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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60T
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60T
管理番号 1192828
審判番号 不服2007-20323  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-20 
確定日 2009-02-12 
事件の表示 特願2002- 95871「自動2輪車用ブレーキ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月 7日出願公開、特開2003-285727〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成14年3月29日の出願であって、平成19年6月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年7月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年8月20日付けで手続補正がなされたものである。

【2】平成19年8月20日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年8月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
平成19年8月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 前後輪ブレーキを備え、ブレーキ操作子の操作に応じて前輪ブレーキと後輪ブレーキに出力を配分する連動ブレーキモジュレータのマスターシリンダユニットと、前輪のロックを回避する前輪アンチロックモジュレータのアクチュエータとを備える自動2輪車用ブレーキ装置において、
後輪ブレーキに対する入力を規制するための入力規制手段を前記マスターシリンダユニットと後輪ブレーキの間に配置し、
前記前輪アンチロックモジュレータのアクチュエータを、前記マスターシリンダユニットと前輪ブレーキの間に配置してマスターシリンダユニットへ接続し、
前記マスターシリンダユニットは、前記アクチュエータへ加圧された作動液を供給して前輪ブレーキへ制動力を与え、かつケーブル及び前記入力規制手段を介して後輪ブレーキへ制動力を与えるとともに、
第1のブレーキ操作子の操作により前輪ブレーキのみを独立制御し、第2のブレーキ操作子の操作により前輪ブレーキ及び後輪ブレーキを連動制御し、
さらに、前記連動ブレーキモジュレータの連動制御時において後輪ブレーキ側が入力規制手段により入力規制されている状態で前輪ロックを生じるような大きな前輪制動力が発生したとき前輪アンチロックモジュレータが作動するようにしたことを特徴とする自動2輪車用ブレーキ装置。」
と補正された。(なお、下線は補正箇所を示す。)
前記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前輪アンチロックモジュレータのアクチュエータ」について「マスターシリンダユニットへ接続し」との限定を付加し、同じく「マスターシリンダユニット」について「前記マスターシリンダユニットは、前記アクチュエータへ加圧された作動液を供給して前輪ブレーキへ制動力を与え、かつケーブル及び前記入力規制手段を介して後輪ブレーキへ制動力を与えるとともに、第1のブレーキ操作子の操作により前輪ブレーキのみを独立制御し、第2のブレーキ操作子の操作により前輪ブレーキ及び後輪ブレーキを連動制御し」との限定を付加し、同じく「前輪アンチロックモジュレータ」について「さらに、前記連動ブレーキモジュレータの連動制御時において後輪ブレーキ側が入力規制手段により入力規制されている状態で前輪ロックを生じるような大きな前輪制動力が発生したとき前輪アンチロックモジュレータが作動するようにし」との限定を付加するものであって、平成18年改正前法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下で検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物のうちの
(1)特開2001-171506号公報(以下「刊行物1」という。)
(2)特開平9-216547号公報(以下「刊行物2」という。)
(3)実願昭63-94114号(実開平2-15562号)のマイクロフィルム(以下「刊行物3」という。)
(4)実願平2-48810号(実開平4-7973号)のマイクロフィルム(以下「刊行物4」という。)
には、それぞれ、次の事項が記載されている。

(1)刊行物1(特開2001-171506号公報)の記載事項
刊行物1には、「連動ブレーキ装置」に関して、図とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液圧式車輪ブレーキに接続されるマスタシリンダを独立ブレーキ操作子および連動ブレーキ操作子のブレーキ操作に応じて作動可能とするとともに、連動ブレーキ操作子のブレーキ操作時には前記マスタシリンダおよび機械式車輪ブレーキにブレーキ操作力を及ぼし得るようにした連動ブレーキ装置の改良に関する。」
イ 「【0014】先ず図1において、スクータ型である自動二輪車の車体フレーム11は、前部フレーム12と、該前部フレーム12の後部に締結される後部フレーム13とで構成される。……
……
【0016】図2を併せて参照して、ステアリングハンドル15には、右側のグリップ20Rに隣接して独立ブレーキ操作子としての独立ブレーキレバー21がブレーキ操作を可能として軸支されるとともに、左側のグリップ20Lに隣接して連動ブレーキ操作子としての連動ブレーキレバー22がブレーキ操作を可能として軸支される。
【0017】一方、前輪WFには液圧式車輪ブレーキであるディスクブレーキBFが装着され、後輪WRには機械式車輪ブレーキであるドラムブレーキBRが装着されており、独立ブレーキレバー21をブレーキ操作することによりディスクブレーキBFを単独作動せしめることができ、また連動ブレーキレバー22をブレーキ操作することによりディスクブレーキBFおよびドラムブレーキBRを連動作動せしめることができる。
【0018】車体フレーム11における前部フレーム12のヘッドパイプ部12aには、マスタシリンダユニット23が取付けられており、独立ブレーキレバー21のブレーキ操作に応じて該マスタシリンダユニット23からディスクブレーキBFにブレーキ液圧が供給され、連動ブレーキレバー22のブレーキ操作に応じてマスタシリンダユニット23からディスクブレーキBFにブレーキ液圧が供給されるとともにドラムブレーキBRに牽引力が作用する。
【0019】図3?図7において、マスタシリンダユニット23は、ブレーキ液圧を出力し得るマスタシリンダ24と、マスタシリンダ24に押圧力を作用せしめるノッカ25と、リザーバタンク26と、連動ブレーキレバー22のブレーキ操作に応じてドラムブレーキBR側およびノッカ25側に予め設定される割合で操作力を配分する荷重配分手段としての荷重配分レバー27と、独立ブレーキレバー21および荷重配分レバー27の相互干渉が生じることを回避して独立ブレーキレバー21および荷重配分レバー27をノッカ25に連結する連結手段28とが、ユニット化されて成るものである。」
ウ 「【0038】このような荷重配分レバー27および連結手段28によれば、独立ブレーキレバー21のブレーキ操作時には、図8(a),(b)で示すように、第1入力ケーブル58が牽引されることにより、連結手段28における第1連結部材50が上方に引上げられる。この第1連結部材50の上方への移動は、第1長孔53の下縁に係合した連結ピン54を介してノッカ25に伝達され、ノッカ25は、マスタシリンダ24におけるピストンロッド31aを押圧するように支軸49の軸線まわりに回動し、マスタシリンダ24の液圧室32で発生したブレーキ液圧がディスクブレーキBFに作用することになる。この際、連結ピン54は第2連結部材51の第2長孔55内を上方に移動するだけであり、第2連結部材51が上方に移動することはなく、連結手段28から荷重配分レバー27側に独立ブレーキレバー21のブレーキ操作力が及ぶことはない。
【0039】また連動ブレーキレバー22のブレーキ操作時の作動状況について図9(a),(b)を参照しながら説明すると、連動ブレーキレバー22のブレーキ操作に応じて第2入力ケーブル62が牽引されることにより荷重配分レバー27の中間部が上方に引上げられると、当初は、ねじりばね52のばね力が荷重配分レバー27の一端側に作用しているので、荷重配分レバー27は、その一端側の連結ピン61を支点として図9(a)の鎖線で示すように回動する。これにより出力ケーブル65が牽引され、後輪WRに装着されたドラムブレーキBRが、前輪WFのディスクブレーキBFに先立ってブレーキ作動する。このように前輪WFのディスクブレーキBFの作動タイミングを後輪WRのドラムブレーキBRよりも遅らせることは、自動二輪車の良好なブレーキフィーリングを得る上で有効である。
【0040】連動ブレーキレバー22のブレーキ操作力を増大することにより、第2入力ケーブル62から荷重配分レバー27を介して第2連結部材51に作用する力がねじりばね52のセット荷重を超えると、図9(a)の実線で示すように、荷重配分レバー27全体が引上げられることになり、第2連結部材51および出力ケーブル65には、連結ピン61および接続端子63間の距離ならびに接続端子63,66間の距離の比に応じた配分比で操作力が作用する。これにより、後輪WRのドラムブレーキBRが引き続いてブレーキ作動するとともに、第2連結部材51が上方に引き上げられるのに応じて、第2長孔55の下縁に係合した連結ピン54を介してノッカ25が支軸49の軸線まわりに回動してピストンロッド31aを押圧し、液圧室32で発生したブレーキ液圧がディスクブレーキBFに作用することになる。この際、連結ピン54は第1連結部材50の第1長孔53内を上方に移動するだけであり、第1連結部材50が上方に移動することはなく、連結手段28から独立ブレーキレバー21側に影響が及ぶことはない。」

前記記載事項ア?ウ及び図の記載を総合すると、刊行物1には、
「ディスクブレーキBF及びドラムブレーキBRを備え、独立ブレーキレバー21及び連動ブレーキレバー22の操作に応じてディスクブレーキBFとドラムブレーキBRに出力を配分するマスタシリンダユニット23を備える自動二輪車用連動ブレーキ装置において、
前記マスタシリンダユニット23は、ブレーキ液圧を供給してディスクブレーキBFに作用させ、かつ出力ケーブル65を介してドラムブレーキBRに牽引力を作用させるとともに、
独立ブレーキレバー21の操作によりディスクブレーキBFを単独作動せしめ、連動ブレーキレバー22の操作によりディスクブレーキBF及びドラムブレーキBRを連動作動せしめるようにした自動二輪車用連動ブレーキ装置。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2(特開平9-216547号公報)の記載事項
刊行物2には、「自動二輪車のアンチロックブレーキ装置」に関して、図とともに次の事項が記載されている。
エ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、操向ハンドルの一端部に付設される第1マスタシリンダと油圧式の前輪ブレーキとを可撓導管を介して接続すると共に、この可撓導管の途中にアンチロック制御用の油圧モジュレータを介装した、自動二輪車のアンチロックブレーキ装置の改良に関する。」
オ 「【0009】フロントフォーク3の下端には前輪Wfが軸支されると共に、これを制動する油圧式の前輪ブレーキBfが設けられる。この前輪ブレーキBfは油圧式で、前輪Wfと共に一体回転するブレーキディスク4と、これを跨いでフロントフォーク3に支持されるブレーキキャリパ5とからなっており、そのブレーキキャリパ5は、油圧を供給されるとブレーキディスク4を挟圧して制動するようになっている。
……
【0011】パワーユニット6の後端には、これによって駆動される後輪Wrが支持されると共に、この後輪Wrを制動する機械式の後輪ブレーキBrが設けられる。この後輪ブレーキBrは、作動レバー9を回動すると、図示しないブレーキシューが拡張して、後輪Wrと共に一体回転するブレーキドラムを制動するようになっている。
【0012】図1及び図2に示すように、フロントフォーク3の上端に結合した操向ハンドル10には、その右グリップ部に隣接して第1マスタシリンダM_(1)が、また左グリップ部に隣接して第2マスタシリンダM_(2)が付設される。これらマスタシリンダM_(1),M_(2)は、それぞれ作動のための第1及び第2ブレーキレバー12_(1),12_(2)を備えている。
【0013】またフロントカウル部1c内でメインフレーム2の前端、即ちヘッドパイプ2aの前面には油圧モジュレータ13がブラケット14を介して取付けられる。この油圧モジュレータ13は、その上面に第1及び第2導入ポート15_(1),15_(2)を、またその下面に第1及び第2導出ポート16_(1),16_(2)を開口しており、第1及び第2導入ポート15_(1),15_(2)には第1及び第2マスタシリンダM_(1),M_(2)の各出力ポートがゴム製の上部可撓導管17_(1),17_(2)を介してそれぞれ接続され、また第1導出ポート16_(1)には前輪ブレーキBfの入力ポートにゴム製の下部可撓導管18が接続される。
【0014】一方、第2導出ポート16_(2)には、ステップ部1t内でメインフレーム2に取付けられた油圧アクチュエータ19の入力ポート20が金属製の剛性導管21を介して接続される。
【0015】図2に示すように、モジュレータ13は、第1導入及び導出ポート15_(1),16_(1)間を結ぶ第1主油路22_(1)と、第2導入及び導出ポート15_(2),16_(2)間を結ぶ第2主油路22_(2)と、第1及び第2主油路22_(1),22_(2)にそれぞれ介装される常開型電磁弁からなる第1及び第2入口弁23_(1),23_(2)と、これらと直列に第1及び第2主油路22_(1),22_(2)にそれぞれ設けられるオリフィス24_(1),24_(2)と、各入口弁23_(1),23_(2)及びオリフィス24_(1),24_(2)を迂回して第1及び第2主油路22_(1),22_(2)にそれぞれ接続される第1及び第2バイパス25_(1),25_(2)と、これらバイパス25_(1),25_(2)にそれぞれ介装されるチェック弁39_(1),39_(2)と、各入口弁23_(1),23_(2)及びオリフィス24_(1),24_(2)を迂回して第1及び第2主油路22_(1),22_(2)にそれぞれ接続される第1及び第2還流油路26_(1),26_(2)と、これら還流油路26_(1),26_(2)にそれぞれ介装される常閉型電磁弁からなる第1及び第2出口弁27_(1),27_(2)と、これら出口弁27_(1),27_(2)の下流側で第1及び第2還流油路26_(1),26_(2)にそれぞれ介装される第1及び第2油圧ポンプ28_(1),28_(2)と、各出口弁27_(1),27_(2)及び油圧ポンプ28_(1),28_(2)間で第1及び第2還流油路26_(1),26_(2)にそれぞれ接続される第1及び第2油圧リザーバ29_(1),29_(2)と、第1及び第2油圧ポンプ28_(1),28_(2)を駆動し得る共通の電動モータ30とから構成され、各油圧ポンプ28_(1),28_(2)は、その入口に吸入弁31_(1),31_(2)、出口に吐出弁32_(1),32_(2)を有する。」
カ 「【0018】次に、この実施例の作用について説明する。
【0019】前、後輪Wf,Wrがロックを生じる可能性のない通常ブレーキ時には、各入口弁23_(1),23_(2)は消磁状態にあって開弁、各出口弁27_(1),27_(2)は消磁状態にあるが閉弁している。したがって、ブレーキレバー12_(1)により作動された第1マスタシリンダM_(1)から出力される制動油圧は、上部可撓導管17_(1)から油圧モジュレータ13の第1主油路22_(1)、オリフィス24_(1)、第1入口弁23_(1)を通り、更に下部可撓導管18を経て前輪ブレーキBfに供給され、これを作動させる。また他方のブレーキレバー12_(2)により作動された第2マスタシリンダM_(2)から出力される制動油圧は、上部可撓導管17_(2)から油圧モジュレータ13の第2主油路22_(2)、オリフィス24_(2)、第2入口弁23_(2)を通り、更に剛性導管21を経て油圧アクチュエータ19の油圧室34に供給される。すると、その油圧をもって作動ピストン36がばね室35側へ移動し、ボーデンワイヤ38を牽引して作動レバー9を回動し、後輪ブレーキBrを作動させる。
【0020】このようなブレーキ中に前輪Wf又は後輪Wrがロックしそうになると、図示しない制御ユニットからの指令により第1又は第2入口弁23_(1)又は23_(2)が励磁されて閉弁すると共に、第1又は第2出口弁27_(1)又は27_(2)が励磁されて開弁する。その結果、前輪ブレーキBf又は油圧アクチュエータ19の制動油圧は、その一部が第1又は第2油圧リザーバ29_(1)又は29_(2)に吸収されることにより減圧し、前輪ブレーキBf又は後輪ブレーキBrのブレーキ力が弱められ、前輪Wf又は後輪Wrのロック現象が回避される。すると入口弁23_(1)又は23_(2)及び出口弁27_(1)又は27_(2)は当初の消磁状態に復帰する。この間、電動モータ30は図示しない制御ユニットからの指令により作動して第1及び第2油圧ポンプ28_(1),28_(2) を駆動するので、油圧リザーバ29_(1),29_(2)に吸収された油圧は対応するマスタシリンダM_(1),M_(2)へ還流することになる。
【0021】第1又は第2マスタシリンダM_(1),M_(2)の作動を解除すると、前輪ブレーキBfの制動油圧は第1バイパス25_(1)及びチェック弁39_(1)を通して第1マスタシリンダM_(1)に解放されるので、前輪ブレーキBfは即座に不作動状態に復帰する。また油圧アクチュエータ19の制動油圧は第2バイパス25_(2)及びチェック弁39_(2)を通して第2マスタシリンダM_(2)に解放される。したがって、油圧アクチュエータ19の作動ピストン36は戻しばね37の弾発力をもって後退し、ボーデンワイヤ38を弛緩させるので、後輪ブレーキBrも素早く不作動状態となる。」
キ 「【0028】本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、その要旨の範囲を逸脱することなく、種々の設計変更が可能である。例えば、本発明の第1の特徴においては、後輪ブレーキBrには非アンチロックブレーキ装置を適用することもできる。また本発明をフロントカウル部を有するオートバイに適用することもできる。」

前記記載事項エ?キ及び図の記載を総合すると、刊行物2には、
「前輪Wfのロック現象を回避するアンチロック制御用の油圧モジュレータ13を備える自動二輪車のアンチロックブレーキ装置において、前記アンチロック制御用の油圧モジュレータ13を、第1マスタシリンダM_(1)と前輪ブレーキBfの間に介装すること」
が記載されているものと認められる。

(3)刊行物3(実願昭63-94114号(実開平2-15562号)のマイクロフィルム)の記載事項
刊行物3には、「自動2輪車のアンチロツク制動装置」に関して、図とともに次の事項が記載されている。
ク 「[産業上の利用分野]
この考案は、自動2輪車のアンチロツク制動装置に関し、詳しくは、車輪の回転が停止した状態で車体が走行するのを防止する制動装置に関するものである。」(明細書第2ページ第4?8行)
ケ 「第1図において、1はフロントフオーク、4はスイングアームで、このフロントフオーク1およびスイングアーム4は、それぞれ前輪2Aおよび後輪2Bを回転自在に支持している。3Aおよび3Bはデイスクプレートで、それぞれ、前輪2Aおよび後輪2Bに固定されており、このデイスクプレート3A,3Bには、前輪用および後輪用のキヤリパ5A,5Bが設けられて、周知のデイスクブレーキ装置を構成している。なお、前輪用のデイスクプレート3Aおよびキヤリパ5Aは、第2図(a)のように、それぞれ一対設けられている。
6はマスタシリンダで、ブレーキペダル(ブレーキ操作レバー)9からの操作力を受けて、後述するように、上記両キヤリパ5A,5B作動用の液圧を発生させるもので、1つだけ設けられている。10はリザーブタンクで、上記マスタシリンダ6に油を供給するとともに、上記マスタシリンダ6から排出された油を貯留するタンクである。
20は分配バルブで、第1の配管7を介して、上記マスタシリンダ6に連通しており、上記マスタシリンダ6からの液圧を受けて、前輪用液圧と後輪用液圧とを発生させるものである。上記分配バルブ20は、上記マスタシリンダ6からの液圧が、第3図の破線で示すように、所定値Pよりも低い低圧範囲P1において、互いにほぼ等しい前輪用液圧と後輪用液圧を発生する。一方、上記マスタシリンダ6(第2図(a))からの液圧が所定値P以上の高い高圧範囲P2において、上記分配バルブ20(第2図(a))は前輪用液圧と、この前輪用液圧よりも大きな後輪用液圧を発生する。つまり、第2図(a)の分配バルブ20は、マスタシリンダ6から入力された液圧が、第3図の所定値P以上になったとき、後輪用液圧の配分を小さくして、前輪用液圧と後輪用液圧の配分を、たとえば、実線で示す1人乗りの場合の理想液圧配分に近づけるものである。」(明細書第5ページ第1行?第6ページ第17行)
コ 「上記第2図(a)の分配バルブ20は、2つの第2の配管7A1および7B1を介して油圧ユニツト8に連通しており、上記両配管7A1および7B1を介して、それぞれ、上記前輪用液圧および後輪用液圧を油圧ユニツト8に供給する。この油圧ユニツト8は、上記前輪溶液圧および後輪用液圧を受けて、後述するように、それぞれ、前輪用および後輪用のキヤリパ5A,5Bの液圧を調整して、ブレーキのロック状態を解除するものである。なお、この油圧ユニツト8は、2つの第3の配管7A2および7B2を介して、それぞれ、前輪用および後輪用キヤリパ5A,5Bの油室(図示せず)に連通している。
11Aは前輪用の車輪速センサ、11Bは後輪用の車輪速センサで、デイスクプレート3A,3Bに形成された溝などからなる検知部(図示せず)を検出して、それぞれ、前輪2Aおよび後輪2B(第1図参照)の回転数を検知する。この検知した車輪速度の信号n1,n2はマイクロコンピユータ12に出力される。
上記マイクロコンピユータ12は、第1および第2の電子制御装置13A,13Bを内蔵している。上記第1および第2の電子制御装置13A,13Bは、それぞれ、車輪速度の信号n1,n2を受けて、この信号n1,n2に基づいて車輪の加減速度などの演算を行うことにより、前輪および後輪のブレーキのロック状態を判別し、油圧ユニツト8を制御する制御信号a1,a2を出力する。
上記油圧ユニツト8は、1つのモータMと、第1および第2の油圧回路14A,14Bと、第1および第2のオイルリザーバ15A,15Bなどから構成されている。上記油圧ユニツト8は、上記制御信号a1,a2により、切換弁16A,17A,16B,17Bが切換えられるとともに、モータMが作動するものである。この切換および作動によつて、上記分配バルブ20からの前輪用および後輪用の液圧がキヤリパ5A,5Bの油室(図示せず)に直接作用したり、リザーバ15A,15Bに油が逃がされてキヤリパ5A,5Bの作動が解除されたり、あるいは、モータMを作動させて、上記第1および第2の電子制御装置13A,13Bの上記演算に応じた液圧がキヤリパ5A,5Bに作用して、ブレーキのロツク状態を防止しながら、車両が停止する。」(明細書第7ページ第20行?第10ページ第4行)

前記記載事項ク?コ及び図の記載を総合すると、刊行物3には、
「前輪2Aのブレーキのロツク状態を解除する油圧ユニツト8を備える自動二輪車のアンチロツク制動装置において、油圧ユニツト8を、マスタシリンダ6に連通する分配バルブ20と前輪用のキヤリパ5Aの間に配置すること」
が記載されているものと認められる。

(4)刊行物4(実願平2-48810号(実開平4-7973号)のマイクロフィルム)の記載事項
刊行物4には、「機械式前後輪連動ブレーキ装置」に関して、図とともに次の事項が記載されている。
サ 「(考案が解決しようとする課題)
しかしながら、車両の高速化に伴って、機械式ブレーキ装置においてもフィーリングおよび効率の向上が要求されるようになった。
連動ブレーキ装置の制動力は、前輪側、後輪側ともに、ブレーキ操作子の操作力に比例して大きくなるので、高速走行時に制動力を掛けた場合の連動ブレーキのフィーリングおよび効率を上げるためには、後輪側の輪重減少を考慮してブレーキ操作力を一定の値で制限する必要がある。
(課題を解決するための手段)
上記課題を解決するために、機械式前後輪用連動ブレーキ装置の連動に係るブレーキ操作力を専ら伝達する連動専用伝達系に、ブレーキ操作力が所定値を越えると略一定値に伝達力を制限する弾性体を介設した。
(作用)
ブレーキ操作力が所定値以下の場合は、弾性体が撓むことなくその伝達力は連動専用伝達系を介して前後輪ブレーキ装置に伝達され、ブレーキ操作力が所定値を越える場合は、上記弾性体が撓んでその伝達力は所定値に略等しい値に制限される。」(明細書第2ページ第17行?第3ページ第18行)
シ 「第1図は本考案に係る前後輪連動ブレーキ装置の系統図である。
前後輪連動ブレーキ装置1は、前輪側ブレーキ装置1aと、後輪側ブレーキ装置1bと、これらを作動させる伝達系として、連動操作専用の連動専用伝達系1cと、及び、前輪側ブレーキ装置1aの付加操作用の付加用伝達系1dとからなる。
連動専用伝達系1cは、ブレーキ操作子2aからイコライザ2bに連結する操作子ワイヤ2cと、イコライザ2bから前輪側ブレーキ装置1aに連結する前輪側ブレーキワイヤ2eと、さらに後輪側ブレーキ装置1bに連結する後輪側ブレーキワイヤ2gとからなる。
第2図は同装置のイコライザ内部詳細図である。
操作子ワイヤ2cはチェーン2hに連結してスプロケット2iを経由し、前輪側ブレーキワイヤ2eに連結する。
スプロケット2iはイコライザ2bのケーシング2j内で長手方向に移動自在に保持され、スプロケット軸2kは制動力調整用の伝達力調整器2lを介して後輪側ブレーキワイヤ2gに連結する。
2mはチューブ、2nはチューブエンド、2oはワイヤ接続部材、2pはベアリング、2qは接続部材である。
伝達力調整器2lはバネ等の弾性体3aとこの弾性体3aを収容する筒状のホルダ3bとからなり、弾性体3aはその一端にワイヤエンド3cが係合し、所定の弾圧力に予圧され、弾性変位可能にホルダ3b内にセットされる。
ホルダヘッド3dは弾性体3aをホルダ3b内に抱えて接続部材2qに連結し、ワイヤエンド3cは座3eの中央孔部で系止され、後輪側ブレーキワイヤ2gはワイヤガイド3fを挿通して伝達力調整器2lが構成される。」(明細書第4ページ第2行?第5ページ第15行)
ス 「以上のごとき構成からなる機械式前後輪連動ブレーキ装置1の作用を次に説明する。
第1図のブレーキ操作子2aが操作されると、操作子ワイヤ2cが引張され、第2図のイコライザ2bにおいて、ワイヤ接続部材2oを介してチェーン2hが引張され、前後輪ブレーキワイヤ2eに操作力が伝達されて前輪側ブレーキ装置1aが作動する。
この時、上記チェーン2hの引張によってスプロケット2iが回転されつつ図中左動し、スプロケット軸2kと接続部材2qおよび伝達力調整器2lを介して後輪側ブレーキワイヤ2gが引張され、操作力が後輪側ブレーキ装置1bに伝達される。
伝達力調整器2lの弾性体3aは、そのセット荷重により、ワイヤエンド3cを係止する座3eをホルダヘッド3dに予め押し付け、ブレーキ操作子2aからの伝達力がそのセット荷重以下の場合には、弾性体3aは撓みなしに後輪側ブレーキワイヤ2gに操作力を伝達する。
ブレーキ操作子2aにさらに操作力が加重され、操作力が上記セット荷重を越えると、スプロケット軸2kからの操作力はホルダ3bのワイヤガイド3f側から弾性体3aに作用し、その結果ワイヤエンド3cが座3eを介して弾性体3aを押圧することにより弾性体3aが撓む。
ブレーキ操作子2aの操作角度が操作限界に達すると、その時の弾性体3aの作用力を上限として伝達力は規制される。
上記弾性体3a撓み時の操作角度の増加はブレーキ操作子2aの操作範囲内に限られたもので、従って、上記伝達力調整器2lの弾性体3aの撓み量は小さく、このときの弾性体3aの作用力の増加は僅かな範囲に限定される。
即ち、連動専用伝達系1cによる伝達力は、伝達力調整器2lの弾性体3aのセット荷重にほぼ等しい値で制限される。」(明細書第6ページ第12行?第8ページ第8行)
セ 「第3図は同装置の前後輪制動力配分特性図で、ブレーキ操作子2aの操作角度が小さい範囲、即ち制動力が小なる時は前後輪連動で制動力が作用し(A-B間)、さらに操作角度を大きくすると、即ち大なる制動力を要する時は、後輪側制動力は略一定値に制限されたまま、前輪側制動力が増大される(B-C間)。
このように、連動専用伝達系は、ブレーキ操作子を過大に操作しても前後輪ブレーキ装置への操作力の伝達が制限されるので、フィーリングおよび効率の良いブレーキを単純なブレーキ操作で得ることができる。」(明細書第9ページ第4?15行)
ソ 「第4図は本考案に係る別実施例の前後輪連動ブレーキ装置系統図である。
前後輪連動ブレーキ装置5は、前輪側ブレーキ装置5aと、後輪側ブレーキ装置5bと、これらを作動させるブレーキ操作力伝達系とからなる。
伝達系は3系統に分けられ、左ブレーキ操作子5cから後輪側ブレーキ装置5bおよび入力付加器5dまでの連動専用伝達系5eと、右ブレーキ操作子5fから入力付加器5dまでの付加用伝達系5gと、及び、入力付加器5dから前輪側ブレーキ装置5aまでの共用伝達系5hがある。
連動専用伝達系5eは、左ブレーキ操作子5cからイコライザ5iに連結する左操作子ワイヤ5jと、イコライザ5iから入力付加器5dに連結する付加器ワイヤ5kと、イコライザ5iから後輪側ブレーキ装置5bに連結する後輪側ブレーキワイヤ5lとからなる。
……
第5図は同連動ブレーキ装置の入力付加器内部詳細図で、付加器ワイヤ5kは伝達力を所定値に制限するための伝達力調整器6aを介してL字型の入力リンク6bに連結する。」(明細書第10ページ第3行?第11ページ第6行)
タ 「伝達力調整器6aの構成は前記実施例のものと同様で、付加器ワイヤ5kの操作力がその弾性体3aのセット荷重以下の場合には弾性体は撓まずに入力リンク6bに操作力を伝達し、操作力がセット荷重を越えた場合には弾性体3aが撓んでこの弾性体の撓みに応じた荷重を入力リンク6b伝達する。
第6図はイコライザの内部詳細図で、左操作子ワイヤ5jはチェーン7aに連結し、スプロケット7bを経て付加器ワイヤ5kに連結する。
スプロケット軸7cはイコライザ5iのケーシング7d内で長手方向に移動自在に保持され、接続部材7eにより後輪側ブレーキワイヤ5lに接続する。
イコライザ5iは、左操作子ワイヤ5jが引張されるとチェーン7aを介して付加器ワイヤ5kを引張し、同時に、スプロケット7bと接続部材7eとを介して後輪側ブレーキワイヤ5lを引張する。」(明細書第12ページ第7行?第13ページ第5行)
チ 「この連動ブレーキ装置5の作用は次のとおりである。
第4図の左ブレーキ操作子5cを操作すると操作力はイコライザ5iにより分配され、入力付加器5dを介して前輪側ブレーキ装置5aと後輪側ブレーキ装置5bとに操作力が伝達される。
そして、左ブレーキ操作子5cを過大に操作しても、伝達力調整器6aによってその伝達力は略一定値に押さえられる。」(明細書第13ページ第6?14行)

前記記載事項サ?チ及び図の記載を総合すると、刊行物4には、
「機械式前後輪連動ブレーキ装置において、後輪側ブレーキ装置1b,5bのブレーキ操作力が所定値を越えると略一定値に伝達力を制限する弾性体3aを連動専用伝達系1c,5eに介設すること」
が記載されているものと認められる。

3.発明の対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ディスクブレーキBF」は本願補正発明の「前輪ブレーキ」に相当し、以下同様に、「ドラムブレーキBR」は「後輪ブレーキ」に、「独立ブレーキレバー21」は「第1のブレーキ操作子」に、「連動ブレーキレバー22」は「第2のブレーキ操作子」に、「マスタシリンダユニット23」は「連動ブレーキモジュレータのマスターシリンダユニット」に、「自動二輪車用連動ブレーキ装置」は「自動2輪車用ブレーキ装置」に、「ブレーキ液圧を供給して」は「加圧された作動液を供給して」に、「ディスクブレーキBFに作用させ」は「前輪ブレーキへ制動力を与え」に、「出力ケーブル65」は「ケーブル」に、「ドラムブレーキBRに牽引力を作用させる」は「後輪ブレーキへ制動力を与える」に、「単独作動せしめ」は「独立制御し」に、「連動作動せしめる」は「連動制御し」に、それぞれ相当する。
よって、本願補正発明と引用発明とは、
[一致点]
「前後輪ブレーキを備え、ブレーキ操作子の操作に応じて前輪ブレーキと後輪ブレーキに出力を配分する連動ブレーキモジュレータのマスターシリンダユニットを備える自動2輪車用ブレーキ装置において、
前記マスターシリンダユニットは、加圧された作動液を供給して前輪ブレーキへ制動力を与え、かつケーブルを介して後輪ブレーキへ制動力を与えるとともに、
第1のブレーキ操作子の操作により前輪ブレーキのみを独立制御し、第2のブレーキ操作子の操作により前輪ブレーキ及び後輪ブレーキを連動制御するようにした自動2輪車用ブレーキ装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
本願補正発明は、「前輪のロックを回避する前輪アンチロックモジュレータのアクチュエータ」を備え、「前記前輪アンチロックモジュレータのアクチュエータを、前記マスターシリンダユニットと前輪ブレーキの間に配置してマスターシリンダユニットへ接続し」、前記マスターシリンダユニットは、「前記アクチュエータへ」加圧された作動液を供給して前輪ブレーキへ制動力を与えるものであるのに対して、引用発明は、マスタシリンダユニット23とディスクブレーキBF(前輪ブレーキ)の間に「前輪のロックを回避する前輪アンチロックモジュレータのアクチュエータ」を具備していない点。
[相違点2]
本願補正発明は、「後輪ブレーキに対する入力を規制するための入力規制手段を前記マスターシリンダユニットと後輪ブレーキの間に配置し」、前記マスターシリンダユニットは、ケーブル「及び前記入力規制手段」を介して後輪ブレーキへ制動力を与えるものであるのに対して、引用発明は、マスタシリンダユニット23とドラムブレーキBR(後輪ブレーキ)の間に「後輪ブレーキに対する入力を規制するための入力規制手段」を具備していない点。
[相違点3]
本願補正発明は、「前記連動ブレーキモジュレータの連動制御時において後輪ブレーキ側が入力規制手段により入力規制されている状態で前輪ロックを生じるような大きな前輪制動力が発生したとき前輪アンチロックモジュレータが作動するようにした」ものであるのに対して、引用発明は、「入力規制手段」及び「アンチロックモジュレータ」を具備していないため、前記した本願補正発明のような作動をするものではない点。

4.当審の判断
そこで、前記各相違点について以下で検討する。

(1)相違点1について
前記のとおり刊行物2には、「前輪Wfのロック現象を回避するアンチロック制御用の油圧モジュレータ13を備える自動二輪車のアンチロックブレーキ装置において、前記アンチロック制御用の油圧モジュレータ13を、第1マスタシリンダM_(1)と前輪ブレーキBfの間に介装すること」が記載されているものと認められ、当該刊行物2記載の「前輪Wfのロック現象を回避するアンチロック制御用の油圧モジュレータ13」は、本願補正発明の「前輪のロックを回避する前輪アンチロックモジュレータのアクチュエータ」に相当するものである。
また、前記のとおり刊行物3には、「前輪2Aのブレーキのロツク状態を解除する油圧ユニツト8を備える自動二輪車のアンチロツク制動装置において、油圧ユニツト8を、マスタシリンダ6に連通する分配バルブ20と前輪用のキヤリパ5Aの間に配置すること」が記載されているものと認められ、当該刊行物3記載の「前輪2Aのブレーキのロツク状態を解除する油圧ユニツト8」も同様に、本願補正発明の「前輪のロックを回避する前輪アンチロックモジュレータのアクチュエータ」に相当するものである。
そして、引用発明においても、路面状態や運転状態によっては、前輪WFにロックが生じる場合があることは、当業者であれば容易に予測し得るから、前輪WFのロックを回避するために、刊行物2記載の油圧モジュレータ13又は刊行物3記載の油圧ユニツト8を適用することは、当業者にとって格別困難ではないし、当該適用を妨げる特段の事情も見あたらない。
また、引用発明に前記の適用をするに当たって、刊行物2記載の油圧モジュレータ13又は刊行物3記載の油圧ユニツト8を、引用発明のマスタシリンダユニット23とディスクブレーキBF(前輪ブレーキ)の間に配置してマスタシリンダユニット23へ接続し、前記マスタシリンダユニット23が、前記刊行物2記載の油圧モジュレータ13又は刊行物3記載の油圧ユニツト8へブレーキ液圧を供給するようにすることは、それらが刊行物2又は刊行物3の記載にみられるような油圧回路に設けられるアクチュエータであることから、当業者であれば容易に想到し得るものである。
よって、引用発明に刊行物2又は刊行物3に記載された事項を適用して、前記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。

(2)相違点2について
前記のとおり刊行物4には、「機械式前後輪連動ブレーキ装置において、後輪側ブレーキ装置1b,5bのブレーキ操作力が所定値を越えると略一定値に伝達力を制限する弾性体3aを連動専用伝達系1c,5eに介設すること」が記載されているものと認められ、前記刊行物4記載の「略一定値に伝達力を制限する」ことと本願補正発明の「入力を規制する」ことの技術的意義は実質的に同じであるといえるから、前記刊行物4記載の「後輪側ブレーキ装置1b,5bのブレーキ操作力が所定値を越えると略一定値に伝達力を制限する弾性体3a」は、本願補正発明の「後輪ブレーキに対する入力を規制するための入力規制手段」に相当するものである。
そして、前記弾性体3aのような入力規制手段を、必要に応じて適宜の箇所に配置することは、当業者にとって格別困難なことではないから、引用発明において、マスタシリンダユニット23とドラムブレーキBR(後輪ブレーキ)の間に前記刊行物4記載の「後輪側ブレーキ装置1b,5bのブレーキ操作力が所定値を越えると略一定値に伝達力を制限する弾性体3a」を配置し、前記マスタシリンダユニット23が、出力ケーブル65及び前記弾性体3aを介してドラムブレーキBR(後輪ブレーキ)へ制動力を与えるものとして、前記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。

(3)相違点3について
前記「(1)相違点1について」で述べた、引用発明に刊行物2記載の油圧モジュレータ13又は刊行物3記載の油圧ユニツト8を適用し、かつ、前記「(2)相違点2について」で述べた、引用発明において刊行物4記載の弾性体3aを配置したものが、連動ブレーキレバー22を操作する連動制御時において、ドラムブレーキBR(後輪ブレーキ)側が弾性体3a(入力規制手段)により略一定値に伝達力を制限(入力規制)されている状態で前輪ロックを生じるような大きな前輪ブレーキ操作力(制動力)が発生したとき刊行物2記載の油圧モジュレータ13又は刊行物3記載の油圧ユニツト8を作動させて前輪WFのロックを回避するものとなることは、当業者であれば当然に採用する設計上の事項である。

(4)作用効果について
そして、本願補正発明が奏する作用効果も、引用発明及び刊行物2ないし4記載の事項から予測される程度のものであって、格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1ないし刊行物4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、平成20年9月12日付けの回答書において、「もしも請求項1の進歩性を認められない場合には、『入力規制手段』についての説明をより十分にするため、請求項3の内容を限定し、連結板とストッパによる後輪側への入力の上限値を設定して、入力値を確実に規制(上限固定)するメカ式である点を明らかにし、各引用文献との差異をより明確にする用意がある。」(「8.補正について」の項参照)と記載している。しかし、請求項3で特定される「前記入力規制手段は、ケーブルの一端に連結したスプリングと、このスプリングの他端に連結された連結板と、この連結板の移動を規制するストッパとを備えたこと」は、入力規制手段として格別なものとはいえず、刊行物4記載の弾性体3aに代えて前記請求項3で特定される入力規制手段とすることは、当業者であれば容易になし得る設計変更にすぎない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について
1.本願発明
平成19年8月20日付けの手続補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成14年4月5日付け及び平成19年4月23日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 前後輪ブレーキを備え、ブレーキ操作子の操作に応じて前輪ブレーキと後輪ブレーキに出力を配分する連動ブレーキモジュレータのマスターシリンダユニットと、前輪のロックを回避する前輪アンチロックモジュレータのアクチュエータとを備える自動2輪車用ブレーキ装置において、
後輪ブレーキに対する入力を規制するための入力規制手段を前記マスターシリンダユニットと後輪ブレーキの間に配置するとともに、
前記前輪アンチロックモジュレータのアクチュエータを、前記マスターシリンダユニットと前輪ブレーキの間に配置したことを特徴とする自動2輪車用ブレーキ装置。」

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1ないし4とその記載事項は、前記【2】2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記【2】で検討した本願補正発明から、「前輪アンチロックモジュレータのアクチュエータ」の限定事項である「マスターシリンダユニットへ接続し」との事項を省き、同じく「マスターシリンダユニット」の限定事項である「前記マスターシリンダユニットは、前記アクチュエータへ加圧された作動液を供給して前輪ブレーキへ制動力を与え、かつケーブル及び前記入力規制手段を介して後輪ブレーキへ制動力を与えるとともに、第1のブレーキ操作子の操作により前輪ブレーキのみを独立制御し、第2のブレーキ操作子の操作により前輪ブレーキ及び後輪ブレーキを連動制御し」との事項を省き、同じく「前輪アンチロックモジュレータ」の限定事項である「さらに、前記連動ブレーキモジュレータの連動制御時において後輪ブレーキ側が入力規制手段により入力規制されている状態で前輪ロックを生じるような大きな前輪制動力が発生したとき前輪アンチロックモジュレータが作動するようにし」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、前記【2】4.に記載したとおり、刊行物1ないし刊行物4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1ないし刊行物4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1ないし刊行物4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2ないし6に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-04 
結審通知日 2008-12-09 
審決日 2008-12-24 
出願番号 特願2002-95871(P2002-95871)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60T)
P 1 8・ 121- Z (B60T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 道広  
特許庁審判長 溝渕 良一
特許庁審判官 常盤 務
藤村 聖子
発明の名称 自動2輪車用ブレーキ装置  
代理人 小松 清光  

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