であれば,」,
「し,前記現金借り入れ申し込み中の借り入れ希望金額が所定金額以上であれば,前記金融業者側処理装置に対して前記顧客端末のユーザの信用調査を行うために必要になる情報を依頼し,
前記金融業者側処理装置は,前記依頼に従って前記顧客端末のユーザの信用調査を行うために必要になる情報を前記プロバイダ側処理装置へ送信し, 前記プロバイダ側処理装置は,前記金融業者側処理装置から送られてきた情報に基づいて前記ユーザの信用調査を行うことを」
との文言を付加するものであるが,これは,補正前の請求項2の内容に相当する。

補正後の請求項3も,同様に,補正前の請求項5の内容に相当する。

2-3 補正の適否の結論
以上のとおり,本件補正は,実質的に,補正前の請求項1,4,7を削除し,補正前の請求項2,3,5,6を請求項1,2,3,4に繰り上げたものであるから,請求項の削除に相当する。したがって,本件補正は,特許法17条の2第4項1号に掲げる「請求項の削除」を目的としてなされたものといえる。

3 本願発明について
(1)上記のとおり,本件補正は補正要件を満たすから,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,本件補正による特許請求の範囲の請求項1に記載された,上記2-1(2)のとおりのものである。

(2)なお,本願明細書には,本願発明が解決しようとする課題等について,次の記載がある(下線は,当審で付加)。
【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は,消費者へ小口の金融を行う消費者金融に関し,特に,インターネット等のネットワークを介して消費者へ融資を行う消費者金融技術に関する。」
・・・
【0005】
「【発明が解決しようとする課題】上述した従来の技術によれば,ユーザは信用調査等のために金融会社に一度出向けば,その後は,金融会社に出向くことなく融資を受けることができる。しかし,上述した従来の技術は,信用調査等のために,必ず1度はユーザが金融会社に出向かなければならないという問題がある。更に,信用調査を1回だけしか行わないため,信用調査を行った後に,ユーザが仕事を辞めてしまう等してもそのことは金融業者に判らず,返済不能なユーザに貸し出しを行ってしまう危険性が高いという問題がある。」
【0006】
「そこで,本発明の目的は,ユーザが全く金融会社等に出向くことなく融資を受けられるようにすると共に,返済不能なユーザに貸し出しを行ってしまう危険性を低いものにすることにある。」

4 引用刊行物1の記載と引用発明について

(1)原査定の拒絶理由で引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-312437号公報(以下,「引用刊行物1」という。)には,図1?13とともに,次の記載がある(下線は,当審で付加)。

ア 従来技術,発明の課題等
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はインターネット等の公衆ネットワーク網を利用した銀行の個人ローン商品の新規契約・申込みに関わる契約形態,及び利用形態に関し,特に,銀行の自動審査システムと勘定系システムの組み合わせに用いた好適なキャッシング,個人ローン取引処理方法及びシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】従来,キャッシング,個人ローン取引のお金の支払いは,店頭または専用自動機でしか行えず,場所・時間に制限があった。また,新規契約においては,郵便で申込用紙を郵送する方法がとられていた。「さくら銀行」では,'96年4月から,個人カードローンを1回も来店させずに郵便だけで契約を交わす形態をとっている(日本経済新聞’96年5月9日,朝刊より)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】場所・時間の制限をなくし,また銀行側の自動機購入のコスト,郵便受付時の事務負担を軽減する為である。また,銀行にとって,開店時間内に来店できない顧客の為に,また郵便での申込みが面倒だと思う顧客と取引を促進する為である。」

イ 発明の実施の形態
「【0005】
【発明の実施の形態】以下,本発明の一実施例を詳細に説明する。
【0006】図1は,本発明をインターネット等の公衆ネットワーク網に接続された銀行側のサーバーへ適応した場合の処理手順の1実施例を示すフローチャートである。
【0007】図2は,本発明に関わる顧客側の取引装置と銀行のサーバーがネットワークを介して接続されているイメージ図であり,顧客と銀行間で銀行の個人ローン商品の取引処理を実施する環境である。201は,個人ローン商品の契約情報を格納する商品契約テーブルであり,202は,自行における顧客の取引情報を格納した取引テーブルである。203は,取引処理が完了した後に,実際に勘定処理を行う勘定系ホストである。204は,他銀行とのデータ取引処理を行う外接系ホストである。205は,取引処理を司るプログラムを格納したサーバーである。インターネット等との接続を行う通信制御装置210,各プログラムを司る制御装置209,取引処理において重要な本人認証機能208,ローン金額,審査の可否を決定する自動審査機能207,勘定の取引処理を行う為のジョブを作成するジョブ作成機能206である。211は,銀行と顧客を結ぶインターネット等の公衆ネットワーク網である。顧客側の取引装置212には,インターネット等との接続を行う通信制御装置213,取引装置212を司る制御装置214がある。また,画面表示する表示手段215,入力手段であるキーボード216がある。
【0008】図3,図4,図5,図6は,銀行がインターネット等の公衆ネットワーク網を通じて,214にブラウザ等のアプリケーション301を介して顧客に提供されるインターフェイス例である。
【0009】図3は,初期画面であり,個人ローン商品の新規契約を行う顧客用のボタン301と既存顧客用のボタン303がである。
【0010】図4は,既存顧客が303を押した後に表示される画面である。401は,既存顧客の本人認証の為のパスワードを入力するテキストボックスである。
【0011】図5は,図4のパスワードで本人確認が行われた後に表示される画面である。501はローン申込み金額,502はローンで借りたお金の振込先を入力するテキストボックスである。
・・・
【0013】図7は,商品契約テーブルに格納されている個人ローン商品の契約内容情報である。商品契約テーブルは,顧客の自動審査に,また顧客管理に使用する。格納データは,自行での顧客番号701,氏名702,口座番号703,パスワード704,顧客がローンできる限度額705,契約日706,ローン支払いの延滞回数707,ローンする際の金利708,現在までの利用回数をカウントした709,等の契約に関係する情報である。
【0014】図8は,取引テーブルに格納されている自行での取引データ,及び顧客の属性データである。取引テーブルは,新規顧客の限度額を設定する際に,また自動審査の際に使用する。格納データは,自行での顧客番号801,氏名802,口座番号803,年齢804,顧客の勤務先805,勤務先の企業ランク806,顧客の普通預金口座等の残高807,公共料金契約状況808等である。また,取引テーブルには,顧客の取引履歴も格納してある。
・・・
【0016】図10は,本人認証機能のフローチャートである。
【0017】図11は,自動審査機能に含まれている,限度額を決定する際利用する限度額決定テーブルである。格納情報は,限度額1101,延滞回数1102,取引回数1103,公共料金取引契約数1104等である。また,このテーブルは,銀行側で自由に設定が替えられる。
【0018】図12は,自動審査機能に含まれている,金利を決定する際利用する金利決定テーブルである。格納情報は,金利1201,延滞回数1202,取引回数1203,公共料金取引契約数1204等である。また,このテーブルは,銀行側で自由に設定が替えられる。 図13は,自動審査機能のフローチャートである。」

ウ 自動審査を含む取引処理の流れ
「【0020】次に,図1のフローチャートで銀行側サーバー203での全体取引処理方法を説明する。顧客側の取引装置209から銀行へ通信制御装置210を介して,インターネット等を通じてアクセスすると,図3のような画面がブラウザを介して,顧客の取引装置211にダウンロードされ(ステップ101),顧客が図3のボタン302または303を押すと取引処理が始まる(ステップ102)。
【0021】まず,顧客が既契約者ボタンを押したた場合,図4のパスワード入力画面が顧客の取引装置の表示装置214に表示され,顧客がパスワードを入力し送信してきたら本人確認を行う(ステップ103)。・・・本人確認の結果「No」の場合は取引処理終了。「Yes」の場合,顧客の取引装置の表示装置215に図5の画面が表示される。顧客は申込み金額と振込先を指定して送信してきたら,その顧客の契約内容と取引情報を商品契約テーブル,取引テーブルから各々取得する(ステップ104)。顧客が送信してきたデータとステップ104で取得したデータを基に自動審査を行う(ステップ105)。自動審査は,銀行側サーバーの自動審査機能207で行われる。ステップ105の審査結果が「No」であれば顧客へ取引却下の通知内容を図9のテーブルから取得し,商品契約テーブルのEメールアドレス宛に送信する(ステップ107)。そして取引処理は終了する。・・・
【0022】次に,顧客が新規契約者ボタンを押した場合,図6の画面が顧客の取引装置の表示装置214に表示され,顧客が顧客の属性情報(氏名,顧客の自行における口座番号,Eメールアドレス等)して送信してきたら,自行に顧客の口座があるか取引テーブル202を用いて確認を行う(ステップ110)。ステップ110の結果,「No」であれば顧客へ取引却下の通知内容を図9のテーブルから取得し,入力されたEメールアドレス宛に送信し(ステップ111),取引処理は終了する。「Yes」であれば,顧客の図8取引データと図11限度額決定テーブル,図12金利決定テーブルを基に顧客の限度額,金利を設定し,商品契約テーブルに登録する(ステップ112)。新規契約の場合には,ローン契約の信用情報に欠けている為,デフォルトで最低限度額,最高金利とする。そして,契約内容(限度額,金利等)を顧客へ承認の通知内容を図9のテーブルから取得し,商品契約テーブルのEメールアドレス宛に送信し,取引処理は終了する。
・・・
【0025】次に自動審査機能について図13のフローチャートで説明する。
【0026】まず,顧客が入力した申込み額を取得し(ステップ1301),次に商品契約テーブルから,その顧客の限度額を取得する(ステップ1302)。また,取引テーブルから,その顧客の現在のその商品の取引額を取得する(ステップ1303)。そして,現在の取引額と申込み額を加算した額が限度額を超えているかを審査する(ステップ1304)。また,延滞回数が一定回数以上オーバーしているかを審査する(ステップ1306)。審査結果が「Yes」であれば申込みは却下(ステップ1305)。「No」であれば(ステップ1307),商品契約テーブルの取引回数を加算し,取引テーブルの取引額を加算する(ステップ1308)。そして,この顧客に関して,この取引によって図11,図12の限度額,金利決定テーブルに該当すれば限度額,金利の見直しを行う(ステップ1309)。」

エ 発明の効果
「【0030】
【発明の効果】以上述べた通り,インターネット等の公衆ネットワーク網を通じて,自動審査機能,本人認証機能を活用して,銀行の個人向けローン商品の取引処理(新規契約,申込み)が行えることにより,場所・時間問わず取引が可能となる。」

(2)以上のア?エの摘記事項から,引用刊行物1には,顧客が金融会社等に出向かなくとも,限度額を定めて融資を行い,引き続く取引の履歴に基づいて信用審査を行い,信用に応じた額の取引を可能とするため,顧客側の取引装置212と銀行のサーバ205をインターネット等の公衆ネットワークに接続し(図2),銀行のサーバには,本人認証機能208と顧客の信用の自動審査機能207をもたせ,さらに,サーバに接続された記憶装置には,商品契約テーブル(図7)と取引テーブル(図8)を格納し,自動審査の限度額を決定を取引履歴により行うようにしたものが記載されているといえる。
処理の流れは,顧客がパスワードを入力し送信してきたら,本人確認を行い,ついで,顧客は申込み金額と振込先を指定して送信してきたら,その顧客の契約内容と取引情報を商品契約テーブル,取引テーブルから各々取得し,顧客が送信してきたデータ,契約内容,取引データに基づいて自動審査を行うようになされている(段落【0021】)。審査項目の中には,顧客の申し込み金額が限度額を超えるものか否かのステップが含まれている(段落【0026】)。
段落【0013】の記載によれば,商品契約テーブルは,自動審査及び管理に使用するもので,顧客番号,氏名,口座番号,パスワード,ローンできる限度額,契約日,ローン支払いの遅滞回数,ローンの金利,現在までの利用回数等の契約に関係する情報を格納している(図7)。
段落【0014】の記載によれば,取引テーブルは,取引データ及び顧客の属性データを格納するものであり,勤務先,口座の残高,公共料金契約状況のほか,顧客の取引履歴が格納されている(図8)。
段落【0017】の記載によれば,取引限度額の決定には,延滞回数,取引回数,公共料金取引契約数等が記録された限度額決定テーブル(図11)が利用され,このテーブルは,銀行側で自由に設定が替えられる。

そうすると,引用刊行物1には,

「銀行のサーバと顧客端末とがネットワークを介して接続して構成されたネットワークシステムにおける個人ローン取引方法であって,
顧客端末は,顧客の操作にしたがって,顧客認証情報とローン取引の希望額を含むローン取引申込みをサーバへ送信し,
サーバは,銀行と取引契約を結んでいる各顧客の顧客情報であって,ローンの契約日,ローンの支払い履歴を含む顧客情報が格納された情報記録部を有し,
顧客端末からローン取引の申し込みが送られてきたとき,申し込み金額が所定金額未満の場合は,限度額決定テーブルのデータに基づいて,顧客の信用度を判定するようにした,個人ローン取引方法」(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。

5 対比

本願発明の「プロバイダ側処理装置」は,「プロバイダ」業を営んでいるか否かを別にすれば,「サーバ」の機能を有するものであることが明らかである。また,「消費者金融方法」と「個人ローン取引方法」は同じことである。

そうすると,本願発明と引用発明とは,

「サーバと,前記サーバの管理者と利用契約を結んでいるユーザの顧客端末とがネットワークを介して接続されたシステムに於ける消費者金融方法であって,
前記顧客端末は,ユーザの操作に従って,前記ユーザを特定するユーザ特定情報と借り入れ希望金額とを含む現金借り入れ申し込みを前記サーバへ送信し,
前記サーバは,前記サーバ管理者と利用契約を結んでいる各ユーザの顧客情報であって,利用履歴を含む顧客情報が登録された顧客情報記憶部を有し,前記顧客端末から現金借り入れ申し込みが送られてきたとき,該現金借り入れ申し込み中の借り入れ希望金額が所定金額未満であれば,前記顧客情報記憶部に登録されている各ユーザの顧客情報の内の,前記現金借り入れ申し込み中のユーザ特定情報によって特定されるユーザの顧客情報中のデータから,ユーザの信用の有無を判定することを特徴とする,
消費者金融方法。」

の点で,一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明は,サーバが,ユーザとインターネット接続契約を結んでいる「プロバイダ側処理装置」であり,ユーザの信用度を判定するためのデータが,接続契約日,利用料金の引き落とし履歴であり,接続契約の日からの加入期間及び利用料金の支払が遅滞なく行われているか否かで信用の有無を判定しているのに対し,引用発明では,サーバは,銀行が管理しているものであり,ユーザの信用度を判定するためのデータとして明示的に記載されているのは,ローンの利用回数,返済の延滞回数,公共料金取引契約数であり,これらのデータに基づいて信用の度合いを判定している点。

[相違点2]
本願発明では,ネットワークに更に「金融業者側処理装置」が接続され,前記現金借り入れ申し込み中の借り入れ希望金額が所定金額以上のときは,前記金融業者側処理装置に対して前記顧客端末のユーザの信用調査を行うために必要になる情報を依頼し,前記金融業者側処理装置は,前記依頼に従って前記顧客端末のユーザの信用調査を行うために必要になる情報を前記プロバイダ側処理装置へ送信し,前記プロバイダ側処理装置は,前記金融業者側処理装置から送られてきた情報に基づいて前記ユーザの信用調査を行うこととされているのに対し,引用発明では,このような構成がない点。

6 判断
(1)本願出願時における技術状況(事業状況)
ア インターネットを介した取引において,「プロバイダ決済」が行われ,プロバイダの側では,毎月の利用料の請求,回収業務を行い,ユーザの過去の支払い実績を把握しており,与信管理に必要な情報を有していることは,周知である(例:原査定で引用された,牧野和彦「eビジネスのリスクマネジメント」(株式会社エクスメディア,2001年4月4日発行)104頁,「第4章,BtoCの与信管理,Section36,モバイル決済とプロバイダ決済」の項目の説明)。
これに関連して,原査定で引用された,特開2001-52068号公報には,認証・決済等のサービスを提供するプロバイダにおいて,個人の取引履歴(不正取引の有無)を蓄積しておき,利用者の信頼度を判定すること(特に段落【0006】)が記載されている。

イ 原査定で引用された,杉山人文他「わが国におけるテレホンバンキングの最新動向」,金融情報システム,財団法人金融情報システムセンター,第207号(1998年11月1日発行)第34頁右欄には,「D銀行の事例」として,ローンの極度額を定め,その範囲内であれば電話だけで無審査でローンを実行できるようにしたローン商品が紹介されている。
原査定で引用された,特開2000-315227号公報には,インターネットを介した商品販売方法において,注文の決済方法に応じて,金融機関等に信用調査を依頼することが記載されている(特に,段落【0016】)。
原査定で引用された,特開平8-96034号公報には,オンライン決済方法において,売り手からの依頼に応じてクレジット会社が信用調査をすることが記載されている(特に,段落【0034】)。
また,上記アで引用した,特開2001-52068号公報には,与信機能を有するプロバイダは,他のプロバイダからの照会を受け付けることができること(段落【0022】)が記載されている。
ほかにも,特開昭62-108359号公報には,クレジットカードを用いて取引を行う場合についてであるが,使用履歴に基づいて信用度を判断し,信用度が高い場合はセンタへの信用度の照会を省略することが記載されている(特に,特許請求の範囲の記載)。
これらの記載内容からみて,一定条件までは簡易に与信を行い,それを超える場合に,より調査能力(又は調査権限)のあるところに信用照会を行うことは,本願出願前において周知のことであったものと認められる。そして,取引を行う主体と,信用照会を行う主体は,銀行同士や銀行内(支店-本店,窓口-バックオフィス),サービスプロバイダと信用調査を専門に行う主体との間,サービスプロバイダと与信機能を有するサービスプロバイダとの間など,取引の種類や態様に応じて,種々の組み合わせが考えられる。

(2)以上の技術状況(事業状況)に照らして,上記相違点1,2に係る構成の容易想到性について判断する。
(2-1)相違点1について
まず,本願発明の「プロバイダ側処理装置」は,消費者金融のための処理を行っているから,その意味では,「金融業者」の処理装置といえる。しかし,引用発明は,ネットワークを介して顧客端末と接続されているものの,銀行のサーバであり,ユーザとインターネット接続契約を結んでいる「プロバイダ」とはいえない。
しかし,サービスプロバイダにおいて,インターネットの接続サービスだけでなく,種々のインターネットを介した取引や決済を行うこと,及び,プロバイダの側で,毎月の利用料の請求,回収業務を行い,ユーザの過去の支払い実績を把握し,その範囲で信用の有無の判定を行うことができることは,周知の事項である(上記(1)ア)。
そうすると,法規による規制はともかく,プロバイダが提供するサービスに消費者金融を含ませることに,技術上の制約や困難は見出せない。そして,信用度を判断する基礎となるデータとして何を用いるかは,サービスの種類や形態により当業者において適宜選択する事項であり,(引用発明においても,限度額決定テーブルは,銀行側で自由に設定が替えられるとされている(段落【0017】)),プロバイダの接続サービスに関連して蓄積された信用データを,消費者金融における信用度の判断に用いることも,設計事項の範囲内のものといえる。
そうすると,相違点1に係る構成とすることは,上記技術の状況(事業状況)に照らして,当業者が容易に想到し得たものと判断される。

(2-2)相違点2について
まず,本願発明では,「プロバイダ側処理装置」のほかに,「金融業者側装置」が接続されているが,消費者金融のサービスを行っている以上,「プロバイダ側処理装置」の管理主体も金融業者といえる。そうすると,「プロバイダ側処理装置」と「金融業者側処理装置」とは,主体が異なると思われる点と,インターネット接続サービスの提供の有無で異なるほかは,信用調査能力(調査権限)の大小が異なるだけのものと理解できる。
一方,上記(1)イで検討したように,一定の条件の下では,取引を行う主体において信用の有無を判定し,条件を超える場合は,他の主体に信用照会をすることは,種々の形態の商取引においてなされているものである。
引用発明の実施の形態では,一つの銀行が個人ローン取引を行い,ローン希望金額が一定額を超える場合は取引をしないとしているので,更に他の主体に信用照会を行うことは想定していないと理解できるが,銀行でも,出張所と本店,支店と本店間における分業形態や顧客データの管理方法(例:集中管理,分散管理)など,種々の業務形態,管理方法があり得るのであり,当該取引主体だけでは十分な信用調査ができない場合に,他の適切な主体に更なる信用照会をすることは,自然な発想と考えられる。
そうすると,相違点2に係る構成は,上記の技術状況(事業状況)に照らして,当業者が容易に想到し得たものといえる。

(2-3)以上の次第で,相違点1,2に係る構成は,当業者が容易想到し得たものであり,本願発明の効果も,引用発明及び上記の技術状況(事業状況)に照らして予測できる範囲内のものである。

7 むすび
以上のとおり,本願発明(本願の請求項1に係る発明)は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-01 
結審通知日 2008-12-02 
審決日 2008-12-17 
出願番号 特願2001-106877(P2001-106877)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関 博文  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 小山 満
清田 健一
発明の名称 プロバイダ消費者金融方法及びプロバイダ消費者金融システム  
代理人 境 廣巳  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ